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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1237826
審判番号 不服2010-17661  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-06 
確定日 2011-06-01 
事件の表示 特願2004-242771号「回転部材の結合構造、及び、真空ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年3月2日出願公開、特開2006-57805号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成16年8月23日の出願であって、平成22年5月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年8月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、明細書及び特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。

II.平成22年8月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年8月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、平成21年10月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載、
「【請求項1】
高速回転する第1回転部材と第2回転部材とを結合する回転部材の結合構造であって、
前記第1回転部材に形成された、回転軸を中心軸とする円柱状の第1突出部と、
前記第2回転部材に形成された、前記第1突出部と係合する凹部と、
を備え、
前記第1突出部は、当該突出部の外径に対する軸方向の長さの比が0.5未満であり、
高速回転時における前記第1突出部の外周壁の半径方向に広がる変形量をδDs、前記凹部の内周壁の半径方向に広がる変形量をδDhとした場合、
前記凹部は、
(式1)δDs>δDh
を満たす範囲で形成されていることを特徴とする回転部材の結合構造。
【請求項2】
前記第1突出部は、所定の内径を有する中空円柱状であることを特徴とする請求項1記載の回転部材の結合構造。
【請求項3】
前記第1回転部材は、高速回転時における半径方向の変形率が前記第2回転部材より大きい部材で形成されていることを特徴とする請求項1記載の回転部材の結合構造。
【請求項4】
初期状態において、前記第1突出部の外周壁と前記凹部の内周壁との間に隙間δLが、
(式2)δL<δDs-δDh
を満たす範囲で形成されていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の回転部材の結合構造。
【請求項5】
前記第1回転部材および前記第2回転部材は、真空ポンプに備えられた回転体を構成する部材であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1の請求項に記載の回転部材の結合構造。
【請求項6】
前記第1回転部材は、ロータ部を構成する部材であり、
前記第2回転部材は、回転軸を構成する部材であることを特徴とする請求項5記載の回転部材の結合構造。
【請求項7】
前記真空ポンプは、ターボ分子ポンプ部およびネジ溝ポンプ部を備えた複合型真空ポンプであり、
前記第1回転部材は、前記ネジ溝ポンプ部におけるロータ部を構成する部材であり、
前記第2回転部材は、前記ターボ分子ポンプ部におけるロータ部を構成する部材であることを特徴とする請求項5記載の回転部材の結合構造。
【請求項8】
真空ポンプの回転体を構成する第3回転部材と第4回転部材とを結合する回転体の結合構造であって、
前記第3回転部材と前記第4回転部材との結合部に介在し、前記第3回転部材および前記第4回転部材の両方向に突出する、回転軸を中心軸とする円柱状の第2突出部を有する締結部材と、
前記第3回転部材および前記第4回転部材に形成された、前記第2突出部と係合し、当該真空ポンプの運転時における内周壁の半径方向に広がる変形量が前記第2突出部の外周壁の半径方向に広がる変形量よりも小さく形成された第2凹部と、
を備え、
前記第2突出部は、当該突出部の外径に対する軸方向の長さの比が0.5未満であることを特徴とする回転部材の結合構造。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の回転部材の結合構造を備えたことを特徴とする真空ポンプ。」を、
「【請求項1】
高速回転する第1回転部材と第2回転部材とを結合する回転部材の結合構造であって、
前記第1回転部材に形成された、回転軸を中心軸とする円柱状の第1突出部と、
前記第2回転部材に形成された、前記第1突出部と係合する凹部と、
を備え、
高速回転時における前記第1突出部の外周壁の半径方向に広がる変形量をδDs、前記凹部の内周壁の半径方向に広がる変形量をδDhとした場合、
前記凹部は、
(式1)δDs>δDh
を満たす範囲で形成されており、
且つ、前記第1回転部材に形成された前記第1突出部の高さを、前記第2回転部材に形成された前記凹部の深さより大きくすることで、前記第1回転部材と前記第2回転部材の間に軸方向の隙間を形成していることを特徴とする回転部材の結合構造。
【請求項2】
前記第1突出部は、所定の内径を有する中空円柱状であることを特徴とする請求項1記載の回転部材の結合構造。
【請求項3】
前記第1回転部材は、高速回転時における半径方向の変形率が前記第2回転部材より大きい部材で形成されていることを特徴とする請求項1記載の回転部材の結合構造。
【請求項4】
