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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06T
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06T
管理番号 1237541
審判番号 不服2009-13165  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-21 
確定日 2011-05-26 
事件の表示 平成10年特許願第254257号「指紋読取センサ、指紋読取用フィルム及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月31日出願公開、特開2000- 90235〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年9月8日の出願であって、平成20年11月26日付けの拒絶理由の通知に対し、平成21年2月2日付けで手続補正がなされたが、同年4月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月21日に審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成21年7月21日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年7月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 指紋が接触する接触面を有し、前記接触面に接触している指紋を読み取る指紋読取センサにおいて、
上記接触面は、弾性材料をフィルム化してなる指紋読取用フィルムがプリズム上に交換可能に貼り付けられてなり、
上記指紋読取用フィルムは、ゴム硬度(JIS硬度計)が35?60であり、かつ、上記プリズムに貼り付けられる面が粗面とされ、その表面平均粗さ(Ra)が1.5μm≦(Ra)≦7.3μmとされたことを特徴とする指紋読取センサ。」
と補正された。

上記補正は、本件補正前の請求項1を削除し、本件補正前の請求項1を引用して「上記指紋読取用フィルムは、ゴム硬度(JIS硬度計)が35?60である」ことを追加する本件補正前の請求項2を新たに請求項1とした上で、本件補正前の請求項1の「透明基板」を「プリズム」に限定するものであるから、本件補正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

2.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された特開平9-259248号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次のア?ウの事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、指あるいは手のひらを押しつける皮膚表面紋様入力装置及び装着法に関する。
【0002】
【従来の技術】図6に従来の皮膚表面紋様入力装置の構成を示す。この入力装置は、縦断面が三角形のプリズム1を備え、その光学面2に例えば指3を押圧し、下方からの光源4による光学面2からの反射光を、2次元センサ5で受光する。光学面2からの反射光が指の表面紋様に基づき明暗をなしており、2次元センサ5は、指の表面紋様像を撮像する。
【0003】図7には、プリズム1の光学面2からの全反射光を、2次元センサ5に入力する従来例を示す。指3の押圧面は、隆線Aと谷線Bとそれらをつなぐ境界線Cで構成されており、光学面2に接触した隆線Aで光線6は矢印に示す如く種々の方向に散乱を起こす。谷線Bや境界線Cでは、光学面2に接触しないため、光線7は全反射する。この全反射の方向に2次元センサ5は設けられており、谷線Bや境界線Cの部位に相当する光学面2からの全反射光はこの2次元センサ5に入力する。一方、隆線Aからの散乱光の一部は2次元センサ5に入力する。かくして、2次元センサ5は、隆線A、谷線B、境界線の反射した像を撮像する。又、散乱光の一部を2次元センサ5に入力するやり方をとったが、散乱光そのものを撮像するやり方もある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記いずれの方法であれ、指の隆線部分と光学的な表面の接触が撮像した画像のコントラストに大きく影響を及ぼす。特に皮膚表面が乾燥している場合は、良好な接触が保てず、入力ムラが生ずる。入力ムラをなくすために、光学面2に透明な弾性膜(例えばシリコーン)をコーティングするやり方がある。コーティングにより良好な接触を保つことができ、入力ムラがなくなる。しかし、以下の点を持つ。
(1)、透明弾性膜がはがれたり、傷がついた場合には、透明弾性膜を再コーティングするか、コーティング済みのプリズムと交換するかが必要となる。特にプリズム交換の場合、プリズムの取り外しの作業の他に、新しいプリズムを取り付けた際の光学系全体の調整が必要となる。
(2)、透明弾性膜のコーティングに際し、膜厚一定が要求され、この一定にする作業が非常に大変な作業である。又、コーティングした透明弾性膜と光学面との間の境界面に気泡が入ると、表面像にその悪影響が現れ、画像の性能を悪くする。
【0005】本発明の目的は、光学面へのコーティングを行うことなく、画像のコントラストを高めることを可能にする入力装置及び装着法を提供するにある。」

