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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20092993 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B02C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B02C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B02C
管理番号 1237326
審判番号 不服2008-31597  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-12 
確定日 2011-05-17 
事件の表示 特願2003-508483「薬剤活性化方法およびそのための振動ミル」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月 9日国際公開、WO03/02258、平成16年10月 7日国内公表、特表2004-530557〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2002年6月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年6月29日、アイルランド共和国)を国際出願日とする出願であって、平成15年12月25日付けで特許法第184条の5第1項に規定する書面が提出されるとともに同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、及び要約の翻訳文、並びに同法第184条の8第1項に規定する条約第34条に基づく補正の翻訳文が提出され、平成20年2月22日付けで拒絶理由が通知され、平成20年6月25日付けで意見書が提出されたが、平成20年9月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年12月12日付けで拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において、平成22年4月23日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成22年10月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 平成22年4月23日付けで通知した当審による拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の抜粋

以下、当審拒絶理由に引用された、特表平11-503749号公報を「引用文献1」、特許第2823170号公報を「引用文献2」、佐々木徳康・村上和光、振動ミルによる微粉砕-振幅,振動数の影響-、粉体工学会誌、日本、1985.06.発行、Vol.22 No.6(1985)、p.342ないし345を「引用文献3」という。

「理由1
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

理由2
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由3
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由4
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

1.理由1について
(1)薬剤の活性化(ナノ結晶および/または非晶質化)の仕組みが不明である(特に、以下に列挙する点)。

(1-1)活性化(ナノ結晶および/または非晶質化)は、薬剤に生じるのか、担体に生じるのかが不明であり(なお、段落【0005】には、担体に生じる旨の記載があり、段落【0030】には、薬剤に生じる旨の記載がある。)、このために、「最終同時粉砕合成物」(「薬剤/担体合成物」)がどのような状態のものなのかが不明である。
また、表1として、「非晶質」等の割合及び比表面積が記載されているが、該割合及び比表面積のそれぞれが、薬剤のみの数値か、担体のみの数値か、最終同時粉砕合成物全体の数値か、いずれであるのかが不明である。
…(中略)…

(1-2)段落【0011】及び【0012】には、同時粉砕によって、薬剤の粒径は削減されるが、最終同時粉砕合成物(薬剤/担体合成物)の粒径は削減されないことが記載され、段落【0022】等には、同様のことが示唆されている。
ここで、段落【0032】にも記載されているように、粉末の粒径は比表面積で表すことが通常であり、上記段落【0011】及び【0012】の記載は、同時粉砕によって、薬剤の比表面積が増大(薬剤の粒径が削減)しても、最終同時粉砕合成物の比表面積は増大しない(最終同時粉砕合成物の粒径は削減されない)ということを意味する。
しかしながら、薬剤の比表面積が増大した場合、薬剤を含む最終同時粉砕合成物の比表面積も増大することが通常であるところ、薬剤を含む最終同時粉砕合成物の比表面積が増大しないというのは、同時粉砕によってどのような現象が発生しているのかが不明である。

(1-3)同時粉砕によって、薬剤のナノ結晶および/または非晶質が増加する原理が不明である。
上記(1-2)に示すような、薬剤の粒径が削減されることにより、ナノ結晶と非晶質とが増加するという理解でよいか。

(2)本願明細書(特に、段落【0018】、【0019】、【0023】、【0024】を参照。)には、任意の薬剤と、担体としてグリコール酸でんぷんナトリウム(SSG)とを高エネルギー同時粉砕して薬剤の溶解性を改善すること、振動ミルを振動数200?4500rpm、振幅3mm?15mmで駆動することによって、薬剤がアモルファス形態に変化することが記載されている。
一方、特表平11-503749号公報(下記引用文献1)には、本願と同じ薬剤及び担体(任意の薬剤と、デンプングリコール酸ナトリウム)を同時に高エネルギー粉砕して難溶性の薬剤を可溶性とすること、振動粉砕ミルを本願と同じ振動数及び振幅(回転数400?1800rpm、垂直振幅8分の1?8分の7インチ(3.2?22.2mm))に設定して駆動することによって、薬剤がアモルファス形態に変化しないことが記載されている。
このように、本願と引用文献1とは、生成物が異なることから、材料又は製造方法が相違すると考えられるが、本願明細書には、上記のように引用文献1と同様の材料及び製造方法が開示されており、引用文献1との具体的な相違が認められない。よって、本願明細書の記載のみからでは薬剤がアモルファス形態に変化しない場合も考えられるため、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がなされているとはいえない。

(3)明細書中において、薬剤の「活性化度」という用語が用いられているが、これがどのような指標であるのかが不明である(活性化の進行速度や、粉砕完了後の最終的な非晶質の割合等が考えられるが、明細書の記載からでは特定できない。なお、「活性化度」が粉砕完了後の最終的な非晶質等の割合を示すとした場合、明細書中の実施例には、粉砕完了前の4時間経過時点までのデータが記載されているのみであり、最終的な割合は記載されていない。)。


2.理由2について

…(中略)…

(2)請求項1に記載の「所望度の活性化」がどのような指標であるのかが不明である(活性化の進行速度や、粉砕完了後の最終的な非晶質の割合等が考えられるが、明細書の記載からでは特定できない。)。

…(中略)…

3.理由3について
(1)請求項1には、薬剤及び医薬担体の種類が特定されていないので、任意の薬剤及び医薬担体の組み合わせが含まれており、また、明細書の段落【0023】及び【0024】には、担体及び薬剤の種類が多数列挙されている。他方で、実施例としては、担体としてニメスリド、薬剤としてβ-シクロデキシトリンを用いるものが開示されているのみである。
ここで、振動ミルを用いて微粉末状にまで粉砕する場合に、生成される粒径と、振動数及び振幅との関係は、被粉砕物の物性によって変化することが技術常識であり、被粉砕物の物性によっては、振幅一定でも粒径が変化する場合や、振動数一定でも振幅によって活性化の進行速度が変化する場合等が、当然に想定される。
よって、一個の実施例のみで実証された関係が、任意の薬剤及び医薬担体の組み合わせにまで拡張されるとは認められず、請求項1は、明細書に記載した範囲を超えて特許を請求している。
また、上記1.(2)でも示したように、請求項1には、本願発明の課題を達成し得ないような組合せも含まれている。

(2)明細書の記載によると、本願発明の課題は、粗い粒径の高活性化合成物(最終同時粉砕化合物)でも、所望の活性化を得ることにある。
しかしながら、請求項1の「-所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」等の記載は、明細書に記載された上記課題と対応していない。
また、明細書には、振動ミルを駆動するに際して「振動数を変化させる」こと(振動ミルの駆動中に振動数を変化させること)は開示されていない。

(3)上記(2)に加え、上記1.(2)と同様の理由により、本願発明の課題を達成するために必要な事項が、請求項1で特定されていない。

…(中略)…

4.理由4について
・請求項 1
・引用文献等 1?3
・備考
引用文献1(特に、第5、6、8、9、14ページを参照。)には、薬剤と支持剤とを同時に高エネルギー粉砕して難溶性の薬剤を可溶性とする方法であって、回転数400?1800rpm、垂直振幅を3.2?22.2mm(8分の1?8分の7インチ)に設定した振動粉砕ミルを用いて粉砕する方法が記載されている。
引用文献1記載の発明における「支持剤」、「振動粉砕ミル」、「回転数」、「垂直振幅」は、それぞれ、請求項1に係る発明における「医薬担体」、「振動ミル」、「振動数」、「振幅」に相当する。また、引用文献1記載の発明において、難溶性の薬剤が可溶性に変化することは、請求項1に係る発明における「活性化」に相当する。

引用文献2(特に、第5欄第18?40行、第7欄第27行?第8欄第5行を参照。)には、薬剤と担体物質とを共粉砕することによって非晶化し可溶化速度を高める方法であって、高振動ミルで共粉砕を行う、方法が記載されている。
引用文献2記載の発明における「担体物質」、「共粉砕」、「高振動ミル」は、それぞれ、請求項1に係る発明における「医薬担体」、「同時粉砕」、「振動ミル」に相当する。また、引用文献2記載の発明において、非晶化し可溶化速度を高めることは、請求項1に係る発明における「活性化」に相当する。

