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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G09F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09F
管理番号 1238036
審判番号 不服2009-5098  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-09 
確定日 2011-06-08 
事件の表示 特願2004-525848「薄膜トランジスタ基板」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月12日国際公開、WO2004/013913、平成17年11月17日国内公表、特表2005-534974〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
国際特許出願 :平成14年 9月18日
(優先日 平成14年 8月 1日)
拒絶理由 :平成20年 6月11日(起案日)
意見及び手続補正 :平成20年 9月17日
拒絶査定 :平成20年12月 5日(起案日)
審判請求 :平成21年 3月 9日
手続補正 :平成21年 4月 7日
審尋 :平成22年 7月16日(起案日)
回答書 :平成22年10月20日

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年4月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正後の請求項1
平成21年4月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は特許請求の範囲を補正するものであるところ,本件補正後の請求項1は下記のとおりである。



絶縁基板,
前記絶縁基板上に形成され,複数のゲート線及び複数のゲート電極を含むゲート配線,
前記絶縁基板上に形成され,複数の維持電極線及び複数の維持電極を含む維持電極配線,
前記ゲート配線上に形成されているゲート絶縁層,
前記ゲート絶縁層上に形成されている半導体層,
前記ゲート絶縁層上にあって,前記ゲート線と絶縁されて交差するように形成されている複数のデータ線,少なくとも前記半導体層の一部分と接触している複数のソース電極,
前記ソース電極と対向し,少なくとも前記半導体層の他の一部分と接触している複数のドレイン電極を含むデータ配線,
前記データ配線上に形成されている保護層,
前記保護層上に形成され,前記ドレイン電極と電気的に連結されている複数の画素電極,
前記複数の画素電極,前記ゲート配線の一部,前記維持電極配線の一部及び前記データ配線の一部を含み,画像を表示する表示領域,
前記表示領域を囲む周辺領域,
前記周辺領域の第1部分に形成され,前記複数の維持電極線と電気的に連結される第1共通バー,
前記周辺領域の第2部分に形成され,前記複数の維持電極線と電気的に連結される第2共通バー,
を含み,前記第1共通バーと第2共通バーの幅は互いに異なり,前記周辺領域の第1部分は前記表示領域を介して前記周辺領域の第2部分の反対側にあることを特徴とする薄膜トランジスタ基板。

(2) 本件補正前の請求項1
他方,本件補正前の請求項1(平成20年9月17日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)は下記のとおりである。なお,当審において下線を付した。



絶縁基板,
前記絶縁基板上に形成され,ゲート線,ゲート電極,及び前記ゲート線の一端に接続されているゲートパッドを含む複数のゲート配線,
前記絶縁基板上に形成され,維持電極線及び維持電極を含む複数の維持電極配線,
前記ゲート配線及び前記維持電極配線上に形成されているゲート絶縁層,
前記ゲート絶縁層上に形成されている半導体層,
前記ゲート絶縁層上にあって,前記ゲート線と絶縁されて交差するように形成されているデータ線,前記半導体層の一部分と接触しているソース電極,前記ソース電極と対向し,前記半導体層の他の一部分と接触している複数のドレイン電極,前記データ線の一端に連結されているデータパッドを含むデータ配線,
前記データ配線上に形成されている保護層,
前記保護層上に形成され,前記ドレイン電極と電気的に連結されている画素電極,
前記保護層上に形成され,前記ゲート線を隔てて両側に位置する前記維持電極線と前記維持電極を連結する複数の維持電極連結部,
前記データ配線と前記保護層との間に形成されているカラーフィルター,
を含む薄膜トランジスタ基板。

2 本件補正についての検討
(1) 本件補正前の請求項1との比較
本件補正前の請求項1が補正され本件補正後の請求項1になったと考えて補正の適否を検討すると,以下のとおりである。
すなわち,本件補正は,本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項のうち,少なくとも,「前記ゲート線の一端に接続されているゲートパッド」,「前記データ線の一端に連結されているデータパッド」,「前記保護層上に形成され,前記ゲート線を隔てて両側に位置する前記維持電極線と前記維持電極を連結する複数の維持電極連結部」及び「前記データ配線と前記保護層との間に形成されているカラーフィルター」を削除する補正事項を含むものである。そして,これら補正事項によって本件補正前の請求項1を含む特許請求の範囲が拡張されることになることは明らかであるから,これらの補正事項は平成14年法律24号改正附則2条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2(以下単に「改正前特許法17条の2」という。)第4項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。また,これら補正事項が「請求項の削除」(1号),「誤記の訂正」(3号)及び「明りょうでない記載の釈明」(4号)のいずれにも該当しないことは明らかである。

(2) 備考
なお,本件補正前の他の請求項と本件補正後の請求項1とを比較検討しても同様である。

(3) 小括
以上のとおりであるから,本件補正は,改正前特許法17条の2第4項に違反してなされたものである。
したがって,本件補正は改正前特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明3
平成21年4月7日付の手続補正は却下されたので,本願の請求項3に係る発明(以下「本願発明3」という。)は,下記のとおりのものである。



