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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1238084
審判番号 不服2008-28834  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-12 
確定日 2011-06-09 
事件の表示 特願2003- 86831「EL表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月21日出願公開、特開2004-294752〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成15年 3月27日 特許出願
平成19年 8月30日 上申書・手続補正書
平成20年 4月10日 拒絶理由通知(同年4月15日発送)
平成20年 6月 4日 意見書・手続補正書
平成20年10月 8日 拒絶査定(同年10月14日送達)
平成20年11月12日 本件審判請求・手続補正書
平成22年 5月18日 審尋(同年5月25日発送)
平成22年 7月23日 回答書

第2 平成20年11月12日付け手続補正(以下「本件補正」という。)の補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の概要
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし6に
「【請求項1】
EL素子を有する画素がマトリックス状に配置されたEL表示装置であって、
前記画素に映像信号に対応したプログラム電流を印加する電流出力回路と、前記画素にソース信号線を介してプリチャージ電圧を印加する電圧出力回路とを有するソースドライバ回路と、
入力される前記映像信号に基づいてプリチャージ制御信号を発生するコントローラ回路とを具備し、
前記コントローラ回路からの前記プリチャージ制御信号は、前記ソースドライバ回路に印加され、
前記ソースドライバ回路は、前記プリチャージ制御信号に対応して、前記ソース信号線に前記プリチャージ電圧を出力することを特徴とするEL表示装置。
【請求項2】
前記ソースドライバ回路に、前記プリチャージ制御信号を保持するラッチ回路を備えた、請求項1記載のEL表示装置。
【請求項3】?【請求項6】 略 」

とあったものを、

「【請求項1】
EL素子を有する画素がマトリックス状に配置されたEL表示装置であって、
前記画素に映像信号に対応したプログラム電流を印加する電流出力回路と、前記画素にソース信号線を介してプリチャージ電圧を印加する電圧出力回路と、プリチャージ制御信号を保持するラッチ回路とを有するソースドライバICと、
入力される前記映像信号に基づいて、前記画素で、プリチャージを実施するか否かを設定する前記プリチャージ制御信号を発生するコントローラICとを具備し、
前記コントローラICからの前記プリチャージ制御信号は、前記ソースドライバICに印加され、
前記ソースドライバICは、前記プリチャージ制御信号に対応して、前記ソース信号線に前記プリチャージ電圧を出力することを特徴とするEL表示装置。
【請求項2】?【請求項5】 略 」

と補正しようとするものである。

2 補正の目的
本件補正は、以下の補正事項を含む。
(補正事項1):補正前の請求項1を削除するとともに、補正前の請求項1を引用する請求項2を独立請求項として新たに請求項1とする補正事項。
(補正事項2):補正前の請求項2が引用する請求項1に、「ソースドライバ回路」、「コントローラ回路」とあったものを、新たな請求項1では、それぞれ、「ソースドライバIC」、「コントローラIC」とする補正事項。
(補正事項3):補正前の請求項2が引用する請求項1に、「プリチャージ制御信号」とあったものを、新たな請求項1では、「、前記画素で、プリチャージを実施するか否かを設定する前記プリチャージ制御信号」とする補正事項。

上記(補正事項1)は、請求項を削除する補正であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号に規定にする請求項の削除を目的とする補正である。
上記(補正事項2)は、「回路」を「IC」(集積回路)に限定する補正であるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定にする特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。
上記(補正事項3)は、「プリチャージ制御信号」を説明する補正であるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号に規定する明りようでない記載の釈明を目的とする補正である。
そうすると、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定にする特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かについて検討する。

3 独立特許要件の検討
3-1 本願補正発明
本願補正発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「 EL素子を有する画素がマトリックス状に配置されたEL表示装置であって、
前記画素に映像信号に対応したプログラム電流を印加する電流出力回路と、前記画素にソース信号線を介してプリチャージ電圧を印加する電圧出力回路と、プリチャージ制御信号を保持するラッチ回路とを有するソースドライバICと、
入力される前記映像信号に基づいて、前記画素で、プリチャージを実施するか否かを設定する前記プリチャージ制御信号を発生するコントローラICとを具備し、
前記コントローラICからの前記プリチャージ制御信号は、前記ソースドライバICに印加され、
前記ソースドライバICは、前記プリチャージ制御信号に対応して、前記ソース信号線に前記プリチャージ電圧を出力することを特徴とするEL表示装置。」(以下、「本願補正発明」という。)

3-2 独立特許要件(特許法第29条第2項)
3-2-1 引用刊行物とその記載事項
本願の出願前の2003年3月20日に日本国内又は外国において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第03/023752号(以下「引用刊行物」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

ア 「〔技術分野〕
本発明は、有機または無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を用いたEL表示パネルなどの自発光表示パネルに関するものである。また、EL表示パネルの駆動方法と駆動回路およびそれらを用いた電子表示機器などに関するものである。」(明細書1頁7行?同頁11行)

