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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J |
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管理番号 | 1237521 |
審判番号 | 不服2007-27161 |
総通号数 | 139 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-10-04 |
確定日 | 2011-05-26 |
事件の表示 | 平成8年特許願第59567号「段ボール用接着剤」拒絶査定不服審判事件〔平成9年9月22日出願公開、特開平9-249862〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 この出願は、平成8年3月15日の出願であって、平成15年2月19日に手続補正書が提出され、平成17年6月17日付けの拒絶理由通知に対して同年8月19日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成19年8月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月4日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに同年11月5日に手続補正書が提出され、その後、当審における平成22年8月23日付けの拒絶理由通知に対して同年10月21日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2 本願発明 この出願の発明は、平成15年2月19日、平成17年8月19日、平成19年11月5日及び平成22年10月21日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。 「未糊化澱粉を1つのタンク内で水に分散、懸濁させ、アルカリ成分を加えて該未糊化澱粉を膨潤させ、所定の粘度に達したら硼酸を加えて反応を停止させ、次いで一定時間混練するノーキャリア方式によって製糊する段ボール用接着剤の製造方法において、前記未糊化澱粉に代えてα化澱粉0.5?30重量%と未糊化澱粉70?99.5重量%とを混合してなる加工澱粉を用いることを特徴とする段ボール用接着剤の製造方法。」 3 当審が通知した拒絶理由の概要 平成22年8月23日付けで通知した拒絶の理由の概要は、この出願の発明は、その出願前に頒布された刊行物である刊行物2(特開平3-12470号公報)及び刊行物1(特公昭38-10983号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 4 刊行物の記載事項 (1)刊行物2 上記拒絶の理由で引用された刊行物2(特開平3-12470号公報)には、以下の事項が記載されている。 (2a)「1.メイン部澱粉成分である生澱粉と、キヤリヤー部澱粉成分であるα澱粉とを必要な薬品とともに含み、一液方式又は1パツク方式で調製される段ボール用接着剤において、 前記α澱粉が、低粘度化処理α澱粉であることを特徴とする段ボール用接着剤。」(特許請求の範囲第1項) (2b)「以下に、本明細書で使用される略号・・・の説明をしておく。 ・・・・・・・・・・ 部…重量部」(1頁右下欄3?12行) (2c)「段ボール用接着剤の調製は、従来ステインホール方式(2-タンク方式)が主流であつた。しかし、ステインホール方式は、メイン部とキヤリヤー部とを別々に調製しなければならず、かつ、複雑な製糊装置を必要とするなど調製が面倒で調製工程も嵩んだ。 このため、ステインホール方式に代えて、一液方式または1-パツク方式により段ボール用接着剤を1つのタンク内で調製する方法が主流になりつつある。 一液方式とは、メイン部澱粉成分である生澱粉と、キヤリヤー部澱粉成分であるα澱粉とを1つのタンクの中で混合懸濁させた後、さらに、苛性ソーダ、ホウ砂などの必要な薬品を添加して接着剤を調製する方法である・・・。 1-パツク方式とは、生澱粉とα澱粉とを必要な薬品とともにあらかじめ混合しておいて、使用直前に1つのタンク中で水に溶解又は分散させ糊液を調製するものである・・・。」