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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1237300
審判番号 不服2010-19160  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-25 
確定日 2011-05-19 
事件の表示 特願2000-194701「ソリッドゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月15日出願公開、特開2002- 11116〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年6月28日の出願であって、平成21年12月9日付けで手続補正がなされ、平成22年5月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月25日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、その請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成22年8月25日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成22年8月25日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成22年8月25日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするもので、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前に、

「コアとカバーとからなるツーピースソリッドゴルフボールにおいて、ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩がコアに配合され、かつ、コアにおいて基材ゴム100重量部に対しアクリル酸亜鉛25.3?29.6重量部が配合されているとともに、カバーの厚さが2.5mm以上、カバーのショアD硬度が59?62、[(コア表面部分のJIS-C硬度)-(コア中心部分のJIS-C硬度)]の値が8以上であることを特徴とするソリッドゴルフボール。」
とあったものを、

「コアとカバーとからなるツーピースソリッドゴルフボールにおいて、コアにおいて基材ゴム100重量部に対しペンタクロロチオフェノール又はその金属塩0.2?1.0重量部が配合され、かつ、コアにおいて基材ゴム100重量部に対しアクリル酸亜鉛25.3?29.6重量部が配合されているとともに、カバーの厚さが2.5mm以上、カバーのショアD硬度が59?62、[(コア表面部分のJIS-C硬度)-(コア中心部分のJIS-C硬度)]の値が8以上であることを特徴とするソリッドゴルフボール。」
とするものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)上記(1)の請求項1に係る本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「『コアに配合され』ている『ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩』」の配合量を、「『コアにおいて基材ゴム100重量部に対し』て『0.2?1.0重量部』」と限定するものである。

