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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1237439
審判番号 不服2010-23578  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-20 
確定日 2011-05-23 
事件の表示 特願2006- 37643「ゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月26日出願公開、特開2006-289059〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年2月15日(優先権主張平成17年3月15日)の出願であって、平成22年4月8日付けで手続補正がなされ、同年8月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月20日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成22年4月8日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし5にそれぞれ記載された事項によって特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「球状のコアと、このコアの外側に位置する中間層と、この中間層の外側に位置する補強層と、この補強層の外側に位置するカバーとを備えており、
この中間層の基材ポリマーが、30質量%以上60質量%以下のスチレンブロック含有熱可塑性エラストマーと、40質量%以上70質量%以下のアイオノマー樹脂とを含んでおり、
この中間層の厚みTmが0.5mm以上1.7mm以下であり、
このカバーの基材ポリマーの主成分がアイオノマー樹脂であり、
このカバーの、ショアD型硬度計で測定された硬度Hcが56以上65以下であり、
このカバーの厚みTcが0.1mm以上0.8mm以下であるゴルフボール。」

第3 引用刊行物
1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-319149号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(1)「【0008】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、1層以上のソリッドコアと中間層とカバーとの多層構造からなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、コア表面硬度をショアD硬度で55未満にすると共に、中間層硬度をコア表面硬度より高く、カバー硬度を中間層硬度より高く構成すること、この場合中間層をポリウレタン系樹脂を主材として形成することにより、最適の硬度分布を有し、優れた飛び性能及び耐久性と良好なコントロール性とを併せ持ったオールラウンドな性能を有するマルチピースソリッドゴルフボールが得られることを知見した。
【0009】即ち、ソリッドコアと、中間層と、カバーとを有するマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、コアの表面硬度がショアD硬度で55未満であり、中間層のショアD硬度(Hm)とコア表面のショアD硬度(Hs)との比(Hm/Hs)が1.0より大きく1.4未満であると共に、カバーのショアD硬度(Hc)と中間層のショアD硬度(Hm)との比(Hc/Hm)が1.0より大きく2.0未満であり、かつ上記中間層をポリウレタン系樹脂を主材として形成したことにより、軟らかく形成したコアをそれよりも硬い中間層、この中間層よりも更に硬いカバーで順次被覆することによりボール全体が最適な硬度分布となり、打撃時の変形過多によるエネルギーロスを最小限に抑え、良好な反撥性を有し、飛距離、耐久性が良好で、特にドライバー等でのフルショット時のスピン量が適正化され、飛距離が飛躍的に増大すると共に、コントロール性、打感のいずれにも優れたゴルフボールが得られること、更に慣性モーメントが大きくなるため、スピン持続力が増し、ドライバー、アイアン、パッティングにおける直進性、コントロール性が向上することを知見したものである。
【0010】従って、本発明は、ソリッドコアと、中間層と、カバーとを有するマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、コアの表面硬度がショアD硬度で55未満であり、中間層のショアD硬度(Hm)とコア表面のショアD硬度(Hs)との比(Hm/Hs)が1.0より大きく1.4未満であると共に、カバーのショアD硬度(Hc)と中間層のショアD硬度(Hm)との比(Hc/Hm)が1.0より大きく2.0未満であり、かつ上記中間層をポリウレタン系樹脂を主材として形成したことを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボールを提供する。
【0011】以下、本発明につき更に詳しく説明すると、本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、ソリッドコアと、該コアの表面より硬い中間層と、この中間層より硬いカバーとからなるものである。
【0012】本発明においてソリッドコアはゴム組成物から形成することができるが、ゴム組成物としては、特に制限されず、通常ソリッドコアの形成に用いられる基材ゴム、架橋剤、共架橋剤、不活性充填剤等を用いて形成することができる。この場合、基材ゴムとしては従来からソリッドゴルフボールに用いられている天然及び/又は合成ゴムを使用することができるが、本発明においては、シス構造を少なくとも40%以上有するシス-1,4-ポリブタジエンが特に好ましい。この場合、所望により該ポリブタジエンに天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム等を適宜配合してもよい。また、架橋剤としてはジクミルパーオキサイドやジ-t-ブチルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサンのような有機過酸化物等が例示されるが、特に好ましくはジクミルパーオキサイドと1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサンのブレンドを用い、160℃で20分間加硫する方法等を採用することが好ましい。
