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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1237694
審判番号 不服2007-31164  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-19 
確定日 2011-06-02 
事件の表示 平成10年特許願第510920号「ヒトグリシン輸送体」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 2月26日国際公開、WO98/07854、平成12年12月12日国内公表、特表2000-516475〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成9年8月20日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年8月20日 米国)とする出願であって、平成18年12月18日付で拒絶理由が通知され、平成19年7月9日付で手続補正がなされるとともに、同日に意見書が提出されたが、同年8月10日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月19日付で審判請求書及び特許請求の範囲の手続補正がなされたものである。

第2 平成19年12月19日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年12月19日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、平成19年7月9日付で補正された特許請求の範囲の請求項1
「1.配列番号:27の蛋白質配列である基準配列、又は次の置換、即ち(1)Gly102をSerへ、(2)Ser124をPheへ、(3)Ile279をAsnへ、(4)Arg393をGlyへ、(5)Lys457をAsnへ、(6)Asp463をAsnへ、(7)Cys610をTyrへ、(8)Ile611をValへ、(9)Phe733をSerへ、(10)Ile735をValへ、(11)Phe245をLeuへ、(12)Val305をLeuへ、(13)Thr366をIleへ、若しくは(14)Leu400をProへ置換することの1つ若しくはそれ以上が行われていることを除いて、配列番号:27の蛋白質配列と同一の配列と、少なくとも96%の配列同一性を有するグリシン輸送体をコードする組換え核酸。」(以下、「本願発明1」という。)は削除され、
特許請求の範囲の請求項6は、
「6.配列番号:26の核酸配列、又は次の置換、即ち(a)T6をCへ、(b)G304をAへ、(c)C371をTへ、(d)C571をTへ、(e)T836をAへ、(f)A1116をGへ、(g)A1117をGへ、(h)G1371をCへ、(i)G1387をAへ、(j)G1829をAへ、(k)A1831をGへ、(l)G2103をAへ、(m)T2198をCへ、(n)A2203をGへ、(o)C342をGへ、(p)C352をTへ、(q)T733をCへ、(r)A777をGへ、(s)G913をCへ、(t)G951をAへ、(u)C1097をTへ、若しくは(v)T1199をCへ置換することの1つ若しくはそれ以上が行われていることで、配列番号:26の核酸配列と異なっている配列を含む、請求範囲1、2、3、4または5の核酸。」(以下、「本願発明6」という。)から
「1.配列番号:26の核酸配列、又は次の置換、即ち(a)T6をCへ、(b)G304をAへ、(c)C371をTへ、(d)C571をTへ、(e)T836をAへ、(f)A1116をGへ、(g)A1117をGへ、(h)G1371をCへ、(i)G1387をAへ、(j)G1829をAへ、(k)A1831をGへ、(l)G2103をAへ、(m)T2198をCへ、(n)A2203をGへ、(o)C342をGへ、(p)C352をTへ、(q)T733をCへ、(r)A777をGへ、(s)G913をCへ、(t)G951をAへ、(u)C1097をTへ、若しくは(v)T1199をCへ置換することの1つ若しくはそれ以上が行われていることで、配列番号:26の核酸配列と異なっている配列を含む、グリシン輸送体をコードする組み換え核酸。」(以下、「本願補正発明1」という。)へ補正され、
特許請求の範囲の請求項8は、
「8.請求範囲1、2、3、4、5、6または7の核酸及び機能的にこれと関連する外因性プロモーターを含むベクター。」(以下、「本願発明8」という。)から
「3.請求範囲1または2の核酸及び機能的にこれと関連する外因性プロモーターを含むベクター。」(以下、「本願補正発明3」という。)へ補正され、
特許請求の範囲の請求項10は、
「10.下記の細胞:
(a)請求範囲8による第一のベクターで形質転換され、該核酸を含むか、又は
(b)第二のベクターで形質転換され、配列番号:27である基準蛋白質配列、若しくは次の置換、即ち(1)Gly102をSerへ、(2)Ser124をPheへ、(3)Ile279をAsnへ、(4)Arg393をGlyへ、(5)Lys457をAsnへ、(6)Asp463をAsnへ、(7)Cys610をTyrへ、(8)Ile611をValへ、(9)Phe733をSerへ、(10)Ile735をValへ、(11)Phe245をLeuへ、(12)Val305をLeuへ、(13)Thr366をIleへ、若しくは(14)Leu400をProへ置換することの1つ若しくはそれ以上が行われていることを除いて、配列番号:27の蛋白質配列と同一の配列のアミノ酸配列中の連続した少なくとも600のアミノ酸からなる配列部分と、少なくとも99.5%の配列同一性を有する輸送体蛋白質をコードする第二の核酸を含み、ここで、コードされた蛋白質は、グリシン輸送体活性を有している。」(以下、「本願発明10」という。)から
「4.下記の細胞:
(a)請求範囲3によるベクターで形質転換され、該核酸を含むものであり、
ここで、コードされた蛋白質はグリシン輸送体活性を有している、細胞。」(以下、「本願補正発明4」という。)へ補正され、
特許請求の範囲の請求項13は、
「13.請求範囲10による細胞から単離され、第一又は第二のベクターにより発現されたグリシン輸送体。」(以下、「本願発明13」という。)から
「7.請求範囲4による細胞から単離され、ベクターにより発現されたグリシン輸送体。」(以下、「本願補正発明7」という。)へ補正され、更に、
「8.グリシン輸送体が配列番号:27の蛋白質配列である基準配列、又は次の置換、即ち(1)Gly102をSerへ、(2)Ser124をPheへ、(3)Ile279をAsnへ、(4)Arg393をGlyへ、(5)Lys457をAsnへ、(6)Asp463をAsnへ、(7)Cys610をTyrへ、(8)Ile611をValへ、(9)Phe733をSerへ、(10)Ile735をValへ、(11)Phe245をLeuへ、(12)Val305をLeuへ、(13)Thr366をIleへ、若しくは(14)Leu400をProへ置換することの1つ若しくはそれ以上が行われていることを除いて、配列番号:27の蛋白質配列と同一の配列と、少なくとも96%の配列同一性を有するものからなる、請求範囲7のグリシン輸送体。」(以下、「本願補正発明8」という。)」が追加された。