初期状態において、前記第1突出部の外周壁と前記凹部の内周壁との間に隙間δLが、(式2)δL<δDs-δDh
を満たす範囲で形成されていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の回転部材の結合構造。
【請求項5】
前記第1回転部材および前記第2回転部材は、真空ポンプに備えられた回転体を構成する部材であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1の請求項に記載の回転部材の結合構造。
【請求項6】
前記第1回転部材は、ロータ部を構成する部材であり、
前記第2回転部材は、回転軸を構成する部材であることを特徴とする請求項5記載の回転部材の結合構造。
【請求項7】
前記真空ポンプは、ターボ分子ポンプ部およびネジ溝ポンプ部を備えた複合型真空ポンプであり、
前記第1回転部材は、前記ネジ溝ポンプ部におけるロータ部を構成する部材であり、
前記第2回転部材は、前記ターボ分子ポンプ部におけるロータ部を構成する部材であることを特徴とする請求項5記載の回転部材の結合構造。
【請求項8】
真空ポンプの回転体を構成する第3回転部材と第4回転部材とを結合する回転体の結合構造であって、
前記第3回転部材と前記第4回転部材との結合部に介在し、前記第3回転部材および前記第4回転部材の両方向に突出する、回転軸を中心軸とする円柱状の第2突出部を有する締結部材と、
前記第3回転部材および前記第4回転部材に形成された、前記第2突出部と係合し、当該真空ポンプの運転時における内周壁の半径方向に広がる変形量が前記第2突出部の外周壁の半径方向に広がる変形量よりも小さく形成された第2凹部と、
を備え、
前記締結部材の前記第2突出部の軸方向の高さと、前記第3回転部材および前記第4回転部材に形成された前記第2凹部の深さとに差を設けることで、前記第3回転部材と前記締結部材、および前記締結部材と前記第4回転部材の間に軸方向の隙間を形成していることを特徴とする回転部材の結合構造。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の回転部材の結合構造を備えたことを特徴とする真空ポンプ。」と補正することを含むものである。(下線は、補正箇所を示すために当審において付したものである。)

2.補正の目的
上記補正後の請求項1及び請求項8は、それぞれ補正前の請求項1及び請求項8を補正したものである。しかしながら、上記補正により、補正後の請求項1は、補正前の請求項1に記載されていた発明特定事項である「前記第1突出部は、当該突出部の外径に対する軸方向の長さの比が0.5未満であり、」との事項を含まないものとなり、また、補正後の請求項8は、補正前の請求項8に記載されていた発明特定事項である「前記第2突出部は、当該突出部の外径に対する軸方向の長さの比が0.5未満である」との事項を含まないものとなったので、上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。また、上記補正は、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、本件補正が、仮に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、かつ新規事項を追加するものではないとしても、補正後の請求項1に記載された発明は、下記3.の理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.独立特許要件
仮に、本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、かつ、新規事項を追加するものでないとした場合、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3-1.引用例の記載事項
[引用例1]
本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-156518号公報(以下、「引用例1」という。)には、「ターボ分子ポンプおよびそのロータ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記構成のロータ101を有するターボ分子ポンプに対して過大な振動や内部での異常状態が生じると、次のような過程を経てロータは破壊する。
複数のボルト104が破断した後、動翼体102は、凸部102bがテーパ穴103bに嵌合した状態でシャフト部103に対して保持される。しかし、最終的にはこの嵌合状態が保持されずに、動翼体102は、嵌合部分がテーパ状となっているので、テーパ状の斜面に沿って斜め上方に飛び出すことになる。
また、動翼体102とシャフト部103との嵌合状態が強固に固定されている場合であっても、動翼体102の遠心力によって凸部102bが剪断されて破断することになる。
このように動翼体102がシャフト部103から切り離されて飛び出すと、ターボ分子ポンプのロータ101の周囲に配置された各機器に損傷を与えてしまうという問題があった。
一方、上記従来のターボ分子ポンプのロータ101は、動翼体102とシャフト部103との芯出しを行うために、凸部102bおよびテーパ穴103bがテーパ状となっている。また、芯出しという機能を達成することを考慮すれば、凸部102の径が大きくなればそれだけ遠心力による変形が増大するので、凸部の径はなるべく小さくすることが技術常識といえる。
このように、上記従来のターボ分子ポンプのロータ101は、破壊時において他の機器に与える損傷を抑えるためにどのように凸部102を形成するかという考慮がなされていない。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、過大な振動や内部での異常状態によってロータが破壊を起こしたとしても、周囲の機器に対する被害を抑えるターボ分子ポンプおよびそのロータを提供することを目的とする。」
