• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01N
管理番号 1237423
審判番号 不服2009-9890  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-05-13 
確定日 2011-05-23 
事件の表示 特願2002-272029「圧力信号の監視方法および圧力信号の監視装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 9日出願公開、特開2003-193827〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年9月18日(パリ条約による優先権主張2001年9月18日、独国)の出願であって、平成20年8月13日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し同年11月19日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年2月6日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し同年5月13日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同時に手続補正書が提出されて明細書を補正する手続補正がなされ、その後、当審において、同年11月30日付けで書面による審尋がなされ、これに対し平成22年3月2日付けで回答書が提出され、その後、同年7月20日付けで上記平成21年5月13日付けの手続補正が却下され、同年8月5日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し同年11月10日付けで手続補正書が提出されて明細書を補正する手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成22年11月10日付けの手続補正によって補正された明細書及び願書に最初に添付された図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「内燃機関(100)の排気ガス処理システム(115)の入力側と出力側とのあいだの差圧を表す圧力信号(DP)の監視方法において、
前記内燃機関の静止状態で排気ガス体積流が流れていないときに前記圧力信号が第1の閾値(SW1)を上回るか否かを検査し、前記圧力信号が前記第1の閾値を上回る場合にさらに前記圧力信号が第2の閾値(SW2)を上回るか否かを検査し、前記圧力信号が前記第1の閾値を上回っているが前記第2の閾値を下回っている場合に前記圧力信号のドリフトを識別し、前記圧力信号が前記第2の閾値を上回る場合にエラーを識別する
ことを特徴とする圧力信号の監視方法。」

3.当審における、平成22年8月5日付けで通知した拒絶の理由に引用した引用例
3-1.特開平10-89047号公報(以下、「引用例1」という。)
3-1-1.引用例1の記載事項
引用例1には、次の事項が図面とともに記載されている。なお、アンダーラインは、発明の理解の一助として、当審において付したものである。
(ア)「【0010】
【発明の実施の形態】図1に、ディーゼルエンジンの排気浄化装置の全体構成図を示す。ディーゼルエンジン1の排気管側には、排気されるパティキュレートを捕集するためのフィルタ2とフィルタ3が、排気管の分岐下流側に並列に設けられている。…(後略)…」(段落【0010】)
(イ)「【0012】…(中略)…フィルタの上流側の圧力が前圧センサ16で検出され、フィルタの下流側の圧力が後圧センサ17で検出される。…(後略)…」(段落【0012】)
(ウ)「【0013】…(中略)…ECU22は、前圧センサ16、後圧センサ17からの信号によりフィルタ前圧からフィルタ後圧を引いてフィルタ差圧を求め、…(後略)…」(段落【0013】)
(エ)「【0014】ECU22は、上記した制御以外に、上流側圧力導入管18および前圧センサ16からなる圧力センサ系の異常を判定する処理を行う。図2に、エンジン停止後、所定時間が経過したときのフィルタ差圧をエンジン停止回数に対応させてプロットしたものを示す。‥(中略)‥。ここで、上流側圧力導入管18や前圧センサ16にパティキュレートや水分などが付着するとフィルタ差圧が図に示すように増大する。従って、そのフィルタ差圧を所定のしきい値と比較することにより、圧力センサ系の異常を判定することができる。
【0015】ECU22は、圧力センサ系の異常を判定するため、IGスイッチ23がオフ、すなわちエンジン停止すると、図3に示す処理を開始し、まず、エンジン停止後、所定時間が経過したか否かを判定する(ステップ101)。ここで、所定時間とは、ディーゼルエンジンが停止した直後の排気流動がなくなる時間で、具体的には2?3秒の時間である。
【0016】その所定時間が経過すると、前圧センサ16、後圧センサ17からの信号によりフィルタ前圧からフィルタ後圧を引いてフィルタ差圧を求める(ステップ102)。この後、圧力センサ系の異常を判定するためのしきい値を設定する処理を行う(ステップ103?108)。なお、ECU3内部には、そのしきい値を決めるためのメモリ値、後述するカウンタ値、圧力センサ系の異常の有無を記憶するEEPROM(不揮発記憶手段)22aが備えられている。」(段落【0014】ないし【0016】)
(オ)「【0018】…(中略)…エンジンの停止回数を示すカウンタ値がN(例えば20の値)になったか否かを判定する(ステップ105)。カウンタ値がNになるまでカウントアップを行う(ステップ106)。カウンタ値がNになると、メモリ値を所定値Bだけ加えて、メモリ値を漸増させる(ステップ107)。…(後略)…」(段落【0018】)
(カ)「【0019】そして、設定されたしきい値と今回求めたフィルタ差圧とを比較し(ステップ109)、フィルタ差圧がしきい値より大きくなると、圧力センサ系の異常をEEPROM22aに記憶する(ステップ110)。ECU22は、EEPROM22aに圧力センサ系の異常が記憶されていると、次回の運転開始時(IGオン時)に、警告ランプ25を点灯させ、圧力センサ系の異常を運転者に知らせる。
【0020】この後、圧力センサ系の部品交換が行われフィルタ差圧が低下して正常状態に復帰した場合には、EEPROM22aの異常記憶がクリアされる(ステツプ111)。」(段落【0019】及び【0020】)