請求項1に係る発明と引用文献1、2記載の発明とを対比すると、両者は、
「薬剤を医薬担体と同時粉砕することによって該薬剤を活性化するための方法であって、
該同時粉砕が振動ミルで実行される、
方法。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点
請求項1に係る発明は、振動ミルが「振動数を調整するように設計された手段」を備え、「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」のに対し、引用文献1、2記載の発明では、これらの点について明らかでない点。

該相違点について検討する。
振動数及び振幅を所望の値に設定可能な振動ミルは周知(例えば引用文献3を参照。)であり、振動ミルの振動数を変化させたり、振幅を所望の値に保って粉砕を行うことは、該周知の振動ミルで可能である。また、活性化の程度は、振動数、振幅、及び時間を適宜に設定することによって変化することは、当業者にとって明らかである。
したがって、引用文献1、2記載の発明に基づいて、該相違点に係る請求項1に係る発明の発明特定事項とすることは、設計上適宜に決定する程度のことである(請求項1の記載では、特定の振動数と特定の振幅に設定して粉砕を行うことが特定されるのみである。)。

なお、請求項1の記載からは明らかではないが、明細書によると、本願の課題は、振動ミルの振動数を変化させて活性化度を変化させながら、振幅を一定にして薬剤/担体合成物の比表面積(粒径)を一定にすることにあると認められる。
また、本願実施例の表1を参酌すると、工程開始時と1時間経過時との間で比表面積SSAは増加しているが、1時間経過後は比表面積はほぼ一定で、非晶質の割合が増加している。このことから、1時間経過時点で振動ミルの限界比表面積(限界粒径)近傍までの粉砕が既に終了しており、その後も非晶質化が進行していると認められる。よって、請求項1に記載の「-所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」ことは、振動ミルの限界比表面積(限界粒径)の近傍に達した後の性質を述べたものであるといえる。
仮に、請求項1に係る発明がこのような性質を特定したものであったとして、特許を受けることができるかどうかを念のために検討する。
引用文献3の第12ページ左欄第5?7行及びFig.6の記載から、振動ミルにおいて、振幅が大きいほど限界比表面積が大きくなる(粒径が小さくなる)ことが分かる。また、引用文献3の第12ページ右欄第4行?第13ページ右欄第8行の記載から、限界比表面積は、振幅によって大きく変化するが、振動数によってはあまり変化しない傾向にあることが分かる。
振動ミルのこのような性質を考慮すると、引用文献1、2記載の発明において、所定の限界比表面積とするために、振幅を一定に制御することは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

…(中略)…

引 用 文 献 等 一 覧
1.特表平11-503749号公報
2.特許第2823170号公報
3.佐々木徳康・村上和光、振動ミルによる微粉砕-振幅,振動数の影響-、粉体工学会誌、日本、1985.06.発行、Vol.22 No.6(1985)、p.342?345

…(後略)…」


第3 平成22年10月26日付けの手続補正書による補正後の明細書及び特許請求の範囲の抜粋

a 「【請求項1】
薬剤を医薬担体と共粉砕することによって該薬剤を活性化するための方法であって、
-該共粉砕が振動数を調整するように設計された手段を備えた振動ミルで実行され;
-所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる、
ことを特徴とする前記方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

b 「【0010】
それでもやはり、場合によっては、薬剤-担体合成物の最終粒径の大規模な削減を回避しながら高活性化薬剤を得ることが望ましく;これは過度に微細な造粒は、製剤が調製される場合に物質を加工するのが困難となりうるためである。別の場合では、最大の熱力学的活性化(活性化安定期)が達成されている場合、薬剤の完全性を損なうことなく(ミルの温度および薬剤および/または担体の劣化を増大させることなく)合成物の粒径をさらに削減することが望ましいとみられる。これらの効果および薬剤は、上記の分析された工程特性の点から見て従来の同時粉砕工程によって得ることはできない。したがって、制御された粒径および薬剤の活性化度を有する製剤を生成し、特にこれら2つのパラメータを独立して制御することが可能なより選択的な同時粉砕工程に対する未だ対処されていないニーズがある。
…(後略)…」(段落【0010】)

c 「【0011】
本発明は、同時粉砕工程において、ミルに課した振動数(適時の振動の数)が振動の振幅(振動の延長)を変化させることなく変更される場合は、薬剤の活性化度は課した振動数に応じて増大するが、同時粉砕の最終生成物(薬剤/担体合成物)の粒径は実質的に無変化のままであるという所見にもとづく。
【0012】
異なる振動数を同じ振幅でかけることにより、薬剤の粒径は、最終同時粉砕合成物の粒径を削減することなく、削減されることが可能であり;したがって現在、従来の同時粉砕で可能であったものよりもはるかに広範囲の合成物の活性化度および粒径の組合せを得ることが可能である。」(段落【0011】及び【0012】)

d 「【0017】
本発明において、「薬剤活性化」は、そのナノ結晶および/または非晶質画分を増大させることによって結晶形状に存在する薬剤の量を削減または除去する能力を意味する。」(段落【0017】)

e 「【0018】
振動振幅の実際的な値は、好ましくは3mmから15mmの移動であり、最も好ましくは5mm?12mmであり、これは地面に垂直な軸で測定される。振動振幅の小さな変化(すなわち、+/-10%)は、本発明の結果獲得に干渉することはない。
【0019】
振幅値が設定されると、振動数を増大させることによって活性化度が増大する種々の薬剤/担体合成物を得ることができ、これら振動数の増大により薬剤活性化の増大が生じるが、最終薬剤/担体合成物の粒径は一定のままである。振動数は、ミルのモーターの回転数または速度によって生じ、またこれに等しい。一例として、使用振動数は一般に200?4500rpmであり、好ましくは500?4000rpmであり、最も好ましくは700?3500rpmであるが、これらに限定されず;特定の実際的な値の選択は、必要とされる活性化度に依存し;振動数が高いほど、活性化度は大きくなる。」(段落【0018】及び【0019】)

f 「【0022】
この方法は、必要に応じて予混合された適切な量の薬剤および担体をミルに充填することによって実行され;薬剤および担体は2つの個別の粉体としてミルに導入されることが好ましい。一例として、重量で12:1?0.5:1、好ましくは5:1?1:1の比の薬剤と担体を用いることができる。粉砕時間は通常、1?8時間であり;各薬剤/担体混合物についてピーク時(安定期)が存在し、その後に粉砕は完了し、活性化はその後に増大することはない。」(段落【0022】)

g 「【0023】
担体は、架橋ポリマーおよび非架橋ポリマーなど任意の固形医薬賦形剤であることができ;これらの薬剤の例は、…(中略)…およびグリコール酸でんぷんナトリウム(SSG)などその誘導体、…(中略)…。高レベルの活性化を確実にするには、架橋ポリマー類が用いられることが好ましい。
【0024】
本方法は、任意の固形薬剤で実行することができる。…(中略)…。一例として、これらの薬剤としては、cox-2阻害剤、ニメスリド、ピロキシカム、ナプロキセン、ケトプロフェン、イブプロフェン、およびジアセルハイネ(diacerheine)などの抗炎症薬、グリセオフルビン、イトラコナゾール、フルコナゾール、ミコナゾール、およびケトナゾールなどの抗真菌薬、ザフリルカスト、サルブタモール、べクロメタゾン、フルニソリド、クレンブテロール、サルメテロール、およびブデソニドなどの気管支拡張/喘息薬、エストラジオール、エストリオール、プロゲステロン、酢酸メゲストロール、酢酸メドロキシプロゲステロンなどのステロイド薬、ネフェジピン、ニセルゴリン、ニカルジピン、リシノプリル、エナラプリル、ニコランジル、セリプロロール、およびベラパミルなどの抗高血圧薬/抗血栓/血管拡張薬、テマゼパム、ジアゼパム、ロラゼパム、フルイジアゼパム、メダゼパム、およびオキサゾラムなどのベンゾジアゼピン誘導体、ゾルミトリプタンおよびスマトリプタンなどの抗偏頭痛薬、フェノフィブラート、ロバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、およびシムバスタチンなどの抗リポタンパク質薬、トスフロキサシン、シプロフロキサシン、リトナビル、サキナビル、ネルフィナビル、アシクロビル、およびインジナビルなどの抗ウイルス薬/抗菌薬、タクロリムス、ラパマイシン、およびジダニシンなどの免疫抑制薬、ロラタジンなどの抗ヒスタミン薬、エトポシド、ビカルタミド、タモキシフェン、ドクリタクセル、およびパクリタクセルなどの抗腫瘍薬、リスペリドンなどの抗精神病薬、ラロキシフェンなどの抗骨粗鬆症薬、カルバマゼピンおよびフェニトインなどの抗痙攣薬、オキシコドン、ヒドロコドン、モルヒネ、およびブトルパノールなどの鎮痛薬/麻酔薬、チナザジンなどの筋肉弛緩剤、ファモチジンなどの抗潰瘍薬が挙げられるが、これらに限定されない。本発明において、「薬剤」なる用語は、ヒトおよび/または動物に対する生物学的作用を有する活性成分を包含し;この用語は2つ以上の薬剤の混合物も包含する。」(段落【0023】及び【0024】)

