• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65B
管理番号 1238126
審判番号 不服2010-3673  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-19 
確定日 2011-06-09 
事件の表示 特願2003-426344「包装体の殺菌方法および包装体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月 7日出願公開、特開2005-178890〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年12月24日の出願であって、平成21年11月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年2月19日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成22年2月19日付けの手続補正の却下の決定が平成23年1月5日付けでなされるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成23年3月14日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る発明は、平成23年3月14日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「包装体における内容物と接する面に、層厚が120?500オングストロームの珪素酸化物からなる蒸着層が形成され、
前記包装体の内部に80?150℃の過酸化水素ミストを吹き込むことで、前記蒸着層上から殺菌処理が行われたことを特徴とする包装体。」

3.当審の拒絶理由
当審において平成23年1月5日付けで通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

[拒絶理由1]
この出願の請求項1-11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開平7-257584号公報
2.特開2001-39414号公報
3.実願平5-60880号(実開平7-28803号)のCD-ROM

[拒絶理由2]
この出願の請求項1-11に係る発明は、その出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された下記の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人がその出願に係る上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

特願2003-133919号(特開平2004-338719号)

4.当審の判断
4-1.拒絶理由1について
4-1-1.引用例
当審で通知した拒絶理由1に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平7-257584号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】 ガス状のブロー成形媒体を用いてブロー成形することによりプラスチックから包装体を形成し、然る後、該ブロー成形された包装体の内壁上に、バリヤーとして働く珪素化合物からなる被覆を真空蒸着によって形成する、優れたバリヤー性を有する内部無菌包装体の製造方法において、前記包装体をブロー成形するのに用いるガス状媒体を、前記包装体の内壁上に被覆を形成するための真空蒸着工程の工程ガスとしても用いることを特徴とする包装体の製造方法。」(特許請求の範囲参照)

(2)「本発明の方法の一つの好ましい態様に従い、珪素酸化物被覆を化学プラズマ蒸着(CPVD)を用いて適用し、それによって一般化学式SiOx (式中、x は1.8?2.2の範囲にある)の珪素酸化物化合物の極めて薄いが、それにも拘わらず非常に気密な被覆で、優れた気体及び香気バリヤー性の他に、包装されるある種の品物で起きることがある香り及び芳香性物質を吸収せず又は取込まない好ましい性質を有する被覆を達成することができる。そのような所謂非スキャルピング(non-scalping)性は、特に香り及び芳香性物質が豊富に存在する柑橘類フルーツジュース型の品物に関連して特に価値がある。
包装体の内壁上に適用した珪素酸化物被覆の厚さは非常に薄くなければならず、包装される品物により、2000Å未満である。もし品物が気体の影響を受けにくいものであるならば、100Å以下の被覆厚さで全く充分であるが、気体に一層敏感な品物は一層大きな被覆厚さを必要とし、それは品物の気体に対する敏感性と同じ割合で増大し、本発明による包装体についての上限である2000Åに近づく。」(段落【0016】-【0017】参照)

(3)「第一段階として、プラスチック(例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、又はポリエチレンナフテネート)の包装体を、ガス状の媒体を用いる慣用的ブロー成形法によって、例えばボトルの形に製造する。そのガス状の媒体は加圧下で移動可能な二つの半型の間のボトル型空腔の輪郭に沿ってプラスチックブランク(plastic blank) を形成する。ガス状媒体として、後の被覆段階で用いるのと同じ種類の工程ガスを使用するのが好ましく、それによって以下に一層詳細に記述するように、慣用的化学プラズマ蒸着(CPVD)法に従い薄い被覆でブロー成形プラスチックボトルの内壁を被覆する。この好ましい態様では、選択された工程ガスは、酸素ガス、気化した有機珪素化合物(例えば、テトラメチルジシロキサン)及び不活性ガス(例えば、ヘリウム)を、互いに予め定められた相互混合比で混合したものからなり、選択された工程条件で後の被覆段階でボトルの内壁上に所望の被覆が形成されるようにする。然る後、ブロー成形したボトルを、ガス状のブロー媒体として用いた上記工程ガスが未だ中に入っている間に、後の工程段階のために密封する。
工程ガスを閉じ込めたブロー成形密封プラスチックボトルを、次にできれば中間保存時間(intermediate storage time) の後、上記被覆段階へ移し、そこでボトルを先ず適当な貫通材によって制御された仕方で開封又は孔をあけ、ボトル封鎖部を通過する通路又は孔を形成し、同時にそのボトルを取り巻く周囲の雰囲気を、真空ポンプにより減少し、そのポンプによってボトル中に閉じ込められた工程ガスの圧力をプラズマ放電のための特定の水準に設定する。然る後、ボトルを化学プラズマ蒸着用に構成した処理室中へ入れ、そこでプラズマを予め定められた強さ及び周波数のマイクロ波電場によって着火させる。プラズマの目的は二つある。第一は、プラズマ中に存在するエネルギーによって工程ガス分子を励起し、ボトルの内壁上に蓄積する所望の珪素酸化物化合物の被覆を生成させることにあり、第二に、プラズマは酸化性を持つので、ボトルの内壁が同時に殺菌状態に清浄化され、このようにして形成された珪素酸化物被覆によりボトルの壁を通過する気体及び香気の移動に対するバリヤー性を得ると同時に、ボトル内部が殺菌された状態になる結果が得られる。」(段落【0022】-【0023】参照)

