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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1237145
審判番号 不服2009-6947  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-02 
確定日 2011-06-09 
事件の表示 特願2008-131621「血管老化抑制剤および老化防止抑制製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月 3日出願公開,特開2009-280508〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成20年5月20日の出願であって,平成21年2月24日付けで拒絶査定され,これに対し,同年4月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に,同年4月7日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成21年4月7日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年4月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は次のとおりに補正された。

「タラ目又はカレイ目の皮を原料とし,分解酵素としてペプシンを用い,pH1.5に調整した後,温度40℃で20分間酵素分解を行い得られた重量平均分子量が3,000の魚皮由来低分子コラーゲンを必須成分とする,血管内膜厚を減少させることを特徴とする血管老化抑制剤。」

上記補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「血管老化抑制剤」を「血管内膜厚を減少させることを特徴とする血管老化抑制剤」と限定するものであって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされている同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された,本願の出願日前に頒布された次の刊行物には,以下の事項が記載されている。

・特開2001-31586号公報(以下,「引用例A」という。)

(A-1)「【請求項1】コラーゲン及びコラーゲン分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする動脈硬化症及び動脈硬化症に起因する疾患の予防又は治療医薬組成物。

【請求項3】コラーゲン及びコラーゲン分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする血管組織の老化を予防又は改善する作用を有する医薬組成物。

【請求項5】コラーゲン分解物が,加水分解処理によって得られることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の組成物。」(【請求項1】,【請求項3】,及び【請求項5】)
(A-2)「具体的には,細胞外マトリックスの主な構成要素であるコラーゲンやエラスチンの変質と上記に示した血管の組織老化とは密接な関係を持っていると考えられている。コラーゲンやエラスチンの代謝回転は比較的遅く,分子間や分子内の架橋を生じるなど様々な修飾を受け,変成していくことが知られている。この変成により,コラーゲンやエラスチンの機能劣化に留まらず,血管平滑筋細胞の増殖性の異常亢進や血管の肥厚,血管の機械的強度や伸展性,弾力性の低下などを引き起こし,動脈硬化症,心筋梗塞,脳血管性痴呆症などの症状進行に関与していることが明らかになりつつある。」(【0003】)
(A-3)「…コラーゲン由来の成分が,優れた血管組織の強化作用(血管の機械的強度,伸展性及び弾力性の向上)を有していること,即ち,血管組織の老化を予防又は改善する作用を有していることを見出し,本発明を完成するに至った。」(【0007】)
(A-4)「…コラーゲンは生体内に幅広く多量に存在しており,存在する組織としては具体的には,皮膚組織,…などが挙げられる。
…本発明組成物においては,コラーゲンを加熱,化学処理,酵素処理などにより処理してコラーゲンより分子量を小さくした物質(以下,「コラーゲン分解物」とする。)も用いることができる。…
コラーゲンは下等生物からヒトに至るまで非常に多くの生物に存在しており,本発明で使用されるコラーゲンはその起源生物には限定されない。例えば,…,マグロ,カツオ,フナ,コイ,ウナギ,サメ,エイなどの魚類,…などの組織から得られるコラーゲンを用いることができる。…」(【0016】?【0018】)
(A-5)「本発明組成物において,有効成分であるコラーゲン又はコラーゲン分解物の各々の分子量は,所期の効果が得られる範囲であれば特に限定されるものではないが,組成物に含まれるコラーゲン及びコラーゲン分解物の混合物としての平均分子量が,150?10,000程度,500?5,000程度,さらには1,300?4,000程度であることが望ましい。」(【0022】)
(A-6)「かかるコラーゲン又はコラーゲン分解物は,原料となる生体組織の種類や目的物質に応じた周知の方法を適宜組み合わせて得ることができる。
…酵素を用いた加水分解は,酵素の基質特異性を利用することにより加水分解点をある程度限定できるため,処理後に得られる加水分解混合物のペプチドの組成がほぼ一定となることから,加水分解混合物の分子量分布もほぼ一定にすることが可能である。従って,コラーゲンの加水分解は,酵素を用いて行うことが好ましい。」(【0025】?【0027】)
(A-7)「加水分解処理は,一般的にはコラーゲンの種類(一次構造)を考慮した上で選択した基質特異性の高い酵素を使用することが望ましく,さらには処理条件などを考慮して,一種又は二種以上を選択して使用することができる。加水分解処理は,酵素の処理至適条件が異なる場合や選択的な分解処理を行なう場合など,状況に応じて1回又は数回行うことができる。処理条件は,処理する組織の種類やその前処理の有無,前処理方法や酵素の種類などによって至適条件が異なることから,収率を考慮しながら,適宜設定することができる。
また,軟骨を含む骨組織以外の組織を原料とする場合にも,必要に応じて適当な前処理を施した後,上記と同様の方法によりコラーゲン加水分解物を得ることができる。」(【0029】?【0030】)
(A-8)「骨及び皮膚コラーゲン分解物群は血管組織の歪み値や最大応力値がコントロール群と比較して有意に高い値を示した。さらに,弾性率については,コントロール群と比べ,骨及び皮膚コラーゲン分解物群は低い値を示しており,血管組織の弾力性の向上が確認された。以上のことから,コラーゲン分解物の摂取は,血管組織の伸展性や機械的強度などの生物力学的パラメーターを向上させて血管組織を強化する作用,即ち血管組織の老化を防止する作用があることが確認された。さらに,血管組織の老化を防止することにより脳卒中の発症が抑制されていることが確認された。」(【0049】)
(A-9)「【発明の効果】本発明組成物は,血管組織の伸展性,弾力性及び機械的強度を向上させる作用を有している。即ち,血管組織を強化して血管組織の老化を防止又は改善する作用を有している。従って,本発明組成物は動脈硬化症の予防又は治療において有用であり,さらには,動脈硬化症に起因する疾患の予防又は治療にも有用である。」(【0061】)