3-1-2.引用例1に記載された発明
上記3-1-1.(ア)ないし(エ)及び(カ)並びに図面によると、引用例1には、
「ディーゼルエンジン1のフィルタ2,3の入力側と出力側とのあいだの差圧を表すフィルタ差圧を所定のしきい値と比較することにより、圧力センサ系の異常を判定する方法において、
前記ディーゼルエンジン1が停止した直後の排気流動がなくなる時間が経過したときに前記フィルタ差圧が設定されたしきい値を上回るか否かを検査し、前記フィルタ差圧が前記設定されたしきい値を上回る場合に異常を識別し、この後、圧力センサ系の部品交換が行われる
圧力センサ系の異常を判定する方法。」
という発明(以下、「引用例1に記載された発明」という。)が記載されている。

3-2.実願昭57-195151号(実開昭59-100917号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)
3-2-1.引用例2の記載事項
引用例2には、次の事項が図面とともに記載されている。なお、アンダーラインは、発明の理解の一助として、当審において付したものである。
(サ)「第2図に示す実施例において、デイーゼル機関1の排気通路2には排気中の微粒子を捕集するトラツプ3が介装され、」(明細書第4頁12ないし14行)
(シ)「トラツプ3の前後差圧を検出する圧力センサ14からの差圧信号が入力され、トラツプ3の目詰りに基づく差圧増大を感知する。」(明細書第5頁12ないし14行)
(ス)「このような構成では、圧力センサ14の初期出力値のバラツキ或いは経時変化に伴う出力値の変動がそのまま圧力センサ14の出力値に含まれて現れるから、圧力センサの検出精度は良いものとはいえない。」(明細書第6頁7ないし11行)
(セ)「本考案では機関停止時の排気圧力零の状態における圧力センサ14の出力値を検出してその値と基準値との偏差量に応じ検出差圧P若しくは限界差圧Ptを修正するのである。」(明細書第7頁4ないし7行)
(ソ)「図において、エンジンキースイツチ21がオンとなると、作動時期制御手段10へ作動電圧が印加され、圧力センサ14から出力されるトラツプ3の前後差圧P_(0)がA/D変換器22を介しディジタル値となつて作動時期制御手段10へ入力される。これと同時にエンジンキースイツチ21からエンジンキー投入信号がトリガ信号として入力された単安定マルチバイブレータ23により所定期間の読取開始信号が作動時期制御手段10に出力され、ここで若干の起動遅れΔtをもつてそのときの圧力センサ14の初期出力値P_(0)を読み取りこれを記憶しておく。
一般にデイーゼル機関では通常始動前に数秒?数10秒間グロープラグの予熱を行うから、この間排気圧力は零となり、また各センサが作動すると共に作動時期制御手段10も電源が入力される。この状態を利用して圧力センサ14の初期出力値P_(0)を検出するのである。
そして排気圧力零の状態における圧力センサ14の基準値P_(1)と前記初期出力値P_(0)とを比較手段により比較し、その差│P_(0)-P_(1)│が許容誤差aの範囲内にあるかどうかを判別する。│P_(0)-P_(1)│≦aにあればそのまま、│P_(0)-P_(1)│≦aになければその値(P_(0)-P_(1))を記憶しておき、機関を始動する。
機関始動後は、従来と同様に機関回転速度N信号と機関負荷Q信号とに応じて予め記憶しておいた圧力センサの限界差圧Ptと圧力センサの実際に検出した出力値Pとの比較を比較手段Cによつて行うが、このとき加算器等の補正手段Aによつて上記限界差圧Ptから上記初期出力値のずれ(P_(0)-P_(1))を差引いて真正の限界差圧Pcを補正計算し、該真正の限界差圧Pc以上に検出出力値Pが増大したときをもつてトラツプ再生時期を判断し、トラツプ再生装置を作動させる。
前記圧力センサの初期出力値と基準値との差(P_(0)-P_(1))の記憶は機関を停止し作動時期制御手段の電源をオフにした段階でリセツトされ、また新たに機関始動時に記憶し直す。これにより圧力センサ出力の経時変化の補正が可能となる。」(明細書第7頁13行ないし第9頁12行)
(タ)「上記実施例によると、機関始動前の圧力センサ出力と基準値とを比較する構成としたが、機関停止直後の圧力センサ出力を用いても可能である。即ち第6図に示したようにエンジンキースイツチのオフ信号で作動時期制御手段の電源を保持するタイマを作動させ、この間に圧力のかからない状態での圧力センサの初期出力値P_(0)を読み取つて基準値P_(1)との差を計算し、これを記憶する。」(明細書第10頁7ないし14行)
(チ)「上記圧力センサの初期出力値のバラツキ及び経時変化を読み込んで基準値との差を知りこれによつてトラツプ目詰りの限界圧力を補正する代りに、圧力センサの検出圧力を補正して限界圧力と比較するようにしてもよいことはいうまでもない。」(明細書第11頁10ないし15行)

