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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
管理番号 1237282
審判番号 不服2009-16346  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-04 
確定日 2011-05-19 
事件の表示 特願2003-65921「転造ボールねじ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年9月30日出願公開、特開2004-270892〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年3月12日の出願であって、その請求項1?4に係る発明は特許を受けることができないとして、平成21年6月16日付けで拒絶査定がされたところ、平成21年9月4日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1?3に係る発明は、平成21年1月6日付け、及び平成22年6月16日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。なお、平成21年9月4日付けの手続補正は、当審において平成22年4月19日付けで決定をもって却下された。
「【請求項1】
ねじ軸およびナットの対向するボールねじ溝の転走面間にボールを介在させ、上記ねじ軸を転造品とした転造ボールねじにおいて、この転造ボールねじを車輪操舵装置用の転造ボールねじとし、上記ねじ軸は、転造、熱処理、およびスケール落としを順に行う工程で製造された素材に対して、上記転走面を仕上げ加工の施された仕上げ加工面としたものであり、上記仕上げ加工がスーパーフィニッシュ加工であり、上記ねじ軸の上記仕上げ加工面とされた転走面の転走方向のうねりを2μm以下としたことを特徴とする転造ボールねじ。」

2.本願の出願前に日本国内において頒布され、当審において平成22年4月19日付けで通知した拒絶理由に引用された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開2001-124173公報
(2)刊行物2:特開2000-176743号公報
(3)刊行物3:特開平6-143127号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「中空ボールねじ軸およびその製造方法」に関して、図面(特に、図2(B)を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「この発明は、軽量化の望まれる各種の用途、例えば電動パワーステアリング用ボールねじなどに適用される中空ボールねじ軸およびその製造方法に関する。」(第2頁第1欄第36?39行、段落【0001】参照)
(b)「各種の用途において、ボールねじの軽量化が望まれる。例えば、自動車部品である電動パワーステアリング装置用のボールねじでは、自動車全体の軽量化のために、できる限り軽量化を図ることが望まれる。ボールねじの軽量化を図る場合、中空のボールねじ軸が用いられることが多い。ボールねじ溝を精度良く加工する方法としては、研削加工による方法と、転造による方法とあり、生産性の面からは、転造加工の方が優れている。」(第2頁第1欄第41?49行、段落【0002】参照)
(c)「転造による塑性変形量が少なく、そのため後工程の熱処理工程での変形も少なくなり」(第2頁第2欄第49及び50行、段落【0008】参照)
(d)「図2(B)は、この実施形態にかかる中空ボールねじ軸の転造完了状態を示す。この中空ボールねじ軸1は、外周に螺旋状のボールねじ溝2が形成され、ボールねじ溝2と、ボールねじ溝2間のランド部3とが転造面4に形成されたものである。」(第3頁第4欄第21?25行、段落【0014】参照)
(e)「この構成のボールねじ軸1によると、ボールねじ溝2とランド部3との両方を転造面4としたため、ボールねじ溝2の内面およびランド部3の両方に高精度が得られる。また、転造によるため、研削に比べて生産性が良い。」(第4頁第5欄第37?41行、段落【0019】参照)
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
【引用発明】
中空ボールねじ軸1およびナットの対向するボールねじ溝2の転走面間にボールを介在させ、上記中空ボールねじ軸1を転造品とした中空ボールねじにおいて、この中空ボールねじを電動パワーステアリング装置用の中空ボールねじとした中空ボールねじ。

(刊行物2)
刊行物2には、「放電加工装置」に関して、図面(特に、図2を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(f)「この発明は放電加工装置、特に被加工品に放電する電極部あるいは被加工物の前後・左右・上下・回転の動作を制御する制御部に関するものである。」(第2頁第1欄第43?46行、段落【0001】参照)
(g)「図中、16は、X軸駆動用の送りネジで、ネジ軸17とナット18から構成されている。なお、通常の放電加工装置では、送りネジ16として、ボールネジが使用されていることが多い。」(第2頁第2欄第39?42行、段落【0008】参照)
(h)「送りネジ16のネジ軸17は、一般にネジ軸17を回転させながら転造や研削によって加工されるので、ネジ軸17の1回転ごとに周期的なうねりが、ネジ軸17の加工面に転写される。このうねりが、よろめき誤差となって現れる。加工の特性上、このうねりは送りネジ16のネジ軸17の1回転ごとに周期的に現れ、またどの1回転を選んでも再現性は高い。」(第4頁第6欄第5?12行、段落【0023】参照)

