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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1237612
審判番号 不服2008-1669  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-21 
確定日 2011-05-11 
事件の表示 平成 9年特許願第539458号「柔軟な多層転写テープ」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月13日国際公開、WO97/42036、平成12年 8月 8日国内公表、特表2000-510173〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成9年3月3日(パリ条約に基づく優先権主張:1996年5月3日(以下「優先日」という。)、ドイツ連邦共和国)の国際特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成19年 3月22日付け 拒絶理由通知
平成19年 9月 3日 意見書
平成19年10月12日付け 拒絶査定
平成20年 1月21日 本件審判請求
平成20年 2月20日 手続補正書
平成20年 3月 3日付け 手続補正指令
平成20年 4月 3日 手続補正書(審判請求理由補充書)
平成20年 4月24日付け 前置審査移管
平成20年 4月28日付け 前置報告書
平成20年 5月 1日付け 前置審査解除
平成22年 3月19日付け 審尋
平成22年10月 6日付け 応対記録

第2 平成20年2月20日付け手続補正の却下の決定

I.補正の内容
上記手続補正では、特許請求の範囲について補正されており、当該補正は以下のとおりである。

1.補正前(出願当初のもの)
「1.補助支持体および感圧接着剤層を含み、補助支持体に対するよりも感圧接着剤層に対してより強い接着性を示す結合剤を含有する白色に着色した転写層が、補助支持体と感圧接着剤層との間に存在する柔軟な多層転写テープであって、非白色顔料が、
a)(a1)白色に着色した転写層と感圧接着剤層との間、または(a2)白色に
着色した転写層中に位置する樹脂結合した内部層において、および/または、
b)感圧接着剤層において、
微細に分散した形態で存在することを特徴とする転写テープ。
2.内部層および/または感圧接着剤層が少なくとも約0.1重量%の非白色顔料を含有することを特徴とする請求項1に記載の転写テープ。
3.内部層および/または感圧接着剤層が、約0.1?5重量%、より具体的には約0.2?3.5重量%の非白色顔料を含有することを特徴とする請求項2に記載の転写テープ。
4.転写層が白色顔料として微粒子の二酸化チタンを含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の転写テープ。
5.非白色顔料が黒色顔料であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の転写テープ。
6.黒色顔料がカーボンブラックであることを特徴とする請求項5に記載の転写テープ。
7.非白色顔料が微粒子のアルミニウムであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の転写テープ。
8.内部層a)が、厚さ約1?5μm、より具体的には厚さ約2?4μmであることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の転写テープ。
9.白色に着色した転写層が、厚さ約15?25μm、より具体的には厚さ約18?22μmであることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の転写テープ。
10.感圧接着剤層b)が、厚さ約1?5μm、より具体的には厚さ約2?4μmであることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の転写テープ。
11.手に持つディスペンサーにおけるロール形態での請求項1?10のいずれかに記載の転写テープの使用。」
(以下、項番に従い「旧請求項1」ないし「旧請求項11」という。)

2.補正後
「【請求項1】 補助支持体および感圧接着剤層を含み、補助支持体に対するよりも感圧接着剤層に対してより強い接着性を示す結合剤を含有する白色に着色した転写層が、補助支持体と感圧接着剤層との間に存在する柔軟な多層転写テープであって、非白色顔料が、
a2) 白色に着色した転写層中に位置する樹脂結合した内部層において、および/または、
b) 感圧接着剤層において、
微細に分散した形態で存在することを特徴とする転写テープ。
【請求項2】 内部層および/または感圧接着剤層が少なくとも約0.1重量%の非白色顔料を含有することを特徴とする請求項1に記載の転写テープ。
【請求項3】 内部層および/または感圧接着剤層が、約0.1?5重量%、より具体的には約0.2?3.5重量%の非白色顔料を含有することを特徴とする請求項2に記載の転写テープ。
【請求項4】 転写層が白色顔料として微粒子の二酸化チタンを含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の転写テープ。
【請求項5】 非白色顔料が黒色顔料であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の転写テープ。
【請求項6】 黒色顔料がカーボンブラックであることを特徴とする請求項5に記載の転写テープ。
【請求項7】 非白色顔料が微粒子のアルミニウムであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の転写テープ。
【請求項8】 内部層a2)が、厚さ約1?5μm、より具体的には厚さ約2?4μmであることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の転写テープ。
【請求項9】 白色に着色した転写層が、厚さ約15?25μm、より具体的には厚さ約18?22μmであることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の転写テープ。
【請求項10】 感圧接着剤層b)が、厚さ約1?5μm、より具体的には厚さ約2?4μmであることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の転写テープ。
【請求項11】 手に持つディスペンサーにおけるロール形態での請求項1?10のいずれかに記載の転写テープの使用。」
(以下、項番に従い「新請求項1」ないし「新請求項11」という。)