【0013】また、共架橋剤としては特に制限されず、不飽和脂肪酸の金属塩、特に、炭素原子数3?8の不飽和脂肪酸(例えばアクリル酸、メタクリル酸等)の亜鉛塩やマグネシウム塩が例示されるが、アクリル酸亜塩が特に好適である。なお、架橋剤の配合量は適宜設定され、通常は基材ゴム成分100重量部に対して7?45重量部程度とされる。更に、不活性充填剤としては酸化亜鉛、硫酸バリウム、シリカ、炭酸カルシウム及び炭酸亜鉛等が例示されるが、酸化亜鉛、硫酸バリウムが一般的であり、その配合量はコアとカバーの比重、ボールの重量規格等に左右され、特に制限されないが、通常は基材ゴム100重量部に対して40重量部以下である。なお、本発明においては上記架橋剤や酸化亜鉛、硫酸バリウム等の充填剤の配合割合を適宜調整することにより、コア全体の硬度及び重量を最適値に調整することができる。
【0014】上記成分を配合して得られるコア用組成物は通常の混練機、例えばバンバリーミキサーやロール等を用いて混練し、コア用金型で圧縮又は射出成形し、成形体を上述した温度条件で加熱硬化して最適の硬度分布を持つ本発明のソリッドコアを調製することがてきる。
【0015】本発明において、上記コアの表面硬度は、ショアD硬度で55未満、好ましくは20?53、更に好ましくは25?50に形成する。ショアD硬度が55以上であると、打感が硬くなり、好ましない。なお、コアが軟らかすぎると、打撃時の変形が大きくなり、エネルギーロスから飛距離、耐久性が低下するおそれがある。
【0016】また、上記ソリッドコアの直径は32?41mm、特に34?39mmであることが好ましい。コア全体の硬度、重量、比重等は、特に制限されず、本発明の目的を達成し得る範囲で適宜調整することができるが、通常はコア全体の硬度は100kg荷重負荷時の変形量で2.3?6.5mm、特に2.5?5.5mm、重量は25?42g、特に27?41gとすることができる。更に、コアの比重は1.3未満であることが好ましく、より好ましくは1.0?1.28、更に好ましくは1.05?1.25である。
【0017】なお、コアは、通常1層の単一構造に形成されるが、必要に応じ2層以上の多層構造に形成することもできる。
【0018】次に、本発明ゴルフボールの中間層は、ポリウレタン系樹脂を主材として形成される。この場合、ポリウレタン系樹脂としては、熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好適である。
【0019】ここで、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、その分子構造が、高分子ポリオール化合物からなるソフトセグメントと、ハードセグメントを構成する単分子鎖延長剤と、ジイソシアネートとからなるものを用いることができる。
【0020】高分子ポリオール化合物としては、特に制限されず、ポリエステル系ポリオール、ポリオール系ポリオール、コポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオールのいずれでもよく、ポリエステル系ポリオールとしては、ポリカプロラクトングリコール、ポリ(エチレン-1,4-アジペート)グリコール、ポリ(ブチレン-1,4-アジペート)グリコール等が挙げられる。コポリエステル系ポリオールとしては、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)グリコール等が挙げられる。ポリカーボネート系ポリオールとしては、(ヘキサンジオール-1,6-カーボネート)グリコール等が挙げられる。ポリエーテル系ポリオールとしては、ポリオキシテトラメチレングリコール等が挙げられる。これらの数平均分子量は約600?5000、好ましくは1000?3000である。
【0021】ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水素添加MDI(H12MDI)、更にはIPDI、CHDIなどや、これらの誘導体等を用いることができる。
【0022】鎖延長剤としては、特に制限されず、通常の多価アルコール類、アミン類が用いられ、具体的には1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジシクロヘキシルメタンジアミン(水添MDA)、イソホロンジアミン(IPDA)などが挙げられる。
【0023】本発明の中間層は、上記ポリウレタン系樹脂(特に熱可塑性ポリウレタンエラストマー)を主材とするが、必要に応じ、本発明の作用効果を更に発揮させるために、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーには他の熱可塑性樹脂などを適宜配合することができ、例えばポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレンブロックエラストマー、水添ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミドなどを配合し得る。
【0024】本発明において、この中間層はショアD硬度が20?55、好ましくは22?54、より好ましくは27?52に形成することが望ましく、これによりソフトなフィーリングを確保することができる。ショアD硬度が20未満であると、ボールの反撥性或いは耐久性が劣る場合が生じ、また、ショアD硬度が55を超えると打撃フィーリングが悪くなると共に、反撥性にも劣る場合が生じる。
