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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01G
管理番号 1238719
審判番号 不服2008-32703  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-25 
確定日 2011-06-16 
事件の表示 特願2004- 83016「電子天びん」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月29日出願公開、特開2005-265804〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年3月22日の出願であって、平成20年11月17日付け(送達日:同年同月25日)で拒絶査定がなされ、これに対し平成20年12月25日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、当審より平成22年10月6日付けで拒絶理由を通知したところ、同年11月26日付け意見書が提出されるとともに、明細書、特許請求の範囲または図面についての補正がなされた(以下、「補正1」という)。

本願の請求項1に係る発明は、補正1によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「永久磁石の磁界中に置かれたフォースコイルに電流を流すことによって発生する電磁力と計量物の荷重とを支点をはさんで平衡ビームに作用させ、荷重と平衡した電磁力を発生するフォースコイルに流れる電流から荷重を求める電子天びんにおいて、
周辺環境条件によって生じる外部振動が前記電子天びんに伝達することで、前記平衡ビームが振動した場合に、前記平衡ビームの長手方向、それと直交する水平方向、又はその両方向の前記平衡ビームの振動を抑制する制振手段を設けたことを特徴とする電子天びん。」(以下、「本願発明」という。)

2.当審の拒絶理由
これに対して、当審において通知した拒絶理由の概要は、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である実公平3-34660号公報(考案の名称:電磁力平衡天びん、出願人:株式会社島津製作所、公告日:平成3年7月23日、以下、「引用例」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができず、また、上記引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから、同法同条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.引用例の記載事項・引用発明
引用例には、次の事項(a)ないし(d)が図面とともに記載されている。

(a)「〈産業上の利用分野〉
本考案は、未知質量と電磁力発生装置による電磁力とを平衡させて、その平衡時における電磁力から未知質量を測定する、電磁力平衡天びんに関する。
〈従来の技術〉
第5図は、従来の電磁力平衡天びんの構成を示す機構図である。平衡用ビーム部材61(以下、ビーム61と称する)は板ばね62で支持され、その支持点を支点Cとして、一方の側に未知質量mを負荷する負荷端Aを設け、支点Cを挟んで他方の側には電磁力発生装置63が係合されている。ビーム61の支点Cを中心とする傾斜は、他方の側の端部においてその垂直方向Vへの変位を検出する変位検出機構64によつて検出される。
変位検出機構64は、ビーム61に形成されたスリツト64aと、光源64b、およびスリツト64aを通過した光源64bからの光を受光するフオトセンサ64cからなり、また、電磁力発生装置63は、永久磁石63aと、ヨーク63b,63cで形成される静磁気回路中に、ビーム61に係合された可動のフオースコイル63dからなつている。そして、変位検出機構64による変位検出値が0となるよう、電磁力発生装置63のフオースコイル63dに流す電流を制御し、そのときの電流と、ビーム61のレバー比から未知質量mが測定される。
すなわち、板ばね62による支点Cから負荷端までの距離l1,支点Cからの電磁力の作用点までの距離l2としたとき、ビーム61の平衡時において、
F=l1/l2m・g…(1) (gは重力加速度)
なる電磁力が発生しており、一方、電磁力発生装置63における発生電磁力はそのフオースコイル63dに流す電流と一意的な相関関係にあるから、その電流から未知質量mを求めることがきる。」(第1欄19行-第3欄4行)
(b)「〈考案が解決しようとする問題点〉
以上のような機構を有する電磁力平衡天びんにおいて、第5図に示すように、ビーム61の長手方向に力f1が作用したとき、あるいは負荷端に過大な力f2が作用したときには、支点Cは板ばね62により形成されたいわゆる弾性支点であるため、この弾性支点Cが微小量Δだけ水平方向にシフトして、レバー比がl1/l2から(l1-Δ)/(l2+Δ)へと変化し、その結果、(1)式に基づく未知質量mの算出に誤差が生ずることになる。」(第3欄5行?15行)
(c)「〈作用〉
基本的には平衡用ビーム部材1の長手方向への変位を検出して、その変位を無くするよう平衡用ビーム部材1に力を作用させることにより、負荷端Aに水平方向の力が作用しても、その力による平衡用ビーム部材1の変位が打消される結果、前述したΔが発生することなく、平衡用ビーム部材1のレバー比は常に一定に保持される。
このような制御において、平衡用ビーム部材1に対して水平の外力が作用していない状態では、力発生手段6の発生力は零の状態となり、水平力が作用した時点でその向きと逆向きの力を発生する必要が生じ、ハンチング現象等が生じやすい。これを無くして安定した制御を行うために設けられているのが平衡用ビーム部材1を所定の弾性力で押圧する手段8である。すなわち、平衡用ビーム部材1に対して、力発生手段6による力の作用線上に常時所定方向への弾性力を作用させておけば、力発生手段6は常にその弾性力に抗して逆向きの力を発生してビームの変位を零にしようと動作しており、この状態でいずれの向きへの水平外力が作用しても、発生力の向きを変化させる必要がなく、ハンチング現象は生じずに安定した制御が可能となる。」(第4欄5行?28行)
(d)「〈実施例〉
本考案の実施例を、以下、図面に基づいて説明する。 第1図は本考案実施例の構成を示す機構図である。
平衡用のビーム1、そのビーム1を支持して弾性支点Cを形成する板ばね2,未知質量mに対抗して電磁力を発生する、永久磁力3a,ヨーク3b,3c,およびフオースコイル3dからなる電磁力発生装置3,スリツト4a,光源4bおよびフオトセンサ4cからなりビーム1の右端においてその垂直方向Vへの変位を検出する変位検出機構4は、第5図に示した従来の機構と全く同様である。
ビーム1の左端部には、スリツト5a,光源5bおよびフオトセンサ5cからなり、ビーム1の長手方向Hへの変位を検出する水平方向変位検出機構5が設けられている。また、ビーム1の右端部には、永久磁石6a,ヨーク6b,6c,フオースコイル6dからなり、ビーム1の長手方向への電磁力を発生する。水平方向電磁力発生装置6のフオースコイル6dが固着されている。そして、ビーム1の左端には、水平方向電磁力発生装置6に対向してその発生力の作用線上に、ビーム1を所定の弾性力で常時押圧する圧縮コイルばね8が設けられている。
水平方向変位検出機構5のフオトセンサ5cの出力、すなわちビーム1のH方向への変位検出信号は、PID制御器7に導入されて水平方向電磁力発生装置6のフオースコイル6dに流れる電流の大きさを決定し、これにより、フイードバツク制御機構を構成してビーム1の長手方向への変位は、圧縮コイルばね8による押圧力、および、水平の外力が作用したときにはその外力に抗して、常に0とにるよう(当審注:「なるよう」の誤記と認める。)制御されることになる。その結果、前述したレバー比l1/l2は常に一定に保持されることになる。」(第4欄29行-第5欄21行)
(e)「以上の実施例で特に注目すべき点は、第一に、ビーム1に対して常時一定の向きの水平力を作用させる圧縮コイルばね8が設けられている点であり、水平方向電磁力発生装置6は水平外力の有無に拘らず、常時この圧縮コイルばね8の押圧力に抗する向きに電磁力を発生していることになり、その発生力が正負にわたることがなく、ハンチングを生じることなく安定した制御が可能となるとともに、発生電磁力の極性がなくなるので安価な制御装置を使用することができることになる。」(第5欄33行?42行)

