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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L |
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管理番号 | 1237527 |
審判番号 | 不服2008-4005 |
総通号数 | 139 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-02-20 |
確定日 | 2011-05-26 |
事件の表示 | 特願2000-195612「大豆ペプチド入りノンシュガー飲料」拒絶査定不服審判事件〔平成14年1月15日出願公開、特開2002-10764〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成12年6月29日の出願であって、平成19年8月16日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月22日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成20年1月17日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年2月20日に審判請求がされるとともに同年3月21日付けで手続補正がされ、平成22年8月4日付けの審尋に対して同年10月8日に回答書が提出されたものである。 第2 平成20年3月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定 1.補正の却下の決定の結論 平成20年3月21日付けの手続補正を却下する。 2.理由 (1)補正の内容 平成20年3月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項2、5及び6を削除し、補正前の特許請求の範囲の請求項1である、 「大豆タンパクを酵素分解することによってアミノ酸数が平均で3個から6個のオリゴペプチドとなった大豆タンパク酵素分解物を有効量含有するダイエット用飲料であって、ノンシュガーのコーヒー飲料または麦茶飲料であるダイエット用飲料。」 を 「大豆タンパクを酵素分解することによってアミノ酸数が平均で3個から6個のオリゴペプチドとなった大豆タンパク酵素分解物を0.1(w/v)%から10(w/v)%含有するノンシュガーのコーヒー飲料であるダイエット用飲料。」 にする補正を含むものである。 (2)新規事項及び目的要件の検討 上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1の「麦茶飲料」を削除し、「大豆タンパク酵素分解物」の含有量を「0.1(w/v)%から10(w/v)%」と限定するものであって、願書に最初に添付した明細書の記載からみて、いわゆる新規事項を追加するものではないから特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (3)独立特許要件の検討 そこで、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」といい、本件補正後の明細書を「本件特許明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(この補正が平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものであるか)について検討する。 すると、以下のとおり、本件補正発明は、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができるものではなく、上記請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。 ア.刊行物 特開平6-14747号公報(原査定で引用された刊行物1.。以下、「刊行物1」という。) 特開昭60-49751号公報(原査定で引用された刊行物6.。以下、「刊行物2」という。) イ.刊行物に記載された事項 (ア)刊行物1 1a 「【特許請求の範囲】 【請求項1】カプサイシン又はトウガラシエキスを含有することを特徴とするオリゴペプチド組成物。 【請求項2】オリゴペプチドが、鎖長2?10、好ましくは鎖長3?8のオリゴペプチドを主体とするものである請求項1の食品組成物。 【請求項3】カプサイシン濃度が、0.1?50ppmであることを特徴とするオリゴペプチド含有食品。」 