【0025】この場合、中間層は、上記ソリッドコアの表面硬度よりも硬く形成する。その程度は、ソリッドコアの表面硬度(ショアD硬度、Hs)と中間層の硬度(ショアD硬度、Hm)において、1.0<Hm/Hs<1.4、好ましくは1.01<Hm/Hs<1.35、より好ましくは1.01<Hm/Hs<1.2である。Hm/Hsが1.4以上であると、硬度落差が大きく、打撃時のエネルギーロスが大きくなって、十分な反撥性を得ることができない上、耐久性も低下する。
【0026】また、上記中間層は、比重が1.08以上、好ましくは1.15?2.0、より好ましくは1.2?1.6、更に好ましくは1.23?1.5に形成することが望ましく、更に、この場合、この中間層の比重は、ソリッドコアの比重よりも大きく形成することが望ましい。好ましくは、ソリッドコアの比重より0.05以上、特に0.08?0.15大きく形成する。これにより、ボールの慣性モーメントを大きく保ち、飛行途中のボールスピンの減衰率を小さく抑えることができる。従って、クラブによる打撃直後のスピン率がそれほど減衰しないでボール落下時まで持続することになる。このため、ボールが地上に落下する直前でも、ボールが安定して飛行できる。
【0027】上記した比重に中間層を形成するため、ポリウレタン系樹脂に無機質充填剤、特に比重3以上の充填剤を配合することができる。このような無機質充填剤としては、金属粉、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等が挙げられる。例えば、タングステン(黒、比重:19.3)、タングステンカーバイト(黒褐色、比重:15.8)、モリブデン(灰色、比重:10.2)、鉛(灰色、比重:11.3)、酸化鉛(暗灰色、比重:9.3)、ニッケル(銀灰色、比重:8.9)及び銅(赤褐色、比重:8.9)又はこれらの混合物などが例示される。上記高比重の充填剤を用いるのが好ましいが、比較的比重の小さい硫酸バリウム、二酸化チタン、又は亜鉛華を用いても良い。
【0028】上記中間層の厚さは適宜選定されるが、0.2?3mm、特に0.5?2.5mmとすることが好ましい。
【0029】本発明のゴルフボールは、上記中間層を被覆してカバーを形成するが、このカバーは、ソリッドゴルフボールのカバー材として通常使用されるアイオノマー樹脂を主材として形成することができる。アイオノマー樹脂として具体的にはハイラミン1605,同1706(三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン8120,同8320(デュポン社製)等を挙げることができ、2種以上のアイオノマー樹脂を組み合わせて用いることもできる。また、必要により、アイオノマー樹脂に顔料、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、可塑剤等の公知の添加剤を配合することもできる。
【0030】このカバーは、ショアD硬度で68以下、特に45?68、好ましくは50?67、更に好ましくは55?65に形成されることが望ましい。カバー硬度がショアD硬度で45未満であると、ボールの反撥性が低下し、またスピンがかかりすぎるおそれがある。一方、ショアD硬度が68を超えると、ボール耐久性が悪くなり、またパッティング時のフィーリングが低下するおそれがある。
【0031】ここで、本発明においては、カバーのショアD硬度(Hc)を上記中間層のショアD硬度(Hm)より大きくする。具体的には、1.0<Hc/Hm<2.0、好ましくは1.01<Hc/Hm<1.9、より好ましくは1.01<Hc/Hm<1.5とする。Hc/Hmが2.0以上であると、パッティング時のフィーリングが硬くなり、また耐久性も低下する。Hc≦Hmであると、スピンがかかりすぎ、また反撥性も低下し、飛距離特性も低下する。
【0032】カバーの厚さは0.5?3.2mmであり、好ましくは1.0?2.5mm、更に好ましくは1.2?2.2mmとする。カバー厚さが0.5mm未満ではボール耐久性に劣り、反撥性も低下する場合があり、一方、カバー厚さが3.2mmを超えると、打感が低下する。
【0033】また、カバーの比重は0.9以上1.2未満、特に0.92?1.18とすることが好ましい。
【0034】なお、上記カバーは、1層の単独層として、又は2層以上の多層構造に形成することができる。
【0035】本発明において、中間層とカバーとを合計した厚さは2mm以上、特に2.5?5.5mmであることが好ましい。この厚さが2mm未満では打撃耐久性が低下する場合がある。
【0036】また、本発明において、上記カバーと中間層との間に接着層を介在させることができ、これによって反撥性、耐久性などを更に向上させることができる。この場合、接着層としては、両層を強固に接合させるものであればよいが、特にはエポキシ樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、ビニル樹脂系接着剤、ゴム系接着剤などを用いることができる。
【0037】なお、接着剤を中間層に塗布する前に常法に従って中間層表面を粗面化することができる。また、接着剤層の厚さは適宜選定されるが、通常5?300μm、特に10?100μmとされる。
【0038】本発明において、中間層は上述したようにポリウレタン系熱可塑性エラストマーを主材とした組成物で形成することで、ソリッドコア上に圧縮成形又は射出成形することによって形成することができる。
【0039】一方、カバー材料としては、上述したようにアイオノマー樹脂を主材として形成することができる。この場合、カバーを中間層に被覆する方法は特に制限されず、通常は予め半球殻状に成形した2枚のカバーで中間層を包み、加熱加圧成形するか、カバー用組成物を射出成形して中間層を包み込んでもよい。…(略)…
【0042】なお、本発明のゴルフボールは、以上の構成を有するが、その直径、重さはゴルフ規則に従い、直径42.67mm以上、重量45.93g以下に形成することができる。
【0043】
【発明の効果】本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、良好な飛距離特性、耐久性、ソフトなフィーリングを有し、しかもゴルフボールとしてのスピン特性に優れたものである。」