2 本件補正の目的
請求項1に係る本件補正は、上記1(2)のとおり、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定して、本件補正後の請求項1とするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記第2〔理由〕1(1)に本件補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(2)引用刊行物及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-206919号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような従来のソリッドゴルフボールの有する問題点を解決し、飛行性能や耐久性を損なわずに、良好な反発性能および打撃時のフィーリングを有するソリッドゴルフボールを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、コアに有機硫黄化合物および金属粉末を含有するゴム組成物を用いることにより、飛行性能や耐久性を損なうことなく、衝撃力を小さくして打撃時のフィーリングの良好な、反発性能に優れたソリッドゴルフボールが得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】即ち、本発明はコアと該コア上に形成されたカバーから成るソリッドゴルフボールであって、該コアが(i)基材ゴム100重量部、(ii)共架橋剤20?45重量部、(iii)有機過酸化物0.3?5重量部、(iv)有機硫黄化合物0.05?3重量部、および(v)金属粉末1?20重量部を含有するゴム組成物から成ることを特徴とするソリッドゴルフボールに関する。
【0009】本発明のソリッドゴルフボールの衝撃力は、従来のゴルフボールに比較して小さく、1,200?1,500kgf、好ましくは1,250?1,350kgfの範囲である。1,200kgfより小さいとゴルフボールが軟らかくなり過ぎ、1,500kgfを越えると硬過ぎる。更に、本発明のソリッドゴルフボールに用いられるコアの表面硬度と中心硬度の差がJIS-C硬度で12?25、好ましくは15?22である。コアの表面硬度と中心硬度の差が12より小さいと衝撃力が大きく、打撃時のフィーリングも悪くなり、25より大きいとコアの変形量が大きく、耐久性が悪くなる。
【0010】以下、本発明について更に詳述すると、本発明のソリッドゴルフボールに用いられるコアは、基材ゴム、共架橋剤、有機過酸化物、有機硫黄化合物、金属粉末、および必要に応じて充填材等を含有するゴム組成物を、通常のロール等の適宜の混練機を用いて混練し、所定の金型にて140?170℃、90?120kgf/cm^(2)で10?40分間加熱加圧成形することにより得られる。
【0011】基材ゴムとしては、従来からソリッドゴルフボールに用いられている天然ゴム、合成ゴムまたはそれらの混合物が用いられる。合成ゴムの例として、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が挙げられる。特にシス-1,4-結合少なくとも40%以上、好ましくは80%以上を有するいわゆるハイシスポリブタジエンゴムが好ましい。
【0012】共架橋剤として作用するα,β-不飽和カルボン酸の金属塩の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等のような炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸の、亜鉛、マグネシウム塩等の一価または二価の金属塩が挙げられるが、高い反発性を付与するアクリル酸亜鉛が好適である。配合量は基材ゴム100重量部に対して、20?45重量部、好ましくは26?38重量部である。45重量部より多いと硬くなり過ぎて打撃時フィーリングが悪くなり、20重量部未満では、適当な硬さにするために有機過酸化物の量を増加しなければならず反発が悪くなり飛距離が低下する。
【0013】有機過酸化物としては、例えばジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキサイド等が挙げられ、ジクミルパーオキサイドが好適である。配合量は基材ゴム100重量部に対して0.3?5.0重量部、好ましくは1.0?2.5重量部である。0.3重量部未満では軟らかくなり過ぎて反発が悪くなり飛距離が低下する。5.0重量部を越えると適切な硬さにするために共架橋剤の量を減少しなければならず反発が悪くなり飛距離が低下する。
【0014】本発明のソリッドゴルフボールの製造に用いられるゴム組成物には、上記のものに加えて有機硫黄化合物および金属粉末を配合する。有機硫黄化合物の配合により、軟らかくて反発性能の良好なゴルフボールを提供し、他の構成成分に比較して比重の大きな金属粉末の配合により、コア中のゴム分率が増加し、更に上記有機硫黄化合物の効果を助長し、軟らかくて打撃時のフィーリングの良好な、反発性能に優れたゴルフボールを得ることが可能となる。
【0015】本発明に用いられる有機硫黄化合物としては、硫黄数2?4のジフェニルポリスルフィド、ビス(4-メタクリロイルチオフェニル)スルフィド、4,4'-ジブロモジフェニルスルフィド、4,4'-チオジベンゼンチオール等が挙げられる。配合量は、基材ゴム100重量部に対して0.05?3.0重量部、好ましくは0.1?1.5重量部である。0.05重量部未満では配合量が少な過ぎて、有機硫黄化合物の効果が発揮できず、3.0重量部を越えても効果の向上はない。
