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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B
管理番号 1238707
審判番号 不服2008-28709  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-10 
確定日 2011-06-14 
事件の表示 特願2003-540736「信号補正装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 8日国際公開、WO03/38532、平成17年 8月11日国内公表、特表2005-524126〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2002年9月19日(パリ条約による優先権主張2001年10月25日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成15年6月17日付けで特許法第184条の5第1項に規定する書面が提出されるとともに同法第184条の4第1項に規定する明細書及び要約の翻訳文が提出され、平成19年9月4日付けで拒絶理由が通知され、平成20年1月16日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年2月8日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年7月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月7日付けで拒絶査定がなされ、同年11月10日付けで同拒絶査定に対する審判請求がなされ、その後、当審において平成22年6月3日付けで拒絶理由が通知され、同年11月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 平成22年6月3日付けで通知した拒絶理由の抜粋
「1.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
・・・(中略)・・・


<理由1(特許法第36条第4項第1号)>
・・・(中略)・・・
b.請求項1に「内燃機関により吸い込まれた空気質量流量(ml)、内燃機関の回転速度(n)および内燃機関の温度(T)を示す運転変数の関数として先行制御信号(rk)を決定する手段(25)と」と記載され、
該記載に関連して、発明の詳細な説明の【0020】に「先行制御信号rkは、先行制御信号決定手段25内で、例えば回転速度信号nおよび相対空気充填量rlから決定され、相対空気充填量rlは、空気質量流量mlから導くことができる。制御器26は操作変数frを提供し、制御器26は入力信号USから操作変数frを得る。」と記載され、【0030】に「先行制御信号決定手段25は、例えば記憶されている特性曲線に基づき、相対空気充填量rlおよび例えば回転速度信号nから先行制御変数rkを決定し、先行制御信号rkは、乗算器24において操作変数frと乗算される。相対空気充填量rlは、内燃機関10の燃焼室を空気で最大に充填したときを基準とし、したがって最大燃焼室充填量または最大シリンダ充填量のいわゆる分数を与えている。相対空気充填量rlは本質的に空気質量流量mlから形成される。先行制御変数rkは、相対空気充填量rlに割り当てられた燃料の量にほぼ対応する。先行制御変数rkの形成はここでは簡単な説明にとどめておく。」と記載されているが、
「内燃機関により吸い込まれた空気質量流量(ml)、内燃機関の回転速度(n)および内燃機関の温度(T)を示す運転変数の関数」とはどのようなものか、また、どのようにして、上記「運転変数の関数」として「先行制御信号(rk)を決定する」のか、発明の詳細な説明に何ら具体的に記載されていない。
また、「内燃機関の温度(T)」とは、「内燃機関」のどの部分の温度なのかも発明の詳細な説明に何ら具体的に記載されていない。

c.請求項1に「前記内燃機関の排気管内の排ガスを検出して、排ガス組成を示すセンサ信号(US)を出力する排気ガスセンサ(17)と」と記載され、
該記載に関連して、発明の詳細な説明の【0029】に「この装置の目的は、内燃機関10の排気管12内に、例えばセンサ信号ないし入力信号USに関して反復する望ましい排気ガス組成が発生するように、信号変換器33において燃料調量信号tiを決定することである。図示の実施態様においては、例えば理論混合物が保持されるべきである。排気ガス・センサ17としての既知のλセンサに基づき、理論混合物においては、例えば約450mVの電圧が発生する。理論混合物は、制御器26の操作変数frにおいても反映されるべきである。したがって、操作変数frの目標値SOは、象徴的に理論的な燃料/空気比に対応する数値1を有するべきである。」と記載されているが、
「排ガス組成」とは何か、また、「排ガス組成」がどのような場合、即ち、排ガス中のどのような成分がどのような割合の場合に、どのような「センサ信号(US)」が出力されるのか、発明の詳細な説明に何ら具体的に記載されていない。

d.請求項1に「センサ信号(US)の関数として操作変数(fr)を決定する制御器(26)と」と記載され、
該記載に関連して、発明の詳細な説明の【0020】に「制御器26は操作変数frを提供し、制御器26は入力信号USから操作変数frを得る。」と記載されているが、
「センサ信号(US)の関数」とは何か、また、どのようにして、上記「センサ信号(US)の関数」として「操作変数(fr)を決定する」のか、発明の詳細な説明に何ら具体的に記載されていない。

e.請求項1に「操作変数(fr)と先行制御信号(rk)の関数として、燃料調量信号(S)を形成する手段(24)と」と記載され、
該記載に関連して、発明の詳細な説明の【0020】に「補正されるべき信号Sは、乗算器24により先行制御信号rkおよび操作変数frから得られる。」と記載されているが、
「操作変数(fr)と先行制御信号(rk)の関数」とは何か、また、どのようにして、上記「操作変数(fr)と先行制御信号(rk)の関数」から「燃料調量信号(S)を形成する」のか、発明の詳細な説明に何ら具体的に記載されていない。