(2頁左上欄19行?右上欄末行) (2d)「本発明は・・・1-タンク方式の段ボール用接着剤において、段ボールの高速貼合に対応できる接着剤を提供することを目的とする。 ・・・本発明の段ボール用接着剤は、上記課題を下記構成により解決するものである。 メイン部澱粉成分である生澱粉と、キヤリヤー部澱粉成分であるα澱粉とを必要な薬品とともに含み、一液方式又は1パツク方式で調製される段ボール用接着剤において、前記α澱粉として低粘度化α澱粉を使用することを特徴とする。」(2頁右下欄3?14行) (2e)「本発明で使用する低粘度化α澱粉は、生澱粉を公知の方法で低粘度化し、さらにやはり公知の方法(熱ローラー法・押出し法・煮沸乾燥法等)でα化したものである。 ・・・低粘度化は、・・・無機酸又は・・・有機酸で処理する酸処理;各種アミラーゼ等を用いての酵素処理;次亜塩素酸又はその塩で処理する酸化処理:加熱焙焼によるデキストリン化処理;等の方法を単独で又は組み合せて行なう。」(2頁右下欄16行?3頁左上欄13行) (2f)「(1)一液方式: 使用する全澱粉量(生澱粉とα澱粉との合計量)の2.5?4.0倍量の水(必要に応じて25?45℃に加温)に、 (1)メイン部澱粉 …100部 (2)キヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉) …5?35部 (3)苛性ソーダ …2?5部 を攪拌しながら投入する(投入の順序は問わない)。攪拌を継続して生澱粉の膨潤反応を進行させ、懸濁液の粘度が所定の値(要求される接着剤組成によつて異なるが50?3000cPs、好ましくは100?1000cPsの範囲)になつたところで、ホウ酸又はホウ砂を1?5部添加して、反応を停止させ接着剤糊液を調製する。」(審決注:番号「○の中に1」等を「(1)」等で表した。以下も同じ。)(3頁左下欄13行?右下欄7行) (2g)「(2)1-パック方式: 使用する全澱粉量の2.5?4.0倍量の水(必要に応じてあらかじめ25?45℃に加温)に、 (1)メイン部澱粉 …100部 (2)キヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉) …5?35部 (3)ホウ酸又はホウ砂 …1?5部 の割合で配合した混合物を攪拌しながら投入し、その後2?5部の苛性ソーダを所定濃度(5?30wt%)の水溶液として、上記懸濁液中に添加して接着剤糊液を調製する。 なお、この場合に苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)の代わりに、常態で粉末状のソーダ灰(炭酸ナトリウム)、消石灰(水酸化カルシウム)等のアルカリ物質を上記粉体中にあらかじめ混合しておいて、該混合物を水に溶解・分散させるのみで接着剤糊液を調製し得るいわゆる“完全1パツク方式”で調製してもよい。」(3頁右下欄8行?4頁左上欄5行) (2h)「実施例1 タピオカ澱粉8kgを水10L(審決注:原文は小文字筆記体であるが大文字で記す。)に懸濁し、50℃まで昇温する。18%硫酸700gを添加して50℃で攪拌しながら、酸処理反応をさせ、30分後、2時間後、4時間後にそれぞれ反応液を一定量分取して、5%苛性ソーダ溶液でpH5.5に調整し、洗浄、脱水後50?60℃で乾燥する。 こうして得た上記各低粘度化処理澱粉を、それぞれ別々に、ホツトローラーにて糊化、乾燥後、粉砕して低粘度化処理α澱粉を製造した。これらの安定粘度、溶解度は以下の通りであった。 反応時間(hrs) 安定粘度(BU) 溶解度(%) 0.5 400 54 2 150 72 4 80 85 」(4頁左下欄19行?右下欄表) (2i)「実施例3 常温の水500ml中にコーンスターチ153g、安定粘度150BU(溶解度72%)の上記α澱粉17gを投入し、溶解・分散させた後、攪拌しながら17%の苛性ソーダ溶液32gを添加する。その後、懸濁液を40℃まで昇温する。所定の粘度(350±30cPs)になつたところでホウ酸2.46gを添加して、メイン部澱粉の膨潤反応を停止させ、段ボール用接着剤糊液を得た(調製例E)。」