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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04D
管理番号 1238892
審判番号 不服2010-13520  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-21 
確定日 2011-06-23 
事件の表示 特願2000-196414「アルミ雨樋」拒絶査定不服審判事件〔平成14年1月18日出願公開,特開2002-13258〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成12年6月29日に特許出願されたものであって,平成22年3月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年6月21日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けの手続補正書により明細書の補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。
その後,同年10月28日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年12月27日付けで回答書が提出されたものである。

2.本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により,明細書の特許請求の範囲の請求項1は,
「雨水を屋根の軒先等から集水して地上に導くアルミ雨樋において,
竪樋の加工前のアルミ金属板あるいは筒体を縦割状にした複数の樋体のそれぞれの表面及び裏面にアルマイト処理を施して竪樋を形成し,または,軒樋の内面及び外面にアルマイト処理を施し,その後,アルマイト処理された竪樋または軒樋の少なくとも外面に更に,該アルマイト処理の際に表面に生じた微細な凹所に顔料を含浸させることで着色したことを特徴とするアルミ雨樋。」
と補正された。

本件補正により,補正前の請求項1に発明を特定するために必要な事項(以下,「発明特定事項」という。)として記載された「着色」に関して,「アルマイト処理の際に表面に生じた微細な凹所に顔料を含浸させること」で着色したものへと限定された。
したがって,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である
実願昭60-180218号(実開昭62-88001号)のマイクロ
フィルム(以下,「引用例」という。)
には,図面とともに次の事項が記載されている。

(a)「第1図の正面図と第2図の側面図に於て,玄関ポーチ1は屋根構造体2と一対の柱3,3とから構成される。4は建物外壁面,5はポーチタイル天端を示す。
しかして,第3図及び第4図に於て,この屋根構造体2は,平面的に見て矩形に枠組みされる前枠6,左右側枠7,7,及び後枠8を有すると共に,屋根板9が張設され,これは垂木10にて受けられる。また下面には天井パネル11が取付けられる。
そして,屋根板9は台形の山谷に交互に折曲形成した波状金属板からなり,綾線方向は前後枠6,8と平行──即ち外壁面4と平行──に配設され,その左右両端から落下する雨水は,左右側枠7,7の樋桁材7bに受けられる。」(明細書第4頁第5行目?第19行目)

(b)「しかして,この側枠7の樋桁材7bの前端部に於て,中間壁部33と底壁部31に貫通状に排水孔が開設されており,上端鍔付きの雨水流入短筒35が第3図の如く上方から挿入され,かつ該短筒35の上方開口部にドレンキャップ36が施蓋されている。
さらに,中空部を有する柱3の上端を,この排水孔及び短筒35の位置に対応して,取付ける。つまり,樋桁材7bの内部の雨水を,この柱3の中空部へ排水するのであって,竪樋の役目をこの柱3が兼ねているのである。」(明細書第7頁第17行目?第8頁第6行目)

(c)「しかして,第5図と第3図と第4図に示すように,柱3は,中空部44を有する閉じた箱型横断面の主柱部45と,これに着脱可能に取付けられる一方向に開口部を有する略コの字型のカバー部46とからなり,主柱3の外周面,及び,一方開口状のカバー部46の内外両面は,アルマイト処理等の防錆処理を施す。そして,雨水流入短筒35が挿入されるのは,カバー部46の内部である。即ち,カバー部46と,主柱部45の一外面とによって,竪樋用の中空部47が形成される。この中空部47は全てアルマイト処理等の防錆処理がなされているから,腐食の虞がない。」(明細書第9頁第14行目?第10頁第5行目)

(d)「また,雨水が導かれる竪樋をなす中空部47は,防錆処理が容易な分割式柱にて形成されており,耐久性に優れる。」(明細書第10頁第14行目?第16行目)

(e) 第1図及び第2図には,符号「3」で示される柱が地上に到達している様子が図示され,また,上記摘記事項(b)に記載された「樋桁材7bの内部の雨水を,この柱3の中空部へ排水する」に当たり,「樋桁材7bの内部の雨水」を「集水して」いることは自明である。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「雨水を屋根板9の左右両端から,樋桁材7bの排水孔を介し集水して地上に導く竪樋をなす中空部47が形成された柱3において,
中空部47を,カバー部46と主柱部45の一外面とによって形成し,
カバー部46の内面及び外面並びに主柱部45の外面にアルマイト処理を施した竪樋の役目を兼ねる柱3。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると,
・後者の「屋根板9の左右両端」は前者の「屋根の軒先等」に相当し,
・後者の「竪樋をなす中空部47が形成される柱3」と前者の「竪樋」又は「軒樋」とは「樋」との概念において共通し,
・後者の「カバー部46の内面及び外面並びに主柱部45の外面にアルマイト処理を施した」態様は,前者の「樋体の表面及び裏面にアルマイト処理を施し」た態様,又は「樋の内面及び外面にアルマイト処理を施し」た態様に相当する。
また,後者の「アルマイト処理を施した…柱3」の基材が「アルミ」であるは自明である。

してみると,両発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「雨水を屋根の軒先等から集水して地上に導くアルミ雨樋において,
樋の内面及び外面にアルマイト処理を施したアルミ雨樋。」