イ 「〔技術背景〕
一般に、アクティブマトリクス型表示装置では、多数の画素をマトリクス状に並べ、与えられた映像信号に応じて画素毎に光強度を制御することによって画像を表示する。たとえば、電気光学物質として液晶を用いた場合は、各画素に書き込まれる電圧に応じて画素の透過率が変化する。電気光学変換物質として有機エレクトロルミネッセンス(EL)材料を用いたアクティブマトリクス型の画像表示装置でも、基本的な動作は液晶を用いた場合と同様である。
…。有機EL表示パネルは各画素に発光素子を有する自発光型である。そのため、有機EL表示パネルなどの自発光型の表示パネルは、液晶表示パネルに比べて画像の視認性が高い、バックライトが不要、応答速度が速い等の利点を有する。」(明細書1頁12行?同頁15行)

ウ 「〔発明の開示〕
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、フレーム周波数の低下によるフリッカの発生を防止することを目的としている。
この目的を達成するために、本発明に係るEL表示装置は、EL発光素子と、電流で表されるソース信号に応じた電流によって前記EL発光素子を駆動する電流駆動デバイスと、映像信号に応じて前記ソース信号をソース信号線を通じて前記電流駆動デバイスに出力する信号用電流源とを備えたEL表示装置において、所定電圧を出力するプリチャージ用電圧源と、前記信号用電流源と前記プリチャージ用電圧源とを切り換えて前記ソース信号線に接続可能な切換接続手段とをさらに備えたものである。
かかる構成とすると、ソース信号線にソース信号電流を出力するばかりでなく、最も書きこみにくい低階調時の電流が流れる時のソース信号線に、プリチャージ用電圧を印加することができる。その結果、出力インピーダンスの低い電圧源によってソース信号線の浮遊容量を速やかに充電できるため、電流駆動デバイスの電流値の変化を速くすることができる。これにより、水平走査期間を短くすることができ、フレーム周波数の低下によるフリッカの発生を防止することができる。
前記切換接続手段は、1水平走査期間内において前記所定電圧が前記ソース信号線に印加された後、前記ソース信号が前記ソース信号線に出力されるよう、前記プリチャージ用電圧源及び前記信号用電流源を前記ソース信号に接続してもよい。かかる構成とすると、ソース信号線の浮遊容量を速やかに充電して、電流駆動デバイスの電流値の変化を速くすることができる。」(明細書5頁6行?6頁1行)

