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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1238717
審判番号 不服2008-27663  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-30 
確定日 2011-06-16 
事件の表示 特願2004-136379「EL表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月29日出願公開、特開2005-266735〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年4月30日の出願(優先権主張 平成15年5月7日、平成15年7月18日、平成16年2月20日)であって、拒絶理由に応答して平成19年10月26日付けで手続補正がなされ、その後、最後の拒絶理由に応答して平成20年6月5日付けで手続補正がなされたが、平成20年9月24日付けで、前記平成20年6月5日付け手続補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定(同年9月30日送達)がなされ、これに対して、同年10月30日に本件拒絶査定不服審判請求がされ、同年11月26日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成20年11月26日付け手続補正の却下の決定について

[補正却下の決定の結論]

平成20年11月26日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の概要
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に、

「 EL素子を有する画素がマトリックス状に配置された表示画面を有するEL表示装置であって、
前記画素に供給するアノード電圧またはカソード電圧のうち少なくとも一方を発生する電圧発生回路と、
前記EL表示装置の前記画素に印加する信号を発生させる画像データから、点灯率を求める演算回路と、
前記点灯率に対応して、前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧のうち少なくとも一方を可変する制御回路とを具備することを特徴とするEL表示装置。」

とあったものを、

「 EL素子を有する画素がマトリックス状に配置された表示画面を有するアクティブマトリックス型のEL表示装置であって、
前記画素に供給するアノード電圧またはカソード電圧のうち少なくとも一方を発生する電圧発生回路と、
前記EL表示装置の前記画素に印加する信号を発生させる画像データから、点灯率を求める演算回路と、
前記点灯率が大きいときよりも点灯率が小さいときの方が、前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧の電圧差が大きくなるように、前記アノード電圧と前記カソード電圧のうち少なくとも一方を可変する制御回路とを具備することを特徴とするEL表示装置。」(当審注:下線は、審判請求人が付したものである。)

とする補正を含むものである。
上記請求項1についての補正は、以下の(補正事項1)、(補正事項2)からなる。
(補正事項1):「EL素子を有する画素がマトリックス状に配置された表示画面を有するEL表示装置」を「アクティブマトリックス型」に限定する補正事項。
(補正事項2):「制御回路」が「前記点灯率に対応して、前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧のうち少なくとも一方を可変する」制御として、「前記点灯率が大きいときよりも点灯率が小さいときの方が、前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧の電圧差が大きくなるように」制御するものに限定する補正事項。

2 補正の目的
上記(補正事項1)、(補正事項2)は、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから、本件補正のうち請求項1を対象とする補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

3 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3-1 本願補正発明
本願補正発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「 EL素子を有する画素がマトリックス状に配置された表示画面を有するアクティブマトリックス型のEL表示装置であって、
前記画素に供給するアノード電圧またはカソード電圧のうち少なくとも一方を発生する電圧発生回路と、
前記EL表示装置の前記画素に印加する信号を発生させる画像データから、点灯率を求める演算回路と、
前記点灯率が大きいときよりも点灯率が小さいときの方が、前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧の電圧差が大きくなるように、前記アノード電圧と前記カソード電圧のうち少なくとも一方を可変する制御回路とを具備することを特徴とするEL表示装置。」

3-2 独立特許要件その1(特許法第29条第2項)
3-2-1 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の最先の優先日前に日本国内または外国において、頒布された刊行物である特開2002-116728号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1) 「【請求項5】入力される映像信号を自発光素子により構成された表示部に表示する表示装置であって、
前記表示部の複数の信号線および素子電源電圧を駆動する水平側駆動手段と、
前記表示部の複数の走査線を駆動する走査側駆動手段と、
前記水平側駆動手段と前記走査側駆動手段を制御するコントローラと、
前記映像信号の平均輝度レベル(APL)を検出する平均輝度検出手段と、
前記APLが高い場合は信号傾斜ゲインを大きく、前記APLが低い場合は信号傾斜ゲインを小さくする傾斜ゲイン生成手段と、
前記信号傾斜ゲインに応じて表示部内の発光素子に供給する電源電圧を変化させる素子電源電圧調整手段と、
前記信号傾斜ゲインに応じて信号レベルを変化させる垂直信号レベル調整手段とを備えたことを特徴とする表示装置。
【請求項6】素子電源電圧調整手段は、前記信号傾斜ゲインに応じて表示画面の所定位置を中心として水平方向の左右に向かって表示部内の発光素子に供給する電源電圧を下げ、垂直信号レベル調整手段は前記信号傾斜ゲインに応じて表示画面の所定位置を中心として垂直方向の上下に向かって信号レベルを下げるように変化させることを特徴とする請求項5記載の表示装置。
……
【請求項12】表示部が有機ELないしLEDないし放電管ないし電子放出素子で構成されたことを特徴とする請求項1、3、5、7、8、9のいずれかに記載の表示装置。」

(2) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、消費電力低減および表示品位向上の目的で、入力される映像信号の特徴に応じて表示信号レベルを制御する自発光素子により構成された表示装置に関する。」

(3) 「【0002】
【従来の技術】従来、表示装置の消費電力を低減するための各種構成が提案されている。低電力化を図った表示装置の従来構成を図24に示す。図24において、平均輝度検出手段5は映像信号の平均輝度レベル(以下、APLと記す)を出力する。コントラスト調整手段20は、APLに応じて、映像信号に対するコントラストゲインを変化させる。コントローラ1は映像同期信号を入力し、走査側駆動手段2および信号側駆動手段3に対して制御信号を出力する。信号側駆動手段3は、映像信号に応じた信号を表示部4の信号線に出力する。走査側駆動手段2は、表示部4の走査線に信号を出力する。表示部4は複数の信号線と複数の走査線が組み合わさったマトリクス形式の表示部である。
【0003】図25に、表示部4の内部構成を示す。図25において走査側駆動手段2は、走査線に対して第1のTFT50のゲートをONするための信号を出力する。第1のTFT50は、ゲートがONしている間に容量51に信号側駆動手段3からの出力である信号線の電位を蓄積する。容量51に蓄積された電荷に応じて第2のTFT52に流れる電流が決められ、自発光素子52が発光する。

【0008】図30に、コントラスト調整手段20での処理状態を示す。図30において、横軸はAPL、縦軸はコントラストゲインを示す。APLが高い場合は、コントラストゲインを下げるように制御される。このように、平均輝度レベルが高くなり、画面全体の消費電力が大きくなるような場合に、コントラストゲインを下げることにより画面全体の輝度を下げて電力の抑制を図っている。」

(4) 「【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、図24に示す従来構成においては、APLが高い場合、画面全体の明るさを均一に下げることになり、コントラスト変化による表示品位の低下を招くことになる。
【0010】本発明では、かかる点に鑑み、自発光素子により構成された表示部に画像表示を行う際、低電力化および表示品位低下抑制が可能な表示装置を提供することを目的とする。」