1b 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、オリゴペプチドが本来持っている異味(苦味、渋味、嫌味等)を改善することにより、栄養食品、スポーツ食品等に好適に利用されうるオリゴペプチド含有食品組成物に関する。」 1c 「【0008】 【発明が解決しようとする課題】よって、本発明が解決しようとする課題は、美味で摂取し易く、しかも消化管よりの吸収が急速かつ良好であるため、消化吸収機能の低下した人に対する蛋白質補給、スポーツや労働後の疲労回復、体位、体格及び運動能力等の向上は無論、健康的な除脂肪、延いては対肥満療法用のダイエットとしても有効であり、しかも摂取者に胃もたれや膨満感を与えないオリゴペプチド組成物及びオリゴペプチド含有食品を提供することである。 【0009】 【課題を解決するための手段】 ○1(審決注:○中に1。以下同様) 概念 本発明者は、長年に亙る研究の結果、オリゴペプチド類は、固有の易消化吸収性により、消化吸収能低下時の栄養補給、栄養不良又は拒食症等による栄養失調の治療、スポーツや労働後の疲労回復、体位、体格及び運動能力の向上及び除脂肪等の目的に適当ではあるが、反面、その味覚が食物としての普及を障害することを認め、進んでオリゴペプチド類の持つ味の改善手段に付き検討を加えた結果、ここにカプサイシン又は均等物としてのトウガラシ(唐芥子)エキスがオリゴペプチド類の味の改善に著効を奏することを発見した。」 1d 「【0011】○3 オリゴペプチド 本発明組成物の主材をなすオリゴペプチドは、2?10個、好ましくは3?8個の単位アミノ酸が直鎖状又は分岐鎖状にペプチド結合したものである。このものは、カゼイン、卵白、ダイズ蛋白等の栄養価に優れた蛋白を、好ましくはエンド型及び/又はエキソ型プロテアーゼを用いて加水分解することにより得ることができる。 【0012】○4 カプサイシン又はトウガラシエキス 本発明組成物は、上記オリゴペプチドの持つ異味の改善のため、風味改良剤として、量のカプサイシン又はトウガラシエキスを含有することを特徴とする。…」 1e 「【0016】○6 利用形態 以上の各成分は、通常緊密に混合された粉末又は流動状態で、防湿性袋、瓶、缶、カートン等の容器内に密封して保存又は流通されるが、所望により、飲料、ゼリー、キャラメル、キャンディー、クッキー、カステラ、ケーキ、パン、ビスケット、チョコレート、冷菓類錠剤、カプセル剤等の形態に成形又は製剤化されてもよい。」 1f 「【0020】実験例1 三週間無蛋白食で飼養され、低蛋白状態に陥ったラットに、回復食として○1蛋白食(10%カゼイン)、○2オリゴペプチド食(10%のオリゴペプチドに0.12%のメチオニンを補足)○3アミノ酸食(ペプチド食と同組成のアミノ酸混合物食)を三週間投与した… 【0024】実験例2(低栄養からの回復試験) … (3) 試験食の組成(重量部) -------------------- 成 分 無蛋白質 蛋白質* -------------------- 蛋白源** 0 12 スターチ 58 50 シュクロース 29 25 コーン油 5 5 ミネラル混合物*** 5 5 ビタミン混合物*** 1 1 セルロース粉末 2 2 -------------------- * 蛋白食は、○1カゼイン、○2ダイズ蛋白オリゴペプチド食、○3アミノ酸混合物(○2及び○3には粗蛋白に対してメチオニンを1.2 %補足)。 ** 粗蛋白換算10% *** オリエンタル酵母株式会社製 【0025】(B) オリゴペプチドの分析結果 (イ)一般分析 6.0% 水分 83.2% 粗蛋白含量(N×6.25) 5.8% 灰分 5.0% 糖質その他 (ロ)粗蛋白分析 NSI(水溶性窒素指数) 99.1 TCA可溶性蛋白(15%TCA) 98.8 平均ペプチド鎖長(TNBS法) 3.3 遊離アミノ酸 19.9% …」 1g 「実験例3(スポーツ選手に対する中期投与試験) 【0033】(a) 実験方法 ○1 試験対象群:某大学漕艇部の男子部員15名。 ○2 被検試料 P群(オリゴペプチド投与群)^(1)) T群(分離大豆蛋白(《フジプロ630 :出願人会社製》投与群) C群(炭水化物投与群)^(2)) 注1)大豆蛋白の加水分解により得られた実施例1記載のオリゴペプチド含有食品 … ○3 投与量:P群及びT群については体重1Kg当たり0.5g(蛋白質換算;N×6.25)/日… 【0035】(c) 考察 以上の実験結果を総合して考えると、供試オリゴペプチド(含有食品)投与群の体重減少は最も著しく、これに伴い、腎囲、上腕囲、大腿囲、下腿囲等は減少し、特に肩甲腎下部、上腕背部及び腹部の各皮脂厚の顕著な減少が見られ、除脂肪効果が裏付けられている。