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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1237331 |
審判番号 | 不服2009-5702 |
総通号数 | 139 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-03-16 |
確定日 | 2011-05-17 |
事件の表示 | 特願2004-380221「有機電界発光素子及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月 6日出願公開、特開2005-276809〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2004年(平成16年)12月28日(パリ条約による優先権主張2004年3月24日、大韓民国)の出願であって、平成20年12月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成21年3月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年4月15日に手続補正がなされたものである。 その後、当審において平成22年7月21日付けで審尋を行い、同年10月26日付けで回答書が提出されている。 第2 本願発明 本願の請求項13に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年4月15日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項13に記載された事項により特定されるとおりのものである。 ただし、当該請求項13の記載のうち、「前記透明導電物質」は「透明導電物質」の、「を特徴とするに記載の有機電界発光素子」は「を特徴とする有機電界発光素子」の、それぞれ誤記であると認め、本願発明は次のとおりのものとして審理を行う。 「【請求項13】 基板に形成された複数の薄膜トランジスタと; 前記薄膜トランジスタが形成された基板上に順次形成される保護膜及び第1電極と; 前記薄膜トランジスタのドレイン電極が露出するように前記ドレイン電極上部に形成された前記保護膜及び第1電極の一部領域に形成されたコンタクトホールと; 前記第1電極の縁一部領域に形成されるバッファー層と; 前記バッファー層により定義された領域内に形成される有機発光層と; 前記有機発光層上部に形成され、前記コンタクトホールを介して前記薄膜トランジスタのドレイン電極と連結される第2電極で構成されること; 透明導電物質が前記第1電極として用いられる場合は前記第1電極下部に反射板としての役割をする金属層がさらに具備されること; 前記有機発光層は前記第1電極上部から正孔注入層(HIL)、正孔伝達層(HTL)、発光層(EML)、電子伝達層(ETL)の順序で積層されて形成されることを特徴とする有機電界発光素子。」 なお、上記平成21年4月15日付け手続補正による特許請求の範囲の補正は、請求項4についてする誤記の訂正を目的とするものであるから、適法な補正である。 第3 引用例 1 引用例の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-295792号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。(後述の「2 引用発明の認定」で特に引用した箇所に下線を付した。) (1)「【請求項1】 基板上に構成される有機LEDデバイスであって、該有機LEDデバイスは、前記基板上に形成されるスイッチングTFTおよびドライバTFTと、前記基板上に絶縁膜を介して画素ごとに形成され、かつ前記ドライバTFTに接続された有機LED素子と、コモン電極に接続されるアノードと、前記ドライバTFTと前記絶縁膜上に形成された前記有機LED素子とを接続させるカソードとを含み、前記アノードは、複数の画素を接続して形成される有機LEDデバイス。 【請求項2】 前記ドライバTFTは、n型アモルファス・シリコンまたはn型多結晶シリコンを活性層として含む請求項1に記載の有機LEDデバイス。 【請求項3】 前記有機LED素子は、自己整合的に形成された部分を含む少なくとも発光部と、電子輸送部とを含んで構成される請求項1または2のいずれか1項に記載の有機LEDデバイス。 【請求項4】 前記有機LEDデバイスは、トップエミッション構造である請求項1?3のいずれか1項に記載の有機LEDデバイス。」 (2)「【0004】図9に示される有機LEDデバイスは、ガラス基板上に、p型ドープされた多結晶シリコン(poly-Si)から形成された薄膜トランジスタ(TFT)構造82が形成されて構成されている。