(5) 「【0036】(実施の形態3)図10は、本発明の実施の形態3における、入力される映像信号を自発光素子により構成された表示部に表示する表示装置の構成を示すブロック図である。図10において、素子電源対応表示部14は複数の信号線、複数の走査線、複数の素子電源線、画素毎に設けられたTFT(薄膜トランジスタ)、自発光素子などにより構成されている。コントローラ1および走査側駆動手段2は、従来例で示した図28および図27と同様である。平均輝度検出手段5は、映像信号のAPLを検出する。APLは、1画面または複数画面単位のものを検出する。傾斜ゲイン生成手段6は、APLに応じて傾斜ゲインを生成する。APLが高い場合は傾斜ゲインを大きく、APLが低い場合は傾斜ゲインを小さく設定する。傾斜ゲイン生成手段6の処理は実施の形態1で示した図3と同様である。垂直信号レベル調整手段11は、傾斜ゲインに応じて映像信号のレベルを画面の垂直方向に変化させる。素子電源電圧調整手段12は、傾斜ゲインに応じて所定位置を中心に水平方向に素子電源を変化させる制御値を水平側駆動手段13に出力する。水平側駆動手段13は、複数の信号線および複数の素子電源電圧線に信号を出力する。
【0037】図11に、素子電源対応表示部の内部構成を示す。従来例で示した表示部と異なる点は、素子電源電圧が複数の素子電源線により接続されており、水平側駆動手段13から信号が出力されていることである。これにより、発光素子に対する電源電圧を水平方向に変化させることが可能になる。
【0038】図12に、水平側駆動手段13の内部構成を示す。図12において、シフトレジスタにより構成されるデータ処理手段56からのデータ保持タイミング信号によってデータ信号保持手段55が画像データ保持を行う。データ信号保持手段55からの信号は、データ信号出力手段54を介して、表示部の信号線に出力される。また、素子電源処理手段68は、素子電源電圧調整手段12からの制御信号により水平方向に素子電源電圧を変化させ、素子電源出力手段67を介して素子電源対応表示部の素子電源線に出力する。
【0039】図13に、垂直信号レベル調整手段11の内部構成を示す。図13において、垂直傾斜処理部70は、傾斜ゲインに応じて映像信号レベルを垂直方向に変化させるための制御値を出力する。処理を行う中心位置は所定の位置が設定される。垂直演算処理部69は、垂直傾斜処理部70の出力に応じて映像信号のレベル変換処理を行う。垂直演算処理部69の出力は出力部を介して水平側駆動手段に出力される。
【0040】図14に、垂直信号レベル調整手段11のゲイン処理状態図を示す。図14において、100%は映像信号レベルをそのまま表示することを示し、90%は映像信号を90%のレベルに下げて表示することを意味している。図14では、画面の中心を傾斜ゲイン処理の中心としてある。図14に示すように、中心から上下方向に対して信号レベルを下げていく。APLが高い場合は中心部と上下周辺部のゲイン差が大きくなり、APLが低い場合はゲイン差が小さくなる。なお、図14では放物線状の変化の例を示しているが、直線状の変化でもよい。また、図14のゲイン数値は1例を示したものであり、システムに応じて変更を行う。
【0041】図15に、素子電源電圧調整手段12の処理状態図を示す。図15において、90%は素子電源対応表示部の素子電源線電位を下げて90%の発光量にすることを示している。素子電源電圧を下げることにより発光レベルが下がり、信号レベルを下げることと同等の効果が得られる。図15では、画面の中心をゲート幅処理の中心としてある。図15に示すように、中心から左右方向に対して素子電源電圧を下げていく。APLが高い場合は中心部と上下周辺部の差が大きくなり、APLが低い場合は差が小さくなる。なお、図15では放物線状の変化の例を示しているが、直線状の変化でもよい。また、図15の素子電源調整数値は1例を示したものであり、システムに応じて変更可能である。図14および図15で示したように、垂直および水平の両方向において傾斜ゲイン変化を与える処理を行えば、結果的に実施の形態1で示した図4に近似した処理状態を得ることになる。
【0042】このように画面の所定位置を中心として周辺に向かって信号レベルを下げることにより、表示部の画素を構成している自発光素子に流れる電流を総合的に抑制する。APLに応じて傾斜ゲインを設定しているため、画面全体が明るい場合つまり大電力消費時ほど電力抑制効果が発揮される。視覚上は、周囲に向かって徐々にゲインを下げていくために、表示品位の著しい低下は発生しない。また、図16の構成図に示すように、水平系の処理を素子電源電圧変化で行い、垂直系の処理をゲート幅変化で行うことにより同等の効果を得ることも可能である。」

(6) 図10から、平均輝度検出手段5は、映像信号を入力し、APLを出力することが看取できる。

(7) 図11から、自発光素子53、第1のTFT50、第2のTFT52、容量51を有する回路がマトリックス状に配置された表示部4が看取できる。また、素子電源線が、第2のTFT52を介して、自発光素子のアノード端子に接続されていることが看取できる。

3-2-2 引用発明
引用刊行物に記載された実施の形態3に基づいて引用発明を認定する。

ア 「【0036】(実施の形態3)…。【0037】図11に、素子電源対応表示部の内部構成を示す。従来例で示した表示部と異なる点は、素子電源電圧が複数の素子電源線により接続されており、水平側駆動手段13から信号が出力されていることである。…」との記載から、引用刊行物における従来例の表示部の内部構成と実施の形態3の表示部の内部構成が相違する部分は、素子電源線に関する部分である。よって、表示部の内部構成の内、素子電源線以外の部分については、引用刊行物の従来例に関する記載を参酌する。
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、…入力される映像信号の特徴に応じて表示信号レベルを制御する自発光素子により構成された表示装置に関する。」との記載、「【0002】【従来の技術】…。表示部4は複数の信号線と複数の走査線が組み合わさったマトリクス形式の表示部である。」との記載、「【0036】(実施の形態3)…。図10において、素子電源対応表示部14は複数の信号線、複数の走査線、複数の素子電源線、画素毎に設けられたTFT(薄膜トランジスタ)、自発光素子などにより構成されている。」との記載を総合すると、引用刊行物の(実施の形態3)には、自発光素子を有する画素がマトリクス状に配置された表示部を有するマトリクス型の表示装置が開示されている。
また、「【請求項12】表示部が有機EL…で構成されたことを特徴とする請求項1、3、5、7、8、9のいずれかに記載の表示装置。」との記載から、自発光素子として有機ELが開示されており、さらに、画素毎に設けられたTFT(薄膜トランジスタ)はアクティブ素子であるから、(実施の形態3)として開示されているマトリクス型の表示装置は、アクティブマトリクス型のEL表示装置を含むものである。
してみると、引用刊行物の(実施の形態3)には、「EL素子を有する画素がマトリクス状に配置された表示部を有するアクティブマトリクス型のEL表示装置」が開示されている。

イ 「【0038】図12に、水平側駆動手段13の内部構成を示す。…素子電源処理手段68は、素子電源電圧調整手段12からの制御信号により水平方向に素子電源電圧を変化させ、素子電源出力手段67を介して素子電源対応表示部の素子電源線に出力する。」との記載から、「素子電源処理手段68」と「素子電源出力手段67」は、素子電源電圧調整手段12からの制御信号により変化させた素子電源電圧を素子電源線に出力する。また、上記摘記事項「第2 3-2-1(7)」より、素子電源線は、第2のTFT52を介して自発光素子53のアノード端子に接続されている。さらに、「【0036】(実施の形態3)…素子電源対応表示部14は…、画素毎に設けられたTFT(薄膜トランジスタ)、自発光素子などにより構成されている。」との記載から、自発光素子53は画素毎に設けられている。してみると、引用刊行物の(実施の形態3)には、「素子電源電圧調整手段12からの制御信号により変化させた素子電源電圧を素子電源線に出力し、画素毎に設けられた自発光素子53のアノード端子に供給する素子電源処理手段68及び素子電源出力手段67」が開示されている。

ウ 「【0036】(実施の形態3)図10は、本発明の実施の形態3における、入力される映像信号を自発光素子により構成された表示部に表示する表示装置の構成を示すブロック図である。…。平均輝度検出手段5は、映像信号のAPLを検出する。APLは、1画面または複数画面単位のものを検出する。」との記載、「【0002】【従来の技術】…平均輝度検出手段5は映像信号の平均輝度レベル(以下、APLと記す)を出力する。」との記載、上記「第2 3-2-1(6)」の摘記事項を総合すると、引用刊行物の(実施の形態3)には、「映像信号から映像信号の平均輝度レベル(APL)を検出する平均輝度検出手段」が開示されている。
また、「【0039】図13に、垂直信号レベル調整手段11の内部構成を示す。…。垂直演算処理部69は、垂直傾斜処理部70の出力に応じて映像信号のレベル変換処理を行う。垂直演算処理部69の出力は出力部を介して水平側駆動手段に出力される。」との記載、「【0038】図12に、水平側駆動手段13の内部構成を示す。図12において、シフトレジスタにより構成されるデータ処理手段56からのデータ保持タイミング信号によってデータ信号保持手段55が画像データ保持を行う。データ信号保持手段55からの信号は、データ信号出力手段54を介して、表示部の信号線に出力される。また、素子電源処理手段68は、素子電源電圧調整手段12からの制御信号により水平方向に素子電源電圧を変化させ、素子電源出力手段67を介して素子電源対応表示部の素子電源線に出力する。」との記載、「【0003】…。第1のTFT50は、ゲートがONしている間に容量51に信号側駆動手段3からの出力である信号線の電位を蓄積する。容量51に蓄積された電荷に応じて第2のTFT52に流れる電流が決められ、自発光素子52が発光する。」との記載から、映像信号はレベル変換された後、水平側駆動手段に出力され、データ信号保持手段55で保持された後、表示部の信号線に出力される。そして、信号線の電位を容量51に蓄積し、蓄積された電荷に応じて自発光素子が発光する。そうすると、映像信号は、画素に印加する信号を発生させる信号といえる。さらに、上記アより、引用刊行物の(実施の形態3)の表示装置は、EL表示装置であることを併せると、引用刊行物の(実施の形態3)には、「EL表示装置の画素に印加する信号を発生させる映像信号から映像信号の平均輝度レベル(APL)を検出する平均輝度検出手段」が開示されている。