II.補正事項に係る検討

1.新規事項の追加の有無
そこで、まず、上記手続補正に係る各事項が、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「本願当初明細書」という。)に記載した事項の範囲内のものかにつき検討すると、上記補正に係る各事項は、全ての事項につき本願当初明細書に記載しているか、本願当初明細書に記載した事項に基づき当業者に一応自明な事項のみである。
したがって、上記手続補正は、本願当初明細書に記載した事項の範囲内で行われたものであり、いわゆる新規事項の追加に相当する事項はない。

2.補正の目的の適否
次に、上記手続補正は、上記I.1.のとおり、特許請求の範囲に係る補正事項を含むので、平成15年改正前特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。
上記手続補正では、旧請求項1における「a)(a1)白色に着色した転写層と感圧接着剤層との間、または(a2)白色に着色した転写層中に位置する樹脂結合した内部層において、」を、新請求項1における「a2) 白色に着色した転写層中に位置する樹脂結合した内部層において、」と補正し、旧請求項8における「内部層a)」につき新請求項8における「内部層a2)」と補正している。
してみると、上記新旧の請求項1に係る補正は、旧請求項1に記載されている「a)」なる事項における「(a1)」及び「(a2)」なる並立的選択肢の一方を削除して新請求項1とするものであるから、特許請求の範囲を限定的に減縮するものである。
また、旧請求項8を新請求項8に補正することは、引用する旧請求項1の新請求項1への特許請求の範囲を限定的に減縮する補正に伴い、その特許請求の範囲を限定的に減縮するものであるか、旧請求項1の補正に伴い、不整合となった部分につき単に整合を図ったものといえるから、特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的としたものといえる。
したがって、上記手続補正に係る補正事項は、いずれも特許請求の範囲を限定的に減縮しているものであるから、上記手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号(又は第4号)に掲げる事項を目的とするものである。

3.独立特許要件
上記2.のとおり、上記手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、新請求項1に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かにつき検討する。

(1)新請求項1に係る発明
新請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、再掲すると以下のとおりの記載事項により特定されるとおりのものである。
「補助支持体および感圧接着剤層を含み、補助支持体に対するよりも感圧接着剤層に対してより強い接着性を示す結合剤を含有する白色に着色した転写層が、補助支持体と感圧接着剤層との間に存在する柔軟な多層転写テープであって、非白色顔料が、
a2) 白色に着色した転写層中に位置する樹脂結合した内部層において、および/または、
b) 感圧接着剤層において、
微細に分散した形態で存在することを特徴とする転写テープ。」

(2)検討
しかるに、本件補正発明については、下記の理由により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

本件補正発明は、その出願に係る優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物:
1.特開平5-8594号公報(原査定における引用文献1)
2.特開平8-104848号公報(原査定における引用文献3)
(以下「引用例1」及び「引用例2」という。)

