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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1238795
審判番号 不服2009-3356  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-16 
確定日 2011-06-15 
事件の表示 平成 9年特許願第542490号「発泡性ビスホスホネート製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月27日国際公開,WO97/44017,平成12年 8月29日国内公表,特表2000-511178〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,1997年5月13日(パリ条約による優先権主張:1996年5月17日 米国,1996年6月24日 英国)を国際出願日とする出願であって,平成19年10月31日付けで拒絶理由が通知されたものの出願人からの応答がなく,平成20年11月7日付けで拒絶査定がなされた。その後,平成21年2月16日付けで拒絶査定不服審判が請求され,同年3月17日付けで願書に添付した明細書についての手続補正書が提出された。

第2 平成21年3月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年3月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項に係る発明
本件補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項1?12が補正後の特許請求の範囲の請求項1?8に補正されたところ,そのうち,補正前の請求項1?3及び8?9は,次の
「1.有効成分として以下のものを含む発泡性製薬製剤:
次のものから成るグループから選択されるビスホスホネート:アレンドロネート,シマドロネート,クロドロネート,EB-1053,エチドロネート,イバンドロネート,ネリドロネート,オルパドロネート,パミドロネート,リゼドロネート,チルドロネート,YH 529,ゾレドロネート,前記のものの製薬学的に許容される塩およびエステル,ならびに前記のものの混合物;
次のものから成るグループから選択される酸源:クエン酸,酒石酸,リンゴ酸,フマル酸,アジピン酸,コハク酸;前記の酸の無水物;二水素リン酸ナトリウム,二水素ピロリン酸二ナトリウムおよび亜硫酸ナトリウムから成るグループから選択される酸性塩;ならびにこれらの酸,無水物および酸性塩の混合物;次のものから成るグループから選択される炭酸塩源:炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,炭酸水素カリウム,炭酸カリウム,セスキ炭酸ナトリウム,グリシン炭酸ナトリウム,およびそれらの混合物;
非還元糖,ポリビニルピロリドン,塩化ナトリウム,安息香酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムから成るグループから選択される結合剤;
ステアリン酸塩,粉末安息香酸ナトリウム,L-ロイシン,ラウレル硫酸ナトリウムおよびPEGから成るグループから選択される潤滑剤;および
任意に,着香剤,着色剤,および甘味料から成るグループから選択される1つまたはそれ以上の追加物質。
2.有効成分がアレンドロネートあるいは製薬学的に許容されるその塩を含み,さらに以下のものを含む,請求項1に記載の発泡性製薬製剤:
次のものから成るグループから選択される酸源:クエン酸,酒石酸,リンゴ酸,フマル酸,アジピン酸,コハク酸;前記の酸の無水物;二水素リン酸ナトリウム,二水素ピロリン酸二ナトリウムおよび亜硫酸ナトリウムから成るグループから選択される酸性塩;ならびにこれらの酸,無水物および酸性塩の混合物;次のものから成るグループから選択される炭酸塩源:炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,炭酸水素カリウム,炭酸カリウム,セスキ炭酸ナトリウム,グリシン炭酸ナトリウム,およびそれらの混合物;
但し,酸源は,モル当量ベースで炭酸塩源と比較して等しいかあるいは過剰の量で存在する;
マンニトール,ソルビトール,ポリビニルピロリドン,ラクトース,塩化ナトリウム,安息香酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムから成るグループから選択される結合剤;
ステアリン酸塩,粉末安息香酸ナトリウム,L-ロイシン,ラウレル硫酸ナトリウムおよびPEGから成るグループから選択される潤滑剤;および
任意に,着香剤,着色剤,および甘味料から成るグループから選択される1つまたはそれ以上の追加物質。
3.アレンドロネートあるいはその塩の量が1-80mgである,請求項2に記載の製剤。」及び
「8.次のもの(mg単位)を含む製剤:
アレンドロネートナトリウム
(アレンドロン酸のmgで) 5-10mg
クエン酸 600-750
炭酸水素ナトリウム 300-500
炭酸ナトリウム 20-60
安息香酸ナトリウム 5-15
水 0-5。
9.さらに着香剤あるいは着色剤を含む,請求項8に記載の製剤。」
のとおりであり,補正後の請求項1?6は,次の
「【請求項1】
以下のものを含む発泡性製薬製剤:
有効成分としてアレンドロネートまたはその製薬学的に許容される塩;
酸源としてクエン酸;
次のものから成るグループから選択される炭酸塩源:炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウムおよびそれらの混合物;
非還元糖,ポリビニルピロリドン,塩化ナトリウム,安息香酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムから成るグループから選択される結合剤;ならびに
ステアリン酸塩,粉末安息香酸ナトリウム,L-ロイシン,ラウレル硫酸ナトリウムおよびPEGから成るグループから選択される潤滑剤。
【請求項2】
着香剤,着色剤,および甘味料から成るグループから選択される1つまたはそれ以上の追加物質をさらに含む,請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
アレンドロネートあるいはその塩の量が1-80mgである,請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
クエン酸対重炭酸塩のモル比が1:1から1:3までである,請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
結合剤がマンニトール,ラクトース,デキストロースあるいはソルビトールである,請求項1?4のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項6】
さらに着香剤を含む,請求項1?5のいずれか一項に記載の製剤。」
のとおりである。(以下,本件補正後の請求項1に係る発明を「補正発明1」という。)