(2)「【0044】
【実施例】以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0045】[実施例、比較例]表1に示す組成のソリッドコア上に表2に示す組成の中間層を射出成形により被覆形成し、更に表3に示す組成のカバーを射出成形により被覆形成して、表4に示す性状のスリーピースソリッドゴルフボールを製造した。
【0046】得られたゴルフボールの飛距離、スピン量、フィーリング、耐ささくれ性、連続耐久性について下記方法で測定した。
耐ささくれ性
スイングロボットにより、サンドウェッジ(#SW,ヘッドスピード38m/sec)でボールを任意に二箇所打撃し、これを目視評価した。
○:良好
△:普通
×:劣る
連続耐久性
フライホイール打撃M/Cを用い、ヘッドスピード38m/secで繰り返し打撃して、ボールが破壊するまでの打撃回数の多少により評価した。
○:良好
△:普通
×:悪い
飛距離
スイングロボットを用い、ドライバー(#W1,ヘッドスピード45m/sec)で打撃し、キャリー、トータルそれぞれの飛距離を測定した。
スピン量
#W1及び#9アイアン(#I9,ヘッドスピード36m/sec)について、インパクト直後のボールの挙動を写真撮影し、写真解像により算出した。
フィーリング
#W1及び#I9について、プロゴルファー3名により実打したときの感触を下記基準により評価した。
○:軟らかい
△:やや硬い
×:硬い
【0047】
【表1】