エ 「[プリチャージ電圧印加に係る発明の実施の形態]
ここで、主として電流駆動方式の課題について説明し、この課題を解決したプリチャージ電圧印加に係る発明の構成について説明する。なお、書込み不足の問題は、電流駆動のみではなく、電圧駆動でも発生する場合がある。したがって、本発明は、電圧駆動にも適用することができる。第1図でも説明したが、第64図の各画素16の発光素子15を表示させるには、1水平走査期間(1H)内でゲート信号線17aによりトランジスタ11bおよび11cを導通状態とする。次に、アノード電圧Vddよりトランジスタ11aおよびソース信号線18を介してソースドライバ14に電流Iw(プログラム電流Iw)を引き込ませる。この時の電流量の大小により階調表示を行う。コンデンサ19にはトランジスタ11aのドレイン電流に対応するゲート電圧が蓄積される。
…。
その後、ゲート信号線17bによりトランジスタ11dを導通させ、ゲート信号線17aによりトランジスタ11b、11cを非導通状態とし、Vddよりコンデンサ19の電荷(すなわち制御電圧)に応じた電流がトランジスタ11aを介して発光素子15に流れる。
ソース信号線18の浮遊容量641とトランジスタ11aのソース-ドレイン(S-D)間抵抗の積によりソース信号線18に流れる電流は徐々に変化する。そのため、浮遊容量641の容量値および抵抗値が大きくなると、1水平走査期間(1H)内に電流が所定の値まで変化しないことがある。ソース信号線18に流れる電流が小さく(低階調に)なるにつれ、トランジスタ11aのソース-ドレイン(S-D)間抵抗が大きくなるため、電流が小さくなるほど、変化に時間がかかる。トランジスタ11aのダイオード特性と、ソース信号線18の浮遊容量641の容量値によるが、例えばソース信号線18に流す電流が1μAに変化するのに50μ秒かかるのに対し、10nAに変化するのには250μ秒かかる。
ソース信号線18に流れる電流値はVddからトランジスタ11aを介して、電荷をソース信号線18に供給し、浮遊容量641の電荷を変化させることで変化する。つまり、ソース信号線18の電圧を変化させと、トランジスタ11aを流れる電流(=ソース信号線18を流れる電流)が変化する。電荷の供給量は、電流が小さい領域では少ない。低階調領域(黒表示領域)では電流が小さい。したがって、黒表示領域では、ソース信号線18の電圧変化が遅くなり、その結果電流値の変化も遅くなる。
電流値の変化を早くするためには、所定のソース電流値に対応する電圧を、ソース信号線18に印加すればよい。トランジスタ11aのゲート電位をソース信号線18の浮遊容量と配線抵抗の積による時定数により変化させることができるからである。この方法により、トランジスタ11aは所定の電流をソース信号線18に流すように変化する。
配線抵抗はトランジスタ11aのソース-ドレイン(S-D)間抵抗に比べ、非常に小さい。したがって、ソース信号線18に印加する電圧による変化は非常に速くなる。一例として、1?3μ秒程度で完全に目標値に変化させることができる。
但し、所定の電流値をソース信号線18に流すためのソース電圧はトランジスタ11aの電流-電圧特性のばらつきにより変化する。したがって、所定電流値からのずれを補償するために所定電流値を流す電流源をソース信号線18に接続して、ソース信号線18に流れる電流値を所定電流値にまで変化させる必要がある。
このことを実現するために、本発明におけるソースドライバ14の各出力部を第63図のような構成とした。
階調データ(階調情報)はソースドライバ14内の階調データ配線633で伝達される。階調データに応じた電流を電流発生部(信号用電流源)634が発生し、その電流がソース信号線18に出力され、ソース信号線18に階調に応じた電流を流す。電圧発生部631ではプリチャージ(あるいはソース信号線18の電荷を放電させるという意味ではディスチャージ)電圧を発生する。電圧発生部631からのプリチャージ(ディスチャージ)電圧は、プリチャージスイッチ(第2の切換スイッチ)636を介してソース信号線18に出力できるように構成されている。
階調に応じた電圧を印加後、階調に応じた電流を流す方法では複数の電圧源と複数の電流源が必要となるので、回路規模が大きくなる。本発明では、プリチャージ電圧は1もしくは2-3種類であるので、回路構成も容易であるため、回路規模は小さい。
電流値の変化はトランジスタ11aの見かけの抵抗が、低階調表示時に比べ高階調表示時の方が小さくなるため、波形の変化の速度は階調が増加するにつれ早くなる。そこで、書きこみにくい黒にあわせた電圧を印加し、その後所定の電流値をソース信号線18に流すことで所定の階調を表示するようにする。もしくは、完全黒表示(階調0)のみにプリチャージ電圧をソース信号線18に印加するように構成する。
なお、階調0のみにプリチャージ電圧を印加する場合であっても、R,G,Bでプリチャージ電圧を異ならせることができるように構成することが好ましい。R,G,BでEL素子15の発光開始電圧が異なっているからである。もちろん、R,G,BのEL素子15の発光開始電圧などが、ほぼ同一の場合は、同一にしてもよいことは言うまでもない。また、R,G,Bで駆動トランジスタ11aのW/L比、トランジスタサイズが異なっている場合も、R,G,Bでプリチャージ電圧を異ならせることができるように構成することが好ましい。
第63図において、最も低階調に相当する電圧(以下黒電圧とする)を電圧発生部631において発生させ、階調データ信号配線633の階調データに応じた電流を電流発生部634より出力する。1水平走査期間(1H)内で電圧印加を始めの0.2?3μ秒行い、その後電流出力を行うために、制御部(ゲートドライバ:図1参照)12で1水平走査期間を検出し、クロックおよびカウンタなどによりプリチャージスイッチ636の導通期間を設定する。出力電流スイッチ(第1の切換スイッチ)637は常に導通状態であっても構わないが、プリチャージスイッチ636の導通期間には非導通状態とするほうが望ましい。第65図の単位電流源654などに影響を与えることを防止するためである。第73図に1水平走査期間内でのスイッチ636,637の動作を示す。
水平走査期間(1H)の始めに黒電圧を印加することで低階調(黒表示領域)は所定の黒表示がしやすくなる。高階調表示においては、一度黒表示状態となってから高階調表示へ変化する必要があるため、高階調まで変化する前に水平走査期間が終わる可能性がある。2つ以上の水平走査期間にわたって高階調表示をする場合(例えば、白表示の階調A、階調Bを例にする)、1Hの最初にプリチャージ電圧の黒電圧を印加する場合、ソース信号線の状態は黒→階調A→黒→階調Bと変化する。プリチャージ電圧をソース信号線18に印加しない場合にはソース信号線の状態は階調A→階調Bと変化する。黒→階調Bに比べ、階調A→階調Bの方がソース信号線18状態の変化量が小さく、その状態を速く変化させることできる。
そこで、電圧発生部631をソース信号線18に印加するかどうかのプリチャージスイッチ636の制御を表示階調に応じて変更できるようにする。具体的には高階調表示時に、電圧を印加しないようにする(階調データに応じてプリチャージ(ディスチャージ)電圧を印加するか否かを選択するため、選択プリチャージと呼ぶ。逆に全階調でプリチャージを行なう場合は、全プリチャージと呼ぶ)。
そのためにプリチャージスイッチ636の制御を行う電圧出力制御部632に階調データ13を入力し、階調データ13の値に応じて、電圧出力制御部632の出力を変化できるようにした。
この選択プリチャージを64階調表示行う場合(階調0を黒、階調63を白とする)で例示して説明する。たとえば、第1の選択プリチャージモードでは、0階調のみプリチャージ電圧をソース信号線18に印加する。階調0のときにのみ1水平走査期間のうちの1?3μ秒だけ電圧発生部631のプリチャージ電圧を18に出力できるように電圧出力制御部632の制御方法を決めればよい。また、第2の選択プリチャージモードでは、0-3階調のみプリチャージ電圧をソース信号線18に印加する。階調データが階調0-3のときにのみ1水平走査期間のうちの1?3μ秒だけ電圧発生部631のプリチャージ電圧を18に出力できるように電圧出力制御部632の制御方法を決めればよい。これらの選択プリチャージモード、全プリチャージは、あらかじめコマンドで変更できるようにしておく。また、プリチャージ印加時間、プリチャージ電圧もコマンドで変更できるようにしておくことが好ましい。これらは、コマンドデコーダ回路、電子ボリウムなどを構成することにより容易に実現できる。」(明細書115頁22行?120頁12行)