(5頁左上欄10?19行) (2j)「比較例1 未処理のタピオカ澱粉、コーンスターチをそれぞれ別々にホツトローラーにて糊化、乾燥後粉砕して、α澱粉を製造した。これらの安定粘度、溶解度は、以下の通りであつた。 α澱粉 安定粘度(BU) 溶解度(%) タピオカ澱粉 860 25 コーンスターチ 60 15 」(5頁左上欄20行?右上欄表) (2k)「比較例3 比較例1で使用したα澱粉を以下に示す割合で使用する以外は、実施例3と同様に調製して段ボール用接着剤糊液を得た。 α澱粉 澱粉使用量(g) 調製例 コーンスターチ α澱粉 タピオカ澱粉 161.5 8.5 J コーンスターチ 156.4 13.6 K 」(審決注:項目名が2行に亘るものを1行に整理して摘示した。以下も同じ。)(5頁右上欄下から4行?左下欄表) (2L)別表1の実施例3及び比較例3を抜粋すると、以下のとおりである。 「別表1 実施例 比較例 3 3 調製例 E J K α澱粉 粘度(BU) 150 860 60 溶解度(%) 72 25 15 混合割合 α澱粉 10.0 5.0 8.0 (%) コーンスターチ 90.0 95.0 92.0 一液方式 一液方式 」(5頁右下欄) (2m)別表2の実施例3及び比較例3を抜粋すると、以下のとおりである。 「別表2 実施例 比較例 3 3 調製例 E J K 糊液特性 ・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 保水性(分) 9?10 6?7 4?5 接着性能 初期接着力 9.00 7.65 6.05 (※) 常態接着力 30.5 27.0 25.2 ※ kgf/(5×8)cm^(2) 」(6頁上欄) (2)刊行物1 上記拒絶の理由で引用された刊行物1(特公昭38-10983号公報)には、以下の事項が記載されている。 (1a)「本文に詳記するように各種澱粉を単独又は混合したもの15?30%各種澱粉から製造したα化澱粉0.2?10%、水中に於て膨潤又は粘着性を示すベントナイト又はこれに類似の無機物質10%以下、苛性ソーダ0.3?0.8%、硼砂0.3?0.8%の合計量を40%以下とし残余を水として総量を100%とすることを特徴とする段ボール接着剤の製造法。」(特許請求の範囲) (1b)「本発明実施例を示せば 第1成分 甘藷、馬鈴薯、小麦、玉蜀黍、タピオカ等の 澱粉又はこれ等の混合澱粉 25%(重量比以下同じ) 第2成分 第1成分のα化されたもの単独又は混合物 5% 第3成分 水中に於て膨潤又は粘着性を示すベントナイト 又はこれと類似の無機物質 5% 第4成分 純度95%以上の苛性ソーダ 0.5% 第5成分 純度98%以上の硼砂 0.5% 水 64% 以上の内第1成分と第2成分の混合体に水を加えながら攪拌混合して第2成分が溶解した後第3成分を加え又は第1、第2及び第3成分の混合物に水を加えながら攪拌して第2成分が溶解した後第4成分の水溶液及び第5成分の水溶液を加え攪拌混和し糊として使用する。 而して前記第2成分を第1成分或は第3成分と混合しこれに水を加えるときは第2成分であるα化澱粉と水との親和性を高め糊状に仕上げる迄の時間をα化澱粉単独で溶解する場合に比し著しく短縮することが出来る。尚苛性ソーダは第2成分の粘度を高め且第1成分の糊化温度を下げる効果がある。」(1頁左欄下から6行?右欄19行) 5 刊行物2に記載された発明 (1)刊行物2には、その特許請求の範囲第1項に係る発明として「メイン部澱粉成分である生澱粉と、キヤリヤー部澱粉成分であるα澱粉とを必要な薬品とともに含み、一液方式又は1パツク方式で調製される段ボール用接着剤において、前記α澱粉が、低粘度化処理α澱粉であることを特徴とする段ボール用接着剤」の発明が記載され(摘示(2a))、そのうちの一液方式の調製方法は、「使用する全澱粉量(生澱粉とα澱粉との合計量)の2.5?4.0倍量の水(必要に応じて25?45℃に加温)に、 (1)メイン部澱粉 …100部 (2)キヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉) …5?35部 (3)苛性ソーダ …2?5部 を攪拌しながら投入する(投入の順序は問わない)。