*1 日本合成ゴム社製 BR01
【0048】
【表2】

*2 大日本インキ化学工業社製 熱可塑性ポリウレタンエラストマーパンデックスT1190
*3 大日本インキ化学工業社製 熱可塑性ポリウレタンエラストマーパンデックスT7298
*4 東レ・デュポン社製 ハイトレル4047
*5 東レ社製 PEBAX3533
*6 三井・デュポンポリケミカル社製 アイオノマー樹脂ハイミラン1706
*7 デュポン社製 アイオノマー樹脂サーリン8120
【0049】
【表3】

*6 同上
*7 同上
*8 三井・デュポンポリケミカル社製 アイオノマー樹脂ハイミラン1605
【0050】
【表4】

*9 コア+中間層」

(3)上記(2)から、引用例1、特に実施例2,3,5には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ソリッドコア上に中間層を被覆形成し、更にカバーを被覆形成してなるスリーピースソリッドゴルフボールであって、
前記中間層の組成は、[100重量部のT7298、100重量部のT7298と7.5重量部のタングステン、100重量部のT7298]であり、
前記カバーの組成は、[85重量部のハイミラン1706と15重量部のサーリン8120と5.13重量部の二酸化チタン、50重量部のハイミラン1605と50重量部のハイミラン1706と5.13重量部の二酸化チタン、50重量部のハイミラン1605と50重量部のハイミラン1706と5.13重量部の二酸化チタン]であり、
前記中間層の厚さは、[1.35mm、1.35mm、1.70mm]であり、
前記カバーの厚さは、2.00mmであり、
前記カバーの硬度(ショアD)は、[60、63、63]である、
スリーピースソリッドゴルフボール。
ここで、上記T7298、ハイミラン1605、ハイミラン1706及びサーリン8120は、それぞれ以下のとおりのものである。
T7298:熱可塑性ポリウレタンエラストマーパンデックスT7298(大日本インキ化学工業社製)
ハイミラン1605:アイオノマー樹脂ハイミラン1605(三井・デュポンポリケミカル社製)
ハイミラン1706:アイオノマー樹脂ハイミラン1706(三井・デュポンポリケミカル社製)
サーリン8120:アイオノマー樹脂サーリン8120(デュポン社製)」
(審決注:上記[]内の各項目は、左から順に実施例2,3,5に対応するものである。)

2 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-199846号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。

(1)「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者等は上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、センター内の硬度分布;センター表面、中間層およびカバーの各層間の硬度分布;並びにディンプルのボール表面積占有率およびディンプルの輪郭長さの総合計を特定範囲に規定することにより、低ヘッドスピードでの打撃時においてもソフトで良好な打球感を維持したまま、初期飛行性能において、低ヘッドスピードでの打撃時にも高打出角化および低スピン量化を実現することにより飛距離を向上させたスリーピースソリッドゴルフボールが得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】即ち、本発明は、センター(1)と該センター上に形成された中間層(2)と該中間層を被覆するカバー(3)とから成り、かつ該カバーの表面に多数のディンプルを形成したスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、該センター(1)が、ショアD硬度による表面硬度(HS)と中心硬度(HC)との差(HS-HC)10?40を有し、かつ該表面硬度(HS)36?50を有し、該中間層(2)の基材樹脂が熱可塑性エラストマー/アイオノマー樹脂の重量比20/80?70/30を有する熱可塑性樹脂から形成され、かつ該中間層がショアD硬度による硬度(HM)36?50を有し、該カバー(3)の基材樹脂がアイオノマー樹脂を主材として含有する熱可塑性樹脂から形成され、該カバーがショアD硬度による硬度(HL)58?69を有し、該センターの表面硬度(HS)と該中間層硬度(HM)との差(HS-HM)が0?15であり、かつ該カバー硬度(HL)と該中間層硬度(HM)との差(HL-HM)が10?28であり、該ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、該ディンプルのボール表面積占有率をYで表したとき、XとYとが以下の式(1):
X≦1930+3882Y (1)
で表される関係を満足し、かつYが0.70?0.90であることを特徴とするスリーピースソリッドゴルフボールに関する。」

