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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1237816
審判番号 不服2008-9973  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-21 
確定日 2011-06-01 
事件の表示 特願2000-542767「1つのマスターからの多数のデータ記憶ディスクスタンパの製法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月14日国際公開、WO99/52104、平成14年 4月 9日国内公表、特表2002-510835〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年3月15日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 平成10年4月6日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年7月3日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年10月18日付けで手続補正がなされ、平成20年1月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月21日付けで拒絶査定不服審判請求がなされた後、同年5月21日付けで手続補正がなされた。
その後、平成22年6月4日付けで審尋がなされ、同年10月8日付けで回答書が提出されたものである。

2.補正の適否・本願発明
平成20年5月21日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項7については、
本件補正前には、
「【請求項7】 第3世代プロセスを利用して1つのマスターから複数の光ディスクスタンパを製造する方法であって、
マスターディスクを記録するステップ(202)と、
電気メッキプロセスを利用して前記マスターディスクから第1世代スタンパを製造するステップ(204)と、
ローリングビードプロセスを含む光重合プロセスを利用して第1世代スタンパから第2世代スタンパを製造するステップ(206)と、
電気メッキプロセスを利用して前記第2世代スタンパから第3世代スタンパを製造するステップ(208)と、を具備する、方法。
【請求項8】 前記第1世代スタンパが情報表面を含み、さらに前記第2世代スタンパを製造するステップが、
前記ローリングビードプロセスを利用して第1世代スタンパと構造層との間に感光性重合体層を配置して、感光性重合体/構造層を形成するステップと、
感光性重合体層を紫外線源で硬化させるステップと、
第1世代スタンパを感光性重合体/構造層アセンブリから分離するステップと、をさらに具備する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】 前記第2世代スタンパから第3世代スタンパを製造するステップ(209)が、
前記感光性重合体層を第1金属層で被覆するステップと、
第1金属層を第2金属層で被覆してスタンパアセンブリを形成し、第1金属層を感光性重合体層から分離して第2世代スタンパを形成するステップと、をさらに具備し、
スタンパアセンブリから第1および第2金属層の上記分離は、第2世代スタンパが他の第3世代スタンパを作るのにも使用できるように、すなわち第2世代スタンパに対して非破壊的に行われる、請求項8に記載の方法。」
とあったものが、
「【請求項7】 第3世代プロセスを利用して1つのマスターから複数の光ディスクスタンパを製造する方法であって、
マスターディスクを記録するステップ(202)と、
電気メッキプロセスを利用して前記マスターディスクから第1世代スタンパを製造するステップ(204)と、
ローリングビードプロセスを含む光重合プロセスを利用して第1世代スタンパから第2世代スタンパを製造するステップ(206)と、
電気メッキプロセスを利用して前記第2世代スタンパから第3世代スタンパを製造するステップ(208)と、を具備していて、
前記第1世代スタンパが情報表面を含み、さらに前記第2世代スタンパを製造するステップが、
前記ローリングビードプロセスを利用して第1世代スタンパと構造層との間に感光性重合体層を配置して、感光性重合体/構造層を形成するステップと、
感光性重合体層を紫外線源で硬化させるステップと、
第1世代スタンパを感光性重合体/構造層アセンブリから分離するステップと、をさらに具備していて、
前記第2世代スタンパから第3世代スタンパを製造するステップ(209)が、
前記感光性重合体層を第1金属層で被覆するステップと、
第1金属層を第2金属層で被覆してスタンパアセンブリを形成し、第1金属層を感光性重合体層から分離して第2世代スタンパを形成するステップと、をさらに具備し、
スタンパアセンブリから第1および第2金属層の上記分離は、第2世代スタンパが他の第3世代スタンパを作るのにも使用できるように、すなわち第2世代スタンパに対して非破壊的に行われる、方法。」
と補正された。
上記補正は、結局、本件補正前の請求項9を独立形式とし、請求項7及び請求項8を削除したものである。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。