攪拌を継続して生澱粉の膨潤反応を進行させ、懸濁液の粘度が所定の値(要求される接着剤組成によつて異なるが50?3000cPs、好ましくは100?1000cPsの範囲)になつたところで、ホウ酸又はホウ砂を1?5部添加して、反応を停止させ接着剤糊液を調製する」というものである(摘示(2f))。 そして、上記「投入の順序は問わない」とされるところ、引用発明の一液方式の唯一の実施例に相当する実施例3では、水中にコーンスターチ、α澱粉を投入し、溶解・分散させた後、攪拌しながら苛性ソーダ溶液を添加しているから(摘示(2i))、メイン部澱粉とキヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉)を先に投入して溶解・分散させ、苛性ソーダを後から添加する態様を実質的に含み、これが好ましい態様であるといえる。 そうすると、刊行物2には、 「メイン部澱粉成分である生澱粉と、キヤリヤー部澱粉成分であるα澱粉とを必要な薬品とともに含み、一液方式で調製される段ボール用接着剤において、前記α澱粉が低粘度化処理α澱粉である、段ボール用接着剤の調製方法であって、 使用する全澱粉量(生澱粉とα澱粉との合計量)の2.5?4.0倍量の水に、メイン部澱粉100部、キヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉)5?35部、苛性ソーダ2?5部を攪拌しながら投入し(投入の順序は問わないがメイン部澱粉とキャリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉)を先に投入して溶解・分散させ、苛性ソーダを後から添加する態様が好ましい態様である)、攪拌を継続して生澱粉の膨潤反応を進行させ、懸濁液の粘度が所定の値(要求される接着剤組成によって異なるが50?3000cPs)になったところで、ホウ酸又はホウ砂を1?5部添加して、反応を停止させ接着剤糊液を調製する、上記一液方式の調製方法。」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。 (2)また、刊行物2には、「実施例3 常温の水500ml中にコーンスターチ153g、安定粘度150BU(溶解度72%)の上記α澱粉17gを投入し、溶解・分散させた後、攪拌しながら17%の苛性ソーダ溶液32gを添加する。その後、懸濁液を40℃まで昇温する。所定の粘度(350±30cPs)になつたところでホウ酸2.46gを添加して、メイン部澱粉の膨潤反応を停止させ、段ボール用接着剤糊液を得た(調製例E)」及び「比較例3 比較例1で使用したα澱粉を以下に示す割合で使用する以外は、実施例3と同様に調製して段ボール用接着剤糊液を得た」が記載されている(摘示(2i)(2k))。 ここで、「安定粘度150BU(溶解度72%)の上記α澱粉」とは、摘示(2h)の実施例1に示される、タピオカ澱粉を原料として低粘度化及びα化した低粘度化処理α澱粉であり、「比較例1で使用したα澱粉」とは、摘示(2j)の比較例1に示される、タピオカ澱粉又はコーンスターチを原料としてα化したα澱粉であり、「以下に示す割合」とは、摘示(2k)の表の調製例J及びKにおける澱粉使用量を意味している。そして、調製例E、J及びKについて、摘示(2L)の別表1には、α澱粉の粘度やα澱粉とコーンスターチの混合割合が記載されている。 これらを整理すると、刊行物2には、以下のとおりの、引用発明の具体例に相当するものとして実施例3の調製例Eの発明、並びに引用発明の比較例に相当するものとして比較例3の調製例J及びKの発明が、それぞれ記載されているといえる。 「常温の水500ml中にコーンスターチ153g、タピオカ澱粉を原料として低粘度化及びα化した安定粘度150BU(溶解度72%)の低粘度化処理α澱粉17gを投入し、溶解・分散させた後、攪拌しながら17%の苛性ソーダ溶液32gを添加し、その後、懸濁液を40℃まで昇温し、所定の粘度(350±30cPs)になったところでホウ酸2.46gを添加して、メイン部澱粉の膨潤反応を停止させる、一液方式で調製され、コーンスターチと低粘度化処理α澱粉の混合割合が90.0:10.0である、段ボール用接着剤糊液の調製方法。」(以下、「引用発明2」という。) 