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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) B25B |
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管理番号 | 1238185 |
判定請求番号 | 判定2011-600002 |
総通号数 | 139 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2011-07-29 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2011-01-14 |
確定日 | 2011-06-13 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4560268号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号説明書に示す「減速度と慣性モーメントを関数として部品に供給されるトルクを測定する方法及び装置並びに衝撃工具システム」は、特許第4560268号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
1.請求の趣旨 本件判定の請求は、イ号説明書に記載する衝撃工具(YBX-600T)及びそのネジ締結に関する指数計算方法(以下、「イ号物件」という。)が、特許第4560268号の発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。 2.本件特許発明の認定 本件特許発明は、その明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものと認められ、請求人が提案し、被請求人も争わないように、構成要件ごとに分説すれば、次のとおりのものである。 【請求項1】 A.回転子を具備した回転モーター、出力シャフト、及び前記モーター回転子に接続された慣性駆動部材を含んで成る衝撃発生パルスユニットを有するトルク衝撃工具によって送られる一連のトルク衝撃の各毎に、ネジ部品に伝わるトルクの大きさを測定する方法において、 B.各衝撃発生状態の際に、慣性駆動部材の角度変位を検出する工程と、 C.前記検出された角度変位を介して慣性駆動部材の瞬時の角度速度を測定する工程と、 D.各衝撃発生状態の際に、前記測定された瞬時の角度速度を介して前記慣性駆動部材の減速度を測定する工程と、 E.各衝撃発生状態の際に、ネジ部品に伝えられるトルクの大きさを、前記測定された慣性駆動部材の減速度及び、慣性駆動部材及びモーター回転子の総計の慣性モーメントの関数として計算する工程と、 F.を含むことを特徴とする測定方法。(以下、「本件方法発明」という。) 【請求項2】 G.回転子(21)を具備した回転モーター(20)と、出力シャフト(24)と、前記回転子(21)に接続された慣性駆動部材(27)を具備した衝撃発生パルスユニット(23)とデータ蓄積及び処理容量を含くんだ制御ユニット(40)とを備えた、ネジ部品を締め付けるトルク衝撃工具において、 H.回転検出装置(35,38)が、前記制御ユニット(40)に接続され、慣性駆動部材(27)の回転運動に応じて信号を発生するように構成され、 I.前記制御ユニット(40)が、 前記回転検出装置(35,38)によって発生された前記信号を介して前記慣性駆動部材(27)の減速度の大きさを測定し、 J.そして各衝撃発生状態の際に、ネジ部品に伝わるトルクの大きさを、前記測定された減速度及び、慣性駆動部材及びモーター回転子の総計の慣性モーメントの関数として計算するように構成されていることを特徴とする K.衝撃工具。(以下、「本件装置発明」という。) 【請求項3】 L.前記回転検出装置(35,38)が、慣性駆動部材(27)に固く結合され、且つ周縁に沿って複数の磁極(36)を等間隔に分布するように連続して磁化されるリング素子(35)と、 M.前記リング要素(35)に隣接して設けられ、前記磁極(36)によって作動されて、前記慣性駆動部材の回転運動に際して前記磁極(36)の通過に応じて、複数の信号を発生するように構成された固定センサーユニット(38)とを備えることを特徴とする N.請求項2に記載の衝撃工具。