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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1237253
審判番号 不服2008-7603  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-27 
確定日 2011-05-20 
事件の表示 特願2001-260427「電気二重層コンデンサの電極材料およびこれを用いた電気二重層コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月 6日出願公開,特開2002-353075〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成13年8月29日(優先権主張平成13年3月21日)の出願であって,平成19年9月14日付けの拒絶理由通知に対して,同年11月15日に手続補正書及び意見書が提出されたが,平成20年2月15日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年3月27日に審判請求がされるとともに,同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 平成20年3月27日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)について
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明を補正するものであり,特許請求の範囲については,以下のとおりである。
(補正事項a)
・補正前の請求項2,4?8,10,12,13を削除する。
(補正事項b)
・補正前の請求項3を,補正後の請求項2に繰り上げ,補正前の請求項3の「請求項2記載の」を,補正後の請求項2の「請求項1記載の」と補正する。
(補正事項c)
・補正前の請求項9を,補正後の請求項3に繰り上げる。
(補正事項d)
・補正前の請求項11を,補正後の請求項4に繰り上げ,補正前の請求項11の「請求項10記載の」を,補正後の請求項4の「請求項3記載の」と補正する。
(補正事項e)
・補正前の請求項14を,補正後の請求項5に繰り上げ,補正前の請求項14の「請求項1?13のうちのいずれか1項記載の」を,補正後の請求項5の「請求項1?4のうちのいずれか1項記載の」と補正する。

2 補正目的の適否
(1)補正事項aについて
補正事項aは,請求項の削除を目的とするものである。
(2)補正事項b?eについて
補正事項b?eは,補正事項aによる請求項の削除に伴って,請求項を繰り上げ,引用する請求項を変更したものであるから,補正事項b?eは,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

したがって,特許請求の範囲についての本件補正は,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項1号及び4号に規定する要件を満たす。

第3 本願発明の容易想到性
1 本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成20年3月27日に提出された手続補正書により補正された請求項1に記載された,次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

【請求項1】
「底の無いカップ形状をなす炭素網層が多数積層した,気相成長法による炭素繊維であって,炭素網層の環状端面が露出している炭素繊維を主材料とすることを特徴とする電気二重層コンデンサの電極材料。」

2 引用例1の記載内容と引用発明
2-1 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である国際公開第00/19461号パンフレット(以下「引用例1」という。)には,「電気化学的キャパシタのためのフィブリル複合体電極」(発明の名称;訳文)に関して,図1,図2とともに,次の記載がある。
ア 発明の背景等
・「技術分野 本発明は,一般に電気化学的キャパシタに関し,特に電気化学的キャパシタのためのフィブリル複合体電極に関する。」(1頁5?8行の訳文)
・「電気化学的キャパシタ(ECs)は,システム設計者がそれらの特質及び利点がよく分かるようになるのに従って,エレクトロニクス工業で受け入れられつつある。」(1頁14?17行の訳文)
・「電気化学的キャパシタは,一般に二つの範疇に分けることができる:電極/電解質界面のキャパシタンスを2枚の平行な帯電シートとして考えることができる二重層キャパシタ;及び電極と電解質との間の電荷移動が広い範囲の電位に亙って起きる擬キャパシタ(pseudocapacitor)装置である。これらの電荷移動は,電極と電解質との間の一次,二次,及び三次酸化/還元反応の結果であると考えられる。」(2頁4?13行の訳文)
・「二重層キャパシタは,電解質中に浸漬した活性炭素のような高表面積電極材料に基づいている。各電極に分極二重層が形成され,二重層キャパシタンスを与える。炭素は大きな表面積Aを与え,有効なdは原子規模にまで減少し,それによって大きなキャパシタンスを与える。
二重層のエネルギー貯蔵能力は100年以上も前から認識されていたが,低電流揮発性コンピューターメモリーの開発に伴って,ECsのための市場が開発された。」(3頁3?13行の訳文)
・「電気化学的キャパシタに保存されるエネルギーを増大するため,幾つかの方法が当分野では知られている。そのような方法の一つは,活性電極の表面積を増大することである。大きな表面積の電極は,蓄電キャパシタンスの増大を与える結果になり,それによって保存エネルギーを増大する。保存エネルギーを増大する別の方法には,キャパシタの電極を製造するために異なった種類の材料を用いることが含まれる。炭素電極は殆どの商業的キャパシタで用いられているが,擬キャパシタとして知られているキャパシタには貴金属酸化物電極が用いられている。」(7頁10?21行の訳文)
・「本発明の目的 本発明の目的は,電気化学的キャパシタのための複合体電極で,炭素ナノファイバー(フィブリル)及び電気化学的に活性な材料を含む複合体電極を与えることにある。」(11頁7?11行の訳文)