絶縁基板,
前記絶縁基板上に横方向に長く形成されている第1信号線,
前記絶縁基板上に横方向に長く形成されている第2信号線,
前記第1及び第2信号線と絶縁されて交差し,縦方向に長く形成されている第3信号線,
前記第1信号線と前記第3信号線とが交差して定義する画素領域ごとに形成されている画素電極,
前記第1信号線,前記第3信号線,及び前記画素電極に連結されている薄膜トランジスタ,
前記薄膜トランジスタと前記画素電極との間に形成されている保護層,
前記第3信号線と前記保護層との間に形成されているカラーフィルター,
を含み,
前記第2信号線は前記画素領域ごとに形成されている連結経路を通じて互いに連結されている,薄膜トランジスタ基板。

2 引用発明1
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-194688号公報(以下「引用例1」という)には,各図とともに以下の事項が記載されている。

記載事項ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板に係わり,さらに詳しくは,維持容量を形成するために別途の独立配線を有する液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板に関するものである。」
記載事項イ 「【0002】【従来の技術】液晶表示装置は現在最も広く用いられている平板表示装置のうちの一つであり,電極が形成されている二枚の基板とその間に挿入されている液晶層からなっており,電極に電圧を印加して液晶層の液晶分子を再配列させることによって透過する光の量を調節する表示装置である。
【0003】液晶表示装置の中でも現在主に用いられるものは,二つの基板に画素電極と共通電極とが各々形成されており,画素電極に印加される電圧をスイッチングする薄膜トランジスタを有している液晶表示装置であって,薄膜トランジスタと画素電極は二つの基板のうちの一つに一緒に形成されることが一般的であり,薄膜トランジスタが形成された基板を液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板という。
【0004】このような液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板には互いに交差してマトリックス形態の画素領域を定義するゲート線とデータ線とが形成されており,ゲート線とデータ線とが交差する部分には薄膜トランジスタが形成されている。各々の画素領域には,薄膜トランジスタのスイッチング動作によってデータ線を通じて画像信号が伝達される画素電極が形成されている。
【0005】一方,このような液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板には液晶蓄電器の電荷維持能力を補助及び維持させるために維持電極線が形成されている。このような維持電極線は画素電極と絶縁膜を媒介してに重なることにより維持容量を構成する。また,維持電極線には,画素電極と対向して液晶容量を形成する他の基板に形成されている共通電極に印加される共通電圧,またはゲート線に伝達されるゲート電圧が伝達される。
【0006】しかしながら,維持電極線に伝達された電圧はデータ線に伝達される画像信号の変化に影響を受けるため,位置によって維持電極線の電圧が変動する。このため,共通電極線の電圧には,維持容量に従う抵抗による信号の歪曲が発生し,画素の液晶容量を変化させることとなる。このことにより画面が震えるフリッカー(flicker)不良またはクロストーク(crosstalk)不良などの問題点が発生する。」
記載事項ウ 「【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は,維持電極線の電圧に対する歪曲を減らすことによってフリッカーまたはクロストーク不良を最小化することである。
【0008】また,本発明の他の課題は,ゲート線及びデータ線の不良を修理することができる配線構造を有する液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板を提供することである。」
記載事項エ 「【0017】図1は本発明の第1実施例による液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板の構造を概略的に示した配線図である。
【0018】図1のように,本発明の第1実施例による液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板には横方向に多数のゲート線22が形成されており,ゲート線22と交差してマトリックス形態の画素領域を定義するデータ線62が形成されている。それぞれの画素領域にはデータ線62を通じて画像信号が伝達される画素電極82が形成されており,ゲート線22とデータ線62とが交差する部分には,ゲート線22に連結されているゲート電極24,データ線62に連結されているソース電極65及び画素電極82に連結されているドレーン電極66を含む薄膜トランジスタが形成されている。また,横方向には互いに平行して二重の維持電極線26,28が形成されており,互いに平行な維持電極線26,28はそれぞれの画素領域に縦方向に形成されている維持電極27を通じて連結されている。ここで,維持配線26,27,28は画素電極82と重なって維持容量を形成する。また,縦方向には互いに隣接した画素行の維持配線26,27,28に両端が重なっている修理用補助線68と,少なくとも互いに隣接した画素行の維持配線26,27,28を電気的に連結する維持配線連結部84が形成されている。
【0019】このような本発明の実施例による液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板の構造において,互いに隣接した維持配線26,27,28は維持配線連結部84を通じて互いに連結されているので,維持配線26,27,28を通じて伝達される維持容量用電圧の信号の歪曲を最小化させることができる。従って,クロストーク不良やフリッカー不良を最小化させることができる。」
記載事項オ 「【0024】図2は本発明の第1実施例による液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板の構造を具体的に示した配置図であり,図3は図2でIII-III´線に沿って切断して示した断面図である。
【0025】まず,絶縁基板10の上にアルミニウム(Al)またはアルミニウム合金(Al alloy),モリブデン(Mo)またはモリブデン-タングステン(MoW)合金,クロム(Cr),タンタル(Ta)などの金属または導電体で作られたゲート配線及び維持配線が形成されている。ゲート配線は横方向に延びている走査信号線またはゲート線22及びゲート線22の一部である薄膜トランジスタのゲート電極24を含み,ゲート配線はゲート線22の端部に連結されていて外部からの走査信号の印加を受けてゲート線22に伝達するゲートパッドをさらに含む構成とすることができる。そして,維持配線はゲート線22と平行して二重に形成されており,上板の共通電極に入力される共通電極電圧などの電圧を外部から印加される維持電極線26,28及び縦方向に形成されて二重の維持電極線26,28を互いに連結する維持電極27を含む。維持配線26,27,28は後述する画素電極82と重なって画素の電荷保存能力を向上させるための維持容量を形成する維持蓄電器を形成させるためのものである。
