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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
管理番号 1237251
審判番号 不服2007-22499  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-14 
確定日 2011-05-20 
事件の表示 平成11年特許願第 93311号「高強度組成物補強用鋼繊維」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月10日出願公開、特開2000-281402〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年3月31日の出願であって、平成18年5月17日付けで手続補正書が提出され、同年6月23日付けで拒絶理由が起案され、同年9月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成19年2月9日付けで拒絶理由が起案され、同年4月23日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年9月13日付けで手続補正書が提出されたものであり、平成22年3月2日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知されて、その指定期間内に回答書の提出がなされず、その後、同年10月6日付けで平成19年9月13日付けの手続補正が却下されるとともに、拒絶理由が通知され、同年12月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、平成22年12月10日付けで補正された明細書(以下、「補正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
繊維直径が0.05mm?0.5mm、繊維長さが繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)で30?150であり、表面に繊維直径の0.1倍を越える突起ないし窪みを有しない螺旋形状であって、螺旋形状の振幅が繊維直径の0.3?3倍であり、螺旋形状の周期が繊維長さの0.1?0.5倍であり、
中庸熱セメント2246g、シリカフューム250g、砂1564g?1880g、および混和剤(ポリカルボン酸系高性能減水剤62.4gおよび消泡剤0.6g)を含む水450gを配合してなる高強度コンクリートに混合したときに、繊維混入率2?8体積%において、コンクリートの三点曲げ強度が41?58MPaであって一軸引張強度が17?23MPaであることを特徴とする高強度組成物補強用鋼繊維。

2.平成22年10月6日付けの拒絶理由(特許法第36条第6項第1号及び同条第4項について)の概要
当審が、平成19年9月13日付けの手続補正を却下して、同年4月23日付けで補正された明細書に対して通知した拒絶理由(特許法第36条第6項第1号及び同条第4項について)の概要は次のとおりである。
(a)平成19年4月23日付けで補正された明細書の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その特定事項からみて、「高強度組成物補強用鋼繊維」に関し、「繊維直径」、「繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)」、「表面の突起ないし窪み」、「螺旋形状の振幅」及び「螺旋形状の周期」のそれぞれについて(以下、「繊維形状因子」という。)、数値範囲を特定するものである。
一方、発明の詳細な説明には、実施例及び比較例として、繊維形状因子のそれぞれの値を変化させて「フロー値」、「三点曲げ強度」及び「一軸引張強度」の各値を評価し、実施例が比較例よりも良好な値を示していることが記載されているものの、これら「フロー値」、「三点曲げ強度」及び「一軸引張強度」の各値として望ましいと考える値(以下、「目標値範囲」という。)については何ら記載されていない。
また、この実施例は、繊維形状因子のそれぞれについて、繊維形状因子のそれぞれ一つのみが本願発明で特定される上限値・下限値であるものを含むものであるが、例えば、これら繊維形状因子のすべてが本願発明で特定される上限値・下限値であるものは示されていない。そうすると、この繊維形状因子のそれぞれが特定する数値範囲の技術的意義が不明であり、記載された実施例のみで、本願発明が特定する繊維形状因子のすべての数値範囲において、「フロー値」、「三点曲げ強度」及び「一軸引張強度」が良好な値(目標値範囲)を示して、「高強度コンクリート等の高強度組成物に対して優れたを補強効果を発揮する」(【0043】(当審注:【0042】の誤記))効果を奏すると一般化することはできないし、当業者が過度の試行錯誤なくして良好な値(目標値範囲)を示すことや前記効果を奏することを確認することもできない。