【0016】金属粉末としては、例えばタングステン、モリブデン、チタンなどが挙げられるが、比重10以上を有するものが好ましい。配合量は、それぞれ基材ゴム100重量部に対して1?20重量部、好ましくは3?15重量部であることが好ましい。1重量部未満では金属粉末の効果が発揮できず、20重量部を越えても効果の向上はない。
【0017】更に本発明のゴルフボールのコアには、酸化亜鉛、老化防止剤、しゃく解剤、重量調整剤としての硫酸バリウム、その他ソリッドゴルフボールのコアの製造に通常使用し得る成分を適宜配合してもよい。
【0018】コアの外径は36.7?40.7mm、好ましくは37.7?40.1mmである。36.7mmより小さいと反発が低下し、40.7mmより大きいとカバーの成形が難しくなる。
【0019】本発明の場合、ソリッドコアは初荷重10kgをかけた状態から終荷重130kgをかけたときまでの圧縮変形量(コンプレッション)が2.7?4.5mm、好ましくは3.0?4.2mmである。2.7mmより小さいと硬過ぎて打撃時フィーリングが悪くなり、衝撃力も大きくなる。4.5mmより大きいと軟らか過ぎて反発性能が悪くなり、重い打撃時のフィーリングが重くなったり、打球感のないゴルフボールとなるため好ましくない。
【0020】本発明では、上記コア上にはカバーを被覆するが、単層構造はもとより、2層以上の多層構造のカバーであってもよく、この場合カバー材料としては熱可塑性樹脂、特にα-オレフィンと炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸の共重合体中のカルボン酸の一部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂、ポリエステル、ナイロン等またはその混合物が用いられる。上記熱可塑性樹脂中のα-オレフィンとしては、エチレン、プロピレンが好ましく、α,β-不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等が好ましい。更に、中和する金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、例えばNaイオン、Kイオン、Liイオン等;2価金属イオン、例えばZnイオン、Caイオン、Mgイオン等;3価金属イオン、例えばAlイオン等;およびそれらの混合物が挙げられるが、Naイオン、Znイオン、Liイオン等が反発性、耐久性等からよく用いられる。アイオノマー樹脂の具体例としては、それだけに限定されないが、サーリンAD8541、AD8542(デュポン社製)、ハイミラン1555、1557、1605、1652、1705、1706、1707、1855、1856(三井デュポンポリケミカル社製)、IOTEC 7010、8000(エクソン(Exxon)社製)等を例示することができる。
【0021】また、本発明において、上記カバー用組成物には、主成分としての上記樹脂の他に必要に応じて、硫酸バリウム等の充填材や二酸化チタン等の着色剤や、その他の添加剤、例えば分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤並びに蛍光材料または蛍光増白剤等を、ゴルフボールカバーによる所望の特性が損なわれない範囲で含有していてもよいが、通常、着色剤の配合量はカバー用樹脂100重量部に対して、0.1?5.0重量部が好ましい。
【0022】本発明のカバー層は、ゴルフボールのカバーの形成に使用されている一般に公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではない。カバー用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いてコアを包み、130?170℃で1?15分間加圧成形するか、または上記カバー用組成物を直接コア上に射出成形してコアを包み込む方法を用いてもよい。
【0023】カバーの厚さは1.0?3.0mm、好ましくは1.3?2.5mmである。1.0mmより小さいとボール全体の硬度が小さくなって反発係数が小さくなり、3.0mmより大きいとボール全体の硬度が大きくなってコントロール性と打撃時フィーリングが悪くなる。
【0024】また、本発明のカバーには、曲げ剛性率500?4,000kgf/cm^(2)を有する樹脂が用いられることが好ましい。曲げ剛性率500kgf/cm^(2)未満では軟らかくなり過ぎて飛距離が低下し、4,000kgf/cm^(2)を越えると硬くなり過ぎて打撃時フィーリングが悪くなる。また、ショアーD硬度は40?70、好ましくは50?68を有し、40より小さいと反発係数が小さくなり、70より大きいとコントロール性と打撃時フィーリングが悪くなる。
【0025】カバー成形時、必要に応じて、ディンプルと呼ばれるくぼみを多数表面上に形成する。本発明のゴルフボールは美観を高め、商品価値を上げるために、通常ペイント仕上げ、マーキングスタンプ等を施されて市場に投入される。
【0026】本発明では、上記配合組成で形成したコアを用い、かつコアの表面硬度と中心硬度の差およびゴルフボールの衝撃力を特定範囲に規定することにより、低硬度化し、打撃時フィーリングを向上させることができる。一方、このような低硬度化に伴う反発係数の低下が有機硫黄化合物および金属粉末の配合によって抑制されるので、低硬度でありながら良好な反発性能および飛行性能を維持するものである。」