オ 第63図は、駆動回路のブロック図であり、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631、電圧出力制御部632、電流発生部(階調電流発生回路)634、電流出力制御部635、プリチャージスイッチ(アナログスイッチ)636、出力電流スイッチ(アナログスイッチ)637を備えることが看取できる。

カ 第64図は、駆動回路の説明図であり、画素16は、トランジスタ11a、11b、11c、11d、コンデンサ19、発光素子15を有すること、ソース信号線18は、画素16内のトランジスタ11cとソースドライバ14に接続されていることが看取できる。

3-2-2 引用発明の認定
(1) 引用刊行物には、「一般に、アクティブマトリクス型表示装置では、多数の画素をマトリクス状に並べ、与えられた映像信号に応じて画素毎に光強度を制御することによって画像を表示する。たとえば、電気光学物質として液晶を用いた場合は、各画素に書き込まれる電圧に応じて画素の透過率が変化する。電気光学変換物質として有機エレクトロルミネッセンス(EL)材料を用いたアクティブマトリクス型の画像表示装置でも、基本的な動作は液晶を用いた場合と同様である。」(「第2 3-2-1 イ」)との記載、「…本発明に係るEL表示装置は、EL発光素子と、電流で表されるソース信号に応じた電流によって前記EL発光素子を駆動する電流駆動デバイスと、映像信号に応じて前記ソース信号をソース信号線を通じて前記電流駆動デバイスに出力する信号用電流源とを備えたEL表示装置において…」(「第2 3-2-1 ウ」)との記載、「[プリチャージ電圧印加に係る発明の実施の形態]…。第1図でも説明したが、第64図の各画素16の発光素子15を表示させるには、…」(「第2 3-2-1 エ」)との記載がある。ここで、EL表示装置の各画素の発光素子15は、EL発光素子である。してみると、引用刊行物には「EL発光素子を有する画素16がマトリクス状に並べられたEL表示装置」が開示されている。

(2) 引用刊行物には、「…本発明におけるソースドライバ14の各出力部を第63図のような構成とした。」(「第2 3-2-1 エ」)との記載があり、また、第63図には、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631、電圧出力制御部632、電流発生部(階調電流発生回路)634、電流出力制御部635、プリチャージスイッチ(アナログスイッチ)636、出力電流スイッチ(アナログスイッチ)637を備える回路が図示されている(「第2 3-2-1 オ」)。そして、引用刊行物には、「階調データに応じた電流を電流発生部(信号用電流源)634が発生し、…。」(「第2 3-2-1 エ」)との記載があるところ、「電流発生部(階調電流発生回路)634」と「電流発生部(信号用電流源)634」は同一の電流発生部(以下、「電流発生部(階調電流発生回路)634」と「電流発生部(信号用電流源)634」は、何れも「電流発生部(階調電流発生回路、信号用電流源)634」という。)である。してみると、引用刊行物には、電流発生部電流発生部(階調電流発生回路、信号用電流源)634、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631、電圧出力制御部632、プリチャージスイッチ(アナログスイッチ)636を有するソースドライバ14が開示されている。