・・・(中略)・・・

i.請求項3に「前記特性値が、センサ信号(US)、または操作変数(fr)、または第一および第二の補正信号(ora,fra)の勾配、或いはそれらセンサ信号(US)と操作変数(fr)と第一および第二の補正信号(ora,fra)の勾配のいずれかの平均値である」と記載され、請求項4に「センサ信号(US)、または操作変数(fr)、または第一および第二の補正信号(ora,fra)、または、それらの平均値が閾値(SC1,SC2,SC3)に到達しまたは超えるときに、それらの勾配が前記特性値として使用される」と記載され、
該記載に関連して、発明の詳細な説明の【0040】に「ここまでは、個々の信号の処理、特に入力信号US、操作信号fr、平均値、第1および第2の補正信号ora、fraの処理が記載されてきた。代替態様または追加態様として、特に個々の曲線線図の勾配が信号評価手段28において使用されてもよい。評価されるべき少なくとも1つの信号の勾配に対して、これに適合するしきい値および限界値が設けられている。即ち、一般に、信号評価手段28は入力信号USおよび/または操作変数frおよび/または補正信号ora、fraまたはこれらの少なくとも1つの平均値の特性変数を評価する。」と記載され、同じく【0041】に「有利な変更態様は、入力信号USおよび/または操作変数frおよび/または補正信号ora、fraまたはこれらの1つの平均値が少なくとも1つのしきい値に到達しまたはそれを通過したときにのみ、特性変数として勾配が使用されるように設計されている。これらの手段を用いて、所定の時間TDに追加してまたはその代わりに、できるだけ短い時間内に有効な結果が得られるように適応が行われてもよい。さらに、これらの手段を用いて、限界値通過に関して十分な診断が可能であり、この限界値通過がエラー・メッセージを出力させる。」と記載されているが、
「センサ信号(US)、または操作変数(fr)、または第一および第二の補正信号(ora,fra)の勾配、或いはそれらセンサ信号(US)と操作変数(fr)と第一および第二の補正信号(ora,fra)の勾配」をどのようにして求めるのか、「勾配の平均値」とはどのような意味を持つものでどのようにして求めるのか、また、「センサ信号(US)、または操作変数(fr)、または第一および第二の補正信号(ora,fra)、または、それらの平均値が閾値(SC1,SC2,SC3)に到達しまたは超えるときに、それらの勾配が前記特性値として使用される」とは如何なる意味か、発明の詳細な説明に何ら具体的に記載されていない。

