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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1238931
審判番号 不服2008-10524  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-25 
確定日 2011-06-22 
事件の表示 平成10年特許願第 98877号「アクチノバシラス・プレウロニューモニアの弱毒化生菌」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月 4日出願公開、特開平10-290695〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は,平成10年4月10日(優先権主張1997年4月10日,ヨーロッパ特許庁)の出願であって,平成20年1月24日付で拒絶査定がなされたところ,平成20年4月25日に審判請求がなされるとともに,平成20年5月23日に手続補正がなされたものである。

第2 平成20年5月23日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年5月23日の手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正により,請求項1は,
「アクチノバシラス・プレウロニューモニア(Actinobacillus pleuropneumoniae)の弱毒化生菌であって,野性型アクチノバシラス・プレウロニューモニアにおいて発現するApxIV毒素と同一の毒素を産生しないか,野性型アクチノバシラス・プレウロニューモニアにおいて発現するApxIV毒素と同一の毒素をより低いレベルで産生することを特徴とする弱毒化生菌」
から,
「アクチノバシラス・プレウロニューモニア(Actinobacillus pleuropneumoniae)の弱毒化生菌であって,野性型アクチノバシラス・プレウロニューモニアにおいて発現する配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するApxIV毒素と同一の毒素を産生しないことを特徴とする弱毒化生菌」に補正された。

上記補正は,補正前の請求項1の,「ApxIV毒素と同一の毒素」を「配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するApxIV毒素と同一の毒素」に限定するものであり,また,「産生しないか,より低いレベルで産生する」弱毒化生菌を「産生しない」弱毒化生菌に限定するものであるので,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について,以下に検討する。

2.当審の判断
(1)進歩性
i)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用され,本願明細書にも先行技術として記載されている,本願優先日前に頒布された刊行物であるAnderson T. J. 「A Thesis Presented to The Faculty of Graduate Studie of The University of Guelph」, (1995)(以下,「引用例1」という。)は,161頁からなる「Actinobacillus pleuropneumoniaeのLacZ,GalK及びGalM遺伝子の特性化」の表題の学位論文であり,
88頁?92頁に,演繹されたアミノ酸配列とともに塩基配列が示される図15などとともに,lacZ遺伝子の下流にあるRTX様配列について説明がなされ,
ディスカッションの項の118頁3行?119頁末行に,
「RTXホモログ
A. pleuropneumoniaeのLacZの下流に,多くの細菌RTX毒素のホモログの領域がある。残念なことに,このORFの発現はLacZに関連づけることができない。というのは,そのORFは反対の方向に転写されるからである。A. pleuropneumoniaeのLacZの下流に完全なRTXオペロンが位置していることを,予備的なデータは示唆している。この推測は,pBLAC7(図16)を含む大腸菌JRG1728の,血液寒天平板上にプレートしたとき,溶血コロニーを形成したことに基づいている。プラスミドpBLAC7は,LacZ遺伝子の下流に位置する8.2kbpのDNA配列を含んでいる。この領域は,Apx毒素と補助的な活性化及び輸送タンパク質(例えばapxCABD)のすべてのタンパク質をコードするのに十分なサイズである。予測されるように,短い組換え体であるpBLAC2は,LacZ遺伝子に隣接する5.9kbpのDNAを含むもので,溶血性でなかった。付け加えて,pBLAC2からの配列データを用いてのGenBankのBlastXサーチは,B. pertussis,P. haemolytica及びN. meningitidesのRTX毒素とのホモロジーを明らかにした。最高のホモロジーは,N. meningitidesのfrpCとfrpA遺伝子産物との間で見出された。FrpAとFrpCタンパク質は,全部で822aaに拡がる97%より大きい同一性の2つの領域をもっている。低レベルのホモロジーが,A. pleuropneumoniaeのApx毒素,ApxI,ApxII及びApxIIIの間で見出された。
A. pleuropneumoniae CM5(図14)からのlacZの下流のDNA配列を使ってPCRプライマーを生成し,Joachim Frey(ベルン,スイス)は,A. pleuropneumoniaeの血清型3からの彼がApxIVと名付けたApx毒素をクローニングとシークエンスした(J. Frey,私信)。この研究で単離したRTXホモログのように,ApxIVは,前に報告されたApx毒素,ApxI,ApxII又はApxIIIよりも,Neisseria meningitidesの鉄に調節されるRTX毒素により類似している。この知見は,その2つの毒素は同一であろうし,A. pleuropneumoniaeの他の血清型も,apxIVを持っているであろうことを示唆する。A. pleuropneumoniaの病因における,この毒素の果たす役割は,確定を待っている。その調節や生物学的活性において,ApxIVはApxI,ApxII及びApxIIIと異なっているようである。
興味深いことに,A. pleuropneumoniaeの血清型3において,β-ガラクトシダーゼ遺伝子もまた,ApxIV遺伝子の下流に位置している(J. Frey,私信)。血清型1の菌株CM5におけるlacZ遺伝子のように,血清型3のlacZ遺伝子は,ApxIVオペロン遺伝子とは反対方向に転写される。この結果は,A. pleuropneumoniaの様々な血清型は,少なくともlacZ遺伝子の周辺の領域において,同様の染色体構成を持っていることを示唆している。この示唆と整合して,血清型1の菌株CM5の全長のlacZプローブを使ったサウザンブロット分析は,すべての12の血清型において,共通する1.8kbpのフラグメント(lacZ遺伝子の3’端を含んでいる)を明らかにしている(Anderson,1991)。」と記載されている。