【0026】ここで,ゲート配線22,24及び維持配線26,27,28は単一層で形成することもできるが,二重層や三重層に形成することもできる。二重層以上に形成する場合には,一つの層は抵抗の小さい物質で形成し他の層は他物質,特に画素電極として用いられるITO(indium zinc oxide)との接触特性の良い物質で作ることが好ましい。なぜかというと,外部と電気的に連結されるパッド部を補強するためにパッド部は,配線用物質と画素電極用物質であるITOと一緒に形成するからである。
【0027】ゲート配線22,24及び維持配線26,27,28の上には,窒化ケイ素(SiN_(x))などからなるゲート絶縁膜30が形成されてゲート配線22,24及び維持配線26,27,28を覆っている。
【0028】ゲート絶縁膜30の上には水素化非晶質ケイ素(hydrogenated amorphous silicon)などの半導体からなる半導体パターン40が形成されており,半導体パターン40の上には,リン(P)などのn型不純物として高濃度にドーピングされている非晶質ケイ素などからなる抵抗性接触層(ohmic contact layer)パターンまたは中間層パターン55,56が形成されている。
【0029】接触層パターン55,56の上には,MoまたはMoW合金,Cr,AlまたはAl合金,Taなどの導電物質からなる薄膜トランジスタのソース及びドレーン電極65,66が各々形成されており,ゲート絶縁膜30の上部には,ソース電極65と連結されておりゲート線22と交差して画素を定義するデータ線62が縦方向に形成されている。データ配線62,65,66は,データ線62の一端部に連結されて外部からの画像信号の印加を受けるデータパッドをさらに含む構成とすることができる。ゲート絶縁膜30の上部にはデータ配線62,65,66と同一の層でその両端が互いに隣接する画素行の隣接した維持電極線26,28と重なる修理用補助線68が縦方向に形成されている。前述したように,修理用補助線68とともに維持配線連結部84(図1参照)もデータ配線62,65,66と同一の層でゲート絶縁膜30の上部に形成することができる。
【0030】データ配線62,65,66及び修理用補助線68もゲート配線22,24及び維持配線26,27,28と同様に単一層で形成することもできるが,二重層や三重層で形成することもできる。もちろん,二重層以上に形成する場合には,一つの層は抵抗の小さい物質で形成し他の層は他物質との接触特性の良い物質で作ることが好ましい。
【0031】データ配線62,65,66と修理用補助線68及びこれらによって遮れない半導体パターン40の上には保護膜72が形成されている。この保護膜72は,ドレーン電極66を露出する接触孔71を有しており,またゲート絶縁膜30とともに維持電極線26,28を各々露出する接触孔74を有している。保護膜72は窒化ケイ素やアクリル系などの有機絶縁物質からなり得る。
【0032】保護膜72の上には,薄膜トランジスタから画像信号を受けて上板の共通電極とともに電気場を生成する画素電極82が形成されている。画素電極82はITO(indium tin oxide)またはIZO(indium zinc oxide)などの透明な導電物質で作られ,接触孔71を通じてドレーン電極66と物理的・電気的に連結されて画像信号の伝達を受ける。また,保護膜72の上部には,画素電極82と同一の層であって,接触孔74を通じて互いに隣接する維持配線26,27,28を電気的及び物理的に連結する維持配線連結部84が形成されている。前述したように,修理用補助線38を維持配線連結部84と同一の層であって,保護膜72の上部に形成することができる。一方,保護膜72はゲートパッド及びデータパッドを露出する接触孔を有する構成とすることができ,画素電極と同一な層には接触孔を通じてゲートパッド及びデータパッドを覆う補助ゲートパッド及び補助データパッドを形成することができる。
【0033】この時,維持配線26,27,28が画素電極82の端部から漏洩する光を遮断する光遮断膜として機能するように,図2のように,画素電極82の端部が維持配線26,27,28と重なるのが好ましい。また,液晶表示装置の視野角を改善するために液晶分子を分割配向するのが良いが,このために画素電極82は角部が曲線化した四角形が数個連結されている形態とすることができ,四角形またはのこぎり模様の多様な形態の開口部パターンを有する構成とすることもできる。このようにすることで,フリンジフィールド(fringe field)を形成して液晶分子を分割配向することができ,最も良い視野角を得るためには4分割配向された微小領域が一つの画素領域内に入っていることが好ましい。また,安定した分割配向を得るためには分割された微小領域の境界以外の所で転傾(disclination)や不規則な組織(texture)が発生しないようにするのが好ましく,隣接した微小領域の液晶方向子(director)がなす角は90度になるようにするのが好ましい。この時,回位や不規則な液晶分子の配列によって光が漏洩する場合,漏洩する光を遮断するために維持配線26,27,28の構造を多様に変えることができる。むろん,画素電極82の模様によって画素電極82と対向する共通電極(図示せず)に多様な模様の開口部パターンを形成することができる。
【0034】本発明の実施例では画素ごとに修理用補助線68または維持配線連結部84が形成されているが,多数の画素を単位に形成され得る。
【0035】ここでは,画素電極82の材料の例として透明なITOをあげたが,反射型液晶表示装置の場合,不透明な導電物質を使用しても構わない。」
記載事項カ 「【0037】図4乃至図7は,本発明の第1実施例による液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板の製造方法をその工程順序にしたがって示した断面図である。
【0038】先ず,図4のように,基板10の上部に低抵抗の導電物質を積層してマスクを利用した写真エッチング工程でパターニングし,ゲート配線22,24と維持配線26,27,28(図2参照)を形成する。
【0039】次に,図5のように,窒化ケイ素のような絶縁物質からなるゲート絶縁膜30,非晶質ケイ素のような半導体物質からなる半導体層40,ドーピングされた非晶質ケイ素のような導電性物質からなる抵抗性接触層50を化学気相蒸着法を用いて順次に積層し,マスクを利用した写真エッチング工程で半導体層40とその上部に抵抗性接触層50をパターニングする。
【0040】次に,図6のように,低抵抗を有する導電物質を積層してマスクを利用した写真エッチング工程でパターニングし,データ配線62,65,66(図2参照)と修理用補助線68を形成する。
【0041】次に,データ配線62,65,66で遮らない中間層をエッチングして抵抗性接触層50をエッチングして抵抗性接触層を二つの部分55,56に分離し,ソース及びドレーン電極65,66の間の半導体層40を露出する。
【0042】次に,図7のように,窒化ケイ素や酸化ケイ素または有機絶縁膜を積層して保護膜72を形成し,保護膜72をゲート絶縁膜30と共にマスクを利用した写真エッチング工程でパターニングし,ドレーン電極66及び維持配線26,27,28(図2参照)を露出する接触孔71,74を形成する。
【0043】次に,図2及び3のように,保護膜72の上部にIZOまたはITOのような透明な導電物質を積層してマスクを利用した写真エッチング工程でパターニングし,画素電極82と維持配線連結部84を形成する。」