(以下、「本件装置発明2」という。) 」 3.イ号物件の認定 3.1 請求人が主張するイ号物件 これに対し、請求人は請求書において、イ号物件の衝撃工具及びそのネジ締結に関する指数計算方法は、本件特許発明の記載に沿って記載すると、以下のとおりのものであると主張している。 [請求項1との対応] a.回転子を具備した回転モーター、出力シャフト、及び前記モーター回転子に接続された慣性駆動部材を含んで成る衝撃発生パルスユニットを有するトルク衝撃工具によって送られる一連のトルク衝撃の各毎に、前記モーター回転子の減速度の指数を計算する方法において、 b.各衝撃発生状態の際に、前記モーター回転子の角度変位を検出する工程と、 c.前記検出された角度変位を介して前記モーター回転子の瞬時の角速度を測定する工程と、 d.各衝撃発生状態の際に、前記測定された瞬時の角速度を介して前記モーター回転子の減速度を測定する工程と、 e.前記モーター回転子の減速度を独自のデジタル値の指数に変換する工程と、 f.を含むことを特徴とする指数計算方法。 [請求項2との対応] g.回転子を具備した回転モーターと、出力シャフトと、前記回転子に接続された慣性駆動部材を具備した衝撃発生パルスユニットとデータ蓄積及び処理容量を含くんだ制御ユニットとを備えた、ネジ部品を締め付けるトルク衝撃工具において、 h.回転検出装置が、前記制御ユニットに接続され、前記回転モーターの回転子の回転運動に応じて信号を発生するように構成され、 i.前記制御ユニットが、 前記回転検出装置によって発生された前記信号を介して前記回転子の減速度の大きさを測定し、 j.そして各衝撃発生状態の際に、前記回転子の減速度を独自のデジタル値の指数に変換するように構成されていることを特徴とする k.衝撃工具。 [請求項3との対応] l.前記回転検出装置が、回転モーターの回転子に固く結合され、且つ周縁に沿って複数の磁極を等間隔に分布するように連続して磁化される円盤と、 m.前記円盤に隣接して設けられ、前記磁極によって作動されて、前記回転モーターの回転運動に際して前記磁極の通過に応じて、複数の信号を発生するように構成された固定センサーユニットとを備えることを特徴とする n.請求項2に記載の衝撃工具。 3.2 考察 ここで、イ号説明書の記載及びイ号物件(YBX-600T)の取扱説明資料の写しである甲第1号証の記載を参照すると、イ号物件において、モーターの回転子の減速度をデジタル値の指数に変換することによって、衝撃工具を用いてねじ部品を締め付ける際に、各衝撃発生状態の際に、ねじ部品に伝えられるトルクの程度が適正であるか否かを評価していることは、当業者にとって自明である。 そして、イ号説明書の記載によれば、モーターの回転子の減速度をデジタル値の指数に変換する工程は、回転検出装置から得られた信号をモーター回転子の角速度に変換したものを微分して得られる電圧を、AD変換器で読み込むため所定の範囲の電圧値となるように調整、つまり所定比率で拡大または縮小したうえ、調整された電圧をAD変換器により0から1024のデジタル値に変換した後、係数0.488を乗じて0から500のデジタル値で表される指数に変換するものである(請求書第21?23ページ参照)。一方、甲第1号証の記載によれば、角加速度値、すなわち減速度のパラメータP01,P02,P03,P04の入力範囲は0から999とされており(甲第1号証8ページ参照)、イ号説明書の記載と整合しないが、いずれにせよ、イ号物件において、モーターの回転子の減速度をデジタル値の指数に変換する工程は、モーター回転子の減速度に定数を乗じることにより、所定範囲内のデジタル値で表される指数に変換するものということができる。 3.3 当審の認定 そこで、上記を踏まえて請求人が主張するイ号物件(YBX-600T)の内容を整理すると、イ号物件は以下の方法と装置を含むものとと認められる。 a.回転子を具備した回転モーター、出力シャフト、及び前記モーター回転子に接続された慣性駆動部材を含んで成る衝撃発生パルスユニットを有するトルク衝撃工具によって送られる一連のトルク衝撃の各毎に、ねじ部品に伝えられるトルクの程度が適正であるか評価する方法において、 b.各衝撃発生状態の際に、前記モーター回転子の角度変位を検出する工程と、 c.前記検出された角度変位を介して前記モーター回転子の瞬時の角速度を測定する工程と、 d.各衝撃発生状態の際に、前記測定された瞬時の角速度を介して前記モーター回転子の減速度を測定する工程と、 e.