エ 「【0036】(実施の形態3)…傾斜ゲイン生成手段6は、APLに応じて傾斜ゲインを生成する。APLが高い場合は傾斜ゲインを大きく、APLが低い場合は傾斜ゲインを小さく設定する。…。素子電源電圧調整手段12は、傾斜ゲインに応じて所定位置を中心に水平方向に素子電源を変化させる制御値を水平側駆動手段13に出力する。水平側駆動手段13は、複数の信号線および複数の素子電源電圧線に信号を出力する。」との記載、「【0041】図15に、素子電源電圧調整手段12の処理状態図を示す。図15において、90%は素子電源対応表示部の素子電源線電位を下げて90%の発光量にすることを示している。素子電源電圧を下げることにより発光レベルが下がり、信号レベルを下げることと同等の効果が得られる。図15では、画面の中心をゲート幅処理の中心としてある。図15に示すように、中心から左右方向に対して素子電源電圧を下げていく。APLが高い場合は中心部と上下周辺部の差が大きくなり、APLが低い場合は差が小さくなる。」との記載から、引用刊行物の(実施の形態3)には、「APLが高い場合は中心部と左右周辺部の素子電源電圧の差が大きくなり、APLが低い場合は素子電源電圧の差が小さくなるよう、中心から左右方向に対して素子電源電圧を下げていく素子電源電圧調整手段12」が開示されている。(当審注:引用刊行物には、「【0041】…中心から左右方向に対して素子電源電圧を下げていく。APLが高い場合は中心部と上下周辺部の差が大きくなり…」と記載されている。しかしながら、
a)左右方向に対して素子電源電圧を下げることで、中心部と上下周辺部の差が大きくなることは、技術的に理解できないこと、
b)引用刊行物には、「【0032】…。図7に示すように、中心から左右方向に対して信号レベルを下げていく。APLが高い場合は中心部と左右周辺部のゲイン差が大きくなり、…。」、「【0040】…。図14に示すように、中心から上下方向に対して信号レベルを下げていく。APLが高い場合は中心部と上下周辺部のゲイン差が大きくなり、…。」との記載があり、信号レベルを下げていく方向と、ゲイン差が拡大する方向が一致していること、
c)引用刊行物には、「【0041】…。素子電源電圧を下げることにより発光レベルが下がり、信号レベルを下げることと同等の効果が得られる。」と記載されており、素子電源電圧を下げることと、信号レベルを下げることは、同等の効果をもたらすこと、
を考慮すると、中心から素子電源電圧を下げていく場合にも、素子電源電圧を下げていく方向と、差が大きくなる方向とは一致するものと解するのが技術常識に合致するから、引用刊行物における「…中心から左右方向に対して素子電源電圧を下げていく。APLが高い場合は中心部と上下周辺部の差が大きくなり…」(下線は、当審で付加した。以下同様である。)との記載は、「…中心から左右方向に対して素子電源電圧を下げていく。APLが高い場合は中心部と左右周辺部の差が大きくなり…」の誤記と認め、上記のとおり、引用刊行物の記載事項を認定した。)

オ 以上のことから、引用刊行物の(実施の形態3)には、以下の発明が開示されている。
「EL素子を有する画素がマトリクス状に配置された表示部を有するアクティブマトリクス型のEL表示装置であって、
素子電源電圧調整手段12からの制御信号により変化させた素子電源電圧を素子電源線に出力し、画素毎に設けられた自発光素子53のアノード端子に供給する素子電源処理手段68及び素子電源出力手段67と、
前記EL表示装置の前記画素に印加する信号を発生させる映像信号から映像信号の平均輝度レベル(APL)を検出する平均輝度検出手段と、
APLが高い場合は中心部と左右周辺部の素子電源電圧の差が大きくなり、APLが低い場合は素子電源電圧の差が小さくなるよう、中心から左右方向に対して素子電源電圧を下げていく素子電源電圧調整手段12とを具備するEL表示装置。」(以下「引用発明」という。)

3-2-3 対比・判断
本願補正発明と引用発明とを比較する。
ア 引用発明における「EL素子」は、本願補正発明における「EL素子」に相当し、以下同様に、「画素」は「画素」に、「表示部」は「表示画面」に、「アクティブマトリクス型のEL表示装置」は「アクティブマトリックス型のEL表示装置」に、それぞれ相当する。してみると、引用発明における「EL素子を有する画素がマトリクス状に配置された表示部を有するアクティブマトリクス型のEL表示装置」は、本願補正発明における「EL素子を有する画素がマトリックス状に配置された表示画面を有するアクティブマトリックス型のEL表示装置」に相当する。

イ 本願補正発明の「前記画素に供給するアノード電圧またはカソード電圧のうち少なくとも一方を発生する電圧発生回路」と、引用発明の「素子電源電圧調整手段12からの制御信号により変化させた素子電源電圧を素子電源線に出力し、画素毎に設けられた自発光素子53のアノード端子に供給する素子電源処理手段68及び素子電源出力手段67」とを対比する。
引用発明の「素子電源処理手段68及び素子電源出力手段67」は、素子電源電圧を素子電源線に出力し、画素毎に設けられた自発光素子53のアノード端子に供給しているから、画素に供給するアノード電圧を発生しているといえる。そうすると、引用発明における「素子電源処理手段68及び素子電源出力手段67」は、本願補正発明における「電圧発生回路」に相当する。したがって、引用発明における「素子電源電圧調整手段12からの制御信号により変化させた素子電源電圧を素子電源線に出力し、画素毎に設けられた自発光素子53のアノード端子に供給する素子電源処理手段68及び素子電源出力手段67」は、本願補正発明における「前記画素に供給するアノード電圧またはカソード電圧のうち少なくとも一方を発生する電圧発生回路」に相当する。

ウ 本願補正発明の「前記EL表示装置の前記画素に印加する信号を発生させる画像データから、点灯率を求める演算回路」と、引用発明の「前記EL表示装置の前記画素に印加する信号を発生させる映像信号から映像信号の平均輝度レベル(APL)を検出する平均輝度検出手段」とを対比する。
引用発明における「映像信号」は、本願補正発明における「画像データ」に相当する。
次に、本願補正発明の「点灯率」と、引用発明の「映像信号の平均輝度レベル(APL)」とを対比するにあたり、本願補正発明の「点灯率」の意味について検討する。本願明細書の発明の詳細な説明には、「点灯率」に関して以下の記載がある。(当審注:下線は当審で付加した。)

(a)「【0912】
本明細書において、点灯率に応じてduty比制御などを変化させるとして説明する。しかし、点灯率とは、一定の意味ではない。たとえば、低点灯率とは、画面144に流れる電流が小さいことを意味しているが、画像を構成する低階調表示の画素が多いことも意味する。つまり、画面144を構成する映像は、暗い画素(低階調の画素)が多い。
【0913】
したがって、低点灯率とは、画面を構成する映像データのヒストグラム処理をした時、低階調の映像データが多い状態と言い換えることができる。高点灯率とは、画面144に流れる電流が大きいことを意味しているが、画像を構成する高階調表示の画素が多いことも意味する。…。
【0914】
以上のことから、点灯率にもとづいて制御するとは、場合に応じて画像の階調分布状態(低点灯率=低階調画素が多い。高点灯率=高階調画素が多い。)にもとづいて制御すると言い換えることができる。…。」

(b)「【0930】
以上の記載で点灯率とは、画像の表示状態を示している。点灯率が低いとは黒表示が多い画像(低階調が多い画素または画像)を示しており、点灯率が高いとは、白表示が多い画像(高階調が多い画素または画像)を示している。また、点灯率とは、アノード端子に流れ込む電流(カソード端子から流れ出す電流)の大きさを示している。点灯率が低いとは黒表示が多い画像のため、アノード端子に流れ込む電流(カソード端子から流れ出す電流)は小さい。点灯率が高いとは白表示が多い画像のため、アノード端子に流れ込む電流(カソード端子から流れ出す電流)が大きい。本発明は、以上の事項を利用して、duty比、パネル温度、FRC、基準電流などを変化させる。」
(c)「【1319】
ただし、APLレベルのみを考慮し、duty比制御を実施すれば、画像に応じて表示画面144の平均輝度(APL)に応じで表示画面144の輝度が変化し、フリッカが発生する。この課題に対して、もとめるAPLレベルは、少なくとも2フレーム、このましくは、10フレームさらに好ましくは60フレーム以上の期間保持し、この期間で演算して、APLレベルによりduty比制御によるduty比を算出する。また、表示画面144の最大輝度(MAX)、最小輝度(MIN)、輝度の分布状態(SGM)などの画像の特徴抽出を行ってduty比制御を行うことが好ましい。以上の事項は、基準電流制御にも適用されることは言うまでもない。
【1320】
画像の特徴抽出により、黒伸張、白伸張を実施することも重要である。これは、最大輝度(MAX)、最小輝度(MIN)、輝度の分布状態(SGM)、シーンの変化状態を考慮して行うとよい。つまり、総和(APLレベルあるいは点灯率)は、映像データの加算だけでなく、画像表示の分布状態などを考慮して補正などを行うことが好ましい。回路構成としては、図88の加算器883cの補正回路(図示せず)の補正量を加算する構成などが例示される。」

