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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1237216
審判番号 不服2009-11868  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-29 
確定日 2011-05-18 
事件の表示 特願2006-141900「制御された酸素析出物分布をもつシリコンウェーハ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月19日出願公開,特開2006-287246〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成12年11月10日(パリ条約による優先権主張1999年11月13日,韓国)に出願した特願2000-344053号の一部を平成18年5月22日に新たな特許出願としたものであって,平成20年9月4日付けで手続補正がなされ,平成21年3月23日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年6月29日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がなされ,その後前置審査において,同年11月26日付けで拒絶の理由を通知したものである。

2 本願発明について
本願の請求項1?5に係る発明は,平成21年6月29日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものであり,その内の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
半導体素子のアクティブ領域が形成されるシリコンウェーハの前面から背面までの酸素析出物の濃度プロファイルが,前面及び背面から所定深さで各々第1ピーク及び第2ピークを示し,前記前面及び背面から各々第1ピーク及び第2ピークに達する前にデヌードゾーンが形成され,前記第1ピーク及び第2ピーク間のバルク領域で酸素析出物の濃度プロファイルが凹状であり,
前記デヌードゾーンの深さは,ウェーハの表面から10μm?40μmの範囲に確保されることを特徴とする制御された酸素析出物分布をもつシリコンウェーハ。」

3 引用例に記載された発明
(1)前置審査における拒絶の理由に引用された特開平1-242500号公報(平成1年9月27日出願公開,以下「引用例」という。)には,次の記載がある。なお,下線は当審において付加したものである(以下同じ)。
ア 「「産業上の利用分野」
本発明は,表面近傍に素子活性領域となる無欠陥層(DZ層),内部に汚染物質や欠陥を吸収するゲッタリング層(IG層)を形成したCZシリコン基板の製造方法に係わり,特に,DZ層近傍におけるIG層中の欠陥密度を高め,ゲッタリング効果を高める改良に関する。」(1頁左下欄19行?右下欄5行)
イ 第1図及び第3図を参照して,「次に,上記高温処理の完了したシリコン基板を,500℃まで冷却する。この冷却処理に際しては,少なくとも一部の温度範囲(800?500℃)において冷却速度1?10℃/分で徐冷する徐冷工程が必ず必要で,さらに冷却途中に800?500℃内の略一定温度で30分以上保持する等温熱処理工程を加えるのが望ましい。
この冷却処理においては,前記高温熱処理で形成された潜在核(Siクラスター)が,基板中に溶存している酸素と反応して酸素析出核(微細なSiO_(2))を形成する。したがって,この酸素析出核の濃度は,第3図に示すように,酸素およびクラスターの濃度が双方とも高い前記領域(イ)において極大となる。」(2頁右下欄10行?3頁左上欄3行)
ウ 第3図を参照して,「なお,この時点では,シリコン基板中の酸素析出核が,積層欠陥を直接引き起こす酸素析出物に変質していないが,この後に酸素析出熱処理やデバイス処理を施すことにより,前記酸素析出核が酸素析出物を経て積層欠陥を発生させる。
そして最終的な欠陥密度は,第3図の酸素析出核密度分布と略同様に,DZ層との境界近傍のIG層内で極大値をとり,しかもDZ層側に向けて急激に減少する分布となる。したがって,上記本発明の方法によれば,IG層によるDZ層からの不純物や欠陥のゲッタリング効果を高めることができるとともに,略完全な無欠陥領域の厚みを大きく確保できる。」(3頁左上欄11行?右上欄3行)