TFT構造82は、図9に示すように、絶縁膜84により上部構造から絶縁されている。また、絶縁膜84の上部には、例えばモリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)といった金属から形成された反射性のアノード86が形成されている。反射性のアノード86に隣接した上層には、ホール注入層88が形成されており、さらにその上層には、ホール輸送層90と、電子輸送層92とが形成されていて、有機LED素子の発光を可能とする構成とされている。」 (3)「【0020】 【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、トップエミッション構造においてn型ドライバTFTを使用し、同時にアノードをアクティブ・マトリックス駆動される有機LEDデバイスの複数の画素にわたって接続するアノード・コモン構成を採用する。 【0021】本発明では、n型ドライバTFTにおいてアノード・コモン構成を採用することにより、有機LED素子の特性変化のVgsに対する影響を最小とすることができ、特性の安定化を達成することができることが見出された。 【0022】さらに、本発明においては、アノードは、ドライバTFTが形成されると同一の平面上に形成されたコモン電極に接続するように形成させるのではなく、ドライバTFTの上部に形成される平坦化のために形成される絶縁膜上において、コモン電極と同一のレベルに形成される。アノードは、Al、Ni、Coなどの金属といった低抵抗な材料で形成される。本発明により形成されたアノードを用いることで、複数の画素に接続されるコモン電極を低抵抗化し、大面積の有機LEDデバイスを提供することが可能となる。 【0023】すなわち、本発明は、n型ドライバTFTを使用すると同時に、アノードを複数の画素に接続するアノード・コモン構造を採用することで、従来の構成を採用する場合に不可避的に発生する構成の複雑化を低減することを可能とする。さらに本発明は、アノードを画素毎に形成するのではなく、ライン状または平面として接続することによりコモン電極として使用することを可能とする。」 (4)「【0031】 【発明の実施の形態】以下、本発明を図面に示した実施の形態に基づいて詳細に説明するが、本発明は、上述する実施の形態に限定されるものではない。図1は、本発明により構成されたアノード・コモン構造を採用した有機LEDデバイス10のドライバ回路の構成を示した図である。図1に示されるように、ドライバ回路は、n型TFTにより形成されており、n型ドライバTFT12と、n型スイッチングTFT14とが接続されて、有機LED16を駆動する構成とされている。本発明の好適な実施の形態においては、ドライバTFT12と、スイッチングTFT14とを共にn型ドープとすることが好ましい。 【0032】しかしながら、本発明においては、ドライバTFT12と、スイッチングTFT14とをドープ・タイプの異なったTFTとして構成することも可能である。図1を参照してさらに詳細にドライバ回路を説明すると、ドライバTFT12のゲート電極12gは、キャパシタ18を介してコモン電極20に接続されている。また、ドライバTFT12のドレイン電極12dは、有機LED素子16のカソードに接続されている。また、ドライバTFT12のソース電極12sが接地されていて、アノード・コモン構造を与える構成とされている。 【0033】ドライバTFT12のゲート電極12gは、さらにスイッチングTFT14のドレイン電極14dに接続され、ソース電極14sは、データライン22に接続され、ゲート電極14gが選択ライン24に接続されて、有機LED素子16を駆動している。図1に示されたドライバ回路が、有機LEDデバイスの画素を形成し、この画素が複数平面上に配置されてアクティブ・マトリックス型の駆動方式を可能とさせている。」 (5)「【0037】さらに、図2を参照して本発明の有機LEDデバイス10を説明すると、有機LEDデバイス10のドライバ回路は、基板26上に構成されたスイッチングTFT14と、ドライバTFT12と、それぞれのTFTを接続するためのライン28と、カソード36に各TFTを接続させるためのライン30とを含んで構成されている。基板26は種々の材料から構成することができ、例えばSiO_(x)、SiO_(x)N_(y)、Si、金属酸化物といった材料から構成された基板を適宜用いることができる。 【0038】図2に示されたドライバ回路においては、それぞれのTFT12、14は、ポリマーといった絶縁性材料から形成された絶縁膜32により上部構造から絶縁されている。絶縁膜32上には、各種のラインがこれまで知られたパターニング技術により形成されている。例えば、絶縁膜32上には、Al、Mo、Ni、ITOといった導電性の材料から形成され、ライン状、または面状にパターニングされたアノード34が、図示しないコモン電極と同一のレベルに形成されている。