ア.各引用例の記載事項

(ア)引用例1について
上記引用例1には、下記の事項が記載されている。

(ア-1)
「【請求項1】 フィルム状基材の片面に着色顔料を含有する隠ぺい修正用感圧転写層が設けられてなる隠ぺい修正用転写テープにおいて、前記隠ぺい修正用感圧転写層が着色顔料とベヒクルとからなる隠ぺい層とその表面に設けられた感圧接着層とからなり、前記隠ぺい層におけるベヒクルの伸び率が3.5×10^(2)%以上であり、前記隠ぺい層は空隙率が30?50%である多孔質構造を有し、かつその破断強度が1.7×10^(2)g/mm^(2)以下であることを特徴とする隠ぺい修正用転写テープ。
【請求項2】 前記ベヒクルが、ゴム状の樹脂と伸び率の小さいガラス状の樹脂との混合物からなる請求項1記載の隠ぺい修正用転写テープ。
【請求項3】 前記ベヒクルが、伸び率が50%以下のガラス状の樹脂と伸び率が4.5×10^(2)%以上のゴム状の樹脂との混合物からなるものである請求項1または2記載の隠ぺい修正用転写テープ。
【請求項4】 前記着色顔料が白色顔料である請求項1、2または3記載の隠ぺい修正用転写テープ。」
(【特許請求の範囲】)

(ア-2)
「【産業上の利用分野】
本発明は、手持ちタイプの押圧具によって紙面などに押しつけられることにより、隠ぺい修正用感圧転写層が紙面などに転写されて、当該箇所にある像を隠ぺいして消去するとともに、転写された前記隠ぺい修正用転写層の表面にボールペンあるいは鉛筆などの筆記具を使用して像を書くことができる、隠ぺい修正用転写テープに関する。」
(【0001】)

(ア-3)
「本発明は前記の実状に鑑み、切断性、耐ひび割れ性、転写性、筆記性の何れもが優れ、それ故隠ぺい修正が良好に行なわれ、とくに手持式の転写具に使用するばあいに極めて良好な効果を発揮する隠ぺい修正用転写テープを提供することを目的とする。」
(【0005】)

(ア-4)
「修正処理の対象物は一般に白色の紙であるから、隠ぺい層は通常白色に着色される。しかし対象物が白色以外の色に着色された紙などのばあいは、隠ぺい層を対象物の地色とほぼ同じ色に着色し、修正部分が地の部分と見分けられず、目立たないようにする。
前記白色顔料としては酸化チタン粉末が隠ぺい力がすぐれている点から主として用いられる。白色顔料は隠ぺい性の点から粒径が0.1?1.0μm程度のものが好ましい。
なお白色顔料に加えて色彩を調整するための色彩調整剤を混合してもよい。その例にはアルミニウム粉末、銅粉末、真鍮粉末、染料などがある。」
(【0028】?【0030】)

(ア-5)
「本発明で用いる白色顔料以外の着色顔料としては、チタンエロー、酸化鉄系、群青、コバルトブルー、酸化クロムグリーン、スピネルグリーン、黄鉛、クロムバーミリオン、カドミウムエロー、カドミウムレッドなどの無機顔料、アゾレーキ系、ハンザ系、ベンズイミダゾロン系、モノアゾ系、ジアリライド系、ピラゾロン系、縮合アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、ペリレン系、ペリノン系、ジオキサジン系、アンスラキノン系、イソインドリノン系などの有機顔料があげられる。
着色顔料の使用量はベヒクルに対する分散性、隠ぺい力などにもよるが、ベヒクル10部に対して5?40部、好ましくは10?20部である。着色顔料の使用量が多すぎると隠ぺい層の表面に顔料粉が析出するチョーキング現象が発生し、使用量が少なすぎるばあいには隠ぺい力が不足する。
隠ぺい層を白色以外の色に着色するばあい、白色顔料以外の前記着色顔料は酸化チタンと併用して、それらの比較的劣る隠ぺい力を補うようにするのが好ましい。そのばあい、酸化チタンはベヒクル10部に対して少なくとも5部、なかんづく少なくとも10部使用するのが好ましく、その他の着色顔料はこれと酸化チタンの合計量がベヒクル10部に対して5?40部、なかんづく10?20部となるように使用するのが好ましい。」
(【0031】?【0033】)

