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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1237528
審判番号 不服2008-6250  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-13 
確定日 2011-05-26 
事件の表示 特願2001-119305「酸変性ポリプロピレン樹脂の製造方法及び酸変性ポリプロピレン樹脂」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月23日出願公開、特開2002-308947〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年4月18日に出願されたものであって、平成18年10月11日付けで拒絶理由が通知され、同年12月15日に意見書が提出されたが、平成20年2月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年3月13日に拒絶査定不服審判が請求され、同年4月11日に手続補正書が提出され、同年5月29日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年6月21日付けで前置報告がなされ、当審において平成22年7月5日付けで審尋がなされ、同年9月3日に回答書が提出され、同年12月3日付けで拒絶理由が通知され、平成23年2月7日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2.本願発明の認定
本願の請求項1?3に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、平成23年2月7日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
下記の(A)100重量部に対して、(B)0.1?20重量部及び(C)0.2?10重量部及び(D)0.03?1.0重量部を配合し、混練機の混練を行う部分の温度を100?250℃に設定して溶融混練する酸変性ポリプロピレン樹脂の製造方法。
(A):ポリプロピレン樹脂
(B):アクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステル及び無水マレイン酸からなる群から選ばれるいずれか1種の化合物
(C):ジセチルパーオキシジカルボネート
(D):1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン
【請求項2】
押出機を用いて溶融混練する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法で製造された酸変性ポリプロピレン樹脂。」


第3.当審が通知した拒絶理由の概要
当審が平成22年12月3日付けで通知した拒絶理由通知における、請求項4についての拒絶理由A、請求項1?4についての拒絶理由B、並びに、請求項1?4についての拒絶理由C(1)、(3)及び(4)の概要は以下のとおりである。

「A.本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
B.本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
C.本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



A.理由Aについて
1.刊行物
刊行物A:特開平5-125125号公報(当審において新たに引用するもの)
・・・

B.理由Bについて
1.刊行物
刊行物A:特開平5-125125号公報(理由Aの刊行物Aと同じ)
刊行物B:特開昭57-16006号公報(当審において新たに引用するもの)
刊行物C:特開平7-252308号公報(当審において新たに引用するもの)
刊行物D:特開2000-80114号公報(当審において新たに引用するもの)
刊行物E:特開昭62-20508号公報(当審において新たに引用するもの)
・・・

C.理由Cについて
(1)・・・
したがって、本願出願時の技術常識に照らしても、当業者が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、「(B):不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体」として無水マレイン酸以外の化合物を用いる場合について、その発明の課題を解決できると認識できるものとは認められない。
・・・

(3)・・・
したがって、本願出願時の技術常識に照らしても、当業者が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、(C)及び(D)を(A)ポリプロピレン樹脂100重量部に対してそれぞれ「0.50重量部」及び「0.15重量部」を越えて用いる場合について、その発明の課題を解決できると認識できるものとは認められない。
・・・

(4)・・・
したがって、本願出願時の技術常識に照らしても、当業者が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、溶融混練の際の設定温度や混練時間にかかわらず、その発明の課題を解決できると認識できるものとは認められない。
・・・」


第4.当審の判断
上記の当審が通知した拒絶理由が妥当なものであるかについて、以下に検討する。

4-1.拒絶理由Aについて
(1)刊行物
刊行物A:特開平5-125125号公報

(2)刊行物Aには以下の事項が記載されている。
a1.「【請求項1】遊離基開始剤の存在下でオレフィンポリマーを不飽和酸または酸誘導体でグラフトすることによってカップリング剤を形成するためにオレフィンポリマーを変性する方法において、
a)、オレフィンポリマー、不飽和酸または酸誘導体、および第一の遊離基開始剤を共に加熱することにより第一の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階と、
b)、段階a)によって得た反応混合物を第二の遊離基開始剤と共に加熱することにより第二の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階、
とからなることを特徴とする方法。
【請求項2】第一の遊離基開始剤が、第二の遊離基開始剤の分解温度より低温度で分解することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】第一の遊離基開始剤の半減期が130℃において1分未満であり、また第二の遊離基開始剤の半減基が130℃において1分を上回ることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】第二の遊離基開始剤が段階a)と段階bの両方の段階に存在することを特徴とする上記諸請求項の任意の項に記載の方法。
【請求項5】オレフィンポリマーが、プロピレンのホモポリマー又はコポリマーであり、或はこれらのオレフィンポリマーと他のオレフィンポリマーたとえばポリブチレンとの混合物であることを特徴とする上記諸請求項の任意の項に記載の方法。
【請求項6】不飽和酸がイタコン酸、フマール酸、マレイン酸(無水物)、アクリル酸、またはこれらの酸の任意の混合物であることを特徴とする上記諸請求項の任意の項に記載の方法。
【請求項7】不飽和酸誘導体がヒドロキシェチルメタクリレートのようなエステルであることを特徴とする請求項1ないし5の任意の項に記載の方法。
【請求項8】第一の遊離基開始剤が過酸化物であり、好ましくは有機化酸化物であってそれの10時間半減期の温度が100℃未満であることを特徴とする上記諸請求項の任意の項に記載の方法。
【請求項9】第一の遊離基開始剤がジラウロイルペルオキシドであることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】第一の遊離基開始剤がジベンゾイルペルオキシドであることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項11】第二の遊離基開始剤が過酸化物であり、好ましくは有機化酸化物であってそれの10時間半減期の温度が100℃を上回ることを特徴とする上記諸請求項の任意の項に記載の方法。
【請求項12】第二の遊離基開始剤が1,3-ビス(t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼンまたは2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキセンであることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】段階a)はオレフィンポリマーの融点よりあきらかに低い温度で行なわれる外部混合段階であることを特徴とする上記諸請求項の任意の項に記載の方法。
【請求項14】段階a)の外部混合は回転式ミキサー、好ましくはパーペンマイエル(Papenmeier) ミキサーを使用して行なわれることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】段階b)の密閉混合は、オレフィンポリマーの融点を上回るか、或はこれに接近した温度で行なわれることを特徴とする上記諸請求項の任意の項に記載の方法。
【請求項16】段階b)の密閉混合は、バンバリミキサー、ウェルナー-プフライデレル(Werner-Pfleiderer)ミキサーまたは、好ましくは、二軸スクリュー押出機を使用して行なわれることを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】オレフィンポリマー、好ましくはポリプロピレンとガラス又はアルミニウムのような金属との間のカップリング剤として、上記諸請求項の任意の項に従って調製した変性オレフィンポリマーを利用すること。」(【特許請求の範囲】)