しかるに、胸囲、腹囲は増加しているので、胸筋及び腹筋等の鍛練筋肉の増大がうかがわれ、これに伴い、背筋力、上腕屈曲力、脚伸展力、垂直跳び、パワー等の運動能力及び筋力は対照の蛋白投与群及び炭水化物投与群に比べて顕著に向上している。従って、このものが体位、体格及び筋力の増進に有効であることが認められる。 【0036】実験例4(短期投与試験その一:予備試験) 某大学漕艇部の男子部員5名(実験例3とは別人)に30秒間全力ペダリングを行わせた後、後記実施例1記載の大豆蛋白製オリゴペプチドを体重Kg当たり10g(蛋白質換算:N×6.25)ずつ液状で摂取させ、… 【0037】実験例5(短期投与試験その2:本試験) (a) 試験法 ○1 試験対象群:某大学漕艇部の男子部員8名(前実験例3及び4とは別人) ○2 試料: P:実験例3記載のオリゴペプチド食品 T:実験1と同様の分離大豆蛋白 C:実験1と同様の糖液 W:水のみ 試料PとTは、200cc の冷水に溶かして投与、Cは原液50ccに冷水150ccを加えて投与 … 【0041】… 以上の事実を総合して考察すると、発明オリゴペプチド含有食品組成物が生体の脂肪代謝を亢進させる方向に何らかの影響を及ぼす結果、貯蔵脂肪が分解されて血中へ移行し、恐らくチオエステルの形でエネルギーの生産に寄与し、他方摂取されたアミノ酸は、成合成経路を経て筋肉蛋白質に同化されるものと推定される。このような脂肪の分解と蛋白同化作用との相乗作用により、結果として、有用筋肉の増大及び脂肪の減少という二元的な効果が発揮されるものであろう。」 1h 「【0043】実施例1(処方例及び風味評価) 下表4に示す配合に従って、本発明オリゴペプチド組成物の風味評価を行った。参加したパネラー6名の全員が本発明オリゴペプチド組成物(含有食品)の風味が対照カプサイシン不含有組成物(含有食品)のそれより良好であることを評価した。 」 1i 「【0045】 【発明の効果】以上説明した通り、本発明は、美味で摂取し易く、しかも消化管よりの吸収が急速かつ良好であるため、消化吸収機能の低下した人に対する蛋白質補給、スポーツや労働後の疲労回復、体位、体格及び運動能力等の向上は無論、健康的な除脂肪、延いては対肥満療法用のダイエットとしても有効であり、しかも摂取者に胃もたれや膨満感を与えないオリゴペプチド組成物及びオリゴペプチド含有食品を提供できたことにより、健康の回復及び増進、体位及び体力の向上、肥満状態の改善並びに美容などの分野に寄与しうる。」 (イ)刊行物2 2a 「(1)苦味を呈するアミノ酸又は苦味を呈するペプチドの1種または2種以上を含有し、且つカカオおよび/またはコーヒーの風味が附与されていることを特徴とする食品組成物。 … (3)苦味を呈するペプチドが、タンパク質を酸又は酵素によって部分水解することによって得られたペプチドである特許請求の範囲第(1)項記載の食品組成物。」(特許請求の範囲の項) 2b 「しかるに、アミノ酸やペプチドの内には苦味を呈するものが多く、食品又は食品に添えた形での摂取に大きい障害となつていた。 本発明者等は、この問題解決のため種々検討を重ねた結果、苦味を呈するアミノ酸及び又は苦味を呈するペプチドの1種または2種以上を含有する食品組成物に、カカオおよび/またはコーヒーの風味を附与することにより、苦味に対する抵抗感が著しく低減され、所期の目的が達成されることを発見し、本発明を完成した。 これ等風味を有する原食品、チョコレート、コーヒー等はいずれも本来多少の苦味を呈し、苦味がこれ等食品に対する本来的な嗜好の一部を成しているため、摂食者も自然な気持で、苦味を感じつつも摂取出来るようになるものと考えられる。」(2頁右上欄3?17行) 2c 「風味附与物質の使用量は、製品を摂取する時に、カカオ、及び/又はコーヒーの風味を有することを感じられるに足りる量、濃度で使用すれば、本発明の目的は達せられる。製品が液体であるか、固体であるか等によって用量が変動するが、たとえば、市販インスタント・コーヒー粉末又はカカオ粉末を0.2%添加した時に相当するか、それ以上の風味の強さを与える程度であればよい。好ましくは、食品として摂取する時に1%ないし30%となるように添加すればよい。」(2頁左下欄12行?右下欄1行) 2d 「ペプチドとしては、卵白粉、カゼイン等の動物性タンパク質や大豆、小麦等の植物性タンパク質を原料とし、酸や酵素を用いて部分加水分解により調製したペプチド、これ等をもとにプラステイン反応により修飾したもの、アミノ酸モノマーを原料に化合的方法により合成したものなどが対象となる。投与対象者の条件に応じ、使用目的によりこれ等の内から選択使用する。」