(4)「前に述べたように、このようにして形成された珪素酸化物被覆の組成は、その厚さと同様、処理室中の化学プラズマ蒸着被覆工程の時間及び工程ガスの組成の調節により、夫々制御することができる。この態様では、含まれる化学的反応ガス(酸素ガス及び気化した有機珪素化合物)に関して用いられた工程ガスの組成を、生成する被覆が一般化学式SiOx (式中、x は、被覆のための最適組成範囲であることが判明している、1.8?2.2の範囲にある)の珪素酸化物化合物からなるように調節する。更に、被覆の厚さは変えることができ、その場合最終ボトルに所望のバリヤー性を与える2000Å未満の厚さに被覆が達した時にその工程を止める。
内部被覆したボトルが依然として内部が殺菌状態にある間に後の殺菌室中にボトルを導入し、部分的に先に貫通したボトル閉鎖部に後の無菌密封のために適したデザインを付与し、然る後、ボトルを殺菌空気で内部をフラッシュ又は濯ぐ。最後にボトルに適当な品物を充填し、その品物を消費する場所又は小売販売経路へ更に輸送するために無菌密封する。」(段落【0024】-【0025】参照)

以上の記載からすると、引用例1には、
「ボトルの内壁上に、珪素化合物からなる2000オングストローム未満の厚さの被覆が真空蒸着によって形成され、
上記ボトルの内部は殺菌空気でフラッシュ又は濯がれるボトル。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4-1-2.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「ボトル」及び「内壁上」は、それぞれ本願発明の「包装体」及び「内容物と接する面」に相当し、
また、引用発明の真空蒸着によって形成される「珪素化合物からなる被覆」は、本願発明の「珪素酸化物からなる蒸着層」に相当し、
引用発明において「ボトルの内部は殺菌空気でフラッシュ又は濯がれる」ことは、本願発明でいう「蒸着層上から殺菌処理が行われ」ることに対応するものであるから、両者は、
「包装体における内容物と接する面に、珪素酸化物からなる蒸着層が形成され、
前記蒸着層上から殺菌処理が行われた包装体。」
である点で一致し、以下の各点で相違する。

相違点1;本願発明では、珪素酸化物からなる蒸着層の層厚が120?500オングストロームであるのに対し、引用発明では、珪素化合物からなる被覆の厚さは2000オングストローム未満とされている点。

相違点2;本願発明では、蒸着層上からの殺菌処理が、包装体の内部に80?150℃の過酸化水素ミストを吹き込むことで行われるのに対し、引用発明では、ボトルの内部は殺菌空気でフラッシュ又は濯がれる点。

4-1-3.判断
上記各相違点について検討すると、
・相違点1について
本願発明の珪素酸化物からなる蒸着層の層厚の範囲(120?500オングストローム)は、引用発明の2000オングストローム未満の範囲に含まれるものであり、
また、プラスチック容器のバリア性を向上するために、該容器の内面に形成された酸化珪素膜において、その厚さを120?500オングストロームの範囲とすることは、通常になされていること(例えば、特開2003-341645号公報の実施例1?4、特開2002-179068号公報の実施例1、特開2000-255579号公報の段落【0039】、特開平7-41579号公報の各実施例を参照。)であるので、
引用発明において、珪素化合物からなる被覆の厚さを、120?500オングストロームの範囲とすることは、当業者が容易になし得たものである。

なお、本願発明の珪素酸化物からなる蒸着層を120?500オングストロームとしていることは、本願明細書の段落【0013】の「本発明の包装体においては、従来技術において容器のバリア性を向上させるために形成される、例えば、50?4000オングストローム程度の厚い蒸着層とは異なり、極薄い蒸着層を形成することにより、上述のように安全性の高い包装体を提供することができる。」の記載と矛盾しており、本願発明の珪素酸化物からなる蒸着層の層厚の範囲(120?500オングストローム)は、容器のバリア性を向上させるために従来から用いられている範囲の層厚を含むものである。