(3)対比
引用例Aには,コラーゲン分解物を含有する血管組織の老化を予防又は改善する医薬組成物であって(摘記事項(A-1)),当該コラーゲン分解物はコラーゲンを加熱,化学処理,酵素処理などにより処理してコラーゲンより分子量を小さくした物質であり(同(A-4)),例えば,加水分解処理によって得られるコラーゲン加水分解物であること(同(A-1)),当該コラーゲン加水分解物は好ましくはコラーゲンに対して酵素処理を行った物質であること(同(A-6)),及びその平均分子量は1,300?4,000程度であることが望ましいこと(同(A-5))が記載されている。よって,引用例Aには,次の発明が記載されているといえる。

「コラーゲンの酵素処理により得られた,平均分子量が1,300?4,000程度の,コラーゲンより分子量が小さいコラーゲン加水分解物を含有する,血管組織の老化を予防又は改善する医薬組成物。」(以下,「引用発明」という。)

そこで,本件補正発明と引用発明を以下に対比する。

(i)引用発明の「酵素処理」は,本件補正発明の「酵素分解」に相当する。
(ii)引用発明の「コラーゲン加水分解物」は,コラーゲンを酵素処理することにより得られるコラーゲンよりも分子量が小さい物質である。また,本件補正発明の「タラ目又はカレイ目の皮」はコラーゲンであることから(本願明細書の【0026】),該補正発明の「低分子コラーゲン」も,コラーゲンを酵素分解することで得られる「低分子」のコラーゲンである。してみると,引用発明の「コラーゲン加水分解物」は,本件補正発明の「低分子コラーゲン」に相当する。
(iii)引用発明の「血管組織の老化を予防又は改善する医薬組成物」は,本件補正発明の「血管老化抑制剤」に相当する。

以上を踏まえると,両者は,「コラーゲンを原料とし酵素分解を行い得られた低分子コラーゲンを必須成分とする血管老化抑制剤。」で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)本件補正発明では,酵素分解に供するコラーゲンの由来を「タラ目又はカレイ目の皮」である「魚皮由来」とする旨,及び酵素分解の条件を「分解酵素としてペプシンを用い,pH1.5に調整した後,温度40℃で20分間酵素分解を行」うものであるとする旨それぞれ特定しているのに対し,引用発明では,コラーゲンの由来及び酵素分解の条件について特定していない点。
(相違点2)酵素分解で得られる低分子コラーゲンについて,本件補正発明では「重量平均分子量が3,000」であると特定しているのに対し,引用発明では「平均分子量が1,300?4,000程度」であると特定している点。
(相違点3)血管老化抑制剤について,本件補正発明では,「血管内膜厚を減少させる」と特定しているのに対し,引用発明ではそのような特定をしていない点。

(4)判断
(相違点1について)
まず,酵素分解に供すコラーゲンの由来について検討する。
引用例Aに「…本発明で使用されるコラーゲンはその起源生物には限定されない。…」と記載されている(摘記事項(A-4))ように,引用発明におけるコラーゲン加水分解物を得るために酵素処理に供するコラーゲンの由来は,特に限定されるものではない。また,引用例Aには,使用し得るコラーゲンとして魚類由来のものや皮膚組織(即ち,皮を含む)に存在するものを選択できることも記載されている(同(A-4))。更に,本願の出願日前において,タラやカレイの皮由来のコラーゲンは,人体に影響なく使用できるものとして広く認識されていたものである(例えば,”FOOD Style 21,2003,Vol.7,No.2,pp.85?88”,特開2003-104833号公報の全体,特開2003-238597号公報の全体参照。)。
してみると,引用発明において酵素処理に供するコラーゲンとして,コラーゲン供給原料として汎用のタラやカレイといった魚の皮由来のものを選択することは当業者が容易に想到し得ることである。