(2)「【0025】本発明の中間層(2)は、熱可塑性樹脂、例えばアイオノマー樹脂または熱可塑性エラストマー、若しくはそれらの混合物を基材樹脂として含有する。本発明の中間層(2)の好ましい材料の例としては、1種以上の熱可塑性エラストマーと1種以上のアイオノマー樹脂との組合せが好適に用いられる。
【0026】上記熱可塑性エラストマーとしては、例えば東レ(株)から商品名「ペバックス」で市販されている(例えば、「ペバックス2533」)ポリアミド系熱可塑性エラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル」で市販されている(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)ポリエステル系熱可塑性エラストマー、BASFポリウレタンエラストマーズ(株)から商品名「エラストラン」で市販されている(例えば、「エラストランET880」)ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、大日本インキ化学工業(株)から商品名「パンデックス」で市販されている(例えば、「パンデックスT‐8180」)ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン」で市販されている(例えば、「ラバロンSR04」)スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。特にポリエステル系もしくはスチレン系熱可塑性エラストマーが反発性能に優れることから好ましい。

(3)「【0034】本発明のゴルフボールでは、中間層用基材樹脂は上記熱可塑性エラストマーの1種以上と、上記アイオノマー樹脂の1種以上との組合せを含有することが好ましく、両者の配合量としては、熱可塑性エラストマー/アイオノマー樹脂の重量比20/80?70/30、好ましくは20/80?65/35、より好ましくは20/80?60/40を有するように設定するのが望ましい。上記熱可塑性エラストマーの配合量が、中間層用基材樹脂100重量部に対して、20重量部より少ないと、熱可塑性エラストマーを配合することによる打球感を向上する効果が十分に得られなくなる。上記熱可塑性エラストマーの配合量が70重量部より多く、アイオノマー樹脂が30重量部より少ないと、中間層が軟らかくなり過ぎて、反発性が低下して飛距離が低下したり、耐久性が低下する。」

3 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-143345号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0035】なお、本発明のカバー材を比較的薄いカバーに、形成することが推奨されるため、この場合は、溶融粘度が、低くなるように適宜添加剤を配合して調製することが推奨される。
…(略)…
【0048】本発明において、カバーの厚さ、比重等は特に制限されず、種々変更することができるが、カバーの厚さは、通常0.2mm以上、特に0.5mm以上、上限として4.0mm以下、特に3.0mm以下、好ましくは2.0mm以下、更に好ましくは1.0mm以下とすることが推奨され、本発明のカバー材で形成されたカバーは、特に薄い厚さを有するカバーとして形成することができる。」

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「ソリッドコア」及び「スリーピースソリッドゴルフボール」は、それぞれ、本願発明の「コア」及び「ゴルフボール」に相当する。

2 引用発明の「コア(ソリッドコア)」が球状であることは当業者に自明であるから、引用発明の「コア」と本願発明の「コア」とは、「球状の」ものである点で一致する。

3 引用発明の「ゴルフボール(スリーピースソリッドゴルフボール)」は、「コア(ソリッドコア)」上に中間層を被覆形成し、更にカバーを被覆形成してなるものであるから、引用発明の「ゴルフボール」と本願発明の「『球状のコアと、このコアの外側に位置する中間層と、この中間層の外側に位置する補強層と、この補強層の外側に位置するカバーとを備えて』いる『ゴルフボール』」とは、「球状のコアと、このコアの外側に位置する中間層と、この中間層の外側に位置するカバーとを備えている」ものである点で一致するといえる。

4 引用発明において、中間層の組成は、[100重量部のT7298、100重量部のT7298と7.5重量部のタングステン、100重量部のT7298]であり、前記T7298は熱可塑性ポリウレタンエラストマーであるから、引用発明の「中間層」と本願発明の「『基材ポリマーが、30質量%以上60質量%以下のスチレンブロック含有熱可塑性エラストマーと、40質量%以上70質量%以下のアイオノマー樹脂とを含んで』いる『中間層』」とは、「基材ポリマーが、熱可塑性エラストマーを含んでいる」ものである点で一致するといえる。