h 「【0032】
活性化担体/薬剤合成物の粒径は、比表面積(SSA)で表される。SSAはヘリウム吸収(BET)によって測定される。」(段落【0032】)

i 「【実施例1】
【0034】
ニメスリド600gおよびβ-シクロデキシトリン1800gをSweco DM3振動ミルに80kgの酸化アルミニウム粉砕手段といっしょに配置する。同時粉砕工程は、垂直軸で測定される10mmの振動振幅、および1500rpm(モーターの回転数)の振動数で実行される。
【実施例2】
【0035】
ニメスリド600gおよびβ-シクロデキシトリン1800gをSweco DM3振動ミルに80kgの酸化アルミニウム粉砕手段といっしょに配置する。同時粉砕工程は、垂直軸で測定される10mmの振動振幅、および500rpm(モーターの回転数)の振動数で実行される。
【実施例3】
【0036】
ニメスリド600gおよびβ-シクロデキシトリン1800gをSweco DM3振動ミルに80kgの酸化アルミニウム粉砕手段といっしょに配置する。同時粉砕工程は、垂直軸で測定される10mmの振動振幅、および3500rpm(モーターの回転数)の振動数で実行される。」(段落【0034】ないし【0036】)

j 「【0037】
実施例1?3の結果は、表1に記載されている。
…(中略)…
【0038】
表1に記載されたデータは、異なる振動数での異なる熱力学的活性化の動態を示すと同時に、粒径削減の動態(SSAの増大)が実質的に無変化であることを示す。
【0039】
特に、3つの実施例において、薬剤のSSAは、適用される振動数値および同時粉砕時間に関係なく、実質的に一定のままである。反対に、薬剤活性化(非晶質およびナノ結晶相の%)は粉砕頻度に応じて増大する。」(段落【0037】ないし【0039】)


第4 平成22年10月26日付けの意見書の抜粋
a 当審拒絶理由の理由1の(1-1)に対して
「本発明は、段落番号[0001]に記載されているように高エネルギー同時粉砕(co-grinding)による薬剤活性化の分野に関するものであります。
このように本願発明における活性化は、薬剤に生じるものであるであり、段落番号[0005]の
「特に、高エネルギー同時粉砕は、
-結晶の破壊によって薬剤を熱力学的に活性化し、担体内の非晶質相および/またはナノ結晶構造の形成を可能にし(非特許文献1;非特許文献2)、この工程は簡潔のために薬剤の「活性化」と定義され;
-活性成分を含有する担体の粒径を削減し、薬剤の溶解速度の増大に寄与する。」
の記載からも活性化は薬剤に生じていることは明白であります。
このように、最終同時粉砕合成物(薬剤/担体合成物)は活性化した薬剤と担体合成物によるものであります。
審判官殿は表1における数値が不明であるとご認定されたが、非結晶等の割合は段落番号[0030]に「非晶質、ナノ結晶、および結晶状態の薬剤の割合は、Perkin-Eimer DSC7熱量計を用いる示差走査熱量測定によって測定された」と記載されていることから、非結晶等の割合は薬剤のみの数値であります。また、比表面積は段落番号[0032]の「活性化担体/薬剤合成物の粒径は、比表面積(SSA)で表される」と記載されていることから、比表面積は最終同時粉砕合成物全体の数値であります。」

b 当審拒絶理由の理由1の(1-2)に対して
「本願発明の同時粉砕は、表1の実施例に示されるように、活性化されていない工程開始時の0時間の比表面積(SSA)は4.5m^(2)gであり、活性化された1?4時間経過時点では比表面積(SSA)6.8?7.6m^(2)gでほぼ同一で、増加していないことから最終同時粉砕合成物の粒径は削減されてはいない。しかしながら、活性化前に比べ比表面積は増大しているので、薬剤の粒径は削減していることになる。
このように、同時粉砕により薬剤は、薬剤の粒径が削減されることによりナノ結晶と非晶質とが増大し活性化した薬剤となる。そして、振動ミルの限界粒子径近傍まで粉砕され粒径が削減され活性化が進行している薬剤を含む最終同時粉砕合成物の粒径は、既に限界粒子径近傍に達しているためほとんど変化はなく一定であります。これらは、段落番号[0016]の「この方法において、薬剤の同時粉砕によって達成される活性化度は課した振動数に応じて増大するが、得られる担体-薬剤合成物の粒径は一定のままである」の記載や、段落番号[0038]の「粒径削減の動態(SSAの増大)が実質的に無変化である」の記載からも明らかであると思料します。」

c 当審拒絶理由の理由1の(1-3)に対して
「上記(2-1-2)で述べた通り、同時粉砕によって、薬剤の粒径が削減されることにより、薬剤のナノ結晶と非晶質とが増大する原理によるものであります。
なお、これらの原理は段落番号[0017]に「本発明において、「薬剤活性化」は、そのナノ結晶および/または非晶質画分を増大させることによって結晶形状に存在する薬剤の量を削減または除去する能力を意味する」と記載されています。」

d 当審拒絶理由の理由1の(2)に対して
「引用文献1には、薬剤を活性化するためのプロセスと振動ミルとが開示されている。この発明は主に振動ミルの振幅の修正に関するものであり、特に、粉砕プロセスにおいて薬剤の結晶状態が修正されないこと、すなわち薬剤がアモルファス(非晶質)形態に変化、結晶性を低下させることないことを特徴としている(引用文献1の明細書8ページ参照)。これは、薬剤を結晶状態のまま残しつつその粒径サイズを小さくすることによって、薬剤の活性化を行うことを意味している。
そして、第13頁の第9行目?第10行目に「高エネルギー共粉砕を、約5分から48時間、好ましくは約5分から8時間実施する」とある。しかしながら、引用文献1において、溶解速度の結果より薬剤が結晶性を低下させていないことを示す図1の粉砕方法は(第9頁第13行目?25行目)、1:1イブプロフェン-デンプングリコール酸ナトリウムを30分間共に粉砕したものであり、他の溶解データにおける粉砕時間の記載は見当たらない。
このように、引用文献1の溶解データからは薬剤の結晶性を低下させず、アモルファス(非晶質)形態に変化しないことを明示する粉砕時間はわずかに30分に過ぎず、引用文献1における粉砕は活性化させるために粒径サイズを小さくさせるだけであるから、その粉砕時間は第8頁の第19行目のように十分に短いものであり、粉砕時間が短時間なためアモルファス化が進行途中であるか不明であると言わざるを得ない。これに対し、粉砕30分経過後も振動数を課すことにより徐々に結晶性が低下し、アモルファス化(非晶質化)が進行していくことは本願発明の表1を参酌すれば明らかであります。
…(中略)… 更に、引用文献1では、粉砕プロセスにおいて使用されている振動数が記載されておらず、そこには、モータ回転数が400?1800rpmで振幅が約1/8?7/8インチの粉砕装置が記載されているだけであり、粉砕時間もアモルファス化が殆ど進行しない程の短時間である。また、粉砕プロセスの間にどのようにそれらのパラメータが操作されるのかについても、何ら記載や示唆されていない。」

