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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1237414
審判番号 不服2008-5123  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-03 
確定日 2011-05-23 
事件の表示 特願2002-291369「合成樹脂成形体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年4月22日出願公開、特開2004-123944〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成14年10月3日の特許出願であって、平成19年11月5日付けで拒絶理由が通知され、同年12月26日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成20年1月24日付けで拒絶査定がなされ、同年3月3日に拒絶査定不服審判が請求され、同年4月1日に手続補正書とともに審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年6月27日付けで前置報告がなされ、当審で平成22年6月23日付けで審尋がなされ、同年8月19日に回答書が提出されたものである。



第2 平成20年4月1日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年4月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成20年4月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成19年12月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲について
「【請求項1】
次亜塩素酸塩または過酸化水素が含有される内容液が収容される容器に嵌合により取付けまたはねじにより締め付けられて装着されるとともに、この内容液と接することのある合成樹脂成形体であって、
エチレンの単独重合により得られる高密度ポリエチレン、またはエチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとの共重合により得られる密度が0.91?0.97g/cm^(3) であるエチレン系共重合体のいずれかからなる樹脂組成物であり、
前記樹脂組成物のメルトフローレートが3?40g/10minであり、
かつ、前記樹脂組成物の曲げ弾性率が200?1300MPaである
樹脂組成物を用いて射出成形または圧縮成形されていること特徴とする合成樹脂成形体。
【請求項2】
前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれかからなる前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて成形されていることを特徴とする請求項1記載の合成樹脂成形体。」
を、
「【請求項1】
次亜塩素酸塩または過酸化水素が含有される内容液が収容される容器に嵌合により取付けまたはねじにより締め付けられて装着されるとともに、この内容液と接することのある合成樹脂成形体であって、
エチレンの単独重合により得られる高密度ポリエチレン、またはエチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとの共重合により得られる密度が0.91?0.97g/cm^(3) であるエチレン系共重合体のいずれかからなる樹脂組成物であり、
前記樹脂組成物のメルトフローレートが3?40g/10minであり、
かつ、前記樹脂組成物の曲げ弾性率が200?1300MPaである
いずれかからなる前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて、
射出成形または圧縮成形された成形体のピン嵌合力が3.0?9.3kgfであること特徴とする合成樹脂成形体。」
と補正するものを含むものである。

2.補正の適否について
本件補正は、次の補正事項1を含むものである。

<補正事項1>補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項2を補正後の請求項1とした上で、「前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて、射出成形または圧縮成形された」合成樹脂成形体について、その「ピン嵌合力が3.0?9.3kgfである」と限定。

そこで、願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、併せて「当初明細書」という。)の記載について検討する。
当初明細書においては、以下のとおり記載されている。

(a)「【請求項1】
次亜塩素酸塩または過酸化水素が含有される内容液が収容される容器に装着されるとともに、この内容液と接することのある合成樹脂成形体であって、
エチレンの単独重合により得られる高密度ポリエチレン、またはエチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとの共重合により得られる密度が0.91?0.97g/cm^(3) であるエチレン系共重合体のいずれかからなる樹脂組成物を用いて成形されていること特徴とする合成樹脂成形体。
【請求項2】
前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれかからなる前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて成形されていることを特徴とする請求項1記載の合成樹脂成形体。
【請求項3】
前記樹脂組成物のメルトフローレートが3?40g/10minである樹脂組成物を用いて成形されていることを特徴とする請求項1または2記載の合成樹脂成形体。
【請求項4】
前記樹脂組成物の曲げ弾性率が250?1300MPaである樹脂組成物を用いて成形されていることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の合成樹脂成形体。」(特許請求の範囲の請求項1?4)

(b)「【発明の属する技術分野】
この発明は合成樹脂成形体に関し、少なくとも次亜塩素酸塩または過酸化水素を含む家庭用洗剤、漂白剤、殺菌剤等の内容液を収容する容器に取り付けられてこれらの内容液と接することのあるトリガーディスペンサの構成部品や容器のキャップ等の合成樹脂成形体であって、その成形性を確保しつつ耐内容物性や強度を確保できるようにしたものである。」(段落【0001】)