エ 「次に,以上計6枚の基板について,DZ層近傍(基板表面から50μm)とIG層中央部の2箇所で,選択エッチングと光顕観察により酸素析出物密度(単位:×10^(5)個/cm^(3))を測定した。その結果を次表に示す。
以上のように実験例1?3では,DZ層近傍でIG層中の欠陥密度が著しく高くなった。」(3頁左下欄16行?右下欄2行)
オ 「こうして得られたシリコン基板は,酸素析出熱処理やデバイス処理を施されることにより,酸素析出核が酸素析出物を経て積層欠陥に変質するため,最終的な欠陥密度は,DZ層との境界近傍のIG層内で著しく大きな極大値をとり,しかもDZ層側に向けて急激に減少する分布となる。
したがって本発明の方法によれば,IG層によるDZ層からの不純物や欠陥のゲッタリング効果が高く,しかも略完全な無欠陥領域の厚みを大きく確保できるシリコン基板を得ることができる。」(4頁左上欄19行?右上欄8行)
(2)上記(1)アによれば,引用例に記載された発明は,表面近傍に素子活性領域となる無欠陥層(DZ層),内部に汚染物質や欠陥を吸収するゲッタリング層(IG層)を形成したCZシリコン基板の製造方法であるから,表面近傍に素子活性領域となる無欠陥層(DZ層),内部に汚染物質や欠陥を吸収するゲッタリング層(IG層)を形成したCZシリコン基板に関するものである。
(3)上記(1)イ,ウ及びオによれば,引用例には,酸素析出核の濃度は,第3図に示すように,酸素及びクラスターの濃度が双方とも高い領域(イ)において極大となること,最終的な欠陥密度は,第3図の酸素析出核密度分布と略同様に,DZ層との境界近傍のIG層内で極大値をとり,しかもDZ層側に向けて急激に減少する分布となること,及び,酸素析出核が酸素析出物を経て積層欠陥に変質するため,最終的な欠陥密度は,DZ層との境界近傍のIG層内で著しく大きな極大値をとり,しかもDZ層側に向けて急激に減少する分布となることが記載されている。そうすると,酸素析出核は,酸素析出物を経て積層欠陥に変質し,最終的な欠陥密度は,第3図の酸素析出核密度分布と略同様に,DZ層との境界近傍のIG層内で極大値をとり,しかもDZ層側に向けて急激に減少する分布になるのであるから,酸素析出物も同様に,DZ層との境界近傍のIG層内で極大値をとり,しかもDZ層側に向けて急激に減少する分布となることは,明らかである。したがって,第3図における酸素析出核密度の分布を参酌すると,引用例には,無欠陥層(DZ層)との境界近傍のゲッタリング層(IG層)内で極大値をとり,基板表面及び基板裏面の無欠陥層(DZ層)側に向けて急激に減少する酸素析出物の濃度分布が開示されている。
(4)よって,引用例には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「表面近傍に素子活性領域となる無欠陥層(DZ層),内部に汚染物質や欠陥を吸収するゲッタリング層(IG層)を形成したCZシリコン基板において,無欠陥層(DZ層)との境界近傍のゲッタリング層(IG層)内で極大値をとり,基板表面及び基板裏面の無欠陥層(DZ層)側に向けて急激に減少する酸素析出物の濃度分布を有するCZシリコン基板。」

4 本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明の「素子活性領域」,「CZシリコン基板」,「基板表面」,「基板裏面」,「酸素析出物の濃度分布」は,本願発明の「半導体素子のアクティブ領域」,「シリコンウェーハ」,「前面」,「背面」,「酸素析出物の濃度プロファイル」にそれぞれ相当する。したがって,引用発明の「表面近傍に素子活性領域となる無欠陥層(DZ層),内部に汚染物質や欠陥を吸収するゲッタリング層(IG層)を形成したCZシリコン基板」における「酸素析出物の濃度分布」は,本願発明の「半導体素子のアクティブ領域が形成されるシリコンウェーハの前面から背面までの酸素析出物の濃度プロファイル」に相当する。