3-2-2.引用例2に記載された発明
上記3-2-1.及び図面によると、引用例2には、
「デイーゼル機関1のトラツプ3の入力側と出力側とのあいだの差圧を表す検出差圧Pを修正する方法において、
前記機関停止時の排気圧力零の状態における検出差圧P(初期出力値P_(0))と排気圧力零の状態における圧力センサ14の基準値P_(1)とを比較手段により比較し、その差│P_(0)-P_(1)│が許容誤差aの範囲内にあるかどうかを判別し、│P_(0)-P_(1)│≦aにあればそのまま、│P_(0)-P_(1)│≦aになければその値(P_(0)-P_(1))を前記検出差圧(初期出力値P_(0))のずれとして記憶しておき、検出差圧Pを修正する方法。」
という発明(以下、「引用例2に記載された発明」という。)が記載されている。

4.対比
本願発明と引用例1に記載された発明とを比較すると、引用例1に記載された発明における「ディーゼルエンジン1」は、その技術的意義からみて、本願発明における「内燃機関(100)」に相当し、以下同様に、「フィルタ2,3」は「排気ガス処理システム(115)」に、「フィルタ差圧」は「圧力信号(DP)」に、「圧力センサ系の異常を判定する方法」は「圧力信号(DP)の監視方法」に、「前記ディーゼルエンジン1が停止した直後の排気流動がなくなる時間が経過したときに」は「前記内燃機関の静止状態で排気ガス体積流が流れていないときに」に、「異常」は「エラー」に、それぞれ相当する。
また、引用例1に記載された発明における「設定されたしきい値」と本願発明における「第2の閾値」とは、「所定の閾値」の限りにおいて一致している。