(c)「また、この発明の請求項2記載の合成樹脂成形体は、請求項1記載の構成に加え、前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれかからなる前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて成形されていることを特徴とするものである。
この合成樹脂成形体によれば、前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれかからなる前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて成形して構成しており、他のオレフィン系樹脂と少なくとも前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれかとからなる樹脂組成物によっても、次亜塩素酸塩または過酸化水素が含有される内容液と接することがあっても耐内容物性(耐薬品性)や強度を向上できると同時に、射出成形による成形精度などの成形性を向上できるようになる。」(段落【0021】?【0022】)

(d)「また、この発明の合成樹脂成形体で用いる樹脂組成物は、これら高密度ポリエチレンまたはエチレン系共重合体のいずれかからなる樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂としたものであっても良く、上記高密度ポリエチレンまたは上記エチレン系共重合体のいずれかからなる樹脂組成物を含むことで、クラックなどの亀裂や破損の発生等の耐内容物性(耐薬品性)の向上、および嵌合に必要な強度や硬さなどの強度の向上を図り、しかも射出成形が可能である樹脂組成物の流動性などの成形性を確保することができる。
この発明の合成樹脂成形体で用いる樹脂組成物の他のオレフィン系樹脂に含む高密度ポリエチレンまたはエチレン系共重合体のいずれかからなる樹脂組成物の含有量1?99wt%は、成形体の物性を損なわない範囲とすれば良い。
また、他のオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンおよびプロピレン系共重合体、ポリ(4-メチルペンテン-1)などのオレフィン系重合体、またはアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、6-ナイロン、6,6-ナイロン、12-ナイロン、ABS樹脂などを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上の組み合わせを含んでも良い。」(段落【0040】?【0042】)

(e)「そして、このような樹脂組成物を用いる成形法としては、従来公知の射出成形法、圧縮成形法などを用いることができ、特に射出成形法が好ましく、高精度の合成樹脂成形体を得ることができる。」(段落【0046】)