e 当審拒絶理由の理由1の(3)に対して
「本願発明の薬剤の「活性化度」とは、薬剤中の非晶質及びナノ結晶の割合を示すものであります。審判官殿は「明細書中の実施例には、粉砕完了前の4時間経過時までのデータが記載されているのみであり、最終的な割合は記載されていない」とご認定され、粉砕完了時の非晶質及びナノ結晶の割合を示すことが重要であると思われているが、本願発明では段落番号[0015]の「異なる薬剤活性化度を有する種々の薬剤/担体合成物を製造することができる」、「非晶質、ナノ結晶、または結晶相で調製される薬剤の望ましい比率が可能となる」のように、活性化を任意の割合で制御することが技術的課題であります。」

f 当審拒絶理由の理由2の(2)に対して
「「所望度の活性化」とは、段落番号[0010]の「それでもやはり、場合によっては、薬剤-担体合成物の最終粒径の大規模な削減を回避しながら高活性化薬剤を得ることが望ましく;これは過度に微細な造粒は、製剤が調製される場合に物質を加工するのが困難となりうるためである。別の場合では、最大の熱力学的活性化(活性化安定期)が達成されている場合、薬剤の完全性を損なうことなく(ミルの温度および薬剤および/または担体の劣化を増大させることなく)合成物の粒径をさらに削減することが望ましいとみられる。」に記載のように、活性化された薬剤の非晶質とナノ結晶の割合、及び最終的な粒径サイズであると特定できるものですので拒絶理由の理由2(2)は解消したものと思料します。」

g 当審拒絶理由の理由3の(1)に対して
「本願発明においては、最終同時粉砕合成物における活性化には薬剤や担体の種類は特に関係するものではないと考えており、請求項1で示されるように振動における振動数と振幅の2つの構成要素が本質的であります。
…(中略)…
そして、本願発明を達成するために上記特徴を変化させることや発明の特徴が実施例のみに限定されないは当業者にとっては明らかで、発明の記載の全ての薬剤及び担体の実施例データを示す必要性は乏しいものであると思料します。」

h 当審拒絶理由の理由3の(2)及び(3)に対して
「審判官殿は、本願発明の粗い粒径の高活性化合物でも、所望の活性化を得ることの課題が、請求項1の「-所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」等の記載と対応していないとご認定されたが、段落番号[0012]に「したがって現在、従来の同時粉砕で可能であったものよりもはるかに広範囲の合成物の活性化度および粒径の組合せを得ることが可能である。」と記載されているように、本願発明は従来技術に比べ粗い粒径で高活性化合物を得られたのであります。
審判官殿は、振動数を変化させることは開示されていないとご指摘されたが、本願発明においては振動ミルの駆動中に振動数を変化させる必要はなく、得る化合物のバッチごとに所望する活性化に合うように振動数を変化させればよいものであります。なお、本願発明における振動数とは「ミルに課した振動数(適時の振動の数)」(段落番号[0012])であります。」


第5 当審の判断
[理由1]
1 特許法第36条第4項
1-1 当審拒絶理由の理由1の(1-3)について
同時粉砕によって、薬剤のナノ結晶および/または非晶質が増加する原理が依然として不明である。
この点につき、上記第3のfのように、段落【0022】には「粉砕時間は通常、1?8時間であり;各薬剤/担体混合物についてピーク時(安定期)が存在し、その後に粉砕は完了し、活性化はその後に増大することはない。」と記載され、請求人は、上記第4のcのように「同時粉砕によって、薬剤の粒径が削減されることにより、薬剤のナノ結晶と非晶質とが増大する原理によるもの」である旨を主張する。
しかしながら、薬剤の粒径が削減されることにより、薬剤のナノ結晶と非晶質とが増大するのだとすると、明細書の【表1】において、1時間経過時点から4時間経過時点までの範囲では、比表面積が増加していないことから、薬剤の粒径は減少していないと認められるにもかかわらず、薬剤のナノ結晶と非晶質の割合が増加していることが理解できない。

なお、【表1】において薬剤/担体合成物の比表面積が増加していないときには、薬剤の粒径は減少していないと認められる理由は次のとおりである。
まず、当審拒絶理由の理由1の(1-1)に対し、請求人は、上記第4のaのように、【表1】の「比表面積」は、薬剤/担体合成物である最終同時粉砕合成物全体の数値である旨を回答している。
次に、上記第3のcのように、明細書の段落【0012】には「異なる振動数を同じ振幅でかけることにより、薬剤の粒径は、最終同時粉砕合成物の粒径を削減することなく、削減されることが可能であり;」、すなわち、同時粉砕によって、薬剤の粒径は削減されるが、最終同時粉砕合成物(薬剤/担体合成物)の粒径は削減されないという記載が存在する。ところが、この記載について問うた当審拒絶理由の理由1の(1-2)に対する上記第4のbの請求人の回答からみて、上記段落【0012】の記載は、振動ミルでの加工前後で「薬剤の粒径が削減される」ことと、振動ミルでの加工が進行した後は「最終同時粉砕合成物の粒径が削減されない」こととを単に示しているにすぎず、最終同時粉砕合成物の比表面積が一定のまま、薬剤の粒径が減少するという現象を示しているのではない。
そして、当審拒絶理由の理由1の(1-2)で指摘したとおり、特別の事情が存在しないときには、薬剤の比表面積が増大すれば、薬剤を含む最終同時粉砕合成物の比表面積も当然に増大するはずであるので、薬剤を含む最終同時粉砕合成物の比表面積が増大しなければ、薬剤の比表面積が増大しない(すなわち、薬剤の粒径が減少しない)といえる。
これらの事項を総合すると、【表1】において薬剤/担体合成物の比表面積が増加していないときには、薬剤の粒径は減少していないと解するのが自然である。

1-2 当審拒絶理由の理由1の(2)について
引用文献1には、任意の薬剤と、デンプングリコール酸ナトリウムからなる担体とを、振動数400ないし1800rpm、垂直振幅8分の1?8分の7インチ(すなわち、3.2?22.2mm)に設定した振動粉砕ミルを用いて高エネルギー粉砕することによって、難溶性の薬剤を可溶性とするとともに、薬剤をアモルファス形態に変化させないことが記載されている。
引用文献1では、本願明細書の段落【0023】及び【0024】(上記第3のgを参照。)に例示された薬剤及び担体を用い、本願明細書の段落【0018】及び【0019】(上記第3のeを参照。)に記載された振動数及び振幅で振動ミルを駆動する(なお、請求人は、上記第4のdのように、引用文献1には粉砕プロセスにおいて使用されるモータ回転数が記載されているのみであり、振動数が記載されていない旨を主張するが、振動ミルの機構からみて、モータ回転数が振動数であることは自明である。また、上記第3のiのように、本願明細書に記載されている実施例でも、振動ミルの振動数を「モーターの回転数」によって特定している。)にもかかわらず、薬剤がアモルファス形態に変化しない。
このため、本願明細書に記載されたとおりの材料及び製造方法によっても、薬剤がアモルファス形態に変化しない場合が想定されることから、「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」という請求項1ないし6に係る発明を当業者が実施できる程度に、明細書に明確かつ十分な記載がなされているとはいえない。

この点につき、請求人は、上記第4のdのように、引用文献1では、粉砕時間が30分という短い時間なので、アモルファス化しない旨を主張する。
しかしながら、引用文献1は、担体にデンプングリコール酸ナトリウムを使うことによって、活性物質をアモルファス化することなく溶解速度を大きく増大できることを発見したというものであること、活性化のための高エネルギー共粉砕を約5分から48時間、好ましくは約5分から8時間実施すると記載されていること等からみて、特段の事情がない限りは8時間まではアモルファス化しないと考えるのが自然であり、引用文献1のものでも30分以上高エネルギー共粉砕を継続すればアモルファス化するという請求人の主張は妥当なものではない。

