ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
---|---|
管理番号 | 1237267 |
審判番号 | 不服2008-16617 |
総通号数 | 139 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-06-30 |
確定日 | 2011-05-19 |
事件の表示 | 特願2006-111545「bcl-2遺伝子発現の調節」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月28日出願公開、特開2006-257092〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,1994年9月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1993年9月20日 米国)を国際出願日する出願である特願平7-509927号の一部を,平成14年6月19日に新たな出願とした特願2002-178753号の一部を,さらに平成18年4月14日に新たな出願としたものであって,その請求項1?22に係る発明は,平成20年7月29日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであって,そのうち請求項1に係る発明は,次のとおりである。 「【請求項1】(i)配列TCTCCCAGCGTGCGCCAT(配列番号17,当該配列中の少なくとも1個のヌクレオシド間結合がフォスフォロチオエート結合である)を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドからなるアンチコードオリゴマー;および(ii)医薬として許容される担体,を含有することを特徴とする,bcl-2タンパクを高レベルで発現している癌治療用医薬組成物。」(以下,「本願発明」という。) 2.引用刊行物及びその記載事項 これに対して,原査定の理由に引用され,本願優先権主張日前に頒布されたことが明らかな刊行物A及びBには,以下のことが記載されている。(訳文で記載する) 刊行物A:Antisense Research and Development, 1993, Vol.3, No.2, p.157-169 (原審で引用された引用文献2) 刊行物B:CHEMICAL REVIEWS, 1990, Vol.90, No.4, p.544-584 (原審で引用された引用文献6) 2-1.刊行物Aの記載事項 (A-1)158頁6?13行 「26kD Bcl-2タンパク質は,そのシーケンス,亜細胞性という存在場所及び機能において,現在まで記述されるがん遺伝子の中でユニークである。具体的には,この細胞内の内在性膜タンパク質は,…主に細胞増殖率を速めることによるよりは,むしろ細胞寿命を長くすることにより腫瘍細胞増殖に寄与する…。p26-Bcl-2が細胞生残を促進する生化学メカニズムは謎のままであるが,それはプログラムされた細胞死の抑制を含んでいる(「アポトーシス」とも呼ばれる)…。」 (A-2)158頁下から13行?末行 「細胞寿命の調整物質としての,その機能,及び,薬剤耐性でのその潜在的役割に基づいて,BCL-2遺伝子は,ガンの治療を改善するためにデザインされた新しい治療戦略の理想的な目標を表現する。…BCL-2 mRNAの翻訳開始部位にまたがるリン酸ジエステル又はホスホロチオエートの20量体によるプレB細胞白血病細胞系のイン・ビトロでの処置は,配列特異的な細胞増殖の抑制と細胞生存能力の喪失を引き起こすことも示した(Reedら,1990b)。…我々は,無細胞系のBcl-2タンパク質合成,及び,t(14;18)を含むリンパ腫細胞系のBcl-2タンパク質レベルについての,それらの影響に関して研究されたリン酸ジエステル・オリゴマーの実験結果をここで記述する。」 (A-3)159頁2?5行 「オリゴヌクレオチドの調製 本研究で使った基本的なオリゴマーは18-merであって,配列5’-TCTCCCAGCGTGCGCCAT-3’(ヒトbcl-2のオープンリーディングフレームの最初の6つのコドンに対するアンチセンス)または・・・(コントロールとして使ったスクランブルバージョン)である。」 (A-4)162頁21?34行 「ASオリゴマーがt(14:18)を持つリンパ腫細胞株でBcl-2タンパクレベルの減少を起こすこと BCL-2AS技術の最終目標は,BCL-2遺伝子をもつがん患者の治療への適用である。この理由から,我々は,BCL-2を含むt(14;18)転座をもつリンパ腫細胞系であるSU-DHL-4細胞に対する,AS及びSCオリゴマーの効果を試験した(Epsteinら,1984)。この細胞系の BCL-2 mRNA標的は,その全てが長さ>5kbpである,いろいろなBCL-2,BCL-2/免疫グロブリン,融合mRNAを誘導する。3日間SU-DHL-4細胞の培養液に加えられたとき,ASオリゴマーは,200μMの濃度で生じる84-95%の阻害(n=3)という,p26-Bcl-2の相対的レベルの濃度依存的な減少をもたらした(図3)。これに対して,対照SCオリゴマーは,これらのリンパ腫細胞でBcl-2タンパク質レベルに影響を及ぼさなかった(図3)。また,対照ミトコンドリア・タンパク質12-kDチトクロムc及び50kD F1-β-ATPアーゼのレベルが相対的に不変だった(Fig.3Bと図示せず)ので,ASオリゴマーの効果は特異的であった。」 2-2.刊行物Bの記載事項 刊行物Bは「アンチセンス核酸:新しい治療原理」と題する文献であって,アンチセンスを治療に応用するための基本的事項を解説したものであり,以下の事項が記載されている。 (B-1)[pp.565右欄下から24行?下から3行] 「アンチセンス・オリゴヌクレオチドによって満たされるべきもう一つの大きな必要性は,分析試験条件下及びで治療的使用に引き続く生体内の両方のにおけるそれらの安定性である。天然核酸が,血清中及び細胞中で分解代謝を受けることが長く知られていた。たとえば,細胞中のmRNAの安定性は,対応するタンパク質の発現の程度を決定する重要な要因である。真核細胞中で内因的に発生するオリゴヌクレオチドでさえ,急速破壊の影響を受ける。核酸(DNA,RNA)及びヌクレアーゼ(デオキシリボヌクレアーゼ,リボヌクレアーゼ)の分解を担う酵素は,それらの特異性により異なる。最も重要な関連は,二本鎖及び一本鎖(エキソ及びエンドヌクレアーゼ)に特異的なヌクレアーゼ及び高度に特異的な制限エンドヌクレアーゼである。一本鎖を分解するヌクレアーゼ,特にエキソヌクレアーゼは,アンチセンス・オリゴヌクレオチドとの関係で重要である:修飾されていないオリゴヌクレオチドは,子牛血清中で2,3時間以内に分解する。最適条件下では,酵素による解裂は,わずか15分後に完全となることもある。」 (B-2)[pp.566左欄下から4行?末行] 「要約すると,天然のリン酸ジエステル架橋をもつオリゴヌクレオチドがイン・ビボ研究に不向きであって,修飾によってヌクレアーゼに対して安定化される必要があるということができる。」 (B-3)[pp.566右欄1?12行] 「2. ヌクレオ溶解的分解に対するオリゴヌクレオチドの安定化 安定化への明らかなアプローチはリン酸エステル中心,それはヌクレオ溶解的攻撃が起こる場所であるが,そこを修飾することである。外見上のわずかな変化は,O原子をS原子と取り替えることである。De ClercqとEcksteinは,かなり昔に,ヌクレオ溶解的破壊に対する増強された抵抗性を示す,ホスホロチオエート・ポリヌクレオチドについて記述した。多数の出版物で,Ecksteinは,このクラスの化合物の生化学処理及び実用的用途を調査するための道具として,ヌクレオチドのホスホロチオエート類似体を報告した。ホスホロチオエートは,RNA及び2'-5'架橋されたオリゴアデニレートに関する研究のためにも使われた。」 (B-4)[pp.567左欄19?30行] 「エキソヌクレアーゼに対する同様な安定化は,2つの連続した,保護されたヌクレオチド間の架橋を一体化させることによって成し遂げることができる。ステックらは,2つの連続したホスホロチオエート残基を持つオリゴヌクレオチドが,ヘビ毒ホスホジエステラーゼによって解裂せずに残ることを報告した。3',5'末端ホスホロチオエートによって同様に保護されている15-量体のオリゴヌクレオチドは,50%のヒト血清中で1ヵ月以上の半減期をもつのに対して,通常の15-量体は2?3日である。これは,末端修飾されたオリゴヌクレオチドが血清中の対応する全ホスホロチオエート体とほとんど同じくらい安定であることを意味する。」 3.対比 刊行物Aには,以下のことが記載されている。 (1)bcl-2が腫瘍細胞拡大に寄与していること(A-1) (2)その遺伝子はガン治療のための新しい治療戦略の理想的な目標となること(A-2) (3)配列5’-TCTCCCAGCGTGCGCCAT-3’を使用したアンチセンス技術であること(A-3) (4)bcl-2遺伝子が関与するガン患者の治療に適用することを最終目標として実験を行った結果,リンパ腫細胞系でのbcl-2タンパク質の減少が引き起こされたこと(A-4) これらのことから,刊行物Aには, 「配列5’-TCTCCCAGCGTGCGCCAT-3’を使用したアンチセンス技術は,リンパ腫細胞系でのbcl-2タンパク質の減少を引き起こし,bcl-2遺伝子が関与するガン患者の治療にも有効であること。」(以下,「引用発明」という。)が示されているものと理解される。 これに対して,本願発明で用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドの配列については,請求項1に「TCTCCCAGCGTGCGCCAT(配列番号17)」とのみ記載されていて,5’側および3’側が表示されていない。しかしながら,本願明細書【0061】には, 「使用した基本的オリゴマーは18-merで,以下のいずれかの配列を有するものである: I.TCTCCCAGCGTGCGCCAT(配列番号17),これはヒトbcl-2オープンリーディングフレーム(配列番号19)の最初の6つのコドンのアンチセンスである;…」と記載され,また引用発明における配列も「ヒトbcl-2のオープンリーディングフレームの最初の6つのコドンに対するアンチセンス」(A-3)であることが記載されているから,両者はともに「ヒトbcl-2のオープンリーディングフレームの最初の6つのコドンに対するアンチセンス」である上,さらに,請求項1に特定された配列の左側を5’側とすれば,引用発明に係る配列と完全に一致するから,両者は同一の配列であると解される。 そうすると,本願発明と引用発明とは,いずれも「配列5’-TCTCCCAGCGTGCGCCAT-3’(配列番号17)を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドからなるアンチコードオリゴマーを,bcl-2タンパクを高レベルで発現している癌治療に用いる」点で一致し,次の点で相違する。 <相違点1> 本願発明は,アンチセンスオリゴヌクレオチド配列中の少なくとも1個のヌクレオシド間結合がフォスフォロチオエート結合であるのに対し,引用発明は,アンチセンスオリゴヌクレオチド配列中にフォスフォロチオエート結合を有さない点 <相違点2> 本願発明は,医薬として許容される担体を含有する医薬組成物であるのに対し,引用発明はそのようなことが明記されていない点。 4.当審の判断 上記相違点について検討する。 (4-1)相違点1についての検討 アンチセンスを治療に応用するための基本的事項を解説した文献である刊行物Bには, (1)アンチセンスオリゴヌクレオチドを適用する際には,ヌクレアーゼ,特に,エキソヌクレアーゼによる分解が問題となること(B-1), (2)アンチセンスをイン・ビボで用いるには化学修飾により安定化されている必要であること(B-2), (3)このような修飾の典型例としてフォスフォロチオエート化が例示されていること(B-3),及び, (4)フォスフォロチオエート化を用いてオリゴヌクレオチドを分解防止するに際して,末端部位が修飾されていれば,全体がフォスフォロチオエート化されたものと同等の効果が得られること(B-4), が記載されている。 これら刊行物Bの記載から,当業者が,刊行物Aの記載を基に,アンチセンス技術を実際にイン・ビボにおいて適用しようとする際に,フォスフォロチオエート結合を導入したヌクレオチドを使用する必要があると考え,刊行物Bに記載のフォスフォロチオエート化技術を適用したヌクレオチドを使用することは,ごく自然になし得ることといえる。 なお,刊行物Aにも,従来技術に関する記述であってしかもイン・ビトロに関するものであるものの,「BCL-2 mRNAの翻訳開始部位にまたがる…ホスホロチオエートの20量体によるプレB細胞白血病細胞系のイン・ビトロでの処置は,配列特異的な細胞増殖の抑制と細胞生存能力の喪失を引き起こすことも示した…。」