(f)「【実施例】
次に、この発明の合成樹脂成形体の実施例について、比較例とともに具体的に説明するが、この発明はこれら実施例に限定するものでない。
各実施例及び各比較例では、樹脂組成物の異なるものを用意し、これらの樹脂組成物を用いて射出成形により図1に示すようなトリガーディペンサの回転スライドバルブに相当する底付き円筒状のテストピースをそれぞれ50個ずつ成形した。
そして、このテストピースを用いて合成樹脂成形体について、成形性の判定、ピン挿入力の測定を行って評価するとともに、クラック耐性試験を行ってクラックに対する耐性を調査し、クラック耐性試験後のテストピースのピン嵌合力の測定を行って評価した。
<評価方法>
・・・
4. ピン嵌合力
上記のクラック耐性試験供試後のテストピースにおいて、挿入されているSUS製ピンを圧縮引張試験機(オリエンテック(株)製、テンシロンUCT-500)を用いて、50mm/minの速度で挿入する際の最大荷重を測定した。
このピン嵌合力は、通常3kgf以上必要であることからこの値を基準に判定した。
[実施例1]
樹脂組成物として、チーグラー触媒存在下、溶液法重合にて高密度ポリエチレンを得た。得られた高密度ポリエチレンは密度(JIS K 6922-2)が0.967g/cm^(3) 、曲げ弾性率(JIS K 6922-2)が1300MPa、メルトフローレート(MFR)(JIS K 6922-2)が20g/10minであった。
この高密度ポリエチレンを、射出成形機(日精樹脂工業(株)製、型番:UH-1000)を用いて、下記の成形条件で射出成形し、底付き円筒状のテストピース(成形体)を成形した。
<成形条件>
射出樹脂温度:210℃
射出樹脂圧力:500kg/m^(2)
成形体体積 :0.675cm^(3)
成形体質量 :0.65g
金型温度 :20℃
<試験結果>
上記試験を行った結果を表1に示す。
得られた成形体はヒケ、ショートショットといった成形不良もなく成形性は良好であり、ピン挿入力も16.0kgfと挿入可能な範囲であった。
また、クラック耐性試験でのクラック発生も見られず、ピン嵌合力も9.3kgfと必要な3.0kgfを十分に上回っていた。
ただし、ピン挿入方向と反対側には挿入時についたと思われるキズ(微小なツブレ)があった。
[実施例2]
樹脂組成物として実施例1の高密度ポリエチレンの代わりにエチレン系共重合体Aを用いた。このエチレン系共重合体Aは、密度が0.965g/cm^(3) 、曲げ弾性率が1250MPa、メルトフローレート(MFR)が12g/10minであった。
このエチレン系共重合体Aを用い、実施例1と同様にして、射出成形し成形体(成形体質量:0.65g)を得た。
得られた成形体について上記試験を行った結果は、表1中に示すように、ヒケ、ショートショットといった成形不良もなく成形性は良好であり、ピン挿入力も15.0kgfと挿入可能な範囲であった。
また、クラック耐性試験でのクラック発生も見られず、ピン嵌合力も8.5kgfと必要な3.0kgfを十分に上回っていた。
[実施例3]
樹脂組成物として実施例1の高密度ポリエチレンの代わりにエチレン系共重合体Bを用いた。このエチレン系共重合体Bは、密度が0.956g/cm^(3) 、曲げ弾性率が900MPa、メルトフローレート(MFR)が40g/10minであった。
このエチレン系共重合体Bを用い、実施例1と同様にして、射出成形し成形体(成形体質量:0.65g)を得た。
得られた成形体について上記試験を行った結果は、表1中に示すように、ヒケ、ショートショットといった成形不良もなく成形性は良好であり、ピン挿入力も14.1kgfと挿入可能な範囲であった。
また、クラック耐性試験でのクラック発生も見られず、ピン嵌合力も7.4kgfと必要な3.0kgfを十分に上回っていた。
[実施例4]
樹脂組成物として実施例1の高密度ポリエチレンの代わりにエチレン系共重合体Cを用いた。このエチレン系共重合体Cは、密度が0.948g/cm^(3) 、曲げ弾性率が710MPa、メルトフローレート(MFR)が3g/10minであった。
このエチレン系共重合体Cを用い、実施例1と同様にして、射出成形し成形体(成形体質量:0.64g)を得た。
得られた成形体について上記試験を行った結果は、表1中に示すように、ヒケ、ショートショットといった成形不良もなく成形性は良好であり、ピン挿入力も12.7kgfと挿入可能な範囲であった。
また、クラック耐性試験でのクラック発生も見られず、ピン嵌合力も6.5kgfと必要な3.0kgfを十分に上回っていた。
[実施例5]
樹脂組成物として実施例1の高密度ポリエチレンの代わりにエチレン系共重合体Dを用いた。このエチレン系共重合体Dは、密度が0.935g/cm^(3) 、曲げ弾性率が430MPa、メルトフローレート(MFR)が10g/10minであった。
このエチレン系共重合体Dを用い、実施例1と同様にして、射出成形し成形体(成形体質量:0.63g)を得た。
得られた成形体について上記試験を行った結果は、表1中に示すように、ヒケ、ショートショットといった成形不良もなく成形性は良好であり、ピン挿入力も10.2kgfと挿入可能な範囲であった。
また、クラック耐性試験でのクラック発生も見られず、ピン嵌合力も5.2kgfと必要な3.0kgfを十分に上回っていた。
[実施例6]
樹脂組成物として実施例1の高密度ポリエチレンの代わりにエチレン系共重合体Eを用いた。このエチレン系共重合体Eは、密度が0.920g/cm^(3) 、曲げ弾性率が250MPa、メルトフローレート(MFR)が9g/10minであった。