1-3 まとめ
以上のように、本願の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲の請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載がなされているとはいえないので、本願は特許法第36条第4項の規定を満たしていない。

[理由2]
2 特許法第36条第6項第2号
請求項1ないし6記載の「所望度の活性化」がどのような指標であるのかが依然として不明である。
請求人は、上記第4のfのように、段落【0010】の記載から「所望度の活性化」が「活性化された薬剤の非晶質とナノ結晶の割合、及び最終的な粒径サイズ」という意味の指標であることが明らかであると主張するが、上記第3のbのとおり段落【0010】には、粒径及び薬剤の活性化度を独立して制御するニーズが存在することが記載されている程度であり、この記載から「所望度の活性化」が請求人の主張するような指標であるとは直ちにいうことはできない。
また、明細書中において「所望度の活性化」という用語が実質的に用いられていないことから、明細書に「所望度の活性化」の意味が示唆されているともいえない(なお、明細書中には薬剤の「活性化度」という用語が存在し、該「活性化度」と請求項1ないし6記載の「所望度の活性化」とは同一の技術事項である可能性もあったが、請求人は、上記第4のe及びfのように、「活性化度」とは「薬剤中の非晶質及びナノ結晶の割合を示すもの」であり、「所望度の活性化」とは「活性化された薬剤の非晶質とナノ結晶の割合、及び最終的な粒径サイズ」であるとの主張を行っていることから、請求人は請求項1ないし6記載の「所望度の活性化」は、明細書中の「所望度の活性化」と異なると認識しているといえる。)。

以上のように、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし6の記載では、依然として、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないので、本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

[理由3]
3 特許法第36条第6項第1号
3-1 当審拒絶理由の理由3の(1)について
本願の請求項1には、薬剤及び医薬担体の種類が特定されておらず、また、上記第3のgのように、明細書の段落【0023】及び【0024】には、担体及び薬剤の種類が多数列挙されるとともに、任意のものが用いられると記載されていることからみて、請求項1に係る発明は任意の薬剤及び医薬担体の組み合わせにおいて「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」という事項を包含している。
一方、当審拒絶理由で指摘したとおり、振動ミルを用いて被粉砕物を微粉末状にまで粉砕する場合に、生成される粒径と、振動数及び振幅との関係は、被粉砕物の物性によって変化することが技術常識(必要ならば下記4-4のaを参照。)であり、例えば、同じ振動数で振幅を変化させても、粉砕限界粒子径に差が見られない例も存在する(必要ならば下記4-4のb及びcのアルミナ粉を参照。)。
また、上記1-2で指摘したように、所定の振動数及び振幅で振動ミルを駆動し、薬剤と医薬担体とを共粉砕する場合でも、担体にデンプングリコール酸ナトリウムを用いた場合には薬剤がアモルファス化しないため、請求項1に係る発明が薬剤及び医薬担体の組み合わせのすべてにおいて成立し得ないことは明らかである。
してみれば、明細書中において、薬剤としてニメスリド、医薬担体としてβ-シクロデキシトリンを用いた1種類の実施例が開示されているにすぎず、該1種類の実験結果のみで実証された関係が、任意の薬剤及び医薬担体の組み合わせにまで拡張されるとは認められず、任意の薬剤及び医薬担体の組み合わせにおいて「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」という事項を包含する請求項1は、明細書に記載した範囲を超えて特許を請求している。

この点について、請求人は、上記第4のgのように主張しているが、「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」ということが成立しない例が存在する以上、請求人の主張は妥当なものではない。

3-2 当審拒絶理由の理由3の(2)及び(3)について
明細書の記載によると、請求項1ないし6に係る発明の課題は、粗い粒径の高活性化合成物(最終同時粉砕化合物)でも、所望の活性化を得ることにあるが、請求項1の「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」の記載はあいまいであり、上記課題と対応しているとはいえない。
例えば、上記記載には、振動ミルを駆動するに際して「振動数を変化させる」こと、すなわち、振動数を変化させながら振動ミルを駆動することが含まれるが、このような場合に所望度の活性化が得られることは明細書中に開示されていない。また、上記記載からは、所望度の活性化を得るための条件に、振動数を変化させることと、振幅を一定に保つこととが含まれているといえるが、明細書の記載によると、振幅を一定に保つことは、粒径を制御するための条件であり、「所望度の活性化」を得るための条件ではない。
さらに、上記1-2で指摘したように、請求項1ないし6で特定された方法によっても、アモルファス化されない薬剤が生成される場合があることからみて、課題を達成するために必要な事項が請求項1で特定されているとはいえない。

3-3 まとめ
以上のように、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないので、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

[理由4]
4 特許法第29条第2項
4-1 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第3のaの請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
ここで、本願発明は、上記2のとおり「所望度の活性化」がどのような指標であるのかが不明であるため、特許を受けようとする発明が明確ではなく、上記3-2のとおり「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
しかしながら、仮に、前者については請求人が主張するとおりの意味であり本願発明が明確であるとし、後者については本願発明が発明の詳細な説明に記載された内容に特定されているとした場合に、本願発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものかどうかについて、以下に検討する。

まず、「所望度の活性化」とは、請求人が上記第4のfのように主張するとおりの、「活性化された薬剤の非晶質とナノ結晶の割合、及び最終的な粒径サイズ」を所望の値とすることであると仮定する。
このとき、「活性化された薬剤の非晶質とナノ結晶の割合」を所望の値とするということは、上記第3のjの明細書の記載及び上記第4のe及びfの主張からみて、粉砕完了後の最終的な時点における薬剤中の非晶質及びナノ結晶の割合を所望の値とするということではなく、各時点における、薬剤中の非晶質及びナノ結晶の割合を所望の値とするということであり、すなわち、薬剤中の非晶質及びナノ結晶の割合が増加する速度を所望の値とすることであると認められる。
また、上記第5の1-1のとおり、共粉砕(同時粉砕)によって薬剤中の非晶質及びナノ結晶の割合が増加する原理が不明であるが、上記第4のbの主張のとおり、薬剤の粒径が削減されることによるものと仮定する。そうすると、薬剤の粒径が削減される速度が大きいほど、薬剤中の非晶質及びナノ結晶の割合が増加する速度が大きいといえる。
さらに、「最終的な粒径サイズ」を所望の値とするということは、上記第4のa及びbの主張からみて、振動ミルの限界比表面積(限界粒子径)近傍における薬剤/担体合成物の比表面積(粒径)を一定にするということであると認められる。
さらにまた、「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」とは、上記第3のj等の明細書の記載及び上記第4のh等の主張を考慮して、発明の詳細な説明において、薬剤の活性化が振動数を変化させることによって制御され、薬剤/担体合成物の最終的な粒径が振幅を一定に保つことによって一定に制御されるということに対応する事項であると認定する。
以上を総合し、本願発明における「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」とは、「薬剤の粒径が削減される速度が、振動数を変化させることによって制御され、振動ミルの限界粒径近傍における薬剤/担体合成物の最終的な粒径が、振幅を一定に保つことによって一定に制御される」ということであると認定する。