イ 「【0027】
【実施例】本発明を実施例を挙げて更に具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。
【0028】ソリッドコアの作製
以下の表1に示した配合のコア用ゴム組成物を混練し、140?170℃で20分間、続いて165℃で5?10分間の加硫条件で金型内で加硫成形することにより直径39.0mmの球状ソリッドコアを得た。得られたコアの圧縮変形量、硬度(表面硬度、中心硬度および両者の差)および反発係数を測定し、その結果を同様の表1に示した。試験方法は後記の通り行った。但し、コアの中心硬度はコアを切断して測定した。
【0029】
【表1】

【0030】(実施例1?14および比較例1?7)以下の表2に示すカバー用配合物を二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のカバー用組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は押出機のダイ位置で220?260℃に加熱された。得られたカバー用組成物のショアーD硬度を表2に示した。ショアーD硬度は、上記カバー用組成物を厚さ約2mmの熱プレス成形シートとし、23℃で2週間保存後、ASTM D-747に準じて測定した。次いで、上記の得られたコア上に、このカバー用組成物を射出成形してカバー層を形成し、表面にペイントを塗装して、外径42.7mmを有するツーピースソリッドゴルフボールを得た。得られたゴルフボールの圧縮変形量、打撃時のフィーリング、反発係数、飛距離(キャリー)、耐久性および衝撃力を測定または評価し、その結果を以下の表3(実施例)および表4(比較例)に示した。試験方法は後記の通り行った。
【0031】
【表2】

【0032】(注3)三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸系アイオノマー樹脂
(注4)三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
(注5)三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
(注6)三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
(注7)三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
(注8)三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル三元共重合体系アイオノマー樹脂
(注9)三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル三元共重合体系アイオノマー樹脂
【0033】(試験方法)
[1]コア圧縮変形量(審決注:[1]は丸付き数字を意味する。以下同じ。)
コアに初期荷重10kgfを負荷した時の変形量を基準として、終荷重130kgfを負荷した時の圧縮変形量を測定した。
[2]コア反発係数
コアに198.4gの金属円筒物を40m/秒の速度で衝突させ衝突前後の円筒物およびボールの速度をR&A初速測定機で測定し、それぞれの速度および重量から算出し、コアIを100とした指数で示した。
[3]ボール圧縮変形量
コア同様、ボールに初期荷重10kgfを負荷した時の変形量を基準として、終荷重130kgfを負荷した時の圧縮変形量を測定した。
[4]打撃時フィーリング
プロやトップアマのゴルファー10人により実打し、打撃時のフィーリングに関してアンケートを行い、良いと答えた人数により下記の判定基準で評価した。
判定基準
〇 … 8?10人
△ … 4?7人
× … 0?3人
[5]ボール反発係数
R&A初速測定機により、ボールに198.4gの金属円筒物を45m/秒の速度で衝突させた時の衝突前後のボールおよび円筒物の速度を測定し、それぞれの速度および重量から算出した。
[6]飛距離
ツルーテンパー社製スイングロボットにウッド1番クラブ(ドライバー)を取付け、ゴルフボールをヘッドスピード45m/sで打撃し、キャリー(落下点までの飛距離)を測定した。
[7]耐久性
ツルーテンパー社製スイングロボットにウッド1番クラブ(ドライバー)を取付け、ゴルフボールをヘッドスピード45m/秒で打撃し、破壊が生じるまでの回数を調べた。その結果を、表5では比較例2の耐衝撃回数(破壊が生じるまでの回数)を100とした時の指数で示し、表6?8では比較例6の耐衝撃回数(破壊が生じるまでの回数)を100とした時の指数で示す。
[8]衝撃力
ツルーテンパー社製スイングロボットに、後部に加速度計を装着したウッド1番クラブ(ドライバー)を取付け、ゴルフボールをヘッドスピード45m/秒で打撃し、インパクト時のヘッドの進行方向に対して逆方向に生じる加速度を測定し、この加速度の最大値を、以下の式:
F(力)=m(ヘッド重量)×a(加速度)
に従ってヘッドが戻される力、即ち衝撃力に変換することによって求めた。
【0034】(試験結果)
【表3】

【0035】
【表4】…(略)…
【0036】表3?表4の結果より、コアに有機硫黄化合物(ジフェニルジスルフィド)および金属粉末(タングステン)を用いた本発明の実施例1?5のゴルフボールは、有機硫黄化合物および金属粉末を用いない比較例3および4のゴルフボールに比べて、飛距離や耐久性を損なうことなく、打撃時のフィーリングが非常に優れた結果となった。」