(ア-6)
「前記感圧接着層は前記隠ぺい層上に設けられるものであって、該接着層に使用される接着剤としては紙に対して強い接着力を有し前記フィルム状基材に対しては接着力が低いものであれば、従来より知られている接着剤がいずれも使用できる。・・(中略)・・
前記接着剤の塗布量は1?5g/m^(2)、好ましくは2?4g/m^(2)とするのがよい。この範囲を超えた多量の接着剤を前記隠ぺい層表面に塗布したばあいには、リボン状の製品をパンケーキ状に加工したとき巻芯部で裏移り(すなわち感圧接着層や隠ぺい層が基材の裏側に接着する現象)が発生しやすい。一方この範囲よりも少ない量の接着剤を塗布するばあいには、転写不良、再筆記性の低下などの欠点が生じる。」
(【0035】?【0036】)

(ア-7)
「前記フィルム状基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのプラスチックフィルムや紙を用いることができる。その厚さは約10?50μmが適当である。これらの基材には、必要に応じて、その両面または片面に離型剤を塗布して、保存中の接着剤層と基材裏面との接着を防止したり、隠ぺい層が基材から容易にはがれて転写できるようにする。離型剤としては、たとえばシリコーン、フッ素系の樹脂などが使用できる。市販の離型剤を塗布した基材も使用でき、たとえば・・(中略)・・などがあげられる。」
(【0037】)

(ア-8)
「実施例1?3
表1に示す処方の隠ぺい層を基材上に形成した。
すなわち表1に示す材料の総量100部とトルエン163部とをアトライターにて20分間混合し、塗工液を調製した。これをグラビアコーターにて基材である厚さ50μmの両面離型性PETフィルムの片面に乾燥後厚さが28μmになるように塗布し乾燥して表2に示すごとき物性値を有する隠ぺい層を形成した。
つぎに、前記隠ぺい層の表面に接着剤(DNC-1)を乾燥後塗布量3g/m^(2)になるように塗布して接着層を形成して、隠ぺい修正用転写テープをえた。
これを幅5mmにスリットしながら12mの長さをコアに巻取り、直径3.4cmのパンケーキ状のサンプルをえた。
比較例1?4
・・(中略)・・
前記実施例1?3および比較例1?4でえられたパンケーキ状隠ぺい修正用転写テープを図1?2に示される転写具に装着し、この転写具を用い黒インクで文字が印刷されている上質紙に約600gの荷重下に転写層を転写した。
その結果、黒色の文字は転写された隠ぺい層で完全に隠ぺいされた。」
(【0044】?【0050】)

(ア-9)表1及び表2(【0059】?【0060】)






(イ)引用例2について
上記引用例2には、以下の事項が記載されている。

(イ-1)
「セロハン、アセテート、延伸ポリプロピレン、延伸ポリエステル、ポリ塩化ビニリデンから選ばれたフィルム基材の片面に、酸化チタンの顔料容積濃度が50%以上である隠蔽層と粘着層とを順次形成し、他面を粗化してなる粘着テープ。」
(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(イ-2)
「【産業上の利用分野】
本発明は、文書等の修正及び訂正箇所に貼着しても、下の文字が透けて見えることがなく、その上から再度文字等を書くことができ、乾式複写機にて複写しても修正箇所の外周部が線として黒く写ることのない粘着テープであって、セパレート用の支持材を必要とせずテープディスペンサーにて容易に、しかも切り口が綺麗に切断できる粘着テープに関する。」
(【0001】)

(イ-3)
「厚みを薄くしてコピーの影をなくしたものとしては感圧転写テープが提案されている。例えば、実開昭60-177934号公報には、セパレート用のプラスチック基材の片面に剥離処理を施し、同テープの他面に酸化チタンを隠蔽材とする薄い隠蔽層を塗設し、隠蔽層上に粘着層を設けた誤字修正用の積層テープが開示されている。この積層テープは、修正及び訂正箇所に合わせてテープ巻回体から所望寸法を切断し、この切断片の粘着層を紙面などに貼着し、その後にプラスチック基材を隠蔽層から剥離して使用するものである。この積層テープも修正及び訂正箇所に貼り着ければ直ちに修正や訂正ができ、修正液のようには乾燥時間を要しないところから普及してきている。
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記、実開昭60-177934号公報に記載されているような感圧転写タイプの積層テープは、コピーの影発生防止と共に、転写時や再筆記時における隠蔽層の割れを防止するため隠蔽層の厚さが薄く、従って、修正及び訂正箇所が透けて見えるという問題や、プラスチック基材を剥がして使用しなければならないという不便さがある。
本発明は、セパレート用のプラスチック基材がなく、文書等の修正及び訂正箇所や不要な部分が透けて見えることがないよう確実に隠蔽することができ、乾式複写機を使用して複写した場合にコピーの影ができず、テープディスペンサーにて容易に且つ綺麗に切断できる粘着テープを得ることを課題とする。」
(【0005】?【0007】)