(d)「【1334】
点灯率とは、パネルのアノードまたはカソードに流れる最大電流に対する割合でもある(ただし、duty比は1/1とする)。たとえば、カソードに流れる最大電流を100mAとすれば、duty比1/1において、30mAの電流が流れていればzsxddは30/100=30%(0.3)である。図1などの画素構成の場合は、アノードにはプログラム電流が加算されているので、点灯率の計算には考慮する必要がある。カソードはEL素子で消費される電流のみである。したがって、EL表示パネルの全EL素子15で消費される電流は、カソード端子を流れる電流を測定する方が好ましい。
【1335】
また、カソードに流れる最大電流を100mAとし、この時、映像データの総和の最大値とすれば、点灯率とはSUM制御もしくはAPL制御とは同義である。点灯率50%と表現すれば、カソード(アノード)に流れる電流が最大の50%と意味し、点灯率20%と表現すれば、カソードに流れる電流が最大の20%と意味するというように大きさが理解しやすいので今後は主として点灯率の用語を用いる。ただし、カソード(アノード)端子に流れる電流の最大値は、設計上、端子に流れる最大電流であり、相対的な大きさである。たとえば、設計値が小さければ最大値は小さい。
【1336】
点灯率は、パネルのアノードまたはカソードに流れる最大電流に対する割合であるとしたが、パネルの全EL素子に流れる最大電流の割合とも言い換えることができることは言うまでもない。
【1337】
本明細書では、点灯率と断り無く記載する時は、duty比1/1としている。もし、duty比1/3で、20mAの電流が流れていれば、点灯率は(20mA×3)/100mA=60%(0.6)である。つまり、点灯率が100%でも、duty比が1/2であれば、アノード(カソード)端子に流れる電流は最大値の1/2である。点灯率50%、アノード電流が20mA、duty比1/1であれば、duty比1/2になれば、アノード電流は10mAとなる。アノード電流が100mA、点灯率40%、duty比1/1であれば、アノード電流が200mAに変化したとすると、点灯率は80%に変化したことを意味する。以上のように、点灯率は、1画面を構成する映像データの大きさに対する割合、EL表示パネルの消費電流(電力)あるいはその割合を示している。
【1338】
以上の事項は、図1の画素構成のEL表示パネルあるいはEL表示装置だけではなく、図2、図7、図11、図12、図13、図28、図31などの他の画素構成のEL表示パネルあるいはEL表示装置にも適用できることは言うまでもない。

【1340】
一例として点灯率(点灯率)は、映像データの和から求める。つまり、映像データから算出する。入力映像信号がY、U、Vの場合は、Y(輝度)信号から求めても良い。しかし、EL表示パネルの場合は、R、G、Bで発光効率が異なるため、Y信号から求めた値が消費電力にならない。したがって、Y、U、V信号の場合も、一度R、G、B信号に変換し、R、G、Bに応じて電流に換算する係数をかけて、消費電流(消費電力)を求めることが好ましい。しかし、簡易的にY信号から消費電流を求めることは回路処理が容易になることも考慮してもよい。
【1341】
点灯率は、パネルに流れる電流で換算されているものであるとする。なぜなら、EL表示パネルではBの発光効率が悪いため、海の表示などが表示されると、消費電力が一気に増加するからである。したがって、最大値は、電源容量の最大値である。また、データ和とは単純な映像データの加算値ではなく、映像データを消費電流に換算したものとしている。したがって、点灯率も最大電流に対する各画像の使用電流から求められたものである。」

(e)「【1372】
以下の説明では、最大値とは白ラスターの画像データの加算値とした。これは説明を容易にするためである。最大値は画像データの加算処理あるいはAPL処理などで発生する最大値である。したがって、点灯率とは、処理を行う画面の画像データの最大値に対する割合である。」

上記記載によると、本願明細書の発明の詳細な説明に、「【0912】…、点灯率とは、一定の意味ではない。」と記載されているように、本願における「点灯率」は、必ずしも一定の意味で用いられておらず、
(1)点灯率は、画像の表示状態を示すものであり、点灯率が低いとは黒表示が多い画像を示しており、点灯率が高いとは、白表示が多い画像を示している。(【0930】参照)
(2)パネルのアノード又はカソードに流れる最大電流に対する割合(ただし、duty比は1/1とする)。(【1334】参照)
カソードに流れる最大電流を100mAとし、この時、映像データの総和の最大値とすれば、点灯率とはSUM制御もしくはAPL制御とは同義(【1335】参照)
(3)映像データの和から求めるもの。(【1340】参照)
点灯率とは、処理を行う画面の画像データの最大値に対する割合である。(【1372】参照)
等の説明がなされている。してみると、本願補正発明における点灯率は、上記(3)の説明の意味、すなわち、映像データから求めるものであって、映像データの和の最大値に対する割合の意味、あるいは、上記(2)の説明の意味、すなわち、パネルのアノード又はカソードに流れる最大電流に対する割合の意味、を少なくとも有している。
一方、引用発明における「平均輝度レベル(APL)」は、引用刊行物にその定義や技術的意義について特段の記載はなく、表示装置の技術分野における通常使用する意味で用いられているものと解される。そこで、表示装置の技術分野における技術常識を参酌すると、例えば、特開平11-187284号公報には、「【0016】…APL100%とは、表示画面において最白となる輝度レベルを示し、反対に、APL0%とは、表示画面において最黒となる輝度レベルを示している。」との記載があり、また、特開2000-221945号公報には、「【0019】…。パネル9に表示される映像の平均輝度を検出する方法としては、入力された映像信号の平均輝度レベルを検出する第1の方法、パネル9の各画素に流れる素子電流の平均レベルを検出する第2の方法、パネル9に印加する高圧電流を検出する第3の方法等がある。平均輝度の検出方法は、直接的もしくは間接的に検出する任意の方法でよい。また、平均輝度は1画面(1フィールド)の平均輝度に限定されることなく、所定期間(少なくとも1フィールド)の平均輝度であればよい。」と記載があるように、一般に、平均輝度(APL)は、%(百分率)で表される値を含むものであって、最白となる輝度レベル(言い換えると、最大の輝度レベル)に対する割合の意味を包含しており、映像信号の輝度データから算出する方法、各画素に流れる素子電流の平均レベルを検出する方法、パネル9に印加する高圧電流を検出する方法により直接的又は間接的に検出するものを包含する意味を有するものと解される。そうすると、引用発明における平均輝度(APL)は、一定の意味に限られるものではなく、輝度データの最大値に対する割合の意味であって、映像信号の輝度データから算出するもの、あるいは、パネルに流れる電流の最大値に対する割合の意味であって、映像信号の輝度データから間接的に検出するもの等を意味している。
してみると、本願補正発明の点灯率は、上記(3)に説明する意味、すなわち、映像データから求めるものであって、映像データの和の最大値に対する割合の意味に解すると、輝度データの最大値に対する割合の意味であって、映像信号の輝度データから算出するという意味において引用発明の「映像信号の平均輝度レベル(APL)」は、本願補正発明の点灯率に相当する。また、本願補正発明の点灯率を、上記(2)に説明する意味、すなわち、パネルのアノード又はカソードに流れる最大電流に対する割合の意味に解しても、パネルに流れる電流の最大値に対する割合の意味であって、映像信号の輝度データから間接的に検出するという意味において引用発明の「映像信号の平均輝度レベル(APL)」は、本願補正発明の点灯率に相当する。
以上のとおり、引用発明の「映像信号の平均輝度レベル(APL)」が、本願補正発明の点灯率に相当する。

エ 本願補正発明の「前記点灯率が大きいときよりも点灯率が小さいときの方が、前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧の電圧差が大きくなるように、前記アノード電圧と前記カソード電圧のうち少なくとも一方を可変する制御回路」と、引用発明の「APLが高い場合は中心部と左右周辺部の素子電源電圧の差が大きくなり、APLが低い場合は素子電源電圧の差が小さくなるよう、中心から左右方向に対して素子電源電圧を下げていく素子電源電圧調整手段12」とを対比する。
上記ウで検討したとおり、引用発明の「平均輝度(APL)」は、本願補正発明の「点灯率」に相当するから、引用発明の「APLが高い」は、本願補正発明の「点灯率が大きい」に相当し、引用発明の「APLが低い」は、本願補正発明の「点灯率が小さい」に相当する。
また、引用発明は、「APLが高い場合は中心部と左右周辺部の素子電源電圧の差が大きくなり、APLが低い場合は素子電源電圧の差が小さくなる」のであるから、表示画面の左右周辺部の領域に於いては、APLが高いときよりもAPLが低いときの方が、素子電源電圧の中心部との差が小さく、即ち、自発光素子53のアノード電圧とカソード電圧の電圧差が大きくなっている。
そして、引用発明における自発光素子53のアノード端子に供給される「素子電源電圧を下げていく」ことは、本願補正発明における「アノード電圧を可変する」ことに含まれる。
してみると、引用発明の「APLが高い場合は中心部と左右周辺部の素子電源電圧の差が大きくなり、APLが低い場合は素子電源電圧の差が小さくなるよう、中心から左右方向に対して素子電源電圧を下げていく素子電源電圧調整手段12」は、本願補正発明の「前記点灯率が大きいときよりも点灯率が小さいときの方が、前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧の電圧差が大きくなるように、前記アノード電圧と前記カソード電圧のうち少なくとも一方を可変する制御回路」に相当する。