各衝撃発生状態の際に、前記測定されたモーター回転子の減速度に定数を乗じることにより、所定範囲内のデジタル値で表される指数に変換する工程と、 f.を含む評価方法。(以下、「イ号方法」という。) 及び g.回転子を具備した回転モーターと、出力シャフトと、前記回転子に接続された慣性駆動部材を具備した衝撃発生パルスユニットとデータ蓄積及び処理容量を含くんだ制御ユニットとを備えた、ねじ部品を締め付けるトルク衝撃工具において、 h.回転検出装置が、前記制御ユニットに接続され、前記回転モーターの回転子の回転運動に応じて信号を発生するように構成され、 i.前記制御ユニットが、 前記回転検出装置によって発生された前記信号を介して前記回転子の減速度の大きさを測定し、 j.そして各衝撃発生状態の際に、前記回転子の減速度に定数を乗じることにより、所定範囲内のデジタル値で表される指数に変換するように構成されている k.衝撃工具であって、 l.前記回転検出装置が、回転モーターの回転子に固く結合され、且つ周縁に沿って複数の磁極を等間隔に分布するように連続して磁化される円盤と、 m.前記円盤に隣接して設けられ、前記磁極によって作動されて、前記回転モーターの回転運動に際して前記磁極の通過に応じて、複数の信号を発生するように構成された固定センサーユニットとを備える n.衝撃工具。(以下、「イ号装置」という。) 4.対比と判断 4.1 本件方法発明とイ号方法とについて 4.1.1 構成要件Aについて <対比> 本件方法発明の構成要件Aとイ号方法の構成aとを対比すると、両者は、回転子を具備した回転モーター、出力シャフト、及び前記モーター回転子に接続された慣性駆動部材を含んで成る衝撃発生パルスユニットを有するトルク衝撃工具に関わるものである限りにおいては共通する一方、前者がトルク衝撃工具によって送られる一連のトルク衝撃の各毎に、ねじ部品に伝わるトルクの大きさを測定する方法であるのに対し、後者はトルク衝撃工具によって送られる一連のトルク衝撃の各毎に、ねじ部品に伝えられるトルクの程度が適正であるか評価する方法である点において相違する。 <被請求人の主張> 上記相違点について、被請求人は答弁書において、概略、以下の主張をしている。 イ.請求人のヨーロッパ法人が配布するイ号物件の英文または独文資料である乙第1号ないし第3号証には「torque」または「Drehmoment」の文言が用いられていることから、イ号物件ではトルクの大きさをパラメータとして測定していることは明らかである。 ロ.イ号物件の写真である乙第6号証にトルクメータは見当たらないから、イ号物件では角度エンコーダ、すなわち回転検出装置の出力から減速度を求め、減速度からトルクの大きさを求めていることは明らかである。 ハ.したがって、イ号方法は「トルク衝撃工具によって送られる一連のトルク衝撃の各毎に、ねじ部品に伝わるトルクの大きさを測定する方法」である。 <当審の判断> しかしながら、被請求人の上記主張は、以下の理由により、採用することができない。 a.乙第1号証において、第1ページ頭書の「with integrated angle encoder for highly accurate torque tolerances(被請求人訳:高度に正確なトルク許容値のため、統合された角度エンコーダを有する)」とは、組み込まれた角度エンコーダを有することによって、結果として高度に正確にトルクを制御することができる、との意味に解釈することはできるが、そのためにトルクの大きさを設定しまたは実際に計算している、とまで断定することはできない。 b.乙第1号証第1ページの表及び乙第3号証第14ページの表には、それぞれ「Torque / Nm」及び「Drehmoment / N・m」という見出しの下に数値が記載されており、また、乙第1号証第2ページ下段の表及び乙第3号証第15ページの表には、それぞれ「Parameter」として「P-01 Maximum torque tolerance」または「P-01 Max=obere Drehmoment」、「P-02 Shut-off torque」または「P-02 Zieldrehmoment」、「P-03 Minimum torque tolerance」または「P-03 Min=untere Drehmoment」、「P-04 Threshold torque」または「P-04 Schwellwert fur Impulsbewertung」と記載されているように、「torque」または「Drehmoment」の語が用いられている。