イ 「【0011】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の一実施の形態を示す図である。プリズム1の光学面2にシリコーンゴム8を載置した。シリコーンゴム8は0.2mm?5mm程度の厚みを持ち、且つ透明で弾力のある性質、及び気体を透過させる性質を持つ。かかるシリコーンゴム8の大きさ(サイズ)はプリズム1の光学面相当の大きさであり、使用時に、光学面2に載せる。
【0012】光学面1とシリコーンゴム8との間に気泡があれば、図2に示すように、この気泡で持ち上がったシリコーンゴム8の部位11に対して上から、手等で圧力をかける(押さえつける)と、気泡はこの部位11から透過して外部に抜ける。気泡が部位11から抜けるのは、シリコーンゴム8が気体透過の性質(気体を透過させる程のミクロな穴を持っていること)を持つためである。
【0013】シリコーンゴム8は交換可能である。この交換時のシリコーンゴム8の取り付けの様子を図3に示す。光学面2に蒸発しやすい液体12を滴下する。この液体12の上からシリコーンゴム8を押しつけ、シリコーンゴム8を光学面2に密着する。この押しつけの課程で液体層12内に気泡9が存在していれば、上から手等で押しつけて気泡を外部に抜く。これは、シリコーンゴム8の膜そのものの細かい穴を通して(図3の(a))、及びシリコーンゴム8が押圧されることで気泡を光学面の端部方向に押し出すこと(図3の(b))で、の両者で行われる。」

ウ 「【0016】以上はシリコーンゴム8を透明弾性膜として利用した例であったが、プラスチック製の透明弾性膜やプラスチック製の薄膜を使用することもできる。尚、プラスチック製の薄膜はその内部に細かい穴がないため、気泡の抜きは、光学面の端部からのみ行う。
【0017】
【発明の効果】本発明によれば、シリコーンゴム等の透明弾性膜をプリズムの光学面に直接に密着させて使用するようにしたために、簡便に透明弾性膜の交換が可能になった。又、気泡等の混入を容易に防止できる効果があり、画像のコントラストを向上できることになった。」

以上の記載から、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「光学面を有し、前記光学面に指を押圧することにより指の表面文様像を撮像する皮膚表面文様入力装置において、
前記光学面は、シリコーンゴムによる透明弾性膜がプリズム上に交換可能に取り付けられてなる
ことを特徴とする皮膚表面文様入力装置。」

また、原査定の拒絶の理由で引用された特開平7-98754号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次のエ?キの事項が記載されている。

エ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、透明媒質上に形成された光学参照面に指を押圧し、前記透明媒質を介して前記光学参照面に光を照射し、反射光あるいは散乱光から前記指の指紋を検出する指紋検出装置に関する。」

オ 「【0028】
【実施例】次に図面を用いて本発明の一実施例を説明する。尚、本発明は、指紋検出装置における透明媒質の改良であり、他の撮影系や光源等は同一なので、それらの説明は省略する。
【0029】先ず、図1を用いて本発明の第1の実施例の透明媒質20を説明する。図において、21は硬質透明光学部材である。この硬質透明光学部材21の上には、撥水性を有した弾性透明光学部材22が配設されている。硬質透明光学部材21と弾性透明光学部材22間には、液体カップリング材23が充填され、硬質透明光学部材21と弾性透明光学部材22とは光学的に結合している。そして、光学参照面24を弾性光学部材22の硬質透明光学部材21と対向する面と反対側の面に形成した。
【0030】本実施例では、硬質透明光学部材21として、ガラスや硬質透明のプラスチックを選定した。尚、本明細書で使用する用語で「透明」とは、「少なくとも撮影系で利用する光波長が、周波数遷移を受けずに通過すること」をいう。
【0031】弾性透明光学部材22としては、硬さ,透明度,耐薬品性,耐候性,耐摩耗性等を考慮する必要が有る。又、指からの発汗を考慮すれば、撥水性を持つことが望ましい。更に、硬さは28?80(JIS K6301)であることが望ましい。これらの諸条件を考慮し、本実施例では、シリコンゴム,フッ素ゴムを選定した。
【0032】又、弾性透明光学部材22に形成される光学参照面24は、光学滑面でなければならない。市販されているシリコンゴムやフッ素ゴムの成形シートを利用すると、安価で容易に光学滑面を得ることができる。」