2.目的要件違反について
(2-1)
本件補正は、本願発明13の「第一又は第二のベクターにより発現されたグリシン輸送体」を本願補正発明7の「ベクターにより発現されたグリシン輸送体」とする補正(以下、「本件補正1」という。)を含むものであるところ、当該補正は、グリシン輸送体を発現するためのベクターについて、「第一又は第二のベクター」と特定されたものから、何らの特定のないベクターへとその包含する範囲を拡張するものであるから、本件補正1は、特許請求の範囲の減縮に該当しない。

(2-2)
本件補正は、グリシン輸送体に関する本願補正発明8を追加する補正(以下、「本件補正2」という。)を含むものである。
上記(2-1)で示したとおり、本願発明13と本願補正発明7はいずれもグリシン輸送体の発明であって、両者には一対一の対応関係があるといえるが、同じグリシン輸送体の発明である本願補正発明8については、一対一の対応関係のある本件補正前発明は存在していないため、本願補正発明8は、本件補正により新たに追加されたものであるといえる。
しかしながら、請求項を新たに追加する補正は、特許請求の範囲の減縮に該当しないことは明らかである。

(2-3)
本願発明13のグリシン輸送体は、本願発明10の細胞から単離され、第二のベクターにより発現されたものであるとの限定が付加されたものであるのに対し、本願補正発明8のグリシン輸送体は、上記の限定が付加されていないから、実質的に発明の範囲を拡張するものである。
また、本願発明13のグリシン輸送体は、それを発現する細胞において用いられる本願発明10の第二のベクターからみて、「(1)Gly102をSerへ、・・・を除いて、配列番号:27の蛋白質配列と同一の配列のアミノ酸配列中の連続した少なくとも600のアミノ酸からなる配列部分と、少なくとも99.5%の配列同一性を有する」もの、すなわち99.5%の配列が同一であるのは配列番号27のうち連続した少なくとも600のアミノ酸からなる配列部分であるのに対し、本願補正発明8のグリシン輸送体は、「(1)Gly102をSerへ、・・・を除いて、配列番号:27の蛋白質配列と同一の配列のアミノ酸配列と、少なくとも96%の配列同一性を有する」もの、すなわち96%の配列が同一であるのは配列番号27の配列全体であり、両者の配列同一性を算出する基準となる配列が異なっているから、本件補正2は、実質的に発明特定事項を変更するものである。
したがって、この補正は、特許請求の範囲の減縮に該当しない。