4-2 引用文献1
引用文献1には、次の事項が図面とともに記載されている。

a 「本発明は、薬学的活性物質を支持剤と共に高エネルギー粉砕することにより形成される機械的に活性化された複合物に関する。特に、本発明は支持剤としてデンプングリコール酸ナトリウムを使用した機械的に活性化された複合物の形成に関する。このような複合物は、活性物質自体または従来の既知の技術で調剤された製薬に比較して、活性物質の溶解速度および可溶化動力学が実質的に増大した製薬の調剤に使用することができる。
従来の既知の技術においては、難溶解性の活性物質が、溶解速度を増大するために粉砕される。具体的には、活性物質は単独、または時として適当な支持剤とともに、ハンマー、ピン、またはエアージェットなどのミルで粉砕される。支持剤は、一般に、薬の所望の物理化学的変換を助ける。
…(中略)…
日本特許第7986607号においては、ベーターシクロデキストリンが、共粉砕(co-grinding)における支持剤として用いられ、単独またはラクトース、リン酸カルシウムおよびデンプンなどの他の賦形剤と共に使用されている。」(第5ページ第5ないし20行)

b 「本発明の目的は、活性物質そのものまたは従来の既知技術を使用して作成された製剤と比較して活性物質の溶解速度および可溶化動力学が改良された、デンプングリコール酸ナトリウムおよび薬学的活性化物質の機械的に活性化された複合物を提供することにある。該複合物は、難溶解性の薬学的活性物質と、支持剤であるデンプングリコール酸ナトリウムとを高エネルギーミル中で共粉砕することにより得られる。
本発明の他の目的は、難溶解性の薬学的活性物質をデンプングリコール酸ナトリウムと共に高エネルギー粉砕することにより、機械的に活性化された複合物を作成するプロセスおよび装置を提供することにある。」(第6ページ第10ないし18行)

c 「本発明は、難溶解性の薬学的活性物質とデンプングリコール酸ナトリウムを共に高エネルギー粉砕することにより形成され、および既知技術を使用して調剤された製剤に対して予期せざる大きな利点を有する、独自の機械的に活性化された複合物を提供する。この複合物においては、難溶解性の活性物質はデンプングリコール酸ナトリウム上に留まるかまたは支持される。難溶解性の活性物質は、十分な臨床効果を取るに足らない量しか消化液中に溶解しない薬学的活性物質である。たとえば、難溶解性の活性物質は、一部の溶質に対しておよそ30部以上の溶剤が必要である。
機械的に活性化された複合物は、十分に溶解速度を増大、可溶化動力学を改善、バイオアベイラビリティを増大、および血漿中の薬剤ピーク濃度を上昇させるなど、大きく向上した薬剤特性を提供する。溶解速度および可溶化動力学は、薬剤または製剤の性能を評価する既知のテスト方法である。
本発明者は、従来の既知の支持剤と比較して、デンプングリコール酸ナトリウムは安価で、所望の結果を得るまでの粉砕時間が十分に短く、および高エネルギーで共粉砕することにより未処理では難溶解性の薬学的活性物質との独自の機械的に活性化された複合物を形成することから、デンプングリコール酸ナトリウムが有利な支持剤であることを期せずして見いだした。デンプングリコール酸ナトリウムは、膨潤容積が大きく(顆粒はその容積の300%にまで膨潤する)、良好な水和性を有する。
驚くべきことに、デンプングリコール酸ナトリウムは、複合物中に存在する活性物質のエンタルピー(enthalpy)を低下させたり、または活性物質をアモルファス形状に転換、すなわちその結晶性を低下させることなく、その活性物質の溶解速度を大きく増大する。機械的に活性化された複合物中の支持剤としてのデンプングリコール酸ナトリウムが、架橋ポリビニルピロリドンよりも優れた代替剤であることが、思いがけなく判明した。
理論に捕らわれることなく、発明者は、独自の機械的に活性化された複合物が、デンプングリコール酸ナトリウムと難溶解性の薬学的活性物質を共に高エネルギー粉砕することにより形成されることを期せずして見いだした。このデンプングリコール酸ナトリウムおよびそのような1種類または複数の活性物質を同時に適当な高エネルギー粉砕装置で粉砕する。高エネルギー粉砕とは、二つの粉砕メディアの間に薬剤と支持剤粒子を置き、高エネルギー衝撃を二つの粉砕メディアの間に与えるプロセスである。」(第8ページ第6行ないし第9ページ第8行)

d 「混合したものは、粉砕チャンバー中に粉砕メディアと共に導入する。好ましい粉砕メディアは円筒型のメディアである。粉砕を実施する。高エネルギー共粉砕を、約5分から48時間、好ましくは約5分から8時間実施する。」(第13ページ第8ないし10行)

e 「本発明のプロセスに使用する好ましい高エネルギー粉砕装置は、粉砕メディアと粉砕される材料間の高衝撃エネルギーを利用するタイプのものである。このようなミルは、粉砕のためのエネルギーを振動数により生み出す。特に、円筒型粉砕メディアを使用する高エネルギー振動ミルが好ましい。関係する特定の条件にもよるが、高エネルギー振動ミルは、従来のミルのエネルギーインプットの約10から1000倍を供給する。典型的には、高エネルギー粉砕装置は、バッチプロセスに使用され、約50lbs./インプットエネルギー馬力から約400lbs./インプットエネルギー馬力という、インプットエネルギー馬力に対する粉砕負荷比を有する。これに反して、従来のミル装置は、典型的には、800から1200lbs./インプットエネルギー馬力で処理をおこなう。一般に、高エネルギー粉砕装置のモーターの回転数は、約400rpmと約1800rpmの間、好ましくは約900rpmと約1500rpmの間、さらに好ましくは約1200rpmである。高エネルギー粉砕装置の振動の垂直振幅は、典型的には約8分の1インチから約8分の7インチ、リード角は、約0度と約90度の間または約270度と約360度の間である。」(第14ページ第3ないし17行)

上記aないしe及び図面から、次のことが分かる。

f 上記cの「機械的に活性化された複合物は、十分に溶解速度を増大、可溶化動力学を改善、バイオアベイラビリティを増大、および血漿中の薬剤ピーク濃度を上昇させるなど、大きく向上した薬剤特性を提供する。…(中略)…従来の既知の支持剤と比較して、デンプングリコール酸ナトリウムは安価で、所望の結果を得るまでの粉砕時間が十分に短く、および高エネルギーで共粉砕することにより未処理では難溶解性の薬学的活性物質との独自の機械的に活性化された複合物を形成する」から、共粉砕により「所望の結果」、すなわち、所望の可溶性が得られることが分かる。

g 上記eから、高エネルギー粉砕装置の振動の垂直振幅が、約8分の1インチから約8分の7インチ、すなわち、3.2ないし22.2mmであることが分かる。

上記aないしg及び図面から、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる。

「薬剤と支持剤とを高エネルギー粉砕して難溶性の薬剤を可溶性とする方法であって、
高エネルギー粉砕が、モーターの回転数400ないし1800rpm、垂直振幅3.2ないし22.2mmに設定した振動粉砕ミルで実行され、
所望の可溶性が得られる、
方法。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

4-3 引用文献2
引用文献2には、次の事項が記載されている。

a 「[産業上の利用分野]
本発明は、溶解性を向上させる特性を有する担体支持薬剤に関する。
[従来の技術]
従来、製薬の分野では低溶解性薬剤を粉砕あるいは微粉化し、その表面積を増大させることによって生物薬学特性を改良するということが、一般的に行われている。
この一般的方法に加え、近年では、薬剤と特殊な担体物質の混合物に適用した高エネルギー粉砕技術の開発が進行中である。この技術は、以下の2つの基本要素に基づいている。
1)粉砕手段と粉体間の衝撃エネルギーあるいは摩擦エネルギーが特に高いミル(単一あるいは複数ボール型、乳鉢型、等)の使用。
2)薬剤の望ましい物理化学的変換が容易となる担体物質の使用。
この粉砕技術の主たる目的は、当初結晶状態にある薬剤の全体あるいは部分的な非晶化である。非晶化は、結晶状態にある薬剤で得られる過飽和濃度よりはるかに高い過飽和濃度となる特性を持つ薬剤の可溶化速度を導くのである。
この粉砕技術の他の目的は、薬剤の湿潤特性と溶解率の向上である。」(第5欄第18ないし40行)