・・・(後略)・・・」

第3 平成22年11月26日付け手続補正書及び意見書の抜粋
1 平成22年11月26日付け手続補正書の抜粋
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を運転するための燃料調量信号(ti)に変換される信号(S)を補正するための信号補正装置において、
内燃機関により吸気管内に吸い込まれた空気質量流量(ml)から形成される最大燃焼室充填量に対する相対空気充填量(rl)と、内燃機関の回転速度信号(n)から、前記相対空気充填量に割り当てられた燃料の量に対応する先行制御信号(rk)を形成する先行制御信号決定手段(25)と、
前記内燃機関の排気管内の排ガスを検出して、排ガス組成を示すセンサ信号(US)を出力する排気ガスセンサ(17)と、
センサ信号(US)から、燃料/空気比に対応する操作変数(fr)を出力する制御器(26)と、
操作変数(fr)と先行制御信号(rk)から、補正されるべき信号(S)を形成する乗算器(24)と、
操作変数(fr)の平均値(frm)を形成する平均値形成手段(27)と、
操作変数(fr)の平均値(frm)が理論的な燃料/空気比に対応する目標値(SO)に達するように、操作変数(fr)の平均値(frm)から、第1の補正信号(ora)を形成する第1の補正信号決定手段(31)および第2の補正信号(fra)を形成する第2の補正信号決定手段(32)と、
内燃機関の運転変数を入力し、内燃機関が低い負荷/回転速度範囲にあるときに、操作変数(fr)の平均値(frm)を第1の補正信号決定手段に供給し、内燃機関が高い負荷/回転速度範囲にあるときに、操作変数(fr)の平均値(frm)を第2の補正信号決定手段に供給するスイッチ制御手段(30)と、
操作変数(fr)の平均値(frm)がスイッチ制御手段(30)によって第1の補正信号決定手段(31)に供給されたとき、第1の補正信号(ora)と補正されるべき信号(S)とを加算する加算手段(21)と、
操作変数(fr)の平均値(frm)がスイッチ制御手段(30)によって第2の補正信号決定手段(32)に供給されたとき、第2の補正信号(fra)と補正されるべき信号(S)とを乗算する乗算手段(23)と、
操作変数(fr)の平均値(frm)を予め定めた閾値(SC1)と比較し、操作変数(fr)の平均値(frm)が予め定めたしきい値(SC1)に到達しまたはそれを通過したときに、第1の補正信号決定手段(31)による第1の補正信号(ora)の形成または第2の補正信号決定手段(32)による第2の補正信号(fra)の形成を完了するために、スイッチ制御手段(30)を非作動にする遮断信号(A)を出力してスイッチ制御手段(30)に供給する信号評価手段(28)と、
を含むことを特徴とする信号補正装置。
【請求項2】
信号評価手段(28)は、操作変数(fr)の平均値(frm)が予め定めた閾値(SC1)に到達しまたはそれを通過したときに、操作変数(fr)の平均値(frm)を示す線図の勾配を評価することによって、遮断信号(A)を出力することを特徴とする請求項1に記載の信号補正装置。

・・・(後略)・・・」

2 平成22年11月26日付け意見書の抜粋
「本件出願に対する平成22年6月4日付(発送日)の拒絶理由通知書における、理由1ないし5について、以下に意見を申し述べます
・・・(中略)・・・
b.「内燃機関により吸い込まれた空気質量流量(ml)、内燃機関の回転速度信号(n)および内燃機関の温度(T)を示す運転変数の関数」について
『 内燃機関により吸気管内に吸い込まれた空気質量流量(ml)から形成される最大燃焼室充填量に対する相対空気充填量(rl)と、内燃機関の回転速度信号(n)から、前記相対空気充填量に割り当てられた燃料の量に対応する先行制御信号(rk)を形成する先行制御信号決定手段(25)と、』と、補正した。
これにより、図示実施例の説明との対応を明確にした。この特徴は、明細書の段落〔0017〕〔0030〕に記載されている。
(「内燃機関」に関する記載は削除された。なお「内燃機関」は、図1に示された内燃機関10であり、吸気管11と排気管12との間に画成される構成部分であり、内燃機関の温度(T)測定は、この構成部分のいずれかで行われれば良い。)

c.「排気ガス・センサ」について
排気ガス・センサは、λ(空気過剰率)センサまたはO2センサとして既知であると記載されている(段落〔0029〕)。これにより、検出される「排気ガス組成」は、排気ガス内の残留酸素含有量と理解される。
参考資料1に示されたように、排気ガス・センサ(λセンサ)の出力信号(US)は、O2(ラムダ)センサー応答曲線(電圧-λ曲線)から理解される。理論空燃比に対応するλ=1のときに、出力信号USは、例えば、約450mVの電圧を発生する。
ガソリンの完全燃焼時における空気とガソリンの比は、理論空燃比であり、そのときの空気過剰率λは、以下で与えられる。
λ=空気消費量/燃焼に必要な理論的空気量=1
λ>1:希薄混合気(理論空燃比より空気が多い)
λ<1:過濃混合気(理論空燃比より空気が少ない)
・・・(中略)・・・
d.請求項1の「センサ信号(US)の関数として操作変数(fr)を決定する制御器(26)」は、『センサ信号(US)から、燃料/空気比に対応する操作変数(fr)を形成する制御器(26)』に補正された。(段落〔0029〕、図4a)
これにより、制御器26が、センサ信号(US)から、燃料/空気比に対応する値としての操作変数を出力することを明確にした。
「理論混合物は、制御器26の操作変数frにおいても反映されるべきである」とされ、図4aに示されるように、「操作変数(、即ちλ値)の目標値SOは、象徴的な理論的な燃料/空気比に対応する数値1を有するべきである」と記載されている。(段落〔0029〕)
(参考資料2に示されるように、通常、エンジンは、理論空燃比、すなわち対応する過剰空気率λ=1で作動するように設計される。)
・・・(中略)・・・
e.「操作変数(fr)と先行制御信号(rk)の関数として、燃料調量信号(S)を形成する手段(24)」は、『操作変数(fr)と先行制御信号(rk)から、補正されるべき信号(S)を形成する乗算器(24)』と補正された。
これにより、図示実施例との関係を明確にしている。
・・・(中略)・・・
i.請求項3および請求項4は、新たな請求項2として、以下のように補正された。
『 「請求項2」
信号評価手段(28)は、操作変数(fr)の平均値(frm)を示す線図の勾配が予め定めたしきい値を超えるときに、遮断信号(A)を出力することを特徴とする請求項1に記載の信号補正装置。
この特徴は、明細書の段落〔0040〕〔0041〕に記載されている。