しかし、これらP-01ないしP-04の「Range」または「Bereich」(当審訳:範囲)としては0-999と記載されていることから、P-01ないしP-04は実際の物理的単位でのトルクではなく、0から999の範囲の値をとる指数として表されているものと理解される。乙第1号証第1ページの表における「Torque」の数値は、指数の形態でパラメータP-01ないしP-04を設定してねじ部品の締付け作業を行ったときに、結果として実際に生じる締付けトルクを示すものではあっても、締付け作業に際してトルクの数値を設定または計算することを意味するものと理解することはできない。 c.乙第2号証第004ページには「Yokota impulse wrenches are widely used for tightening jobs in the assembly industry, where accurate torque tolerances are necessary.(被請求人訳:ヨコタの衝撃レンチは、正確なトルク許容値が必要であるアセンブリー産業における締付作業のために広く用いられています。)」、「The Yokota range of impulse tools is increasing fast, starting at 6Nm to tighten small joints, and goes up to 600Nm.(被請求人訳:ヨコタの衝撃レンチの範囲は、急速に広がっており、小さいジョイントを締め付ける6Nmから始まって、600Nmにまで至ります。)」、また、同008ページには「YBX-600T/800T: cordless system wrench. Electronic controlled battery impulse wrench with built-in encoder, resulting in very high torque accuracy.(被請求人訳:YBZ-600T/800T:コードレスシステムレンチ。ビルトインされた回転エンコーダを有する電子的に制御されたバッテリー衝撃レンチであり、非常に高いトルクの正確性をもたらします。)」との記載があるが、これらの記載はねじの締付け作業に際して実際に生じる締付けトルクの範囲やその正確性を示すものではあるものの、トルクの大きさを実際に設定または計算していることを指しているものとまでいうことはできない。 d.乙第2号証第008ページの上段の表中の見出し「Torque/Nm*」下の数値については、上記b.で述べたように、ねじ部品の締付け作業を行ったときに、結果として実際に生じる締付けトルクを指すものと理解すべきである。 このことは、同表の注釈に「*Torque specifications / All specified torques are measured on the Yokota testers, series YET, at dynamic airpressure of 0.63MPa.(被請求人訳:トルク仕様 / 指定のトルクはすべて、ヨコタのテスター、シリーズYETで、0.63MPaの動的空圧で測定されます。)」と、別途トルクテスターを使用してトルクを測定することが明記されていることからも、自明である。 e.乙第1号証第2ページの表及び乙第3号証第15ページの表における「torque」または「Drehmoment」も、上記b.で述べたように、ねじの締付け作業を行ったときに、結果として実際に生じるねじの締付けトルクを指すものと理解すべきであり、ねじ部品の締付け作業に際してトルクの大きさを設定または計算していることを示すものということはできない。 上記理由aないしeにより、イ号方法が「トルク衝撃工具によって送られる一連のトルク衝撃の各毎に、ねじ部品に伝わるトルクの大きさを測定する方法」であるということはできないから、イ号方法は本件方法発明の構成要件Aを充足しない。 4.1.2 構成要件Bについて <対比> 本件方法発明の構成要件Bとイ号方法の構成bとを対比すると、両者は各衝撃発生状態の際に角度変位を検出する工程である限りにおいては共通する一方、前者が慣性駆動部材の角度変位を検出するのに対し、後者はモーター回転子の角度変位を検出する点で相違する。 <被請求人の主張> 上記相違点について、被請求人は答弁書において、概略、以下の主張をしている。 イ.イ号物件においても、慣性駆動部材と回転検出装置の円盤とはモーター回転子を介して一体となっており、当該円盤は慣性駆動部材に対し固定されている。 ロ.したがって、角度変位について、慣性駆動部材、モーター回転子及び円盤を区別する意味はない。 <当審の判断> イ号物件において慣性駆動部材とモーター回転子とは一体となって回転するものであるから、慣性駆動部材の角度位置を検出することも、モーター回転子の回転位置を検出することも、その作用において何ら変わるところがない。 したがって、イ号方法は実質的に本件方法発明の構成要件Bを充足する。 4.1.3 構成要件Cについて <対比> 本件方法発明の構成要件Cとイ号方法の構成cとを対比すると、両者は検出された角度変位を介して瞬時の角速度を測定する工程である限りにおいては共通する一方、前者が慣性駆動部材の角速度を検出するのに対し、後者はモーター回転子の角速度を検出する点で相違する。 <被請求人の主張> 上記相違点について、被請求人は答弁書において、概略、上記4.1.2の<被請求人の主張>と同様に、角速度について、慣性駆動部材、モーター回転子及び円盤を区別する意味はない、と主張している。 <当審の判断> 4.1.2の<当審の判断>と同様、慣性駆動部材の角速度を検出することも、モーター回転子の角速度を検出することも、その作用において何ら変わるところがないから、イ号方法は実質的に本件方法発明の構成要件Cを充足する。 4.1.4 構成要件Dについて <対比> 本件方法発明の構成要件Dとイ号方法の構成dとを対比すると、両者は角衝撃発生状態の際に、測定された瞬時の角速度を介して減速度を測定する工程である限りにおいては共通する一方、前者が慣性駆動部材の減速度を検出するのに対し、後者はモーター回転子の減速度を検出する点で相違する。 <被請求人の主張> 上記相違点について、被請求人は答弁書において、概略、上記4.1.2の<被請求人の主張>と同様に、減速度について、慣性駆動部材、モーター回転子及び円盤を区別する意味はない、と主張している。 <当審の判断> 4.1.2の<当審の判断>と同様、慣性駆動部材の減速度を測定することも、モーター回転子の減速度を測定することも、その作用において何ら変わるところがないから、イ号方法は実質的に本件方法発明の構成要件Dを充足する。 4.1.5 構成要件Eについて <対比> イ号発明において、モーター回転子の減速度に定数を乗じることによって所定範囲内のデジタル値で表される指数に変換する工程は、減速度の関数として指数を計算する工程ということもできる。 そこで、本件方法発明の構成要件Eとイ号方法の構成eとを対比すると、両者は各衝撃発生状態の際に、測定された減速度の関数を計算する工程である限りにおいては共通する一方、前者ではねじ部品に伝えられるトルクの大きさを、慣性駆動部材の減速度及び、慣性駆動部材及びモーター回転子の総計の慣性モーメントの関数として計算するのに対し、後者ではデジタル値で表される指数を、モーター回転子の減速度の関数として計算する点で相違する。 <被請求人の主張> 上記相違点について、被請求人は答弁書において、概略、以下の主張をしている。 イ.請求人も認めるとおり、イ号方法では各衝撃発生の際、何らかのパラメータ(指数)を得ており、このパラメータは乙1号証ないし3号証の記載に照らすと、トルクの大きさを表している。 ロ.イ号説明書の記載から明らかなとおり、上記パラメータは減速度に定数を乗じて計算している。 ハ.トルクは回転体の慣性モーメントと角加速度との積であり、慣性モーメントは回転体ごとに定まる定数であるから、ロ.において減速度に乗じる定数は慣性モーメントに定数を乗じたものである。 ニ.慣性駆動部材の減速度とモーター回転子の減速度とは同じである。 ホ.したがって、イ号方法の構成eでは、トルクの大きさを「慣性駆動部材の減速度及び、慣性駆動部材及びモーター回転子の総計の慣性モーメントの関数」として計算している。 <当審の判断> 4.1.1で述べたとおり、イ号方法はねじ部品に伝わるトルクの大きさを測定する方法ではない。 イ号方法において、減速度に乗じる定数は、減速度に対応する電圧がAD変換を経て所定範囲のデジタル値で表される指数となるように選択されるものであって、回転体の慣性モーメントを考慮したものではない。