したがって、本願の請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年5月21日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項7に記載された次のとおりのものである。
「【請求項7】 第3世代プロセスを利用して1つのマスターから複数の光ディスクスタンパを製造する方法であって、
マスターディスクを記録するステップ(202)と、
電気メッキプロセスを利用して前記マスターディスクから第1世代スタンパを製造するステップ(204)と、
ローリングビードプロセスを含む光重合プロセスを利用して第1世代スタンパから第2世代スタンパを製造するステップ(206)と、
電気メッキプロセスを利用して前記第2世代スタンパから第3世代スタンパを製造するステップ(208)と、を具備していて、
前記第1世代スタンパが情報表面を含み、さらに前記第2世代スタンパを製造するステップが、
前記ローリングビードプロセスを利用して第1世代スタンパと構造層との間に感光性重合体層を配置して、感光性重合体/構造層を形成するステップと、
感光性重合体層を紫外線源で硬化させるステップと、
第1世代スタンパを感光性重合体/構造層アセンブリから分離するステップと、をさらに具備していて、
前記第2世代スタンパから第3世代スタンパを製造するステップ(209)が、
前記感光性重合体層を第1金属層で被覆するステップと、
第1金属層を第2金属層で被覆してスタンパアセンブリを形成し、第1金属層を感光性重合体層から分離して第2世代スタンパを形成するステップと、をさらに具備し、
スタンパアセンブリから第1および第2金属層の上記分離は、第2世代スタンパが他の第3世代スタンパを作るのにも使用できるように、すなわち第2世代スタンパに対して非破壊的に行われる、方法。」

なお、上記の下線を付した「(209)」は、「(208)」の誤記であり、また、上記の下線を付した「第2世代スタンパ」については、この記載部分は第2世代スタンパから第3世代スタンパを製造するステップに関するものであることを考慮すると、「第3世代スタンパ」の誤記であると認められる。

3.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開昭62-62450号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「2.特許請求の範囲
1.複製しようとする光記録媒体の原盤からレプリカ製作用スタンパを製造する方法であって、原盤をもとにマスタースタンパを製造した後、そのマスタースタンパをもとに多数枚のマザースタンパを樹脂材料から製造、そして得られたマザースタンパのそれぞれから1枚もしくはそれ以上のレプリカ製作用スタンパを製造することを特徴とするスタンパの製法。
2.前記マザースタンパを光重合性樹脂材料の塗布及び光照射による硬化によって製造する、特許請求の範囲第1項に記載の製法。」(1頁左下欄4?15行)

(2)「〔従来の技術〕
光ディスク等の光記録媒体の複製にいろいろな方法が用いられていることは周知の通りである。なかんずく、広く用いられている複製方法は、マスタリングプロセスを使用した方法であって、先ず最初に、例えばガラス基板上のレジスト膜のパターニングによってレジスト原盤を製造した後、その原盤の表面にニッケル、クロム、金等を蒸着やスパッタ等の技法により付けて電極膜を形成し、これにさらにニッケルを電鋳することによってマスタースタンパを製造する。」(2頁左上欄1?11行)

(3)「本発明の実施において、マスタースタンパは、先に従来の技術の項で説明したように、原盤の表面にニッケル、クルム、金等を蒸着やスパッタ等の技法により付けて電極膜を形成し、次いでこの膜の上に例えばニッケルを電鋳することによって有利に製造することができる。
マザースタンパは、従来のそれのように電鋳により製造するのではなくて、以下に詳述するように樹脂材料から製造し、また、このことが本発明の特徴でもある。本発明のマザースタンパの製造は、好ましい1態様によれば、一般に2P樹脂と呼ばれている光重合性樹脂材料をマスタースタンパ上に塗布し、次いでこの材料を適当な光の照射によって硬化させることからなる。」(2頁右下欄5?18行)

(4)「上記のようにして製造したマザースタンパは、さらに、前記マスタースタンパの製造と同様、電鋳を利用して最終的にスタンパ(ここではレプリカ複製用スタンパとも呼ぶ)を製造するのに使用することができる。なお、この場合、1枚のマザースタンパから1枚の最終的スタンパしか得られないのが一般的であるので、最終的スタンパを多量に得たい場合にはマザースタンパの表面に予め保護膜を形成しておくことが推奨される。このような保護膜は、好ましくは、ニッケルの蒸着によって形成することができる。」(3頁左上欄17行?同頁右上欄7行)