カ 「【0034】次に、図2を用いて図1に示す指紋検出装置の透明媒質上に指25を押圧した時の説明を行う。指25を透明媒質20の光学参照面24上に押圧すると、弾性透明光学部材22は、指紋の隆線26に押されて変形し、指紋の隆線26と光学参照面24との密着性が向上する。よって、湿度の低い環境やドライフィンガーであっても、良好な指紋映像を得ることができる。
【0035】又、光学参照面24が形成される弾性透明光学部材22は撥水性を有していることにより、ウエットフィンガーであっても汗が隆線26部分へ集中し、良好な指紋画像を得ることができる。
【0036】光学参照面24に傷等が付き、交換する必要が有る場合には、弾性透明光学部材22を剥がし、硬質透明光学部材21上に液体カップリング材23が残っている場合には、弾性透明光学部材22を載置する。又、硬質透明光学部材21上に液体カップリング材23が残っていない場合には、新たに、硬質透明光学部材21上に液体カップリング材23を数滴滴下し、弾性透明光学部材22を載置する。そして、弾性透明光学部材22をしごき、硬質透明光学部材21,弾性透明光学部材22間の空気を排除し、両者間には液体カップリング22のみが存在するようにして、両者を光学的に結合する。
【0037】よって、従来行われてきた透明媒質全体の交換に比べ、弾性透明光学部材22のみあるいは弾性透明光学部材22と液体カップリング材23とを交換すればよく、交換作業が簡単でしかも安価である。」

キ 「【0042】
【発明の効果】以上述べたように本発明の指紋検出装置によれば、透明媒質として、硬質透明光学部材と、硬質透明光学部材上に配設される弾性透明光学部材と、硬質透明光学部材,弾性透明光学部材間に充填された液体カップリング材とを用い、光学参照面を弾性光学部材の硬質透明光学部材と対向する面と反対側の面としたことにより、湿度の低い環境であっても、又、ドライフィンガーであっても良好な指紋映像を得ることができ、更に、光学参照面が簡単にしかも安価に交換できる。」

以上の記載から、刊行物2には以下の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されている。
「指を押圧する光学参照面を有し、前記光学参照面に押圧している指紋を検出する指紋検出装置において、
前記光学参照面は、シリコンゴムやフッ素ゴムの成形シートを利用した弾性透明光学部材がガラスや硬質透明のプラスチックによる弾性透明光学部材上に交換可能に結合されてなり、
上記弾性透明光学部材は、硬さが28?80(JIS K6301)である
ことを特徴とする指紋検出装置。」

3.対比
本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。

刊行物1発明の「光学面」は、指を押圧して「指の表面文様」、すなわち「指紋」を撮像するものであるから、本願補正発明の「指紋が接触する接触面」に相当するものであり、刊行物1発明の「皮膚表面文様入力装置」は、本願補正発明の「指紋読取センサ」に相当する。
また、刊行物1発明の「シリコーンゴムによる透明弾性膜」は、本願補正発明の「弾性材料をフィルム化してなる指紋読取用フィルム」に相当するものである。
加えて、刊行物1発明の当該「透明弾性膜」は、プリズム上に交換可能に取り付けられるものであるから、本願補正発明の「上記接触面は、弾性材料をフィルム化してなる指紋読取用フィルムがプリズム上に交換可能に貼り付けられて」なるものである。

したがって、本願補正発明と刊行物1発明は、以下の点で一致し、以下の2つの相違点を有する。

[一致点]
指紋が接触する接触面を有し、前記接触面に接触している指紋を読み取る指紋読取センサにおいて、
上記接触面は、弾性材料をフィルム化してなる指紋読取用フィルムがプリズム上に交換可能に貼り付けられてなる
ことを特徴とする指紋読取センサ。

[相違点1]
本願補正発明の「指紋読取用フィルム」が「ゴム硬度(JIS硬度計)が35?60」であるのに対し、刊行物1発明はゴム硬度に関しては明記されていない点。

[相違点2]
本願補正発明の「指紋読取用フィルム」が「プリズムに貼り付けられる面が粗面とされ、その表面平均粗さ(Ra)が1.5μm≦(Ra)≦7.3μm」であるのに対し、刊行物1発明はプリズムに貼り付けられる面が粗面であることや、その表面平均粗さに関しては明記されていない点。