イ.「【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、次のような構成を採用する。
すなわち本発明に係る請求項1記載のターボ分子ポンプのロータは、軸線方向に突出する凸部を有する中央部と該中央部の外周側に一体に設けられた動翼とを有する動翼体と、前記中央部の前記凸部が挿入される凹部が先端部に形成された回転軸体と、を備えたターボ分子ポンプのロータにおいて、前記凸部は、前記軸線に対して平行な側面を有し、前記回転軸体の外径に対する前記凸部の外径の比が0.4以上とされ、前記凸部の外径に対する前記凸部の軸線方向長さの比が0.5以上とされていることを特徴とする。
【0007】
凸部の側面を軸線に対して平行としたことにより、動翼体すなわち凸部に遠心力が加わったとしても、遠心力による分力が平行な側面に沿って形成されることはない。したがって、遠心力によって凸部ひいては動翼体が回転軸体の凹部に沿って移動して飛び出すことがない。なお、凸部の側面を軸線に対して平行にする形状としては、円柱状が好ましい。ただし、円柱状に限定されるわけではなく、角柱であっても構わない。
また、回転軸体の外径に対する凸部の外径の比を0.4以上として、凸部を太くした。これにより、仮に凸部が動翼体に加わる遠心力による剪断力によって破断されるとしても、太い分だけ破断時のエネルギを消費することになる。したがって、破断後に動翼体が回転軸体から分離して飛び出したとしても、他の機器に与える損傷を最小限に抑えることができる。なお、回転軸体の外径に対する凸部の外径の比は、好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.6以上である。
また、凸部の外径に対する凸部の軸線方向長さの比を0.5以上として、凸部を長くした。これにより、回転軸体の凹部に対して凸部が接触する領域が拡大するので、これら凹部と凸部摩擦力が増大することとなる。なお、凸部の外径に対する凸部の軸線方向長さの比は、好ましくは0.6以上である。」
ウ.「【0014】
ロータ2は、動翼体4と、シャフト部(回転軸体)6とを備えている。
動翼体4は、動翼4Aと、円盤部(中央部)4Bと、凸部4Cと、ねじ溝部4Dとを備えている。円盤部4Bには、動翼体4の軸線方向にシャフト部6側へと突出する凸部4Cが設けられている。円盤部4Bの外周側には、動翼4Aが円盤部4Bと一体に多段状に設けられている。また、動翼体4下部の外側部分にはねじ溝が切ってあり、ねじ溝部4Dが形成されている。また、動翼体4は比重が軽いアルミ合金によって形成されており、その比重は2.8とされている。
動翼体4の中央には、軸方向に貫く貫通孔4Eが設けられている。
【0015】
シャフト部6は、上部のフランジ部(先端部)6Aと、主軸6Bと、下部のスラストディスク6Cとを備えている。フランジ部6Aには凹部6Dが設けられており、凹部6Dにはロータの凸部4Cが嵌合して動翼体4とシャフト部6とが締結されている。また、凹部6Dと凸部4Cによる嵌合部の周囲において、複数のボルト7によっても動翼体4と、シャフト部6と、が締結されている。シャフト部6はステンレスにより形成されており、その比重は8とされている。シャフト部6上端の中央からは、動翼体4の貫通孔4Eに続く穿孔6Eが設けられている。動翼体4Aに設けられた貫通孔4Eと、シャフト部6に設けられた穿孔6Eとによって連続した孔が形成されている。貫通孔4Eと穿孔6Eとは、それぞれ動翼体4とシャフト部6の中心軸線に沿って形成されている。動翼体4の凸部4Cとシャフト部6の凹部6Dとの嵌合部分は、それぞれが抜け難いようにするために、テーパ状ではなく、凸部4Cの側面が平行となる円柱状とされている。凸部4Cの側面が平行とされているので、動翼体4の遠心力の分力が軸方向に存在しないために動翼体4が抜け難い。
【0016】
凸部4C及び凹部6Dによる嵌合部においては、シャフト部6の外径に対する凸部4Cの外径の比が0.4以上とされている。また、凸部の外径に対する凸部4Cの軸方向長さの比は0.5以上とされている。」
エ.「【0019】
上記のように構成されたターボ分子ポンプを作動させると、スラスト磁気軸受21と、上部ラジアル磁気軸受17と、下部ラジアル磁気軸受18と、に通電し、ロータ2を軸中心に浮上させた状態でモータ19を回転させ、ロータ2を10000?100000rpmで高速回転させる。ロータ2を回転させると、ガス吸気口13からガスが吸気される。ガスが吸気されてガス吸気口13側が高真空状態になると、ガスの粒子は動翼4Aの回転により下方向の速度を与えられる。」
オ.「【0021】
ターボ分子ポンプ1の運転時において、許容値を超える過大振動や内部での異常状態によって大きな運動エネルギを持った動翼体4が破壊されると、動翼体4の破片は外に飛び出そうとする。しかし、動翼4Aは比重が軽い材料によって形成されており、破片も小さくなるためにさほど大きな運動エネルギは放出しない。しかし、動翼体4の円盤部分4Bは、比較的大きな質量を持っている。そのため、動翼体4の円盤部分4Bが飛び出して運動エネルギを放出すると、周囲の機器に対して大きく損傷させることが予想される。しかし、動翼体4の凸部4C及びシャフト部6の凹部6Dが大きくかつ深く嵌合しているために、ロータ4が飛び出し難い。
【0022】
また、飛び出したとしても、凸部4Cと凹部6Dとによる嵌合部が抜けるまでに運動エネルギが動翼体4の凸部4Cとシャフト部の凹部6Dとの間の摩擦エネルギに変わって消費されるので運動エネルギが放出されずに済み、周囲の機器に対してダメージを与えない。また、動翼体4の凸部4Cと、シャフト部6の凹部6Dと、の嵌合部分の径が大きいために、凸部4Cが動翼体4に加わる遠心力による剪断力によって破断されるとしても、太い分だけ破断時のエネルギを消費することになるので、破断後に動翼体が回転軸体から分離して飛び出したとしても、エネルギの放出量が抑えられ、他の機器に与える損傷を最小限に抑えることができる。また、凸部4Cの径が大きいために凸部4Cの強度が確保されて、動翼体の凸部4Cが破壊して動翼体4の円盤部分4Bが飛び出すことが抑えられる。」