これら記載事項及び各図からみて,引用例1には下記の発明が記載されている(以下「引用発明1」という。)。なお,対比判断の便宜上,構成要件毎に分説して記載し,各構成要件を「構成要件A」などという。



A 絶縁基板の上に金属または導電体で作られたゲート配線及び維持配線が形成され,
B ゲート配線は横方向に延びているゲート線,ゲート線の一部である薄膜トランジスタのゲート電極,及び,ゲート線の端部に連結されたゲートパッドを含み,
C 維持配線はゲート線と平行して二重に形成された維持電極線及び維持電極を含み,
D ゲート配線及び維持配線の上にはゲート絶縁膜が形成され,
E ゲート絶縁膜の上には半導体パターンが形成され,
F 半導体パターンの上には抵抗性接触層が形成され,
G 抵抗性接触層の上には薄膜トランジスタのソース電極及びドレーン電極が各々形成され,ゲート絶縁膜の上にはゲート線と交差して画素を定義するデータ線が縦方向に形成され,
H データ配線は,ソース電極及びドレーン電極並びにデータ線,さらに,データ線の一端部に連結されるデータパッドを含み,
I データ配線の上には保護膜が形成され,
J 保護膜の上には画素電極が形成され,画素電極はドレーン電極を露出する接触孔を通じてドレーン電極と電気的に連結され,
K 保護膜の上には維持電極線を露出する接触孔を通じて互いに隣接する維持配線を電気的に連結する維持配線連結部が形成された,
L 液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板。