3.小括
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものではないことは明らかである。
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成19年12月19日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成19年7月9日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(第2 1.参照)。
そして、本願明細書に記載の「これらの類似体は、配列番号:27の蛋白質配列と、又は次の置換・・・・・・配列番号:27の蛋白質配列に相当する配列と、好ましくは、少なくとも約96%の配列同一性・・・を有しているものである。」(対応する公表公報の28頁11?22行)を参酌すると、「約96%の配列同一性」は「配列番号:27の蛋白質配列」及び「次の置換・・・・・・配列番号:27の蛋白質配列に相当する配列」の両者を受けているものであるといえるから、本願発明1は、
「配列番号:27の蛋白質配列である基準配列と、少なくとも96%の配列同一性を有するグリシン輸送体をコードする組換え核酸」(以下、「本願発明1-1」という。)及び、
「次の置換、即ち(1)Gly102をSerへ、(2)Ser124をPheへ、(3)Ile279をAsnへ、(4)Arg393をGlyへ、(5)Lys457をAsnへ、(6)Asp463をAsnへ、(7)Cys610をTyrへ、(8)Ile611をValへ、(9)Phe733をSerへ、(10)Ile735をValへ、(11)Phe245をLeuへ、(12)Val305をLeuへ、(13)Thr366をIleへ、若しくは(14)Leu400をProへ置換することの1つ若しくはそれ以上が行われていることを除いて、配列番号:27の蛋白質配列と同一の配列と、少なくとも96%の配列同一性を有するグリシン輸送体をコードする組換え核酸」(以下、「本願発明1-2」という。)からなるものであるといえる。

第4 特許法第29条第2項
1.引用文献
(1-1)引用文献1
原審の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願出願前に頒布された刊行物であるJ. Biol. Chem. 268 (1993) p. 22802-22808には、以下の事項が記載されている。

(1-1-1)
「ラット脳cDNAライブラリから新規のグリシントランスポーター(GLYT2)がクローニングされた。GLYT2は,先にクローニングされていたマウスのグリシントランスポーター(GLYT1)やラットのプロリントランスポーター(PROT)に対し,各々約48%,約50%相同であった。GLYT2は分子構造や組織特異性,薬理学的特徴の点でGLYT1とは異なっている。GLYT2のcDNAは799アミノ酸残基をコードし,最初の膜貫通ドメインの前に200アミノ酸残基を含む拡張されたアミノ末端ポリペプチドを伴っている。」(第22802頁左欄第1行?第10行)

(1-1-2)
「GLYT2のcRNAを注入されたツメガエルの卵母細胞は,17μMのKm値で,グリシンを輸送し,そのグリシンの取り込みはサルコシンによる阻害に対して耐性がある。その実験データは,脊椎動物の脳幹や脊髄におけるグリシンの阻害効果の終了に,GLYT2が主な役割を果たしていることを示唆している。」(第22802頁左欄第17行?第22行)