(2)本願の出願当初明細書の段落【0005】によれば,「デヌードゾーン」とは,酸素に関わる欠陥,すなわち,ボイド,COP,ディスロケーション,積層欠陥,酸素析出物などが存在しない層であるから,引用発明の「無欠陥層(DZ層)」は,本願発明の「デヌードゾーン」に相当する。また,引用発明における「無欠陥層(DZ層)との境界近傍のゲッタリング層(IG層)内で極大値をと」ること,「CZシリコン基板」の内部に形成された「ゲッタリング層(IG層)」は,本願発明における「前面及び背面から所定深さで各々第1ピーク及び第2ピークを示」すこと,「バルク領域」にそれぞれ相当する。したがって,第3図における酸素析出核密度の分布がIG層内で凹状であることを参酌すると,引用発明の「酸素析出物の濃度分布」が,ゲッタリング層(IG層)内で凹状であることは明らかであるから,引用発明の「CZシリコン基板において,無欠陥層(DZ層)との境界近傍のゲッタリング層(IG層)内で極大値をとり,基板表面及び基板裏面の無欠陥層(DZ層)側に向けて急激に減少する酸素析出物の濃度分布を有する」ことは,本願発明の「酸素析出物の濃度プロファイルが,前面及び背面から所定深さで各々第1ピーク及び第2ピークを示し,前記前面及び背面から各々第1ピーク及び第2ピークに達する前にデヌードゾーンが形成され,前記第1ピーク及び第2ピーク間のバルク領域で酸素析出物の濃度プロファイルが凹状であ」ることに相当する。
(3)また,引用発明の「酸素析出物の濃度分布」が,「表面近傍に素子活性領域となる無欠陥層(DZ層),内部に汚染物質や欠陥を吸収するゲッタリング層(IG層)を形成したCZシリコン基板」の製造方法として,制御されたものであることは明らかであるから,引用発明の「酸素析出物の濃度分布を有する」ことは,本願発明の「制御された酸素析出物分布をもつ」ことに相当する。
(4)以上のことを踏まえると,本願発明と引用発明とは,
「半導体素子のアクティブ領域が形成されるシリコンウェーハの前面から背面までの酸素析出物の濃度プロファイルが,前面及び背面から所定深さで各々第1ピーク及び第2ピークを示し,前記前面及び背面から各々第1ピーク及び第2ピークに達する前にデヌードゾーンが形成され,前記第1ピーク及び第2ピーク間のバルク領域で酸素析出物の濃度プロファイルが凹状であることを特徴とする制御された酸素析出物分布をもつシリコンウェーハ。」
である点で一致し,以下の点で相違する。
相違点:デヌードゾーンの深さが,本願発明では,ウェーハの表面から10μm?40μmの範囲に確保されるのに対し,引用発明では,無欠陥層(DZ層)の基板表面からの深さが明記されていない点。

5 当審の判断
(1)本願の出願当初明細書に,本願発明の「デヌードゾーンの深さは,ウェーハの表面から10μm?40μmの範囲に確保される」構成については,図10とともに,次の記載のみがある。
「【請求項1】
シリコンウェーハを用意する段階と,
前記ウェーハをウェーハの表面でベーカンシ注入効果をもつガス及びインタースティシャルシリコン注入効果をもつガスの混合ガス雰囲気下で急速熱処理を行うことにより,該急速熱処理に後続する熱処理中に酸素析出物が成長する場所としての役目をする核生成中心を発生させ,これにより発生する前記ウェーハの前面から背面までの前記核生成中心の濃度プロファイルが,前面及び背面から所定深さで各々第1ピーク及び第2ピークを示し,前記前面及び背面から各々第1ピーク及び第2ピークに達する前に臨界値以下に維持され,前記第1ピーク及び第2ピーク間のバルク領域で核生成中心の濃度プロファイルを凹状にする急速熱処理段階と,
記急速熱処理段階後に後続する熱処理とによって,
半導体素子のアクティブ領域が形成されるシリコンウェーハの前面から背面までの酸素析出物の濃度プロファイルが,前面及び背面から所定深さで各々第1ピーク及び第2ピークを示し,前記前面及び背面から各々第1ピーク及び第2ピークに達する前にデヌードゾーンが形成され,前記第1ピーク及び第2ピーク間のバルク領域で酸素析出物の濃度プロファイルが凹状とされたことを特徴とする制御された酸素析出物分布をもつシリコンウェーハ。
【請求項2】
半導体素子のアクティブ領域が形成されるシリコンウェーハの前面から背面までの酸素析出物の濃度プロファイルが,前面及び背面から所定深さで各々第1ピーク及び第2ピークを示し,前記前面及び背面から各々第1ピーク及び第2ピークに達する前にデヌードゾーンが形成され,前記第1ピーク及び第2ピーク間のバルク領域で酸素析出物の濃度プロファイルが凹状であり,
前記デヌードゾーンの深さは,ウェーハの表面から10μm?40μmの範囲に確保されることを特徴とする制御された酸素析出物分布をもつシリコンウェーハ。
【請求項3】
半導体素子のアクティブ領域が形成されるシリコンウェーハの前面から背面までの酸素析出物の濃度プロファイルが,前面及び背面から所定深さで各々第1ピーク及び第2ピークを示し,前記前面及び背面から各々第1ピーク及び第2ピークに達する前にデヌードゾーンが形成され,前記第1ピーク及び第2ピーク間のバルク領域で酸素析出物の濃度プロファイルが凹状であり,
