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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04B |
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管理番号 | 1238705 |
審判番号 | 不服2008-15112 |
総通号数 | 140 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-06-16 |
確定日 | 2011-06-13 |
事件の表示 | 平成10年特許願第211208号「マルチバンド用高周波スイッチモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月18日出願公開、特開2000- 49651〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本願は、平成10年7月27日の特許出願であって、平成19年11月6日付けで拒絶理由が通知され、平成20年1月8日付けで手続補正書が提出され、同年4月30日付けで拒絶査定され、これに対して同年6月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月16日付けで手続補正書が提出されたものである。 2.平成20年7月16日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年7月16日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の請求項3に係る発明 平成20年7月16日付けの手続補正(以下,「本件補正」という)は、本件補正前の平成20年1月8日付け手続補正書により補正された請求項3の内容を、 「【請求項3】 通過帯域の異なる複数の送受信系を扱う高周波スイッチモジュールであって、前記複数の送受信系に信号を分波する分波回路を有し、前記各送受信系に送信系と受信系を切り替えるスイッチ回路を有し、前記分波回路から各送受信系における送信系にローパスフィルタ回路を有し、 前記高周波スイッチモジュールは、電極パターンと誘電体層の積層体と、該積層体上に配置されたチップ素子とから構成され、前記積層体の外表面に、前記複数の送受信系の共通端子、送信系端子、受信系端子、グランド端子を有し、 前記積層体の誘電体層には略全面にグランド電極が形成され、他の誘電体層の同一面上に分波回路のコンデンサ用電極とローパスフィルタ回路のコンデンサ用電極が配置され、前記グランド電極と対向して接地コンデンサを形成し、前記グランド電極を介して前記コンデンサ用電極と重ねられた誘電体層に、各スイッチ回路のライン電極が形成されたことを特徴とするマルチバンド用高周波スイッチモジュール。」 から、 「【請求項3】 通過帯域の異なる複数の送受信系を扱う高周波スイッチモジュールであって、前記複数の送受信系に信号を分波する分波回路を有し、前記各送受信系に送信系と受信系を切り替えるスイッチ回路を有し、前記分波回路から各送受信系における送信系にローパスフィルタ回路を有し、 前記高周波スイッチモジュールは、電極パターンと誘電体層の積層体と、該積層体上に配置されたチップ素子とから構成され、前記積層体の外表面に、前記複数の送受信系の共通端子、送信系端子、受信系端子、グランド端子を有し、 前記積層体の誘電体層には略全面にグランド電極が形成され、他の誘電体層の同一面上に配置された分波回路のコンデンサ用電極と各ローパスフィルタ回路のコンデンサ用電極が、前記グランド電極と対向して接地コンデンサを形成し、前記グランド電極を介して前記コンデンサ用電極と重ねられた誘電体層に、各スイッチ回路のライン電極が形成されたことを特徴とするマルチバンド用高周波スイッチモジュール。」 に、変更する補正を含むものである。 上記補正は、他の誘電体層の同一面上に配置されるローパスフィルタ回路のコンデンサ用電極について、補正前の請求項3では単に「ローパスフィルタ回路のコンデンサ用電極」であったものを、「各ローパスフィルタ回路のコンデンサ用電極」に限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の上記請求項3に係る発明(以下、「本件補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 (2)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された:「日刊工業新聞」1998年7月23日発行第28頁中欄(以下、「引用例」という)には、下記の事項が記載されている。 (あ)「送受信切り替え部 アンテナ回路の送受信切り替え部で使われるのはデュプレクサ(FDMA、CDMA)または、アンテナスイッチ(TDMA)である。従来のアナログ電話ではセラミックス、同軸共振器を複数本並べた形のデュプレクサが使われてきた。デジタル電話になると、時分割デュプレックスが可能になったことでアンテナスイッチが使われるようになり、PINダイオード二個と数点の小型チップ部品(L、C、R)だけで構成できるため、大きく重たかった同軸形デュプレクサにとって替わり、大幅な小型、軽量化が進んだ。 最近、デュアルバンド機の実現のため、さらなる小型化が要請されている。デュアルバンド機では送受信切り替えの前にバンド切り替えが必要で、ダイプレクサがそのために使用される。HPFとLPFが複合されたもので、積層セラミックス技術を使った小型の高性能品が開発されている。 <図2-2>で分かるように、アンテナスイッチ、ダイプレクサ、LPFなどいずれも積層セラミックスをベースに作られる機能を、積層技術の長所を利用して一個のモジュールに集積化する試みも行われている。」 (い)図2-2の「デュアルバンド携帯電話の代表的ブロック図」には、送受信モジュラーが、アンテナに接続されるバンド切り替え用分波器と、前記バンド切り替え用分波器に接続されたGSM方式の送受信信号の送受信切り替えスイッチと、前記バンド切り替え用分波器に接続されたDCS方式の送受信信号の送受信切り替えスイッチを含んだ構成が記載されている。 よって、上記(あ)乃至(い)及び関連図面の記載から、引用例には、実質的に下記の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。 「GSM方式の送受信信号及びDCS方式の送受信信号を扱う送受信モジュラーであって、HPFとLPFで構成され前記GSM方式の送受信信号と前記DCS方式の送受信信号に信号を分波するバンド切り替え用分波器を有し、前記GSM方式の送受信信号の送受信切り替えスイッチと前記DCS方式の送受信信号の送受信切り替えスイッチとを有し、積層構造からなるデュアルバンド携帯電話の送受信モジュラー。」 (3)対比 (3-1)本件補正発明と引用発明との対応関係について (ア)GSM方式の送受信信号の通過帯域とDCS方式の送受信信号の通過帯域は異なるものであるから、引用発明の「GSM方式の送受信信号及びDCS方式の送受信信号を扱う」は、本件補正発明の「通過帯域の異なる複数の送受信系を扱う」に相当する。 (イ)引用発明の「送受信モジュラー」は、GSM方式等の高周波信号を扱う「送受信切り替えスイッチ」を含んでいるので、本件補正発明の「高周波スイッチモジュール」に相当する。 (ウ)引用発明の「前記GSM方式の送受信信号と前記DCS方式の送受信信号」、「バンド切り替え用分波器」、「前記GSM方式の送受信信号の送受信切り替えスイッチと前記DCS方式の送受信信号の送受信切り替えスイッチ」は、本件補正発明の「前記複数の送受信系」、「分波回路」、「前記各送受信系に」有する「送信系と受信系を切り替えるスイッチ回路」に相当する。 (エ)本願明細書の段落【0039】には、「本発明のマルチバンド用高周波スイッチモジュールは、例えば、第1の送受信系としてGSMシステム、第2の送受信系としてDCS1800システムの2つのシステムに対応した構成として、デュアルバンド携帯電話のアンテナANTと、GSM系、DCS系のそれぞれの送受信回路との振り分けに用いることができる。」と記載されているので、引用発明の「デュアルバンド携帯電話の送受信モジュラー」は本件補正発明の「マルチバンド用高周波スイッチモジュール」に相当している。 (オ)引用発明と本件補正発明は、積層構造からなる点で共通する。 (3-2)本件補正発明と引用発明の一致点について 上記の対応関係から、本件補正発明と引用発明は、下記の点で一致する。 「通過帯域の異なる複数の送受信系を扱う高周波スイッチモジュールであって、前記複数の送受信系に信号を分波する分波回路を有し、前記各送受信系に送信系と受信系を切り替えるスイッチ回路を有し、 前記高周波スイッチモジュールは、積層構造からなることを特徴とするマルチバンド用高周波スイッチモジュール。」 (3-3)本件補正発明と引用発明の相違点について 本件補正発明と引用発明は、下記の点で相違する。 (相違点A) 本件補正発明は、「前記分波回路から各送受信系における送信系にローパスフィルタ回路を有し」ているのに対し、引用発明はそのような構成を有していない点。 (相違点B) 本件補正発明は、「電極パターンと誘電体層の積層体と、該積層体上に配置されたチップ素子とから構成され、前記積層体の外表面に、前記複数の送受信系の共通端子、送信系端子、受信系端子、グランド端子を有し」ているのに対し、引用発明はそのような構成を有していない点。 (相違点C) 本件補正発明は、「前記積層体の誘電体層には略全面にグランド電極が形成され、他の誘電体層の同一面上に配置された分波回路のコンデンサ用電極と各ローパスフィルタ回路のコンデンサ用電極が、前記グランド電極と対向して接地コンデンサを形成し、前記グランド電極を介して前記コンデンサ用電極と重ねられた誘電体層に、各スイッチ回路のライン電極が形成された」ものであるのに対し、引用発明はそのような構成を有していない点。 (4)当審の判断 (4-1)相違点A及び相違点Cについて 引用発明では、積層構造の送受信モジュラー内の送受信切り替えスイッチにより送受信信号の切り替えを行っているが、積層構造の送受信切り替えスイッチにおいて、送信系にローパスフィルタ回路を具備することは、原査定の拒絶の理由に引用された引用された特開平8-97743号公報の段落【0016】及び図面【図1】、特開平9-200077号公報の段落【0019】及び図面【図1】に記載されているように周知技術である。 また、原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-202504号公報の段落【0023】-【0025】及び図面【図2】には、誘電体層26の略全面にアース電極28が形成され、誘電体層32に前記アース電極とでコンデンサC4及びC5を構成するコンデンサ電極34及び36が形成され、前記アース電極28が形成された誘電体層26を介して前記コンデンサ電極34及び36が形成された誘電体層32に重ねられる誘電体層18には、高周波スイッチの第1ストリップライン電極20及び第2ストリップライン電極22が形成された積層構造の高周波スイッチが記載されている。 