イ 発明の詳細な説明
・「グラフェニック(graphenic)」炭素とは,炭素原子が三つの他の炭素原子に夫々本質的に平らな層として結合し,六角形融合環を形成する炭素の一形態である。それらの層は直径が僅か数個の環の小板状のものであるか,又はそれらは多数の環の長さを持つが,僅か数個の環の幅しか持たないリボン状になっている。層間の関係には規則はないが,それらの層の幾つかは平行になっている。層間空間の多くは,電気化学的キャパシタに有用な気孔である。」(14頁29?37行の訳文)
・「用語「ナノファイバー」,「ナノチューブ」及び「フィブリル」は,互換性のあるものとして用いられている。夫々断面(例えば,縁を持つ角状繊維)又は直径(例えば,丸いもの)が1μより小さい長い構造体を指す。この構造体は中空でも非中空でもよい。」(15頁9?13行の訳文)
・「ナノファイバー ナノファイバーは,本発明の電気化学的キャパシタで種々の幾何学的形態で用いられている。それらは,分散したフィブリル,凝集体,或はマット又はフイルムとして存在する。それらは,大きな支持体に付着させるか,又は他の材料と混合されている。ナノファイバーは,主に化学的に変性可能な黒鉛炭素からなる。それらは,一般に0.1μm以下の直径及び少なくとも5の長さ対直径比を有する。典型的には,それらは,0.01μmの直径及び1?10μmの長さを有する。
1970年代以来,黒鉛性ナノファイバー及びフィブリルが,種々の用途にとって重要な材料として見做されてきた。サブミクロン黒鉛性ナノファイバーは時々気相成長炭素繊維と呼ばれている。炭素ナノファイバーは,1.0μより小さく,好ましくは約0.5μより小さく,更に一層好ましくは0.2μより小さい直径を有する曲がりくねった(vermicular)炭素堆積物である。それらは種々の形態で存在し,種々の炭素含有ガスを金属表面で接触分解することにより製造されてきた。電子顕微鏡の出現以来,殆どそのような曲がりくねった炭素堆積物が観察されてきた。初期の概説及び文献は,ベーカー(Baker)及びハリス(Harris),Chemistry and Physics of Carbon 〔ウォーカー(Walker)及びスローワー(Thrower)編集,1978年〕第14巻,第83頁に見出すことができる。また,ロドリゲス(Rodriguez)N.,J. Mater. Research, Vol. 8, p. 3233 (1993)も参照されたい。」(23頁29行?24頁18行の訳文)
・「ゲウス(Geus)による米国特許第4,855,091号明細書は,黒鉛性層のフィブリル軸への投影が二つのフィブリル直径より短い距離に亙って伸びており,黒鉛性ナノファイバーの炭素面が,断面で,ヘリンボーン(herring bone)模様の外観を持っている魚骨状のフィブリルの製造方法を与えている。これらは魚骨フィブリルと呼ばれている。それらは実質的に熱分解外側被覆を持たない。これらのフィブリルも本発明を実施するのに有用である。」(26頁34行?27頁5行の翻訳文)
・「アーク成長チューブとは対照的に,気相成長フィブリル炭素は,無定形炭素又は他の黒鉛非チューブ構造体で汚染されていない自由流動性凝集体として製造される。凝集体の多孔度は極めて大きい。これらの凝集体は,分散してフェルト繊維マットに似た相互結合されたフィブリルナノチューブからなるマクロ構造体に再構成することができる。」(27頁20?27行の訳文)

2-2 引用発明
上記ア,イによれば,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されている。
「気相成長炭素繊維であって,前記炭素繊維からなる黒鉛性ナノファイバーの炭素面が,断面で,ヘリンボーン(herring bone)模様の外観を持っている魚骨状のフィブリルを有することを特徴とする二重層キャパシタンスの電極材料。」