ウ 上記ア及びイから、引用例、特に実施例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「コア用ゴム組成物を加硫成形することにより得られた直径39.0mmのソリッドコア上にカバー層を形成してなる、外径42.7mmを有するツーピースソリッドゴルフボールであって、
前記コア用ゴム組成物は、基材ゴムとしてBR18(日本合成ゴム(株)製ハイシスポリブタジエン)100重量部、共架橋剤としてアクリル酸亜鉛26重量部、酸化亜鉛5重量部、金属粉末としてタングステン12.6重量部、有機硫黄化合物としてジフェニルジスルフィド0.5重量部、老化防止剤0.5重量部、有機過酸化物としてジクミルパーオキサイド2.0重量部を配合したものであり、
前記ソリッドコアの表面硬度(JIS-C)は77であり、前記ソリッドコアの中心硬度(JIS-C)は65であり、それらの硬度差(JIS-C)は12であり、
前記カバー層のショアーD硬度は63である、
ツーピースソリッドゴルフボール。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「ソリッドコア」、「カバー層」及び「『ソリッドコア上にカバー層を形成』してなる『ツーピースソリッドゴルフボール』」は、それぞれ、「コア」、「カバー」及び「コアとカバーとからなるツーピースソリッドゴルフボール」に相当する。

イ 引用発明のコア用ゴム組成物は、基材ゴムとしてBR18(日本合成ゴム(株)製ハイシスポリブタジエン)を100重量部、有機硫黄化合物としてジフェニルジスルフィドを0.5重量部含むものであるところ、ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩は有機硫黄化合物である(特開平4-109970号公報の3頁左下欄下から2行?最下行参照。)から、引用発明の「コア」と本願補正発明の「『基材ゴム100重量部に対しペンタクロロチオフェノール又はその金属塩0.2?1.0重量部が配合され』ている『コア』」とは、「基材ゴム100重量部に対し有機硫黄化合物0.2?1.0重量部が配合されている」ものである点で一致するといえる。

ウ 引用発明のコア用ゴム組成物は、基材ゴムとしてBR18(日本合成ゴム(株)製ハイシスポリブタジエン)を100重量部、共架橋剤としてアクリル酸亜鉛を26重量部含むものであるから、引用発明の「コア」と本願補正発明の「コア」とは、「基材ゴム100重量部に対しアクリル酸亜鉛25.3?29.6重量部が配合されている」ものである点でも一致する。

エ 引用発明のゴルフボールは、「コア(ソリッドコア)」の表面硬度(JIS-C)が77であり、前記「コア」の中心硬度(JIS-C)が65であり、それらの硬度差(JIS-C)が12であるものであるから、引用発明の「ゴルフボール」と本願補正発明の「ゴルフボール」とは、「[(コア表面部分のJIS-C硬度)-(コア中心部分のJIS-C硬度)]の値が8以上」のものである点で一致する。

オ 上記アないしエから、本願補正発明と引用発明とは、
「コアとカバーとからなるツーピースソリッドゴルフボールにおいて、コアにおいて基材ゴム100重量部に対し有機硫黄化合物0.2?1.0重量部が配合され、かつ、コアにおいて基材ゴム100重量部に対しアクリル酸亜鉛25.3?29.6重量部が配合されているとともに、[(コア表面部分のJIS-C硬度)-(コア中心部分のJIS-C硬度)]の値が8以上であるソリッドゴルフボール。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記有機硫黄化合物が、本願補正発明では、「ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」であるのに対して、引用発明では、「ジフェニルジスルフィド」である点。

相違点2:
本願補正発明では、前記カバーの厚みが「2.5mm以上」であり、前記カバーのショアD硬度が「59?62」であるのに対して、引用発明では、ソリッドコアの直径が39.0mmであり、ゴルフボールの外径が42.7mmであるから、カバーの厚みは、
(42.7-39.0)/2=1.85(mm)
であり、前記カバーのショアD硬度は63である点。