以上のことから、本願補正発明と引用発明は、
「 EL素子を有する画素がマトリックス状に配置された表示画面を有するアクティブマトリックス型のEL表示装置であって、
前記画素に供給するアノード電圧を発生する電圧発生回路と、
前記EL表示装置の前記画素に印加する信号を発生させる画像データから、点灯率を求める演算回路と、
前記点灯率が大きいときよりも点灯率が小さいときの方が、前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧の電圧差が大きくなるように、前記アノード電圧を可変する制御回路とを具備することを特徴とするEL表示装置。」
の点で一致し、発明を特定する事項に差異はない。
したがって、本願補正発明は、引用発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

審判請求人は、平成22年6月18日付け回答書において、
(1)引用文献1には、単なるAPLに関する記載はあるが、EL表示装置の前記画素に印加する信号を発生させる画像データから、点灯率を求めるものではないこと
(2)引用文献1の「素子電源を変化させること」は、表示画面の面内において輝度傾斜を発生させるものであって、本願補正発明のように、画面全体にわたり、アノード電圧またはカソード電圧を変化させるものではないこと
を根拠に、構成が相違する旨主張する。
以下、審判請求人の主張を検討する。
(1)上記「第2 3-2-3 ウ」に記載したとおり、本願補正発明における「点灯率」と引用発明における平均輝度(APL)は、技術的意味が共通し、何れもEL表示装置の画素に印加する信号を発生させる映像信号から検出するものである。したがって、本願発明の「点灯率」と引用発明のAPLが相違する旨の審判請求人の主張は採用できない。
(2)本願補正発明は、制御回路がその電圧を可変し、電圧発生回路が発生するアノード電圧またはカソード電圧を、画面全体にわたり変化させることは特定されていない。したがって、審判請求人の主張は、本願補正発明の発明特定事項に基づかない主張であるから、採用することはできない。
仮に、本願補正発明が、「画面全体にわたり、アノード電圧またはカソード電圧を変化させるもの」と解したとしても、以下のとおり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
引用刊行物には、「【0002】【従来の技術】…。【0008】図30に、コントラスト調整手段20での処理状態を示す。図30において、横軸はAPL、縦軸はコントラストゲインを示す。APLが高い場合は、コントラストゲインを下げるように制御される。このように、平均輝度レベルが高くなり、画面全体の消費電力が大きくなるような場合に、コントラストゲインを下げることにより画面全体の輝度を下げて電力の抑制を図っている。【0009】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、図24に示す従来構成においては、APLが高い場合、画面全体の明るさを均一に下げることになり、コントラスト変化による表示品位の低下を招くことになる。【0010】本発明では、かかる点に鑑み、自発光素子により構成された表示部に画像表示を行う際、低電力化および表示品位低下抑制が可能な表示装置を提供することを目的とする。」との記載があり、引用刊行物は、画面全体の明るさを均一に下げる従来の技術に対し、表示画面の面内において輝度傾斜を発生させる技術を開示している。そうすると、画面全体の輝度を均一に制御して変化させることは、引用刊行物の従来技術の欄に開示されているから、引用発明において、画面の輝度を制御する際、画面全体の輝度を均一に制御して変化させることに困難性は無い。したがって、仮に、本願補正発明を、「画面全体にわたり、アノード電圧またはカソード電圧を変化させるもの」と解したとしても、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3-2-4 小括
以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許出願の際、独立して特許を受けることができない。仮に、審判請求人が主張するよう、本願補正発明を「画面全体にわたり、アノード電圧またはカソード電圧を変化させるもの」と解したとしても、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができない。

3-3 独立特許要件その2(特許法第29条の2)
3-3-1 先願明細書とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の最先の優先日(平成15年5月7日)前の平成15年2月20日に出願された他の特許出願であって、本願の最先の優先日後に出願公開された特願2003-43251号(特開2004-252216号公報参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自発光型表示装置とその駆動方法に係り、特に画素に流れる電流値の変化、温度の変化による自発光素子の特性劣化を抑制し、表示品質の向上および長寿命化を図った自発光型表示装置とその駆動方法に関する。」

(2)「【0002】
【従来の技術】
近年、陰極管に代えて絶縁基板上に複数の画素をマトリクス配列したパネル型の表示装置が実用化されている。パネル型の表示装置として液晶表示装置がすでに実用化されている。液晶表示装置は自身では発光しないため、画像を可視化するたに外光や補助光源を必要とする。これに対し、画素自身が発光する自発光型の表示装置が開発されている。自発光型の表示装置としは、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL)や電界放出型表示素子(FED)などが知られている。
【0003】
有機ELやFEDなどの自発光型の表示装置は、自発光素子からなる複数の画素を基板上にマトリクス状に配置して構成される。この種の自発光型表示装置において、表示画像の平均輝度を測定し、この平均輝度に応じて表示素子に印加する電圧を制御して表示装置の表示品位を向上させる技術が知られている(特許文献1等参照)。例えば、画面全体はそれほど明るくないが一部に明るい領域がある画像を表示する場合には、その一部の明るい領域の表示を通常のピーク輝度よりも明るくすれば迫力のある表示になることが知られている。また、逆に画面全体が概ね明るい領域で占められている画像を表示する場合、ピーク輝度を高めてもあまり画質は向上しない。ゆえに、平均輝度の低い画像を表示するときだけ、ピーク輝度を高め、画面内の一部の領域の輝度を高くするよう制御することで、表示品位を向上させることができる。
【0004】
また、平均輝度の高い画像を表示するときにはピーク輝度を落とすことになるため、本来高輝度で発光すべきであった表示装置内の多くの画素の輝度を落とすことになるため、消費電力の抑制につながる。さらに、自発光素子は高輝度で発光させるほど劣化が進行しやすいため、平均輝度の高い画像を表示するときにピーク輝度を落とすことで自発光素子の長寿命化にも貢献する。
【0005】
ここで、有機ELやFED等の自発光素子表示装置の場合、自発光素子の発光輝度は当該素子を流れる電流量に比例するという性質があるので、表示装置全体の発光に供される電流量を測定することにより表示装置全体の平均輝度を検出することができる。
【0006】
ところで、自発光型表示装置の駆動回路において、各画素に正確に階調をかけるためには、自発光素子が電流駆動であるため、各画素の自発光素子に流す電流量を正確に制御しなければならない。
【0007】
一般に、自発光型の表示装置は、画素毎に薄膜トランジスタ(TFT)等のスイッチング素子(アクティブ素子、以下TFTとして説明する)を備えたアクティブ・マトリクス構成を有している。以下では、自発光型の表示装置の一種である有機EL表示装置を例として説明する。この自発光型表示装置は、パネルを構成する基板上に有機ELの自発光素子(OLEDとも称する)で構成した複数の画素回路をマトリクス状に配置した表示部と、前記画素に接続された信号線に表示信号を供給する信号線駆動手段と、前記画素に電流を供給する電流供給線と、前記画素に接続された走査線に前記表示信号を供給する画素を選択するための選択信号を供給する走査線駆動手段と、選択された画素の前記電流供給線に電流を供給する駆動電源手段と、外部信号源から入力される表示データを前記信号線駆動手段と前記走査線駆動手段を制御する制御信号に変換する表示制御手段を備えている。
【0008】
信号線駆動手段は走査線駆動手段で選択された走査線に接続した画素に階調をかけるために信号線を介して電圧信号を各画素に書きこむ。各画素はその電圧信号に応じて駆動電源手段から電流供給線を介して自発光素子に流す電流量を制御する(「特許文献2」参照)。正確に階調表示を行うためには、各画素は電圧信号の可変量を電流の可変量に正確に変換する必要がある。しかし、アクティブマトリクス構成の表示装置において、画素回路を構成するTFT素子を全画面にわたってバラツキ無く作製することは困難である。
【0009】
そこで、電圧信号の可変量を電流の可変量に正確に変換するTFTを必要としない自発光素子駆動装置の技術が考案された。例えば、1画素毎に、入力信号に応じたパルス幅変調(PWM)信号を用いて1フレーム期間中に階調をかける駆動装置が開示されている(「特許文献3〕参照)。この駆動装置においては、画素の自発光素子に流す電流量をアナログ制御するのではなく、電流のON-OFFを制御するため、電圧信号の可変量を電流の可変量に正確に変換するTFT素子は必要ない。1フレーム期間中の自発光素子に電流が流れる時間すなわちデューティ比を制御することで階調表示を行う。」

(3)「【0014】
本発明の目的は、温度変化および自発光素子の経時的な劣化を原因とするI-V特性変質の影響で増減してしまった電流量および輝度を補償すると共に、表示画像の平均輝度に応じた輝度制御を行うことにより、高品質の画像表示と長寿命化を図った自発光型表示装置とその駆動方法を提供することにある。」