[相違点1]
「樋」に関して,本願補正発明では「竪樋」又は「軒樋」であり,かつ,その「竪樋」は「加工前のアルミ金属板あるいは筒体を縦割状にした複数の樋体のそれぞれの表面及び裏面にアルマイト処理を施して形成」されるのに対し,引用発明では「竪樋の役目を兼ねた柱3」であって,軒樋ではなく,また,その「竪樋の役目を兼ねた柱3」のアルマイト処理は「カバー部46の内面及び外面並びに主柱部45の外面にアルマイト処理を施した」ものであって,本願補正発明のようなものではない点。

[相違点2]
本願補正発明では,アルマイト処理を施した「その後,アルマイト処理された軒樋の少なくとも外面に更に,該アルマイト処理の際に表面に生じた微細な凹所に顔料を含浸させることで着色した」と特定されているのに対して,引用発明では着色についての特定がなされていない点。

(4)判断
上記各相違点について以下に検討する。

(ア)[相違点1]について
「樋」として,「竪樋」及び「軒樋」はいずれも特に例示するまでもなく周知なものであり,風雨に曝され雨水を導くものであるから,引用発明の「樋」に適用される防錆技術を,この周知の「竪樋」又は「軒樋」に適用することは当業者が容易に想到し得た事項である。
そして,引用例には,上記摘記事項(d)に「雨水が導かれる竪樋をなす中空部47は,防錆処理が容易な分割式柱にて形成」と記載されるように,カバー部46と主柱部45とを分割して,それぞれアルマイト処理を施すことが開示されており,引用発明のアルマイト処理による防錆技術を周知の竪樋に適用するに際し,竪樋を構成する筒体を縦割状とし,複数の樋体のそれぞれの表面及び裏面にアルマイト処理を施すこと,あるいは,加工前のアルミ金属板の表面及び裏面にアルマイト処理を施した後,板の両端部を連結して竪樋とすることは,当業者が容易になし得る設計変更にすぎない。
よって,上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得た事項である。

(イ)[相違点2]について
アルミニウムにアルマイト(陽極酸化皮膜)を形成した後に,アルマイトの多孔質皮膜の細孔に顔料を含浸させて着色を行うことは,例えば,以下の文献に開示されるように周知慣用技術である。
・社団法人腐食防食協会編,「腐食・防食ハンドブック」,丸善株式会
社,平成12年2月29日発行,第432-435頁
(特に,第434頁「(iii)着色」欄の,アルマイト化成試料をクロム
塩(本願補正発明の「顔料」に相当。)を用いた無機染料を含む溶液
中に浸漬して着色することについての記述,及び,同頁図3.14
(c)の,細孔に染料が含浸している様子の模式図を参照。)
・特開平8-109494号公報
(審尋において提示。特に,段落【0003】,【0011】の記載を
参照。)
・特開平4-270653号公報
(審尋において提示。特に,段落【0012】,【0014】の記載を
参照。)
そして,樋の表面を着色して見栄えをよくすることは普通に行われていることであり,引用発明の「アルマイト処理を施したアルミ雨樋」を着色する手段として当該周知慣用技術を採用し,上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が適宜なし得た事項である。

また,本願補正発明の全体構成により奏される作用・効果は,引用発明,上記周知事項及び上記周知慣用技術から当業者が予測できた範囲内のものである。特に,着色の効果として,本願明細書の段落【0041】及び【0047】に記載された「独特の質感を提供できると共に,所望の色彩を容易に形成できる」との効果は,着色による自明な効果にすぎない。

なお,審判請求人は,着色の効果に関して,審判請求書の【請求の理由】欄3.(3)において,「顔料を微細な凹所に埋めることによって,外面を雨水に耐え得るように強化させることができます。」と主張しているが,このような効果については,本願明細書及び図面に何ら記載されていない。仮に,顔料を微細な凹所に埋めることによって,外面の微細な凹所に雨水が侵入しにくくなり,腐食が防止できるとしても,そのような効果は上記周知慣用技術から当業者が予測できる程度のことである。

よって,本願補正発明は,引用発明,上記周知事項及び上記周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件補正の適否の検討
以上のとおり,本願補正発明は,引用発明,上記周知事項及び上記周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(6)むすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
(1)本願発明の認定
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成21年11月16日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「雨水を屋根の軒先等から集水して地上に導くアルミ雨樋において,
竪樋の加工前のアルミ金属板あるいは筒体を縦割状にした複数の樋体のそれぞれの表面及び裏面にアルマイト処理を施して竪樋を形成し,または,軒樋の内面及び外面にアルマイト処理を施し,その後,アルマイト処理された竪樋または軒樋の少なくとも外面に更に着色したことを特徴とするアルミ雨樋。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は,上記「2.[理由](2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は,上記「2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項として記載された「着色」から,「アルマイト処理の際に表面に生じた微細な凹所に顔料を含浸させること」との限定を削除したものに相当する。

そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,更に他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が,上記「2.[理由](4)」に記載したとおり,引用発明,上記周知事項及び上記周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様な理由により,これらに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,上記周知事項及び上記周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-14 
結審通知日 2011-04-19 
審決日 2011-05-06 
出願番号 特願2000-196414(P2000-196414)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E04D)
P 1 8・ 121- Z (E04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 油原 博  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 仁科 雅弘
宮崎 恭
発明の名称 アルミ雨樋  
代理人 中井 宏行  

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