(イ-4)
「隠蔽層は、上記バインダー樹脂を有機溶剤中に加え混練・溶解した後、酸化チタンを添加してボールミル、アトライター、サンドミルなどの分散機にて分散処理して隠蔽用組成物を得、この組成物をフィルム基材上に塗布・乾燥することによって形成することができる。
・・(中略)・・
また、上述した成分以外に、粘着テープと貼り着ける紙などとの色調を合わせるために着色顔料を、隠蔽力を更に向上させるためにシリカ、炭酸カルシウムなどの体質顔料を適宜添加することもできる。」
(【0013】?【0015】)

(イ-5)
「なお、本発明の粘着テープの隠蔽力向上のために、隠蔽層と粘着層との間に金属蒸着膜を形成したり、隠蔽層と粘着層との間に有色層を形成したり、隠蔽層と有色層とを順次繰返して多重層とすることも有効である。
・・(中略)・・有色層は、上記バインダー樹脂を上記有機溶剤中に加え混練・溶解した後、アゾレーキ系、ハンザ系、フタロシアニン系、アゾ系等の有機顔料や群青、コバルトブルー等の無機顔料やカーボンブラックなどの有色顔料を添加してボールミル、アトライター、サンドミルなどの分散機にて分散処理して有色組成物を得、これを隠蔽層上にグラビアコーターを用いて塗布することにより形成することができる。」
(【0018】?【0019】)

(イ-6)
「【実施例】
実施例1
アクリル系樹脂(アクリロイドB-67、米国ローム&ハース社製)100gと顔料分散剤(ホモゲノールL-18、花王石鹸(株)製)10gとを有機溶剤(メチルシクロヘキサン)400gに溶解させた後、酸化チタン(クロノスKR-380、チタン工業(株)製)500gを加えサンドミルにて分散処理し、顔料容積濃度が約58%となる隠蔽組成物を得た。これを、片面を粗化した厚さ25μmのアセテートフィルムの他面に乾燥後の厚さが40μmになるようにグラビアコーターにて塗布し乾燥して隠蔽層となした。ついで、この隠蔽層上にグラビアコーターを用いてアクリル系粘着剤(オリバインBPS-2993D、東洋インキ(株)製)を10μmの厚さで塗布し乾燥してロール状に巻き取り、更に、8mm幅にスリットして粘着テープを得た。
・・(中略)・・
実施例6
片面を粗化した厚さ25μmのアセテートフィルムの他面に実施例1で得た隠蔽組成物を乾燥後の厚さが35μmになるようにグラビアコーターにて塗布し乾燥して隠蔽層を形成した。次に、アクリル系樹脂(アクリロイドB-67、米国ローム&ハース社製)100gと顔料分散剤(ホモゲノールL-18、花王石鹸(株)製)2gを有機溶剤(メチルシクロヘキサン)800gに溶解させた後、カーボンブラック(MA-100、三菱化成工業(株)製)を100g加えサンドミルにて分散処理し黒色の有色組成物を得た。この黒色の有色組成物を前記隠蔽層の上に、乾燥後の厚さが5μmになるようにグラビアコーターにて塗布し乾燥して黒色の有色層となした。ついで、この黒色の有色層の上にグラビアコーターを用いてアクリル系粘着剤(オリバインBPS-2993D、東洋インキ(株)製)を10μmの厚さで塗布し乾燥してロール状に巻き取り、更に、8mm幅にスリットして粘着テープを得た。
実施例7
片面を粗化した厚さ25μmのアセテートフィルムの他面に実施例1で得られた隠蔽組成物を乾燥後の厚さが20μmになるようにグラビアコーターにて塗布し乾燥して隠蔽層となした。次に、この隠蔽層の上に実施例6で得た黒色の有色組成物を乾燥後の厚さが2μmになるように塗布し乾燥して有色層となした。同様にして順次各二層を交互に形成した。次に、黒色の有色層の上にグラビアコーターを用いてアクリル系粘着剤(オリバインBPS-2993D、東洋インキ(株)製)を8μmの厚さで塗布し乾燥してロール状に巻き取り、更に、8mm幅にスリットして粘着テープを得た。」
(【0021】?【0027】)