(4)「【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について、有機EL素子表示装置を例に取り説明する。図1は本発明による自発光型表示装置の第1の実施形態である有機EL素子表示装置の構成例を説明するブロック図である。図1において、符号1?5は図示しない外部の信号源から入力される映像デジタル信号で、1は映像データ信号、2は垂直同期信号、3は水平同期信号、4はデータイネーブル信号、5はデータ同期クロックである。映像データ信号1は画像の各画素の濃淡値(階調)を表す信号である。
【0019】
垂直同期信号2は1フレーム期間周期の信号で映像データ信号(表示信号)1の1フレーム分の始まりを示す。水平同期信号3は一水平周期の信号で表示データ1の1水平ライン分の始まりを示す。データイネーブル信号4は映像データ信号1が有効である期間を示す信号である。1?4は全てデータ同期クロック5に同期して入力される。本実施形態では、映像データ信号1は、一画面分が左上端の画素から順次ラスタスキャン形式で転送されるものとして以下説明する。6は表示制御部、7は表示データ信号、8はデータ信号駆動回路制御信号、9は走査信号駆動回路制御信号、28はPWM制御信号である。表示制御部6は表示装置全体をコントロールする部分で、外部から入力される映像デジタル信号1?5のに応じて所定のタイミングで表示信号(データ信号)7、データ信号駆動回路制御信号8、走査信号駆動回路制御信号9、PWM制御信号28を出力する。10はデータ信号駆動回路(信号線駆動回路)で、11はデータ線(信号線)、12は走査信号駆動回路(走査線駆動回路)で13は走査線、14は表示部である。
【0020】
データ信号駆動回路10は、データ信号駆動回路制御信号8によって制御され、信号線11を介して表示部14内の各画素にアナログ信号で表示データ(表示信号)を書き込む。走査信号駆動回路12は、走査信号駆動回路制御信号9によって制御され、走査線13を介して表示部14に書き込み選択信号を送る。PWM制御信号28は、表示部14内の画素回路のPWM回路を制御するための信号である。15は陽極電源制御部、16は発光電力供給線(電流供給線)、19は電流測定部、190は発光電流信号(電流信号)、19は平均回路、192は平均電流値信号、193はピーク検出部、194はピーク電流値信号である。陽極電源部15は、有機EL素子が発光するために必要な電力を発光電力供給線16を介して表示部14に供給する。
【0021】
陽極電源制御部15は平均電流値信号192とピーク電流値信号194を受信し、これら信号に応じて表示部14内の自発光素子に印加する電圧を制御する。電流測定部19は発光電力供給線16を流れる電流を測定することにより、表示部14内の有機EL素子を流れる電流の総量を測定する。電流測定部19はその電流測定値を信号化して、発光電流信号190として平均回路191とピーク検出部193に入力する。平均回路191は例えばローパスフィルタなどで構成し、1フレーム周期で増減する発光電流信号190を平均し、平均電流値信号192として出力し陽極電源制御部15に伝達する。ピーク検出部193は例えばサンプルホールド回路などで構成して1フレーム周期で増減する発光電流信号190のピーク値を1フレーム期間ごとに検出し、ピーク電流値信号194として出力し陽極電源制御部15に伝達する。17は陰極電源部で、18は陰極電源線である。陰極電源部17は表示部14内各画素の有機EL素子の陰極側に陰極電源線18を介して接続されている。
…。
【0043】
図7は図6に示した自発光素子表示装置の輝度制御フローを実施するための図1の陽極電源制御部15の内部構成の一例を説明する回路図である。図7において、符号151は除算回路、152は平均電流/ピーク電流比信号、153は制御関数回路、154は目標ピーク電流値信号、155はコンパレータ、156は発振器、157はパワーMOS、158は整流ダイオード、159はインダクタ、160は平滑コンデンサである。除算回路151は入力される平均電流値信号192をピーク電流値信号194で除算し、平均電流/ピーク電流比信号152として出力する。制御関数回路153は、入力される平均電流/ピーク電流比信号152に応じて目標ピーク電流値信号154を出力する。コンパレータ155は目標ピーク電流値信号154とピーク電流値信号194を比較し、目標ピーク電流値信号のほうが高いときにはハイレベルの電圧を発振器156のイネーブル端子に出力し発振器156を動作させる。
【0044】
一方、ピーク電流値信号194のほうが目標ピーク電流値信号154より高い場合はローレベル電圧を発振器156のイネーブル端子に出力し発振器156の動作を止める。発振器156は高周波の信号を出力しパワーMOS157のスイッチングを制御する。発振器156が動作しているときはパワーMOS157はオンとオフを繰り返し、3.3V等の低電圧な電源からインダクタ159を通りパワーMOS157を通過しグランドに流れ込む電流をON-OFFさせる。この電流のオン-オフによって、インダクタ159に逆起電力が生じ高電圧を発生する。ここで生じた高電圧は整流ダイオード158を通り、平滑コンデンサ160を高電圧に充電し表示装置の自発光素子の発光のための電源として発光電力供給線16に出力される。
【0045】
パワーMOS157がスイッチングを繰り返すと平滑コンデンサ160は充電されて、発光電力供給線16を介して自発光素子に印加される電圧は徐々に上昇する。自発光素子に印加される電圧が上昇すると共に発光電流のピーク電流値信号194の値も上昇し、目標ピーク電流値154を超えると、コンパレータはローレベルを出力し、発振器156の動作を止める。発振器156の動作が止まるとインダクタ159は高電圧を発生しなくなり、自発光素子には平滑コンデンサ160に蓄えられた電荷が供給され、発光電力供給線16の電圧は徐々に降下する。発光電力供給線16の電圧が降下すると、発光電流のピーク電流値が低下するため発振器156が動作する。陽極電源制御回路15は上記のように動作し、ピーク電流値信号194のレベルは、目標ピーク電流値154と常に一致するよう保たれる。制御関数回路153の入出力の関係を任意に設定することにより、映像データ信号の平均輝度に応じたピーク輝度制御のチューニングが可能である。そして、I-V特性の変化の影響を受けずに、制御関数回路153の設定通りに平均輝度に輝度制御を行うことができる。
【0046】
本実施例においては、スイッチングレギュレータによる昇圧回路を陽極側電源に用いた制御の具体例の説明を行ったが、ピーク電流値信号194および平均電流/ピーク電流比信号152に応じて自発光素子に印加する電圧を制御するという目的においては図7の回路構成に制限されるものではない。また、…。

【0048】
以上、表示装置の発光に供する電流量からピーク電流値と平均電流値を測定し、表示装置のピーク輝度を制御する手法の1実施例について述べた。しかし、階調番号が0(黒表示)の画素は1フレーム期間の間1度も点燈しないので、図5の時刻T0のときの電流測定値は、本当に全画素が点燈しているときの電流値との間に若干の誤差が生じる。もし、この誤差を見過ごすことのできないくらい高い精度を要求するのであれば、PWM制御信号28によるPWM回路25の制御法を工夫するなどしてコントラストに影響の出ない程度に一瞬だけ階調番号が0である画素も点燈させ、そのときの電流値を測定することにより、ピーク電流値の測定精度を高めることも可能である。
【0049】また、図1と図2において自発光素子の陽極側の電源である陽極電源制御部15と発光電力供給線16と電流測定部19を1系統だけ表記しているが、複数色(例えば、赤R、緑G、青Bなど)に自発光素子ごとにこれらを設け、各色毎に自発光素子に印加する電圧を制御しても構わない。色毎に電源線を分けることにより、初期設定で色バランスの調整をできることの他、温度変化に起因する色バランスのズレや、自発光素子の経時的な劣化による色バランスのズレを補正することも可能である。」

(5)「【0054】
図11は本発明による自発光型表示装置の第3の実施例である自発光型表示装置の構成例を説明する図1および図9と同様のブロック図である。本実施例では、映像データ信号1から直接平均輝度を算出する。図11において、符号61は平均輝度算出部、62は映像データ信号の平均輝度、1501は平均輝度入力陽極電源制御部である。その他、前記各実施例と同一符号は同一機能部分に対応し、第1の実施例の場合と同じ動作をするものとする。平均輝度算出部61は映像データ信号1からデジタル演算により映像データ信号1の平均輝度を算出し、映像データ信号の平均輝度62として平均輝度入力陽極電源制御部1501に入力する。
【0055】
図12は図11における平均輝度入力陽極電源制御部1501の構成例を説明する回路図である。以下、前記図1および図7で説明した第1の実施例と異なる部分についてのみ説明する。制御関数回路153は映像データ信号の平均輝度62の入力に応じて目標ピーク電流値信号154を出力する。制御関数回路153の入出力関係は、例えば図11のように、平均輝度の低い場合に目標ピーク電流値信号154の出力レベルを高くし、平均輝度の高い場合に目標ピーク電流値信号154の出力レベルを低くする。第1の実施例の場合と同様に、表示装置の発光に供される電流のピーク値は、目標ピーク電流値信号154と等しくなるように制御される。図11、図12において特に説明していないコンポネントは、第1の実施形態の項で説明した通り動作するものとする。
【0056】
以上のように、本実施例の構成としたことにより、映像データ信号1から算出した平均輝度に応じて、確実にピーク輝度制御を行うことができる。また、温度変化や経時的な劣化等により自発光素子のI-V特性が変化したとしても、ピーク輝度制御に影響はない。」