3 引用例2の記載内容
拒絶査定において提示された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭61-239019号公報(引用例2)には,「炭素フイラメントの製造法及びその方法で得た炭素フイラメント」(発明の名称)に関して,第2図とともに,次の記載がある。
ア 発明の背景等
・「本発明は結晶質黒鉛構造を有し且つフイラメント軸方向に魚骨様配列をした黒鉛層によつて特徴づけられるモルフオロジ-(形態特性)を有する炭素フイラメントの製造法に関する。」(2頁右下欄8?11行)
イ 発明の要約
・「本発明により,実質上完全に還元した単結晶性金属粒子を析出させた適宜の熱安定性支持体を炭素含有ガス混合物にさらすことによつて高性能炭素フイラメント(たとえば重合体繊維からつくつた炭素繊維とは反対のカーボナイトの単一ストランド)が得られることが判明した。」(3頁左下欄3?7行)
ウ 発明の具体的開示
・「金属粒子からの黒鉛層の成長が炭素フイラメントの形成をもたらす。黒鉛層は金属もしくは多分金属カーバイドと支持体の界面での結晶成長によつて形成されるものと考えられる。黒鉛結晶と金属粒子間の相互作用により成長する炭素フイラメントの直径は金属粒子の直径とほぼ等しい値を維持する。金属-炭送界面での黒鉛層の成長は金属粒子を通る炭素の移動速度で決まる。それ故,金属-黒鉛界面での黒鉛の成長は金属-ガス界面に近い部位(サイト)でより速く,逆に金属-黒鉛界面での黒鉛の成長は金属-ガス界面からはなれた部位ではより遅い。それ故,金属粒子を通る炭素の移動速度の違いが金属-黒鉛界面での黒鉛の異なる成長速度をもたらし,魚骨様構成を生ずる。
別の云い方をすれば,金属粒子が界面で順次生成する黒鉛層によつて押し上げられる。しかし炭素原子が移動する速度は界面の部位がかわればかわる。これは金属粒子を通る炭素原子の移動速度が炭素フイラメントの成長速度を決定するという事実による。金属-ガス界面の異なる部位から金属-炭素界面へ移動する炭素原子の移動距離は異なるので,金属-炭素界面に達する炭素原子の単位時間当りの数はその相対位置によつて異なる。その結果,積層グラフアイト層が形成されて所望の魚骨様構造をもたらす。」(4頁左下欄12行?5頁左上欄2行)
・「特に選択されたエリア電子回折法により,炭素フイラメントが前記した魚骨様構造を形成する対称配列又は積層した結晶質グラフアイト層を含むことがわかる。積層グラフアイト層の存在,それらの配向及びそれらによりもたらされる機械的強度は当業者の全く認知しなかつたものである。
本発明の方法において,金属粒子-支持体系上での炭素フイラメントの成長は,崩解した支持体の残渣を含みかつフイラメントの成長端に金属粒子を示す密なる網目構造の炭素フイラメントをもたらす。」(6頁右上欄3?11行)
・「本発明方法でつくられる炭素フイラメントは公知の(高性能)炭素フイラメント用のあらゆる目的に用いうる。それらのすぐれた機械的及び電気化学的性質から,特に電気化学分野の電極の製造に好ましく用いうる。」(7頁右下欄10?13行)
・「CO/H_(2)の0.5/1の比の混合物を用いて同様の実験を行なつた。黒鉛質炭素の成長を観察した。フイラメントはそれらの軸に沿つた比較的電子透過性のカナル(canals)と組織的(textured)構造を持つていた。これらフイラメントの先端のニツケル粒子はコーン様の外観を示した。直径70nmのフイラメントに対し選択エリア回折実験を行なつた。フイラメントは直線的な外観に特長があつた。かかるフイラメントは,1つのよく定められた軸方向を含んでいるので,炭素微構造の分析に特に適していた。グラフアイト層の2つの異なる配向の存在が認められた。これら2つの異なる配向はフイラメント軸の反対側に位置していた。この微構造は第2図に示すようにフイラメント軸に沿う黒鉛基磁平面の魚骨様配置によつて表現しうる。」(9頁左上欄6行?同頁右上欄3行)

4 対比
(1)次に,本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「気相成長炭素繊維」と「前記炭素繊維からなる黒鉛性ナノファイバー」は,いずれも,本願発明の「気相成長法による炭素繊維」に相当する。
イ 引用発明の「二重層キャパシタンス」は,本願発明の「電気二重層コンデンサ」に相当する。

(2)そうすると,本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりとなる。

《一致点》
「気相成長法による炭素繊維を材料とすることを特徴とする電気二重層コンデンサの電極材料。」

《相違点》
《相違点1》
本願発明は,「底の無いカップ形状をなす炭素網層が多数積層した,気相成長法による炭素繊維」を有するのに対して,引用発明は,本願発明の「気相成長法による炭素繊維」に対応する「気相成長炭素繊維」として,「気相成長」「炭素繊維からなる黒鉛性ナノファイバーの炭素面が,断面で,ヘリンボーン(herring bone)模様の外観を持っている魚骨状のフィブリル」である点。