カ.「【0024】
動翼体4の中心には動翼体4を軸方向に貫く貫通孔4Eが設けられ、シャフト部6の中心には穿孔6Eが設けられている。これにより、組立て時に予めシャフト部6の穿孔6Eに仮軸を嵌入させ、シャフト部に対して仮軸を固定する。それから、仮軸にロータの貫通孔を上から嵌入させることで、ロータの位置決めが容易に行われる。また、ターボ分子ポンプ1を組み立てた後の貫通孔4E及び穿孔6Eは、仮軸が抜かれた後にロータ2の軽量化に寄与する。ロータ2が軽量化されるために、回転性能が向上し最大回転数も向上する。」
キ.図1には、動翼体4の凸部4Cをシャフト部6の凹部6Dに嵌合し、ボルト7で締結して動翼体4とシャフト部6とを結合したロータ4の結合構造が図示されている。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「高速回転する動翼体4とシャフト部6とを結合するロータ2の結合構造であって、
前記動翼体4に形成された、回転軸を中心軸とする円柱状の凸部4Cと、
前記シャフト部6に形成された、前記凸部4Cと係合する凹部6Dと、
を備えているロータ2の結合構造。」

[引用例2]
同じく本願の出願前に頒布された刊行物である特表平8-500299号公報(以下、「引用例2」という。)には、「高速回転用カップリング装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ク.「一般にソリッドなシャンクが回転されると、シャフトの中に遠心力が発生し、シャフトの中心軸から外側にシャンクの放射方向への膨張を起させる傾向がある。部材に対する遠心力は回転軸からの部材又は部材の部分の距離のような要素に依存する。ソリッドなシャフトにおいてはシャフト材料はシャフトの放射方向の膨張を制限するように働く。しかし乍ら、貫通する孔をもつシャフトにおいては、シャフトの外側部分は依然遠心力を受けるが膨張を制限する材料は少ない。この理由で回転によって起された遠心力に曝されると、貫通孔をもつシャフトの放射方向の膨張はソリッドなシャフトの膨張よりも大きいであろう。
この議論を通して、放射方向の膨張の剛性又は膨張剛性とは長手方向軸の部材のまわりの回転に曝された時に放射方向に膨張する部材の傾向を記述するために用いられる。この放射方向の膨張の剛性は部材の質量、部材の幾何学的な構成、部材の材料の剛性及び部材の回転速度の関数である。」(8ページ25行?9ページ8行)
ケ.「この発明の利点は如何なる回転速度においても得られるがカップリング装置は毎分5.000回転及びそれ以上の回転速度のような高速回転で用いられることが好ましい。
第2図及び第3図に立ち戻ると、シャンク112とヘッド130の相対位置に依存して、第1の長手方向軸114ば第2の長手方向軸131からdの量だけオフセットしている。
捕捉されるスリーブ136は捕捉するカラー120の空洞の中に挿入されるので、シャンク112とヘッド130が回転されると、このオフセットはカラー120の中のスリーブ136の相対的位置によって制限される。更にスリーブ136の構成のために、捕捉されたスリーブ136は回転されると、捕捉するカラーよりも大きい比率で放射方向に膨張する。この理由でオフセットdがスリーブ136とカラー120の間に制限されるのみならず、捕捉されるスリーブ136は、回転速度が増加すると、捕捉するカラー120の中で放射方向に膨張される傾向がある。このようにして、スリーブ136は本質的に空洞124の中でカラー120の方に膨張し、2つの部品の間のクリアランスを減少し、若しスリーブ136がカラー120に接触すると、オフセットdを減少させ、これによりスリーブ136をカラー120の中で自己センタリングさせる傾向がある。
ヘッド130をシャンク112に固定するために、ヘッド130の中に孔138があり、この孔にボルト140が挿入されて、シャンク112の中の受入れ孔142とかみ合わされる。切削インサート144はヘッド130の周辺の近くに固定されてヘッド130の前端132かた突き出ている。これらの切削インサート144は公知の技術を用いてヘッド130にろう付けされる。」(9ページ15行?10ページ9行)
コ.「第4-6図においては、本発明の1つの実施例の作動が議論されている。第4図は第2、3図において論じられたこれらの部品を代表する部品を有する概略図を示す。特に第1の部材又はシャンク112は第1の長手方向の軸114のまわりに対称である。シャンク112のベース122から捕捉するカラー120が伸びてシャンク112の中に空洞を規定している。更に第2の部材又はヘッド130は第2の長手方向の軸131のまわりに対称であって前面132と後面134とを有し、捕捉されるスリーブ136を規定している。捕捉するカラー120の内径dc1は捕捉されるスリーブ136の外径ds1よりも多少大きいので、スリーブ136はカラー120の中に挿入されることができる。この結果スリーブ136とカラー120の間にクリアランス150が存在し、更に第1の長手方向軸114と第2の長手方向軸131の間にオフセットdが存在する。」(10ページ19行?11ページ3行)
サ.「第5図は長手方向軸のまわりの回転に曝された時の第1の部材112と第2の部材130の力学を示す。
スリーブ136がそのまわりを回転する第2の長手方向軸131とヘッド130の捕捉されるスリーブ136に注目すると、このような回転は遠心力を生じてスリーブ136の壁を長手方向軸131から離れるように押し直径をds1(第4図)からds2に増加させる。第5図において、スリーブ136は抑制されないものが示されているので放射方向の膨張の量は放射方向膨張の剛性によって決定されよう。若しもスリーブ136の放射状膨張の剛性がカラー120の剛性よりも少ないならば、スリーブ136はカラー120よりも放射方向より多く膨張するので、スリーブ136は本質的にカラー120の中で大きくなる。