前記第1ピーク及び第2ピークの深さは,ウェーハの表面から100μm程度とされることを特徴とする制御された酸素析出物分布をもつシリコンウェーハ。」
「【請求項6】
前記デヌードゾーンの深さは,ウェーハの表面から20μm?40μmの範囲に確保されることを特徴とする請求項1,3のいずれかに記載の制御された酸素析出物分布をもつシ
リコンウェーハ。
【請求項7】
前記デヌードゾーンの深さは,ウェーハの表面から30μmの近傍まで確保されることを特徴とする請求項6に記載の制御された酸素析出物分布をもつシリコンウェーハ。」
「【0012】
・・・
本発明は,半導体素子のアクティブ領域が形成されるシリコンウェーハの前面から背面までの酸素析出物の濃度プロファイルが,前面及び背面から所定深さで各々第1ピーク及び第2ピークを示し,前記前面及び背面から各々第1ピーク及び第2ピークに達する前にデヌードゾーンが形成され,前記第1ピーク及び第2ピーク間のバルク領域で酸素析出物の濃度プロファイルが凹状であり,
前記デヌードゾーンの深さは,ウェーハの表面から10μm?40μmの範囲に確保されることを特徴とする制御されたことにより上記課題を解決した。
・・・
本発明は,前記デヌードゾーンの深さは,ウェーハの表面から20μm?40μmの範囲に確保されることができる。
本発明は,前記デヌードゾーンの深さは,ウェーハの表面から30μmの近傍まで確保されることができる。
・・・」
「【0014】
好ましくは,前記酸素析出物の濃度プロファイルがシリコンウェーハの中心を軸として対称であり,前記デヌードゾーンの深さは,半導体素子の活性領域が十分形成できるように,ウェーハの表面から20μm?40μmの範囲に確保される。前記デヌードゾーンには酸素に関わる結晶欠陥が存在せず,前記バルク領域内には酸素析出物のほかに,一定サイズ及び濃度をもつボイド状のD-ディフェクトがさらに存在できる。」
これらの記載によれば,本願の出願当初明細書には,本願発明の「デヌードゾーンの深さは,ウェーハの表面から10μm?40μmの範囲に確保される」構成について,半導体素子の活性領域が十分形成できる程度として,単に好ましい実施例として例示されているにすぎない。そうすると,本願発明の「デヌードゾーン」とは,そもそも半導体素子のアクティブ領域が形成されるためのものであるから,本願発明において,デヌードゾーンの深さの範囲を特定することに,特別な臨界的意義を認めることはできない。
(2)そして,引用発明の「無欠陥層(DZ層)」は,素子活性領域となるものであり,また,上記3(1)エによれば,引用例には,DZ層近傍(基板表面から50μm)とIG層中央部の2箇所で,酸素析出物密度を測定した結果,DZ層近傍でIG層中の欠陥密度が著しく高くなったことが記載されているのであるから,第3図における酸素析出核密度の分布も参酌すると,無欠陥層(DZ層)の基板表面からの深さが,50μm以下であることは明らかである。
(3)したがって,本願発明において,デヌードゾーンの深さの範囲を特定することに,特別な臨界的意義を認めることはできないのであるから,引用発明において,素子活性領域となる無欠陥層(DZ層)の基板表面からの深さを,50μm以下の10μm?40μmの範囲とすること,すなわち,本願発明の「デヌードゾーンの深さは,ウェーハの表面から10μm?40μmの範囲に確保される」構成とすることは,必要により適宜決めればよい技術的な設計事項であって,当業者が容易になし得るものである。

6 むすび
以上検討したとおり,本願発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-15 
結審通知日 2010-12-20 
審決日 2011-01-05 
出願番号 特願2006-141900(P2006-141900)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後谷 陽一加藤 浩一  
特許庁審判長 廣瀬 文雄
特許庁審判官 近藤 幸浩
市川 篤
発明の名称 制御された酸素析出物分布をもつシリコンウェーハ  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  

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