《相違点2》
本願発明は,「炭素網層の環状端面が露出している炭素繊維を主材料とする」のに対して,引用発明は,「気相成長炭素繊維」を電極材料とするものの,本願発明の「炭素網層の環状端面が露出している炭素繊維を主材料とする」かどうか不明である点。

5 相違点についての検討
(1)相違点1について
ア 引用発明は,「気相成長」「炭素繊維からなる黒鉛性ナノファイバーの炭素面が,断面で,ヘリンボーン(herring bone)模様の外観を持っている魚骨状のフィブリルを有する」ものであり,「断面で,ヘリンボーン(herring bone)模様の外観を持っている魚骨状のフィブリル」は,各断面で,いずれも,ヘリンボーン(herring bone)模様の外観を持っている魚骨状のフィブリルのことであると理解できるから,魚骨状の1本1本は,すべての断面を寄せ合わせてみると,フィブリルの長軸を中心に回転した回転体と同様に,皿形状,あるいは,カップ形状になるものと考えるのが,自然であり,合理的である。
ちなみに,本願の願書に最初に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載の「ヘリンボン構造の炭素繊維」も,断面がヘリンボン構造の炭素繊維と解される。
イ また,引用例1に示されている,引用発明の「黒鉛性ナノファイバーの炭素面が,断面で,ヘリンボーン(herring bone)模様の外観を持っている魚骨状のフィブリル」の根拠として記載されている文献である,米国特許第4,855,091号明細書(引用例1の26頁34行の記載を参照)の対応日本出願である引用例2には,次の記載がある。
「CO/H_(2)の0.5/1の比の混合物を用いて同様の実験を行なつた。黒鉛質炭素の成長を観察した。フイラメントはそれらの軸に沿つた比較的電子透過性のカナル(canals)と組織的(textured)構造を持つていた。これらフイラメントの先端のニツケル粒子はコーン様の外観を示した。直径70nmのフイラメントに対し選択エリア回折実験を行なつた。フイラメントは直線的な外観に特長があつた。かかるフイラメントは,1つのよく定められた軸方向を含んでいるので,炭素微構造の分析に特に適していた。グラフアイト層の2つの異なる配向の存在が認められた。これら2つの異なる配向はフイラメント軸の反対側に位置していた。この微構造は第2図に示すようにフイラメント軸に沿う黒鉛基磁平面の魚骨様配置によつて表現しうる。」(9頁左上欄6行?同頁右上欄3行)
ウ そして,「選択エリア回折実験」の結果について説明した,上記イの「グラフアイト層の2つの異なる配向の存在が認められた。これら2つの異なる配向はフイラメント軸の反対側に位置していた。この微構造は第2図に示すようにフイラメント軸に沿う黒鉛基磁平面(審決注:「黒鉛基磁平面」は,「黒鉛基礎平面」の誤記,第2図の記載を参照)の魚骨様配置によつて表現しうる。」との記載によれば,炭素微構造は,黒鉛基礎平面という特定の平面で,グラフアイト層の2つの異なる配向を有する魚骨様配置となるのであるから,この魚骨様配置を,フイラメント軸を中心とするすべての平面で寄せ集めてみると,1本1本の魚骨様部分は,それぞれカップ形状になることは,明らかであり,また,上記イの「これらフイラメントの先端のニツケル粒子はコーン様の外観を示した。」との記載によれば,フイラメントの先端は,上記の魚骨様配置の一部となり,フイラメントの先端は,ニツケル粒子のコーン様,すなわち,略円錐形状に倣うはずであることから,この略円錐形状に倣った形状も,上記カップ形状と同様になっているものと認められる。
エ そして,魚骨様配置の1本1本の魚骨部分は,本願発明の「炭素網層」に対応し,また,魚骨様配置の魚骨が並んだ様子は,引用例2の「積層グラフアイト層が形成されて所望の魚骨様構造をもたらす。」(5頁左上欄1?2行),「特に選択されたエリア電子回折法により,炭素フイラメントが前記した魚骨様構造を形成する対称配列又は積層した結晶質グラフアイト層を含むことがわかる。」(6頁右上欄3?5行)との記載からもわかるように,本願発明の「炭素網層が多数積層した」ことに対応している。
オ また,引用例2の上記イの「フイラメントはそれらの軸に沿つた比較的電子透過性のカナル(canals)と組織的(textured)構造を持っている」との記載によれば,上記ウに記載のカップ形状の中心部分は,管になっており,カップとして,底がない形状となっていることも,明らかである(カナル(canals)とは,導管や管のことである。)。
カ したがって,引用発明の「気相成長」「炭素繊維からなる黒鉛性ナノファイバーの炭素面が,断面で,ヘリンボーン(herring bone)模様の外観を持っている魚骨状のフィブリル」は,引用例2の記載を参照すると,本願発明の「底の無いカップ形状をなす炭素網層が多数積層した,気相成長法による炭素繊維」と,実質的に相違しないか,少なくとも,当業者が容易に認識できたものといえる。