また、アノード34は、図示しない他の画素のアノードに接続されていて、アノード・コモン方式において有機LED素子16を駆動している。 【0039】カソード36は、アノード34から有機LED素子16により絶縁されて配置されており、有機LED素子16を発光させることが可能な構成とされている。また、カソード36は、ビア・ホール38を介して、下層側に形成されたドライバTFT12のドレイン電極12dへと接続するライン30に接続されている。 【0040】本発明においては、上述した構成を採用することにより、カソード36とアノード34とに対してそれぞれコンタクト・ホールを形成させることなく開口率を高めることが可能となる。また、本発明によれば、アノード34は、容易・かつ簡易な構成でコモン電極を介して他の画素へと接続させる構成を採用することができる。 【0041】また、アノード34を面状またはライン状として導電性の高い金属などから構成することを可能とすることができるので、アノード34を低抵抗化することができる。このため、本発明は、画面の端部から中央部にかけて著しい電圧低下を生じさせることがなく、大画面化を達成することを可能とする。」 (6)「【0042】図3は、本発明の有機LEDデバイスの製造方法を示した図である。図3に示されるように、本発明においては、まず、図3(a)に示されるように、絶縁性の基板42上に、ゲート電極44と、データ信号を送るためのライン(図示せず)をパターニングする。次いで、図3(b)に示されるように、SiNx、SiOy、SiOxNyといった材料から構成されるゲート絶縁膜48およびpoly-Siまたはa-Siから構成される活性層50を堆積させ、チャネル保護層(エッチング・ストッパ)52をパターニングする。ついで、図3(c)に示されるように、Mo/Al/Moといった構成のソース電極54、ドレイン電極56をパターニングする。 【0043】その後、図3(d)に示されるように、SiNxなどの絶縁膜58を堆積させ、絶縁膜58にコンタクト・ホール60を形成する。次いで、本発明の製造方法においては、図3(e)に示されるようにITOといった導電性膜の接続要素61を形成させて、後述する上部配線との接続要素を形成する。この接続要素61は省略することも可能だが、下層側のドライバTFTと上層側の有機LED素子との間の良好な電気的接続を得るために、形成することが望ましい。 【0044】図4は、図3に示した製造プロセスの後に続く製造プロセスを示した図である。図4に示した製造プロセスにおいては、図4(a)に示されるように、図3(e)で形成された構造上にポリマー絶縁膜62を成膜し、コンタクト・ホール60に対応する開口64を形成させる。次いで、図4(b)に示されるように、ITO、Mo、ITO/Moといった導電性材料の層を形成する。この導電性材料の層をパターニングすることで、図4(b)に示した有機LED素子に対するアノード66を構成する。さらに、下層側に形成されたドライバTFTに対するカソードの電気的接続性を安定化させるための接続要素68をコンタクト・ホール60および開口64の内側面に、同時に構成する。この接続要素68も省略することができるが、前述したと同じ理由から、接続要素68を形成することが望ましい。 【0045】次いで、本発明の製造プロセスにおいては、図4(c)に示すように、有機LED素子と他の構造とを絶縁するための有機絶縁膜または無機絶縁膜67を成膜させ、パターニングして、有機LED素子を構成するための領域を形成させる。有機LED素子の画定に関わらない部分67’は除去してもよいが、最終的に得られる構造の平坦性などを考慮すると、有機LEDデバイスの機能に影響しない限り除去する必要はない。 ・・・(中略)・・・ 【0048】次いで、本発明の製造プロセスにおける特定の実施の形態においては、図6に示すように、有機LED素子16を、シャドウ・マスクMを使用して他の領域を保護させつつ、蒸着といった適切な成膜技術を使用して自己整合的に成膜する。この有機LED素子は、露出したアノード電極66上にホール注入層と、発光層と、電子輸送層といった層を含んで構成され、この際、有機LED素子の厚さは、適宜設定することができる。例えば本発明の特定の実施の形態においては、上述した有機LED素子の厚さとしては、100nm?200nmとすることができる。 ・・・(中略)・・・ 【0051】その後、本発明の製造プロセスにおいては、図7に示されるように、図6において形成された有機LED素子および他の構造を被覆するように、MgAg、AlLiといった仕事関数の小さな材料からカソード76をパターニングする。前述したように、カソードは透明性を付与するために非常に薄い膜として形成される。・・・(後略)・・・」 (7)図2及び図4(b)から、アノードが絶縁膜上であって少なくともビア・ホールを形成した領域を除いて形成されていること、並びに図2及び図4(c)から、有機絶縁膜または無機絶縁膜67が、アノードの縁に形成されていることが見て取れる。 