(2頁右下欄6?14行) 2e 「本発明による食品組成物の製品形態としては、溶液,懸濁物,粉末,固体成形物等をとり得、飲料,ムース,ゼリー,凍菓,飴,…等多様であり、これによって本発明が限定されるものではない。」(2頁右下欄16?20行) ウ.刊行物1に記載された発明 刊行物1は、「長年に亙る研究の結果、オリゴペプチド類は、…除脂肪等の目的に適当ではあるが、反面、その味覚が食物としての普及を障害することを認め、進んでオリゴペプチド類の持つ味の改善手段に付き検討を加えた」(摘示1c)結果得られた、「オリゴペプチドが本来持っている異味(苦味、渋味、嫌味等)を改善することにより、栄養食品、スポーツ食品等に好適に利用されうるオリゴペプチド含有食品組成物」(摘示1b)である、「カプサイシン又はトウガラシエキスを含有することを特徴とするオリゴペプチド組成物」(摘示1a【請求項1】)に関して記載するものである。 その「オリゴペプチド」は、「鎖長2?10、好ましくは鎖長3?8のオリゴペプチドを主体とするもの」(摘示1a【請求項2】)であって、「ダイズ蛋白等の栄養価に優れた蛋白を、…プロテアーゼを用いて加水分解することにより得ることができる」(摘示1d)ものである。具体的には、「オリゴペプチド」の作用効果を示すものと認められる「実験例」においては、「ダイズ蛋白」オリゴペプチド(摘示1f 実験例2)、「大豆蛋白の加水分解により得られた」オリゴペプチド(摘示1g 実験例3)、「大豆蛋白製」オリゴペプチド(摘示1g 実験例4)が用いられていることから、「ダイズ蛋白をプロテアーゼを用いて加水分解することにより得た」オリゴペプチドを主体とするものが記載されていると認められる。 また、その組成物は「健康的な除脂肪、延いては対肥満療法用のダイエットとしても有効」(摘示1c)なものとされている。 そして、その利用形態として「飲料」(摘示1e)が記載されており、具体的には、「実験例」のうちの実験例4,5において、「液状で摂取させ」(摘示1g【0036】)、「ダイズ蛋白オリゴペプチド」食品を「冷水に溶かして投与」する(摘示1g【0037】)飲料の利用形態が用いられているし、「実施例1」(摘示1h)の処方例(表4)には、水「300.9」、「実験例1と同様のオリゴペプチド」及びその他の成分を含む「合計量」が「402.723」である「発明オリゴペプチド組成物」という「飲料」が示されていると認められることから、オリゴペプチドを含む飲料が記載されているといえる。なお、この処方例における「還元麦芽糖」は、糖アルコールであってノンシュガーの甘味料であるから、この処方例はノンカロリー飲料であると認められる。 以上によれば、刊行物1には、 「ダイズ蛋白をプロテアーゼを用いて加水分解することにより得た、好ましくは3?8個の単位アミノ酸が直鎖状又は分岐鎖状に結合したオリゴペプチドを主体とするもの及びカプサイシン又はトウガラシエキスを含有する、健康的な除脂肪、延いては対肥満療法用のダイエットとしても有効な飲料」 が記載されているといえるし、さらに、刊行物1には、「その味覚が食物としての普及を障害することを認め、進んでオリゴペプチド類の持つ味の改善手段に付き検討を加えた」(摘示1c)とされる、「カプサイシン又はトウガラシエキス」を添加する前提としての、「除脂肪等の目的に適当で」(摘示1c)あるが、上記課題を有するとされる食品であって、実験例5のような飲料の利用形態であるもの、すなわち、 「ダイズ蛋白をプロテアーゼを用いて加水分解することにより得た、好ましくは3?8個の単位アミノ酸が直鎖状又は分岐鎖状に結合したオリゴペプチドを主体とするものを含有する、除脂肪の目的に適当な飲料」 も記載されているといえる(この発明を、以下、「引用発明」という。)。 エ.対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「ダイズ蛋白をプロテアーゼを用いて加水分解することにより得た、好ましくは3?8個の単位アミノ酸が直鎖状又は分岐鎖状に結合したオリゴペプチドを主体とするもの」は、その「プロテアーゼを用いて加水分解」が、本願補正発明の「酵素分解」に相当し、その平均アミノ酸数も重複するから、本願補正発明の「大豆タンパクを酵素分解することによってアミノ酸数が平均で3個から6個のオリゴペプチドとなった大豆タンパク酵素分解物」に相当する。 また、引用発明は「除脂肪の目的に適当な飲料」は、本件補正発明の「ダイエット飲料」に相当する。 そうすると両者は、 「大豆タンパクを酵素分解することによってアミノ酸数が平均で3個から6個のオリゴペプチドとなった大豆タンパク酵素分解物を含有するダイエット飲料」 において一致するが、次の点で相違する(以下、「相違点A」という。)。 