・・・(後略)・・・」

第4 当審の判断
上記「第2」において、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとして指摘したbないしe及びi(以下、それぞれ「指摘事項b」ないし「指摘事項e」及び「指摘事項i」という。 )について、検討する。

1 指摘事項bについて
平成22年11月26日付け手続補正書による補正により、
補正前の請求項1の「内燃機関により吸い込まれた空気質量流量(ml)、内燃機関の回転速度(n)および内燃機関の温度(T)を示す運転変数の関数として先行制御信号(rk)を決定する手段(25)と」は、
「内燃機関により吸気管内に吸い込まれた空気質量流量(ml)から形成される最大燃焼室充填量に対する相対空気充填量(rl)と、内燃機関の回転速度信号(n)から、前記相対空気充填量に割り当てられた燃料の量に対応する先行制御信号(rk)を形成する先行制御信号決定手段(25)と」と補正された。

しかしながら、「内燃機関により吸気管内に吸い込まれた空気質量流量(ml)から形成される最大燃焼室充填量に対する相対空気充填量(rl)」と「内燃機関の回転速度信号(n)」から「前記相対空気充填量に割り当てられた燃料の量に対応する先行制御信号(rk)」をどのようにして形成するのかについては、発明の詳細な説明の【0030】に「先行制御信号決定手段25は、例えば記憶されている特性曲線に基づき、相対空気充填量rlおよび例えば回転速度信号nから先行制御変数rkを決定し、先行制御信号rkは、乗算器24において操作変数frと乗算される。相対空気充填量rlは、内燃機関10の燃焼室を空気で最大に充填したときを基準とし、したがって最大燃焼室充填量または最大シリンダ充填量のいわゆる分数を与えている。相対空気充填量rlは本質的に空気質量流量mlから形成される。先行制御変数rkは、相対空気充填量rlに割り当てられた燃料の量にほぼ対応する。先行制御変数rkの形成はここでは簡単な説明にとどめておく。」と記載されているのみで、「記憶されている特性曲線」がどのようなものか、さらには、「回転速度信号n」が「記憶されている特性曲線」とどのような関係にあり「先行制御変数rk」の決定にどのように関与するのか等について、何ら具体的に記載されていない。

そして、平成22年11月26日付け意見書においても、上記「第3 2」に記載するように、
「『 内燃機関により吸気管内に吸い込まれた空気質量流量(ml)から形成される最大燃焼室充填量に対する相対空気充填量(rl)と、内燃機関の回転速度信号(n)から、前記相対空気充填量に割り当てられた燃料の量に対応する先行制御信号(rk)を形成する先行制御信号決定手段(25)と、』と、補正した。
これにより、図示実施例の説明との対応を明確にした。この特徴は、明細書の段落〔0017〕〔0030〕に記載されている。
(「内燃機関」に関する記載は削除された。なお「内燃機関」は、図1に示された内燃機関10であり、吸気管11と排気管12との間に画成される構成部分であり、内燃機関の温度(T)測定は、この構成部分のいずれかで行われれば良い。)」
と主張するのみで、「記憶されている特性曲線」が具体的にどのようなものか、さらには、「回転速度信号n」が「記憶されている特性曲線」とどのような関係にあり「先行制御変数rk」の決定にどのように関与するのか等について説明していない。

したがって、本件出願の発明の詳細な説明の記載は、指摘事項bの「どのようにして、上記「運転変数の関数」として「先行制御信号(rk)を決定する」のか」という点に関連して、依然として不備があり、特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