a2.「遊離基開始剤の存在下でオレフィンポリマーを不飽和カルボン酸で変性する場合、酸の結合のほかにラジカル機構によってオレフィンポリマーの分解が必ず発生する。このことはメルトインデックスすなわちメルトフローレートの過度な増加としてあらわれる。
【発明が解決しようとする課題】本発明は、オレフィンポリマーに結合した酸の割合として測定したとき変性が最大効率性であることを目的とする。また本発明は、メルトインデックスまたはメルトフローレートの増加として測定したときオレフィンポリマー分子の分解が最小であることも目的としている。これらの目的は変性剤や触媒の消耗をできるだけ少なくして達成しなければならない。」(段落【0005】-【0006】)

a3.「オレフィンポリマーを不飽和酸または酸誘導体でグラフトすることによりカップリング剤のような接着物質を作るためにオレフィンポリマーの変性を行なう。好ましい不飽和酸の例はカルボン酸であり、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸(無水物)、アクリル酸、またはこれらの酸の任意の混合物である。また我々は驚いたことにはフマール酸がオレフィンポリマーに異常に多く結合することを見出した。一実施態様によれば、不飽和酸誘導体もまたメタクリル酸ヒドロキエチルのようなエステルであることができる。グラフト酸またはグラフト酸誘導体の量は、オレフィンポリマー全体量の1?10重量%、好ましくは1?5重量%である。」(段落【0011】)

a4.「第一段階においては、10時間半減期の温度が100℃未満の過酸化物を、そして/または130℃未満における半減期が1分未満の過酸化物を使用することが有利である。このような遊離基開始剤の代表的なものはジラウロイルペルオキシドおよびジベンゾイルペルオキシドである。第二段階で使用する遊離基開始剤は好ましくは有機過酸化物で10時間半減期の温度が100℃を上回るものであり、そして/又はその半減期が130℃においては1分を上回るものである。このタイプの好ましい過酸化物のなかには1、3-ビス(t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼン、1、4-ビス(2-t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼン、および2、5-ジメチル-2、5-ビス(tブチルペルオキシ)ヘキセンがある。遊離基開始剤は単独でまたは複数で使用する場合、ポリマーの全体量に対してそれぞれ好ましくは0.05?0.5重量%および0.05?0.1重量%使用する。」(段落【0012】)

a5.「一実施例によれば、第一段階はオレフィンポリマーの融点より明らかに低い温度で行なわれる外部混合段階であり、同段階においてはオレフィンポリマーは固体状態である。こうした外部混合はヘンシェルミキサーを使用するか、あるいはパーペンマイエル(Papenmeier)ミキサーを使用することによって行なうことができる。回転速度は好ましくは0?2,000rpmである。
第二段階は好ましくはオレフィンポリマーの融点より上かこれに近い温度で行なわれる外部混合段階であり、同段階においてはオレフィンポリマーは実質的には溶融状態である。この場合、外部混合は例えばアンバリミキサー、ウエルナープフライデルミキサーあるいは好ましくは二軸スクリュー押出機を使用して行なわれる。二軸スクリュー押出機を使用する場合には、使用する温度プロフィールは好ましくは約160℃から250℃に上昇するものである。」(段落【0013】-【0014】)

a6.「【実施例】
実施例1
メルトインデックス6.5g/10分(ASTMD1238,方法Lによる)のポリプロピレン粉末とイタコン酸3%(pp粉末基準で計算)をパーペンマイエルミキサーを用いて1,600rpmで混合した。温度が70℃に上昇したときに、0.05%のジラウロイルペルオキシド(過酸化物1)と0.05%の1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイ-ソプロパノール)ベンゼン(過酸化物2)をイソプロパノールを用いて添加し、混合速度は800rpmであった。得られた混合物の温度を100℃に上げ、混合速度を1.800rpmにした。次いで混合物を38℃に冷却した。得られた混合物を二軸スクリュー押出機で混合した。この場合の温度分布は160?210℃であった。
グラフトしたポリプロピレン中の酸の全含有率は、1.29%で、遊離酸の含有率は0.19%であり、グラフト生成物のメルトインデックスは14.1g/10分であった。
・・・
実施例6
パーペンメイエルミキサー中で、過酸化物1としてベンゾイルペルオキシド0.05%用い、また上記過酸化物2を0.05%用いてマレイン酸無水物をポリプロピレンにグラフトした。ただし過酸化物2の1/2 はパーペンマイエルミキサー中で、そして1/2 は二軸スクリュー押出機中で添加した。グラフトして得た生成物の酸の全含有率は1.1%で、遊離酸の含有率は0.26%であり又グラフト生成物のメルトインデックスは14.2g/10分であった。
実施例7
グラフト化は実施例6と同様に行なった。ただし、マレイン酸無水物は5%使用し、そして過酸化物2は全量をパーペンマイエルミキサー中に加えた。グラフトして得た生成物の酸の全含有率は3.7%、遊離酸の含有率は0.24%、そしてグラフト生成物のメルトインデックスは7.8g/10分であった。
実施例8
ポリプロピレンに不飽和化合物の混合物をグラフトした。ただし、反応混合物中の不飽和化合物の全含有率は3%で過酸化物1と2の合計含有率は0.1%になるようにした。これら過酸化物は実施例1同様パーペンマイエルミキサーに加えグラフトして次の結果を得た。」(段落【0018】-【0027】)

a7.「
【表8】

」(段落【0043】)