(刊行物3)
刊行物3には、「R状溝面の磁気研磨方法と装置及び磁性研磨材」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(i)「本発明は、被研磨物表面のR状にくぼんだ溝の内面、例えばラジアル玉軸受のボール転動面、あるいはR状にくぼんだねじ溝の内面、例えばボールねじのゴシックアーク溝やサーキュラアーク溝のボール転動面等を、磁気研磨する方法と装置及びこれに用いる磁性研磨材の改良に関する。」(第2頁第2欄第13?18行、段落【0001】参照)
(j)「ボールねじは、直線案内部によって支持されたテーブル等を駆動する機素として代表され、ねじ軸とナットとの間に鋼球又はセラミックス球を介してボールが転動しながら循環する構造となっている。各種機器装置の高品質化は、各種モーターとボールねじによる高精度位置決めとともに、その走行駆動抵抗の軽減やトルク変動の最小化、低騒音化が求められている。これらの対策として、ボールねじのボール転動面における、仕上げ面粗さの改善とリード方向うねりの軽減は非常に効果がある。」(第2頁第2欄第20?29行、段落【0002】参照)

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「中空ボールねじ軸1」は本願発明の「ねじ軸」に相当し、以下同様にして、「ボールねじ溝2」は「ボールねじ溝」に、「中空ボールねじ」は「転造ボールねじ」に、「電動パワーステアリング装置」は「車輪操舵装置」に、それぞれ相当するので、両者は下記の一致点、並びに相違点1及び2を有する。
<一致点>
ねじ軸およびナットの対向するボールねじ溝の転走面間にボールを介在させ、上記ねじ軸を転造品とした転造ボールねじにおいて、この転造ボールねじを車輪操舵装置用の転造ボールねじとした転造ボールねじ。
(相違点1)
上記ねじ軸に関し、本願発明は、「転造、熱処理、およびスケール落としを順に行う工程で製造された素材」からなるものであるのに対し、引用発明はそのような構成を具備していない点。
(相違点2)
本願発明は、「上記転走面を仕上げ加工の施された仕上げ加工面としたものであり、上記仕上げ加工がスーパーフィニッシュ加工であり、上記ねじ軸の上記仕上げ加工面とされた転走面の転走方向のうねりを2μm以下とした」のに対し、引用発明はそのような構成を具備していない点。
そこで、上記相違点1及び2について検討する。
(相違点1について)
ボールねじにおいて、ねじ軸を、転造、熱処理、およびスケール落としを順に行う工程で製造された素材からなるものとすることは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物1には、「転造による塑性変形量が少なく、そのため後工程の熱処理工程での変形も少なくなり」[上記摘記事項(c)参照]と記載されている。また、特開2000-51984号公報には、転造ボールねじに関し、「その後、通常の熱処理工程及び表面処理工程を経て製品となる。」[第3頁第4欄第8及び9行、段落【0012】参照]と記載されている。なお、審判請求人は、当審における拒絶理由に対する平成22年6月16日付けの意見書において、「引用刊行物1には、スケール落としにつき記載がありませんが、材質につき特に明記がないことから、鋼材と考えられ、鋼材の場合は、熱処理後のスケール落としは一般的に行われます。」[「(3)引用発明との対比」「(一致点)」の項参照]と述べている。)にすぎない。
してみれば、引用発明の転造ボールねじのねじ軸1に、従来周知の技術手段を適用して、転造、熱処理、およびスケール落としを順に行う工程で製造された素材からなるものとし、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともにボールねじに関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「送りネジ16のネジ軸17は、一般にネジ軸17を回転させながら転造や研削によって加工されるので、ネジ軸17の1回転ごとに周期的なうねりが、ネジ軸17の加工面に転写される。(中略)加工の特性上、このうねりは送りネジ16のネジ軸17の1回転ごとに周期的に現れ、またどの1回転を選んでも再現性は高い。」(上記摘記事項(h)参照)と記載されている。
また、引用発明及び刊行物3に記載された技術的事項は、ともにボールねじに関する技術分野に属するものであって、刊行物3には、「各種機器装置の高品質化は、各種モーターとボールねじによる高精度位置決めとともに、その走行駆動抵抗の軽減やトルク変動の最小化、低騒音化が求められている。これらの対策として、ボールねじのボール転動面における、仕上げ面粗さの改善とリード方向うねりの軽減は非常に効果がある。」(上記摘記事項(j)参照)と記載されている。
上記摘記事項からみて、刊行物2及び3には、転造によって加工されたボールねじには、加工の特性上、ボール転動面にうねりが周期的に現れ、このうねりがボールねじの振動や騒音の原因となっていることから、ボール転動面のうねりを軽減するという技術的課題が記載又は示唆されているといえる。
一方、ボールねじ軸の転走面を仕上げ加工の施された仕上げ加工面とすることは、従来周知の技術手段(例えば、特開平11-201257号公報には、「送りねじを、超仕上げ、バフ仕上げ、ラップ仕上げ、(中略)により表面仕上げ処理することができる。これにより、送りねじの表面の平滑性等の性状を一層好適なものとすることができる。」[第3頁第4欄第43行?第4頁第5欄第3行、段落【0017】参照]と記載されている。なお、超仕上げ加工はスーパーフィニッシュ加工とも呼ばれる[特開平5-84655号公報の第2頁第1欄第24?27行、段落【0002】を参照]。)にすぎない。
その際、上記刊行物2及び3に記載又は示唆された技術的事項に鑑みれば、ボール転動面のうねりを出来るだけ小さくするように、高い精度で仕上げ加工する(例えば、2μm以下とする)ことは、コスト等との兼ね合いを考慮して、当業者が必要に応じて適宜なし得る技術的事項にすぎない。
してみれば、引用発明における中空ボールねじ(転造ボールねじ)に、上記刊行物2及び3に記載又は示唆されたボールねじの振動や騒音の原因であるボール転動面のうねりを軽減するという技術的課題を解決するために、上記従来周知の技術手段を適用して、ボールねじ軸の転走面をスーパーフィニッシュ加工による仕上げ加工面とし、転走面の転走方向のうねりを2μm以下とすることにより、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