3-3-2 先願発明
先願明細書の記載のうち、第3の実施例に基づいて先願発明を認定するが、第3の実施例が対象とする自発光型表示装置の一般的な構成は、【従来の技術】の記載を参酌して認定する。
ア 【従来の技術】を説明する「【0003】有機ELやFEDなどの自発光型の表示装置は、自発光素子からなる複数の画素を基板上にマトリクス状に配置して構成される。」との記載と、「【0007】一般に、自発光型の表示装置は、画素毎に薄膜トランジスタ(TFT)等のスイッチング素子(アクティブ素子、以下TFTとして説明する)を備えたアクティブ・マトリクス構成を有している。」との記載から、先願明細書には、「EL素子を有する画素がマトリックス状に配置されたアクティブマトリックス型のEL表示装置」が開示されている。

イ 第3の実施例の説明中に「【0055】図12は図11における平均輝度入力陽極電源制御部1501の構成例を説明する回路図である。以下、前記図1および図7で説明した第1の実施例と異なる部分についてのみ説明する。制御関数回路153は映像データ信号の平均輝度62の入力に応じて目標ピーク電流値信号154を出力する。制御関数回路153の入出力関係は、例えば図11のように、平均輝度の低い場合に目標ピーク電流値信号154の出力レベルを高くし、平均輝度の高い場合に目標ピーク電流値信号154の出力レベルを低くする。」と記載されているので、制御関数回路153が映像データ信号の平均輝度62の入力に応じて目標ピーク電流値信号154を出力する点を除き、第3実施例の平均輝度入力陽極電源制御部1501は、第1実施例の陽極電源制御部15と異なる点はないから、陽極電源制御部15が発生する電圧とその供給先について、第1実施例の記載を参酌する。
第1の実施例の説明中の「【0021】陽極電源制御部15は平均電流値信号192とピーク電流値信号194を受信し、これら信号に応じて表示部14内の自発光素子に印加する電圧を制御する。」との記載、「【0043】図7は図6に示した自発光素子表示装置の輝度制御フローを実施するための図1の陽極電源制御部15の内部構成の一例を説明する回路図である。…。【0044】…。ここで生じた高電圧は整流ダイオード158を通り、平滑コンデンサ160を高電圧に充電し表示装置の自発光素子の発光のための電源として発光電力供給線16に出力される。」との記載、上記アで検討したとおり、自発光素子には、EL素子が含まれていることから、先願明細書の第3の実施例には、EL素子に供給する電圧を発生する陽極電源制御部15(「陽極電源制御部15」は、第3実施例では、「平均輝度入力陽極電源制御部1501」である。)が開示されている。

ウ 「【0005】ここで、有機ELやFED等の自発光素子表示装置の場合、自発光素子の発光輝度は当該素子を流れる電流量に比例するという性質があるので、表示装置全体の発光に供される電流量を測定することにより表示装置全体の平均輝度を検出することができる。」との記載、「【0054】…。平均輝度算出部61は映像データ信号1からデジタル演算により映像データ信号1の平均輝度を算出し、」との記載から、先願明細書の第3の実施例には、表示装置の発光に供される電流量で決まる平均輝度を、映像データ信号1から演算する平均輝度算出部61が開示されている。

エ 「【0055】…。図11、図12において特に説明していないコンポネントは、第1の実施形態の項で説明した通り動作するものとする。」と記載されているから、図12のコンパレータ155、発振器156、パワーMOS157、整流ダイオード158、インダクタ159、平滑コンデンサ160の動作について第1の実施形態(特に【0043】?【0046】の記載)を参酌すると、「【0043】…制御関数回路153は、入力される平均電流/ピーク電流比信号152に応じて目標ピーク電流値信号154を出力する。コンパレータ155は目標ピーク電流値信号154とピーク電流値信号194を比較し、目標ピーク電流値信号のほうが高いときにはハイレベルの電圧を発振器156のイネーブル端子に出力し発振器156を動作させる。【0044】一方、ピーク電流値信号194のほうが目標ピーク電流値信号154より高い場合はローレベル電圧を発振器156のイネーブル端子に出力し発振器156の動作を止める。発振器156は高周波の信号を出力しパワーMOS157のスイッチングを制御する。発振器156が動作しているときはパワーMOS157はオンとオフを繰り返し、3.3V等の低電圧な電源からインダクタ159を通りパワーMOS157を通過しグランドに流れ込む電流をON-OFFさせる。この電流のオン-オフによって、インダクタ159に逆起電力が生じ高電圧を発生する。ここで生じた高電圧は整流ダイオード158を通り、平滑コンデンサ160を高電圧に充電し表示装置の自発光素子の発光のための電源として発光電力供給線16に出力される。【0045】パワーMOS157がスイッチングを繰り返すと平滑コンデンサ160は充電されて、発光電力供給線16を介して自発光素子に印加される電圧は徐々に上昇する。自発光素子に印加される電圧が上昇すると共に発光電流のピーク電流値信号194の値も上昇し、目標ピーク電流値154を超えると、コンパレータはローレベルを出力し、発振器156の動作を止める。発振器156の動作が止まるとインダクタ159は高電圧を発生しなくなり、自発光素子には平滑コンデンサ160に蓄えられた電荷が供給され、発光電力供給線16の電圧は徐々に降下する。発光電力供給線16の電圧が降下すると、発光電流のピーク電流値が低下するため発振器156が動作する。陽極電源制御回路15は上記のように動作し、ピーク電流値信号194のレベルは、目標ピーク電流値154と常に一致するよう保たれる。制御関数回路153の入出力の関係を任意に設定することにより、映像データ信号の平均輝度に応じたピーク輝度制御のチューニングが可能である。」と記載されている。該記載から、目標ピーク電流値信号154の出力レベルを高くすると、発振器156が動作し、パワーMOS157はオンとオフを繰り返し、平滑コンデンサ160が充電され、発光電力供給線16を介して自発光素子に印加される電圧は徐々に上昇し、自発光素子に印加される電圧が上昇すると共に発光電流のピーク電流値信号194の値が上昇することが読み取れる。逆に、目標ピーク電流値信号154の出力レベルを低くすると、発振器156が停止し、インダクタ159が高電圧を発生しなくなり、自発光素子には平滑コンデンサ160に蓄えられた電荷が供給され、発光電力供給線16の電圧は徐々に降下すると共に発光電流のピーク電流値信号194の値が下降することが読み取れる。
そして、第3の実施例では、「【0055】…。制御関数回路153は映像データ信号の平均輝度62の入力に応じて目標ピーク電流値信号154を出力する。制御関数回路153の入出力関係は、例えば図11のように、平均輝度の低い場合に目標ピーク電流値信号154の出力レベルを高くし、平均輝度の高い場合に目標ピーク電流値信号154の出力レベルを低くする。第1の実施例の場合と同様に、表示装置の発光に供される電流のピーク値は、目標ピーク電流値信号154と等しくなるように制御される。」と記載されている。そうすると、平均輝度が低い場合、制御関数回路153は、目標ピーク電流値信号154の出力レベルを高くするから、自発光素子(EL素子)に印加される電圧が上昇し、自発光素子(EL素子)に供給される電流のピーク値が上昇することとなる。逆に、平均輝度が高い場合、制御関数回路153は、目標ピーク電流値信号154の出力レベルを低くするから、自発光素子(EL素子)に印加される電圧が降下し、自発光素子(EL素子)に供給される電流のピーク値が低下することとなる。
してみると、先願明細書の第3の実施例には、平均輝度が低い場合、表示装置の発光に供される電流のピーク値が高くなるように、平均輝度が高い場合、表示装置の発光に供される電流のピーク値が低くなるように、平均輝度入力陽極電源制御部1501が発生するEL素子に供給する電圧を可変する制御関数回路153が開示されている。

以上のことから、先願明細書には、
「EL素子を有する画素がマトリックス状に配置されたアクティブマトリックス型のEL表示装置であって、
EL素子に供給する電圧を発生する平均輝度入力陽極電源制御部1501と、
表示装置の発光に供される電流量で決まる平均輝度を、映像データ信号1から演算する平均輝度算出部61と、
平均輝度が低い場合、表示装置の発光に供される電流のピーク値が高く、平均輝度が高い場合、表示装置の発光に供される電流のピーク値が低くなるように、平均輝度入力陽極電源制御部1501が発生するEL素子に供給する電圧を可変する制御関数回路153とを具備するEL表示装置。」(以下「先願発明」という。)
が開示されている。

3-3-3 対比・判断
以下、本願補正発明と、先願発明とを対比する。
ア 先願発明における「EL素子を有する画素がマトリックス状に配置されたアクティブマトリックス型のEL表示装置」は本願補正発明における「EL素子を有する画素がマトリックス状に配置された表示画面を有するアクティブマトリックス型のEL表示装置」に相当する。