A 「飲料」が、本件補正発明においては、大豆タンパク酵素分解物の含有量が「0.1(w/v)%から10(w/v)%」の「ノンシュガー」の「コーヒー飲料」であるのに対して、引用発明においては、その含有量も飲料の態様も特定されない点 オ.判断 (ア)相違点Aについて 刊行物1には、引用発明の「オリゴペプチド」は、「除脂肪等の目的に適当」(摘示1c)であるが、「本来持っている異味(苦味、渋味、嫌味等)」(摘示1b)があること、及び、それを配合した食品組成物において異味を改善する成分を検討したことが示されていると認められる。 他方、刊行物2には、苦味を呈するペプチドを配合した食品組成物において、異味を改善する成分について、「コーヒーの風味を附与することにより、苦味に対する抵抗感が著しく低減され、所期の目的が達成されることを発見し」(摘示2b)たこと、「風味附与物質の使用量は、製品を摂取する時に、…コーヒーの風味を有することを感じられるに足りる量、濃度で使用すれば、本発明の目的は達せられる。…たとえば、市販インスタント・コーヒー粉末…を0.2%添加した時に相当するか、それ以上の風味の強さを与える程度であればよい。好ましくは、食品として摂取する時に1%ないし30%となるように添加すればよい」(摘示2c)こと、及び、「食品組成物の製品形態としては、…飲料」(摘示2e)があるとの記載がある。 これらの記載に接した当業者であれば、ペプチドを含有による苦味等を呈し、異味の改善の課題を有するものである、引用発明の除脂肪の目的に適当な飲料において、異味の改善のために「コーヒーの風味を附与」し、その際、刊行物2の上記「コーヒーの風味を有することを感じられるに足りる量、濃度」、「好ましくは、食品として摂取する時に1%ないし30%となるように添加」との示唆、及び、「コーヒー飲料」は「飲料」の普通の態様の一つであることを考慮すれば、飲料を「コーヒー」飲料の態様とすることは、当業者にとって何ら困難なことではない。 また、刊行物1に係る大豆タンパク酵素分解物の含有の「食品組成物」には広範な態様があることから、それら食品組成物における大豆タンパク酵素分解物の含有量範囲に関する一般的な記載はなく、飼料として粗蛋白換算10%のもの、及び、「実験例1と同様のオリゴペプチド」及び水その他の成分を含む「発明オリゴペプチド組成物」飲料処方例が示されているに過ぎない。そうすると、大豆タンパク酵素分解物の含有量の範囲は個々の食品組成物の態様に応じた適切な範囲とすべきものと認められる。引用発明の除脂肪の目的に適当な飲料においては、除脂肪、異味の改善の効果を奏する範囲であるほか、「コーヒー飲料」が嗜好品でもあることから嗜好性を損なわないとの観点等も含め、適度な含有量範囲を、使用する大豆蛋白酵素分解物の種類、他の添加物の種類や量等に応じて、ペプチド入り飲料における含有量(*)ないしその付近において、実験等により好適な範囲、例えば、0.数w/v%?10w/v%程度、とすることは当業者の通常の創作力の範囲であるし、さらに、除脂肪の目的の飲料であるから、「ノンシュガー」とすることも当業者であれば当然に配慮することである。 (*) ペプチド入り飲料における含有量の例 本件補正明細書段落【0003】に従来技術として記載される特公平6-75490号公報のペプチド入り飲料は「大豆ペプチド1%」(実施例。段落【0005】)であること、審査で引用された特開平3-251162号公報の特定「オリゴペプチド混合物」入り飲料では、特定「オリゴペプチド混合物」0.5g/リットル以上(請求項2。すなわち、0.5w/v%以上)、実施例では、2.5,5,10w/v%(実施例1?3)、約2.5,5,10,20w/v%(実施例4?7)であることが記載されている。 (イ)本件補正発明の効果について 本件補正発明に係る効果は、本件補正明細書によると、 「以上のような本発明によれば、大豆タンパクを酵素分解することによって得られた大豆タンパク酵素分解物を有効量含有する新規なダイエット用飲料が提供されることとなる。」(段落【0026】)である。 しかし、この効果は、刊行物1及び2に記載された事項から予測されるところを超えて優れているとは認められない。 カ. まとめ よって、本件補正発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 したがって、請求項1についての上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。 (4)むすび 以上のとおりであるから、上記補正を含む本件補正は、その余を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 平成20年3月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、この出願の発明は、平成19年10月22日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである。 「大豆タンパクを酵素分解することによってアミノ酸数が平均で3個から6個のオリゴペプチドとなった大豆タンパク酵素分解物を有効量含有するダイエット用飲料であって、ノンシュガーのコーヒー飲料または麦茶飲料であるダイエット用飲料。」 第4 原査定の理由 拒絶査定における拒絶の理由(平成19年8月16日付けの「理由2」)の概要は、請求項1?8に係る発明は、その出願前に頒布された下記刊行物1.ないし6.に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであるところ、本願発明は、上記の請求項4に係る発明に対応するものであり、また、その理由の詳細は、刊行物1.ないし4.いずれかに記載された発明及び刊行物5.又は刊行物6.に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、というものと認められる。 記 1.特開平06-14747号公報 2.特開平01-269456号公報 3.特開平03-251162号公報 4.特開昭63-287462号公報 5.特開平08-182486号公報 6.特開昭60-049751号公報 第5 当審の判断 当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は刊行物1.及び刊行物6.に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、と判断する。 1.刊行物、刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明 刊行物1. 特開平06-14747号公報 刊行物6. 特開昭60-049751号公報 刊行物1.及び刊行物6.は、第2 2.(3)ア.における刊行物1及び刊行物2と同文献であり(以下同様に、それぞれ「刊行物1」,「刊行物2」という。)、それらの記載事項は、同イ.に記載したとおりである。 そして、刊行物1には、同ウ.に示したとおりの、 「ダイズ蛋白をプロテアーゼを用いて加水分解することにより得た、好ましくは3?8個の単位アミノ酸が直鎖状又は分岐鎖状に結合したオリゴペプチドを主体とするものを含有する、除脂肪の目的に適当な飲料」 の発明(以下、同様に「引用発明」という。)が記載されているといえる。 2.対比・判断 本願発明は、本件補正発明における「0.1(w/v)%から10(w/v)%」との特定事項がなく、「または麦茶飲料」という特定事項があるものに相当する。本願発明におけるコーヒー飲料の態様と引用発明とを対比すると、第2 2.(3)エ.において述べた理由により、 「大豆タンパクを酵素分解することによってアミノ酸数が平均で3個から6個のオリゴペプチドとなった大豆タンパク酵素分解物を含有するダイエット飲料」 において一致し、次の点で相違するといえる。 a 「飲料」が、本願発明においては、「ノンシュガー」の「コーヒー飲料」であるのに対して、引用発明においては、飲料の態様は特定されない点 そして、引用発明の飲料を「ノンシュガー」の「コーヒー飲料」とすることが当業者に容易想到であることは、同オ.(ア)において述べたとおりであり、本願発明の効果は、本件補正発明の効果と異なるものではないから、同オ.(イ)において述べたのと同様に、刊行物1及び2に記載された事項から予測されるところを超えて優れているとは認められない。 3.まとめ よって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないものであるから、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-22 |
結審通知日 | 2011-03-29 |
審決日 | 2011-04-11 |
出願番号 | 特願2000-195612(P2000-195612) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A23L)
P 1 8・ 121- Z (A23L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田村 明照 |
特許庁審判長 |
柳 和子 |
特許庁審判官 |
齊藤 真由美 小出 直也 |
発明の名称 | 大豆ペプチド入りノンシュガー飲料 |
代理人 | 正林 真之 |