3 引用発明2
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-5038号公報(以下「引用例2」という)には,各図とともに以下の事項が記載されている。
記載事項A 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は表示装置用薄膜トランジスタ基板とその製造方法に関する。」
記載事項B 「【0087】図30は本発明の実施例による液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板の配置図であり,図31及び図32は各々図30に示した薄膜トランジスタ基板をXXXI-XXXI’線及びXXXII-XXXII’線に沿って切断して示した断面図である。ほとんどの構造は第1実施例と同一である。
【0088】しかし,絶縁基板10上に形成されているゲート配線22,24,26と保持電極28は感光性導電物質からなっている。ゲート配線22,24,26,保持電極28及び基板10上には窒化ケイ素(SiNx)などからなるゲート絶縁膜30が全面的に形成されてこれらを覆っている。
【0089】接触層パターン55,56,58上に形成されているデータ配線62,64,65,66と保持蓄電器用導電体パターン68も感光性導電物質などからなっている。
【0090】ここで,データ配線62,64,65,66と保持蓄電器用導電体パターン68とはゲート配線22,24,26及び保持電極28は感光性導電物質で形成したが,第1実施例のようにアルミニウム(Al)またはアルミニウム合金(Alalloy),モリブデン(Mo)またはモリブデン-タングステン(MoW)合金,クロム(Cr),タンタル(Ta)などの金属または導電体で形成することができ,単一層や二重層,三重層で形成されることもある。もちろん,二重層以上に形成する場合には,一つの層は抵抗が小さい物質で,他の層は他の物質との接触特性の良い物質で作るのが好ましい。
【0091】データ配線62,64,65,66及び保持蓄電器用導電体パターン68とこれらで遮らないゲート絶縁膜30上には感光性物質からなる赤,緑,青のカラーフィルター75,77,79が形成されており,緑,青のカラーフィルター75,77,79は平坦化した感光性有機絶縁膜からなる保護膜90で覆われている。
【0092】赤,緑,青のカラーフィルター75,77,79と保護膜90とにはドレーン電極66,データパッド64及び保持蓄電器用導電体パターン68を露出する接触孔91,93,94を有しており,ゲート絶縁膜30と共にゲートパッド24を露出する接触孔92が形成されている。
【0093】保護膜90上には薄膜トランジスタから画像信号を受けて上板の電極と共に電気場を生成する画素電極82が形成されている。画素電極82はITO(indium tin oxide)などの透明な導電物質で作られ,接触孔91を通じてドレーン電極66と物理的・電気的に連結されて画像信号の伝達を受ける。画素電極82は,また隣接するゲート線22及びデータ線62と重なって開口率を高めているが,重ならないこともある。
【0094】また,画素電極82は接触孔94を通じて保持蓄電器用導電体パターン68とも連結されて導電体パターン68に画像信号を伝達する。一方,ゲートパッド24及びデータパッド64上には接触孔92,93を通じて各々これらと連結される補助ゲートパッド84及び補助データパッド86が形成されており,これらはパッド24,64と外部回路装置との接着性を補完してパッドを保護する役割を果たすもので必須ではなく,これらの適用可否は選択的である。」
記載事項C 「【0096】まず,図33乃至図35に図示するように,感光性導電物質を2,000Å乃至10,000Åの厚さで形成してマスクを利用した第1写真工程で露光及び現像だけを実施し,基板10上にゲート電極26を有するゲート線22,ゲートパッド24及び保持電極28を含むゲート配線を形成する。
【0097】ここで,ゲート配線を形成する時,感光膜パターンを利用する写真エッチング工程を利用して形成することもできるが,感光性導電物質を利用する場合には感光膜パターンをエッチングマスクとして利用するエッチング工程を省略して写真工程だけでもゲート配線22,24,26及び保持電極28を形成することができて製造工程が単純化できる。
【0098】感光性導電物質の一例としては銀練り粉(Ag paste)に感光性レジストを混合した場合があり,この場合にはスクリーン印刷(screen printing)を通じて感光性導電物質である感光性銀練り粉を基板10に塗ることができる。
【0099】他の例としては金属有機化学気相蒸着法(metal organic chemical vaper deposition)を通じて蒸着された有機金属膜がある。銅有機金属(cupper organic metal)の場合には銅原子と有機分子が互いに結合した構造で形成され,有機分子に感光性レジストを混合して基板上部に感光性導電物質を形成することができる。
【0100】次に,図36及び38に図示するように,ゲート絶縁膜30,半導体層40,中間層50を化学気相蒸着法を利用して各々1,500Å乃至5,000Å,500Å乃至2,000Å,300Å乃至600Åの厚さで連続蒸着する。また,前述したような同一感光性導電物質などからなるデータ導電層を1μÅ乃至2μÅの厚さで形成する。
【0101】次に,マスクを利用した第2写真工程を通じてデータ導電層に光を照射した後に現像してデータ配線用パターン67,68を形成する。この時,データ配線用パターン67,68の中から薄膜トランジスタのチャンネル部(C),つまり,ソース電極65とドレーン電極66との間に位置した第1部分は,データ配線部(A),つまり,データ配線62,64,65,66,68になる同第2部分より厚さが薄くなるようにし,その他部分(B)はデータ導電層を全て除去して第1実施例の感光膜パターン112,114のようにデータ配線用パターン67,68を形成する。
【0102】このように,位置によって感光性導電物質からなるデータ配線用パターン67,68の厚さを部分的に異なるようにする方法で第1実施例のように形成することができる。
【0103】次に,図39及び図40のように,データ配線用パターン67,69及びその下部の膜である中間層50及び半導体層40に対するエッチングを進行する。この時,データ配線部(A)にはデータ配線用パターン及びその下部の膜50,40がそのまま残っており,チャンネル部(C)には半導体層40だけが残っていなければならず,他の部分(B)には前記二つの層50,40が全て除去されてゲート絶縁膜30が露出されるべきである。
【0104】まず,他の部分Bの露出された中間層50及びその下部の半導体層40を乾式エッチング方法で除去してゲート絶縁膜30を露出して半導体パターン42を完成する。この時,チャンネル部(C)のデータ配線用パターン67もエッチングされて,殆ど残っていないようになる。
【0105】次に,チャンネル部(C)のデータ配線用パターン67を乾式エッチング方法で完全に除去し,その下部の中間層50も共にエッチングしてデータ線62,データパッド64,ソース電極65とドレーン電極66及びその下部の抵抗接触層パターン55,56と保持蓄電器用導電体パターン68及びその下部の中間層パターン58を完成する。この時,データ配線62,64,65,66と保持蓄電器用導電体パターン68も共にエッチングされてこれらの厚さが薄くなる。ここで,ゲート絶縁膜30は殆どエッチングされないエッチング条件を選択するのが好ましい。
【0106】このようにしてデータ配線62,64,65,66,68,抵抗接触層パターン55,56,58及び半導体パターン42,48を完成した後,図41乃至43に示したように赤,緑,青の顔料を含む感光性物質をスクリーン印刷またはオフセット印刷方法でコーティングして赤,緑,青のカラーフィルター75,77,79を順次に形成する。
【0107】次に,基板10の上部にカラーフィルター75,77,79を覆う保護膜90を形成し,マスクを利用した写真工程で保護膜90と赤,緑,青のカラーフィルター75,77,79を露光及び現像してドレーン電極66,ゲートパッド24上部のゲート絶縁膜30,データパッド64及び保持蓄電器用導電体パターン68を各々露出する接触孔91,92,93,94も共に形成する。次に,保護膜90で遮らないゲート絶縁膜30をエッチングして接触孔92を通じてゲートパッド24を露出する。この時,保護膜90はフォトレジストのように平坦化が良くでき,感光性を有する透明な有機絶縁膜で形成するのが好ましい。このようにすると,以後に形成される膜の段差を最少化することができ,カラーフィルター75,77,79と共に露光及び現像だけを利用する写真工程だけで接触孔91,92,93,94を形成することができる。
【0108】カラーフィルター75,77,79を印刷する工程で接触孔91,92,93,94を形成することができる場合には保護膜90を形成しなくてもいいが,本発明の実施例のように保護膜90を形成する場合には保護膜90とカラーフィルター75,77,79の厚さが容易に調節でき,印刷方法の分解能が微細でなくても写真工程だけで接触孔91,92,93,94を容易に形成することができる。図41で図面符号100は赤,緑,青のカラーフィルター75,77,79の境界線を示したものであって,赤,緑,青のカラーフィルター75,77,79は一部重なるように形成することもがある。
【0109】最後に,図30乃至図32に図示するように,400Å乃至500Å厚さのITO層を蒸着しマスクを使用し,写真エッチング工程でエッチングして画素電極82,補助ゲートパッド84及び補助データパッド86を形成する。」