5 引用発明の中間層の厚さは、[1.35mm、1.35mm、1.70mm]であるから、引用発明の「中間層」と本願発明の「中間層」とは、「厚みTmが0.5mm以上1.7mm以下」のものである点で一致する。

6 引用発明において、カバーの組成は、[85重量部のハイミラン1706と15重量部のサーリン8120と5.13重量部の二酸化チタン、50重量部のハイミラン1605と50重量部のハイミラン1706と5.13重量部の二酸化チタン、50重量部のハイミラン1605と50重量部のハイミラン1706と5.13重量部の二酸化チタン]であり、前記ハイミラン1605、ハイミラン1706及びサーリン8120はいずれもアイオノマー樹脂であるから、引用発明の「カバー」と本願発明の「カバー」とは、「基材ポリマーの主成分がアイオノマー樹脂」のものである点で一致する。

7 引用発明のカバーの硬度(ショアD)は、[60、63、63]であるから、引用発明の「カバー」と本願発明の「カバー」とは、「ショアD型硬度計で測定された硬度Hcが56以上65以下」のものである点でも一致する。

8 上記1ないし7から、本願発明と引用発明とは、
「球状のコアと、このコアの外側に位置する中間層と、この中間層の外側に位置するカバーとを備えており、
この中間層の基材ポリマーが、熱可塑性エラストマーを含んでおり、
この中間層の厚みTmが0.5mm以上1.7mm以下であり、
このカバーの基材ポリマーの主成分がアイオノマー樹脂であり、
このカバーの、ショアD型硬度計で測定された硬度Hcが56以上65以下である、
ゴルフボール。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願発明では、前記ゴルフボールが、「中間層の外側に位置する補強層」を備えており、前記カバーは、「この補強層の外側に位置する」のに対して、引用発明では、前記ゴルフボールがそのような補強層を備えていない点。

相違点2:
前記中間層の基材ポリマーが、本願発明では、「30質量%以上60質量%以下のスチレンブロック含有熱可塑性エラストマー」と、「40質量%以上70質量%以下のアイオノマー樹脂」とを含むものであるのに対して、引用発明では、熱可塑性ポリウレタンエラストマーである点。

相違点3:
前記カバーの厚みが、本願発明では、「0.1mm以上0.8mm以下」のものであるのに対して、引用発明では、2.00mmである点。

第5 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
1 相違点1について
(1)引用例1には、「本発明において、上記カバーと中間層との間に接着層を介在させることができ、これによって反撥性、耐久性などを更に向上させることができる。」(上記第3の1(1)【0036】参照。)と記載されている。

(2)上記(1)から、引用発明において、ゴルフボールの反撥性、耐久性などを更に向上させるために、カバーと中間層との間に接着層を介在させることは、当業者が引用例1に記載された事項に基づいて容易に想到し得た程度のことである。

(3)本願明細書の「補強層8は、中間層6とカバー10との間に介在している。補強層8は、中間層6と堅固に密着し、カバー10とも堅固に密着する。前述のように、このゴルフボール2の中間層6は薄い。後述されるように、このゴルフボール2のカバー10は極めて薄い。補強層8を介してカバー10が中間層6と堅固に密着するので、中間層6及びカバー10が薄いにもかかわらず、中間層6及びカバー10が破損しにくい。このゴルフボール2は、耐久性に優れる。換言すれば、補強層8の存在が、薄い中間層6及び薄いカバー10を許容する。」(【0040】参照。)との記載によれば、本願発明の「補強層」とは、中間層とカバーとの間に介在し、中間層及びカバーと堅固に密着して、ゴルフボールの耐久性を優れたものとする層であって、上記(2)の「接着層」と、配置及び機能の点で共通するものといえるから、上記(2)の「接着層」は、本願発明の「補強層」に相当するといえる。

(4)上記(2)及び(3)から、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例1に記載された事項に基づいて容易になし得た程度のことである。