このエチレン系共重合体Eを用い、実施例1と同様にして、射出成形し成形体(成形体質量:0.62g)を得た。
得られた成形体について上記試験を行った結果は、表1中に示すように、ヒケ、ショートショットといった成形不良もなく成形性は良好であり、ピン挿入力も8.3kgfと挿入可能な範囲であった。
また、クラック耐性試験でのクラック発生も見られず、ピン嵌合力も4.0kgfと必要な3.0kgfを上回っていた。
[実施例7]
樹脂組成物として実施例1の高密度ポリエチレンの代わりにエチレン系共重合体Fを用いた。このエチレン系共重合体Fは、密度が0.910g/cm^(3) 、曲げ弾性率が200MPa、メルトフローレート(MFR)が7g/10minであった。
このエチレン系共重合体Fを用い、実施例1と同様にして、射出成形し成形体(成形体質量:0.61g)を得た。
得られた成形体について上記試験を行った結果は、表1中に示すように、ヒケ、ショートショットといった成形不良もなく成形性は良好であり、ピン挿入力も6.7kgfと挿入可能な範囲であった。
また、クラック耐性試験でのクラック発生も見られなかったが、ピン嵌合力は3.0kgfと必要最低限の強度であった。
[比較例1]
樹脂組成物として実施例1の高密度ポリエチレンの代わりにエチレン-プロピレンブロック共重合体を用いた。このエチレン-プロピレンブロック共重合体は、密度が0.905g/cm^(3) 、曲げ弾性率が1250MPa、メルトフローレート(MFR)が18g/10minであった。
なお、このエチレン-プロピレンブロック共重合体は、通常の界面活性剤等からなる洗剤用途等のトリガーディスペンサの内容液と接する構成部品の素材としては有用なものであり、広く用いられている。
このエチレン-プロピレンブロック共重合体を用いて、下記の成形条件で射出成形し成形体(成形体質量:0.61g)を得た。
<成形条件>
射出樹脂温度:240℃
射出樹脂圧力:500kg/m^(2)
成形体体積 :0.675cm^(3)
金型温度 :20℃
得られた成形体について上記試験を行った結果は、表1中に示すように、ヒケ、ショートショットといった成形不良もなく、ピン挿入力も14.8kgfと挿入可能な範囲であったが、クラック耐性試験において2週間区からクラックが発生し始め、5週間区までに全てのサンプルでクラックが発生した。このため、ピン嵌合力の測定は実施できなかった。
[比較例2]
樹脂組成物として実施例1の高密度ポリエチレンの代わりにエチレン系共重合体Gを用いた。このエチレン系共重合体Gは、密度が0.953g/cm^(3) 、曲げ弾性率が840MPa、メルトフローレート(MFR)が45g/10minであった。
このエチレン系共重合体Gを用い、実施例1と同様にして、射出成形し成形体(成形体質量:0.64g)を得た。
得られた成形体について上記試験を行った結果は、表1中に示すように、ヒケ、ショートショットといった成形不良もなく、ピン挿入力も13.5kgfと挿入可能な範囲であったが、クラック耐性試験において4週間区からクラックが発生し始め、8週間区までに100%のサンプルでクラックが発生した。このため、ピン嵌合力の測定は実施できなかった。
[比較例3]
樹脂組成物として実施例1の高密度ポリエチレンの代わりにエチレン系共重合体Hを用いた。このエチレン系共重合体Hは、密度が0.949g/cm^(3) 、曲げ弾性率が720MPa、メルトフローレート(MFR)が2g/10minであった。
このエチレン系共重合体Hを用い、実施例1と同様にして、射出成形し成形体(成形体質量:0.64g)を得た。
得られた成形体について上記試験を行った結果は、表1中に示すように、成形においてショートショットが発生し、成形品を得ることが出来なかった。
このため、ピン挿入力、クラック耐性試験、ピン嵌合力の評価・測定は実施できなかった。
[比較例4]
樹脂組成物として実施例1の高密度ポリエチレンの代わりにエチレン系共重合体Iを用いた。このエチレン系共重合体Iは、密度が0.905g/cm^(3) 、曲げ弾性率が88MPa、メルトフローレート(MFR)が10g/10minであった。
このエチレン系共重合体Iを用い、実施例1と同様にして、射出成形し成形体(成形体質量:0.61g)を得た。
得られた成形体について上記試験を行った結果は、表1中に示すように、ヒケ、ショートショットといった成形不良もなく、ピン挿入力も5.5kgfと挿入可能な範囲であり、またクラック耐性試験でのクラック発生も見られなかったが、ピン嵌合力は1.8kgfと必要な3.0kgfを大きく下回った。
[比較例5]
樹脂組成物として実施例1の高密度ポリエチレンの代わりに低密度ポリエチレンを用いた。この低密度ポリエチレンは、密度が0.918g/cm^(3) 、曲げ弾性率が150MPa、メルトフローレート(MFR)が18g/10minであった。
この低密度ポリエチレンを用いて、下記の成形条件で射出成形し成形体(成形
体質量:0.62g)を得た。
<成形条件>
射出樹脂温度:170℃
射出樹脂圧力:450kg/m^(2)
成形体体積 :0.675cm^(3)
金型温度 :20℃
得られた成形体について上記試験を行った結果は、表1中に示すように、ヒケ、ショートショットといった成形不良もなく、ピン挿入力も8.0kgfと挿入可能な範囲であったが、クラック耐性試験において2週間区からクラックが発生し始め、6週間区までに100%のサンプルでクラックが発生した。このため、ピン嵌合力の測定は実施できなかった。」(段落【0049】?【0107】)