(3) 引用刊行物には、「第1図でも説明したが、第64図の各画素16の発光素子15を表示させるには、1水平走査期間(1H)内でゲート信号線17aによりトランジスタ11bおよび11cを導通状態とする。次に、アノード電圧Vddよりトランジスタ11aおよびソース信号線18を介してソースドライバ14に電流Iw(プログラム電流Iw)を引き込ませる。この時の電流量の大小により階調表示を行う。コンデンサ19にはトランジスタ11aのドレイン電流に対応するゲート電圧が蓄積される。」(「第2 3-2-1 エ」)との記載、「階調データ(階調情報)はソースドライバ14内の階調データ配線633で伝達される。階調データに応じた電流を電流発生部(信号用電流源)634が発生し、その電流がソース信号線18に出力され、ソース信号線18に階調に応じた電流を流す。」(「第2 3-2-1 エ」)との記載がある。ここで、トランジスタ11a及びソース信号線18を介してソースドライバ14に引き込ませる電流Iw(プログラム電流Iw)は、トランジスタ11aのドレイン電流であるとともに、電流発生部(信号用電流源)634が階調データに応じて発生しソース信号線18に出力する電流である。また、上記(「第2 3-2-1 カ」)より、画素16がコンデンサ19を有するから、コンデンサ19は画素16内にある。そうすると、引用刊行物には、電流発生部(階調電流発生回路、信号用電流源)634は、階調データに応じた電流(プログラム電流)を発生し、前記階調データに応じた電流(プログラム電流)がソース信号線18に出力され、前記階調データに応じた電流(プログラム電流)に対応するゲート電圧が画素16内のコンデンサ19に蓄積されることが開示されている。

(4) 引用刊行物には、「電圧発生部631ではプリチャージ(あるいはソース信号線18の電荷を放電させるという意味ではディスチャージ)電圧を発生する。電圧発生部631からのプリチャージ(ディスチャージ)電圧は、プリチャージスイッチ(第2の切換スイッチ)636を介してソース信号線18に出力できるように構成されている。」(「第2 3-2-1 エ」)との記載がある。ここで、「第2 3-2-1 カ」より、ソース信号線18は画素16内のトランジスタ11cに接続されている。また、「第2 3-2-1 オ」より、第63図から駆動回路は「電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631」を備えることが看取されるところ、「電圧発生部631」と「電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631」は、同一の電圧発生部(以下、「電圧発生部631」と「電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631」は、何れも「電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631」という。)である。そうすると、引用刊行物には、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631はプリチャージ電圧を発生し、該プリチャージ電圧はプリチャージスイッチ(第2の切換スイッチ)636を介してソース信号線18に出力されて画素16内のトランジスタ11cに供給されることが開示されている。

(5) 引用刊行物には、「そこで、電圧発生部631をソース信号線18に印加するかどうかのプリチャージスイッチ636の制御を表示階調に応じて変更できるようにする。具体的には高階調表示時に、電圧を印加しないようにする(階調データに応じてプリチャージ(ディスチャージ)電圧を印加するか否かを選択するため、選択プリチャージと呼ぶ。逆に全階調でプリチャージを行なう場合は、全プリチャージと呼ぶ)。そのためにプリチャージスイッチ636の制御を行う電圧出力制御部632に階調データ13を入力し、階調データ13の値に応じて、電圧出力制御部632の出力を変化できるようにした。」(「第2 3-2-1 エ」)との記載がある。ここで、上記(4)より、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631は、プリチャージ電圧を発生し、該プリチャージ電圧は、ソース信号線18に出力される。そうすると、引用刊行物には、電圧出力制御部632は、階調データ13の値に応じて電圧出力制御部632の出力を変化し、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631が発生するプリチャージ電圧をソース信号線18に印加するかどうかを制御することが開示されている。

上記(1)?(5)より、引用刊行物には、以下の発明が開示されている。
「EL発光素子を有する画素16がマトリクス状に並べられたEL表示装置であって、
電流発生部(階調電流発生回路、信号用電流源)634、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631、電圧出力制御部632、プリチャージスイッチ(アナログスイッチ)636を有するソースドライバ14を具備し、
前記電流発生部(階調電流発生回路、信号用電流源)634は、階調データに応じた電流(プログラム電流)を発生し、前記階調データに応じた電流(プログラム電流)に対応するゲート電圧が前記画素16内のコンデンサ19に蓄積され、
前記電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631はプリチャージ電圧を発生し、前記プリチャージ電圧はプリチャージスイッチ(第2の切換スイッチ)636を介してソース信号線18に出力されて前記画素16内のトランジスタ11cに供給され、
前記電圧出力制御部632は、前記階調データの値に応じて前記電圧出力制御部632の出力を変化し、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631が発生するプリチャージ電圧を前記ソース信号線18に印加するかどうかを制御する
EL表示装置。」(以下、「引用発明」という。)

3-2-3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1) 本願補正発明の「EL素子を有する画素がマトリックス状に配置されたEL表示装置」と、引用発明の「EL発光素子を有する画素16がマトリクス状に並べられたEL表示装置」とを比較すると、引用発明の「EL発光素子を有する画素16がマトリクス状に並べられたEL表示装置」は、本願補正発明の「EL素子を有する画素がマトリックス状に配置されたEL表示装置」に相当する。