(イ-7)表1(【0032】)




イ.当審の判断

(ア)引用例1に記載された発明

上記引用例1には、「フィルム状基材の片面に着色顔料を含有する隠ぺい修正用感圧転写層が設けられてなる隠ぺい修正用転写テープにおいて、前記隠ぺい修正用感圧転写層が着色顔料とベヒクルとからなる隠ぺい層とその表面に設けられた感圧接着層とからな・・る隠ぺい修正用転写テープ」が記載され(上記(ア-1)参照。)、また、当該「隠ぺい層は通常白色に着色される。しかし対象物が白色以外の色に着色された紙などのばあいは、隠ぺい層を対象物の地色とほぼ同じ色に着色し、修正部分が地の部分と見分けられず、目立たないようにする」ことが記載され、当該白色着色にあたり使用される「白色顔料としては酸化チタン粉末が隠ぺい力がすぐれている点から主として用いられる」こと、「白色顔料に加えて色彩を調整するための色彩調整剤を混合してもよ」く、「その例にはアルミニウム粉末、銅粉末、真鍮粉末、染料などがある」こと及び「白色顔料以外の着色顔料として」種々の「無機顔料」又は「有機顔料」が使用できることもそれぞれ記載されている(上記(ア-4)及び(ア-5)参照。)。
してみると、上記引用例1には、上記(ア-1)?(ア-9)の記載事項からみて、本願の新請求項1の記載に倣い表現すると、
「フィルム状基材及び感圧接着層を含み、白色顔料及び色彩調整剤又は他色の顔料を含む着色顔料とベヒクルとからなる隠ぺい層がフィルム状基材と感圧接着層との間に存在する柔軟な隠ぺい修正用転写テープ」
に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(イ)本件補正発明との対比・検討

(a)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「フィルム状基材」及び「感圧接着層」は、いずれも本件補正発明における「補助支持体」及び「感圧接着剤層」に相当することが明らかである。
また、引用発明における「白色顔料及び色彩調整剤又は他色の顔料を含む着色顔料とベヒクルとからなる隠ぺい層」は、通常白色に着色するものであり(上記(ア-4)参照。)、感圧接着層と併せて「隠ぺい修正用感圧転写層」を構成するものである(上記(ア-1)参照。)から、本件補正発明における「結合剤を含有する白色に着色した転写層」に相当するといえる。
さらに、引用発明における「色彩調整剤又は他色の顔料」は、非白色の顔料であることが当業者に自明であるから、本件補正発明における「非白色顔料」に相当する。
そして、引用発明における「隠ぺい修正用転写テープ」は、複数の層が積層した転写テープであるから、本件補正発明における「多層転写テープ」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、
「補助支持体および感圧接着剤層を含み、結合剤を含有する白色に着色した転写層が、補助支持体と感圧接着剤層との間に存在する柔軟な多層転写テープ」
の点で一致し、下記の点でのみ相違する。

相違点1:「結合剤を含有する白色に着色した転写層」又は当該「結合剤」につき、本件補正発明では、「補助支持体に対するよりも感圧接着剤層に対してより強い接着性を示す」のに対して、引用発明では、特定されていない点
相違点2:本件補正発明では、「非白色顔料が、」「白色に着色した転写層中に位置する樹脂結合した内部層において、および/または、」「感圧接着剤層において、微細に分散した形態で存在する」のに対して、引用発明では、「白色顔料及び色彩調整剤又は他色の顔料を含む着色顔料とベヒクルとからなる隠ぺい層」である点