そこで,本件補正が適法になされたものであるのかどうかについて,以下に検討する。

2 目的要件について
(1)補正後の請求項1について
補正後の請求項1に係る補正は,
ア 補正前の請求項1に「ビスホスホネート」として具体的に記載されていたものを,「アレンドロネートまたはその製薬学的に許容される塩」のみに限定し,
イ 同「酸源」として具体的に記載されていたものを,「クエン酸」のみに限定し,
ウ 同「炭酸塩源」として具体的に記載されていたものを,「炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウムおよびそれらの混合物」のみに限定し,かつ,
エ 補正前の請求項1に任意成分として記載されていた「着香剤,着色剤,および甘味料から成るグループから選択される1つまたはそれ以上の追加物質」の全体を削除するものである。
検討すると,ア?ウに係る補正は,択一的に記載されていた発明特定事項を,そのうちの特定のものに限定し,他のものを削除する補正であって,択一的記載の要素の削除に該当する。また,エに係る補正は,補正前の請求項1には「追加物質」を発明特定事項とする場合としない場合とがあって,当該補正は,そのうち発明特定事項としない場合のみに限定し,発明特定事項とする場合を削除するものであるとみることができるから,択一的記載の要素の削除に該当する。そして,補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるといえるから,補正後の請求項1に係る補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,単に「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)補正後の請求項3について
先行する請求項に記載された技術的事項に,更に「アレンドロネートあるいはその塩の量が1-80mgである」との限定を加える請求項である補正前及び後の請求項3に関し,補正前の請求項3は,「但し,酸源は,モル当量ベースで炭酸塩源と比較して等しいかあるいは過剰の量で存在する;」との限定を有する請求項2のみを引用するものであった。しかし,補正後の請求項3は,同限定のない請求項1又は2を引用しているから,補正後の請求項3に係る補正は,(i) 引用する請求項が増加している点,及び,(ii)直列的に記載された発明特定事項の一部を削除している点,のいずれにおいても,特許請求の範囲を拡張するものである。したがって,補正後の請求項3に係る補正は,請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮に該当せず,かつ,誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。よって,補正後の請求項3に係る補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反する。

(3)補正後の請求項6について
補正後の請求項6は,同請求項1?5に記載された製剤において,さらに着香剤を含むことを発明特定事項とするものである。一方,補正前の請求項において,引用した請求項の製剤に着香剤をさらに含むことを発明特定事項としている請求項は,請求項8を引用する請求項9のみであるところ,請求項8は,具体的な処方(成分名及び含有量)で特定された製剤に係る独立請求項である。そうすると,補正後の請求項6に対応する請求項は,補正前の請求項中には存在していなかったといえ,補正後の請求項6は,本件補正により新たに追加された請求項である。したがって,補正後の請求項6に係る補正は,請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮に該当せず,かつ,誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。よって,補正後の請求項6に係る補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反する。

3 独立特許要件について
上記「2(1)」に示したように,補正発明1に係る本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので,次に,補正発明1が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について,以下に検討する。

(1)特許法第29条第2項について
ア 引用例
原査定の拒絶の理由において引用された,本願の優先日前に頒布された英国特許出願公開第2153225号明細書(拒絶の理由における引用文献1。以下,「引用例」という。)には,次の事項が記載されている。

(A) 「本発明は,ジホスホネート投与用の新規な医薬形態に関する。
ジホスホネート類は,リン-カルシウム代謝が損なわれた状態を処置及び改善するための治療行為に近年取り入れられた化合物群である。」(1ページ5?8行)

(B) 「骨粗鬆症又は上皮小体機能亢進症等におけるのと同様に,骨ページェット病,骨腫瘍,腫瘍により引き起こされた骨転移のような多くの骨疾患において異常な方法により増強される,骨再吸収を阻害するジホスホネート類(エチドロン酸ナトリウム,ジクロロメチレン-ジホスホネート,及び,アミノ-ヒドロキシ-プロパン-,ブタン-,ペンタン-,ヘキサン-ジホスホネート等)の活性に関し,数編の論文が発行された。
近年,数種のジホスホネート類が転移性骨溶解の処置に使用されてきた。」(1ページ9?14行)