「常温の水500ml中にコーンスターチ161.5g、タピオカ澱粉を原料としてα化した安定粘度860BU(溶解度25%)のα澱粉8.5gを投入し、溶解・分散させた後、攪拌しながら17%の苛性ソーダ溶液32gを添加し、その後、懸濁液を40℃まで昇温し、所定の粘度(350±30cPs)になったところでホウ酸2.46gを添加して、メイン部澱粉の膨潤反応を停止させる、一液方式で調製され、コーンスターチとα澱粉の混合割合が95.0:5.0である、段ボール用接着剤糊液の調製方法。」(以下、「引用発明3」という。) 「常温の水500ml中にコーンスターチ156.4g、コーンスターチを原料としてα化した安定粘度60BU(溶解度15%)のα澱粉13.6gを投入し、溶解・分散させた後、攪拌しながら17%の苛性ソーダ溶液32gを添加し、その後、懸濁液を40℃まで昇温し、所定の粘度(350±30cPs)になったところでホウ酸2.46gを添加して、メイン部澱粉の膨潤反応を停止させる、一液方式で調製され、コーンスターチとα澱粉の混合割合が92.0:8.0である、段ボール用接着剤糊液の調製方法。」(以下、「引用発明4」という。) 6 引用発明との対比・判断 (1)対比 本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「メイン部澱粉成分である」ところの「生澱粉」、「キヤリヤー部澱粉成分である」ところの「低粘度化処理α澱粉」、「苛性ソーダ」、「ホウ酸」、「接着剤糊液を調製する」及び「調製方法」は、それぞれ、本願発明の「未糊化澱粉」、「α化澱粉」、「アルカリ成分」、「硼酸」、「製糊する」及び「製造方法」に相当する。 そして、引用発明の「水に、メイン部澱粉100部、キヤリヤー部澱粉(低粘度化α澱粉)5?35部、苛性ソーダ2?5部を攪拌しながら投入し(投入の順序は問わないがメイン部澱粉とキヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉)を先に投入して溶解・分散させ、苛性ソーダを後から添加する態様が好ましい態様である)、攪拌を継続して生澱粉の膨潤反応を進行させ、懸濁液の粘度が所定の値・・・になったところで、ホウ酸・・・を1?5部添加して、反応を停止させ接着剤糊液を調製する・・・一液方式の調製方法」は、「一液方式」であるから「1つのタンク内で調製する方法」であって(摘示(2c))、本願発明の「ノーキャリア方式」に相当し、その「メイン部澱粉とキヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉)を先に投入して溶解・分散させ、苛性ソーダを後から添加する態様」は、本願発明の「未糊化澱粉を1つのタンク内で水に分散、懸濁させ、アルカリ成分を加え・・・において、前記未糊化澱粉に代えてα化澱粉・・・と未糊化澱粉・・・を用いる」に相当する。また、上記「メイン部澱粉100部、キヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉)5?35部」の量比は、「部」は「重量部」であるから(摘示(2b))、重量%に換算すると、メイン部澱粉74?95重量%とキヤリヤー部澱粉(上記α澱粉)5?26重量%となる。そうすると、これは、本願発明の「未糊化澱粉を1つのタンク内で水に分散、懸濁させ、アルカリ成分を加えて該未糊化澱粉を膨潤させ、所定の粘度に達したら硼酸を加えて反応を停止させるノーキャリア方式によって製糊する段ボール用接着剤の製造方法において、前記未糊化澱粉に代えてα化澱粉・・・と未糊化澱粉・・・を用いる段ボール用接着剤の製造方法」に相当する。そして、キヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉)とメイン部澱粉の量比も、前者5?26重量%と後者74?95重量%であるから、本願発明において特定している、α化澱粉0.5?30重量%と未糊化澱粉70?99.5重量%の範囲に、包含されるものである。 