2 相違点2について
(1)引用例1には、「本発明の中間層は、上記ポリウレタン系樹脂(特に熱可塑性ポリウレタンエラストマー)を主材とするが、必要に応じ、本発明の作用効果を更に発揮させるために、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーには他の熱可塑性樹脂などを適宜配合することができ、例えばポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレンブロックエラストマー、水添ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミドなどを配合し得る。」(上記第3の1(1)【0023】参照。)と記載されている。

(2)引用例2には、「スリーピースゴルフボールの中間層の好ましい材料の例としては、1種以上の熱可塑性エラストマーと1種以上のアイオノマー樹脂との組合せが好適に用いられ、上記熱可塑性エラストマーとしては、大日本インキ化学工業(株)から商品名「パンデックス」で市販されている(例えば、「パンデックスT‐8180」)ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン」で市販されている(例えば、「ラバロンSR04」)スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。」(上記第3の2(1)及び(2)参照。)及び「中間層用基材樹脂は上記熱可塑性エラストマーの1種以上と、上記アイオノマー樹脂の1種以上との組合せを含有することが好ましく、両者の配合量としては、熱可塑性エラストマー/アイオノマー樹脂の重量比20/80?70/30、好ましくは20/80?65/35、より好ましくは20/80?60/40を有するように設定するのが望ましい。上記熱可塑性エラストマーの配合量が、中間層用基材樹脂100重量部に対して、20重量部より少ないと、熱可塑性エラストマーを配合することによる打球感を向上する効果が十分に得られなくなる。上記熱可塑性エラストマーの配合量が70重量部より多く、アイオノマー樹脂が30重量部より少ないと、中間層が軟らかくなり過ぎて、反発性が低下して飛距離が低下したり、耐久性が低下する。」(上記第3の2(3)参照。)と記載されており、前記熱可塑性エラストマー/アイオノマー樹脂の重量比の具体的数値は、当業者が、ゴルファーから求められる打球感、飛距離及び耐久性等に応じて適宜決定すべき設計事項というべきものである。

(3)上記(1)及び(2)から、引用発明において、良好な打球感、飛距離及び耐久性等を得るために、中間層の基材ポリマーとして、熱可塑性エラストマーであるスチレンブロックエラストマーとアイオノマー樹脂とを重量比30/70?60/40配合したものを用い、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例1に記載された事項及び引用例2に記載された事項に基づいて容易になし得た程度のことである。

3 相違点3について
(1)引用例1の「カバーの厚さは0.5?3.2mmであり、好ましくは1.0?2.5mm、更に好ましくは1.2?2.2mmとする。カバー厚さが0.5mm未満ではボール耐久性に劣り、反撥性も低下する場合があり、一方、カバー厚さが3.2mmを超えると、打感が低下する。」(第3の1(1)【0032】参照。)との記載からも明らかなように、ゴルフボールのカバーの厚さの具体的数値は、当業者が、ゴルファーから求められる打感、反発性及び耐久性等に応じて適宜決定すべき設計事項というべきものである。

(2)引用例3には、「カバー材を比較的薄いカバーに、形成することが推奨される」及び「更に好ましくは1.0mm以下とすることが推奨され、本発明のカバー材で形成されたカバーは、特に薄い厚さを有するカバーとして形成することができる。」(第3の3参照。)と記載されている。

(3)上記(1)及び(2)から、引用発明において、良好な打感、反発性及び耐久性等を得るために、カバーの厚みを「0.1?0.8mm」とし、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例1に記載された事項及び引用例3に記載された事項から容易になし得た程度のことである。

4 効果について
本願発明の奏する効果は、当業者が、引用発明の奏する効果及び引用例1ないし3に記載された事項から予測することができた程度のものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、当業者が、引用例1に記載された発明及び引用例1ないし3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例1に記載された発明及び引用例1ないし3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-15 
結審通知日 2011-03-22 
審決日 2011-04-04 
出願番号 特願2006-37643(P2006-37643)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 薄井 義明  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 ゴルフボール  
代理人 岡 憲吾  

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