ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D |
---|---|
管理番号 | 1238900 |
審判番号 | 不服2010-24055 |
総通号数 | 140 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-10-26 |
確定日 | 2011-06-23 |
事件の表示 | 特願2005-150256号「タイヤのフェアリング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月 7日出願公開、特開2006-327281号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成17年5月23日の出願であって、平成22年10月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年10月26日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 本願の請求項に係る発明は、平成22年8月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1には、次のとおり記載されている。 「【請求項1】 タイヤよりも車体前方に設けられ、車体下面をタイヤに向って流れるタイヤまわりの気流をガイドする左右一対のフェアリング体を有するタイヤのフェアリング装置であって、 前記フェアリング体は、車体下面をタイヤに向かって流れる気流を受ける気流受け面が形成され、 該気流受け面は、気流受け面の車体中心側端が気流受け面の車体側方側端よりもタイヤに近くなるように、車体幅方向に対し角度を有して傾斜し、かつ、タイヤの前面に近接するとともに、前記車体中心側端はタイヤの車体中心側端と車体幅方向同一位置またはタイヤの車体中心側端よりも車体幅方向中心側に位置し、前記車体側方側端はタイヤの車体側方側端と車体幅方向同一位置またはタイヤの車体側方側端よりも車体幅方向側方側に位置することを特徴とするタイヤのフェアリング装置。」 (以下「本願発明」という) 2.引用例の記載内容 (1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-43075号公報(以下「引用文献1」という。)には、「前輪の内側に向く空気の流量を増やし、ブレーキの冷却効果を高めうる、自動車のブレーキ冷却構造」に関し、次の技術事項が記載されている。 (ア)「【0005】 【課題を解決するための手段】本発明は、走行路面に対して凹状となる空気流れを発生させる、自動車の前輪の前方に設けられた第1のガイドと、走行路面に対して凸状となる空気流れを発生させる、前記前輪の内側に向けて設けられた第2のガイドとを備える自動車のブレーキ冷却構造である。前記第2のガイドは、三方を囲まれ、下方が開口した形状に形成されており、さらに、前記ガイドの出口において前記ガイドの下方の開口をふさぐ整流手段を有する。 【0006】前記整流手段は、前記前輪の前方で自動車のフロントアンダカバーに取り付けられ、走行路面に向けて突出された部材からなることが好ましく、この場合、前記部材が前記第1のガイドを兼ねる。 【0007】 【作用および効果】自動車が前進走行すると、空気は第1のガイドと第2のガイドとを経て後方へ流れる。第1のガイドから後方へ流れる空気流れは、主として走行路面に向けられ、前輪に達する量が抑えられる。第2のガイドから後方へ流れる空気流れは、第2のガイドの出口において整流され、前輪のブレーキに向けられる。 【0008】第2のガイドを経てブレーキに向けられる空気流れが整流手段によって整流され、静圧の上昇を抑えるため、第2のガイドから離れるときの空気流れの剥離を少なくすることができる。その結果、前輪の内側に向く空気の流量を増やすことができることとなり、ブレーキの冷却性能を高めることができる。 【0009】第1のガイドによって後方に導かれる空気流れが主として走行路面に向けられるため、空気流れが直接前輪にぶつかる場合に生じ勝ちである前輪の両側の圧力変動が生じない。これにより、前輪のふらつきを抑えることができ、操縦安定性を高めることができる。 【0010】好ましい態様によれば、整流手段が下方へ突出された部材からなり、この部材が第1のガイドを兼ねているため、単一の部材によって2つの機能を達成することができる。 【0011】 【発明の実施の形態】ブレーキ冷却構造は、斜視状態を示す図1、断面状態を示す図2および底面状態を示す図3を参照すると、走行路面10に対して凹状となる空気流れを発生させる、自動車の前輪12の前方に設けられた第1のガイド14と、走行路面10に対して凸状となる空気流れを発生させる、前輪12の内側に向けて設けられた第2のガイド16とを備え、第2のガイド16は整流手段18を有する。 【0012】図示の実施例では、整流手段18は、前輪12の前方で自動車のフロントアンダカバー20に取り付けられ、走行路面10に向けて突出された板状の部材22からなり、部材22は第1のガイド14を兼ねている。