したがって、本願発明と引用発明は、 「未糊化澱粉を1つのタンク内で水に分散、懸濁させ、アルカリ成分を加えて該未糊化澱粉を膨潤させ、所定の粘度に達したら硼酸を加えて反応を停止させるノーキャリア方式によって製糊する段ボール用接着剤の製造方法において、前記未糊化澱粉に代えてα化澱粉5?26重量%と未糊化澱粉74?95重量%を用いる段ボール用接着剤の製造方法」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明は、「α化澱粉・・・と未糊化澱粉・・・とを混合してなる加工澱粉を用いる」ものであるのに対し、引用発明は、水にメイン部澱粉とキヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉)を投入するにあたり、両者を混合してなる加工澱粉を用いると特定されていない点 (相違点2) 本願発明は、硼酸を加えて反応を停止させた後、「次いで一定時間混練する」ものであるのに対し、引用発明はそのように特定されていない点 (2)判断 ア 相違点1について 引用発明において、最終的に得られる接着剤、すなわち、水にメイン部澱粉とキヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉)を溶解・分散させた後、撹拌しながら苛性ソーダを添加し、さらに硼酸を添加して得られる接着剤が、均質であることは、当然に望まれる事項であると認められる。そのためには、最初の、水にメイン部澱粉とキヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉)を溶解・分散させた分散液が、均質であることも、望まれる事項であるといえる。 ところで、水に複数の粉体(溶質及び/又は分散質)を投入して溶液や分散液を得る場合に、均質に溶解及び/又は分散させるためには、十分に撹拌することや、投入の仕方を工夫することは、当業者が当然に考慮する事項であり、当該複数の粉体を予め混合した混合物としておくことは、最もありふれた手段といえる。 例えば、刊行物2においても、1-タンク方式の段ボール用接着剤として、引用発明の「一液方式」と並んで記載されている「1-パツク方式」につき、「1-パツク方式とは、生澱粉とα澱粉とを必要な薬品とともにあらかじめ混合しておいて、使用直前に1つのタンク中で水に溶解又は分散させ糊液を調製するものである」、「1-パツク方式:使用する全澱粉量の2.5?4.0倍量の水・・・に、(1)メイン部澱粉…100部(2)キヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉)…5?35部(3)ホウ酸又はホウ砂…1?5部の割合で配合した混合物を攪拌しながら投入し・・・」と記載されている(摘示(2c)(2g))。 また、刊行物1においても、段ボール接着剤につき、「第1成分 甘藷、馬鈴薯、小麦、玉蜀黍、タピオカ等の澱粉又はこれ等の混合澱粉 25%(重量比以下同じ)」、「第2成分 第1成分のα化されたもの単独又は混合物 5%」、「水 64%」であるところ、「第1成分と第2成分の混合体に水を加えながら攪拌混合して第2成分が溶解した後・・・」と記載されている(摘示(1b))。刊行物1のものは、水に粉体を投入するのでなく、粉体に水を加えていく点で、引用発明と違いはあるものの、澱粉とα化澱粉を混合物として、水に分散・溶解させている。 このように、水に複数の粉体(溶質及び/又は分散質)を混合して溶液や分散液を得る場合に、当該複数の粉体を予め混合した混合物としておくことは、普通のことである。 したがって、引用発明において、メイン部澱粉とキヤリヤー部澱粉(低粘度化処理α澱粉)を水に投入するにあたり両者を予め混合した混合物としておくこととし、相違点1に係る、両者を「混合してなる加工澱粉を用いる」との本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 なお、請求人は、平成22年10月21日提出の意見書において、概略、刊行物1には生澱粉とα化澱粉の混合体に水を加えながら撹拌混合することが記載されているが、水に混合体を加えることは言及されてなく、一方、刊行物2に記載の発明は、水に澱粉とα化澱粉とが別々に加えられ(3頁右上欄18行?左下欄8行及び3頁左下欄13行?右下欄7行(審決注:摘示(2f)))、両者は添加方式が全く異なるから、刊行物2に記載の発明に刊行物1に記載の添加方式を適用したとすれば、生澱粉とα化澱粉の混合体に水を加える方式となるはずで、本願発明の特長には想到し得ないと主張している(同意見書6頁下から7行?7頁25行)。 