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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1238168
審判番号 不服2010-10760  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-20 
確定日 2011-06-06 
事件の表示 特願2006- 54318「軸受構造、シール構造、及びポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月12日出願公開、特開2006-275286〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成18年3月1日(優先権主張 平成17年3月2日)の出願であって、平成22年2月18日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年5月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明

本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成20年12月25日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認めるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
可動部材と静止部材との間で滑り面を有する軸受構造において、
前記可動部材及び前記静止部材は、熱膨張係数が8×10^(-6)/℃以下の材料でつくられた基部に多結晶ダイヤモンドが被覆され、
前記滑り面が純水又は超純水によって潤滑されることを特徴とする軸受構造。」

3.引用刊行物とその記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物及びその記載事項は次のとおりである。

刊行物1 特表2005-500489号公報
刊行物2 特開平9-184513号公報
刊行物3 特開2004-11566号公報

(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1(特表2005-500489号公報)には、「軸受面又は耐摩耗面をもつ構成部品」に関して、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素基材、前記基材の表面上にあるCVDダイヤモンドの層、及び構成部品の軸受面又は耐摩耗面である前記CVDダイヤモンド層上にある平滑な非平面を含む構成部品。」

(イ)「【0002】
炭化ケイ素などのセラミックスは、バルク形態に作製し、チューブ、ボールなど多様な構造に成形加工することができる。このような構造は、平面、曲面又は他の外形の表面を示す。炭化ケイ素は強度があり、強靭だが、軸受又はブシュ材料として使用した場合、やはり摩耗する。炭化ケイ素は又、それ自体で又は他の多くの材料に対して滑らせた場合、摩擦係数が高い。これらの問題により、炭化ケイ素の三次元軸受又はブシュ材料としての使用が制限されている。」

(ウ)「【0011】
炭化ケイ素は、容易に成型加工して、CVDダイヤモンド層をその上に形成できる様々な外形の表面をもたらし得るセラミックである。炭化ケイ素基材は耐火性で機械的に強靭であり、CVDダイヤモンド層の機械的強度及び支持をもたらす。また、CVDダイヤモンド層を冷たく保つのを助けるのに十分に高い熱伝導性及びCVDダイヤモンドと同等の熱膨張係数を有する。これは、合成温度から冷却したときに、炭化ケイ素/ダイヤモンド界面が示差熱膨張応力によって過度に応力を受けないことを意味する。したがって、炭化ケイ素の表面、すなわち非平面は、容易にCVDダイヤモンドで被覆でき、その後CVDダイヤモンドは炭化ケイ素表面に極めてよく接着する。・・・(以下、略)」

(エ)「【0019】
CVDダイヤモンドは、本質的に単結晶又は多結晶であってよい。CVDダイヤモンド層の外部露出面は、特にこの面を軸受面として使用する場合、平滑であり、好ましくは研磨されている。」

(オ)「【0022】
本発明の構成部品は、軸受面又は耐摩耗面に高い化学的不活性、低い摩擦係数、低い摩耗速度、高硬度、耐摩耗性及び優れた生体適合性が必要とされる状況に対して特定の用途がある。本発明の構成部品の具体例は、以下の通りである。
【0023】
(略)
【0024】
2.内側をCVDダイヤモンド層で被覆し、次いでスライディングシール、バルブガイドなどのブシュ、エンジンに使用されているものなどのシリンダバレル、及び腐食性又は摩耗性流体用のパイプ用に平滑化あるいは研磨してもよい炭化ケイ素チューブ。CVDダイヤモンド層で内側を被覆した炭化ケイ素チューブの例を図2によって示す。この図を参照すると、炭化ケイ素チューブ20は、CVD層24で完全に被覆された内面22を有する。
【0025】
3.ベアリングローラ、スライディングシール、ピストン、カムシャフト又はブシュロッドとして使用できるように研磨してもよいCVDダイヤモンド層で外面を被覆した炭化ケイ素チューブ又はロッド。
【0026】
4.股継手などの玉継手。ボール又はソケットのいずれかあるいはボールとソケットの両方が炭化ケイ素製であってよく、ソケット又はボールのいずれかあるいは両方の軸受面がCVDダイヤモンド層で被覆されており、次いでそれは平滑化される。このような玉継手の例を図3と4によって示す。
【0027】
まず図3を参照すると、継手のボール構成部品が30によって示されており、一端にボール構成部品34を有する基部32を含む。ボール構成部品34の外側の丸みのついた表面36は、CVDダイヤモンド層38を含む。相補のソケット40は、CVDダイヤモンド層44を含む内側の丸い表面42を有する。本発明のこの形態では、ボール構成部品34とソケット40のどちらも炭化ケイ素製である。」