4.相違点に対する判断
[相違点1について]
上記2.アの記載によれば、刊行物1発明は、指紋を読み取る光学面に対してシリコーンゴムによる透明弾性膜を載置することにより、皮膚と光学面との良好な接触を保つものである。
他方、上記2.オ及びカの記載によれば、刊行物2には、指紋を読み取るための光学参照面上に、指紋の隆線と光学参照面との密着性を向上するために、シリコンゴムによる弾性透明光学部材を形成する指紋検出装置において、該弾性透明光学部材の硬さをJIS硬度計の規格として公知の「JIS K6301」で28?80の範囲とすることが望ましいことが記載されている。
本願補正発明におけるゴム硬度の数値範囲に関して、本願明細書には、「指紋読取用フィルム2のゴム硬度が35より小である場合には、照合対象である指が所定の圧力で載置された際、指紋読取用フィルム2が直角プリズム3上から剥離してしまう虞がある。また、この場合、指紋読取用フィルム2上に皮膚や塵等が付着してしまったり、指紋の形状に変形してしまう虞もある。これに対して、指紋読取用フィルム2のゴム硬度が60より大である場合には、照合対象である指と指紋採取面2aとの密着性が悪くなってしまう虞がある。この場合、指紋読取センサ6では、照合対象の指の指紋を正確に読み取ることができず、指紋照合の確度が大幅に低下してしまう虞がある。」(段落【0032】)と記載されているが、本願明細書又は図面を見ても、それぞれの数値に、指紋読取用フィルムと直角プリズムとの貼り付けの強度や、皮膚や塵等の付着による指紋読取用フィルムの劣化、読み取り対象の指と指紋採取面との密着性の観点で臨界的な意義があるものとは、必ずしも認めることはできない。
したがって、刊行物1発明において、指紋を読み取る光学面に対して載置されるシリコーンゴムによる透明弾性膜の硬度として、刊行物2発明を用いてJIS硬度計で35?60とすることに格別の困難性はなく、そのような数値範囲を採用することは設計的事項にすぎない。

[相違点2について]
上記2.イ及びウの記載によれば、刊行物1発明は、プリズムの光学面にシリコーンゴムを取り付ける際に、光学面に蒸発しやすい液体を滴下した後に、液体の上からシリコーンゴムを押しつけ、押しつけの過程で液体層内に気泡が存在していれば、上から手等で押さえつけて気泡を外部に抜くこと、すなわち、プリズムの光学面とシリコーンゴムとの間に気泡を残さないように両者を密着することが示されている。
また、ガラス面に樹脂シートを密着させる際に、両者間の脱気を十分に行うために、樹脂シートの表面を所定範囲内で粗く成形する技術は、例えば下記の周知例に記載されているように周知である。
本願補正発明における表面平均粗さ(Ra)の数値範囲に関して、本願明細書には、「指紋読取用フィルム2の直角プリズム3に貼り付けられる面の表面平均粗さ(Ra)が1.5μmより小である場合には、直角プリズム3の一主面3aと指紋読取用フィルム2との間に水分や空気泡等が残存してしまう虞がある。また、指紋読取用フィルム2の直角プリズム3に貼り付けられる面の表面平均粗さ(Ra)が7.3μmより大である場合には、直角プリズム3の一主面3aに貼り付けられた指紋読取用フィルム2の指紋採取面2aの平滑性が失われる虞がある。」(段落【0031】)と記載されているが、本願明細書又は図面を見ても、それぞれの数値に、水分や空気泡等の残存性や指紋採取面の平滑性の観点で臨界的な意義があるものとは、必ずしも認めることはできない。
したがって、刊行物1発明において、プリズムの光学面とシリコーンゴムとの間の気泡を十分に取り除くために、上記周知技術を用いてシリコーンゴムの表面を粗く成形し、かつ、その表面平均粗さ(Ra)を1.5μm≦(Ra)≦7.3μmとすることに格別の困難性はなく、そのような数値範囲を採用することは設計的事項にすぎない。

(周知例)
特開平6-24810号公報

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は自動車のフロントガラスやサイドガラス、建築物の窓ガラス等に用いられる合わせガラスにおいて、連続生産が可能で、生産性を向上し、生産コストの安価な、かつ、優れた外観特性を有する合わせガラスの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】合わせガラスの製造は、一般的にガラスと樹脂シートの間の脱気を目的とする予備圧着工程と、ガラスと樹脂シートの接着力を得るための本圧着工程とに分かれている。予備圧着工程としては(1)ガラスと樹脂シートの積層体をゴムもしくはプラスチックフィルムより成る密閉袋に入れて減圧脱気する袋法、(2)ガラスと樹脂シートの積層体を加熱しながら圧着ゴムロール間を通してロール圧力により脱気する圧着ゴムロール法が一般的である。」