審決注:摘示記載a1、a5及びa6における「二軸スクリュー押出機」(審決において下線を付与)は、「二輪スクリュー押出し機」、「二輪スクリュー押出機」という明らかな誤記を正して読み替えたものである。

(3)本願発明3について
本願発明3は、本願発明1を引用しているから、本願発明3について、引用した形式による記載を改めて記載すると、実質的に次のとおりのものであると認められる。
「下記の(A)100重量部に対して、(B)0.1?20重量部及び(C)0.2?10重量部及び(D)0.03?1.0重量部を配合し、混練機の混練を行う部分の温度を100?250℃に設定して溶融混練する酸変性ポリプロピレン樹脂の製造方法で製造された酸変性ポリプロピレン樹脂。
(A):ポリプロピレン樹脂
(B):アクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステル及び無水マレイン酸からなる群から選ばれるいずれか1種の化合物
(C):ジセチルパーオキシジカルボネート
(D):1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン」

(3-1)刊行物Aに記載された発明の認定
刊行物Aの摘示記載a1には、「遊離基開始剤の存在下でオレフィンポリマーを不飽和酸または酸誘導体でグラフトすることによってカップリング剤を形成するためにオレフィンポリマーを変性する方法」が記載されており、該オレフィンポリマーが「プロピレンのホモポリマー又はコポリマー」である場合には、該方法により「変性ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー」が調製されることは明らかである。
また、摘示記載a1には、「a)、オレフィンポリマー、不飽和酸または酸誘導体、および第一の遊離基開始剤を共に加熱することにより第一の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階と、b)、段階a)によって得た反応混合物を第二の遊離基開始剤と共に加熱することにより第二の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階」により変性すること、「第一の遊離基開始剤の半減期が130℃において1分未満であり、また第二の遊離基開始剤の半減基が130℃において1分を上回ること」、「第二の遊離基開始剤が段階a)と段階bの両方の段階に存在すること」、「不飽和酸がイタコン酸、フマール酸、マレイン酸(無水物)、アクリル酸、またはこれらの酸の任意の混合物であること」、「第二の遊離基開始剤が1,3-ビス(t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼンまたは2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキセンであること」及び「段階b)の密閉混合は、バンバリミキサー、ウェルナー-プフライデレル(Werner-Pfleiderer)ミキサーまたは、好ましくは、二軸スクリュー押出機を使用して行なわれること」が記載されており、摘示記載a5には「二軸スクリュー押出機を使用する場合には、使用する温度プロフィールは好ましくは約160℃から250℃に上昇するものである」ことが記載されているから、該変性を「a)、ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸(無水物)、アクリル酸、またはこれらの酸の任意の混合物、半減期が130℃において1分未満である第一の遊離基開始剤及び第二の遊離基開始剤としての1,3-ビス(t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼンを共に加熱することにより第一の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階と、b)、段階a)によって得た反応混合物を二軸スクリュー押出機を使用して約160℃から250℃に加熱・密閉混合することにより第二の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階」により行うことが記載されているといえる。
そして、刊行物Aには、各成分の使用量に関して、摘示記載a3には「グラフト酸またはグラフト酸誘導体の量は、オレフィンポリマー全体量の1?10重量%」であること、摘示記載a4には、第一段階で使用する過酸化物及び第二段階で使用する過酸化物の使用量が「ポリマーの全体量に対してそれぞれ好ましくは0.05?0.5重量%および0.05?0.1重量%」であることが記載されており、また、不飽和酸または酸誘導体として実施例においてはマレイン酸無水物が使用されている(摘示記載a6及びa7)から、刊行物Aには、摘示記載a1及びa3?a7からみて、
「a)、ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー、ポリマー全体量の1?10重量%のマレイン酸無水物、ポリマー全体量に対して0.05?0.5重量%の半減期が130℃において1分未満である第一の遊離基開始剤及びポリマー全体量に対して0.05?0.1重量%の第二の遊離基開始剤としての1,3-ビス(t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼンを共に加熱することにより第一の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階と、b)、段階a)によって得た反応混合物を二軸スクリュー押出機を使用して約160℃から250℃に加熱・密閉混合することにより第二の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階とからなる方法により調製された変性ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー」の発明(以下、「引用樹脂発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3-2)本願発明3と引用樹脂発明との対比・検討
本願発明3と引用樹脂発明とを対比すると、引用樹脂発明における「マレイン酸無水物」、「ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー」及び「変性ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー」が本願発明3の「無水マレイン酸」、「ポリプロピレン樹脂」及び「酸変性ポリプロピレン樹脂」に相当するものであることは明らかであり、引用樹脂発明における「二軸スクリュー押出機」は、本願発明3の「混練機」に相当することは明らかであり、引用樹脂発明における「段階a)」及び「段階b)」が本願発明3の「配合し、混練機の混練を行う部分の温度を100?250℃に設定して溶融混練する」工程に相当するものであることは摘示記載a5からみて明らかであり、引用樹脂発明における「ポリマー全体量の1?10重量%のマレイン酸無水物」、「ポリマー全体量に対して0.05?0.5重量%の半減期が130℃において1分未満である第一の遊離基開始剤」及び「ポリマー全体量に対して0.05?0.1重量%の第二の遊離基開始剤としての1,3-ビス(t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼン」なる各成分の使用量が、本願発明3の「(B)0.1?20重量部」、「(C)0.2?10重量部」及び「(D)0.03?1.0重量部」なる範囲とそれぞれ重複・一致するものであることは明らかであるから、両者は、
「下記の(A)100重量部に対して、(B)0.1?20重量部及び(C)0.2?10重量部及び(D)0.03?1.0重量部を配合し、混練機の混練を行う部分の温度を100?250℃に設定して溶融混練する酸変性ポリプロピレン樹脂の製造方法で製造された酸変性ポリプロピレン樹脂。
(A):ポリプロピレン樹脂
(B):アクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステル及び無水マレイン酸からなる群から選ばれるいずれか1種の化合物
(C):有機過酸化物
(D):1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン」の点で一致し、次の相違点1で一応相違する。