しかし、引用発明を含む刊行物2に記載の発明において、水に澱粉とα化澱粉とが別々に加えられているかはともかく、水に投入して加えるものであることに間違いはなく、この投入する澱粉類を予め混合物としておくことが容易想到であることは、上記のとおりである。請求人の主張は採用できない。 イ 相違点2について 引用発明において、懸濁液にホウ酸を添加した後、直ちに撹拌を止めるのではなく、ホウ酸が良く混合するまで撹拌を続けるものと考えられる。 したがって、引用発明において、相違点2に係る「次いで一定時間混練する」との本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 ウ 発明の効果について 本願発明は、本願明細書の段落【0042】によると、保水性、初期接着性及び流動性に優れ、高速貼合せに対応し得る段ボール用接着剤が得られるという効果を奏するものであるが、引用発明も、段ボールの高速貼合に対応できる接着剤を提供することを目的としたものであり(摘示(2d))、摘示(2m)の別表2によれば、実施例3に示される保水性や初期接着力、常態接着力は、優れたものといえるから、本願発明の効果が、引用発明の効果に比し、格別優れたものであるとはいえない。 なお、請求人は、平成22年10月21日提出の意見書において、概略、刊行物1に記載の方法では継子が多数発生するという問題点は解決されず、刊行物2では継子発生を抑制するためには無機塩類により低粘度化処理した澱粉から得られたα化澱粉を用いることが必須であると明示しているから(3頁右上欄18行?左下欄8行)、α化澱粉と未糊化澱粉とを混合して成る加工澱粉を水に分散、懸濁させることにより継子の発生が抑制されることは刊行物2からは予測できない格別顕著な効果であると主張している(同意見書6頁下から3行?末行、7頁26?39行)。 しかし、請求人が引用した刊行物2の上記箇所は、「なお、α澱粉は表面の水親和性が高くて、継粉になり易い性質を有する。このため、製糊装置の攪拌力が弱くて継粉が出来るおそれがある場合には、ホウ酸塩・硫酸塩等の無機塩類を低粘度化処理澱粉に対して0.1?10wt%・・・添加してα化することが望ましい。ここで、無機塩類が0.1wt%未満では継粉発生防止効果がなく、また10wt%を超えるとα澱粉の溶解性が悪くなるので接着剤の接着性能が低下してしまう。なお無機塩類としては、澱粉と水素結合により強固に結合するホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩が好ましい」であり、製糊装置の撹拌力が弱くて継子ができるおそれがある場合の対策について言及したもので、「継子発生を抑制するためには無機塩類により低粘度化処理した澱粉から得られたα化澱粉を用いることが必須であると明示」したものではない。むしろ、刊行物2にこのように継子の懸念についての言及があり、その具体例において継子ができたとは記載されていないことからは、刊行物2に記載の発明においては、実際には、十分な撹拌力を以て継子ができないように調製できたことを示唆するものである。請求人の主張は採用できない。 エ したがって、本願発明は、引用発明を含む刊行物2及び1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 7 引用発明2、3又は4との対比・判断 (1)対比 本願発明と引用発明2、3又は4を対比すると、引用発明2?4の「コーンスターチ」、「低粘度化処理α澱粉」又は「α澱粉」、「苛性ソーダ」、「ホウ酸」、「接着剤糊液の調製方法」は、それぞれ、本願発明の「未糊化澱粉」、「α化澱粉」、「アルカリ成分」、「硼酸」、「製糊する・・・製造方法」に相当する。 そして、引用発明2?4は、「一液方式」であるから「1つのタンク内で調製する方法」であって(摘示(2c))、本願発明の「ノーキャリア方式」に相当し、引用発明2における「水・・・中にコーンスターチ・・・低粘度化処理α澱粉・・・を投入し、溶解・分散させた後・・・苛性ソーダ溶液・・・を添加し」並びに引用発明3及び4における「水・・・中にコーンスターチ・・・α澱粉・・・を投入し、溶解・分散させた後・・・苛性ソーダ溶液・・・を添加し」は、本願発明の「未糊化澱粉を1つのタンク内で水に分散、懸濁させ、アルカリ成分を加え・・・において、前記未糊化澱粉に代えてα化澱粉・・・と未糊化澱粉・・・を用いる」に相当する。