・相違点2について
ボトル等に内容物を充填する際の殺菌手段として、加熱された過酸化水素ミストを用いることは、本願出願前周知・慣用の技術(例えば、特開2001-39414号公報、特開平3-224469号公報を参照。)であり、上記加熱された過酸化水素ミストは、加熱気化されたものであるから、その温度は、80?150℃程度になっているものと認められることより、
引用発明に上記周知の殺菌手段を採用し、上記相違点2の本願発明のようになすことは、当業者が容易になし得たものである。

以上、要するに、本願発明は、バリア性を向上するために従来から用いられている厚さの酸化珪素蒸着層を内面に形成したボトル等の包装体において、その内部を周知・慣用の殺菌手段を用いて殺菌したものにすぎない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知・慣用の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4-2.拒絶理由2について
4-2-1.先願明細書等
当審で通知した拒絶理由2に引用された、特願2003-133919号(特開平2004-338719号)の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、以下の各事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
無菌充填包装に用いる容器の最内面に、殺菌用薬剤の吸着を防止する無機化合物蒸着膜が設けられていることを特徴とする無菌充填容器。
【請求項2】
前記容器の最内面が、ポリエチレンテレフタレート樹脂又はポリスチレン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の無菌充填容器。
【請求項3】
前記無機化合物蒸着膜が、化学蒸着法にて成膜された酸化珪素蒸着膜であることを特徴とする請求項1又は2記載の無菌充填容器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の無菌充填容器において、容器の殺菌に使用する薬剤が、過酸化水素又は過酢酸を主成分とする殺菌剤であることを特徴とする無菌充填容器。」(特許請求の範囲参照)

(2)「【発明の属する技術分野】
本発明は、液体飲料や食品あるいは医薬品等の無菌充填包装に使用する無菌充填容器に関する。
【従来の技術】
一般に液体飲料や食品あるいは医薬品等の無菌充填包装において用いられる容器の殺菌方法には、過酸化水素や過酢酸のような薬剤や、スチームなどの熱や、γ栓や電子ビーム等の放射線照射が用いられ、この中で、無菌充填包装機内において、包装容器を殺菌する場合には、過酸化水素や過酢酸といった薬剤が使用される場合が多い。
上記殺菌方法を適用する無菌充填包装に使用する容器としては、通常のポリエチレンテレフタレート樹脂製のプラスチックボトル(PETボトル)や、ポリスチレン樹脂製のカップ(PSカップ)、紙を主体としてプラスチックフィルムを複合してなる紙製容器(紙パック)、あるいは金属缶やガラス瓶などが用いられている。
PETボトルやPETカップ、PSボトルやPSカップ、紙パックといった容器の場合、過酸化水素や過酢酸といった薬剤を用いると、容器内面にある樹脂表面の吸着作用により、容器内面に付着した殺菌後の過酸化水素や過酢酸などの薬剤が十分に除去できず、容器内面に残留する問題がある。
また、容器内面に残留した殺菌薬剤を除去するためには、ホットエアーなどの吹き付けによる簡易な方法では十分に除去できず、無菌水による洗浄操作といった大掛かりな洗浄装置が必要になる。」(段落【0001】-【0005】参照)