してみると、本願発明と引用例1に記載された発明は、
「内燃機関の排気ガス処理システムの入力側と出力側とのあいだの差圧を表す圧力信号の監視方法において、
前記内燃機関の静止状態で排気ガス体積流が流れていないときに前記圧力信号が所定の閾値を上回るか否かを検査し、前記圧力信号が前記所定の閾値を上回る場合にエラーを識別する
圧力信号の監視方法。」
の点で一致し、次の[相違点]でのみ相違している。
[相違点]
本願発明においては、「前記内燃機関の静止状態で排気ガス体積流が流れていないときに前記圧力信号が第1の閾値(SW1)を上回るか否かを検査し、前記圧力信号が前記第1の閾値を上回る場合にさらに前記圧力信号が第2の閾値(SW2)を上回るか否かを検査し、前記圧力信号が前記第1の閾値を上回っているが前記第2の閾値を下回っている場合に前記圧力信号のドリフトを識別し、前記圧力信号が前記第2の閾値を上回る場合にエラーを識別する」のに対し、
引用例1に記載された発明においては、「前記ディーゼルエンジン1が停止した直後の排気流動がなくなる時間が経過したときに前記フィルタ差圧が設定されたしきい値を上回るか否かを検査し、前記フィルタ差圧が前記設定されたしきい値を上回る場合に異常を識別」するものの、「前記設定されたしきい値」を下回っている場合には、どのようにするのか不明である点(以下、単に「相違点」という。)。

5.当審の判断
本願発明と引用例2に記載された発明とを比較すると、引用例2に記載された発明における「デイーゼル機関1」は、その技術的意義からみて、本願発明における「内燃機関(100)」に相当し、以下同様に、「トラツプ3」は「排気ガス処理システム(115)」に、「検出差圧P」は「圧力信号(DP)」に、「検出差圧Pを修正する方法」は「圧力信号(DP)の監視方法」に、「前記機関停止時の排気圧力零の状態における」は「前記内燃機関の静止状態で排気ガス体積流が流れていないときに」に、それぞれ相当する。
また、引用例2に記載された発明における「│P_(0)-P_(1)│≦a」は「P_(0)≦P_(1)+a」を含んでおり、また、当該「P_(1)+a」と本願発明における「第1の閾値」とは「所定の閾値」の限りにおいて一致している。そして、引用例2に記載された発明における「前記機関停止時の排気圧力零の状態における検出差圧P(初期出力値P_(0))と排気圧力零の状態における圧力センサ14の基準値P_(1)とを比較手段により比較し、その差│P_(0)-P_(1)│が許容誤差aの範囲内にあるかどうかを判別し」、及び「│P_(0)-P_(1)│≦aになければその値(P_(0)-P_(1))を前記検出差圧(初期出力値P_(0))のずれとして記憶しておき」は、本願発明の記載に合わせて記載すると、「前記内燃機関の静止状態で排気ガス体積流が流れていないときに前記圧力信号が所定の閾値(第1の閾値)を上回るか否かを検査し」、及び「前記圧力信号が前記第1の閾値を上回る場合に前記圧力信号のドリフトを識別し」となる。
そうすると、引用例2に記載された発明から、
「内燃機関の排気ガス処理システムの入力側と出力側とのあいだの差圧を表す圧力信号の監視方法において、
前記内燃機関の静止状態で排気ガス体積流が流れていないときに前記圧力信号が所定の閾値を上回るか否かを検査し、前記圧力信号が前記所定の閾値を上回る場合に前記圧力信号のドリフトを識別する技術(以下、「引用例2に記載された技術」という。)。」が導き出される。
そして、引用例1に記載された発明においては、「フィルタ差圧(圧力信号(DP))が設定されたしきい値(所定のしきい値)を上回る場合に異常(エラー)を識別し、この後、圧力センサ系の部品交換が行われる」のであるから、すなわち、この場合は、フィルタ差圧(圧力信号(DP))の修正を行うような状態でないのであるから、引用例1に記載された発明における「設定されたしきい値(所定のしきい値)」が引用例2に記載された技術における「P_(1)+a(所定の閾値)」よりも大きな値となることは、明らかである。
また、上記3-1-1.(オ)によれば、引用例1には、エンジンの停止回数を示すカウンタ値がN(例えば20の値)になると、メモリ値を漸増させる旨も記載されているが、この記載は、圧力センサの経時変化に伴う出力変動に対応することを示唆している。
そうすると、引用例1に記載された発明において、圧力センサのドリフトを識別することを目的として、引用例2に記載された技術を適用し、もって、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別困難なく想到し得るものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-22 
結審通知日 2010-12-24 
審決日 2011-01-05 
出願番号 特願2002-272029(P2002-272029)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 芳枝  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 中川 隆司
鈴木 貴雄
発明の名称 圧力信号の監視方法および圧力信号の監視装置  
代理人 二宮 浩康  
代理人 杉本 博司  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