(カ)上記記載事項(ア)、(イ)及び(エ)から、「軸受面又は耐摩耗面をもつ構成部品」は、相対的に摺動する軸受面を有する軸受を含み、上記軸受面は炭化ケイ素の基材の表面にCVDダイヤモンドの層を形成したものであり、上記CVDダイヤモンドは多結晶ダイヤモンドである発明も記載されているものと解される。また、上記記載事項(オ)に記載された実施例からみて、上記軸受は、上記軸受面の双方が炭化ケイ素の基材の表面に多結晶ダイヤモンドの層を形成したものも含むものとして捉えられる。

そうすると、上記記載事項(ア)?(カ)及び図面の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「相対的に摺動する軸受面を有する軸受において、上記軸受面の双方が炭化ケイ素の基材の表面に多結晶ダイヤモンドの層を形成したものである、軸受。」

(2)刊行物2に記載された発明
刊行物2(特開平9-184513号公報)には、「絶縁断熱スリーブおよびこれを用いた軸受構造,定着装置」に関して、図面とともに次の記載がある。

(キ)「【0040】セラミックス系材料の例および特性
・・・線膨張係数・・・の順に記載した。
炭化けい素(SiC)
・・・3.1 ?5 ×10^(-6)/℃・・・(以下、略)」

上記記載事項(キ)の記載からみて、炭化けい素(以下、「炭化ケイ素」と表記する。)の線膨張係数は、3.1 ?5 ×10^(-6)/℃である。

(3)刊行物3に記載された発明
刊行物3(特開2004-11566号公報)には、「マグネットポンプ」に関して、図面とともに次の記載がある。

(ク)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記するようなマグネットポンプで、特に、超純水を取り扱うポンプの内部構造として、主軸と、この主軸に回転部を支持するすべり軸受けを、SiC(炭化珪素セラミック)製とした場合、一定の使用時間を経過してから主軸とすべり軸受けを観察すると、これらの表面に白く変色したところが見られることがある。
【0007】
この変色の原因としては、ポンプ内を流動する極めて電気抵抗の高い(18MΩ-cm程度とされる)超純水が、ポンプ内を流動して主軸及びすべり軸受け面との摩擦により、これらの面に静電気が発生し、この静電気と超純水内に含まれる酸素による電池作用で、主軸及びすべり軸受け面に初期の腐食現象が生じたものと考えられる。これは異物として超純水の純度に影響を与える虞れがある。」

(ケ)「【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のマグネットポンプは、ポンプ室後方の隔壁に固定された主軸に、ポンプ室内で回転するインペラーを有する回転部を、すべり軸受けを介して回転自在に支持したマグネットポンプにおいて、主軸前端部にアース線を接続してポンプ外に導出したことを特徴とする。
【0010】
このように構成した本発明によれば、主軸及びすべり軸受けが炭化珪素セラミック製とされる超純水を取り扱うポンプにおいては、超純水が、ポンプ内を流動して主軸及びすべり軸受け面との摩擦により主軸及びすべり軸受け面に静電気が発生しても、これは逐次、主軸前端部に移動してアース線を介してポンプ外に放電されるので、主軸及びすべり軸受けに蓄電される静電気に起因する電池作用で、主軸及びすべり軸受け面に異物を生じることがなく、取り扱われる超純水の純度に影響を与えることがない。」