(2)相違点2について
ア 引用例1と引用例2のいずれにも,炭素繊維を構成する炭素網層の環状端面が「露出」しているか否かの記載はない。しかし,覆われるとの記載もないことからすると,引用発明においても,炭素繊維からなる黒鉛性ナノファイバーを構成するカップ形状の炭素微構造の環状端面は,多かれ少なかれ,露出するものと認められる。
イ そして,引用発明の目的は,「電気化学的キャパシタのための複合体電極で,炭素ナノファイバー(フィブリル)及び電気化学的に活性な材料を含む複合体電極を与えることにある。」(11頁7?11行の訳文)のであり,電気化学キャパシタの電極には,表面積が大きいものが適することが技術常識であるから,引用発明において,本願発明のように,「炭素網層の環状端面が露出している炭素繊維を主材料とする」することは,当業者にとって容易であったといえる。

(3)審判請求人の主張について
ア なお,審判請求人は,平成20年6月16日に提出した審判請求の理由においてした主張を,平成22年12月20日に提出した回答書で繰り返し,次のように述べている。
「すなわち,繰り返しになるが,引用文献3(特開昭61-239019号公報)(審決注;本審決の引用例2に相当)の第9頁左上蘭第6行?右上蘭第3行には次のように記載されている。
『CO/H_(2)の0.5/1の比の混合物を用いて同様の実験を行った。黒鉛質炭素の成長を観察した。フィラメントはそれらの軸に沿った比較的電子透過性のカナル(canals)と組織的構造(textured)構造を持っていた。これらフィラメントの先端のニッケル粒子はコーン様の外観を呈した。直径70nmのフィラメントに対し選択エリア回折実験を行った。フィラメントは直線的な外観に特長があった。かかるフィラメントは,1つのよく定められた軸方向を含んでいるので,炭素微構造の分析に特に適していた。グラファイト層の2つの異なる配向の存在が認められた。これら2つの異なる配向はフィラメント軸の反対側に位置していた。この微構造は第2図に示すようにフィラメント軸に沿う黒鉛基準平面の魚骨様配置によって表現しうる。』
上記下線部の記載からわかるように,引用文献3で形成されるフィラメントは,フィラメント軸の反対側に位置する2つの異なる方向に配向するグラファイト層からなり,このグラファイト層はフィラメント軸に沿う黒鉛基準平面の魚骨様配置をなすものである。すなわち,引用文献3で形成されるフィラメントは,環状端面を有するものではない。」
イ しかしながら,上記の「(1)相違点1について ウ」で検討したように,引用例2の「グラフアイト層の2つの異なる配向の存在が認められた。これら2つの異なる配向はフイラメント軸の反対側に位置していた。この微構造は第2図に示すようにフイラメント軸に沿う黒鉛基磁平面(審決注;「黒鉛基磁平面」は,「黒鉛基礎平面」の誤記,第2図の記載を参照)の魚骨様配置によつて表現しうる。」との記載から,黒鉛基礎平面という特定の平面で,グラフアイト層の2つの異なる配向を有する魚骨様配置となるのであるから,この魚骨様配置を,フイラメント軸を中心とするすべての平面で寄せ集めてみると,1本1本の魚骨様部分は,それぞれカップ形状になっているものと認められ,環状端面を有することは明らかである。審判請求人の主張は,採用できない。

6 以上の次第で,本願発明は,引用例1に記載された発明(引用発明)及び引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 結言
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-04 
結審通知日 2011-03-15 
審決日 2011-03-30 
出願番号 特願2001-260427(P2001-260427)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 橋本 武
特許庁審判官 大澤 孝次
相田 義明
発明の名称 電気二重層コンデンサの電極材料およびこれを用いた電気二重層コンデンサ  
代理人 堀米 和春  
代理人 綿貫 隆夫  
代理人 堀米 和春  
代理人 綿貫 隆夫  

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