続いて,酵素分解の条件について検討する。引用例Aには,酵素を用いた加水分解(酵素処理)の条件について,処理する組織の種類,前処理の有無やその種類,酵素の種類によって至適条件が異なることから,収率を考慮しながら適宜設定できる旨記載されている(摘記事項(A-7))。
してみると,引用発明において,コラーゲンの酵素処理に使用する酵素として,蛋白質分解酵素として代表的な酵素であるペプシンを選択すること,また,処理の際のpH,温度,時間といった条件をペプシン処理条件として周知の条件を選択することは当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について)
引用発明では,コラーゲン加水分解物の平均分子量は1,300?4,000が望ましいとするものであるが,この範囲の中心的数値は2,600?2,700程度であり,そして,引用例Aの実施例2においては平均分子量3,000のものが使用されている。このような引用例Aの記載から,コラーゲン加水分解物の平均分子量として3,000程度の値を選択することは,当業者が容易になし得ることであって,しかも,本願明細書を参酌しても,平均分子量を3,000と特定することにより,格別な効果を奏するものではない。
したがって,引用例Aの記載に基づいて,コラーゲン加水分解物の平均分子量を3,000と特定することは当業者が容易に想到し得たものとせざるを得ない。

(相違点3について)
本件補正発明において「血管内膜厚を減少させる」ことによってもたらされる医薬用途とは,血管老化を抑制し,動脈硬化を抑制するというものである(本願明細書の【0006】?【0007】)。一方,引用例Aには,引用発明が血管内膜厚を減少させることについて記載はないものの,引用発明のもたらす医薬用途とは,血管の機械的強度,伸展性及び弾力性を向上させ血管組織を強化させることで,血管組織の老化を抑制し,ひいては動脈硬化症や動脈硬化症に起因する疾患を予防又は治療するというものである(摘記事項(A-1)?(A-3),(A-8),(A-9))。そして,当該技術分野の出願時の技術常識を考慮しても,本件補正発明において血管老化抑制の作用機序が「血管内膜厚を減少させる」ものであると特定したところで,本件補正発明が,血管老化を抑制し,動脈硬化の予防又は治療するという引用発明のもたらす医薬用途とは異なる新たな医薬用途を提供するものとは認められない。
してみると,相違点3については,実質的な差異があるものとすることはできない。

(本件補正発明の効果について)
本件補正発明の効果とは,血管内膜厚を減少させることで,血管老化を抑制し,動脈硬化を抑制するというものである(本願明細書の【0006】?【0007】)。一方,引用発明は,血管の機械的強度,伸展性及び弾力性を向上させ,血管老化を抑制し,動脈硬化症や動脈硬化症に起因する疾患の予防や治療に奏するというものである(摘記事項(A-1)?(A-3),(A-8),(A-9))。ところで,本願の出願時の技術常識に鑑みると,血管の「伸展性,弾力性(しなやかさ)」と「血管内膜厚(動脈壁の肥厚)」とは,医薬大辞典に動脈硬化とは「動脈が本来もっている強い血流に対する「しなやかさ」を失って動脈壁への硬化を引き起こし,組織へ血流を運搬するという機能を失った状態もしくはその過程にある状態をさし,組織学的には,動脈壁の構造改築をもたらし,動脈壁の肥厚が主たる病変である」と記載されている(南山堂 医学大辞典 2006年5月1日発行,第1779頁,「動脈硬化」参照。)ように,動脈硬化における現象面と組織学的な側面といういわば裏表の関係にあるといえるものである。してみると,本件補正発明の効果が,引用発明の効果及び本願出願時の技術常識から当業者に予測し得ない格別顕著なものであるとすることはできない。

したがって,本件補正発明は,引用例Aに記載された発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお,請求人は,平成21年10月29日付けの上申書において補正案を提示し,本願補正発明を「…血管内膜厚減少剤。」と補正することを希望する旨主張する。しかしながら,そもそも補正の手続には時期的な制限があり,斯かる請求人の主張は時機を逸したものであり許されるものではない。また,斯かる回答書の補正案の内容を検討しても,上記「(相違点3について)」に記載したと同様な理由により医薬用途として新たな用途を提供するものとはいえないので,依然として引用例Aに記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると言わざるを得ない。

(5)むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成21年4月7日付の手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?2に記載された発明は,平成21年1月19日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものであって,そのうち請求項1に係る発明(本願発明)は,以下のとおりのものである。

「タラ目又はカレイ目の皮を原料とし,分解酵素としてペプシンを用い,pH1.5に調整した後,温度40℃で20分間酵素分解を行い得られた重量平均分子量が3,000の魚皮由来低分子コラーゲンを必須成分とすることを特徴とする血管老化抑制剤。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は,前記「2.(1)」に記載した本件補正発明の血管老化抑制における「血管内膜厚を減少させる」なる特定を削除したものに相当する。
そうすると,本願発明の発明特定事項をそのまま含み,かつ,さらなる特定が付された本件補正発明が,前記「2.(4)」に記載したとおり,引用例Aに記載された発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用例Aに記載された発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例Aに記載された発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故,他の請求項に論及するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-07 
結審通知日 2009-12-08 
審決日 2009-12-22 
出願番号 特願2008-131621(P2008-131621)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊池 美香  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 穴吹 智子
伊藤 幸司
発明の名称 血管老化抑制剤および老化防止抑制製剤  
代理人 石田 純  
代理人 吉田 研二  

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