すなわち、部材22は、前輪12の幅より大きな長さを有し、前輪12の前方でフロントアンダカバー20に取り付けられて第1のガイド14となり、さらに、第2のガイド16の車幅方向の内方でフロントアンダカバー20に取り付けられ、第2のガイド16の部位で整流手段18となっている。部材22は鋼板で形成する他、ゴム板又は樹脂板で形成することができ、溶接又はボルト止めによってフロントアンダカバー20に取り付けられる。 【0013】第1のガイド14は、図2に示すように、走行路面10に対して凹状となる空気流れ24を発生させる。すなわち、実質的に水平に向いている空気流れ26は、第1のガイド14に突き当たってその方向を走行路面10に向けて曲げられ、走行路面10に対して凹状となる空気流れ24となる。 【0014】第2のガイド16は、三方を囲まれ、下方が開口した形状に形成されている。図2および図3に示した実施例では、第2のガイド16は、フロントアンダカバー20の前輪12より内方となる部位に形成され、走行路面10に向けて凸状に湾曲された頂面28と、頂面28の両側に設けられた側面29、30とからなり、下方が開口となっている。その結果、実質的に水平に向いている空気流れ26は、頂面28に沿って曲げられ、走行路面10に対して凸状となる空気流れ32となる。第2のガイド16は、走行路面10に対して凸状となる空気流れ32が前輪12の、たとえばディスクブレーキのキャリパ34によって制動力を受けるディスクに向くように形成されている。 【0015】第2のガイド16から出た空気流れがディスクに確実に導かれるのを補助するために、ブレーキエアスクープ36をディスクの近くに配置することが好ましい。ブレーキエアスクープ36はディスクブレーキの非回転部分に固定される。 【0016】整流手段18は、第2のガイド16の出口17において第2のガイドの下方の開口をふさいでいる。したがって、この部位では第2のガイド16は四方を囲まれた形態である。整流手段18を第2のガイド16の出口17に配置することによって空気流れ32を整流でき、空気流れ32が第2のガイド16から離れる部位31で発生したいた剥離を抑えることができる。 【0017】部材22によって第1のガイド14を形成すると共に、整流手段18とする場合、部材22の高さは30ないし50mmに定めることができる。また、第2のガイド16の出口17における寸法は、高さを30ないし60mm程度に定め、幅を50ないし80mm程度に定めることができる。」 (イ)記載事項(ア)と図1,2の記載からみて、前輪12の整流手段18の部材22は左右一対設けられ、空気流れ24を前輪12まわりにガイドしていることは明らかである。 (ウ)図3の記載では、第1のガイド14の自動車中心側端が第1のガイド14の自動車側方側端よりも前輪12に近くなるように、自動車幅方向に対し角度を有して傾斜し、かつ、前輪12の前面に近接して設けられている。 これら記載事項(ア)?(ウ)及び図面に記載された事項を総合すれば、引用文献1には、次の発明が記載されているものと認められる。 「前輪12よりも自動車前方に設けられ、走行路面10に対して凹状となる空気流れ24を前輪12まわりにガイドする左右一対の部材22を有する前輪12の整流手段18であって、 前記部材22は、走行路面10に対して凹状となる空気流れ24を受ける第1のガイド14が形成され、 該第1のガイド14は、第1のガイド14の自動車中心側端が第1のガイド14の自動車側方側端よりも前輪12に近くなるように、自動車幅方向に対し角度を有して傾斜し、かつ、前輪12の前面に近接することを特徴とする前輪12の整流手段18」 (以下「引用発明」という) (2)同じく、拒絶査定時に周知技術として引用された特開2002-362429号公報(以下「周知例」という)には、「自動車の床下構造」に関し、次の技術事項が記載されている。 ・「【0009】 【発明の効果】請求項1の発明によれば、前輪の直前に配置した気流偏向板により、気流が偏向されて前輪に当たる気流が減少し、車両に対する空気抵抗が減少するとともに、前輪前部傾斜部に沿って後方に流れる気流が、その後方の開口部からホイールハウスに向かって流れるので、前輪前部傾斜部の前方のアンダカバー先端部付近の気流が増加してその流速が高まり、車両に対する鉛直方向下向きの力が増加して走行性能を向上させることができる。」 ・「【0020】車両前方から床下部に流れ込む気流19の一部は、気流21で示すように、気流偏向板9によって下方に偏向される。これにより気流19の前輪3への干渉が抑えられるので、車両走行時での空気抵抗が減少する。このとき気流偏向板9は、車幅方向長さが、車両前方から見て少なくとも前輪3の幅方向全域を覆い隠す長さに設定されているので、気流の偏向が確実になされ、前輪3に当たる気流を確実に減少させることができる。 【0021】気流19の発生により、ホイールハウス15内には、前輪3の車両前方側から入り込む気流23と、同後方側から入り込む気流25とが発生する。前方からの気流23については、前輪前部傾斜部11の下部に沿って流れ、気流偏向板9と前輪前部傾斜部11との間の開口部17から後方に流出する気流27により増加する。