(C) 「骨再吸収阻害剤としてのジホスホネート類の使用は,しかし,次のように要約され得る本質的に吸収に関連した目立った欠点を有している:
(a) 経口投与に対する低い吸収の程度;
(b) 時と患者により一定しない吸収と変化。
それゆえ,これらの吸収の困難性のために,経口投与においては,非常に高い用量の活性薬剤を含むカプセル,錠剤等の処方において必然的な困難性を伴い,かつ,悩ましい胃痛を引き起こすカプセル及び錠剤の継続的な投与にされられる患者に対し目立った不快感を伴う,高用量の薬剤の使用が必要となる。」(1ページ18?25行)

(D) 「今般,驚くべきことに,発泡性製剤の形態で投与されるジホスホネート類が,錠剤の形態による製品と同じ濃度により引き起こされる活性よりも,より高い活性を示すことが分かった。
このことはおそらく,発泡性の形態により引き起こされる高められた胃腸吸収によるものであり,このことは錠剤としてのジホスホネート類の投与後に見られるよりも,より高い患者の尿におけるリン酸濃度の存在から明らかである。
それゆえ,患者が耐えられる簡易な処置をそれにより可能とすることができる発泡性製剤によって,用量と投与頻度を減じることが可能であるのは明白である。」(1ページ26?34行)

(E) 「実施例1
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発泡性錠剤
??????????????????????
アルキリデン-ジホスホン酸 mg 1000
無水クエン酸 mg 500
無水炭酸ナトリウム mg 375
炭酸水素ナトリウム(顆粒) mg 525
天然オレンジ香料 mg 5
安息香酸ナトリウム mg 95
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計 mg 2500
??????????????????????」(1ページ41?53行)

イ 対比・判断
(ア)引用例に記載された発明
引用例の実施例1には,発泡性錠剤の処方が記載されており(摘記事項 (E)),これによれば,引用例には,次の発明が記載されているものと認められる。
「アルキリデン-ジホスホン酸,無水クエン酸,無水炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム(顆粒),天然オレンジ香料及び安息香酸ナトリウムを成分として含む発泡性錠剤。」(以下,「引用例発明」という。)

(イ)対比
ここで,補正発明1と引用例発明とを対比する。
引用例は,リン-カルシウム代謝が損なわれた状態を処置及び改善するための治療行為に使用される,ジホスホネート類投与用の医薬形態に関するものであるところ(摘記事項 (A)),引用例発明の成分中の「アルキリデン-ジホスホン酸」は,2つのホスホン酸基を有しており,また,同成分中に他に当該治療行為に使用し得るものも存在しないことから,そのような「ジホスホネート類」の一種であって,引用例発明の発泡性錠剤中の「有効成分」であるといえる。また,引用例発明における「無水クエン酸」及び「無水炭酸ナトリウム」は,いずれも結晶水を有しない「クエン酸」及び「炭酸ナトリウム」のことである(例えば,大木道則ほか編「化学大辞典」株式会社東京化学同人,1989年10月20日,p.614,1371の記載から明らかである。)。そして,本願明細書(特に,特許法第184条の5第1項の規定による書面に添付された明細書の翻訳文(以下,単に「翻訳文」という。)4ページ4?16行,5ページ9行?6ページ3行。)にも記載されているように,クエン酸は発泡性の製剤における酸源であり,炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムは同じく炭酸塩源であり,また,安息香酸ナトリウムは固形の製剤における結合剤であるといえる。

そうすると,補正発明1と引用例発明とは,
「以下のものを含む発泡性の製剤:
有効成分;
酸源としてクエン酸;
炭酸塩源:炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウム;
安息香酸ナトリウムである結合剤。」
である点で一致し,次の3点において相違する。
[相違点1]
発泡性の製剤が,補正発明1においては「発泡性製薬製剤」であるのに対し,引用例発明においては「発泡性錠剤」である点。
[相違点2]
有効成分が,補正発明1においては「アレンドロネートまたはその製薬学的に許容される塩」であるのに対し,引用例発明においては「アルキリデン-ジホスホン酸」である点。
[相違点3]
補正発明1の製剤が,成分として更に「ステアリン酸塩,粉末安息香酸ナトリウム,L-ロイシン,ラウレル硫酸ナトリウムおよびPEGから成るグループから選択される潤滑剤」を含有しているのに対し,引用例発明の製剤は潤滑剤を特に含有していない点。