b 「米国特許3,966,899および4,036,990には、低溶解性の薬剤の溶解率を向上させるため、薬剤とβ-1、4-グルカンの混合物の高エネルギー粉砕を用いた例が示されており、製品の非晶化はX線回析で確認される。
特公昭79/86607には、共粉砕で用いられる担体物質がβ-シクロデキストリンである旨の記載があり、それは単独あるいは、粉砕時には既に存在させるラクトース、燐酸カルシウム、澱粉のような別の補形薬と共に用いたものである。
β-シクロデキストリンは、またドイツ特許3427788においてもボールミルによる粉砕によってベンズイミダゾール誘導体の含有錯体を得るために使われている。高エネルギー共粉砕で微晶質セルロースを使用することは、「化学、薬学会報」、78,3340-6,1977年版、「化学、薬学会報」、78,3419-1977年版、「化学、薬学会報」、28,652-6,1980年版に記載されており、担体と薬剤間の反応の研究では、熱分析と赤外線分光分析を用いている。
欧州特許129893には、グリセオフルビン、クロラムフェニコール、テオフィリン、等の薬剤を溶解率の向上や非晶化の為、高エネルギー共粉砕を行う際、シリカゲルあるいは他の吸着体を用いる記載がある。
米国特許4,639,370には、架橋ポリビニルピロリドン、架橋カルボキシメチルセルロース ナトリウム、デキストランのような湿潤性ではあるが水に不溶のポリマーの共粉砕の使用例がある。研究対象の低溶解性薬剤は、酢酸メドロキシプロゲステロン、グリセオフルビン、インドメタシン等も含んでいる。
[発明が解決しようとする問題点]
上記の、薬剤と担体の混合物の高エネルギー共粉砕に関する従来例では、全て成分の予備混合を必要とし、そして所望の非晶化および、あるいは溶解率特性を得るのに、一定時間乾燥条件下で共粉砕する必要がある。数例では、必要な粉砕時間が特に長く、時には24時間以上にも達する。」(第5欄第41行ないし第6欄第25行)

c 「本発明の方法で用いるミルは粉砕手段と上記粉末体間で高い衝撃エネルギーを発生するタイプである。例えば、ロータリーミル、高振動ミル、ボールミル、ローラーミル、乳ばちミル、あるいは遊星ミル等であるが、これに限定されない。」(第7欄第27行ないし31行)

上記aないしcから、次のことが分かる。

d 上記bから、上記aの「高エネルギー粉砕」の種類として、「共粉砕」があることが分かる。

e 上記cから、ミルの種類として高振動ミルがありふれたものであることが分かる。

上記aないしeから、引用文献2には、次の発明が記載されているといえる。

「薬剤と担体物質とを共粉砕することによって非晶化するための方法であって、
-高振動ミルで共粉砕を行い、
-可溶化速度を高め溶解率を向上させる、
方法」(以下、「引用文献2記載の発明」という。)

4-4 引用文献3
引用文献3には、次の事項が記載されている。

a 「1.緒言
振動ミルの粉砕機構は媒体を強制的に攪拌させる方式とはちがって,粉砕ドラムの振動を通して間接的に媒体に振動エネルギーを与える方式である。従って粉砕ドラムの加振力が一定であっても,媒体の動き,運動の強さは被粉砕物の物性に非常に左右される。粉砕時間とともに微粉化が進むに伴い,粉体の粘性及び付着等が大となるため,自然に媒体の運動が阻害され粉砕力の低下を招くことになる。この辺が振動ミルでの一般的に言われている粉砕限界粒子径と考えられる。」(第342ページ左欄第1ないし10行)

b 「2. 高振幅での粉砕
…(中略)…
被粉砕物はアルミナ,シリカ,炭カルを使用し,
A,振動数 1,200 cpm × 全振巾 8.5mm 6.85G
B, 〃 1,200 cpm × 〃 18mm 14.5G
についてそれぞれの乾式粉砕テストを行い。アルミナとシリカは 4時間迄,炭カルは 3時間迄粉砕し,各々 1時間毎にサンプリングを行い粒度分布及び平均粒子径の比較を行った。 …(中略)… Fig.5, Fig.6, Fig.7, は比表面積平均粒子径を示す。 …(中略)…
Fig.5 のアルミナについての全振巾 18mm の場合,粉砕時間30分の時と,それ以上の粉砕時間とに平均粒径の差が見られないが,これはアルミナ粉側の性状によるものと推定される。
いずれの場合も全振幅を2倍強にすることにより,粉砕時間は大幅に短縮され,平均粒子径もはるかに微粉となっていることがわかる。 …(後略)…」(第342ページ右欄第1行ないし第344ページ右欄第3行)

c Fig.5 には、振動数を同じ1200cpmとし、全振巾を8.5mmと18mmとに変化させてアルミナ粉を粉砕した場合、4時間経過時点で粒径に差が見られなくなることが記載されている。
Fig.6 には、振動数を同じ1200cpmとし、全振巾を8.5mmと18mmとに変化させてシリカ粉を粉砕した場合、4時間経過時点でほぼ粉砕限界粒子径に達しており、全振巾8.5mmの粉砕限界粒子径よりも全振巾18mmの粉砕限界粒子径の方が小さいことが記載されている。

d 「3.高振動数での粉砕
次に振動数を大きくすると粉砕がどう変化するかを乾式粉砕で実験してみた。被粉砕物はシリカを使用した。
…(中略)…
Fig.8 は全振巾を4.1 mm と一定とし各振動数ごとの粉砕時間に対する比表面積平均粒子径の推移を表している。粉砕時間15?60分の間は振動数の差が顕著に表れているが,120分以降のその差は縮まる傾向を示しているのが注目される。
Fig.9 はFig.8 での120分粉砕時の振動数 1200cpm と 3000cpm との粒度分布の比較である。 3000cpm の方が振動強度が6.25倍と大きいにもかかわらず粉砕がそれなりに進んでおらず,また消費動力も, 7?8倍と消費している点から考えて,微粉砕には振動数を高くすることはあまり好ましことではないという結果が出た。 …(後略)…」(第344ページ右欄第4行ないし第345ページ左欄第5行)

e Fig.8 には、全振巾を同じ4.1mmとし、振動数を変化させてシリカ粉を粉砕した場合、振動数が大きいほど、粒子径が早く小さくなることと、時間の経過にともない、振動数の違いによる粒子径の差異が小さくなることとが記載されている。

f 「5.結言
振動数 1200cpm で振幅を2倍位に大きくした場合は粉砕限界粒子径に大きな差がみられ,且つある粒子径迄に粉砕するときの消費動力も小さくなることが判明した。但し,同振幅で振動数を高くした場合は,粉砕時間の経過とともに粉砕限界粒子径にあまり変化がみられなくなる傾向にあり,消費動力の面からも振動数を高く採用することは余り好ましいことではないようである。」(第345ページ右欄第9ないし16行)

上記aないしfから、次のことが分かる。

g 振動ミルの振幅が大きいほど粉砕限界粒子径が小さく(限界比表面積が大きく)なることが分かる。

h 同じ被粉砕物で振動ミルの振幅が一定のとき、振動数が大きいほど、粒子径が早く小さくなることが分かる。

i 粉砕限界粒子径及び限界比表面積は、振幅によって大きく変化するが、振動数によってはあまり変化しない傾向にあることが分かる。


4-5 引用文献2記載の発明との対比及び判断
(1)対比
本願発明と引用文献2記載の発明とを対比すると、引用文献2記載の発明における「薬剤」は、その機能からみて、本願発明における「薬剤」に相当し、以下同様に、「担体物質」は「医薬担体」に、「共粉砕」は「共粉砕」に、「高振動ミル」は「振動ミル」に、それぞれ相当する。
また、引用文献2記載の発明において薬剤を「非晶化」することは、本願発明において薬剤を「活性化」することに相当し、同様に、「可溶化速度を高め溶解率を向上させる」ことは、「所望度の活性化が得られる」ことに相当する。