これら記載事項及び各図からみて,引用例2には下記の発明が記載されている(以下「引用発明2」という。)。



データ配線及び保持蓄電器用導電体パターン並びにこれらで遮らないゲート絶縁膜30上にカラーフィルターが形成され,
カラーフィルターは平坦化した感光性有機絶縁膜からなる保護膜で覆われている,
液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板。

4 対比
本願発明3と引用発明1を対比すると以下のとおりとなる。
(1) 絶縁基板,薄膜トランジスタ基板
引用発明1の「絶縁基板」及び「液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板」は,それぞれ,本願発明3の「絶縁基板」及び「薄膜トランジスタ基板」に相当する。
(2) 第1信号線
引用発明1は摘記事項Bを備えるから,引用発明1の「ゲート配線」と本願発明3の「第1信号線」とは「前記絶縁基板上に横方向に長く形成されている第1信号線」である点で一致する。
(3) 第2信号線
引用発明1は摘記事項Cを備えるから,引用発明1の「維持配線」と本願発明3の「第2信号線」とは「前記絶縁基板上に横方向に長く形成されている第2信号線」である点で一致する。
また,引用発明1は摘記事項Kを備えるから,引用発明1の「維持配線」と本願発明3の「第2信号線」はともに,後で述べる相違点を除いた「前記第2信号線は連結経路を通じて互いに連結されている」点において共通する。
(4) 第3信号線
引用発明1は摘記事項D,G及びHを備えるから,引用発明1の「データ配線」と本願発明3の「第3信号線」とは「前記第1及び第2信号線と絶縁されて交差し,縦方向に長く形成されている第3信号線」である点で一致する。
(5) 薄膜トランジスタ
引用発明1は摘記事項EないしHを備えるから,引用発明1の「薄膜トランジスタ」と本願発明3の「薄膜トランジスタ」とは「前記第1信号線,前記第3信号線,及び前記画素電極に連結されている薄膜トランジスタ」である点で一致する。
(6) 保護層
引用発明1は摘記事項HないしJを備えるから,引用発明1の「保護膜」と本願発明3の「保護層」とは「前記薄膜トランジスタと前記画素電極との間に形成されている保護層」である点で一致する。

そうしてみると,本願発明3と引用発明1は,
「 絶縁基板,
前記絶縁基板上に横方向に長く形成されている第1信号線,
前記絶縁基板上に横方向に長く形成されている第2信号線,
前記第1及び第2信号線と絶縁されて交差し,縦方向に長く形成されている第3信号線,
前記第1信号線と前記第3信号線とが交差して定義する画素領域ごとに形成されている画素電極,
前記第1信号線,前記第3信号線,及び前記画素電極に連結されている薄膜トランジスタ,
前記薄膜トランジスタと前記画素電極との間に形成されている保護層,
を含み,
前記第2信号線は連結経路を通じて互いに連結されている,薄膜トランジスタ基板。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明3の第2信号線は「前記画素領域ごとに形成されている」連結経路を通じて互いに連結されているのに対して,引用発明1はこの構成を備えない点。