(g)「【表1】

」(段落【0108】の【表1】)

(h)「また、この発明の請求項2記載の合成樹脂成形体によれば、前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれかからなる前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて成形して構成したので、他のオレフィン系樹脂と少なくとも前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれかとからなる樹脂組成物によっても、次亜塩素酸塩または過酸化水素が含有される内容液と接することがあっても耐内容物性(耐薬品性)や強度を向上できると同時に、射出成形による成形精度などの成形性を向上することができる。」(段落【0110】)

そこで、当初明細書における「前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて、射出成形または圧縮成形された」合成樹脂成形体について検討すると、摘示(a)、(c)、(d)及び(h)においては、当該合成樹脂成形体の「ピン嵌合力」が「3.0?9.3kgfである」ものであることについては記載されていないし、そのことを窺わせる記載も見あたらない。
そして、実施例について記載した摘示(f)及び(g)においては、「挿入する際」が「引き抜く際」の誤記であると認められるとしても、上記のとおり、「前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれかからなる、すなわち、残りの他のオレフィン系樹脂組成物を含有しない前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれか単独の前記樹脂組成物を用いて、射出成形または圧縮成形された成形体のピン嵌合力が3.0?9.3kgfであること」が記載されているのであって、「前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて、射出成形または圧縮成形された合成樹脂成形体のピン嵌合力が3.0?9.3kgfである」ことについては記載されていないし、そのことを窺わせる記載も見あたらない。
さらに、当該技術分野においては、「前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれかからなる前記樹脂組成物を用いて、射出成形または圧縮成形された成形体のピン嵌合力が3.0?9.3kgfであること」をもってして、「前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて、射出成形または圧縮成形された」合成樹脂成形体のピン嵌合力が3.0?9.3kgfである」ことが、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)にとって、自明のことでもないし、技術常識でもない。
以上のとおりであるから、当初明細書には、「前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて、射出成形または圧縮成形された合成樹脂成形体」、あるいは「前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれかからなる前記樹脂組成物を用いて、射出成形または圧縮成形された成形体のピン嵌合力が3.0?9.3kgfであること」については記載されているとしても、「前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて、射出成形または圧縮成形された合成樹脂成形体のピン嵌合力が3.0?9.3kgfであること」についての記載は一切なされていないし、そのことが示唆もされていないし、本願出願時において、当業者にとって、そのことが自明のことでもない。
してみると、本件補正後の請求項1に記載された「前記樹脂組成物を1?99wt%含み、残りを他のオレフィン系樹脂組成物とした樹脂組成物を用いて、射出成形または圧縮成形された合成樹脂成形体のピン嵌合力が3.0?9.3kgfである」ことが、当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとする根拠は見出せない。
したがって、補正事項1は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

3.まとめ
以上のとおりであるから、補正事項1を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定を満たしておらず、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 原査定の妥当性についての判断

1.本願発明
上記のとおり、平成20年4月1日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1?2に係る発明は、平成19年12月26日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
次亜塩素酸塩または過酸化水素が含有される内容液が収容される容器に嵌合により取付けまたはねじにより締め付けられて装着されるとともに、この内容液と接することのある合成樹脂成形体であって、
エチレンの単独重合により得られる高密度ポリエチレン、またはエチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとの共重合により得られる密度が0.91?0.97g/cm^(3) であるエチレン系共重合体のいずれかからなる樹脂組成物であり、
前記樹脂組成物のメルトフローレートが3?40g/10minであり、
かつ、前記樹脂組成物の曲げ弾性率が200?1300MPaである
樹脂組成物を用いて射出成形または圧縮成形されていること特徴とする合成樹脂成形体。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由となった平成19年11月5日付けの拒絶理由通知書に記載された理由1の概要は、本願請求項1?4に係る発明は、引用文献3(特開2000-265200号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものを含むものであり、平成19年10月3日付けの拒絶査定の備考欄には以下のとおり記載されている。
「出願人は明細書を補正したが、拒絶理由は解消するにいたっていない。
引用文献1?3には、高密度及び中密度ポリエチレンのメルトフローレートについて明示の記載はないものの、射出成形に用いられるポリエチレン樹脂のグレードとして、請求項1で特定した範囲のメルトフローレートは、通常のものである事を考慮すれば、この点は実質的な相違点とは認められない(参考文献1のp.355参照)。
また引用文献1?3には、曲げ弾性率のグレードについて開示はないものの、高密度又は中密度ポリエチレンとして、上記曲げ弾性率の数値範囲は、通常のものであると認められる(参考文献2p.44、p.47参照)ことを考えれば、この点も実質的な相違点であるとは認められない。
したがって、本願請求項1に係る発明と、引用文献1、2又は3に記載の発明との間に、実質的な相違点は認められない。」