このとき開口部17は、車両前方から見て前輪3の幅方向全域を覆うよう設定されるとともに、前輪前部傾斜部11の下部の気流通路は、左右の両側壁13によって車幅方向両側が閉塞されているので、開口部17を経てホイールハウス15に流れ込む気流が確実に増加する。 【0022】これにより、アンダカバー1の車両前方側の端部29付近の気流19の流速が高まり、鉛直方向下向きの圧力分布が増加して車両に対する鉛直方向下向きの力、すなわちダウンフォースが増加して空力特性が向上し、走行性能が向上する。」 上記の記載事項及び図2?5の記載からみて、上記周知例には以下の技術的事項が記載されている。 「前輪3に当たる気流を減少させ車両に対する空気抵抗を減少させる気流偏向板9は、前輪3の直前に対面して配置され、前輪3の幅方向全域を覆うよう設定されていること」 3.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「整流手段18」は本願発明の「フェアリング装置」に相当する。以下同様に、「自動車」は「車体」に、「前輪12」は「タイヤ」に、「部材22」は「フェアリング体」に、「第1のガイド14」は「気流受け面」にそれぞれ相当する。 引用発明の「整流手段18」は前輪12よりも自動車前方に設けられており、「走行路面10に対して凹状となる空気流れ24」は、引用文献1の図3の記載からみて、自動車下面を前輪12に向かって流れ、第1のガイド14に受けられるものであるから、引用発明の「走行路面10に対して凹状となる空気流れ24」は本願発明の「車体下面をタイヤに向って流れる気流」及び「車体下面をタイヤに向って流れるタイヤまわりの気流」に相当している。 本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。 (1)一致点 「タイヤよりも車体前方に設けられ、車体下面をタイヤに向って流れるタイヤまわりの気流をガイドする左右一対のフェアリング体を有するタイヤのフェアリング装置であって、 前記フェアリング体は、車体下面をタイヤに向かって流れる気流を受ける気流受け面が形成され、 該気流受け面は、気流受け面の車体中心側端が気流受け面の車体側方側端よりもタイヤに近くなるように、車体幅方向に対し角度を有して傾斜し、かつ、タイヤの前面に近接することを特徴とするタイヤのフェアリング装置。」 (2)相違点 気流受け面(第1のガイド14)について、本願発明では「車体中心側端はタイヤの車体中心側端と車体幅方向同一位置またはタイヤの車体中心側端よりも車体幅方向中心側に位置し、車体側方側端はタイヤの車体側方側端と車体幅方向同一位置またはタイヤの車体側方側端よりも車体幅方向側方側に位置する」のに対して、引用発明ではそのような構成が不明である点。 (3)相違点についての検討・判断 上記周知例に記載された「前輪3に当たる気流を減少させ車両に対する空気抵抗を減少させる気流偏向板9は、前輪3の直前に対面して配置され、前輪3の幅方向全域を覆うよう設定されていること」(以下「周知技術」という)は、表現を変えれば「車両中心側端は前輪3の車両中心側端よりも車両幅方向中心側に位置し、車両側方側端は前輪3の車両側方側端よりも車両幅方向側方側に位置すること」である。ここで、「車両」は「車体」、「前輪3」は「タイヤ」のことであり、「気流偏向板9」は本願発明の「気流受け面」や引用発明の「第1のガイド14」に相当している。 そうすると、上記相違点に係る「車体中心側端はタイヤの車体中心側端と車体幅方向同一位置またはタイヤの車体中心側端よりも車体幅方向中心側に位置し、車体側方側端はタイヤの車体側方側端と車体幅方向同一位置またはタイヤの車体側方側端よりも車体幅方向側方側に位置する」構成は、周知例に記載されている周知技術であるといえる。 しからば、引用発明の「第1のガイド14」において、上記周知技術を施すことにより、本願発明の上記相違点に係る構成とすることは当業者にとって容易に想到なし得るということができる。 そして、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術が有する効果の総和を超えるものではなく、当業者が予測し得た範囲内のものである。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものであり、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-04-15 |
結審通知日 | 2011-04-19 |
審決日 | 2011-05-06 |
出願番号 | 特願2005-150256(P2005-150256) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B62D)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 西本 浩司 |
特許庁審判長 |
川向 和実 |
特許庁審判官 |
田口 傑 小関 峰夫 |
発明の名称 | タイヤのフェアリング装置 |
代理人 | 綾田 正道 |