(4)判断
上記相違点1及び2について検討する。
ア 相違点1について
(ア)引用例の「本発明に用いられる有機硫黄化合物としては、硫黄数2?4のジフェニルポリスルフィド、ビス(4-メタクリロイルチオフェニル)スルフィド、4,4'-ジブロモジフェニルスルフィド、4,4'-チオジベンゼンチオール等が挙げられる。配合量は、基材ゴム100重量部に対して0.05?3.0重量部、好ましくは0.1?1.5重量部である。0.05重量部未満では配合量が少な過ぎて、有機硫黄化合物の効果が発揮できず、3.0重量部を越えても効果の向上はない。」(上記(2)ア【0015】参照。)との記載からも明らかなように、ソリッドコア用ゴム組成物に配合する有機硫黄化合物として具体的に何を用いるかは、当業者が適宜決定すべき設計事項というべきである。

(イ)有機硫黄化合物としてペンタクロロチオフェノール又はその金属塩を用いてなるソリッドコア用ゴム組成物は、本願の出願前に周知である(以下「周知技術」という。例.上記特開平4-109970号公報特に3頁左下欄下から6行?3頁右上欄13行、特開平2-297384号公報特に2頁右上欄1行?3頁左上欄4行、特開平6-319831号公報特に【0015】、特開平6-327794号公報特に【0016】、特開平9-56849号公報特に【0028】、特開平9-28831号公報特に【0015】及び【0017】参照。)。

(ウ)上記(ア)及び(イ)から、引用発明において、有機硫黄化合物として、「ジフェニルジスルフィド」に代えてペンタクロロチオフェノール又はその金属塩を用い、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて適宜なし得た設計上のことである。

イ 相違点2について
引用例の「【0023】カバーの厚さは1.0?3.0mm、好ましくは1.3?2.5mmである。1.0mmより小さいとボール全体の硬度が小さくなって反発係数が小さくなり、3.0mmより大きいとボール全体の硬度が大きくなってコントロール性と打撃時フィーリングが悪くなる。
【0024】また、本発明のカバーには、…(略)…ショアーD硬度は40?70、好ましくは50?68を有し、40より小さいと反発係数が小さくなり、70より大きいとコントロール性と打撃時フィーリングが悪くなる。」(上記(2)ア参照。)との記載からも明らかなように、ゴルフボールのカバーの厚み及びそのショアD硬度の具体的数値は、いずれも当業者が、ゴルファーから求められる反発係数、コントロール性及び打撃時フィーリング等に応じて適宜決定すべき設計事項というべきものであるから、引用発明において、カバーの厚さを2.5mm以上、カバーのショアD硬度を59?62とし、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が引用例に記載された事項に基づいて適宜なし得た設計上のことである。

ウ 効果について
本願補正発明の奏する効果は、当業者が、引用発明の奏する効果、周知技術の奏する効果及び引用例に記載された事項から予測できた程度のものである。

エ まとめ
したがって、本願補正発明は、当業者が、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、旧特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成21年12月9日付け手続補正により補正された明細書の記載からみて、明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5にそれぞれ記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記第2〔理由〕3(2)に記載したとおりのものである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2〔理由〕3で検討した本願補正発明において、その発明特定事項である「ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」の「コア」における配合量の限定を省いたものである(上記第2〔理由〕1(2)参照。)。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2〔理由〕3に記載したとおり、当業者が、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-15 
結審通知日 2011-03-22 
審決日 2011-04-04 
出願番号 特願2000-194701(P2000-194701)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
P 1 8・ 575- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 薄井 義明  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 ソリッドゴルフボール  
代理人 伊藤 高英  
代理人 中尾 俊輔  
代理人 鈴木 健之  
代理人 大倉 奈緒子  
代理人 畑中 芳実  
代理人 玉利 房枝  

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