(b)「補強用繊維の混入量」について発明の詳細な説明には、「コンクリートに短繊維を混入して曲げや引張に対する強度を補強する場合、混入する補強用繊維の形状や混入量、補強用繊維のヤング率や引張強度などの機械的特性、およびマトリックスの機械的特性はもとより、補強用繊維とマトリックスとの付着強度などの界面特性の制御が重要である。」(【0008】)、「因みに、繊維混入量を減少すれば流動性の低下は抑えられるが、繊維量が少ないので繊維が負担する荷重が小さくなり、やはり繊維補強した高強度組成物の強度は低下するので望ましくない。」(【0014】)と記載されている。
これら記載をみると、「高強度コンクリート等の高強度組成物に対して優れた補強効果を発揮する」ために、「混入する補強用繊維の混入量」の調整が必要であるといえる。しかし、本願発明においては、「混入する補強用繊維の混入量」について特定しておらず、出願時の技術常識に照らしても、補強用繊維の混入量が任意の範囲とする本願発明が「フロー値」、「三点曲げ強度」及び「一軸引張強度」が良好な値(目標値範囲)を示して、「高強度コンクリート等の高強度組成物に対して優れた補強効果を発揮する」効果を奏するとはいえないし、当業者が過度の試行錯誤なくして良好な値(目標値範囲)を示すことや前記効果を奏することを確認することもできない。
したがって、本願発明は、上述のとおり、特許法第36条第6項第1号、同条第4項の規定により、特許を受けることができないものである。

3.当審の判断
上記拒絶理由が、補正明細書においても、なお妥当なものであるかについて検討する。
3-1.上記2.(a)について
(あ)本願補正発明は、「中庸熱セメント2246g、シリカフューム250g、砂1564g?1880g、および混和剤(ポリカルボン酸系高性能減水剤62.4gおよび消泡剤0.6g)を含む水450gを配合してなる高強度コンクリートに混合したときに、繊維混入率2?8体積%において、コンクリートの三点曲げ強度が41?58MPaであって一軸引張強度が17?23MPaである」という特定事項を有している。この特定事項は、高強度組成物補強用鋼繊維に関し、「中庸熱セメント2246g、シリカフューム250g、砂1564g?1880g、および混和剤(ポリカルボン酸系高性能減水剤62.4gおよび消泡剤0.6g)を含む水450gを配合してなる高強度コンクリートに」「繊維混入率2?8体積%」で混合したときの「コンクリートの三点曲げ強度が41?58MPa」、「一軸引張強度が17?23MPaである」ことを特定するものである。
(い)これに対して、本願補正発明に係る「高強度組成物補強用鋼繊維」は、「高強度組成物」を補強するものであるが、「高強度組成物」とはどのようなものであるかについて本願補正発明には何ら特定されていない。そこで、本願補正発明が補強する対象である「高強度組成物」について、補正明細書の記載をみてみる。
補正明細書の【0001】には、
「【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度のコンクリートやモルタルなどに混合され、これを補強する鋼繊維に関する。より詳細には、圧縮強度150MPa以上の高強度コンクリートや高強度モルタルを補強する鋼繊維に関するものである。」とあり、本願補正発明が、「圧縮強度150MPa以上の高強度コンクリートや高強度モルタルを補強する鋼繊維」に関するものであることが記載されており、本願補正発明における「高強度組成物」とは、「圧縮強度150MPa以上の高強度コンクリートや高強度モルタル」であって、「中庸熱セメント2246g、シリカフューム250g、砂1564g?1880g、および混和剤(ポリカルボン酸系高性能減水剤62.4gおよび消泡剤0.6g)を含む水450gを配合してなる高強度コンクリート」に限らないものといえる。
(う)そうすると、「中庸熱セメント2246g、シリカフューム250g、砂1564g?1880g、および混和剤(ポリカルボン酸系高性能減水剤62.4gおよび消泡剤0.6g)を含む水450gを配合してなる高強度コンクリートに」「繊維混入率2?8体積%」で混合したときの「コンクリートの三点曲げ強度が41?58MPa」、「一軸引張強度が17?23MPaである」ことが新たに本願補正発明に特定されたとしても、本願補正発明は「圧縮強度150MPa以上の高強度コンクリートや高強度モルタル」を補強するものであるといえるから、これらについて上記2.(a)の 「フロー値」、「三点曲げ強度」及び「一軸引張強度」の各値として望ましいと考える値が依然として不明であることに変わりはない。