(相違点2)
本願発明3は「前記第3信号線と前記保護層との間に形成されているカラーフィルター」を備えるのに対して,引用発明1はこの構成を備えない点。

5 判断
(相違点1について)
引用発明1は「維持電極線の電圧に対する歪曲を減らすことによってフリッカーまたはクロストーク不良を最小化すること」を課題の1つとするものであるから,この課題を最大限解決するために維持配線連結部をそれぞれの画素に形成することは,当業者が容易にできることである。
なお,この構成は,引用発明1とは別の実施例として,引用例1の【0070】及び【図15】に開示されており,引用発明1においてこの構成を採用することは当業者が容易にできることである。

(相違点2について)
相違点2の構成は,引用発明2が備えている。
引用発明1と引用発明2はともに液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板であり,産業上の利用分野が共通する。また,引用発明1のごとき液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板にカラーフィルタを設けてフルカラー液晶表示装置用パネルとすることは当業者に周知の事項である。
そうしてみると,引用発明1の液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板をフルカラー液晶表示装置用パネルとするための具体的手段として引用発明2の構成を採用し,本願発明3の相違点2の構成を備えるようにすることは,当業者が容易になし得る事項にすぎない。

そして,本願発明3の作用効果は,引用発明1及び2から当業者が予測できる範囲のものである。

6 本願発明1
さらにすすんで,本願発明3がより具体化された発明である,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)についても検討すると,本願発明1は,前記「第2 補正の却下の決定」の「1 本件補正の内容」の「(2) 本件補正前の請求項1」に記載したとおりのものである。

7 引用発明1及び2
引用発明1及び2は,それぞれ,「第3 本願発明について」の「2 引用発明1」及び「3 引用発明2」に記載したとおりである。
8 対比
本願発明1と引用発明1を対比すると以下のとおりとなる。
(1) 絶縁基板,薄膜トランジスタ基板
引用発明1の「絶縁基板」及び「液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板」は,それぞれ,本願発明1の「絶縁基板」及び「薄膜トランジスタ基板」に相当する。
(2) ゲート配線
引用発明1は構成要件A及びBを備えるから,引用発明1の「ゲート線」,「ゲート電極」及び「ゲートパッド」は,それぞれ,本願発明1の「ゲート線」,「ゲート電極」及び「ゲートパッド」に相当する。
したがって,引用発明1の「ゲート配線」と本願発明1の「ゲート配線」とは,「前記絶縁基板上に形成され,ゲート線,ゲート電極,及び前記ゲート線の一端に接続されているゲートパッドを含む複数のゲート配線」である点で一致する。なお,引用発明1のゲート配線が複数あることは自明である。
(3) 維持電極配線
引用発明1は構成要件A及びCを備えるから,引用発明1の「維持電極線」は,本願発明1の「維持電極線」に相当する。
したがって,引用発明1の「維持配線」と本願発明1の「維持電極配線」とは,後で述べる相違点を除いた「前記絶縁基板上に形成され,維持電極線を含む複数の維持電極配線」である点で共通する。なお,引用発明1の維持配線が複数あることは自明である。
(4) ゲート絶縁層
引用発明1は構成要件Dを備えるから,引用発明1の「ゲート絶縁膜」と本願発明1の「ゲート絶縁層」とは,「前記ゲート配線及び前記維持電極配線上に形成されているゲート絶縁層」である点で一致する。
(5) 半導体層
引用発明1は構成要件Eを備えるから,引用発明1の「半導体パターン」と本願発明1の「半導体層」とは,「前記ゲート絶縁層上に形成されている半導体層」である点で一致する。
(6) データ配線
第1に,引用発明1は構成要件Gを備えるから,引用発明1の「データ線」と本願発明1の「データ線」とは,「前記ゲート絶縁層上にあって,前記ゲート線と絶縁されて交差するように形成されているデータ線」である点で一致する。
第2に,引用発明1は構成要件F及びGを備えるから,引用発明1の「ソース電極」及び「ドレーン電極」は,それぞれ,本願発明の「前記半導体層の一部分と接触しているソース電極」及び「前記ソース電極と対向し,前記半導体層の他の一部分と接触している複数のドレイン電極」に相当する。なお,引用発明1の薄膜トランジスタが複数あることは自明であり,また,薄膜トランジスタのソース電極及びドレーン電極が,ゲート電極を間に挟んで対向し,半導体層の一部分と他の一部分に接触して設けられることは技術常識である。
第3に,引用発明1は構成要件Hを備えるから,引用発明1の「データパッド」は,本願発明の「前記データ線の一端に連結されているデータパッド」に相当する。
したがって,引用発明1の「データ配線」と本願発明の「データ配線」とは,「前記ゲート絶縁層上にあって,前記ゲート線と絶縁されて交差するように形成されているデータ線,前記半導体層の一部分と接触しているソース電極,前記ソース電極と対向し,前記半導体層の他の一部分と接触している複数のドレイン電極,前記データ線の一端に連結されているデータパッドを含むデータ配線」である点で一致する。
(7) 保護層
引用発明1は構成要件Iを備えるから,引用発明1の「保護膜」と本願発明1の「保護層」とは,「前記データ配線上に形成されている保護層」である点で一致する。
(8) 画素電極
引用発明1は構成要件Jを備えるから,引用発明1の「画素電極」と本願発明1の「画素電極」とは,「前記保護層上に形成され,前記ドレイン電極と電気的に連結されている画素電極」である点で一致する。
(9) 維持電極連結部
引用発明1は構成要件C及びKを備え,また,本願発明1の「維持電極線」及び「維持電極」はともに「維持電極配線」に含まれる。したがって,引用発明1の「維持配線連結部」と本願発明1の「維持電極連結部」とは,後で述べる相違点を除いた「前記保護層上に形成され,前記ゲート線を隔てて両側に位置する前記維持電極配線どうしを連結する複数の維持電極連結部」である点において共通する。なお,引用発明1の維持電極連結部が複数あることは自明である。