(1-1-3)
「実験手順。
クローニングと配列の決定-マウスの新生児の脳のcDNAライブラリから,低ストレンジェンシー条件でのGLYT1のcDNAを使用したスクリーニングで,1.8kbの部分的なcDNAクローン(NTT1)が得られた。この部分的なcDNAから推定されるアミノ酸配列は,公知の神経伝達トランスポーターと40?45%の相同性を示した。このことは,NTT1が新規のトランスポーターをコードしていることを示唆している。しかしながら,複数回のスクリーニングでも,そのcDNAライブラリから全長cDNAを得るには至らなかった。代わりに,マウスcDNAのNTT1クローンをプローブとした高ストレンジェンシー条件でのスクリーニング用に,λZAPベクター中のラット脳cDNAライブラリが選択された。2種類の陽性クローンが得られた。4kbのラットcDNAクローン(G42)は開始メチオニンを含み,しかし,マウスcDNAのNTT1と比較すると異なる3’配列を持っている。もう1つの1.8kbラットcDNAクローン(J30)はマウスNTT1の部分配列のラット版である。G42のオープンリーディングフレームは最後の2つの膜貫通ドメインを欠き,Na+依存性神経伝達トランスポーターの一致した構造と比較すると,未成熟に停止している。その2つの異なるラットcDNAクローン(G42とJ30)は,核酸の位置で1656と2242位のところで約600塩基対,重複していた。クローンG42は,ツメガエルの卵母細胞で発現させることができず,その3’配列は非特異に5kbのmRNAとハイブリダイズした。ひょっとすると,クローニングの人工的産物かもしれない。それゆえ,ラットNTT1の全長cDNAクローンは,G42のEcoRI/BclI断片とJ30BclI/HindIII断片を継ぎ合わせることによって,構築された。」(第22802頁右欄第28行?第51行)

(1-1-4)
「“実験手順”に記載の通りクローニングされたラット脳cDNAの核酸配列と予想されるアミノ酸配列を図2が示している。このcDNAから合成されたRNAは,GLYT2を意味するグリシントランスポーターを発現した。」(第22803頁右欄第20行?第24行)

(1-1-5)


グリシン輸送体GlyT2をコードするcDNAのヌクレオチド配列及び推定アミノ酸配列。このcDNAは“実験手順”に示されたとおりクローン化及び配列決定された。」(図2)

(1-1-6)
「2つのGLYT1バリアントとGLYT2はサルコシン阻害感受性によって区別され得る。サルコシンによるGLYT2阻害の欠如と予測されるアミノ酸配列の分子量から、単離・再構成された脊髄及び脳幹のグリシン輸送体は、GLYT2にほかならないと示唆される(26,27)。更に、GLYT2は脊髄及び脳幹に集積されており、これはストリキニーネ感受性グリシン受容体の局在と高い相関がある(19-22)。そのため、GLYT2は、脊髄及び脳幹におけるグリシン輸送体によって示されるグリシンの抑制効果の終結に関与していると考えられる。一方、GLYT1の中央神経系における分布は、より普遍的である。GLYT1はNMDA受容体と共局在しており、グリシン濃度を適正化してNMDA受容体の機能を調節している可能性が報告されている。」(第22806頁左欄下から9行?右欄下から3行)

(1-1-7)
「GLYT2によるグリシン輸送の薬理は,特異的な阻害剤の欠如のせいで妨げられている。しかしながらグリシンはさまざまな組織でいくつかのアミノ酸輸送系の基質であるから,それらの系の特異的阻害剤の,GLYT2による[3H」グリシンの取り込みに対する競合能力が,試験された。」(第22804頁右欄第62行?第22805頁左欄第3行)

(1-1-8)
「神経伝達の終了の調節に対応する分子機構の研究は,これらのトランスポーター分子に関連する神経学的疾患や薬物乱用に対する理解の助けとなるだろう。」(第22807頁右欄第22行?第25行)

以上のことから、引用文献1には、ラット由来のグリシン輸送体(ラットGlyT-2)をコードする組換え核酸及びそれから推定されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが記載されていると認められる。

(1-2)引用文献2
原審の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願出願前に頒布された刊行物であるMol. Pharmacol. 45 (1994) p. 608-617には、以下の事項が記載されている。

(1-2-1)
「ヒトGlyT-1bに加え,我々は,別のスプライシングによって生産される,機能を持った新規のアイソフォームを解析した。このアイソフォームGlyT-1cは,最近ラットで解析されたGlyT-2とは異なり,GlyT-1bのアミノ末端部分に,54アミノ酸残基をコードした追加的なエクソンを含んでおり,主に脳に発現していた。」(第608頁概要欄左欄第9行?第14行)