(b)相違点に係る検討

(b-1)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、上記引用例1にも記載されているとおり、引用発明の転写テープでは、隠ぺい層と感圧接着層とが併せて隠ぺい修正用感圧転写層を構成するものである(上記(ア-1)参照。)のに対して、フィルム状基材と隠ぺい層とは容易にはがれて転写できることを要するものである(上記(ア-7)参照。)から、隠ぺい層とフィルム状基材との間の接着性に比して、隠ぺい層と感圧接着層との間の接着性が強いものとなっていることは、当業者に自明である。
してみると、本件補正発明において、「補助支持体に対するよりも感圧接着剤層に対してより強い接着性を示す結合剤を含有する白色に着色した転写層」と規定した点は、実質的な相違でないか、当業者が適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点1に係る事項は、実質的な相違点でないか、当業者が適宜なし得る事項である。

(b-2)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、上記引用例2にも記載されている(上記(イ-1)ないし(イ-7)参照。)とおり、修正用又は隠ぺい用粘着テープの技術分野において、隠ぺい層の隠ぺい性の改善を意図して、白色以外の有色顔料を使用することは、少なくとも公知の技術であり、また、当該有色顔料を使用するにあたり、隠ぺい層と粘着層との間に有色顔料を分散・含有する有色層を形成したり、隠ぺい層と有色層とを順次繰り返して積層した多重層とすることも少なくとも公知の技術である(特に上記(イ-5)参照。)。
なお、当該「隠ぺい層と有色層とを順次繰り返して積層した多重層」につき検討すると、「隠ぺい層/有色層/隠ぺい層」なる構造の場合を包含するものといえるが、当該構造は、本件補正発明でいう「白色に着色した転写層/非白色顔料が微細に分散した形態で存在する樹脂結合した内部層/白色に着色した転写層」なる構造と同一であることが当業者に自明である。
してみると、引用発明において、さらに転写テープの隠ぺい性を改善することを意図し、上記公知技術に基づき、転写層を「非白色顔料が、白色に着色した転写層中に位置する樹脂結合した内部層に微細に分散した形態で存在する」構造の多重層とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点2に係る事項は、当業者が適宜なし得る事項である。

(b-3)本件補正発明の効果について
本件補正発明に係る効果につき検討すると、引用例2の公知技術に係る効果は、当該有色層を設けることにより隠ぺい性を向上・改善することであるから、引用発明に対して引用例2の公知技術を組み合わせた場合に、引用発明に係る転写テープにおいてさらに隠ぺい性が改善されるであろうことは、当業者が予期し得ることといえる。
してみると、本件補正発明は、引用発明及び上記公知技術を組み合わせた場合に比して、当業者が予期し得ない程度の顕著な効果を奏しているとはいえない。

(c)小括
したがって、本件補正発明は、上記引用発明及び引用例2の公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

III.補正の却下の決定のまとめ
以上のとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、上記手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で読み替えて準用する同法第126条第5項に違反する補正事項を含むものであって、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願について

1.本願に係る発明
平成20年2月20日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、本願の願書に最初に添付された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものであり(上記第2のI.1.参照。)、特に請求項1に係る発明につき再掲すると、以下のとおりのものである。
「補助支持体および感圧接着剤層を含み、補助支持体に対するよりも感圧接着剤層に対してより強い接着性を示す結合剤を含有する白色に着色した転写層が、補助支持体と感圧接着剤層との間に存在する柔軟な多層転写テープであって、非白色顔料が、
a)(a1)白色に着色した転写層と感圧接着剤層との間、または(a2)白色に着色した転写層中に位置する樹脂結合した内部層において、および/または、
b)感圧接着剤層において、
微細に分散した形態で存在することを特徴とする転写テープ。」
(以下、「本願発明」という。)

2.原審の拒絶査定の概要
原審において、平成19年3月22日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・理由1及び2について
・請求項1?11に係る発明に対して
・・(中略)・・

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平5-8594号公報
2.特開平2-14185号公報
3.特開平8-104848号公報
・・(後略)」

<拒絶査定>
「この出願については、平成19年 3月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由1及び2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
出願人は意見書において、引用例1及び2に記載された発明は、本願発明とは異なり白色顔料の層とは別に有色顔料の層を設けない点で相違する旨主張する。