(5)「〔実施例〕
次いで、以下の実施例において、添付の図面を参照しながらさらに詳しく本発明を説明する。
例 1
マスタースタンパの製造:
原盤(図示せず)から、常法により、電鋳マスタースタンパ1(第1a図)を製造した。このスタンパは、ニッケルからなり、そして、図示されるように、複製されるべき光ディスクのプリグルーブパターンに対応するパターンを表面に有した。
マザースタンパの製造:
得られたマスタースタンパ1上にアクリル系2P樹脂:SA1002(前出)2を塗布し(第1b図)、さらに、この2P樹脂がウエットのうちに、シランカップリング剤で表面処理したガラス基板3を密着させ、そして矢印で示されるように基板側から紫外線を照射することによって2P樹脂を硬化させた(第1c図)。硬化2P樹脂層2及びガラス基板3の一体化物をマスタースタンパ1から剥離したところ、マザースタンパ11が得られた(第1d図)。このマザースタンパは、1枚のマスタースタンパを繰り返し使用して、都合1000枚以上の多量で得ることができた。
最終的スタンパの製造:
上記のようにして製造したマザースタンパ11の1枚に先ずニッケル電極膜4を真空蒸着により膜厚40nmで形成した(第1e図)。次いで、このニッケル電極膜4上にニッケル5を電鋳によりメッキした(第1f図)。得られた一体化物からマザースタンパ11を剥離したところ、第1g図に断面で示されるような最終的スタンパ21が得られた。」(3頁右上欄15行?同頁右下欄6行)

(6)「例 2
前記例1に記載の手法に従いマスタースタンパ及びマザースタンパを製造した。但し、本例のマザースタンパ30(第2a図)は、以下に説明する保護膜形成時の寸法増大を考慮して、ガラス基板13上の2P樹脂層12の寸法を保護膜の膜厚分だけ小さくした。このマザースタンパ30に、それを最終的スタンパの製造に繰り返し使用可能ならしめるため、ニッケル保護膜6を真空蒸着により膜厚300Åで形成した。第2b図に断面で示されるようなニッケル保護膜付きのマザースタンパ31が得られた。このようにして得られたスタンパの表面を、次に形成するニッケル電極膜3からの剥離性を向上させるため、O_(2)分圧2.3×10^(-2)Torr、出力200Wのプラズマで酸化処理した。
最終的スタンパの製造:
上記のようにして製造した保護膜付きのマザースタンパ31の1枚に先ずニッケル電極膜14を真空蒸着により膜厚300Åで形成した(第2c図)。次いで、このニッケル電極膜14上にニッケル15を電鋳によりメッキした(第2d図)。得られた一体化物からマザースタンパ31を剥離したところ、第2e図に断面で示されるような最終的スタンパ41が得られた。引き続いて、同じ保護膜付きのマザースタンパ31を用いて上記と同様の電極膜形成、電鋳を繰り返したところ、1枚のマザースタンパから合計5枚の最終的スタンパを製造することができた。」(3頁右下欄13行?4頁左上欄20行)

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「複製しようとする光ディスクの原盤から最終的スタンパ(レプリカ製作用スタンパ)を製造する方法であって、
ガラス基板上のレジスト膜のパターニングによってレジスト原盤を製造した後、
前記原盤の表面にニッケル等の電極膜を形成し、次いでこの膜の上にニッケルを電鋳することによって複製されるべき光ディスクのプリグルーブパターンに対応するパターンを表面に有するマスタースタンパを製造し、
前記マスタースタンパ上に2P樹脂と呼ばれている光重合性樹脂材料を塗布し、この2P樹脂がウエットのうちにガラス基板を密着させ、基板側から紫外線を照射することによって前記2P樹脂を硬化させ、硬化2P樹脂層及びガラス基板の一体化物を前記マスタースタンパから剥離することによってマザースタンパを製造し、このマザースタンパは1枚のマスタースタンパを繰り返し使用して多数枚得られ、
前記マザースタンパの1枚に、それを最終的スタンパの製造に繰り返し使用可能ならしめるため、その表面に予め酸化処理したニッケル保護膜を形成し、次いでこの保護膜付きのマザースタンパにニッケル電極膜を形成し、このニッケル電極膜上にニッケルを電鋳によりメッキして得られた一体化物から前記マザースタンパを剥離することによって最終的スタンパを製造し、引き続いて、同じ保護膜付きのマザースタンパを用いて同様の電極膜形成、電鋳を繰り返して、1枚のマザースタンパから複数枚の最終的スタンパを得るようにしたスタンパの製法。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明における「(レジスト)原盤」は、本願発明における「マスターディスク」に相当し、引用発明における「ガラス基板上のレジスト膜のパターニングによってレジスト原盤を製造し」は、本願発明における「マスターディスクを記録するステップ」に相当する。