相違点1
本願発明3では「(C):有機過酸化物」が「ジセチルパーオキシジカルボネート」であることが規定されているのに対し、引用樹脂発明では「半減期が130℃において1分未満である第一の遊離基開始剤」である点

(3-3)相違点1についての判断
引用樹脂発明においては、「ジセチルパーオキシジカルボネート」を用いることは明記されていないものの、引用樹脂発明の「変性ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー」は本願発明3と同様にポリプロピレンホモポリマー又はコポリマーとマレイン酸無水物とを反応させて得られたものであって、各成分の使用量及び用いる各開始剤成分の「半減期1分となる分解温度」においても本願発明3と異なるものではなく、また、刊行物Aの摘示記載a2及びa7に記載されているように引用樹脂発明の「変性ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー」はポリマー分子の分解が最小であってメルトインデックスの過度な増加が認められないものであることからみて生産安定性にも優れたものであることは明らかであって、摘示記載a7の「グラフト化生成物 酸含有率%」の数値についても、本願明細書中の実施例1における「無水マレイン酸グラフト量(wt%) 0.44」(段落【0018】の【表1】)と同等以上のものとなっているから、引用樹脂発明の「変性ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー」は樹脂自体としては本願発明3の「酸変性ポリプロピレン樹脂」と異なるものとは認められない。
なお、本願明細書中においては製造された酸変性ポリプロピレン樹脂の化学構造及び化学構造に相関する各種物性等の分析・測定等は何ら行っておらず、従来のものに比べて「樹脂」としての構造においてどのように異なるものであるかを確認していないから、本願発明3において「(C):ジセチルパーオキシジカルボネート」を用いたことにより製造される酸変性ポリプロピレン樹脂の構造が、引用樹脂発明の「変性ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー」の構造と異なることは確認できない。
したがって、相違点1により、本願発明3の「酸変性ポリプロピレン樹脂」と引用樹脂発明の「変性ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー」とが相違するとはいえない。

(3-4)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明3は、刊行物Aに記載された発明である。

(3-5)平成23年2月7日提出の意見書における審判請求人の主張について
審判請求人は、平成23年2月7日提出の意見書において、「拒絶理由Aについて・・・ 今回の補正では、補正前の請求項4を削除する補正を行っておりますので上記の拒絶理由は解消されたものと思料いたします。」と主張している。
しかしながら、「物」のカテゴリーに属するものであって「酸変性ポリプロピレン樹脂」自体に係るものである本願発明3は上記第2.のとおり削除されていないから、審判請求人の上記主張は採用することができない。


4-2.拒絶理由Bについて
(1)刊行物
刊行物A:特開平5-125125号公報(理由Aの刊行物Aと同じ)
刊行物B:特開昭57-16006号公報
刊行物C:特開平7-252308号公報
刊行物D:特開2000-80114号公報
刊行物E:特開昭62-20508号公報

(2)刊行物に記載された事項
(2-1)刊行物Aに記載された事項
刊行物Aには、上記4-1.(2)のa1?a7に摘示したとおりの事項が記載されている。

(2-2)刊行物Bに記載された事項
b1.「ここで使用される10時間半減期温度40?45℃の範囲にあるパーカーボネート系触媒としてはジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジオクチルパーオキシジカーボネート、ジラウリルパーオキシジカーボネート、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジターシャリブチルパーオキシジカーボネート等のジアルキルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(2-メトキシプロピル)パーオキシジカーボネート、ジベンジルパーオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルパーオキシジカーボネート等があげられる。」(第3頁左上欄9行-右上欄1行)

(2-3)刊行物Cに記載された事項
c1.「一方、(B)成分としての重合開始剤は、トリクロロエチレン中、0.1?0.2モル/リットルにおける10時間半減期の温度が45?55℃であるジアルキルパーオキシジカーボネート類であり、より具体的には、
【化2】

(ここにR^(1) ,R^(2) はそれぞれ炭素数1?16の直鎖または分岐したアルキル基である)この化合物にはジn-プロピルパーオキシジカーボネート(トリクロロエチレン中、0.1モル/リットルにおける10時間半減期の温度〔以下同じ〕:50℃)、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(50℃)、ジセカンダリーブチルパーオキシジカーボネート(50℃)、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(49℃)、ジセチルパーオキシジカーボネート(50℃)などが用いられるが、これらに限定されるわけではない。」(段落【0007】)

(2-4)刊行物Dに記載された事項
d1.「この際、硬化剤は適用される硬化温度に応じて適宜選択されるが、50?100℃のいわゆる中温で硬化させる場合においては、常温での取扱い性に優れるという理由から、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボーネート(10時間半減期温度40、8℃)、ラウロイルペルオキシド(10時間半減期温度61.6℃)、ベンゾイルペルオキシド(10時間半減期温度73.6℃)等の常温で固体状の有機過酸化物が広く利用されている。」(段落【0004】)

d2.「10時間半減期温度が30℃以上50℃未満である第1の液状有機過酸化物としては、例えば・・・ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート(10時間半減期温度:40.3℃)、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート(10時間半減期温度:40.5℃)、・・・、ジセチルペルオキシジカーボネート(10時間半減期温度:41.0℃)、・・・、ジ-2-エトキシエチルペルオキシジカーボネート(10時間半減期温度:43.1℃)、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート(10時間半減期温度:43.6℃)、・・・、ジ-3-メトキシブチルペルオキシジカーボネート(10時間半減期温度:45.8℃)、・・・、ジ(3-メチル-3-メトキシブチルペルオキシ)ジカーボネート(10時間半減期温度:46.7℃)、・・・等が挙げられる。」(段落【0036】)