3.引用文献の記載事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 過酸化水素及び非イオン界面活性剤を含有する液体漂白剤を容器に充填してなる液体漂白剤物品であって、容器が要件(a)を満たすボトル部と要件(b)を満たす計量機能を有する蓋部からなる液体漂白剤物品。
要件(a):ボトル部の400?700nmの範囲の最大光透過率が10%以下である。
要件(b):蓋部の500nmにおける光透過率が20?80%であり、かつ300?400nmの光透過率が20%以下である。」(特許請求の範囲請求項1)

(イ)「本発明で用いる容器は、液体漂白剤を充填するためのボトル部と蓋部により構成されており、蓋部はボトル部に対して着脱自在のものが好ましい。」(段落【0015】)

(ウ)「次に、本発明で用いる容器の例を図1及び図2に基づいて説明する。図1に示すように、容器は、ボトル部本体1と、ボトル部本体1と螺合される注口部2からなるボトル部と、蓋部3からなる。」(段落【0024】)

(エ)「【実施例】実施例1?4、比較例1?3
下記に示す容器に、表2に示す組成の液体漂白剤を1L充填し、夏期(90日間)に日当たりのよい屋外で3ヶ月間放置した。貯蔵後、目視により容器の外観を評価した。結果を表1に示す。
<容器>容器は、図1に示すような、ボトル部本体、注口部及び蓋部からなるものを用いた。・・・蓋部は、表1に示す顔料を高密度ポリエチレン樹脂に添加したものを射出成形し、内側に凹凸による計量目盛りの付いたものを得た。・・・
<液体漂白剤>表2の液体漂白剤に用いた成分を下記に示す。
a-1:過酸化水素(100%換算の配合量)
b-1:非イオン界面活性剤[ポリオキシエチレンアルキルエーテル,花王(株)社製ラウリルアルコール(カルコル2098)にエチレンオキシドを平均7モ付加したもの]
c-1:N-ラウリル-N,N-ジメリル-N-エチルアンモニウムエチルサルフェート[花王株社製3級アミン(ファーミンDM20)をジエチル硫酸により4級化したもの]
d-1:ディクエスト2010(モンサント社製、1-ヒドロキシエチルー1,1-ジホスホン酸)
e-1:オクタノイルオキシ安息香酸
e-2:ドデカノイルオキシ-p-ベンゼンスルホン酸ナトリウム
各液体漂白剤は、pH調整液(N/10H_(2)SO_(4)又はN/10NaOH)でpH=2.5に調整した。」(段落【0025】?【0027】)

(オ)「

」(段落【0028】の表1)

(カ)「

」(段落【0029】の表2)

(キ)「

」(【図1】)



4.引用発明
引用文献3には、「過酸化水素及び非イオン界面活性剤を含有する液体漂白剤を容器に充填してなる液体漂白剤物品であって、容器がボトル部と蓋部とからなるもの」(摘示(ア)、(イ)及び(エ))が記載されており、その具体的なものとして、当該蓋部が、「フタロシアニングリーン等の顔料を高密度ポリエチレン樹脂に添加したものを射出成形し」て得られたものであること(摘示(エ)?(カ))も記載されている。そして、当該蓋部がボトル部と螺合されていることは、摘示(ウ)及び(キ)より明らかである。
そうすると、引用文献3には、「過酸化水素及び非イオン界面活性剤を含有する液体漂白剤を充填してなる、ボトル部と蓋部とからなる容器の蓋部であって、当該蓋部がボトル部と螺合されており、顔料を高密度ポリエチレン樹脂に添加したものを射出成形して得られた蓋部」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