このような剛性の差を生じさせる1つの方法はスリーブ136の中に長手方向の孔144を導入することである。膨張剛性に差を与える第2の方法は、カラー120とスリーブ136に対して、異なった材料の剛性をもつ異なった材料を利用することであろう。従って若しもカラー120とスリーブ136が異なった材料の剛性を持つならば、且つ特にカラーがスリーブ136よりも大きい材料の剛性をもつならば、スリーブはソリッドとすることができても尚カラー120の中で膨張することができよう。このようにすれば144として示されたような孔は膨張の差を生じさせるためには必要ではなくなるであろう。この議論のためには、孔144は含めておかれる。」(11ページ4行?22行)
シ.「今、第1の部材又はシャンク112に注目すると、第1の長手方向軸114のまわりの回転に曝されると、第5図にソリッドなものとして示されているベース122は放射方向外側に膨張し、カラー120も又膨張するが、ベース122よりもその程度は大きい。カラー120はベース122に1体に付けられるので、付けられた時点でカラーはベース122によって膨張を制限される。しかし乍らシャンク112の前端116においては、カラー120はあまり制限されず従ってより大きく膨張する。長手方向軸114に沿ったカラー120の放射方向の膨張は直線的ではない。
この結果、空洞の床125に近接したカラー120の1つの極端な位置において、カラーはdc2の直径をもち、シャンク112の前端において、カラー120はdc3の直径をもつであろう。第1の部材112のベース122はソリットであるために、第4図のdc1と第5図のdc2の間の差はdc1とdc3の間の差に比較して小さいであろう。しかしスリーブ136のds2はカラー120のdc2よりも大きいであろう。示されたように第5図において議論されたシャンク112とヘッド136は、2つの部材の間に相互作用なしに膨張された状態で示されている。」(11ページ23行?12ページ10行)
ス.「第6図は2つの部材が相互作用したときの構成を示す。膨張しない状態において、スリーブ136(第4図)はその時存在するクリアランス150をもってカラー120の中に容易にはめこまれる。第6図に示されたように、スリーブ136は、その1部分がカラー120に接触する迄カラー120の中で膨張する。カラー120は空洞の床124において全体のカラーの最低量膨張するので、膨張するスリーブ136によって最初に接触されるのはこの領域である。スリーブ136の膨張はカラー120の輪郭によって制限される。このようにしてクリアランス150は減少され、恐らくはなくなって、スリーブ136とカラー120の間にしまりばめに相当するものを与える。」(12ページ11行?20行)
セ.「本発明の数学的なモデルはプロトタイプに用いられた寸法を含めて作られた。しかし乍ら第2、3及び7図に示された詳細と異なって、スリーブ136とカラー120はかみ合いのために傾斜していなかった。このようなモデルにおいて、第1部材112と第2部材130は両方ともカラー120及びスリーブ136を含めて4340鋼から作られた。第1部材112のカラー120は1.5750インチ(4.000cm)の外径と1.3780インチ(3.500cm)の内径を有し、長さは0.285インチ(0.275cm)でこの深さの空洞124を規定していた。第2の部材130のスリーブ136は1.3778インチ(3.500cm)の外径と0.827インチ(2.101cm)の内径とを有し、その長さは0.276インチ(0.701cm)であった。
このようにして、スリーブ130とカラー120の間の放射方向のクリアランスは0.0001インチ(0.0003cm)である。30.000回転/毎分のモデル速度において、スリーブはカラー120に関して0.0001インチ(0.0003cm)の量だけ膨張し、スリーブ136とカラーの間のクリアランスを除去した。特に毎分30.000回転で回転された時、スリーブ136は後端134において放射方向に0.00006インチ(0.0002cm)膨張し、一方カラー120は空洞の床125において、放射方向に0.00003インチ(0.0001cm)膨張し、カラー120の中でスリーブ136の0.00003インチ(0.0001cm)の膨張の差を与える。この時点でスリーブ136はカラー120の中で膨張したが、カラー120に均一に接触する量程ではなかった。」(14ページ16行?15ページ7行)
ソ.「第9図に注目すると、第1の部材又はシャンク112は第1の長手方向の軸114のまわりに対称であり且つ前の図の第1部材112で既に論じたものに類似の特徴を有する。しかし乍ら、第2の部材又はヘッド230は第2の長手方向軸231のまわりに対称であり且つ第2-8図に示されたような貫通する孔をもつ捕捉するスリーブ136をもつよりはむしろdの量だけオフセットしており、第2の部材230はソリッドなシャンク240に1体に付けられた捕捉されるスリーブ236を含む。前の実施例と同様にカラー120の内径dc1は捕捉されるスリーブ236の外径ds1よりも小さい。しかし第5図に示された捕捉されるスリーブ136の比較的均一な放射状の膨張とは異なって、第9図に示された捕捉されるスリーブ236はソリッドなシャンク240によって制限される。このようにして捕捉されるスリーブ236は制限され、従って第1部材112のカラー120に類似したやり方で膨張する。」(15ページ19行?16ページ2行)
タ.「第10図はこれを示し、第1部材112のカラー120は部材112の前端において放射状に膨張して直径dc3となり、一方空洞床125の領域のカラー120はより少い量膨張してdc2の直径となる。もう一度云うがこの膨張は非直線的である。捕捉されるスリーブ236がソリッドなシャンク240に1体に取付けられて、空洞242は空洞床244をもって形成される。空洞床244の反対側にスリーブ236の後面246がある。最低の回転速度においては、スリーブ236の膨張後の直径ds3は、空洞125におけるカラー120の膨張後の直径dc2よりも大きい。」(16ページ3行?10行)