(2-5)刊行物Eに記載された事項
e1.「典型的に活性な重合開始剤、例えば過酸化ジラウロイルやジセチル過酸化ジカーボネートの半減期は55℃でそれぞれ29および2.9時間であるが、本発明の方法はこうした重合開始剤を使って重合動力学的にも安全上にも共に最大の利益を与えるのは勿論である。本法においては室温で固体である重合開始剤は、操作上最も安全なので特に好んで使用される。特に過酸化ジラウロイル,ジミリスチル-,ジセチル-,ジステアリル-,ジシクロヘキシル-,ジ-4.tert,-ブチルシクロヘキシル-過酸化ジカーボネートの如き固体の過酸化ジアシルやジアルキル過酸化ジカーボネートがこれにあたる。」(第3頁左下欄16行-右下欄9行)

(3)本願発明1について
(3-1)刊行物Aに記載された発明の認定
刊行物Aの摘示記載a1には、「遊離基開始剤の存在下でオレフィンポリマーを不飽和酸または酸誘導体でグラフトすることによってカップリング剤を形成するためにオレフィンポリマーを変性する方法」が記載されており、該オレフィンポリマーが「プロピレンのホモポリマー又はコポリマー」である場合には、該方法は「変性ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマーを製造する方法」であるといえる。
また、摘示記載a1には、「a)、オレフィンポリマー、不飽和酸または酸誘導体、および第一の遊離基開始剤を共に加熱することにより第一の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階と、b)、段階a)によって得た反応混合物を第二の遊離基開始剤と共に加熱することにより第二の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階」により変性すること、「第一の遊離基開始剤の半減期が130℃において1分未満であり、また第二の遊離基開始剤の半減基が130℃において1分を上回ること」、「第一の遊離基開始剤が過酸化物であり、好ましくは有機過酸化物であってそれの10時間半減期の温度が100℃未満であること」、「第二の遊離基開始剤が段階a)と段階bの両方の段階に存在すること」、「不飽和酸がイタコン酸、フマール酸、マレイン酸(無水物)、アクリル酸、またはこれらの酸の任意の混合物であること」、「第二の遊離基開始剤が1,3-ビス(t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼンまたは2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキセンであること」及び「段階b)の密閉混合は、バンバリミキサー、ウェルナー-プフライデレル(Werner-Pfleiderer)ミキサーまたは、好ましくは、二軸スクリュー押出機を使用して行なわれること」が記載されており、摘示記載a4には、「第一段階においては、10時間半減期の温度が100℃未満の過酸化物を、そして/または130℃未満における半減期が1分未満の過酸化物を使用することが有利である」ことが記載されており、摘示記載a5には「二軸スクリュー押出機を使用する場合には、使用する温度プロフィールは好ましくは約160℃から250℃に上昇するものである」ことが記載されているから、該変性を「a)、ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸(無水物)、アクリル酸、またはこれらの酸の任意の混合物、10時間半減期の温度が100℃未満の有機過酸化物である第一の遊離基開始剤及び第二の遊離基開始剤としての1,3-ビス(t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼンを共に加熱することにより第一の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階と、b)、段階a)によって得た反応混合物を二軸スクリュー押出機を使用して約160℃から250℃に加熱・密閉混合することにより第二の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階」により行うことが記載されているといえる。
そして、刊行物Aには、各成分の使用量に関して、摘示記載a3には「グラフト酸またはグラフト酸誘導体の量は、オレフィンポリマー全体量の1?10重量%」であること、摘示記載a4には、第一段階で使用する過酸化物及び第二段階で使用する過酸化物の使用量が「ポリマーの全体量に対してそれぞれ好ましくは0.05?0.5重量%および0.05?0.1重量%」であることが記載されており、また、不飽和酸または酸誘導体として実施例においてはマレイン酸無水物が使用されている(摘示記載a6及びa7)から、刊行物Aには、摘示記載a1及びa3?a7からみて、
「a)、ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー、ポリマー全体量の1?10重量%のマレイン酸無水物、ポリマー全体量に対して0.05?0.5重量%の10時間半減期の温度が100℃未満の有機過酸化物である第一の遊離基開始剤及びポリマー全体量に対して0.05?0.1重量%の第二の遊離基開始剤としての1,3-ビス(t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼンを共に加熱することにより第一の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階と、b)、段階a)によって得た反応混合物を二軸スクリュー押出機を使用して約160℃から250℃に加熱・密閉混合することにより第二の遊離基開始剤が実質的に遊離基に分解する温度まで昇温させる段階とからなる方法により変性ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマーを製造する方法」の発明(以下、「引用製法発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3-2)本願発明1と引用製法発明との対比・検討
本願発明1と引用製法発明とを対比すると、引用製法発明における「マレイン酸無水物」、「ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー」及び「変性ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー」が本願発明1の「無水マレイン酸」、「ポリプロピレン樹脂」及び「酸変性ポリプロピレン樹脂」に相当するものであることは明らかであり、引用製法発明における「二軸スクリュー押出機」は、本願発明1の「混練機」に相当することは明らかであり、引用製法発明における「段階a)」及び「段階b)」が本願発明1の「配合し、混練機の混練を行う部分の温度を100?250℃に設定して溶融混練する」工程に相当するものであることは摘示記載a5からみて明らかであり、引用製法発明における「ポリマー全体量の1?10重量%のマレイン酸無水物」、「ポリマー全体量に対して0.05?0.5重量%の半減期が130℃において1分未満である第一の遊離基開始剤」及び「ポリマー全体量に対して0.05?0.1重量%の第二の遊離基開始剤としての1,3-ビス(t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼン」なる各成分の使用量が、本願発明1の「(B)0.1?20重量部」、「(C)0.2?10重量部」及び「(D)0.03?1.0重量部」なる範囲とそれぞれ重複・一致するものであることは明らかであるから、両者は、
「下記の(A)100重量部に対して、(B)0.1?20重量部及び(C)0.2?10重量部及び(D)0.03?1.0重量部を配合し、混練機の混練を行う部分の温度を100?250℃に設定して溶融混練する酸変性ポリプロピレン樹脂の製造方法。
(A):ポリプロピレン樹脂
(B):アクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステル及び無水マレイン酸からなる群から選ばれるいずれか1種の化合物
(C):有機過酸化物
(D):1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン」の点で一致し、次の相違点2で相違する。