5.本願発明1と引用発明との対比
引用発明の「過酸化水素及び非イオン界面活性剤を含有する液体漂白剤」、「ボトル部」、「蓋部がボトル部と螺合されており」及び「蓋部」は、本願発明1の「過酸化水素が含有される内容液」、「容器」、「ねじにより締め付けられて装着される」及び「合成樹脂成形体」に、それぞれ相当する。そして、当該蓋部が液体漂白剤と接触することがあることも明らかである。
なお、引用発明においては、フタロシアニングリーン等の顔料を高密度ポリエチレン樹脂に添加しているが、本願明細書においても、顔料等の各種添加剤を含有してもよいと記載されている(段落【0045】)ことから、この点は相違点にはならない。
そうすると、本願発明1と引用発明とは、「過酸化水素が含有される内容液が収容される容器にねじにより締め付けられて装着されるとともに、この内容液と接することのある合成樹脂成形体であって、
エチレンの単独重合により得られる高密度ポリエチレンからなる樹脂組成物を用いて射出成形されている合成樹脂成形体」の点で一致し、次の相違点1及び2で一応相違する。

<相違点1>
樹脂組成物のメルトフローレートが、本願発明1では、「3?40g/10min」であるのに対し、引用発明では、特に明記されていない点。

<相違点2>
樹脂組成物の曲げ弾性率が、本願発明1では、「200?1300MPa」であるのに対し、引用発明では、特に明記されていない点。

6.相違点に対する判断
○相違点1について
一般に、射出成形に用いられる高密度ポリエチレンのグレードとして、メルトフローレートが、3?40g/10minの範囲のものは、通常のものであると認められる(例えば、旭化成アミダス株式会社「プラスチックス」編集部編「プラスチック・データブック」(1999年12月1日、株式会社工業調査会発行)355頁を参照のこと。)から、引用発明においても、高密度ポリエチレン樹脂のメルトフローレートが、3?40g/10minの範囲内である蓋然性が高い。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

○相違点2について
一般に、高密度ポリエチレンのグレードとして、曲げ弾性率が、200?1300MPaの範囲のものは、通常のものであると認められる(例えば、松浦一雄外1名著「ポリエチレン技術読本」(2001年7月1日、株式会社工業調査会発行)44頁図1.10及び47頁表1.4を参照のこと。)から、引用発明においても、高密度ポリエチレン樹脂の曲げ弾性率が、200?1300MPaの範囲内である蓋然性が高い。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