よって、本願発明と引用文献2記載の発明とは、
「薬剤を医薬担体と共粉砕することによって該薬剤を活性化するための方法であって、
-該共粉砕が振動ミルで実行され、
-所望度の活性化が得られる、
方法」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1
本願発明においては、振動ミルが「振動数を調整するように設計された手段」を備え、「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」のに対し、
引用文献2記載の発明においては、振動ミルが振動数を調整するように設計されているかどうかが明らかではなく、また、所望度の活性化をどのように得るのかについて明らかではない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
まず、上記4-1のとおり、本願発明における「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」とは、「薬剤の粒径が削減される速度が、振動数を変化させることによって制御され、振動ミルの限界粒径近傍における薬剤/担体合成物の最終的な粒径が、振幅を一定に保つことによって一定に制御される」ということであると認定する。
次に、振動数及び振幅を所望の値に設定可能な振動ミルは周知(以下、「周知技術」という。例えば、引用文献3を参照。)であり、振動ミルの振動数を変化させたり、振幅を一定に保って粉砕を行うことは、該周知の振動ミルで可能である。
ここで、上記4-4のg及びiのとおり、振動ミルにおいては、振幅が大きいほど粉砕限界粒子径が小さく(限界比表面積が大きく)なり、また、限界比表面積は、振幅によって大きく変化するが、振動数によってはあまり変化しない傾向にある。さらに、上記4-4のhから、振動ミルにおいては、振動数が大きいほど、粒径の削減される速度が大きい。また、同じ被粉砕物で振動ミルの振幅が一定のとき、振動数が大きいほど、粒子径の削減される速度が大きいが、時間の経過にともない、振幅によって決まる粉砕限界粒子径に収束することは、上記4-4のaないしiから明らかか、又は当業者が予測できたことである。(以下、上記4-4のaないしiの記載事項をまとめて、「引用文献3の記載事項」という。)
引用文献3の記載事項を考慮すると、引用文献2記載の発明において、振動ミルの振動数を調整することによって粒径が削減される速度を制御(すなわち、薬剤の非晶質とナノ結晶の割合を制御)し、振動ミルの振幅を一定にすることによって薬剤/担体合成物の粉砕限界粒子径を一定に制御(すなわち、最終的な粒径サイズを一定に制御)することが可能であることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。
したがって、引用文献2記載の発明、周知技術、及び引用文献3の記載事項に基づいて、該相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

4-6 引用文献1記載の発明との対比及び判断
(1)対比
本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「薬剤」は、その機能からみて、本願発明における「薬剤」に相当し、以下同様に、「支持剤」は「医薬担体」に、「高エネルギー粉砕」は「共粉砕」に、「振動粉砕ミル」は「振動ミル」に、「モーターの回転数」は「振動数」に、「垂直振幅」は「振幅」に、「高エネルギー粉砕が、回転数400?1800rpm、垂直振幅を3.2?22.2mmに設定した振動粉砕ミルで実行され」は「該共粉砕が振動数を調整するように設計された手段を備えた振動ミルで実行され」に、それぞれ相当する。
また、引用文献1記載の発明における「難溶性の薬剤を可溶性とする」は、このことを引用文献1の明細書中で「活性化」と表現していること、薬剤の人体への吸収をよくすることを薬剤の活性化と表現することが技術常識であること、請求人が上記第4のdのように「引用文献1には、薬剤を活性化するためのプロセスと振動ミルとが開示されている」と主張していること、等からみて、本願発明における「該薬剤を活性化する」に相当し、同様に、「所望の可溶性が得られる」は「所望度の活性化が得られる」に相当する。

よって、本願発明と引用文献1記載の発明とは、
「薬剤を医薬担体と共粉砕することによって該薬剤を活性化するための方法であって、
-該共粉砕が振動数を調整するように設計された手段を備えた振動ミルで実行され、
-所望度の活性化が得られる、
方法」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点2
本願発明においては、「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」のに対し、
引用文献1記載の発明においては、所望度の活性化がどのようにして得られるのかについて明らかではない点(以下、「相違点2」という。)。

(2)判断
上記相違点2について検討する。
まず、上記4-1のとおり、本願発明における「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」とは、「薬剤の粒径が削減される速度が、振動数を変化させることによって制御され、振動ミルの限界粒径近傍における薬剤/担体合成物の最終的な粒径が、振幅を一定に保つことによって一定に制御される」ということであると認定する。
次に、引用文献1記載の発明は、振動粉砕ミルのモーター回転数及び垂直振幅(振動ミルの振動数及び振幅)を所望の値に設定可能である。
ここで、上記引用文献3の記載事項を考慮すると、引用文献1記載の発明において、振動ミルの振動数を調整することによって粒径が削減される速度を制御し、振動ミルの振幅を一定にすることによって薬剤/担体合成物の粉砕限界粒子径を一定に制御(すなわち、最終的な粒径サイズを一定に制御)することが可能であることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。
したがって、引用文献1記載の発明と引用文献3の記載事項に基づいて、該相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

(3)なお、上記(1)では、引用文献1記載の発明における「難溶性の薬剤を可溶性とする」は、本願発明における「該薬剤を活性化する」に相当すると認定したが、上記第3のdのように、本願の明細書の段落【0017】には「本発明において、「薬剤活性化」は、そのナノ結晶および/または非晶質画分を増大させることによって結晶形状に存在する薬剤の量を削減または除去する能力を意味する。」と記載されているため、「活性化」をこのような意味に限定して認定する余地がある。上記(1)のとおり薬剤の人体への吸収をよくすることを薬剤の「活性化」と表現することが技術常識であるため、本願明細書中に記載された意味に限定した場合、かえって本願発明が不明確になる可能性があるが、仮に、本願発明における「活性化」を「ナノ結晶及び非晶質を増大させること」という意味に限定した場合について、念のために検討する。
この場合、本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「難溶性の薬剤を可溶性とする」は、本願発明における「該薬剤を活性化する」に、「難溶性の薬剤を可溶性とする」の限りにおいて相当し、同様に、「所望の可溶性が得られる」は「所望度の活性化が得られる」に「所望の可溶性が得られる」の限りにおいて相当する。
よって、本願発明と引用文献1記載の発明とは、
「薬剤を医薬担体と共粉砕することによって難溶性の薬剤を可溶性とするための方法であって、
-該共粉砕が振動数を調整するように設計された手段を備えた振動ミルで実行され、
-所望の可溶性が得られる、
方法」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点2’
本願発明は、「薬剤を活性化」すなわち「薬剤のナノ結晶及び非晶質を増大」させるものであり、「所望度の活性化が振動数を変化させると同時に、振幅を一定に保つことによって得られる」すなわち「薬剤の粒径が削減される速度が、振動数を変化させることによって制御され、振動ミルの限界粒径近傍における薬剤/担体合成物の最終的な粒径が、振幅を一定に保つことによって一定に制御される」のに対し、
引用文献1記載の発明は、「難溶性の薬剤を可溶性とする」ものであり、「所望の可溶性」がどのようにして得られるのかについて明らかではない点(以下、「相違点2’」という。)。

上記相違点2’について検討する。
引用文献1には、振動ミルによる高エネルギー粉砕において、支持剤としてデンプングリコール酸ナトリウムを用いた場合には結晶性が低下しないことが記載されているが、上記4-2のaないしcから、振動ミルによる高エネルギー粉砕において、ほかの支持剤を用いて結晶性を低下させる(すなわち、「薬剤のナノ結晶及び非晶質を増大」させる)ことによって薬剤を可溶性とする(すなわち、「薬剤を活性化」する)ことも開示されているといえる。
そして、このようにして結晶性を低下させる支持剤を用いた場合でも、上記(2)で示したとおり、引用文献1記載の発明において、振動ミルの振動数を調整することによって粒径が削減される速度を制御(この場合、薬剤の非晶質とナノ結晶の割合を制御することになる。)し、振動ミルの振幅を一定にすることによって薬剤/担体合成物の粉砕限界粒子径を一定に制御(すなわち、最終的な粒径サイズを制御)することが可能であることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。
したがって、引用文献1記載の発明と引用文献3の記載事項に基づいて、該相違点2’に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

4-7 まとめ
以上のように、本願発明は、引用文献1記載の発明と引用文献3の記載事項に基づいて、又は、引用文献2記載の発明、周知技術、及び引用文献3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
よって、[理由1]、[理由2]、[理由3]又は[理由4]により、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-20 
結審通知日 2010-12-21 
審決日 2011-01-05 
出願番号 特願2003-508483(P2003-508483)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B02C)
P 1 8・ 536- WZ (B02C)
P 1 8・ 537- WZ (B02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 茂樹  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 西山 真二
金澤 俊郎
発明の名称 薬剤活性化方法およびそのための振動ミル  
代理人 山下 穣平  
代理人 永井 道雄  

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