(ウ)判断
以下,これらの相違点について検討する。
[相違点1]について
本願の翻訳文1ページ4?6行,6ページ12行?7ページ1行,及び,12ページ1行?15ページ16行(実施例1?4)の記載からも明らかなように,本願明細書における発泡性の「製薬製剤」は「錠剤」形態のものをも意味しているから,補正発明1の「発泡性製薬製剤」は「発泡性錠剤」を包含しているといえ,[相違点1]は実質的に相違点ではない。

[相違点2]について
引用例には,引用例発明における「アルキリデン-ジホスホン酸」が具体的にどのような化合物を意味しているかについて,明確な記載はなされていない。しかし,引用例には,従来技術に係る記載ではあるが,骨再吸収を阻害する「ジホスホネート類」の例示の一つとして「アミノ-ヒドロキシ-プロパン-,ブタン-,ペンタン-,ヘキサン-ジホスホネート」と記載されているから(摘記事項 (B)),引用例において,そのような「ジホスホネート類」の一種として「アミノ-ヒドロキシ-ブタン-ジホスホネート」が認識されていたといえる。一方,骨再吸収を阻害するジホスホネート類である,「アミノ-ヒドロキシ-ブタン-ジホスホネート」に該当する「アレンドロネート」(4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ジホスホン酸の塩など)は,言うまでもなく周知の化合物である。そうすると,引用例発明における「アルキリデン-ジホスホン酸」として,周知のアレンドロネートを採用することは当業者が容易に行い得たことである。また,それにより格別な効果を奏したものともいえない。

[相違点3]について
上記「[相違点1]について」で言及したように,補正発明1は,引用例に記載された「錠剤」の形態を含むものである。ところで,製薬製剤には,通常,その剤形に応じ,また,目的に応じて,種々の添加剤が加えられるものであって,錠剤である製薬製剤において,打錠の際の原料の流動性を高めて,臼と杵との間の摩擦を減少させ,成形された錠剤の臼や杵への付着を防止するためにステアリン酸塩などの滑沢剤(潤滑剤)を原料に添加することは,周知・慣用の技術である(例えば,松本光雄ほか編「薬剤学マニュアル」株式会社南山堂,1989年3月20日,p.107-108,塩路雄作著「薬剤製造マニュアル」株式会社シーエムシー,1985年3月5日,p.21-23を参照。)。そうすると,引用例発明の製薬製剤に,更に潤滑剤としてステアリン酸塩を含有させることは,当業者が容易に行い得たことである。また,それにより格別な効果を奏したものとも認められない。

ウ 請求人の主張について
請求人は,審判請求書の【請求の理由】(平成21年3月17日付け手続補正書)及び平成22年3月19日付け回答書において,次のように主張している。
(ア)引用例には,ビスホスホネートと水などに存在する二価イオンとの複合体形成によるバイオアベイラビリティーの低下という,本願発明の解決すべき課題について何ら記載がない。また,その課題解決の手段としての隔離剤,重炭酸塩の特定の量比での使用についても記載も示唆もない。
(イ)本願発明は,隔離剤,重炭酸塩を特定の量比で使用し,アレンドロネートを発泡性液体として服用することにより,高齢者にも飲みやすく,アレンドロネートが食道組織と接触する時間の長さを制限し,アレンドロネートのバイオアベイラビリティーを増加させることができるという,当業者の予想を超える有利な効果を奏する。

これらの請求人の主張について検討する。
(ア)の主張について
請求人が主張する,バイオアベイラビリティーの低下という本願発明が解決すべき課題については,摘記事項(C) の記載等から,引用例においても十分に認識されているものと考える。しかし,仮に引用例において同課題が認識されていなかったとしても,上記「イ(イ)」で認定した補正発明1と引用例発明の相違点は,バイオアベイラビリティーとは無関係の事項であるから,引用例及び優先日における技術常識に基づいて,補正発明1を想到できないというものではない。また,補正発明1は,隔離剤や重炭酸塩を特定の量比で使用することを発明特定事項とするものでは,そもそもない。
よって,請求人の主張は採用できないものである。

(イ)の主張について
アレンドロネートを発泡性液体として服用することにより奏される効果は,引用例発明においても同様に得られるものであり,格別な効果とはいえない。また,隔離剤や重炭酸塩を特定の量比で使用することによる効果については,上記(ア)に記載したように,補正発明1の効果ではない。それどころか,(2)で後述するように,本願明細書には,請求人主張の効果を客観的に確認できる具体的記載は皆無である。
よって,請求人の主張は採用できないものである。