(コ)「【0017】
図1において、ブラケット(図示せず)の前部にフロントケーシング2を取着してポンプ室3を形成し、ブラケットに取着した椀状の隔壁4内に主軸5を設け、この主軸5に、すべり軸受け6を介して回転部7を回転支持している。この回転部7は、ポンプ室3内にあって前部にインペラー8を装着し、隔壁4の内側にあって後部にインナーマグネット9を装着したもので、インナーマグネット9に対応して隔壁4の外側にアウターマグネット(図示せず)を配装し、このアウターマグネットをモータ等の原動機(図示せず)に連結している。このようなマグネットポンプの基本構成は、図2に示すような、従来の横軸型のマグネットポンプとして公知のものである。
【0018】
本発明に係るマグネットポンプでは、超純水を取り扱うマグネットポンプとして著効を発揮するように、主軸5及びすべり軸受け6は、炭化珪素セラミック製としている。この場合、超純水が、ポンプ内を流動して主軸5及びすべり軸受け6面との摩擦で主軸5及びすべり軸受け6面に発生する静電気を放電するために、主軸前端部にアース線15を接続してポンプ外に導出している。」

そうすると、上記記載事項(ク)?(コ)及び図面の記載からみて、上記刊行物3には次の発明(以下、「刊行物3発明」という。「すべり軸受け」は、「すべり軸受」と表記する。)が記載されているものと認められる。
「ポンプ室後方の隔壁に固定された主軸、及びこの主軸に回転部を回転自在に支持するすべり軸受を炭化珪素セラミック製とし、超純水がポンプ内を流動して主軸及びすべり軸受面との摩擦で静電気が発生するすべり軸受において、
主軸前端部にアース線を接続してポンプ外に導出したすべり軸受。」

4.対比・判断

4-1.刊行物1発明を主たる引用例とする場合

(1)一致点
本願発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における「相対的に摺動する軸受面を有する軸受」は、相対的に摺動する軸受面を構成する一方が可動部材で他方が静止部材の場合と、双方が可動部材の場合があるが、いずれにしても相対的に摺動する軸受であるから、実質的に、本願発明の「可動部材と静止部材との間で滑り面を有する軸受構造」に相当する。
刊行物1発明の「上記軸受面の双方が炭化ケイ素の基材の表面に多結晶ダイヤモンドの層を形成したものである」は、本願発明の「前記可動部材及び前記静止部材は、熱膨張係数が8×10^(-6)/℃以下の材料でつくられた基部に多結晶ダイヤモンドが被覆され」のうち、少なくとも、「前記可動部材及び前記静止部材は、基部に多結晶ダイヤモンドが被覆され」である点で共通している。
また、刊行物1発明の「軸受」は、その機能からみて、本願発明の「軸受構造」に相当する。

したがって、両者は、本願発明の表記にならえば、
「可動部材と静止部材との間で滑り面を有する軸受構造において、
前記可動部材及び前記静止部材は、基部に多結晶ダイヤモンドが被覆された、軸受構造。」である点において一致している。

(2)相違点
一方、両者の相違点は、以下のとおりである。

[相違点1]
前記可動部材及び前記静止部材の基部は、本願発明が「熱膨張係数が8×10^(-6)/℃以下の材料でつくられ」ているのに対し、刊行物1発明が「炭化ケイ素」である点。

[相違点2]
本願発明は、「前記滑り面が純水又は超純水によって潤滑される」のに対し、刊行物1発明は、潤滑に関して明らかではない点。

(3)相違点1,2についての検討
(3-1)相違点1について
刊行物1発明の基部は炭化ケイ素であり、刊行物2には炭化ケイ素の線膨張係数が3.1?5×10^(-6)/℃であることが記載されている。ところで、熱膨張係数は、線膨張係数と体膨張係数に区別されるが、一般に固体に対しては線膨張係数を熱膨張係数として表記することが多いから、上記刊行物2に記載された炭化ケイ素の線膨張係数は上記相違点1に係る熱膨張係数の数値範囲に含まれるものと解される。仮に、そうでないとしても、炭化ケイ素の熱膨張係数が8×10^(-6)/℃以下であることは、固有の物性として周知事項である(例えば、特開2002-103024号公報の段落【0042】には炭化ケイ素の熱膨張係数が4.2×10^(-6)/℃であることが記載され、特開2004-53591号公報の請求項6には炭化ケイ素の熱膨張係数が約4.5×10^(-6)/℃であることが記載されている)。そうすると、いずれにしても、刊行物1発明の基部に用いられた炭化ケイ素は、その固有の物性として熱膨張係数が8×10^(-6)/℃以下の材料であるから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