相違点2
本願発明1では「(C):有機過酸化物」が「ジセチルパーオキシジカルボネート」であるのに対し、引用製法発明では「10時間半減期の温度が100℃未満の有機過酸化物」である点。

(3-3)相違点2についての判断
引用製法発明の「10時間半減期の温度が100℃未満の有機過酸化物」として、刊行物Aの摘示記載a4においては「このような遊離基開始剤の代表的なものはジラウロイルペルオキシドおよびジベンゾイルペルオキシドである」なる記載のとおり代表的な2つの化合物が挙げられているのみであるが、該「10時間半減期の温度が100℃未満の有機過酸化物」に相当する化合物として「ジセチルパーオキシジカーボネート」は摘示記載b1、c1及びd2に記載されているとおり周知・慣用されているものに過ぎず、引用製法発明における「10時間半減期の温度が100℃未満の有機過酸化物」として周知・慣用されている上記ジセチルパーオキシジカーボネートを選択する程度は当業者であれば容易に想到しうることと認められる。
なお、この点による効果について検討してみても、本願明細書中には「(C):有機過酸化物」として「ジセチルパーオキシジカルボネート」以外を用いた比較例等は示されておらず、「ジセチルパーオキシジカルボネート」を選択したことによる作用効果は確認できない(この点に関して、ジセチルパーオキシジカーボネートを含むパーオキジジカーボネート化合物が室温で固体であり操作上安全なものであることは例えば摘示記載e1に記載されているように周知である。)。また、刊行物Aの摘示記載a2及びa7に記載されているように引用製法発明により製造される「変性ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマー」はポリマー分子の分解が最小であってメルトインデックスの過度な増加が認められないものであることからみて生産安定性にも優れたものであることは明らかであって、摘示記載a7の「グラフト化生成物 酸含有率%」の数値についても、本願明細書中の実施例1における「無水マレイン酸グラフト量(wt%) 0.44」(段落【0018】の【表1】)と同等以上のものとなっているから、本願発明1が引用製法発明に較べ生産安定性やグラフト量において優れているとも認められない。
したがって、相違点2は、刊行物Aに記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものといえる。

(3-4)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物Aに記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものといえる。

(3-5)平成23年2月7日提出の意見書における審判請求人の主張について
審判請求人は、平成23年2月7日提出の意見書において、「刊行物B,Cにおけるジセチルパーオキシジカーボネートは、本願発明とは異なる働きをしています。そして刊行物Dにおけるジセチルパーオキシジカーボネートは、固体状のものを希釈剤で希釈して液状のものとしており本願発明とは異なる形態で使用されています。・・・仮に、刊行物E(特開昭62-20508)にジセチルパーオキシジカーボネートが室温で固体であり、操作上安全なことが記載されてあったとしても、刊行物A?Dに接した当業者が、本願発明の課題を達成するために1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンと組み合わせて用いられる有機過酸化物として、ジセチルパーオキシジカーボネートを選択することを見出すのは困難です。」なる主張(以下、「主張ア」という。)、及び、「本願発明1の効果について・・・刊行物Aの実施例は、本願明細書の実施例と異なる含有量でかつ、異なる方法で行われています。そのため、本願明細書の実施例と刊行物Aの実施例を直接比較することはできません。」なる主張(以下、「主張イ」という。)をしている。

まず、主張アについて検討すると、刊行物B?Eは、ジセチルパーオキシジカーボネートを含む各種パーオキシジカーボネート化合物が新規な化合物であったり物性不明な化合物であったりするわけではなく特定の10時間半減期温度を有する化合物として周知のものであることを示すため挙げたものに過ぎず、刊行物Aと刊行物B?Eとを組合せることによる容易性を検討しているわけではない。そして、審判請求人の上記主張アは、刊行物B?Eに記載された事項が周知であることを何ら否定するものではないから、上記「(3-3)相違点2についての判断」に影響を与えるものではない。

次に、主張イについて検討する。上記(3-1)?(3-3)のとおり、本願発明1と対比しているのは引用製法発明であって刊行物Aの特定の実施例のみと対比しているわけではなく、引用製法発明による作用効果を検討する際の目安として刊行物Aの実施例の記載を参酌しているに過ぎず、刊行物Aの実施例自体に本願発明1との相違点が上記相違点2の他に存在していたとしても上記「(3-3)相違点2についての判断」に影響を与えるものではない。
なお、刊行物Aの実施例6及び7では、本願発明1の(D)成分に相当する「1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイ-ソプロパノール)ベンゼン」(「1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン」の誤記と認められる。)と「10時間半減期の温度が100℃未満の有機過酸化物である第一の遊離基開始剤」としてのベンゾイルペルオキシドをそれぞれ0.05重量%使用しているが、これら有機過酸化物の合計使用量は0.10重量%であって、本願明細書の実施例1における有機過酸化物の合計使用量0.65重量%に比べて遙かに少ないものであるにも関わらず、摘示記載a7のとおりその「グラフト化生成物 酸含有率%」はそれぞれ「1.10」、「3.70」であり、無水マレイン酸の使用量を勘案してみても、本願明細書の実施例1と同等かあるいはそれ以上のグラフト量を達成しているものと認められる。
さらに、刊行物Aの実施例6及び7においては上述のとおりその有機過酸化物の使用量が低いことからみて、「ポリマー分子の分解が最小であってメルトインデックスの過度な増加が認められないもの」であることは明らかであって、本願明細書の実施例1よりも生産安定性において優れている蓋然性が高い。
そして、このような傾向は、摘示記載a2のとおり「オレフィンポリマーに結合した酸の割合として測定したとき変性が最大効率性であること」及び「メルトインデックスまたはメルトフローレートの増加として測定したときオレフィンポリマー分子の分解が最小であること」を目的とする引用製法発明においても同様であると認められるから、上記「(3-3)相違点2についての判断」のとおり、本願発明1において「ジセチルパーオキシジカルボネート」を選択したことによって引用製法発明に較べて格別顕著な作用効果が奏されているものとは認めることができない。