(え)よって、「繊維直径」、「繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)」、「表面の突起ないし窪み」、「螺旋形状の振幅」及び「螺旋形状の周期」のそれぞれ(以下、「繊維形状因子」という。)が特定する数値範囲の技術的意義が不明であり、本願補正発明が特定する繊維形状因子のすべての数値範囲において、「圧縮強度150MPa以上の高強度コンクリートや高強度モルタル」における「フロー値」、「三点曲げ強度」及び「一軸引張強度」が良好な値(目標値範囲)を示し、「高強度組成物に配合した場合、飛躍的に高い曲げ強度や引張強度を付与することができる鋼繊維を提供する」という課題(【0005】)を解決し、「高強度コンクリート等の高強度組成物に対して優れたを補強効果を発揮するものであり、その組成物の高い圧縮強度に加えて飛躍的に高い曲げ強度や引張強度を付与することができる」(【0042】)という効果を奏すると一般化することはできないし、当業者が過度の試行錯誤なくして上記良好な値(目標値範囲)を示すことや補正明細書に記載されるこの効果を奏することを確認することもできない。
(お)仮に、「中庸熱セメント2246g、シリカフューム250g、砂1564g?1880g、および混和剤(ポリカルボン酸系高性能減水剤62.4gおよび消泡剤0.6g)を含む水450gを配合してなる高強度コンクリートに混合したときに、繊維混入率2?8体積%において、コンクリートの三点曲げ強度が41?58MPaであって一軸引張強度が17?23MPaであること」をもって、「圧縮強度150MPa以上の高強度コンクリートや高強度モルタル」の「三点曲げ強度」や「一軸引張強度」が導き出されとした場合について、さらに検討する。
(か)補正明細書に記載される実施例1?7は、【0020】の記載によれば、引張強度およびヤング率がそれぞれ2GPaおよび200GPaである鋼繊維を特定組成の高強度コンクリートに混合して、「三点曲げ強度」と「一軸引張強度」を測定している。
しかし、鋼繊維の引張強度およびヤング率が異なれば、実施例1?7と同様に「中庸熱セメント2246g、シリカフューム250g、砂1564g?1880g、および混和剤(ポリカルボン酸系高性能減水剤62.4gおよび消泡剤0.6g)を含む水450gを配合してなる高強度コンクリートに混合したときに、繊維混入率2?8体積%」としても、「コンクリートの三点曲げ強度が41?58MPaであって一軸引張強度が17?23MPa」となるとは限らないことは技術常識に照らし明らかである。
そうすると、本願補正発明に実施例1?7の記載に基づく「中庸熱セメント2246g、シリカフューム250g、砂1564g?1880g、および混和剤(ポリカルボン酸系高性能減水剤62.4gおよび消泡剤0.6g)を含む水450gを配合してなる高強度コンクリートに混合したときに、繊維混入率2?8体積%において、コンクリートの三点曲げ強度が41?58MPaであって一軸引張強度が17?23MPa」がさらに特定されたとしても、かかる特定された事項のみでは、繊維混入率2?8体積%のときのコンクリートの三点曲げ強度が41?58MPaであって一軸引張強度が17?23MPaとならない場合が含まれるといえる。よって、上記(お)の仮定の下においても本願の出願当時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明に記載された内容を本願補正発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
なお、平成22年12月10日付けで補正された請求項2に係る発明は、本願補正発明の鋼繊維に、さらに「ヤング率150GPa以上、引張強度1GPa以上である」と特定するものであるが、この請求項2に係る発明においても、例えば、ヤング率150GPa、引張強度1GPaのときに、繊維混入率2?8体積%でコンクリートの三点曲げ強度が41?58MPaであって一軸引張強度が17?23MPaとなるとは必ずしもいえず、このことは実施例の鋼繊維が引張強度2GPa及びヤング率200GPaであることから明らかである。
(き)さらに、補正明細書の実施例1?7は、繊維形状因子のそれぞれ一つのみが本願補正発明で特定される上限値または下限値であるものを含むものであるが、例えば、これら繊維形状因子のすべてが本願補正発明で特定される上限値または下限値であるものは依然として記載されていない。そうすると、この繊維形状因子のそれぞれが特定する数値範囲の技術的意義が不明であり、記載された実施例1?7のみで、本願補正発明が特定する繊維形状因子に係るすべての数値範囲において、「フロー値」、「三点曲げ強度」及び「一軸引張強度」が良好な値(目標値範囲)を示して、「高強度組成物に配合した場合、飛躍的に高い曲げ強度や引張強度を付与することができる鋼繊維を提供する」という課題(【0005】)を解決し、「高強度コンクリート等の高強度組成物に対して優れたを補強効果を発揮する」(【0042】)効果を奏すると一般化することはできないし、当業者が過度の試行錯誤なくして良好な値(目標値範囲)を示すことや前記効果を奏することを確認することもできない。