イ号物件説明書、甲第1号証及び乙第1号ないし第3号証のいずれにも、慣性駆動部材及びモーター回転子を含む回転体の総計の慣性モーメントを考慮することについては、記載が何ら見当たらない。 したがって、イ号方法の構成eにおいては、トルクの大きさを慣性駆動部材の減速度及び、慣性駆動部材及びモーター回転子の総計の慣性モーメントの関数として計算しているということはできないから、イ号方法は本件方法発明の構成要件Eを充足しない。 4.1.6 構成要件Fについて <対比> 本件方法発明の構成要件Fとイ号方法の構成fとを対比すると、前者は構成要件AないしEを含む測定方法であるのに対し、4.1.1及び4.1.5で述べたとおり、イ号方法は構成要件A及びEを充足しない。 <当審の判断> したがって、イ号方法は本件方法発明の構成要件Fを充足しない。 4.2 本件装置発明とイ号装置とについて 4.2.1 構成要件Gについて <対比> 本件装置発明の構成要件Gとイ号装置発明の構成gとを対比すると、両者は、回転子を具備した回転モーターと、出力シャフトと、前記回転子に接続された慣性駆動部材を具備した衝撃発生パルスユニットとデータ蓄積及び処理容量を含んだ制御ユニットとを備えた、ねじ部品を締め付けるトルク衝撃工具である点のすべてで一致し、相違点はない。 <当審の判断> したがって、イ号装置は、本件装置発明の構成要件Gを充足する。 4.2.2 構成要件Hについて <対比> 本件装置発明の構成要件Hとイ号装置発明の構成hとを対比すると、両者は、回転検出装置が、前記制御ユニットに接続され、回転運動に応じて信号を発生するように構成される限りにおいて共通する一方、前者では慣性駆動部材の回転運動を検出するのに対し、後者ではモーター回転子の回転運動を検出する点で相違する。 <当審の判断> 4.1.2の<当審の判断>と同様、慣性駆動部材の回転運動を検出することも、モーター回転子の回転運動を検出することも、その作用において何ら変わるところがないから、イ号装置は実質的に本件装置発明の構成要件Hを充足する。 4.2.3 構成要件Iについて <対比> 本件装置発明の構成要件Iとイ号装置発明の構成iとを対比すると、両者は、制御ユニットが、回転検出装置によって発生された信号を介して減速度の大きさを測定する限りにおいて共通する一方、前者では慣性駆動部材の減速度を測定するのに対し、後者ではモーター回転子の減速度を測定する点で相違する。 <当審の判断> 4.1.2の<当審の判断>と同様、慣性駆動部材の減速度を測定することも、モーター回転子の減速度を測定することも、その作用において何ら変わるところがないから、イ号装置は実質的に本件装置発明の構成要件Iを充足する。 4.2.4 構成要件Jについて <対比> 本件装置発明の構成要件Jとイ号装置発明の構成jとを対比すると、前者は各衝撃発生状態の際に、ねじ部品に伝わるトルクの大きさを、測定された減速度及び、慣性駆動部材及びモーター回転子の総計の慣性モーメントの関数として計算するように構成されているのに対し、後者は各衝撃発生状態の際に、回転子の減速度に定数を乗じることにより、所定範囲内のデジタル値で表される指数に変換するように構成されている点で相違する。 <当審の判断> 4.1.1で述べたように、イ号物件はねじ部品に伝わるトルクの大きさを計算するものではなく、また、4.1.5で述べたように、イ号物件は減速度と慣性モーメントの関数を計算するものでもないから、イ号装置は本件装置発明の構成要件Jを充足しない。 4.2.5 構成要件Kについて <対比> 本件装置発明の構成要件Kとイ号装置の構成kとを対比すると、両者は、ともに衝撃工具である点で一致する。 <当審の判断> したがって、イ号装置は本件装置発明の構成要件Kを充足する。 4.3 本件装置発明2とイ号装置とについて 4.3.1 構成要件GないしKについて 上記4.2で述べたとおり、イ号装置は本件装置発明2の構成要件G,H,I,Kを充足し、構成要件Jを充足しない。 4.3.2 構成要件Lについて <対比> 本件装置発明2の構成要件Lとイ号装置の構成lとを対比すると、前者の「慣性駆動部材」と後者の「回転モーターの回転子」とは、ともに回転体の一部である限りにおいて共通し、また、前者の「リング素子」と後者の「円盤」とは、ともに回転体と一体に回転する部材である限りにおいて共通する。 