(2)引用発明における「マスタースタンパ」、「電鋳」は、それぞれ本願発明における「第1世代スタンパ」、「電気メッキ」に相当する。
したがって、引用発明における「前記原盤の表面にニッケル等の電極膜を形成し、次いでこの膜の上にニッケルを電鋳することによって複製されるべき光ディスクのプリグルーブパターンに対応するパターンを表面に有するマスタースタンパを製造し」は、電鋳プロセスによって原盤からマスタースタンパを製造することに他ならず、本願発明における「電気メッキプロセスを利用して前記マスターディスクから第1世代スタンパを製造するステップ」に相当する。
また、引用発明における「マスタースタンパ」が「複製されるべき光ディスクのプリグルーブパターンに対応するパターンを表面に有する」ことは、本願発明における「前記第1世代スタンパが情報表面を含み」に相当する。

(3)引用発明における「マザースタンパ」、「ガラス基板」、光重合性樹脂材料である「2P樹脂」、「硬化2P樹脂層及びガラス基板の一体化物」は、それぞれ本願発明における「第2世代スタンパ」、「構造層」、「感光性重合体(層)」、「感光性重合体/構造層アセンブリ」に相当する。
そして、引用発明における「前記マスタースタンパ上に2P樹脂と呼ばれている光重合性樹脂材料を塗布し、この2P樹脂がウエットのうちにガラス基板を密着させ、基板側から紫外線を照射することによって前記2P樹脂を硬化させ、硬化2P樹脂層及びガラス基板の一体化物を前記マスタースタンパから剥離することによってマザースタンパを製造し、」は、光重合性樹脂材料である2P樹脂を紫外線の照射によって硬化、すなわち光重合させるプロセスを用いてマスタースタンパからマザースタンパを製造することに他ならないから、「光重合プロセスを利用して第1世代スタンパから第2世代スタンパを製造するステップ」である点で本願発明と共通するとともに、
引用発明における上記「前記マスタースタンパ上に2P樹脂と呼ばれている光重合性樹脂材料を塗布し、この2P樹脂がウエットのうちにガラス基板を密着させ」によれば、2P樹脂はマスタースタンパとガラス基板との間に層状に設けられることは明らかであり、これら2P樹脂及びガラス基板等は密着して一体化されるものであるから、「第1世代スタンパと構造層との間に感光性重合体層を配置して、感光性重合体/構造層を形成するステップ」である点で本願発明と共通し、さらに引用発明における上記「基板側から紫外線を照射することによって前記2P樹脂を硬化させ」は、本願発明における「感光性重合体層を紫外線源で硬化させるステップ」に相当し、引用発明における上記「硬化2P樹脂層及びガラス基板の一体化物を前記マスタースタンパから剥離することによってマザースタンパを製造し」は、逆に言えばマスタースタンパを硬化2P樹脂層及びガラス基板の一体化物から剥離することに他ならないから、本願発明における「第1世代スタンパを感光性重合体/構造層アセンブリから分離するステップ」に相当する。

(4)引用発明における「最終的スタンパ」、「ニッケル電極膜」、ニッケル電極膜上に電鋳によりメッキされる「ニッケル」、ニッケル電極膜上にニッケルをメッキして得られた「一体化物」は、それぞれ本願発明における「第3世代スタンパ」、「第1金属層」、「第2金属層」、「スタンパアセンブリ」に相当する。
そして、引用発明における「前記マザースタンパの1枚に、それを最終的スタンパの製造に繰り返し使用可能ならしめるため、その表面に予め酸化処理したニッケル保護膜を形成し、次いでこの保護膜付きのマザースタンパにニッケル電極膜を形成し、このニッケル電極膜上にニッケルを電鋳によりメッキして得られた一体化物から前記マザースタンパを剥離することによって最終的スタンパを製造し」は、電鋳プロセスによってマザースタンパから最終的スタンパを製造することに他ならず、本願発明における「電気メッキプロセスを利用して前記第2世代スタンパから第3世代スタンパを製造するステップ」に相当するとともに、
引用発明における上記「前記マザースタンパの1枚に、それを最終的スタンパの製造に繰り返し使用可能ならしめるため、その表面に予め酸化処理したニッケル保護膜を形成し、次いでこの保護膜付きのマザースタンパにニッケル電極膜を形成し」は、「前記感光性重合体層[を含む層]を第1金属層で被覆するステップ」である点で本願発明と共通し、さらに引用発明における上記「このニッケル電極膜上にニッケルを電鋳によりメッキして得られた一体化物から前記マザースタンパを剥離することによって最終的スタンパを製造し」は、一体化物からマザースタンパを剥離することが、第3世代スタンパを構成するニッケル電極膜(及びメッキされたニッケル)をマザースタンパを構成する感光性重合体層等から剥離することを意味するといえるから、「第1金属層を第2金属層で被覆してスタンパアセンブリを形成し、第1金属層を感光性重合体層[を含む層]から分離して第3世代スタンパを形成するステップ」である点で本願発明と共通する。