3-2.上記2.(b)について
(く)補正明細書においても、「コンクリートに短繊維を混入して曲げや引張に対する強度を補強する場合、混入する補強用繊維の形状や混入量、補強用繊維のヤング率や引張強度などの機械的特性、およびマトリックスの機械的特性はもとより、補強用繊維とマトリックスとの付着強度などの界面特性の制御が重要である。」(【0008】)、「因みに、繊維混入量を減少すれば流動性の低下は抑えられるが、繊維量が少ないので繊維が負担する荷重が小さくなり、やはり繊維補強した高強度組成物の強度は低下するので望ましくない。」(【0014】)と記載されている。
これら記載をみると、「高強度コンクリート等の高強度組成物に対して優れたを補強効果を発揮する」ために、「混入する補強用繊維の混入量」の調整が必要であるといえる。
(け)本願補正発明において、「混入する補強用繊維の混入量」について、「中庸熱セメント2246g、シリカフューム250g、砂1564g?1880g、および混和剤(ポリカルボン酸系高性能減水剤62.4gおよび消泡剤0.6g)を含む水450gを配合してなる高強度コンクリートに混合したとき」の「2?8体積%」という「繊維混入率」を特定はしているが、この特定は特定形状の鋼繊維ごとに、2?8体積%の割合で混合した実施例1?7の記載に基づくものである。しかし、上記(い)において検討したように、本願補正発明における「高強度組成物」とは、「圧縮強度150MPa以上の高強度コンクリートや高強度モルタル」だから、この繊維混入率を特定した上記高強度コンクリートに限るものでなく、仮に、「圧縮強度150MPa以上の高強度コンクリートや高強度モルタル」に上記実施例に係る特定形状の鋼繊維を混入率2?8体積%で混合しても分散性に問題を生じる場合等が考えられ、その場合所望の強度が得られないものといえる。
(こ)そうすると、「中庸熱セメント2246g、シリカフューム250g、砂1564g?1880g、および混和剤(ポリカルボン酸系高性能減水剤62.4gおよび消泡剤0.6g)を含む水450gを配合してなる高強度コンクリートに」「繊維混入率2?8体積%」で混合したことが特定されたとしても、「高強度組成物」に対して補強用鋼繊維の混入量を任意の範囲とする本願補正発明が「フロー値」、「三点曲げ強度」及び「一軸引張強度」が良好な値(目標値範囲)を示して、「高強度コンクリート等の高強度組成物に対して優れた補強効果を発揮する」効果を奏するとはいえないし、当業者が過度の試行錯誤なくして上記良好な値(目標値範囲)を示すことや上記効果を奏することを確認することもできない。

3-3.上記2.(a)及び(b)についてのまとめ
したがって、本願補正発明は、発明の詳細な説明において、課題が解決できることを当業者が認識できるように記載したものの範囲を超えるものであり、本願の出願当時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に記載された内容を本願補正発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえないし、当業者が過度の試行錯誤なくして本願補正発明を実施できるとはいえないから、上記拒絶理由で指摘した理由(特許法第36条第6項第1号及び同条第4項について)は、依然妥当なものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、当審が通知した拒絶理由(特許法第36条第6項第1号及び同条第4項について)により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-18 
結審通知日 2011-03-23 
審決日 2011-04-05 
出願番号 特願平11-93311
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C04B)
P 1 8・ 536- WZ (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横島 重信  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 斉藤 信人
深草 祐一
発明の名称 高強度組成物補強用鋼繊維  
代理人 千葉 博史  

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