2 指摘事項cないしeについて
平成22年11月26日付け手続補正書による補正により、
補正前の請求項1の「前記内燃機関の排気管内の排ガスを検出して、排ガス組成を示すセンサ信号(US)を出力する排気ガスセンサ(17)と、
センサ信号(US)の関数として操作変数(fr)を決定する制御器(26)と、
操作変数(fr)と先行制御信号(rk)の関数として、燃料調量信号(S)を形成する手段(24)」は、
「前記内燃機関の排気管内の排ガスを検出して、排ガス組成を示すセンサ信号(US)を出力する排気ガスセンサ(17)と、
センサ信号(US)から、燃料/空気比に対応する操作変数(fr)を出力する制御器(26)と、
操作変数(fr)と先行制御信号(rk)から、補正されるべき信号(S)を形成する乗算器(24)」と補正された。

しかしながら、指摘事項cに対する補正である「排ガス組成を示すセンサ信号(US)」については、発明の詳細な説明の【0017】に「排気ガス・センサ17は、内燃機関10の排気管12内の排気ガス組成に関するセンサ信号を提供し、このセンサ信号は、制御装置13内に含まれている図1には詳細には示されていない制御器の入力信号USである。」と記載され、同じく【0029】に「排気ガス・センサ17としての既知のλセンサに基づき、理論混合物においては、例えば約450mVの電圧が発生する。」と記載されているのみであるから、排ガス中のどのような成分がどのような割合の場合に、どのような「センサ信号(US)」が出力されることになるのかについて明確に記載されているとはいえない。

また、指摘事項dに対する補正である「センサ信号(US)から、燃料/空気比に対応する操作変数(fr)を出力する制御器(26)」については、発明の詳細な説明の【0020】に「制御器26は操作変数frを提供し、制御器26は入力信号USから操作変数frを得る。」及び同じく【0029】に「理論混合物は、制御器26の操作変数frにおいても反映されるべきである。したがって、操作変数frの目標値SOは、象徴的に理論的な燃料/空気比に対応する数値1を有するべきである。」と記載されているのみで、「センサ信号(US)」から「燃料/空気比に対応する操作変数(fr)」をどのようにして出力するのかについて、何ら具体的に記載されていない。

さらに、指摘事項eに対する補正である「操作変数(fr)と先行制御信号(rk)から、補正されるべき信号(S)を形成する乗算器(24)」についても、上記のとおり、発明の詳細な説明に、排ガス中のどのような成分がどのような割合の場合に、どのような「センサ信号(US)」が出力されることになるのか、及び「センサ信号(US)」から「燃料/空気比に対応する操作変数(fr)」をどのようにして出力するのか等について、具体的に記載されていない以上、「補正されるべき信号(S)」がどのようにして形成されるのかも明確であるとはいえない。

そして、平成22年11月26日付け意見書においても、上記「第3 2」に記載するように、
「排気ガス・センサは、λ(空気過剰率)センサまたはO2センサとして既知であると記載されている(段落〔0029〕)。これにより、検出される「排気ガス組成」は、排気ガス内の残留酸素含有量と理解される。
参考資料1に示されたように、排気ガス・センサ(λセンサ)の出力信号(US)は、O2(ラムダ)センサー応答曲線(電圧-λ曲線)から理解される。理論空燃比に対応するλ=1のときに、出力信号USは、例えば、約450mVの電圧を発生する。
ガソリンの完全燃焼時における空気とガソリンの比は、理論空燃比であり、そのときの空気過剰率λは、以下で与えられる。
λ=空気消費量/燃焼に必要な理論的空気量=1
λ>1:希薄混合気(理論空燃比より空気が多い)
λ<1:過濃混合気(理論空燃比より空気が少ない)」、
「請求項1の「センサ信号(US)の関数として操作変数(fr)を決定する制御器(26)」は、『センサ信号(US)から、燃料/空気比に対応する操作変数(fr)を形成する制御器(26)』に補正された。(段落〔0029〕、図4a)
これにより、制御器26が、センサ信号(US)から、燃料/空気比に対応する値としての操作変数を出力することを明確にした。
「理論混合物は、制御器26の操作変数frにおいても反映されるべきである」とされ、図4aに示されるように、「操作変数(、即ちλ値)の目標値SOは、象徴的な理論的な燃料/空気比に対応する数値1を有するべきである」と記載されている。(段落〔0029〕)
(参考資料2に示されるように、通常、エンジンは、理論空燃比、すなわち対応する過剰空気率λ=1で作動するように設計される。)」、及び
「「操作変数(fr)と先行制御信号(rk)の関数として、燃料調量信号(S)を形成する手段(24)」は、『操作変数(fr)と先行制御信号(rk)から、補正されるべき信号(S)を形成する乗算器(24)』と補正された。
これにより、図示実施例との関係を明確にしている。」
と主張するのみで、本件出願の発明の詳細な説明に記載された実施例において、排ガス中のどのような成分がどのような割合の場合に、どのような「センサ信号(US)」が出力されるのか、「センサ信号(US)」から「燃料/空気比に対応する操作変数(fr)」をどのようにして出力するのか等について具体的に説明していない。