2 引用発明の認定 上記記載事項及び上記記載事項に関連する図面から、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「トップエミッション構造においてn型ドライバTFTを使用し、同時にアノードをアクティブ・マトリックス駆動される有機LEDデバイスの複数の画素にわたって接続するアノード・コモン構成を採用した有機LEDデバイス10であって、 該有機LEDデバイス10は、 基板26上に形成されるn型スイッチングTFT14およびn型ドライバTFT12を有し、それぞれのTFT12、14は絶縁膜32により上部構造から絶縁されており、 当該絶縁膜32上には、Al、Mo、Ni、ITO、ITO/Moといった導電性の材料から形成され、面状にパターニングされたアノード34が少なくともビア・ホール38を形成した領域を除いて形成され、当該アノード34は、他の画素のアノード及びコモン電極に接続されていて、 カソード36は、アノード34から有機LED素子16により絶縁されて配置され、前記ビア・ホール38を介して、下層側に形成されたドライバTFT12のドレイン電極12dへと接続するライン30に接続されて有機LED素子16を発光させることが可能な構成とされており、 アノードの縁には、有機LED素子16と他の構造とを絶縁し、有機LED素子16を構成するための領域を形成させる有機絶縁膜または無機絶縁膜67を有し、 前記有機LED素子16は、露出したアノード電極上にホール注入層と、発光層と、電子輸送層といった層を含んで構成されるものである、有機LEDデバイス。」 第4 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「有機LEDデバイス」が本願発明の「有機電界発光素子」に相当することは、当業者に明らかであり、そして、引用発明の有機LEDデバイス10は、「アクティブ・マトリックス駆動される」「複数の画素」を備えているのであるから、引用発明の「基板26上に形成されるn型スイッチングTFT14およびn型ドライバTFT12」は、本願発明の「基板に形成された複数の薄膜トランジスタ」に相当する。 (2)引用発明の「それぞれのTFT12、14」を上部構造から絶縁する「絶縁膜32」及び「当該絶縁膜32上」に形成される「アノード34」は、本願発明の「前記薄膜トランジスタが形成された基板上に順次形成される保護膜及び第1電極」に相当する。 (3)引用発明の、「カソード36は、アノード34から有機LED素子16により絶縁されて配置されており、ビア・ホール38を介して、下層側に形成されたドライバTFT12のドレイン電極12dへと接続するライン30に接続されて有機LED素子16を発光させることが可能な構成とされて」いる点と、本願発明の「前記薄膜トランジスタのドレイン電極が露出するように前記ドレイン電極上部に形成された前記保護膜及び第1電極の一部領域に形成されたコンタクトホール」及び「前記有機発光層上部に形成され、前記コンタクトホールを介して前記薄膜トランジスタのドレイン電極と連結される第2電極」とを備える点とを対比する。 引用発明の絶縁膜32は、TFT12を上部構造から絶縁し、引用発明のカソード36は、ビア・ホール38を介してTFT12のドレイン電極12dへと接続するライン30と接続しているのであるから、引用発明のビア・ホール38は、カソード36とドレイン電極12dとを電気的に接続可能なように絶縁膜32に形成されているといえる。 また、引用発明の、アノード34から有機LED素子16により絶縁されて配置され、有機LED素子16を発光させることが可能な「カソード36」は、有機LEDの技術常識からして、有機LED素子16の上部に形成されていることは明らかである。 よって、上記両者は、「薄膜トランジスタのドレイン電極と電気的に接続可能なように保護膜に形成されたコンタクトホール」及び「前記有機発光層上部に形成され、前記コンタクトホールを介して前記薄膜トランジスタのドレイン電極と電気的に接続される第2電極」を具備する点で一致する。 (4)引用発明の「有機絶縁膜または無機絶縁膜67」は、「アノードの縁」にあって、かつ「有機LED素子16と他の構造とを絶縁し、有機LED素子16を構成するための領域を形成させる」ものであり、前記有機絶縁膜または無機絶縁膜67にて領域を形成される有機LED素子16は、「露出したアノード電極上にホール注入層と、発光層と、電子輸送層といった層を含んで構成されるもの」であるから、引用発明の「有機絶縁膜または無機絶縁膜67」及び「有機LED素子16」は、それぞれ本願発明の「前記第1電極の縁一部領域に形成されるバッファー層」及び「前記バッファー層により定義された領域内に形成される有機発光層」に相当する。 (5)引用発明の「Al、Mo、Ni、ITO、ITO/Moといった導電性の材料から形成され」る「アノード34」と、本願発明の「前記透明導電物質が前記第1電極として用いられる場合は前記第1電極下部に反射板としての役割をする金属層がさらに具備される」点とを対比する。 引用発明のアノード34が、本願発明の第1電極に相当することは上述(2)のとおりである。 そして、引用例の上記記載事項(2)には、「例えばモリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)といった金属から形成された反射性のアノード86が形成されている。」と記載されており、本願の明細書の段落【0086】には「ただし、前記第1電極570の材料でアルミニウム(Al)またはクロム(Cr)等有色金属を用いる場合には前記反射板は形成しなくても構わない。」と記載されていることから、引用発明のアノード34に用いられる「Al、Mo、Ni」は透明導電物質ではなく、すなわち、引用発明には、第1電極として透明導電物質を用いない場合が開示されているといえ、上記本願発明の「前記透明導電物質が前記第1電極として用いられる場合」には該当しない。 また、引用発明の上記導電性の材料において、「ITO」が透明導電物質であることは当業者に周知の事項であるから、引用発明の「ITO/Mo」で形成したアノードは、本願発明の「透明導電物質が第1電極として用いられる場合」に該当するものである。そして、引用発明において、アノードとして用いられる材料のうち、少なくとも「Mo、Ni」は反射性の金属層であることは明らかであるから、引用発明の「ITO/Mo」で形成したアノードは、透明導電物質からなる層と反射板としての役割をする金属層との積層構造であるといえる。してみれば、上記両者は、「前記透明導電物質が前記第1電極として用いられる場合は前記第1電極に反射板としての役割をする金属層がさらに具備される」点で一致する。 (6)引用発明の「前記有機LED素子は、露出したアノード電極上にホール注入層と、発光層と、電子輸送層といった層を含んで構成される」点と、本願発明の「前記有機発光層は前記第1電極上部から正孔注入層(HIL)、正孔伝達層(HTL)、発光層(EML)、電子伝達層(ETL)の順序で積層されて形成される」点とを対比すると、両者は「前記有機発光層は前記第1電極上部から正孔注入層(HIL)、発光層(EML)、電子伝達層(ETL)の順序で積層されて形成される」点で一致する。 2 一致点・相違点 以上のとおりであるから、本願発明と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。 [一致点] 「基板に形成された複数の薄膜トランジスタと; 前記薄膜トランジスタが形成された基板上に順次形成される保護膜及び第1電極と; 薄膜トランジスタのドレイン電極と電気的に接続可能なように保護膜に形成されたコンタクトホールと; 前記第1電極の縁一部領域に形成されるバッファー層と; 前記バッファー層により定義された領域内に形成される有機発光層と; 前記有機発光層上部に形成され、前記コンタクトホールを介して前記薄膜トランジスタのドレイン電極と電気的に接続される第2電極で構成されること; 前記透明導電物質が前記第1電極として用いられる場合は前記第1電極に反射板としての役割をする金属層がさらに具備されること; 前記有機発光層は前記第1電極上部から正孔注入層(HIL)、発光層(EML)、電子伝達層(ETL)の順序で積層されて形成される有機電界発光素子。」 [相違点1] コンタクトホールと第2電極について、本願発明のコンタクトホールは「前記薄膜トランジスタのドレイン電極が露出するように前記ドレイン電極上部に形成された前記保護膜及び第1電極の一部領域に形成され」、第2電極は「前記コンタクトホールを介して前記薄膜トランジスタのドレイン電極と連結される」ものであるのに対し、引用発明のビア・ホール38は上記発明特定事項を有しておらず、カソード36は、ビア・ホール38を介して、下層側に形成されたドライバTFT12のドレイン電極12dへと接続するライン30に接続されている点。 [相違点2] 透明導電物質が前記第1電極として用いられる場合に具備される、反射板としての役割をする金属層の位置が、本願発明では「第1電極下部」であるのに対し、引用発明の「ITO/Mo」では、反射性の金属層であるMoが、ITOの上下どちらに積層されているのか不明である点。 [相違点3] 本願発明の有機発光層が、「正孔注入層(HIL)、正孔伝達層(HTL)、発光層(EML)、電子伝達層(ETL)」の順序で積層されて形成されるものであるのに対し、引用発明の有機LED素子16はこれとは異なる点。 第5 当審の判断 1 上記の相違点について検討する。 (1)相違点1について 引用例の図3?4、7は、引用発明の有機LEDデバイスの製造方法に関する図面であって、絶縁膜58に形成するコンタクトホール60、及びポリマー絶縁膜62に形成する開口64を、ともにドレイン電極56が露出するように形成し、これらコンタクトホール60及び開口64を介して有機LEDデバイスのカソード76とドライバTFTのドレイン電極56とを連結するものが見て取れる。 してみれば、引用例の明細書には、文言上、有機LEDデバイスのカソード36とドライバTFT12のドレイン電極12dとをビア・ホール38を介して電気的に接続する際、前記カソード36とドレイン電極12dとを「ライン30」を介して電気的に接続するものしか記載はないものの、図3?4、7に基づく上記事項を考慮して、引用発明におけるビア・ホール38を、ドレイン電極12dが露出するように形成したビア・ホール38とし、そのようなビア・ホール38を介してドレイン電極12dとカソード36とが連結されるような構造に変えることは、当業者が容易になし得ることである。 次に、第1電極とコンタクトホールの関係について検討する。 本願発明を引用する請求項18には、「前記第1電極は前記コンタクトホール形成領域を除外した領域上に形成されていることを特徴とする請求項13に記載の有機電界発光素子。」と記載されている。すなわち、本願発明は有機電界発光素子という物の発明であるところ、本願発明の「第1電極の一部領域に形成されたコンタクトホール」という発明特定事項を有する有機電界発光素子は、「前記第1電極は前記コンタクトホール形成領域を除外した領域上に形成されている」有機電界発光素子を包含するものである。 そして、引用発明のアノード34(本願発明の「第1電極」に相当する。)は、「少なくともビア・ホール38を形成した領域を除いて形成されている」のであるから、引用発明も、本願発明を限定した「第1電極の一部領域に形成されたコンタクトホール」という発明特定事項を含むものであるといえる。 以上のとおりであるから、引用発明を、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得たことである。 (2)相違点2について 最初に、上記「第4 対比・判断」「1 対比」の「(5)」に記したように、引用発明には、第1電極として透明導電物質を用いない場合が開示されているのであるから、上記相違点2は実質的な相違点ではない。 念のため、引用発明のアノード34として「ITO/Mo」を採用した場合について上記相違点2について検討すると、電極を構成するITO/Moの2層構造のうち、反射性の金属であるMo層をITO層の上下どちらに積層したとしても、ITOは透明導電物質であるからMo層が反射板としての役割を果たすことは明らかであるから、引用発明においてMo層の配置をITO下部にすることは当業者が容易になし得たことである。 よって、上記相違点2は実質的な相違点ではなく、仮に相違点であったとしても、引用発明に上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を付加することは、当業者が容易になし得たことである。 (3)相違点3について 引用発明では、アノードと発光層との間に設ける層として「ホール注入層」しか記載されていないが、有機LED、有機EL、または有機電界発光素子と呼ばれる技術分野において、アノードと発光層との間に、正孔注入層、正孔伝達層の順に積層した2層を設けることは当業者に周知の技術的事項にすぎない。(例えば、特開2004-55404号公報の段落【0015】?【0016】及び特開2003-234193号公報の段落【0019】の記載を参照。) よって、本願発明に上記周知の技術的事項を適用して、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。 2 本願発明の奏する作用効果について 引用発明のドライバ回路及び積層構造からして、本願発明の奏する作用効果も、引用発明及び周知の技術的事項から当業者が予測し得る範囲内のもので、格別のものとはいえない。 3 まとめ よって、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-12-13 |
結審通知日 | 2010-12-15 |
審決日 | 2011-01-04 |
出願番号 | 特願2004-380221(P2004-380221) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H05B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 磯貝 香苗 |
特許庁審判長 |
村田 尚英 |
特許庁審判官 |
今関 雅子 樋口 信宏 |
発明の名称 | 有機電界発光素子及びその製造方法 |
代理人 | 越智 隆夫 |
代理人 | 加藤 伸晃 |
代理人 | 朝日 伸光 |
代理人 | 岡部 正夫 |
代理人 | 臼井 伸一 |
代理人 | 岡部 讓 |