(2) 本願補正発明の「前記画素に映像信号に対応したプログラム電流を印加する電流出力回路と、前記画素にソース信号線を介してプリチャージ電圧を印加する電圧出力回路と、プリチャージ制御信号を保持するラッチ回路とを有するソースドライバIC」と引用発明の「電流発生部(階調電流発生回路、信号用電流源)634、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631、…、プリチャージスイッチ(アナログスイッチ)636を有するソースドライバ14を具備し、前記電流発生部(階調電流発生回路、信号用電流源)634は、階調データに応じた電流(プログラム電流)を発生し、前記階調データに応じた電流(プログラム電流)に対応するゲート電圧が前記画素16内のコンデンサ19に蓄積され、前記電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631はプリチャージ電圧を発生し、前記プリチャージ電圧はプリチャージスイッチ(第2の切換スイッチ)636を介してソース信号線18に出力されて前記画素16内のトランジスタ11cに供給され」ることを比較する。
引用発明の「階調データに応じた電流(プログラム電流)」は、本願補正発明の「映像信号に対応したプログラム電流」に相当し、以下同様に、「電流発生部(階調電流発生回路、信号用電流源)634」は「電流出力回路」に、「ソース信号線18」は「ソース信号線」に、「プリチャージ電圧」は「プリチャージ電圧」に、「電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631」は「電圧出力回路」に、それぞれ相当する。ここで、引用発明のソース信号線18に出力されたプリチャージ電圧は、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631が発生し、画素16内のトランジスタ11cに供給するから、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631は、画素16にソース信号線18を介してプリチャージ電圧を印加すると言える。
してみると、本願補正発明の「前記画素に映像信号に対応したプログラム電流を印加する電流出力回路と、前記画素にソース信号線を介してプリチャージ電圧を印加する電圧出力回路と、プリチャージ制御信号を保持するラッチ回路とを有するソースドライバIC」と引用発明の「電流発生部(階調電流発生回路、信号用電流源)634、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631、…、プリチャージスイッチ(アナログスイッチ)636を有するソースドライバ14を具備し、前記電流発生部(階調電流発生回路、信号用電流源)634は、階調データに応じた電流(プログラム電流)を発生し、前記階調データに応じた電流(プログラム電流)に対応するゲート電圧が前記画素16内のコンデンサ19に蓄積され、前記電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631はプリチャージ電圧を発生し、前記プリチャージ電圧はプリチャージスイッチ(第2の切換スイッチ)636を介してソース信号線18に出力されて前記画素16内のトランジスタ11cに供給され」ることは、「前記画素に映像信号に対応したプログラム電流を印加する電流出力回路と、前記画素にソース信号線を介してプリチャージ電圧を印加する電圧出力回路とを有するソースドライバ回路」の点で共通する。

(3) 本願補正発明の「入力される前記映像信号に基づいて、前記画素で、プリチャージを実施するか否かを設定する前記プリチャージ制御信号を発生するコントローラICとを具備し、前記コントローラICからの前記プリチャージ制御信号は、前記ソースドライバICに印加され、前記ソースドライバICは、前記プリチャージ制御信号に対応して、前記ソース信号線に前記プリチャージ電圧を出力する」ことと、引用発明の「…、電圧出力制御部632、プリチャージスイッチ(アナログスイッチ)636を有するソースドライバ14を具備し、…、前記電圧出力制御部632は、前記階調データの値に応じて前記電圧出力制御部632の出力を変化し、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631が発生するプリチャージ電圧を前記ソース信号線18に印加するかどうかを制御する」ことを比較する。
引用発明の「階調データ」は、本願補正発明の「映像信号」に相当し、以下同様に、「プリチャージ電圧」は「プリチャージ電圧」に、「ソース信号線18」は「ソース信号線」にそれぞれ相当する。また、引用発明においては、プリチャージ電圧をソース信号線18に印加することでプリチャージをしているから、引用発明の「プリチャージ電圧をソース信号線18に印加するかどうかを制御する」ことは、本願補正発明の「プリチャージを実施するか否かを設定する」ことに相当する。
また、引用発明の「電圧出力制御部632」の「出力」は、「電圧発生部631が発生するプリチャージ電圧をソース信号線18に印加するかどうかを制御する」から、引用発明における「電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631が発生するプリチャージ電圧をソース信号線18に印加するかどうかを制御する」「電圧出力制御部632」の「出力」は、本願補正発明の「プリチャージを実施するか否かを設定する前記プリチャージ制御信号」に相当する。そうすると、本願補正発明の「プリチャージを実施するか否かを設定する前記プリチャージ制御信号を発生するコントローラIC」と引用発明の「階調データの値に応じて前記電圧出力制御部632の出力を変化し、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631が発生するプリチャージ電圧を前記ソース信号線18に印加するかどうかを制御する」「電圧出力制御部632」とは、「プリチャージを実施するか否かを設定する前記プリチャージ制御信号を発生するコントローラ回路」の点で一致する。
さらに、引用発明では、電圧出力制御部632は、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631が発生するプリチャージ電圧をソース信号線18に印加するかどうかを制御する。ここで、電圧出力制御部632、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631、電圧出力制御部632は、何れもソースドライバ14が有しているから、ソースドライバ14はソース信号線18にプリチャージ電圧を印加すると言える。
してみると、本願補正発明の「入力される前記映像信号に基づいて、前記画素で、プリチャージを実施するか否かを設定する前記プリチャージ制御信号を発生するコントローラICとを具備し、前記コントローラICからの前記プリチャージ制御信号は、前記ソースドライバICに印加され、前記ソースドライバICは、前記プリチャージ制御信号に対応して、前記ソース信号線に前記プリチャージ電圧を出力する」ことと、引用発明の「…、電圧出力制御部632、プリチャージスイッチ(アナログスイッチ)636を有するソースドライバ14を具備し、…、前記電圧出力制御部632は、前記階調データの値に応じて前記電圧出力制御部632の出力を変化し、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631が発生するプリチャージ電圧を前記ソース信号線18に印加するかどうかを制御する」ことは、「入力される前記映像信号に基づいて、前記画素で、プリチャージを実施するか否かを設定する前記プリチャージ制御信号を発生するコントローラ回路」の点、及び、「ソースドライバ回路は、前記プリチャージ制御信号に対応して、前記ソース信号線に前記プリチャージ電圧を出力する」点で共通する。