チ.「第11図は第1部材112と第2部材230が互いに係合した状態を示す。第10図の議論で説明されたように2つの部材が1体となって回転すると、カラー120はスリーブ236と同様に膨張する。スリーブの後面246は空洞床125におけるカラー120よりも大きい量放射方向に膨張し、カラー120とスリーブ236の間の接触を与える。前述のように夫々の部材の放射方向膨張剛性に依存して、スリーブ236とカラー120の間の接触の量は変化するであろう。又前述したように、このような接触によって第1部材112の第1の長手方向軸114を、第2部材230の第2の長手方向軸231に向って第11図に示された軸が一致する点に追いやる傾向がある。
第9図から第11図に示された配設は、スリーブ236の長さがカラー120の長さよりも長いのでシャンク112とシャンク240は隣接しないことを示している。第10図に示された膨張の輪郭から、スリーブ236とあカラー120の長さが等しくかつシャンク112とシャンク240が隣接できたとしても、カラー120とスリーブ236の間には、ある回転速度においてスリーブ246の後面と空洞125に近いカラー120に依然として接触が起るであろう。」(16ページ11行?26行)
ツ.「ここに記載されたものは工作機械特にミリングカッターに応用されるカップリング雄値であるが、本発明は高速回転の応用に対するカップリング装置として工作機械以外の領域に応用され得ることも認められるべきである。」(18ページ12行?14行)

3-2.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、引用発明の「ロータ2」は本願補正発明の「回転部材」に相当し、以下同様に、「動翼体4」は「第1回転部材」に、「シャフト部6」は「第2回転部材」に、「凸部4C」は「第1突出部」に、「凹部6D」は「凹部」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「高速回転する第1回転部材と第2回転部材とを結合する回転部材の結合構造であって、
前記第1回転部材に形成された、回転軸を中心軸とする円柱状の第1突出部と、
前記第2回転部材に形成された、前記第1突出部と係合する凹部と、
を備えている回転部材の結合構造。」

そして、両者は次の点で相違する。
[相違点]
相違点1:本願補正発明は、「高速回転時における前記第1突出部の外周壁の半径方向に広がる変形量をδDs、前記凹部の内周壁の半径方向に広がる変形量をδDhとした場合、前記凹部は、(式1)δDs>δDhを満たす範囲で形成されて」いるのに対して、引用発明は、そのような構成を備えていない点。
相違点2:本願補正発明は、「前記第1回転部材に形成された前記第1突出部の高さを、前記第2回転部材に形成された前記凹部の深さより大きくすることで、前記第1回転部材と前記第2回転部材の間に軸方向の隙間を形成している」のに対して、引用発明は、そのような構成を備えていない点。

3-3.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明は、上述のとおり、「高速回転する動翼体4(第1回転部材)とシャフト部6(第2回転部材)とを結合するロータ2(回転部材)の結合構造であって、前記動翼体4に形成された、回転軸を中心軸とする円柱状の凸部4Cと、前記シャフト部6に形成された、前記凸部4Cと係合する凹部6Dと、を備えているロータ2の結合構造」の発明である。そして、引用例1の上記ア.及びイ.の記載によれば、引用発明は、高速回転時に遠心力によって部材の変形が増大し、凸部が凹部から飛び出してしまうという問題を解決すること、即ち結合強度を高めることを課題としているということができる。
一方、引用例2には、「スリーブ136はカラー120よりも放射方向より多く膨張するので、スリーブ136は本質的にカラー120の中で大きくなる。」(上記サ.参照)、「第6図に示されたように、スリーブ136は、その1部分がカラー120に接触する迄カラー120の中で膨張する。カラー120は空洞の床124において全体のカラーの最低量膨張するので、膨張するスリーブ136によって最初に接触されるのはこの領域である。スリーブ136の膨張はカラー120の輪郭によって制限される。このようにしてクリアランス150は減少され、恐らくはなくなって、スリーブ136とカラー120の間にしまりばめに相当するものを与える。」(上記ス.参照)と記載されており、これらの記載から明らかなように、スリーブ136の外周壁の半径方向に広がる変形量を、カラー120の内周壁の半径方向に広がる変形量よりも大きくすることが記載されていると認められる。
また、引用例2には、「カップリング装置は毎分5.000回転及びそれ以上の回転速度のような高速回転で用いられる」(上記ケ.参照)と記載され、また、「ヘッド130をシャンク112に固定するために、ヘッド130の中に孔138があり、この孔にボルト140が挿入されて、シャンク112の中の受入れ孔142とかみ合わされる。」(上記ケ.参照)と記載されていることからみて、引用例2には、高速回転するヘッド130(第1回転部材)とシャンク112(第2回転部材)とを結合するカップリング装置(回転部材の結合構造)の発明が記載されていると認められる。そして、引用例2に記載された発明は、例えば「一般にソリッドなシャンクが回転されると、シャフトの中に遠心力が発生し、シャフトの中心軸から外側にシャンクの放射方向への膨張を起させる傾向がある。」(上記ク.参照)、「スリーブ136の膨張はカラー120の輪郭によって制限される。このようにしてクリアランス150は減少され、恐らくはなくなって、スリーブ136とカラー120の間にしまりばめに相当するものを与える。」(上記ス.参照)との記載などからみて、高速回転時に遠心力によって部材の変形が増大し、結合強度を高めることができるという作用効果ないし課題を有しているということができる。