なお、主張イに関連して、審判請求人は、平成23年2月7日提出の意見書において、「本願発明の実施例1では、・・・とあるように全ての原料を一括で混練しています」、「これに対し、刊行物Aの実施例1では、・・・とあるように、原料を段階的に添加し、混練しています。」、「本願発明1の効果について・・・刊行物Aの実施例は、本願明細書の実施例と・・・異なる方法で行われています。」と主張しているが、本願発明1においては(A)?(D)を「配合し、・・・溶融混練する」と規定されているのみであって、「全ての原料を一括で」配合ないし混練することは規定されておらず、この点において本願発明1と引用製法発明に差異が認められないことは上記「(3-2)本願発明1と引用製法発明との対比・検討」で述べたとおりである。

以上のとおり、審判請求人の上記主張はいずれも採用することができない。


(4)本願発明2について
(4-1)本願発明2と引用製法発明との対比・検討
本願発明2は、本願発明1における「溶融混練する」工程を、「押出機を用いて溶融混練する」と更に特定したものである。
しかしながら、引用製法発明においては「二軸スクリュー押出機」を使用して加熱・密閉混合しており、該「二軸スクリュー押出機」は、本願発明2の「押出機」に相当するものであることは明らかであるから、上記の特定によっては、新たな相違点は生じない。

(4-2)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明2は、刊行物Aに記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものといえる。


(5)本願発明3について
本願発明3は、本願発明1?2のいずれかの製造方法で製造された酸変性ポリプロピレン樹脂に係るものであるが、上記「(3)本願発明1について」、「(4)本願発明2について」において述べたとおり、本願発明1?本願発明2はいずれも刊行物Aに記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものであるから、本願発明1?本願発明2の製造方法により製造された酸変性ポリプロピレン樹脂についても同様に刊行物Aに記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものといえる。


4-3.拒絶理由C(特許法第36条第6項第1号違反)について
(ア)拒絶理由C(1)について
本願発明1は、酸変性ポリプロピレン樹脂の製造方法に関する発明であって、「酸のグラフト量が多く、かつ生産性の優れた酸変性ポリプロピレン樹脂の製造方法及び該製造方法により製造された酸変性ポリプロピレン樹脂を提供する点」を課題とするものである(本願明細書段落【0006】)。
そして、本願発明1は、発明を特定するために必要な事項として、「(B):アクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステル及び無水マレイン酸からなる群から選ばれるいずれか1種の化合物」をポリプロピレン樹脂へグラフト化させる化合物として配合し溶融混練するとの事項を備えるものである。
しかるに、本願明細書の発明の詳細な説明において、上記課題が解決され、所望の効果が奏されることが裏付けられているのは、実施例1記載のとおり、(B)として「無水マレイン酸」を用いたもののみである。
また、無水マレイン酸が、ポリプロピレン樹脂にグラフトするものの通常は容易に単独重合しないものであって、アクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステルとはその性質において著しく異なることは本願出願時の技術常識であって、アクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステルを用いる場合についてはグラフト量の向上は比較的容易であって、上記課題はそもそも生じないのであり、得られる変性樹脂の構造や各種物性が異なるものとなることも明らかであるから、(B)成分として無水マレイン酸以外の化合物を用いる場合についてまで、上記課題が同様に解決できるとは認められない。
したがって、本願出願時の技術常識に照らしても、当業者が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、「(B):アクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステル及び無水マレイン酸からなる群から選ばれるいずれか1種の化合物」として無水マレイン酸以外の化合物を用いる場合について、その発明の課題を解決できると認識できるものとは認められない。
よって、本願発明1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとは認められない。
また、本願発明1を直接的あるいは間接的に引用してなる本願発明2?3についても同様である。

なお、審判請求人は、平成23年2月7日提出の意見書において、「(B)成分は、ポリプロピレン樹脂にグラフトする性質を有していればよく、グラフト率は(B)成分の不飽和結合や、エステル基の有無によって決まります。補正後の請求項に記載の『(B):アクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステル及び無水マレイン酸』は、いずれも不飽和結合及びエステル結合を有しているため、構造が共通します。そのため、(B)成分として無水マレイン酸以外に、アクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステルまで拡張ないし一般化することは可能です。」なる主張をしている。
しかしながら、上記したような、無水マレイン酸の系における課題がアクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステルを用いる場合についてはそもそも生じないものであるからアクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステルを用いる場合についてはその発明の課題を解決できると認識できるものとは認められない、とした点に対して反論しているものとは認められない。
よって、審判請求人の上記主張は採用することができない。

(イ)拒絶理由C(3)について
本願発明1は、酸変性ポリプロピレン樹脂の製造方法に関する発明であって、「酸のグラフト量が多く、かつ生産性の優れた酸変性ポリプロピレン樹脂の製造方法及び該製造方法により製造された酸変性ポリプロピレン樹脂を提供する点」を課題とするものである(本願明細書段落【0006】)。
そして、本願発明1は、発明を特定するために必要な事項として、(C)及び(D)の有機過酸化物をそれぞれ(A)ポリプロピレン樹脂100重量部に対して「0.2?10重量部」及び「0.03?1.0重量部」配合し溶融混練するとの事項を備えるものである。
しかるに、本願明細書の発明の詳細な説明において、上記課題が解決され、所望の効果が奏されることが裏付けられているのは、実施例1記載のとおり、(C)及び(D)をそれぞれ(A)ポリプロピレン樹脂100重量部に対して「0.50重量部」及び「0.15重量部」の量で用いたもののみである。
また、本願明細書中の段落【0005】に「グラフト量を向上させるために有機過酸化物等の開始剤の添加量を増やしていくとMFRの著しい上昇が発生するので、開始剤の添加量にはおのずと限界があ」ることが記載されているとおり、有機過酸化物の添加量が増えればポリプロピレン樹脂が分解反応が進行し生産安定性が低下することは技術常識であって、(C)成分として上記実施例に記載される「0.50重量部」なる量を用いた場合と、「0.2?10重量部」なる添加量を用いた場合とにおいて同等の生産安定性が得られるとは到底認められず、上記課題が同様に解決できるとは認められない(例えば、(C)成分を10重量部用いる場合は、その重量はポリプロピレン樹脂の1割に相当する過大なものであって、上記実施例で使用されている量の20倍に相当するものであり、このような使用量が選択される場合にはポリプロピレン樹脂の劣化・分解が著しく進行することが技術常識からみて明らかである。)。
したがって、本願出願時の技術常識に照らしても、当業者が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、(C)成分を(A)ポリプロピレン樹脂100重量部に対して「0.2?10重量部」なる数値範囲で用いる場合全てについてまで、その発明の課題を解決できると認識できるものとは認められない。
よって、本願発明1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとは認められない。
また、本願発明1を直接的あるいは間接的に引用してなる本願発明2?3についても同様である。