したがって、両者はともに回転検出装置が回転体の一部の周縁に沿って複数の磁極を等間隔に分布するように連続して磁化される、回転体と一体に回転する部材を備える限りにおいて共通する一方、前者では回転体の一部が慣性駆動部材であり、回転体と一体に回転する部材がリング素子であるのに対し、後者では回転体の一部が回転モーターの回転子であり、回転体と一体に回転する部材が円盤である点で相違する。 <当審の判断> 4.1.2で述べたとおり、回転検出装置を慣性駆動部材に備えても回転モーターの回転子に備えても、回転を検出する作用において何ら変わるところはない。また、回転体と一体に回転する部材をリング状としても、円盤状としても、やはり作用上何ら変わるところはない。 したがって、イ号装置は実質的に本件装置発明2の構成要件Lを充足する。 4.3.3 構成要件Mについて <対比> 本件装置発明2の構成要素Mとイ号装置の構成mとを対比すると、両者はともに、回転体と一体に回転する部材に隣接して設けられ、該部材上の磁極によって作動されて、回転体の回転運動に際して前記磁極の通過に応じて、複数の信号を発生するように構成された固定センサーユニットを備える点において、実質的な差異はない。 <当審の判断> したがって、イ号装置は実質的に本件装置発明2の構成要件Mを充足する。 4.3.4 構成要件Nについて <対比> 本件装置発明2の構成要件Kとイ号装置の構成kとを対比すると、両者は、ともに衝撃工具である点で一致する。 <当審の判断> したがって、イ号装置は本件装置発明2の構成要件Nを充足する。 5.均等の主張について 被請求人は答弁書において、「請求項1,2,3では、減速度からトルクの絶対値(SI単位系など特定の単位系でのトルク)が測定されるのに対し、イ号方法では、減速度からトルクの相対値(任意単位でのトルク)が測定される。」としたうえで、両者の均等性についても主張している。 しかしながら、4.1.1にて述べたとおり、イ号方法ではトルクを測定していないから、上記の均等性の主張には根拠がない。 また、4.で検討したとおり、イ号方法は本件方法発明の構成要件A,E及びFを充足せず、イ号装置は本件装置発明の構成要件Jを充足しないが、これら構成要件のうち少なくとも構成要件E及び構成要件Jは、従来技術ではトルクメータでトルクを測定していたものを、トルクメータを用いずに、衝撃工具の回転体の減速度を測定し、該減速度と回転体の慣性モーメントの関数としてトルクを測定するという、本件特許発明の本質的部分をなしているから、均等を論じる余地はない。 6.むすび 以上のとおり、イ号方法は本件方法発明の構成要件A,E及びFを充足せず、また、イ号装置は本件装置発明の構成要件Jを充足しない。 そして、本件特許発明はこれらの構成要件を備えることによって、従来技術ではトルクメータでトルクを測定していたものを、トルクメータを用いず、衝撃工具の回転体の減速度と回転体の慣性モーメントの関数としてトルクを計算によって測定することができるという効果を奏するのに対し、イ号方法及びイ号装置ではトルクの程度について評価するために、別途トルクテスターで測定したトルクを用いてデジタル値の指数と実際のトルクとの対応関係を較正しておく必要がある点で、作用効果においても異なる。 したがって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件のすべてを充足せず、本件特許発明の効果も奏しないから、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり、判定する。 . |
判定日 | 2011-06-02 |
出願番号 | 特願2002-581149(P2002-581149) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZA
(B25B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 今関 雅子、八木 誠 |
特許庁審判長 |
豊原 邦雄 |
特許庁審判官 |
長屋 陽二郎 千葉 成就 |
登録日 | 2010-07-30 |
登録番号 | 特許第4560268号(P4560268) |
発明の名称 | 減速度と慣性モーメントを関数として部品に供給されるトルクを測定する方法及び装置並びに衝撃工具システム |
代理人 | 上野 康成 |
代理人 | 森田 拓生 |
代理人 | 神吉 出 |
代理人 | 鈴木 修 |
代理人 | 末吉 剛 |
代理人 | 辻本 一義 |
代理人 | 辻本 希世士 |