したがって、本件出願の発明の詳細な説明の記載は、
指摘事項cの「「排ガス組成」とは何か、また、「排ガス組成」がどのような場合、即ち、排ガス中のどのような成分がどのような割合の場合に、どのような「センサ信号(US)」が出力されるのか」、
指摘事項dの「どのようにして、上記「センサ信号(US)の関数」として「操作変数(fr)を決定する」のか」、及び
指摘事項eの「「操作変数(fr)と先行制御信号(rk)の関数」とは何か、また、どのようにして、上記「操作変数(fr)と先行制御信号(rk)の関数」から「燃料調量信号(S)を形成する」のか」
という点に関連して、依然として不備があり、特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

3 指摘事項iについて
平成22年11月26日付け手続補正書による補正により、
補正前の請求項3及び4は新たな請求項2として、「信号評価手段(28)は、操作変数(fr)の平均値(frm)が予め定めた閾値(SC1)に到達しまたはそれを通過したときに、操作変数(fr)の平均値(frm)を示す線図の勾配を評価することによって、遮断信号(A)を出力することを特徴とする請求項1に記載の信号補正装置。」と補正された。

しかしながら、「操作変数(fr)の平均値(frm)が予め定めた閾値(SC1)に到達しまたはそれを通過したときに、操作変数(fr)の平均値(frm)を示す線図の勾配を評価すること」について、発明の詳細な説明の【0041】に「有利な変更態様は、入力信号USおよび/または操作変数frおよび/または補正信号ora、fraまたはこれらの1つの平均値が少なくとも1つのしきい値に到達しまたはそれを通過したときにのみ、特性変数として勾配が使用されるように設計されている。これらの手段を用いて、所定の時間TDに追加してまたはその代わりに、できるだけ短い時間内に有効な結果が得られるように適応が行われてもよい。さらに、これらの手段を用いて、限界値通過に関して十分な診断が可能であり、この限界値通過がエラー・メッセージを出力させる。」と記載されているのみで、「操作変数(fr)の平均値(frm)を示す線図の勾配」がどのような意味を持ち、また、どのように評価するのかについて何ら具体的に記載されていない。

そして、平成22年11月26日付け意見書においても、上記「第3 2」に記載するように、
「請求項3および請求項4は、新たな請求項2として、以下のように補正された。
『 「請求項2」
信号評価手段(28)は、操作変数(fr)の平均値(frm)を示す線図の勾配が予め定めたしきい値を超えるときに、遮断信号(A)を出力することを特徴とする請求項1に記載の信号補正装置。
この特徴は、明細書の段落〔0040〕〔0041〕に記載されている。」と主張するのみで、「操作変数(fr)の平均値(frm)を示す線図の勾配」がどのような意味を持ち、また、どのように評価するのかについて具体的に説明していない。

したがって、本件出願の発明の詳細な説明の記載は、指摘事項iの「「勾配の平均値」とはどのような意味を持つものでどのようにして求めるのか、また、「センサ信号(US)、または操作変数(fr)、または第一および第二の補正信号(ora,fra)、または、それらの平均値が閾値(SC1,SC2,SC3)に到達しまたは超えるときに、それらの勾配が前記特性値として使用される」とは如何なる意味か」という点に関連して、依然として不備があり、特許請求の範囲の請求項2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(なお、請求項2は、補正前の請求項3及び4に文言上正確には対応していないものの、補正前の請求項3及び4の発明特定事項である「勾配」を請求項2に係る発明は有しており、しかも、平成22年11月26日付け意見書において、「請求項3および請求項4は、新たな請求項2として、以下のように補正された。」と出願人が主張していることから、請求項2は、補正前の請求項3及び4に対応するものとして、補正前の請求項3及び4に対する拒絶理由が解消しているか否かについて判断した。)

第5 むすび
以上のとおり、本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-17 
結審通知日 2011-01-18 
審決日 2011-02-01 
出願番号 特願2003-540736(P2003-540736)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二階堂 恭弘  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 加藤 友也
西山 真二
発明の名称 信号補正装置  
代理人 小林 泰  
代理人 千葉 昭男  
代理人 富田 博行  
代理人 小野 新次郎  
代理人 社本 一夫  

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