以上のことから、本願補正発明と引用発明は、
「EL素子を有する画素がマトリックス状に配置されたEL表示装置であって、
前記画素に映像信号に対応したプログラム電流を印加する電流出力回路と、前記画素にソース信号線を介してプリチャージ電圧を印加する電圧出力回路とを有するソースドライバ回路と、
入力される前記映像信号に基づいて、前記画素で、プリチャージを実施するか否かを設定する前記プリチャージ制御信号を発生するコントローラ回路とを具備し、
前記ソースドライバ回路は、前記プリチャージ制御信号に対応して、前記ソース信号線に前記プリチャージ電圧を出力するEL表示装置。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:入力される映像信号に基づいて、画素で、プリチャージを実施するか否かを設定するプリチャージ制御信号を発生するコントローラ回路が、本願補正発明では、ソースドライバ回路とは別の回路であるコントローラICであり、該コントローラICからのプリチャージ制御信号は、ソースドライバICに印加されるのに対し、引用発明では、電圧出力制御部632がソースドライバ14に含まれ、該電圧出力制御部632の出力は、ソースドライバ14に印加するまでもなくソースドライバ14内に出力されている点。

相違点2:「プリチャージ制御信号に対応して、前記ソース信号線に前記プリチャージ電圧を出力する」ソースドライバ回路に関し、本願補正発明では、ソースドライバICが「プリチャージ制御信号を保持するラッチ回路」を有するのに対し、引用発明では、ソースドライバ14がプリチャージ制御信号を保持するラッチ回路を有するのか否か不明である点。

相違点3:「ソースドライバ回路」、「コントローラ回路」が、本願補正発明では、それぞれ、ICであるのに対し、引用発明では、ICであるのか否か不明である点。

3-2-4 判断
以下、上記相違点について検討する。
相違点1について: 本願補正発明と引用発明の両者は、映像信号に基づいて、前記画素で、プリチャージを実施するか否かを設定する前記プリチャージ制御信号を発生している点で共通しており、該プリチャージ制御信号を発生するコントローラ回路をソースドライバ回路とは別の回路として設け、プリチャージ制御信号をソースドライバ回路に供給するよう構成するか、あるいは、ソースドライバ回路が該コントローラ回路を含むように設けて構成するか、その何れを選択するかは、当業者が適宜な選択し得る設計的事項にすぎない。そうすると、引用発明において、電圧出力制御部632をソースドライバ14とは別の回路として設け、電圧出力制御部632の出力をソースドライバ14に供給するよう構成し、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項と為すことに困難性は無い。

相違点2について: 一般に、制御信号に応じてスイッチ等を制御する際、該制御信号を保持するラッチ回路を設けることは、例を示すまでもなく、周知技術である。そうすると、引用発明において、電圧発生部(プリチャージ電圧発生回路)631が発生するプリチャージ電圧をソース信号線18に印加するかどうかを制御するに当たり、電圧出力制御部632の出力を保持するラッチ回路を設けることに困難性は無い。

相違点3について: 一般に、表示装置を駆動する回路を構成するに当たり、該回路をICとして構成することは、周知技術である。そうすると、引用発明に前記周知技術を適用し、「ソースドライバ回路」、「コントローラ回路」を、それぞれ、「ソースドライバIC」、「コントローラIC」として構成することは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。