してみると、引用発明と引用例2に記載された発明とは、いずれも高速回転する第1回転部材と第2回転部材とを結合する回転部材の結合構造である点で、その発明の属する技術分野が共通し、どちらも高速回転時に遠心力によって部材の変形が増大することに伴う結合強度についての課題を有している点で共通するから、技術の適用を阻害するような事情もない。
そうすると、引用例1及び引用例2に接した当業者であれば、引用発明に引用例2に記載された発明を適用し、高速回転時における凸部4Cの外周壁の半径方向に広がる変形量を凹部6Dの内周壁の半径方向に広がる変形量よりも大きくして、相違点1に係る本願補正発明のように構成することは、格別の創意を要することなく容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
引用例2には、「第9図から第11図に示された配設は、スリーブ236の長さがカラー120の長さよりも長いのでシャンク112とシャンク240は隣接しないことを示している。」(上記チ.参照)と記載されており、シャンク240に形成されたスリーブ236の高さを、シャンク112に形成された空洞125の深さよりも大きくすることで、シャンク240とシャンク112の間に軸方向に隙間を形成している点が記載されている。そして、引用例2に記載された「シャンク240」は本願補正発明の「第1回転部材」に相当し、同じく「スリーブ236」は「第1突出部」に、「シャンク112」は「第2回転部材」に、「空洞125」は「凹部」に、それぞれ相当するから、本願補正発明の用語を用いて表現すると、引用例2には、回転部材の結合構造として「前記第1回転部材に形成された前記第1突出部の高さを、前記第2回転部材に形成された前記凹部の深さより大きくすることで、前記第1回転部材と前記第2回転部材の間に軸方向の隙間を形成している」ものが記載されていると認められる。
そして、引用発明と引用例2に記載された発明とは、高速回転する第1回転部材と第2回転部材とを結合する回転部材の結合構造である点で、技術分野が共通しており、どちらも高速回転時に遠心力によって部材の変形が増大することに伴う課題を有している点で共通する。
そうすると、引用発明において、回転部材の結合構造として引用例2に記載された上記結合構造を採用し、相違点2に係る本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び引用例2に記載された発明から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、引用例2に関して「工作機械に使用されるカップリング装置と、長時間に渡って真空状態を作り出すターボ分子ポンプとでは、そもそも技術分野の関連性が存在しません。」「引用文献2(審決注:本審決の「引用例2」を意味する。)記載の高速回転用カップリング装置は、加工に使用する時間は比較的短く、切削液で冷却されているので、熱による膨張をそもそも考慮する必要がありません。これに対して、本件発明は、長時間継続して使用されるターボ分子ポンプに係るものであり、真空中に非接触で浮上しているため、回転部に熱が溜まることが多く、高速回転による遠心力による作用ばかりでなく、熱による膨張を共に考慮しなけらばならないというターボ分子ポンプ特有の課題を解決しています。」(「(4)引用文献との比較」の項参照。)と主張する。しかしながら、特許請求の範囲の請求項1には、「ターボ分子ポンプ」に関する事項は何も記載されていないから、審判請求人の上記主張は、特許請求の範囲の請求項1の記載に基づかない主張である。
また、審判請求人は、審尋に対する平成23年1月18日付けの回答書において、「本件出願人は、『高速回転』という技術分野での関連性を肯定するためには、高速回転させる目的、高速回転の速さ、高速回転を継続させる時間などを総合的に勘案して判断するのが、審査基準の趣旨に沿うものと考えます。」と主張するとともに、「本件発明に係るターボ分子ポンプでは、真空状態を作り出し、且つその真空状態を維持するための高速回転(毎分30000回転)が必要」であるところ、「引用文献2に記載の発明は、工作機械などで用いられるカップリング装置に関するものであり、『高速回転』の目的、速さ、継続する時間が全てターボ分子ポンプと相違します。即ち、高速回転の目的は、切削加工であり、回転速度は毎分5000回転程度(明細書第9頁第16行参照)です。」と主張する。即ち、審判請求人は、本願発明の「高速回転」とは毎分30000回転程度の速さを意味するのに対して、引用例2記載の発明の「高速回転」は毎分5000回転程度であり、高速回転の速さが異なる旨主張するが、上記セ.に摘記したとおり、引用例2にも、毎分30.000回転で回転することが記載されており、本願発明と引用例2に記載された発明とでは、「高速回転」の意味が格別異なっているとはいえない。しかも、引用例2には、「本発明は高速回転の応用に対するカップリング装置として工作機械以外の領域に応用され得ることも認められるべきである。」と記載され、高速回転をするカップリング装置であればどのようなものにも適用できることが示唆されており、ターボ分子ポンプなどへの適用を阻害する理由もない。しかも、審判請求人の主張はそもそも、上述のとおり、特許請求の範囲の請求項1の記載に基づかない主張である。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

3-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成21年10月28日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「高速回転する第1回転部材と第2回転部材とを結合する回転部材の結合構造であって、