エ 小括
したがって,補正発明1は,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2)特許法第36条第4項及び第6項第1号について
本願発明の解決しようとする課題は,本願明細書(特に,特許法第184条の5第1項の規定による書面に添付された明細書の翻訳文(以下,単に「翻訳文」という。)3ページ1?12行,7ページ19行?8ページ9行。)の記載からみて,「薬剤と食道との持続的な接触により生じる副作用の低減,及び,薬剤のバイオアベイラビリティーの向上」にあるものと認められる。
しかし,発明の詳細な説明には,補正発明1の構成による製薬製剤を経口投与して,薬物による副作用が低減され,かつ,薬物のバイオアベイラビリティーが向上できたことが客観的に確認できる記載は存在しない。実施例として具体的に記載されているのは,4つの製薬製剤の処方とそれらの製造方法にすぎず,それらを投与した試験データ等は皆無である。
ところで,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないところ(知財高裁大合議平成17年11月11日判決(平成17年(行ケ)第10042号)参照。),本願については,出願時の技術常識を考慮しても,上記の課題が解決できることを当業者に認識できるように,発明の詳細な説明が記載されているとは認められない。そうすると,補正発明1については,発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから,本願は,特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。
同様に,発明の詳細な説明の記載に加え,出願時の技術常識を考慮しても,補正発明1の構成による製薬製剤を経口投与することにより,薬物による副作用が低減され,かつ,薬物のバイオアベイラビリティーが向上されるとは認められない。そうすると,発明の詳細な説明の記載は,補正発明1について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから,本願は,特許法第36条第4項の規定に違反する。
したがって,補正発明1は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
よって,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年3月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,補正前の特許請求の範囲の請求項1?12に記載されたものであるところ,その請求項1には次のとおり記載されている。
「1.有効成分として以下のものを含む発泡性製薬製剤:
次のものから成るグループから選択されるビスホスホネート:アレンドロネート,シマドロネート,クロドロネート,EB-1053,エチドロネート,イバンドロネート,ネリドロネート,オルパドロネート,パミドロネート,リゼドロネート,チルドロネート,YH 529,ゾレドロネート,前記のものの製薬学的に許容される塩およびエステル,ならびに前記のものの混合物;
次のものから成るグループから選択される酸源:クエン酸,酒石酸,リンゴ酸,フマル酸,アジピン酸,コハク酸;前記の酸の無水物;二水素リン酸ナトリウム,二水素ピロリン酸二ナトリウムおよび亜硫酸ナトリウムから成るグループから選択される酸性塩;ならびにこれらの酸,無水物および酸性塩の混合物;次のものから成るグループから選択される炭酸塩源:炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,炭酸水素カリウム,炭酸カリウム,セスキ炭酸ナトリウム,グリシン炭酸ナトリウム,およびそれらの混合物;
非還元糖,ポリビニルピロリドン,塩化ナトリウム,安息香酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムから成るグループから選択される結合剤;
ステアリン酸塩,粉末安息香酸ナトリウム,L-ロイシン,ラウレル硫酸ナトリウムおよびPEGから成るグループから選択される潤滑剤;および
任意に,着香剤,着色剤,および甘味料から成るグループから選択される1つまたはそれ以上の追加物質。」
(以下,「本願発明1」という。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に記載された引用例(引用文献1)及びその記載事項は,前記「第2[理由]3(1)ア」に記載したとおりである。

3 対比・判断
前記「第2[理由]3(1)」で検討した補正発明1は,本願発明1において,「ビスホスホネート」として具体的に記載されていたものを「アレンドロネートまたはその製薬学的に許容される塩」のみに限定し,同「酸源」として具体的に記載されていたものを「クエン酸」のみに限定し,同「炭酸塩源」として具体的に記載されていたものを「炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウムおよびそれらの混合物」のみに限定し,かつ,本願発明1において任意成分として記載されていた「着香剤,着色剤,および甘味料から成るグループから選択される1つまたはそれ以上の追加物質」の全体を削除するものであるから,本願発明1は補正発明1を包含するものであるといえる。
そうすると,前記「第2[理由]3(1)」に記載したとおり,補正発明1が,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明1も,同様の理由により,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから,本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,他の請求項に係る発明について判断するまでもなく,この特許出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-12 
結審通知日 2011-01-18 
審決日 2011-01-31 
出願番号 特願平9-542490
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡部 佐知子  
特許庁審判長 内田 俊生
特許庁審判官 穴吹 智子
鵜飼 健
発明の名称 発泡性ビスホスホネート製剤  
代理人 川口 義雄  
代理人 小野 誠  
代理人 大崎 勝真  

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