(3-2)相違点2について
上記刊行物3には、超純水がポンプ内を流動するマグネットポンプのすべり軸受に炭化ケイ素を用いた発明が記載されている。そうすると、刊行物1発明と刊行物3発明に接した当業者であれば、刊行物1発明に純水又は超純水によって潤滑される運転条件又は環境条件を適用してその滑り面が純水又は超純水によって潤滑されるようにする程度のことは当業者が容易に想到し得たことであり、刊行物1の記載に照らして、当業者が純水や超純水によって潤滑される運転条件又は環境条件での使用をためらうような事情は見あたらない。
したがって、刊行物1発明に刊行物3に記載された運転条件又は環境条件を適用して、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)本願発明の効果について
本願発明が奏する低摩擦係数を維持し優れた耐摩耗性を示すといった効果は、刊行物1?3に記載された発明から当業者が予測できるものである。なお、本願発明について、純水によって潤滑される条件で60分の試験を行った結果が図19に記載されているが、その評価は大気中で行われた試験結果に基づく判定基準をあてはめて類推したものであって、純水によって潤滑された試験結果を従来例と比較したものではない。さらに、本願発明の超純水によって潤滑される構成は、試験による評価もなされておらず、「優れた摩擦摩耗特性がえられるものと考えられる。」(本願の明細書の段落【0025】)という評価の予測に止まっている。これらのことからも、本願発明の効果は、上記刊行物1?3に記載された発明から当業者が予測できるものであることを示唆している。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成22年5月20日付け審判請求書において、「引用例1は、ダイヤモンド被覆を有するが、どのような液体中又は気体中で用いられるかについて全く記載がない。引用例1は、ドライで使用することを考えていると思われる。」(審判請求書の【請求の理由】3.c.(vi)の項参照。)と主張している。
しかしながら、刊行物1に記載されたような相対的に摺動する軸受面を有する軸受は、多様な機械の軸受に用いられる基礎的な機械要素であり、刊行物1発明が仮にドライで使用されていたとしても、当業者が液体中での使用をためらう理由はない。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。

4-2.刊行物3発明を主たる引用例とする場合

(1)一致点
本願発明と刊行物3発明とを対比すると、刊行物3発明における「ポンプ室後方の隔壁に固定された主軸」は、その機能からみて、本願発明の「静止部材」に相当し、以下同様に、「回転部」は「可動部材」に、「すべり軸受」は「軸受構造」に相当する。
そうすると、刊行物3発明の「ポンプ室後方の隔壁に固定された主軸、及びこの主軸に回転部を回転自在に支持するすべり軸受」は、実質的に、本願発明の「可動部材と静止部材との間で滑り面を有する軸受構造」に相当する。
刊行物3発明の「超純水がポンプ内を流動して主軸及びすべり軸受面との摩擦で静電気が発生するすべり軸受」は、すべり軸受が超純水の存在下で用いられるものであるから、実質的に、本願発明の「前記滑り面が純水又は超純水によって潤滑される」に相当する。

したがって、両者は、本願発明の表記にならえば、
「可動部材と静止部材との間で滑り面を有する軸受構造において、
前記滑り面が純水又は超純水によって潤滑される、軸受構造。」である点において一致している。

(2)相違点
一方、両者の相違点は、以下のとおりである。

[相違点3]
前記可動部材及び前記静止部材は、本願発明が「熱膨張係数が8×10^(-6)/℃以下の材料でつくられた基部に多結晶ダイヤモンドが被覆され」ているのに対し、刊行物3発明が炭化珪素セラミック製であって被覆はなく、主軸前端部にアース線を接続してポンプ外に導出したものである点(以下、「炭化珪素」は、適宜「炭化ケイ素」と表記する)。