イ 本願補正発明における「前記画素に供給するアノード電圧またはカソード電圧のうち少なくとも一方を発生する電圧発生回路」と、先願発明における「EL素子に供給する電圧を発生する平均輝度入力陽極電源制御部1501」とを対比する。
先願発明における「平均輝度入力陽極電源制御部1501」が発生する「EL素子に供給する電圧」は、陽極電圧であり、陽極電圧とアノード電圧は、同じ電圧を意味するから、先願発明における「EL素子に供給する電圧を発生する平均輝度入力陽極電源制御部1501」は、本願補正発明における「前記画素に供給するアノード電圧またはカソード電圧のうち少なくとも一方を発生する電圧発生回路」に相当する。

ウ 本願補正発明の「前記EL表示装置の前記画素に印加する信号を発生させる画像データから、点灯率を求める演算回路」と、先願発明の「表示装置の発光に供される電流量で決まる平均輝度を、映像データ信号1から演算する平均輝度算出部61」とを対比する。
先願発明における「映像データ信号1」は、本願補正発明における「画像データ」に相当する。
また、上記「第2 3-2-3 ウ」で検討したとおり、本願補正発明における「点灯率」は、必ずしも一定の意味で用いられておらず、
(1)点灯率は、画像の表示状態を示すものであり、点灯率が低いとは黒表示が多い画像を示しており、点灯率が高いとは、白表示が多い画像を示している。(【0930】参照)
(2)パネルのアノード又はカソードに流れる最大電流に対する割合(ただし、duty比は1/1とする)。(【1334】参照)
カソードに流れる最大電流を100mAとし、この時、映像データの総和の最大値とすれば、点灯率とはSUM制御もしくはAPL制御とは同義(【1335】参照)
(3)映像データの和から求めるもの。(【1340】参照)
点灯率とは、処理を行う画面の画像データの最大値に対する割合である。(【1372】参照)
等の説明がなされている。してみると、本願補正発明における点灯率は、上記(2)の説明の意味、すなわち、パネルのアノード又はカソードに流れる最大電流に対する割合の意味、を少なくとも有している。
一方、先願発明の「平均輝度」は、表示装置の発光に供される電流量で決まるものの、表示装置の発光に供される電流量から平均輝度がどのように決まるのか、具体的な記載はない。そこで、表示装置の技術分野における技術常識を参酌すると、例えば、特開平11-187284号公報には、「【0016】…APL100%とは、表示画面において最白となる輝度レベルを示し、反対に、APL0%とは、表示画面において最黒となる輝度レベルを示している。」との記載があるように、表示画面において最白となる輝度レベルの時(すなわち、輝度が最大の時)に表示装置の発光に供される電流量に対する割合の意味と解せられる。
そうすると、本願補正発明の点灯率は、上記(2)に説明する意味、すなわち、パネルのアノード又はカソードに流れる最大電流に対する割合の意味を有しているので、輝度が最大の時に表示装置の発光に供される電流量に対する割合の意味を有する先願発明の「平均輝度」は、本願補正発明の「点灯率」に相当する。
したがって、先願発明の「表示装置の発光に供される電流量で決まる平均輝度を、映像データ信号1から演算する平均輝度算出部61」は、本願補正発明の「前記EL表示装置の前記画素に印加する信号を発生させる画像データから、点灯率を求める演算回路」に相当する。

エ 本願補正発明の「前記点灯率が大きいときよりも点灯率が小さいときの方が、前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧の電圧差が大きくなるように、前記アノード電圧と前記カソード電圧のうち少なくとも一方を可変する制御回路」と、先願発明の「平均輝度が低い場合、表示装置の発光に供される電流のピーク値が高く、平均輝度が高い場合、表示装置の発光に供される電流のピーク値が低くなるように、平均輝度入力陽極電源制御部1501が発生するEL素子に供給する電圧を可変する制御関数回路153」とを対比する。
上記ウに記載したとおり、先願発明の「平均輝度」は本願補正発明の「点灯率」に相当するから、先願発明における「平均輝度が低い」は本願補正発明の「点灯率が小さい」に相当し、同様に、「平均輝度が高い」は「点灯率が大きい」に相当する。そして、表示装置の発光に供される電流のピーク値と、アノード電圧とカソード電圧の電圧差とは、対応する関係にあり、電位差が大きいと電流のピーク値が高くなり、電位差が小さいと電流のピーク値が低くなるから、先願発明における「表示装置の発光に供される電流のピーク値が高く、…なるように、発生する平均輝度入力陽極電源制御部1501が発生するEL素子に供給する電圧を可変する」ことは、本願補正発明における「前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧の電圧差が大きくなるように、前記アノード電圧…を可変する」ことに相当する。してみると、先願発明の「平均輝度が低い場合、表示装置の発光に供される電流のピーク値が高く、平均輝度が高い場合、表示装置の発光に供される電流のピーク値が低くなるように、発生する平均輝度入力陽極電源制御部1501が発生するEL素子に供給する電圧を可変する制御関数回路153」は、本願補正発明の「前記点灯率が大きいときよりも点灯率が小さいときの方が、前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧の電圧差が大きくなるように、前記アノード電圧と前記カソード電圧のうち少なくとも一方を可変する制御回路」に相当する。

オ 以上のことから、本願補正発明と先願発明は、
「 EL素子を有する画素がマトリックス状に配置された表示画面を有するアクティブマトリックス型のEL表示装置であって、
前記画素に供給するアノード電圧を発生する電圧発生回路と、
前記EL表示装置の前記画素に印加する信号を発生させる画像データから、点灯率を求める演算回路と、
前記点灯率が大きいときよりも点灯率が小さいときの方が、前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧の電圧差が大きくなるように、前記アノード電圧を可変する制御回路とを具備することを特徴とするEL表示装置。」
の点で一致し、発明を特定する事項に相違する点はない。

3-3-4 小括
したがって、本願補正発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、前記先願明細書に記載された発明の発明をした者が本願補正発明の発明者と同一の者であるとも、また、本願出願の時にその出願の出願人が前記先願明細書に係る出願の出願人と同一の者であるとも認められないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

4 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、上記「第2 3-2」のとおり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明であるから、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであり、仮に、審判請求人が主張するよう、本願補正発明を「画面全体にわたり、アノード電圧またはカソード電圧を変化させるもの」と解したとしても、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。また、本願補正発明は、上記「第2 3-3」のとおり、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年11月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成19年10月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「 EL素子を有する画素がマトリックス状に配置された表示画面を有するEL表示装置であって、
前記画素に供給するアノード電圧またはカソード電圧のうち少なくとも一方を発生する電圧発生回路と、
前記EL表示装置の前記画素に印加する信号を発生させる画像データから、点灯率を求める演算回路と、
前記点灯率に対応して、前記電圧発生回路が発生するアノード電圧とカソード電圧のうち少なくとも一方を可変する制御回路とを具備することを特徴とするEL表示装置。」

2 拒絶理由その1(特許法第29条第1項第3号、第2項)
2-1 引用刊行物とその記載事項、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、その記載事項、及び引用発明は、上記「第2 3-2-1」、「第2 3-2-2」に記載したとおりである。

2-2 対比・判断
本願発明は、本願補正発明から上記「第2 1」に記載した(補正事項1)、(補正事項2)の限定を解除した発明である。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3-2-3」で検討したとおり、引用発明と同一であり、又は引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明と同一であり、又は引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2-3 小括
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するので特許を受けることができず、仮に、審判請求人が主張するよう、本願発明を「画面全体にわたり、アノード電圧またはカソード電圧を変化させるもの」と解したとしても、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 拒絶理由その2(特許法第29条の2)
3-1 先願明細書とその記載事項、先願発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の最先の優先日前の他の出願であって、本願の最先の優先日後に出願公開された特願2003-43251号(特開2004-252216号公報参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項、先願発明は、それぞれ上記「第2 3-3-1」、「第2 3-3-2」に記載したとおりである。

3-2 対比・判断
本願発明は、本願補正発明から上記「第2 1」に記載した(補正事項1)、(補正事項2)の限定を解除した発明である。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3-3-3」で検討したとおり、先願発明と同一であるから、本願発明も同様の理由により、先願発明と同一であり、しかも、前記先願明細書に記載された発明をした者が本願発明の発明者と同一の者であるとも、また、本願出願の時にその出願の出願人が前記先願明細書に係る出願の出願人と同一の者であるとも認められない。

3-3 小括
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するので特許を受けることができず、仮に、審判請求人が主張するよう、本願の請求項1に係る発明を「画面全体にわたり、アノード電圧またはカソード電圧を変化させるもの」と解したとしても同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。また、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-28 
結審通知日 2011-03-29 
審決日 2011-04-28 
出願番号 特願2004-136379(P2004-136379)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (G09G)
P 1 8・ 121- Z (G09G)
P 1 8・ 575- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 直明  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 波多江 進
江塚 政弘
発明の名称 EL表示装置  
代理人 松田 正道  
代理人 特許業務法人 松田国際特許事務所  

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