しかしながら、本願発明は非白色顔料が白色に着色した転写層中に位置する樹脂結合した内部層において微細に分散した状態で存在する態様を包含する発明であり、その態様は転写層中に微細な非白色顔料も分散されているものと解されるので、結局、本願発明はそのような態様において引用例1及び2に記載されたテープと特に相違するものとは認められない。

よって、上記出願人の主張は採用できず、本願発明は依然として特許を受けることができない。

なお、引用例1及び2に記載の発明において、十分な隠蔽性を発揮させるために、引用例3に記載されているように隠蔽層と粘着層の間に有色層を形成させることは当業者が容易に想到できることであり、それによる効果も特に顕著でないことにも留意されたい。」

3.当審の判断

(1)引用例に記載された発明
ここで、上記拒絶理由通知で引用された引用文献1及び3は、上記第2の補正の却下の決定で引用した引用例1及び2である。
したがって、上記引用例1及び2には、上記第2のII.3.(2)ア.の(ア)及び(イ)でそれぞれ摘示した(ア-1)?(ア-9)及び(イ-1)?(イ-7)の各事項が記載され、引用例1には、上記第2のII.3.(2)イ.(ア)に示した「引用発明」が記載されている。

(2)本願発明と引用発明との対比・検討

(ア)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、本件補正発明が本願発明を減縮したものであり、本願発明に包含されるものであるから、上記第2のII.3.(2)イ.(イ)(a)で指摘した対比結果と同様になり、本願発明と引用発明とは、
「補助支持体および感圧接着剤層を含み、結合剤を含有する白色に着色した転写層が、補助支持体と感圧接着剤層との間に存在する柔軟な多層転写テープ」
の点で一致し、下記の2点でのみ相違する。

相違点1:「結合剤を含有する白色に着色した転写層」又は当該「結合剤」につき、本件発明では、「補助支持体に対するよりも感圧接着剤層に対してより強い接着性を示す」のに対して、引用発明では、特定されていない点
相違点2’:本願発明では、「非白色顔料が、a)(a1)白色に着色した転写層と感圧接着剤層との間、または(a2)白色に着色した転写層中に位置する樹脂結合した内部層において、および/または、b)感圧接着剤層において、微細に分散した形態で存在する」のに対して、引用発明では、「白色顔料及び色彩調整剤又は他色の顔料を含む着色顔料とベヒクルとからなる隠ぺい層」である点

(イ)検討
上記相違点1につき検討すると、上記第2のII.3.(2)イ.(イ)(a)で指摘した相違点1と同一の事項であるから、上記第2のII.3.(2)イ.(イ)(b)(b-1)で説示した理由と同一の理由により、実質的な相違点でないか、当業者が適宜なし得る事項である。
また、上記相違点2’につき検討すると、上記第2のII.3.(2)イ.(イ)(a)で指摘した相違点2に係る態様を並列的に包含するものであるから、上記第2のII.3.(2)イ.(イ)(b)(b-2)で説示した理由と同一の理由により、当業者が適宜なし得る事項である。
そして、本願発明の効果につき検討すると、上記第2のII.3.(2)イ.(イ)(b)(b-3)で「本件補正発明」につき説示した理由と同一の理由により、引用発明及び引用例2の公知技術を組み合わせた場合に、引用発明に係る転写テープにおいてさらに隠ぺい性が改善されるであろうことは、当業者が予期し得ることといえるから、本願発明は、引用発明及び上記引用例2の公知技術を組み合わせた場合に比して、当業者が予期し得ない程度の顕著な効果を奏しているとはいえない。

(3)小括
してみると、本願発明は、上記引用発明及び引用例2の公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、本願は、特許法第49条第2号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-02 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-21 
出願番号 特願平9-539458
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09J)
P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 東 裕子
橋本 栄和
発明の名称 柔軟な多層転写テープ  
代理人 田中 光雄  
代理人 柴田 康夫  
代理人 田中 光雄  
代理人 山崎 宏  
代理人 鮫島 睦  
代理人 柴田 康夫  
代理人 鮫島 睦  
代理人 山崎 宏  

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