イ 「【0018】本発明において用いられる樹脂シートは両面に2?20μ深さの均等なエンボスを有することが必要で、この要素は本発明の目的達成に極めて重要である。
【0019】まず、このエンボス深さは2?20μであり、合わせガラス製造工程の条件設定面から考えた場合、2?10μが好ましく、2?6μがさらに好適である。この数値範囲について述べると、樹脂シートのエンボス深さは部位により、値を異にするのが普通であるが、浅いものを下限とし深いものを上限として、この範囲が上記の数値限定の中に含まれることを意味する。図1は樹脂シートの任意の部位、任意の方向において、ある長さにおけるエンボス深さの一例を示し、エンボス深さの意味を理解するため概念的に表したものである。エンボス深さの浅いものすなわち山から谷までの最も浅いギャップをG_(L )で、深いものすなわち山から谷までの最も深いギャップをG_(H )で表す。従ってエンボス深さが2?20μとはG_(L )が2μ以上で、G_(H )が20μ以下であることを示している。ここでG_(L )が2μより小さいと樹脂シートがガラスに密着してしまって十分脱気が行われず、G_(H )が20μより大きいと予備圧着工程をニップロールによって連続的に行う場合にロール圧力による脱気が十分でなく、いずれも合わせガラスとした場合の外観特性不良の原因となる。」

ウ 周知例の上記アには、合わせガラスの製造方法において、一般的にガラスと樹脂シートの間の脱気を行うことが記載されており、上記イには、樹脂シートの表面に深さ2?20μのエンボスを設ける技術が記載されている。さらに、該エンボスの深さが2μより小さいと樹脂シートがガラスに密着してしまって十分脱気が行われず、20μより大きいとロール圧力による脱気が十分に行われないことも記載されている。
ここで、「エンボス深さ」とは、エンボスの山から谷までのギャップの値であり、「表面平均粗さ(Ra)」とは、表面の粗さ曲線から平均線を算出し、該平均線からの該粗さ曲線の変位の絶対値の平均を求めた値であるから、「エンボス深さ」の約半分の値が「表面平均粗さ(Ra)」の値に換算されることになる。そうすると、周知例の2?20μの「エンボス深さ」は、ほぼ半分の1?10μの表面平均粗さの値に対応する。

よって、本願補正発明は、刊行物1発明、刊行物2発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.まとめ
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明の認定
平成21年7月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成21年2月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1から8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「指紋が接触する接触面を有し、前記接触面に接触している指紋を読み取る指紋読取センサにおいて、
上記接触面は、弾性材料をフィルム化してなる指紋読取用フィルムが透明基板上に交換可能に貼り付けられてなり、
上記指紋読取用フィルムは、上記透明基板に貼り付けられる面が粗面とされ、その表面平均粗さ(Ra)が1.5μm≦(Ra)≦7.3μmとされたことを特徴とする指紋読取センサ。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由で引用された刊行物、及び、その記載事項は、前記第2の2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明の限定事項である「上記指紋読取用フィルムは、ゴム硬度(JIS硬度計)が35?60である」こと、及び「透明基板」が「プリズム」であることを省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2で判断したとおり、刊行物1発明、刊行物2発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、刊行物2発明は上記第2の3.で[相違点1]として挙げた事項、すなわち、「上記指紋読取用フィルムは、ゴム硬度(JIS硬度計)が35?60である」という相違点の判断においてのみ引用したものであるから、本願発明は、同様の理由により、刊行物1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-28 
結審通知日 2011-03-29 
審決日 2011-04-13 
出願番号 特願平10-254257
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06T)
P 1 8・ 575- Z (G06T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲広▼島 明芳  
特許庁審判長 吉村 博之
特許庁審判官 古川 哲也
廣瀬 文雄
発明の名称 指紋読取センサ、指紋読取用フィルム及びその製造方法  
代理人 祐成 篤哉  
代理人 小池 晃  
代理人 野口 信博  
代理人 藤井 稔也  
代理人 伊賀 誠司  

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