よって、フィルタ回路等が内蔵された積層構造の送受切り換えスイッチ回路において、複数の接地コンデンサを形成するために、誘電体層の略全面にグランド電極が形成された誘電体層と、同一面上に複数のコンデンサ用電極が形成された他の誘電体層を設けること、及び、グランド電極を介して前記複数のコンデンサ用電極が形成された誘電体層と重ねられる誘電体層にスイッチ回路のライン電極を形成することは周知技術であり、また、電子部品では部品の小型化を図るために積層化構成を採用することは一般的に行われているところ、上記の積層化構成において接地コンデンサのように同一の誘電体層に複数のコンデンサ電極を形成して共通のグランド電極を共用することでさらに小型化を図ることも周知技術といえる。 してみると、引用発明において上記周知技術を採用することで、送受信切り替えスイッチの各送信系にローパスフィルタ回路を設け、誘電体層の略全面にグランド電極が形成された誘電体層と同一面上に分波器内のLPFのコンデンサ用電極と前記各送信系の各ローパスフィルタ回路内のコンデンサ用電極が形成された誘電体層を設け、グランド電極を介して前記コンデンサ用電極が形成された誘電体層と重ねられる誘電体層にライン電極を形成することで、相違点A及びCの構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。 (4-2)相違点Bについて フィルタ回路等が内蔵された積層構造の送受切り換えスイッチ回路では、積層体の各層に電極パターンが形成される点、送信信号及び受信信号を入出力するための端子、フィルタ及びスイッチを機能させるためのグランド端子等を設ける点、積層体内に積層しないチップ素子は積層体の外表面に配置する点は、原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-312568号公報の段落【0017】、【0018】、【0031】及び図面【図1】-【図3】、特開平8-97743号公報の段落【0017】及び図面【図2】-【図3】に記載されているように周知技術である。 してみると、引用発明の送受信モジュラーは通過帯域の異なる複数の送受信系のスイッチ等の回路を含むものであるから、引用発明に上記周知技術を適用することで、積層体上に積層体内に積層しない素子を配置するとともに異なる複数の送受信系に対応した端子を設けて相違点Bの構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。 (4-3)本件補正発明の作用効果について また、本件補正発明の作用効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 (5)むすび よって、本件補正発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.補正却下の決定を踏まえた検討 (1)本件発明 平成20年7月16日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成20年1月8日付けの手続補正書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、その請求項3に係る発明(以下、「本件発明」という)は、次のとおりのものである。 「【請求項3】 通過帯域の異なる複数の送受信系を扱う高周波スイッチモジュールであって、前記複数の送受信系に信号を分波する分波回路を有し、前記各送受信系に送信系と受信系を切り替えるスイッチ回路を有し、前記分波回路から各送受信系における送信系にローパスフィルタ回路を有し、 前記高周波スイッチモジュールは、電極パターンと誘電体層の積層体と、該積層体上に配置されたチップ素子とから構成され、前記積層体の外表面に、前記複数の送受信系の共通端子、送信系端子、受信系端子、グランド端子を有し、 前記積層体の誘電体層には略全面にグランド電極が形成され、他の誘電体層の同一面上に分波回路のコンデンサ用電極とローパスフィルタ回路のコンデンサ用電極が配置され、前記グランド電極と対向して接地コンデンサを形成し、前記グランド電極を介して前記コンデンサ用電極と重ねられた誘電体層に、各スイッチ回路のライン電極が形成されたことを特徴とするマルチバンド用高周波スイッチモジュール。」 (2)引用例 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、上記2.(2)に記載したとおりである。 (3)対比・判断 本件発明は、上記2.で検討した本件補正発明における他の誘電体層の同一面上に配置されるローパスフィルタ回路のコンデンサ用電極について、「各ローパスフィルタ回路のコンデンサ用電極」に限定する点を省いたものである。 そうすると、本件発明の構成要素を全て含み、さらに特定の点に限定を施したものに相当する本件補正発明が、上記2.(4)に記載したとおり、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)むすび 以上のとおり、本件発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-04-14 |
結審通知日 | 2011-04-15 |
審決日 | 2011-04-27 |
出願番号 | 特願平10-211208 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H04B)
P 1 8・ 121- Z (H04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石田 昌敏、佐藤 敬介 |
特許庁審判長 |
長島 孝志 |
特許庁審判官 |
飯田 清司 久保 正典 |
発明の名称 | マルチバンド用高周波スイッチモジュール |