前記第1回転部材に形成された、回転軸を中心軸とする円柱状の第1突出部と、
前記第2回転部材に形成された、前記第1突出部と係合する凹部と、
を備え、
前記第1突出部は、当該突出部の外径に対する軸方向の長さの比が0.5未満であり、
高速回転時における前記第1突出部の外周壁の半径方向に広がる変形量をδDs、前記凹部の内周壁の半径方向に広がる変形量をδDhとした場合、
前記凹部は、
(式1)δDs>δDh
を満たす範囲で形成されていることを特徴とする回転部材の結合構造。」

2.引用例の記載事項
引用例1及び引用例2の記載事項並びに引用発明は、前記II.3-1.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、上記一致点で一致し、そして、上記相違点1で相違するとともに、次の相違点3で相違する。
[相違点]
相違点3:本願発明は、「前記第1突出部は、当該突出部の外径に対する軸方向の長さの比が0.5未満」であるのに対して、引用発明は、そのような構成を備えていない点。

相違点1についての判断は、上記II.3-3の「(1)相違点1について」で示したとおりであるから、相違点3について以下に検討する。
相違点3に係る「前記第1突出部は、当該突出部の外径に対する軸方向の長さの比が0.5未満」という発明特定事項に関して、本願明細書の記載を見てみると、第1突出部の長さと外径との関係について記載した箇所は明細書のどこにも見当たらない。上記発明特定事項は、平成21年10月28日付けの手続補正により追加されたものであるが、同日付けの意見書の記載によれば、「第1突出部」を「前記第1突出部は、当該突出部の外径に対する軸方向の長さの比が0.5未満であり」に限定する補正は、図1及び図3の記載に基づくものであると記載されているだけである(「3.補正の根拠について」の「(1)手続補正1(特許請求の範囲)の根拠」の項参照)。してみると、これらのことからみて、「0.5未満」という数値範囲に、格別な技術的意義や臨界的意義があるとは解されない。
一方、第1突出部の長さと外径との関係について、引用例1の記載を見てみると、「回転軸体の外径に対する凸部の外径の比を0.4以上として、凸部を太くした。これにより、仮に凸部が動翼体に加わる遠心力による剪断力によって破断されるとしても、太い分だけ破断時のエネルギを消費することになる。したがって、破断後に動翼体が回転軸体から分離して飛び出したとしても、他の機器に与える損傷を最小限に抑えることができる。」(上記イ.参照)と記載され、「凸部の外径に対する凸部の軸線方向長さの比を0.5以上として、凸部を長くした。これにより、回転軸体の凹部に対して凸部が接触する領域が拡大するので、これら凹部と凸部摩擦力が増大することとなる。」(上記イ.参照)と記載されている。これらの記載によれば、遠心力による剪断力に耐えられるようにするためには、凸部を十分に大きくすることが重要であり、また、「凸部の外径に対する凸部の軸線方向長さの比を0.5以上」とし、凸部の長さを長くする理由は、凹部と凸部の摩擦力を増大させるためであるということができる。しかし、凸部の長さと外径との比を「0.5以上」とする数値範囲については、引用例1の記載を見る限り、臨界的意義があるとは解されない。しかも、引用例2の「貫通する孔をもつシャフトにおいては、シャフトの外側部分は依然遠心力を受けるが膨張を制限する材料は少ない。この理由で回転によって起された遠心力に曝されると、貫通孔をもつシャフトの放射方向の膨張はソリッドなシャフトの膨張よりも大きいであろう。この議論を通して、放射方向の膨張の剛性又は膨張剛性とは長手方向軸の部材のまわりの回転に曝された時に放射方向に膨張する部材の傾向を記述するために用いられる。この放射方向の膨張の剛性は部材の質量、部材の幾何学的な構成、部材の材料の剛性及び部材の回転速度の関数である。」(上記ク.参照)などの記載を参酌すると、引用例1に記載された発明において、遠心力を受けている時の凸部4Cと凹部6Dの摩擦力は、両者の膨張量に影響されるものであり、その膨張量は、凸部4Cに設けられた貫通孔4Eの大きさや、凸部4Cと凹部6Dの剛性や材質などによって異なることは明らかである。そうすると、引用例1に記載された「0.5以上」という数値範囲は、凸部4Cに設けられた貫通孔4Eの大きさや、あるいは凸部4Cと凹部6Dの剛性や材質などを、ある特定の条件とした場合に成り立つ数値範囲であると推察される。しかし、上記条件を変えれば、例えば凸部4Cとして摩擦力の大きな材質を選択するなどすれば、凸部4Cと凹部6Dの摩擦力は変わり得ることからみて、引用発明において、凸部4Cの長さと外径との比を必ずしも「0.5以上」としなければならない必然性はなく、「0.5未満」とすることも可能であることは明らかであり、「0.5未満」とすることを完全に排除するものではないと解される。
してみると、引用発明において、凸部4C(第1突出部)の外径に対する軸方向の長さの比をどの程度の大きさにするかは、凸部4Cと凹部6Dの摩擦力の大きさを考慮して、当業者が適宜設定し得る設計的事項にすぎないというべきであり、その比を0.5未満となるように構成すること、即ち、相違点3に係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-05 
結審通知日 2011-04-08 
審決日 2011-04-19 
出願番号 特願2004-242771(P2004-242771)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 倉田 和博
山岸 利治
発明の名称 回転部材の結合構造、及び、真空ポンプ  
代理人 仲野 均  
代理人 川井 隆  

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