上記記載事項(a)ないし(e)及び第1図、第5図の記載から、次の発明を認定することができる。

「永久磁石3aの静磁気回路中に置かれたフォースコイル3dに電流を流すことによって発生する電磁力と未知質量mとを弾性支点Cをはさんで平衡用のビーム1に作用させ、未知質量mと平衡した電磁力を発生するフォースコイル3dに流れる電流から未知質量mを求める電磁力平衡天びんにおいて、
外力f1、f2が前記平衡用のビーム1に作用した場合に、圧縮コイルばね8による押圧力及び外力に抗して、前記平衡用のビーム1の長手方向への変位を常に零とするようハンチングを生じることなく制御する水平方向電磁力発生装置6を設けた電磁力平衡天びん。」(以下、「引用発明」という。)

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「永久磁石3a」は、本願発明の「永久磁石」に相当し、以下、同様に、引用発明の「静磁気回路」、「フォースコイル3d」、「未知質量m」、「弾性支点C」、「平衡用のビーム1」及び「電磁力平衡天びん」は、本願発明の「磁界」、「フォースコイル」、「計量物の荷重」、「支点」、「平衡ビーム」及び「電子天びん」にそれぞれ相当する。
(2)また、上記相当関係を踏まえると、引用発明の「外力f1、f2が前記平衡用のビーム1に作用した場合に、圧縮コイルばね8による押圧力及び外力に抗して、前記平衡用のビーム1の長手方向への変位を常に零とするようハンチングを生じることなく制御する水平方向電磁力発生装置6」も、本願発明における「周辺環境条件によって生じる外部振動が前記電子天びんに伝達することで、前記平衡ビームが振動した場合に、前記平衡ビームの長手方向、それと直交する水平方向、又はその両方向の前記平衡ビームの振動を抑制する制振手段」も、共に、「外力が前記電子天びんに加わることで、前記平衡ビームが変位しようとした場合に、前記平衡ビームの長手方向の前記平衡ビームの変位を抑制する制御手段」である点で共通するといえる。
ここで、本願発明では、「前記平衡ビームの長手方向、それと直交する水平方向、又はその両方向の前記平衡ビームの振動を抑制する制振手段」と記載されているように、抑制すべき平衡ビームの振動の方向については、長手方向、長手方向と直交する方向、又は長手方向とその直交する方向の両方の方向のいずれかのものとされている点を踏まえて対比した。
(3)してみると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「永久磁石の磁界中に置かれたフォースコイルに電流を流すことによって発生する電磁力と計量物の荷重とを支点をはさんで平衡ビームに作用させ、荷重と平衡した電磁力を発生するフォースコイルに流れる電流から荷重を求める電子天びんにおいて、
外力が前記電子天びんに加わることで、前記平衡ビームが変位しようとした場合に、前記平衡ビームの長手方向の前記平衡ビームの変位を抑制する制御手段を設けたことを特徴とする電子天びん。」
(相違点)
抑制する対象が、本願発明では、「周辺環境条件によって生じる外部振動が前記電子天びんに伝達することで、前記平衡ビームが振動した場合に、前記平衡ビームの長手方向(、それと直交する水平方向、又はその両方向)の前記平衡ビームの振動を抑制する制振手段」とあるように、外部振動に由来する平衡ビームの振動であるのに対して、引用発明は「外力f1、f2が前記平衡用のビーム1に作用した場合に、圧縮コイルばね8による押圧力及び外力に抗して、前記平衡用のビーム1の長手方向への変位を常に零とするようハンチングを生じることなく制御する水平方向電磁力発生装置6」とあるように、外部からの力による平衡用のビーム1(本願発明の「平衡ビーム」に相当する。以下、同様。)の変位である点。