(5)引用発明における「・・一体化物から前記マザースタンパを剥離することによって最終的スタンパを製造し、引き続いて、同じ保護膜付きのマザースタンパを用いて同様の電極膜形成、電鋳を繰り返して、1枚のマザースタンパから複数枚の最終的スタンパを得るようにした」は、結局、一体化物からマザースタンパの剥離、すなわち一体化物から最終的スタンパを構成するニッケル金属膜及びメッキされたニッケルの剥離が、1枚のマザースタンパから複数枚の最終的スタンパを製造できるようにマザースタンパに対して非破壊的に行われることを意味するから、本願発明における「スタンパアセンブリから第1および第2金属層の上記分離は、第2世代スタンパが他の第3世代スタンパを作るのにも使用できるように、すなわち第2世代スタンパに対して非破壊的に行われる」に相当する。

(6)そして最後に、引用発明における「複製しようとする光ディスクの原盤から最終的スタンパ(レプリカ製作用スタンパ)を製造する方法」は、原盤からマスタースタンパを製造するステップ、マスタースタンパからマザースタンパを製造するステップ、及びマザースタンパから最終的スタンパを製造するステップの3つのプロセスを用いることによって「マザースタンパは1枚のマスタースタンパを繰り返し使用して多数枚得られ」、さらには「1枚のマザースタンパから複数枚の最終的スタンパを得る」ものであるから、本願発明における「第3世代プロセスを利用して1つのマスターから複数の光ディスクスタンパを製造する方法」に相当することは明らかである。

よって、本願発明と引用発明とは、
「第3世代プロセスを利用して1つのマスターから複数の光ディスクスタンパを製造する方法であって、
マスターディスクを記録するステップと、
電気メッキプロセスを利用して前記マスターディスクから第1世代スタンパを製造するステップと、
光重合プロセスを利用して第1世代スタンパから第2世代スタンパを製造するステップと、
電気メッキプロセスを利用して前記第2世代スタンパから第3世代スタンパを製造するステップと、を具備していて、
前記第1世代スタンパが情報表面を含み、さらに前記第2世代スタンパを製造するステップが、
第1世代スタンパと構造層との間に感光性重合体層を配置して、感光性重合体/構造層を形成するステップと、
感光性重合体層を紫外線源で硬化させるステップと、
第1世代スタンパを感光性重合体/構造層アセンブリから分離するステップと、をさらに具備していて、
前記第2世代スタンパから第3世代スタンパを製造するステップが、
前記感光性重合体層[を含む層]を第1金属層で被覆するステップと、
第1金属層を第2金属層で被覆してスタンパアセンブリを形成し、第1金属層を感光性重合体層[を含む層]から分離して第3世代スタンパを形成するステップと、をさらに具備し、
スタンパアセンブリから第1および第2金属層の上記分離は、第2世代スタンパが他の第3世代スタンパを作るのにも使用できるように、すなわち第2世代スタンパに対して非破壊的に行われる、方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
光重合プロセスを利用して第1世代スタンパから第2世代スタンパを製造するステップのうち、第1世代スタンパと構造層との間に感光性重合体層を配置して、感光性重合体/構造層を形成するステップが、本願発明では「ローリングビードプロセスを利用」するものであるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。

[相違点2]
感光性重合体層を含む層の第1金属層による被覆が、本願発明では感光性重合体層を被覆する、すなわち感光性重合体層「の表面」を「直接」被覆するものと解されるのに対し、引用発明では感光性重合体層の表面に形成されたニッケル保護膜を介して被覆するものであり、感光性重合体層を含む層からの第1金属層の分離が、本願発明では感光性重合体層から分離される、すなわち感光性重合体層「の表面」から「直接」分離されるものであると解されるのに対し、引用発明では感光性重合体層の表面に形成されたニッケル保護膜から分離されるものである点。