そして、本願補正発明が奏する作用効果は、引用発明と周知技術とに基いて当業者が容易に予測しうる程度のものである。

3-2-5 審判請求人の主張に対して
審判請求人は、平成22年7月23日付け回答書において、
(1)「 すなわち、本願の出願当初明細書および図面を参照して説明しますと、コントローラ81は図235に図示するように、プリチャージモード(PMODE)信号により、プリチャージ信号の発生を容易に変更することができます。たとえば、PMODEとは、階調0のみをプリチャージするモード、階調0-7など一定の階調範囲をプリチャージするモード、画像データが明るい画像データから暗い画像データに変化する時にプリチャージするモード、一定のフレームで連続して低階調表示となる時に、プリチャージするモードなどが例示されます。また、ソースドライバICについては、図236、段落(0760)などで詳細に説明を行っております。
つまり、請求項1に係る本願発明は、プリチャージをするか否かの判定をコントローラICでおこなっており、『コントローラICにより、高度なかつ多種多様なプリチャージ判定を実施あるいは設定できる』という第1の格別の効果を発揮します。」
(2)「 また、画素ごとにプリチャージの実施の有無を判定したプリチャージ制御信号をソースドライバIC内のラッチ回路に保持させることにより、1画素行同時にプリチャージ処理を実施することができます。その1画素行同時のプリチャージ処理の実施のために必要とされるソースドライバICに形成する回路は、各画素に対応したプリチャージ制御信号に対して各1ビット分を形成するだけでよく、『回路規模を大幅に低減することができる』という第2の格別の効果も発揮します。」
と主張するので、以下検討する。
(1)の主張に対して
審判請求人の主張は、プリチャージモード(PMODE)信号を用い、コントローラICが該信号を判定してプリチャージを実施することで、種々のプリチャージ(一定の階調範囲をプリチャージするモード、画像データが明から暗に変化するときにプリチャージするモードなどの種々のプリチャージ)を実施できる旨の主張である。しかしながら、本件補正後の請求項1には、コントローラICを備えることは記載されているものの、プリチャージモード(PMODE)信号を用いることや、プリチャージに種々のプリチャージがあることは、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されていない。したがって、審判請求人の上記主張は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されていない事項に基づく主張であるから、採用することはできない。

(2)の主張について
引用発明における「電圧出力制御部632」の「出力」は、「電圧発生部631が発生するプリチャージ電圧をソース信号線18に印加するかどうかを制御する」出力であり、該出力が有する情報は、「プリチャージ電圧をソース信号線18に印加するかどうか」の1ビット分の情報である。そうすると、引用発明に、制御信号に応じてスイッチ等を制御する際、該制御信号を保持するラッチ回路を設ける前記周知技術を適用する際、形成するラッチ回路として1ビット分の情報を保持するラッチ回路を形成することは当業者であれば当然に為すべき設計事項である。してみると、審判請求人が主張する「対応したプリチャージ制御信号に対して各1ビット分を形成するだけでよく、『回路規模を大幅に低減することができる』」との作用効果は、当業者が引用発明と周知技術に基いて予測し得る程度のものであり、格別の作用効果とは認められない。よって、審判請求人の上記主張は採用することができない。

3-2-6 独立特許要件についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明と周知技術とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する特許法126条5項の規定に違反するものであり、平成18年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
上記「第2」のとおり、平成20年11月12日付け手続補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1-6に係る発明は、平成20年6月4日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1の記載は以下のとおりである。
「 EL素子を有する画素がマトリックス状に配置されたEL表示装置であって、
前記画素に映像信号に対応したプログラム電流を印加する電流出力回路と、前記画素にソース信号線を介してプリチャージ電圧を印加する電圧出力回路とを有するソースドライバ回路と、
入力される前記映像信号に基づいてプリチャージ制御信号を発生するコントローラ回路とを具備し、
前記コントローラ回路からの前記プリチャージ制御信号は、前記ソースドライバ回路に印加され、
前記ソースドライバ回路は、前記プリチャージ制御信号に対応して、前記ソース信号線に前記プリチャージ電圧を出力することを特徴とするEL表示装置。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用発明
2-1 引用刊行物とその記載事項
引用刊行物とその記載事項は、上記「第2 3-2-1」に記載したとおりである。

2-2 引用発明の認定
引用発明は、上記「第2 3-2-2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2 3」で検討した本願補正発明から、「ソースドライバ回路に、前記プリチャージ制御信号を保持するラッチ回路を備え」るとの限定と、「ソースドライバ回路」、「コントローラ回路」がそれぞれ「ソースドライバIC」、「コントローラIC」であるとの限定を解除し、「前記画素で、プリチャージを実施するか否かを設定する前記プリチャージ制御信号」から「プリチャージ制御信号」を説明する「前記画素で、プリチャージを実施するか否かを設定する前記」を削除した発明である。
そうすると、本願発明と引用発明は、上記「第2 3-2-3」に記載した相違点1の点で相違する。
そして、上記相違点1についての判断は、上記「第2 3-2-4」に記載したとおりである。
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-22 
結審通知日 2011-03-29 
審決日 2011-04-22 
出願番号 特願2003-86831(P2003-86831)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09G)
P 1 8・ 575- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 直明  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 江塚 政弘
越川 康弘
発明の名称 EL表示装置  
代理人 松田 正道  
代理人 特許業務法人 松田国際特許事務所  

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