(3)相違点3についての検討
まず、本願発明の前記可動部材及び前記静止部材が「熱膨張係数が8×10^(-6)/℃以下の材料でつくられた」ものである点について検討するに、上記「4-1.(3-1)相違点1について」において検討したとおり、刊行物3発明の炭化ケイ素は、セラミック製であっても、その固有の物性が熱膨張係数8×10^(-6)/℃以下の材料であるから、上記熱膨張係数に係る構成は実質的な相違点ではない。
次に、本願発明の前記可動部材及び前記静止部材は、上記材料の基部に多結晶ダイヤモンドが被覆されている点について検討する。刊行物1には、上記(イ)に摘記したように「炭化ケイ素は強度があり、強靭だが、軸受又はブシュ材料として使用した場合、やはり摩耗する。炭化ケイ素は又、それ自体で又は他の多くの材料に対して滑らせた場合、摩擦係数が高い。」との問題があることが記載されており、これらを解決するために、すべり軸受の一種である相対的に摺動する軸受面を有する軸受において、炭化ケイ素の基材の表面に多結晶ダイヤモンドの層を形成することにより、摩擦係数を低くし、耐摩耗性を向上させた発明が記載されている。そして、すべり軸受において運転条件や環境条件に応じて摩擦や摩耗に関する特性を考慮することは普遍的な課題であるから、刊行物3発明において、運転条件や環境条件に応じて当業者が刊行物1に記載された軸受の軸受面の構成を適用する動機は十分にある。そして、刊行物3発明が「主軸前端部にアース線を接続してポンプ外に導出した」構成を有するのは、上記軸受面の摩擦によって生じる静電気をポンプ外に放電するためであるところ、上記運転条件や上記環境条件に加えて、構成材料の導電性などの電気的特性に応じて静電気を放電する必要性の有無を考慮することは設計事項であるから、当業者が刊行物3発明の上記放電に関する構成を適宜取捨選択することは何ら困難なことではない。他方、本願発明も上記静電気を放電する構成を否定するものではない。そうすると、刊行物3発明が上記放電に関する構成を有するとしても、そのことが刊行物3発明に刊行物1に記載された軸受面の構成を適用することを妨げる理由にはならない。
したがって、刊行物3発明に刊行物1に記載された軸受面の構成を適用して、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)本願発明の効果について
本願発明が奏する低摩擦係数を維持し優れた耐摩耗性を示すといった効果は、4-1.(4)に述べたとおり、刊行物1?3に記載された発明から当業者が予測できるものである。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成22年5月20日付け審判請求書において、「アース接続を、課題を解決するための必須の構成とする引用例3に引用例1の構成を組み合わせること自体が当業者にとってはありえない。」(審判請求書の【請求の理由】3.c.(vi)の項参照。「引用例3」、「引用例1」は、それぞれ上記「刊行物3」、上記「刊行物1」に相当する。)と主張している。
しかしながら、相対的に摺動する軸受面を有する軸受において、運転条件や環境条件に応じて摩擦や摩耗に関する特性を考慮することは普遍的な課題であるから、刊行物3発明に刊行物1発明に記載された軸受面の構成を適用する程度のことは当業者が容易に想到し得たことであり、上記構成を適用するにあたって本願発明が特段の工夫を要したというものでもない。また、刊行物3発明が上記の放電に関する構成を有することが、刊行物3発明に刊行物1に記載された軸受面の構成を適用することを妨げる理由にならないことは上述のとおりである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上、上記4-1.及び上記4-2.に示したとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし請求項4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。




 
審理終結日 2011-04-07 
結審通知日 2011-04-08 
審決日 2011-04-19 
出願番号 特願2006-54318(P2006-54318)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 勝司佐々木 芳枝  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 山岸 利治
倉田 和博
発明の名称 軸受構造、シール構造、及びポンプ  
代理人 社本 一夫  
代理人 星野 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 千葉 昭男  
代理人 山崎 幸作  
代理人 神田 藤博  
代理人 宮前 徹  

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