(1-2-2)
「COS-7細胞で発現させた時,ヒトGlyT-1bもGlyT-1cも共に,時間および投与量依存的グリシン取り込みを見せ,これはNa+もしくはCl-のいずれかが他のイオンに置換されている時には無力化された。」(第608頁概要欄右欄第2行?第5行)

(1-2-3)


GlyT-1bとGlyT-1cの核酸と推定されるアミノ酸配列。そのコード領域には,推定される翻訳開始コドンから始まる番号が付されている。実線は推定される膜貫通(TM)ドメインを,中空になっている線はN-グルコシルのためのコンセンサス配列の位置を示す。実線で囲まれた部分は,アミノ末端領域において選択的にスプライスされる162ヌクレオチド(54アミノ酸)。」(第611頁図1)

(1-2-4)


A,ヒト,ラット,マウスのグリシントランスポーターのアイソフォームのアミノ末端のアミノ酸配列の位置合わせ。ヒトGlyT-1aに対しては配列MVGKGAに下線が引かれているが,これらの塩基に対するヌクレオチド配列は公知のラット配列から合成されたPCRプライマーJの一部であるため。
B,選択的にスプライスされた162ヌクレオチドのエクソンの位置における,GlyT-1遺伝子のゲノム構成。最初の実線の囲みは,GlyT-1cにおける54アミノ酸の挿入物。2番目の囲みは,全てのアイソフォームに共通となる最初のエクソン。小文字になっている配列は,162ヌクレオチドの挿入物に並ぶイントロン。
C,GlyT-1の5’部分におけるエクソンイントロン構成の模式図。実線は遺伝子,中空の四角はエクソン。エクソンIとIIの構成はマウスの遺伝子から引用した。イントロンとエクソンに対する長さは,それらが異なる種で決定されたため,縮尺合わせをしていない。」(第612頁図2)

以上のことから、引用文献2には、ヒト由来のグリシン輸送体(ヒトGlyT-1)及びそれをコードする組換え核酸が記載されていると認められる。

2.本願発明1と引用文献1との対比
(2-1)本願発明1-1
本願発明1のGlyT-2はヒトを由来とするものであるから、本願発明1-1と引用文献1に記載された事項とを対比すると、両者は、グリシン輸送体をコードする組換え核酸である点で一致し、前者では、所定のヌクレオチド配列と少なくとも96%の配列同一性を有するヒト由来のグリシン輸送体をコードする組換え核酸であるのに対し、後者では、グリシン輸送体をコードする核酸が所定のヌクレオチド配列で表されるラット由来のものである点で相違する。

(2-2)本願発明1-2
上記(2-1)もあわせて考慮して、本願発明1-2と引用文献1に記載された事項とを対比すると、両者は、グリシン輸送体をコードする組換え核酸である点で一致し、前者では、所定の置換を除いて、所定のヌクレオチド配列と少なくとも96%の配列同一性を有するヒト由来のグリシン輸送体をコードする組換え核酸であるのに対し、後者では、グリシン輸送体をコードする核酸が所定のヌクレオチド配列で表されるラット由来のものである点で相違する。

3.当審の判断
(3-1)本願発明1-1及び本願発明1-2
一般に、マウスやラット等の哺乳動物において、生体反応に重要な機能を有するポリペプチド又はポリヌクレオチドが見いだされた場合、ヒトにおいても、同様の機能を有するポリペプチド又はポリヌクレオチドが存在することを期待して、マウスやラット等を由来とするポリペプチド又はポリヌクレオチドを利用し、本願優先日前において当業者が容易に入手あるいは作成が可能なヒトcDNAライブラリを用いて、当該存在が期待されるポリペプチド又はポリヌクレオチドを探索することは、当業者が通常の能力の発揮をもって行うことである。
そして、GlyT-1及びGlyT-2は、脊髄及び脳幹における神経伝達系において、それぞれ重要な役割を持っており(上記摘記(1-1-6)参照)、その分子機構の解明は神経学的疾患や薬物乱用に対する研究に意義がある(上記摘記(1-1-8)参照)ことが当業者に知られており、更に、本願優先日前において、ヒトを由来とするグリシン輸送体(ヒトGlyT-1)が既に知られていた(上記摘記(1-2)参照)ことから、当業者であれば、ヒトにおいて重要な役割を持つヒトGlyT-2の存在を期待して、引用文献1に記載されたラット由来のグリシン輸送体(ラットGlyT-2)をコードするcDNAの配列に基づいて、プライマーやプローブを設計してヒトcDNAライブラリから目的とするcDNAを増幅・検出するなどの周知の手法により、ヒトGlyT-2をコードする核酸を取得しようとすることは、容易に想到し得たことである。