そうしてみると,本願発明1と引用発明1は,
「 絶縁基板,
前記絶縁基板上に形成され,ゲート線,ゲート電極,及び前記ゲート線の一端に接続されているゲートパッドを含む複数のゲート配線,
前記絶縁基板上に形成され,維持電極線を含む複数の維持電極配線,
前記ゲート配線及び前記維持電極配線上に形成されているゲート絶縁層,
前記ゲート絶縁層上に形成されている半導体層,
前記ゲート絶縁層上にあって,前記ゲート線と絶縁されて交差するように形成されているデータ線,前記半導体層の一部分と接触しているソース電極,前記ソース電極と対向し,前記半導体層の他の一部分と接触している複数のドレイン電極,前記データ線の一端に連結されているデータパッドを含むデータ配線,
前記データ配線上に形成されている保護層,
前記保護層上に形成され,前記ドレイン電極と電気的に連結されている画素電極,
前記保護層上に形成され,前記ゲート線を隔てて両側に位置する前記維持電極配線どうしを連結する複数の維持電極連結部,
を含む薄膜トランジスタ基板。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1の維持電極線は,前記絶縁基板上に形成され,維持電極線「及び維持電極」を含む複数の維持電極配線であり,また,本願発明1の維持電極連結部は,前記保護層上に形成され,前記ゲート線を隔てて両側に位置する「前記維持電極線と前記維持電極」を連結する複数の維持電極連結部であるのに対し,引用発明1の維持電極配線及び維持電極連結部は,一応,これとは異なる構成である点。

(相違点2)
本願発明1は「前記データ配線と前記保護層との間に形成されているカラーフィルター」を備えるのに対し,引用発明1はこの構成を備えない点。

9 判断
(相違点1について)
特許請求の範囲の記載によれば,本願発明1の「維持電極」とは,(1)絶縁基板上に形成され,(2)維持電極線とともに維持電極配線に含まれ,(3)ゲート線を隔てて位置する維持電極線と維持電極連結部により連結されるもののことである。また,この理解は,発明の詳細な説明の【0016】の作用効果の記載とも整合する。そうしてみると,引用発明1において,構成要件Jの接触孔を通じて維持配線連結部と電気的に連結する電極として機能する部分の維持電極線は,本願発明1の「維持電極」に相当するものである。
したがって,相違点1は,実質的な相違点ではない。

(相違点2について)
相違点2の構成は,引用発明2が備えている。
引用発明1と引用発明2はともに液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板であり,産業上の利用分野が共通する。また,引用発明1のごとき液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板にカラーフィルタを設けてフルカラー液晶表示装置用パネルとすることは当業者に周知の事項である。
そうしてみると,引用発明1の液晶表示装置用薄膜トランジスタ基板をフルカラー液晶表示装置用パネルとするための具体的手段として引用発明2の構成を採用し,本願発明1の相違点2の構成を備えるようにすることは,当業者が容易になし得る事項にすぎない。

そして,本願発明1の作用効果は,引用発明1及び2から当業者が予測できる範囲のものである。

10 備考
本来ならば検討を要しない事項であるが,平成21年4月7日付けの手続補正の内容及び平成22年10月20日付の回答書の内容を考慮し,本願発明1の構成に対してさらに第1共通バー及び第2共通バーの構成を付加した発明(以下「回答案発明」という。)について簡潔に見解を述べると以下のとおりである。
すなわち,原査定の拒絶の理由においても言及されているとおり,複数の維持電極線を全て接続する第1共通バー及び第2共通バーを設けた薄膜トランジスタ基板は周知である(必要ならば,原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-72321号公報,特開2000-111937号公報を参照。)。また,原査定の拒絶の理由においても言及されているとおり,配線を細くして表示装置のコンパクト化を図ることは周知慣用技術であり,また,表示装置の額縁の左右の幅を等しくするためにゲートパッド等がありスペース的に余裕がない側の第2共通バーの幅を第1共通バーの幅より狭くレイアウトすることは当然のことである。
したがって,回答案発明は引用例1及び2並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 総括
以上のとおり,本願発明1及び3は引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-06 
結審通知日 2011-01-11 
審決日 2011-01-24 
出願番号 特願2004-525848(P2004-525848)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (G09F)
P 1 8・ 121- Z (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 博之  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 樋口 信宏
岡田 吉美
発明の名称 薄膜トランジスタ基板  
代理人 稲積 朋子  
代理人 小野 由己男  

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