また、本願発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2及び3に記載された発明、並びに従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、当審における拒絶理由に対する平成22年6月16日付けの意見書において、「本願発明は、ねじ軸が、転造、熱処理、およびスケール落としを順に行う工程で製造された素材に対して、上記転走面を仕上げ加工の施された仕上げ加工面としたものであり、上記ねじ軸の上記仕上げ加工面とされた転走面の転走方向のうねりを2μm以下としたことを特徴とします。この『転走方向うねり』とは、熱処理時の変形やスケールの影響により発生する、1リード内の数回から数十回程度の周期のうねりを示します。
上記の『転造、熱処理、およびスケール落としを順に行う工程で製造された素材に対して、転造後に転走面にスーパーフィニッシュ加工が施された』、及び『転走方向うねりを2μm以下とした』という構成は、いずれの刊行物1?3にも開示がありません。
刊行物2,3には、うねりについての開示がありますが、いずれも、転造や研削などの加工によって生じる、ネジ軸の1回転ごとに周期的な『うねり』を課題としています。つまり、加工そのものによって生じる『うねり』の課題であるのに対し、本願は『熱処理時の変形やスケールの影響により発生する転走方向うねり』を課題としている点が異なります。また、その解決策は開示がなく、転造、熱処理、およびスケール落としを順に行う工程で製造される素材に対し、転造後にスーパーフィニッシュ加工の仕上げ加工をすることの記載や示唆はありません。」(「(1)意見の要点」の項を参照)と主張している。
しかしながら、上記(相違点1について)及び(相違点2について)において記載したように、ボールねじにおいて、ねじ軸を、転造、熱処理、およびスケール落としを順に行う工程で製造された素材からなるものとした場合には、この素材は、「熱処理時の変形やスケールの影響により発生する転走方向うねり」を包含していることは明らかであり、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明、及び従来周知の技術手段から当業者が容易に想到し得たものであるところ、審判請求人が主張する本願発明が奏する作用効果は、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の作用効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

4.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1?3に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の請求項2及び3に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-11 
結審通知日 2010-08-17 
審決日 2011-04-07 
出願番号 特願2003-65921(P2003-65921)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 勝司  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
大山 健
発明の名称 転造ボールねじ  
代理人 杉本 修司  
代理人 野田 雅士  

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