(3-2)本願発明1-1
本願発明1-1は、ヒト由来のグリシン輸送体(ヒトGlyT-2)をコードする組換え核酸を基準として96%の配列同一性を有するものであり、ヒト由来のグリシン輸送体(ヒトGlyT-2)そのものをコードする核酸を包含するものであるから、上記(3-1)のとおり、当業者がヒト由来のグリシン輸送体(ヒトGlyT-2)そのものをコードする核酸を容易に想到し得た以上、本願発明1-1も同様、当業者が容易に想到し得たものである。

(3-3)効果について
本願発明1-1を含む本願発明1のヒト由来のグリシン輸送体(ヒトGlyT-2)が、引用文献1又は2に記載のグリシン輸送体と比較して、予測できない優れた効果を奏することについては、本願明細書及び図面に記載されておらず、本願優先日前において自明な事項であっともいえない。また、審判請求人は、平成19年7月9日付意見書及び平成19年12月12日付手続補正書(審判請求書)においても、本願発明1のヒト由来のグリシン輸送体(ヒトGlyT-2)が、引用文献1又は2に記載のグリシン輸送体と比較して、予測できない優れた効果を奏することについて、具体的なデータを示した主張を何らしていないから、本願発明1において、上記相違点に係る技術的事項により、引用文献1及び2の記載から当業者が予測できない優れた効果を奏するとはいえない。

4.審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書において、引用文献1には、マウスにおいてGlyT-2遺伝子の取得に成功していないことが記載されているから、ラットにおいてGlyT-2遺伝子の取得が成功したからといって、ヒトにおいてもGlyT-2遺伝子の取得が成功するとは限らない旨主張しているが、引用文献1には、マウスGlyT-1のcDNAを用いてマウス新生児脳cDNAライブラリからマウスGlyT-2の全長cDNAの取得に失敗したものの、同じ手法によりラットGlyT-2の全長cDNAの取得には成功した旨が記載されており、マウスGlyT-2の全長cDNAの取得失敗は例外的なものと考えられるから、当該審判請求人の主張は採用することができない。
また、審判請求人は、審判請求書において、ヒトのGlyT-2遺伝子を見いだしたこと自体が最も好ましい新しい選択肢を一つ増やしたという点で格別顕著な効果を奏するものである旨主張しているが、上記のとおり、ヒトGlyT-2が存在すること、及びラットGlyT-2と同様の機能を有することは、本願優先日前の当業者が容易に予測し得ることであり、それを取得するためのクローニング手法も周知であった。したがって、他の生物種に存在する遺伝子のカウンターパートであるヒトの遺伝子を見いだしたとしても、その機能を明らかにした上で、それが従来知られた他の生物種に存在した遺伝子の機能と比較して格別なものでなければ、進歩性はないというべきであるところ、本願発明1のヒトGlyT-2遺伝子がラットGlyT-2遺伝子と比較して、種間の相違以上の効果を奏することについては、本願明細書及び意見書並びに審判請求書において何ら具体的なデータを伴った記載がなされていないから、当該出願人の主張は採用することができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないのであるから、その他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-24 
結審通知日 2010-12-14 
審決日 2010-12-27 
出願番号 特願平10-510920
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 57- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 正展  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 田中 耕一郎
鈴木 恵理子
発明の名称 ヒトグリシン輸送体  
代理人 大多和 明敏  
代理人 大多和 曉子  

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