4.当審の判断
上記相違点について検討する。
(1)特許法第29条第1項3号について
引用発明も、外力f1、f2に基づく平衡用のビーム1(平衡ビーム)の変位を抑制するものであるところ、圧縮コイルばね8による押圧力及び外力に抗して、前記平衡用のビーム1の長手方向への変位を常に零とするようハンチングを生じることなく制御している。ここで、ハンチングとは、制御における振動現象のことであり、引用発明においては、平衡用のビーム1(平衡ビーム)に外力が加わっても、速やかに平衡用のビーム1(平衡ビーム)の変位が零となるように、水平方向電磁力発生装置6が圧縮コイルばね8による押圧力との協働作用により、実現されるものである。
そして、一般に、振動は、振動が引き起こされる対象物に何らかの外力が加わった場合に生じる変位が時間的に変動する物理現象のことであり、引用発明は、かかる変位が零となるように抑制し得るものであるから、引用発明においても、その構成上、地震などの周辺環境条件によって生じる外部振動が電磁力平衡天びん(電子天びん)に伝達することによって、平衡用のビーム1(平衡ビーム)に振動が生じても、その振動は抑制し得るものである。
してみると、引用発明における「外力f1、f2が前記平衡用のビーム1に作用した場合に、圧縮コイルばね8による押圧力及び外力に抗して、前記平衡用のビーム1の長手方向への変位を常に零とするようハンチングを生じることなく制御される水平方向電磁力発生装置6」は、本願発明の「周辺環境条件によって生じる外部振動が前記電子天びんに伝達することで、前記平衡ビームが振動した場合に、前記平衡ビームの長手方向(、それと直交する水平方向、又はその両方向)の前記平衡ビームの振動を抑制する制振手段」であるともいえる。
よって、本願発明は引用発明と実質的に同一である。

(2)特許法第29条第2項について
一般に、この種の電子天びんにおいては、外部から伝搬してくる振動、すなわち、外部振動の影響を除去する必要があることは、正確な秤量を行う上での周知な課題である。この点については、例えば、特開2001-108514号公報の「【0002】【従来の技術】従来は、被測定物を測定台に載せた時の衝撃や外部震動を抑えるために、大袈裟な構造上の対策やコンピュータによる複雑で厳密な制御が必要であった。」との記載や、特開2000-74729号公報の「【0005】・・・それらの静荷重に対しては勿論、秤量室1の開閉や試料の乗せ下ろし、或いは、輸送や外部振動などに起因する動荷重に対しても天秤の精度に影響を与えるような変形が生じないよう十分な機械的強度が要求される。すなわち、上記ベース22に生じる前記のような原因に起因する変形は、ベース22に連結保持された荷重検出部3に悪影響を与え、天秤の精度上致命的な測定誤差を生じるので、ベース22の剛性を十分高くとるようにしてきた。」との記載に留意のこと。
そして、振動現象は、変位の時間的変動に外ならないから、引用発明の「外力f1、f2が前記平衡用のビーム1に作用した場合に、圧縮コイルばね8による押圧力及び外力に抗して、前記平衡用のビーム1の長手方向への変位を常に零とするようハンチングを生じることなく制御される水平方向電磁力発生装置6」を、本願発明のような「周辺環境条件によって生じる外部振動が前記電子天びんに伝達することで、前記平衡ビームが振動した場合に、前記平衡ビームの長手方向(、それと直交する水平方向、又はその両方向)の前記平衡ビームの振動を抑制する制振手段」として用いようとすることも、当業者ならば容易に推考し得たことである。
よって、本願発明は引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたともいえる。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明(引用発明)であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-29 
結審通知日 2011-04-05 
審決日 2011-04-26 
出願番号 特願2004-83016(P2004-83016)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01G)
P 1 8・ 121- Z (G01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 下中 義之
古屋野 浩志
発明の名称 電子天びん  
代理人 阿久津 好二  
代理人 江口 裕之  
代理人 喜多 俊文  

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