(3)「【発明の実施の形態】
本発明の無菌充填容器の発明の実施の形態を以下に詳細に説明すれば、図1は本発明の無菌充填容器Aの側断面図であり、例えばボトル状の容器外壁部1の最内面に、無機化合物蒸着膜2が設けられているものである。
無機化合物蒸着膜2は、ボトル状、カップ状、トレー状など適宜な容器形態に成形した後の容器外壁部1を、化学蒸着装置のチャンバー内に装填し、そのチャンバー内に装填した容器外壁部1の容器形態内部に、包装内容物を充填する充填口3から無機化合物の蒸着膜を形成するための蒸着用ガスを供給ノズル(図示せず)等にて供給して、容器外壁部1の内面に無機化合物蒸着膜2を形成したものである。
前記無機化合物蒸着膜2としては、例えば、シラン化合物モノマーを加熱してガス化したシラン化合物ガスと酸素とを用いて、化学蒸着法(CVD法)により蒸着形成した酸化珪素蒸着膜が適当である。
本発明の無菌充填容器は、一般的な通常の無菌充填包装機によって、所定の内容物を無菌充填包装することができる。
図2は、 本発明の無菌充填容器Aを殺菌処理する殺菌装置の概要図であり、殺菌用薬剤aとして過酸化水素又は過酢酸などの殺菌剤を加熱して蒸気化する薬剤気化室10 と、気化した殺菌用薬剤aを送流する送流パイプ部20と、無菌充填容器Aに対して気化した殺菌用薬剤aを供給する薬剤供給口30からなる。
薬剤気化室10内には、過酸化水素又は過酢酸などの殺菌用薬剤aを気化室10内に供給する供給ノズル11と、気化室10内に供給された薬剤aを加熱して気化する加熱部12(加熱ヒーター)を備える。
気化した殺菌用薬剤aは、気化室10から送流パイプ部20を通って供給口30に供給され、無菌充填容器Aは、供給口30から供給される気化した殺菌用薬剤aにより殺菌処理される。
無菌充填容器Aの内面には、殺菌処理に使用した気化した殺菌用薬剤aが、温度降下により凝集し付着残留するものであるが、殺菌用薬剤aは、容器A内面の無機化合物蒸着膜2に吸着されることはない。」(段落【0011】-【0018】参照)

(4)「<実施例1>
無菌充填包装に用いる容器Aとしてポリエチレンテレフタレート樹脂製のPETボトル(充填可能容積200ml) を用い、その容器の最内面(内容物と接する面)に殺菌用薬剤が吸着するのを防止するために、その容器Aの最内面に化学蒸着法にて酸化珪素蒸着膜を成膜し、 本発明の無菌充填容器A(9個)を作製した。次に、作製した9個の本発明の無菌充填容器Aを、殺菌工程(I)において過酸化水素35%蒸気を殺菌剤とする殺菌装置(蒸気用加熱ヒーター温度300℃、過酸化水素蒸気スプレー量0.5ml/秒)に通し、容器A内面に過酸化水素蒸気をスプレーして殺菌した。続 いて、殺菌した各容器Aを、乾燥工程(II)においてホットエアー乾燥装置(乾燥用ホットエアー)に通し、容器A内面に付着する過酸化水素の乾燥を行って 殺菌処理を行った。なお、乾燥工程(II)においては、9個の容器Aを3個1組として3組に分け、その内の1組目の容器Aの乾燥装置の乾燥用ホットエアー 温度の設定値を40℃、2組目を80℃、3組目を120℃の各段階に分けて行った。また、殺菌処理後の各容器A内面の過酸化水素の残留量の計測は、殺菌処 理後の容器A内に200mlの蒸留水を充填した後の該蒸留水中の過酸化水素量を酸素電極法にて計測した。」(段落【0027】-【0029】参照)

(5)「<比較例1>
無菌充填包装に用いる容器Aとして、容器Aの最内面に酸化珪素蒸着膜の成膜を行わない内面未処理のポリエチレンテレフタレート樹脂製のPETボトル(充填可能容積200ml)を9個用意した。
次 に、上記9個の内面未処理の各容器Aを、実施例1と同様にして、殺菌工程(I)において過酸化水素35%蒸気を殺菌剤とする殺菌装置(蒸気用加熱ヒーター 温度300℃、過酸化水素蒸気スプレー量0.5ml/秒)に通し、容器A内面に過酸化水素蒸気をスプレーして殺菌し、続いて、殺菌した各容器Aを、実施例 1と同様にして、乾燥工程(II)においてホットエアー乾燥装置(乾燥用ホットエアー)に通して、容器A内面に付着する過酸化水素の乾燥を行って殺菌処理 を行った。なお、乾燥工程(II)においては、実施例1と同様にして、9個の容器Aを3個1組として3組に分け、その内の1組目の容器Aの乾燥装置の乾燥 用ホットエアー温度の設定値を40℃、2組目を80℃、3組目を120℃の各段階に分けて行い、また、殺菌処理後の各容器A内面の過酸化水素の残留量の計 測は、殺菌処理後の容器A内に200mlの蒸留水を充填した後の該蒸留水中の過酸化水素量を酸素電極法にて計測した。」(段落【0033】-【0034】)

(6)「<評価結果>
上記実施例1、2、及び比較例1、2における各容器の内面に残留する過酸化水素量の計測値(ppm)を表1に示す。なお、評価において、○は過酸化水素残留無し、容器の熱変形無しにて良好、△は容器の熱変形無し、過酸化水素残留がやや有りにてやや良好、×は過酸化水素残留有りにて不良を示す。」(段落【0038】参照)