なお、審判請求人は、平成23年2月7日提出の意見書において、「段落〔0011〕、〔0012〕の記載を見れば、実施例に記載される『0.50重量部』及び『0.15重量部』なる量を用いた場合と、『0.1?20重量部』及び『0.01?20重量部』なる添加量を用いた場合とにおいて同等の生産安定性が得られると解することができます。」なる主張をしている。
しかしながら、本願明細書段落【0011】には(C)成分の添加量に関して、「ポリプロピレン樹脂(A)100重量部に対して0.1?20重量部、好ましくは0.2?10重量部である。添加量が過少であるとポリプロピレン樹脂へのグラフト量が低下する。また、添加量が過多になると樹脂の分解が促進される。」なる記載がなされているのみであって、これら数値範囲の上限値に関して実験的な裏付けあるいはそれに代わる文献の提示等は何らなされていないから、審判請求人の上記主張は採用することができない。

(ウ)拒絶理由C(4)について
本願発明1は、酸変性ポリプロピレン樹脂の製造方法に関する発明であって、「酸のグラフト量が多く、かつ生産性の優れた酸変性ポリプロピレン樹脂の製造方法及び該製造方法により製造された酸変性ポリプロピレン樹脂を提供する点」を課題とするものである(本願明細書段落【0006】)。
そして、本願発明1は、発明を特定するために必要な事項として、(A)?(D)成分を「配合し、混練機の混練を行う部分の温度を100?250℃に設定して溶融混練する」との事項を備えるものである。
しかるに、本願明細書の発明の詳細な説明において、上記課題が解決され、所望の効果が奏されることが裏付けられているのは、実施例1記載のとおり、(C)及び(D)としてそれぞれ「ジセチル パーオキシジカルボネート(半減期が1分となる温度=99℃)」及び「1,3-ビス(t-ブチル パーオキシイソプロピル)ベンゼン(半減期が1分となる温度=183℃)」を用い、押出機のシリンダー温度を200℃に設定して製造したもののみである(なお、実施例1における混練時間は不明である。)。
また、無水マレイン酸によるポリプロピレン樹脂の変性反応に際して、反応温度や反応時間等の熱履歴によって開始剤成分の分解速度等が異なるものとなり、得られる変性樹脂の構造や物性等が異なるものとなることは本願出願時の技術常識であり、上記実施例1に記載されているように「半減期が1分となる温度」が99℃及び183℃である化合物を用いた場合において、「200℃」で溶融混練した場合と異なる温度で溶融混練した場合とでは、上記課題が同様に解決できるとは認められない。
したがって、本願出願時の技術常識に照らしても、当業者が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、溶融混練の際の設定温度や混練時間にかかわらず、その発明の課題を解決できると認識できるものとは認められない。
よって、本願発明1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとは認められない。
また、本願発明1を直接的あるいは間接的に引用してなる本願発明2?3についても同様である。

なお、審判請求人は、平成23年2月7日提出の意見書において、「本願発明において、混練を行う部分の温度は、溶融混練ができ、グラフト量が確保できる温度であれば特に限定されるものではありません。」、「また、混練時間についても同様のことがいえます。混練時間は使用する混練機や樹脂の量によって異なるため、混練時間が変性反応にそれほど大きく影響する訳ではありません。」なる主張をしている。
しかしながら、有機過酸化物として半減期が1分となる温度が99℃及び183℃である特定の化合物を併用する本願発明1?3においては適切な反応温度が存在することは明らかであって(例えば、2種の有機過酸化物の「半減期が1分となる温度」よりも高温である「200℃」で反応を行う場合と、それよりも100℃も低温である「100℃」で反応を行う場合とでは得られる変性樹脂の構造や物性等が著しく異なるものとなることが技術常識からみて明らかである。)、また、上述のとおり、無水マレイン酸によるポリプロピレン樹脂の変性反応に際して、反応温度や反応時間等の熱履歴によって開始剤成分の分解速度等が異なるものとなり、得られる変性樹脂の構造や物性等が異なるものとなることは本願出願時の技術常識であるから、具体的根拠に基づかない審判請求人の上記主張は採用することができない。

上記(ア)?(ウ)のとおり、本願発明1?3は、発明の詳細な説明に記載したものとは認められないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第5.むすび
以上のとおりであるから、当審が平成22年12月3日付けで通知した拒絶理由通知における、拒絶理由A、B並びにC(1)、(3)及び(4)は妥当なものであり、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-23 
結審通知日 2011-03-29 
審決日 2011-04-11 
出願番号 特願2001-119305(P2001-119305)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C08F)
P 1 8・ 537- WZ (C08F)
P 1 8・ 121- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智橋本 栄和  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 藤本 保
小野寺 務
発明の名称 酸変性ポリプロピレン樹脂の製造方法及び酸変性ポリプロピレン樹脂  
代理人 中山 亨  

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