とフォスフォロチオエートについての記述がなされていることから,このようなことをも考慮すると,当業者が,刊行物Aの記載を基に,実際にイン・ビボでアンチセンス技術の応用を試みる際には,フォスフォロチオエート化ヌクレオチドの使用に考えが及ぶことは,さらに容易なことということができる。 そうすると,引用発明で用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドの配列中のヌクレオシド間結合に,少なくとも1個のフォスフォロチオエート結合を導入することは,当業者が容易に想到し得ることである。 (4-2)相違点2についての検討 上記3.で引用発明を認定したように,刊行物Aには,そこに記載のオリゴヌクレオチドについての,bcl-2が関与するガン患者の治療に対する効果が示唆されているのであるから,該ヌクレオチドを医薬として使用することは,当業者が当然に考えることであるし,そして,通常医薬とする場合には,有効成分の他に何らかの医薬として許容される担体は使用するものであるから,引用発明に係るオリゴヌクレオチドを治療に用いるにあたり,医薬として許容される担体を配合して医薬組成物とすることは当業者が容易になし得ることである。 そして,本願明細書の記載を見ても,本願発明により当業者が予期し得ない効果が奏されたものとすることができない。 なお,本出願の原々出願(特願平7-509927号;以下,「原出願」という。)については,拒絶の審決が,その取消の訴えが提起されることなく,既に確定しているが,その請求項1に係る発明(以下,「原発明」という。)は,次のとおりのものである。 「【請求項1】配列TCTCCCAGCGTGCGCCAT(配列番号17,当該配列中の少なくとも1個の3’側の内部ヌクレオシド結合がフォスフォロチオエート結合である)を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドからなるアンチコードオリゴマーを含有する,bcl-2タンパクを高レベルで発現している癌治療用医薬組成物。」 この原発明は,本願発明とは,以下の点で相違するに過ぎないものである。 (1)フォスフォロチオエート結合の位置が,本願発明では特定されていないのに対して,原発明では少なくとも3’側のヌクレオシド結合と特定されていること。 (2)本願発明では「(ii)医薬として許容される担体」が医薬組成物を構成する必須成分として規定されているのに対して,原発明では必須の成分とはされていないこと。 そして,原出願に係る審決では,原発明について特許法第29条第2項に規定する要件に該当する(すなわち,進歩性がない)と判断したものであるが,上記(1)については,本願発明の方が,原発明よりもむしろより上位概念の規定となっているし,また,上記(2)については,当業者に周知事項といえるものであるから,両事項とも,原発明についての進歩性を否定した原出願に係る審決の判断に影響を与えるべき構成要件の差異であるとはいえないものであり,また,他に原出願に係る審決の結論を見直すべき特段の事情も見当たらない。 したがって,このような観点からも,本願発明が特許されるべき理由を見出すことができないものである。 5.むすび 以上のとおり,本願請求項1に係る発明は,刊行物A及びBに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その他の請求項に係る発明について検討するものでもなく,本出願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 以上 |
審理終結日 | 2010-12-08 |
結審通知日 | 2010-12-14 |
審決日 | 2010-12-27 |
出願番号 | 特願2006-111545(P2006-111545) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 伊藤 清子 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
上條 のぶよ 川上 美秀 |
発明の名称 | bcl-2遺伝子発現の調節 |
復代理人 | 井上 由香 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 有賀 三幸 |
代理人 | 小林 純子 |
代理人 | 村田 正樹 |
代理人 | 高野 登志雄 |