(7)段落【0039】の【表1】には、実施例1及び比較例1の「乾燥工程設定温度」が80℃のとき、それぞれ過酸化水素残留値が1.0ppm及び0.1ppm以下(検出限界以下)となっていることが示されている。

以上の記載からすると、先願明細書等には、
「無菌充填容器Aの容器外壁部1の最内面に、無機化合物蒸着膜2が設けられているものであって、
前記無機化合物蒸着膜2としては、シラン化合物モノマーを加熱してガス化したシラン化合物ガスと酸素とを用いて、化学蒸着法(CVD法)により蒸着形成した酸化珪素蒸着膜であり、
上記蒸気無菌充填容器A内面に過酸化水素蒸気をスプレーして殺菌し、
上記無機化合物蒸着膜2を設けることにより、設けないものと比べて過酸化水素残留値を1.0ppmから0.1ppm以下(検出限界以下)に低減された無菌充填容器A。」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

4-2-2.対比
本願発明と先願発明とを対比すると、
先願発明の「無菌充填容器A」及び「酸化珪素蒸着膜」は、それぞれ本願発明の「包装体」及び「珪素酸化物からなる蒸着層」に相当し、
また、先願発明の「上記蒸気無菌充填容器A内面に過酸化水素蒸気をスプレーして殺菌」することは、本願発明でいう「包装体の内部に過酸化水素ミストを吹き込むことで、前記蒸着層上から殺菌処理」を行うことに対応し、 そして、先願発明の過酸化水素蒸気の温度は、加熱されて蒸気となっているものであるから、80?150℃程度であるものと認められることより、両者は、
「包装体における内容物と接する面に、珪素酸化物からなる蒸着層が形成され、
前記包装体の内部に80?150℃の過酸化水素ミストを吹き込むことで、前記蒸着層上から殺菌処理が行われた包装体。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点;本願発明では、珪素酸化物からなる蒸着層の層厚が120?500オングストロームであるのに対し、先願発明では、酸化珪素蒸着膜の厚さが特定されていない点。

4-2-3.判断
上記相違点について検討すると、
先願発明は、容器内面に付着した殺菌後の過酸化水素などの薬剤が十分に除去できず、容器内面に残留する問題を解決するために、容器の最内面に、上記殺菌用薬剤の吸着を防止する酸化珪素蒸着膜が設けられたものであり、本願発明とその課題及び解決手段(「層厚」を除く。)が一致するものである。
また、請求人は、平成23年3月14日付け意見書において、本願発明は、珪素酸化物からなる蒸着層の層厚が120?500オングストロームとし、50オングストロームに比べ、120オングストロームとすると残留過酸化水素濃度が格段と減少していることより、120オングストロームの数値に臨界的意義があると主張しているが、そもそも50オングストロームは、出願当初は本願発明の実施例とされていたものであり、上記層厚が厚くなるにしたがって、ある程度までは残留過酸化水素濃度を減少させる効果が大きくなることは、技術常識であること、そして、下限値の120オングストローム前後の残留過酸化水素濃度が明細書で示されているわけでもなく、50オングストロームに比べ、120オングストロームとすると残留過酸化水素濃度が減少していることは、単に上記層厚が厚くなったことに伴ったものと解され、そして、上限値の500オングストロームについては、上記意見書にもあるように製造コスト程度の意味しかなく、本願発明において珪素酸化物からなる蒸着層の層厚を120?500オングストロームと特定していることに、格別な技術的意義は認められない。
一方、先願発明においては、容器の内面に酸化珪素蒸着膜が設けることにより、設けないものと比べて過酸化水素残留値を1.0ppmから0.1ppm以下(検出限界以下)に、すなわち、90%以上低減しているもので、これは、本願発明の明細書における120オングストロームの実施例での83?86%の低減効果(段落【0046】表1)と比べて、測定条件等が異なるとしても同等程度または超える効果を有するものであるから、先願発明の酸化珪素蒸着膜についても、本願発明と同等程度の厚さを備えているものと推認することができる。また、仮に両者の厚さに差があったとしても、設計上の微差にすぎない。
したがって、上記相違点は、実質的な相違ではない。

よって、本願発明は、その出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人がその出願に係る上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項または同法第29条の2の規定により特許を受けることができないものでもあるから、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-04 
結審通知日 2011-04-05 
審決日 2011-04-18 
出願番号 特願2003-426344(P2003-426344)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B65B)
P 1 8・ 161- WZ (B65B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関谷 一夫  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 佐野 健治
熊倉 強
発明の名称 包装体の殺菌方法および包装体  
代理人 石川 泰男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