また、引用発明2における「コーンスターチと低粘度化処理α澱粉の混合割合が90.0:10.0」、引用発明3における「コーンスターチとα澱粉の混合割合が95.0:5.0」及び引用発明4における「コーンスターチとα澱粉の混合割合が92.0:8.0」は、いずれも重量比であって、それぞれ、低粘度化処理α澱粉10.0重量%とコーンスターチ90.0重量%、α澱粉5.0重量%とコーンスターチ95.0重量%、α澱粉8.0重量%とコーンスターチ92.0重量%と、同義であるから、本願発明において特定している、α化澱粉0.5?30重量%と未糊化澱粉70?99.5重量%の範囲に、包含されるものである。 したがって、本願発明と引用発明2、3又は4は、 「未糊化澱粉を1つのタンク内で水に分散、懸濁させ、アルカリ成分を加えて該未糊化澱粉を膨潤させ、所定の粘度に達したら硼酸を加えて反応を停止させるノーキャリア方式によって製糊する段ボール用接着剤の製造方法において、前記未糊化澱粉に代えてα化澱粉10.0重量%と未糊化澱粉90.0重量%、α澱粉95.0重量%と未糊化澱粉95.0重量%、又はα澱粉8.0重量%と未糊化澱粉92.0重量%を用いる段ボール用接着剤の製造方法」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1’) 本願発明は、「α化澱粉・・・と未糊化澱粉・・・とを混合してなる加工澱粉を用いる」ものであるのに対し、引用発明2、3又は4は、水にコーンスターチと低粘度化処理α澱粉又はα澱粉を投入するにあたり、両者を混合してなる加工澱粉を用いると特定されていない点 (相違点2’) 本願発明は、硼酸を加えて反応を停止させた後、「次いで一定時間混練する」ものであるのに対し、引用発明2、3又は4はそのように特定されていない点 (2)判断 ア 相違点1’について 上記6(2)アに示したのと同様に、引用発明2、3又は4において、相違点1’に係る、両者を「混合してなる加工澱粉を用いる」との本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 イ 相違点2’について 上記6(2)イに示したのと同様に、引用発明2、3又は4において、相違点2’に係る「次いで一定時間混練する」との本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 ウ 発明の効果について 上記6(2)ウに示したとおり、摘示(2m)の別表2によれば、実施例3に示される保水性や初期接着力、常態接着力は、優れたものといえるから、本願発明2の効果が、引用発明2の効果に比し、格別優れたものであるとはいえない。 さらに、同じく別表2によれば、比較例3に示される保水性や初期接着力、常態接着力も、優れたものといえるから、本願発明の効果が、引用発明3又は4の効果に比し、格別優れたものであるとはいえない。 エ したがって、本願発明は、引用発明2、3又は4を含む刊行物2及び1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 8 まとめ したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である刊行物2及び1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 9 むすび 以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-28 |
結審通知日 | 2011-03-29 |
審決日 | 2011-04-11 |
出願番号 | 特願平8-59567 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C09J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中村 浩、山田 泰之 |
特許庁審判長 |
中田 とし子 |
特許庁審判官 |
松本 直子 橋本 栄和 |
発明の名称 | 段ボール用接着剤 |
代理人 | 石井 貞次 |
代理人 | 平木 祐輔 |