よって、本願発明1は、引用発明と同一である。



第4 請求人の主張に対する検討

請求人は、平成22年8月19日に提出した回答書において、「【請求項1】
次亜塩素酸塩または過酸化水素が含有される内容液が収容される容器に嵌合により取付けまたはねじにより締め付けられて装着されるとともに、この内容液と接することのある合成樹脂成形体であって、
エチレンの単独重合により得られる高密度ポリエチレン、またはエチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとの共重合により得られる密度が0.91?0.97g/cm^(3) であるエチレン系共重合体のいずれかからなる樹脂組成物であり、
前記樹脂組成物のメルトフローレートが3?40g/10minであり、
かつ、前記樹脂組成物の曲げ弾性率が200?1300MPaである前記高密度ポリオレフィン又は前記エチレン系重合体のみからなる樹脂組成物を用いて、
前記容器に嵌合により取付けまたはねじにより締め付けられて装着される際のピン嵌合力が3.0?9.3kgfとなるように射出成形または圧縮成形されていることを特徴とする合成樹脂成形体。」との補正案を提示した上で、「本願請求項1記載の合成樹脂成形体では、高密度ポリエチレンまたはエチレン系共重合体のいずれかからなる樹脂組成物を用いて成形されるが、その樹脂組成物での射出成形または圧縮成形された成形体のピン嵌合力が3.0?9.3kgfの範囲内となるようにしたものであります。
かかる構成を備えることにより、嵌合に必要な強度や硬さなどの強度の向上および必要な物性を損なわず、クラックなどの亀裂や破損の発生等の耐内容物性(耐薬品性)の向上を図り、しかも射出成形が可能である樹脂組成物の流動性などの成形性を確保することなどの諸性能を確保できるという顕著な作用効果を奏するものになっています。
これに対し、引用文献1?3および参考文献1,2のいずれにも、本願請求項1記載の合成樹脂成形体の『前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれかからなる前記樹脂組成物を用いて射出成形または圧縮成形された成形体の物性であるピン嵌合力が3.0?9.3kgfの範囲内であること』については何ら記載がなく、これを示唆する記載さえない引用文献および参考文献から当業者といえども本願請求項1を容易に発明できるものではありません。
本願請求項1では、合成樹脂成形体の高密度ポリエチレンまたはエチレン系共重合体のいずれかからなる前記樹脂組成物の含有量100wt%とした場合の射出成形または圧縮成形された成形体の物性であるピン嵌合力は、段落0049?0090に記載した実施例によれば、その値が3.0kgf以上である3.0?9.3kgfの範囲内であり、物性として実施例で求めたピン嵌合力を確保することで、容器に嵌合により取付けまたはねじにより締め付けられて装着される際の必要な取付力あるいは締め付け力を確保を可能としたものであり、かかるピン嵌合力については何ら記載がなく、これを示唆する記載さえない引用文献1?3および一般的な樹脂の物性が記載された参考文献1,2を組み合わせることによっても当業者といえども容易に本願請求項1を発明できるものではなく、本願は、段落[0049]?[0108]の実施例および比較例に記載のように、かかるピン嵌合力の範囲を見出すことで本願発明を完成したものであって、本願発明と同様の樹脂を用いて成形を行っている引用文献1,2または3と実質的な相違点がないとする本願に対する拒絶査定の理由を到底認めることができるものではありません。」と主張している。
しかしながら、斯かる補正案を検討するに、合成樹脂成形体が、前記容器に「嵌合により取付けまたはねじにより締め付けられて装着される際のピン嵌合力が3.0?9.3kgfとなるように」射出成形または圧縮成形されているのであるから、射出成形または圧縮成形が上記ピン嵌合力の値を満足する様な特定の条件の下で行われる必要があると認められるところ、当初明細書中においては、「そして、このような樹脂組成物を用いる成形法としては、従来公知の射出成形法、圧縮成形法などを用いることができ、特に射出成形法が好ましく、高精度の合成樹脂成形体を得ることができる。」(摘示(e))と記載されていること、並びに摘示(c)、(d)、(f)及び(h)の記載をみても、当該射出成形または圧縮成形が特殊な条件を採用していることを窺わせる記載は見あたらないし、当初明細書の実施例における「<成形条件>
射出樹脂温度:210℃
射出樹脂圧力:500kg/m^(2)
成形体体積 :0.675cm^(3)
成形体質量 :0.65g
金型温度 :20℃」(摘示(f))も射出成形において通常用いられる条件にすぎないものと認められる。
さらに、当該技術分野においては、「高密度ポリエチレンからなる前記樹脂組成物を用いて、射出成形または圧縮成形された成形体のピン嵌合力が3.0?9.3kgfであること」をもってして、「前記高密度ポリオレフィン又は前記エチレン系重合体のみからなる樹脂組成物を用いて、前記容器に嵌合により取付けまたはねじにより締め付けられて装着される際のピン嵌合力が3.0?9.3kgfとなるように射出成形または圧縮成形されている」ことが、当業者にとって、自明のことでもないし、技術常識でもない。
以上のとおりであるから、当初明細書には、「前記高密度ポリエチレンまたは前記エチレン系共重合体のいずれかからなる前記樹脂組成物を用いて、射出成形または圧縮成形された成形体のピン嵌合力が3.0?9.3kgfであること」については記載されているとしても、「前記高密度ポリオレフィン又は前記エチレン系重合体のみからなる樹脂組成物を用いて、前記容器に嵌合により取付けまたはねじにより締め付けられて装着される際のピン嵌合力が3.0?9.3kgfとなるように射出成形または圧縮成形されている」ことについての記載は一切なされていないし、そのことが示唆もされていないし、本願出願時において、当業者にとって、そのことが自明のことでもない。
してみると、斯かる補正案における「前記高密度ポリオレフィン又は前記エチレン系重合体のみからなる樹脂組成物を用いて、前記容器に嵌合により取付けまたはねじにより締め付けられて装着される際のピン嵌合力が3.0?9.3kgfとなるように射出成形または圧縮成形されている」ことが、当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとする根拠は見出せない。
したがって、斯かる補正案は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、特許法第17条の2第3項の規定を満たしていないことは明らかであるから、斯かる補正案を採用することはできず、この請求人の主張は受け入れることができない。



第5 むすび

以上のとおり、本願発明1、すなわち本願の請求項1に係る発明は、引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について、更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-28 
結審通知日 2011-03-29 
審決日 2011-04-11 
出願番号 特願2002-291369(P2002-291369)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (C08J)
P 1 8・ 113- Z (C08J)
P 1 8・ 121- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀 洋樹  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
小野寺 務
発明の名称 合成樹脂成形体  
代理人 坂本 徹  
代理人 原田 卓治  

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