5.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
スタンパと構造層との間に感光性重合体層を配置し、感光性重合体/構造層を形成するに際して、感光性重合体層をスタンパと構造層との間に均一に塗布するための方法として、スタンパと構造層との間に感光性重合体を投入し、構造層上でローラ部材を転がす、いわゆる「ローリングビードプロセス」は、例えば拒絶査定時に提示した特開平3-225643号公報(特に4頁右下欄9?16行の「次いで、スタンパ(10)と重ね合わされたガラス基板(6)は、スタンパホルダ(11)を移動することにより第2図Dに示すようにローラ(12)で圧着され、前記紫外線硬化樹脂(9)を挟んでスタンパ(10)と密着することになる。この段階では前記紫外線硬化樹脂(9)が液状で、しかも前述の通り適度な粘同形有することから、スタンパ(10)の微細な凹凸パターン内に均一に隙間無く入り込む。」なる記載を参照)、さらには特開平2-203444号公報(2頁左下欄7?18行、第2図)、特表昭57-500017号公報(4頁右上欄12行?同頁左下欄8行、第2図、第3図)に記載されているように周知のプロセスであり、引用発明においても、マスタースタンパとガラス基板との間に2P樹脂(光重合性樹脂材料)を塗布するに際し、かかる周知のローリングビードプロセスを利用するようにすることは当業者であれば容易になし得ることである。

[相違点2]について
引用例には「・・マザースタンパは、さらに、前記マスタースタンパの製造と同様、電鋳を利用して最終的にスタンパ(ここではレプリカ複製用スタンパとも呼ぶ)を製造するのに使用することができる。なお、この場合、1枚のマザースタンパから1枚の最終的スタンパしか得られないのが一般的であるので、最終的スタンパを多量に得たい場合にはマザースタンパの表面に予め保護膜を形成しておくことが推奨される。」と記載(前記「3.(4)」参照)されているように、引用発明におけるニッケル保護膜は、1枚のマザースタンパからより複数枚の最終的スタンパを繰り返し製造したい場合に、硬化2P樹脂層とニッケル電極膜との間の剥離性向上のために追加の工程によって設けられるものであるところ、かかる追加の工程を省いても製造される最終的スタンパの数は低下するものの少なくとも2枚以上製造可能な場合にあっては、わざわざ工程を追加することなく当該ニッケル保護膜を設けることを省略すること、すなわち、硬化2P樹脂層の表面に直接ニッケル電極膜を被覆し、また、硬化2P樹脂層の表面から直接ニッケル電極膜を分離するものとすることも当業者が適宜なし得ることである。
なお、さらに付言しておくと、引用例に例1として記載されたプロセスは、「第2世代スタンパから第3世代スタンパを製造するステップが、感光性重合体層を第1金属層で被覆するステップと、第1金属層を第2金属層で被覆してスタンパアセンブリを形成し、第1金属層(及び第2金属層)を感光性重合体層から分離して第3世代スタンパを形成するステップと」を備え、引用例には、前記「3.(4)」の摘記事項に「なお、この場合、・・・推奨される。」と記載されていることからすると、前記のとおり、複数の第3世代スタンパが製造可能であれば、ニッケル保護膜を省略することが強く示唆されているといえる。一方、本願発明においても、このようなニッケル保護膜を省略しても複数の第3世代スタンパを作ることができるようにするための格別の手段が特定されているわけではなく、単に「スタンパアセンブリから第1および第2金属層の上記分離は、第2世代スタンパが他の第3世代スタンパを作るのにも使用できるように、すなわち第2世代スタンパに対して非破壊的に行われる」と、要するに、ニッケル保護膜を形成せずに複数の第3世代スタンパを製造すると特定されているにすぎないのであるから、そのようなプロセスが可能であれば、例1のように、ニッケル保護膜の形成を省略するプロセスを採用し得ることは自明である。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても本願発明が奏する効果は、引用発明及び周知の技術事項から当業者が十分に予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項7に係る発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-27 
結審通知日 2011-01-04 
審決日 2011-01-17 
出願番号 特願2000-542767(P2000-542767)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 達也蔵野 雅昭  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 井上 信一
月野 洋一郎
発明の名称 1つのマスターからの多数のデータ記憶ディスクスタンパの製法  
代理人 前田 厚司  
代理人 田中 光雄  
代理人 山崎 宏  

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