原査定の拒絶の理由に引用された,本願優先日前に頒布された刊行物であるInfect. Immun., (1995), 63, [1], p.27-37(以下,「引用例2」という。)には,
「Actinobacillus pleuropneumoniae のRTX毒素ApxI,ApxIIおよびApxIIIは,このブタ病原体の重要な毒性要因である。 細菌が宿主を感染させることを可能にするように,宿主の細胞を防御するのに,Apx毒素が有害であることが仮定される。これを確認するために,我々は,Apx毒素が欠けているA. pleuropneumoniaeの突然変異株の豚の多形核好中球に対する影響を検討した。この目的のために,我々は,条件付きで複製するプラスミドpVE6063に基づいたA. pleuropneumoniaeの標的遺伝子突然変異誘発,及び相同組換えによる挿入突然変異用のシステムを開発した。ApxI及びApxIIを分泌する血清型1の参考菌株に,このシステムを使用して,我々は,ApxI及び/又はApxIIが欠けた突然変異株を生成した。 我々は,親菌株と突然変異体の,豚の好中球中の酸化的破裂を引き起こし,これらの細胞を殺す能力を比較した。ApxIかApxIIのいずれかを分泌した親菌株及び突然変異は酸化的破裂を引き起こし好中球を殺した。しかし,ApxIとApxIIが欠けていた突然変異菌株はしなかった。これらの実験は,好中球に対するこれらの深遠な影響へのApxIおよびApxIIの重要性を示し,病因中のApxIおよびApxIIの重要性を強調する。」(要約)と記載されている。

ii)対比
引用例1には,Actinobacillus pleuropneumoniaeの生菌株CM5が記載され,そのlacZ遺伝子の下流に,図15に部分配列が記載されるNeisseria meningitidesのRTX毒素遺伝子と相同性のある遺伝子を持っていることが記載されている。この,引用例1の15図に記載される252個のアミノ酸配列は,本願補正発明の配列番号2のアミノ酸配列の1406番目のアミノ酸から1657番目のアミノ酸に対応するものであり,また,本願補正発明の配列番号4のアミノ酸配列の1131番目のアミノ酸から1382番目のアミノ酸に対応するものである。そして,本願補正発明の配列番号2のアミノ酸配列とは,最初から7番目までのアミノ酸と,149番目のアミノ酸が相違し,また,本願補正発明の配列番号4のアミノ酸配列とは,最初から7番目までのアミノ酸と,149番目のアミノ酸が相違するのに加え,11番目,53番目,57番目,209番目,235番目及び238番目のアミノ酸が相違している。
そうすると,引用例1に記載される生菌株CM5は,配列番号2又は配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するApxIV毒素とは類似するが,これらとは異なる毒素を産生するものである。
そこで,本願補正発明と引用例1に記載された発明を比較すると,両者は「アクチノバシラス・プレウロニューモニア(Actinobacillus pleuropneumoniae)の生菌であって,野性型アクチノバシラス・プレウロニューモニアにおいて発現する配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するApxIV毒素と同一の毒素を産生しない生菌」である点では一致しているが,本願補正発明が,弱毒化生菌であるのに対し,引用例1に記載されたものは弱毒化されていない点で相違している。

iii)判断
引用例2には,引用例2には,A. pleuropneumoniaeのRTX毒素であるApxI及びApxIIが欠けた突然変異株を作成し,豚の好中球中の酸化的破裂において弱毒化していることが示されているのであるから,引用例1に記載される生菌株CM5においても,同様の結果が得られることを確認するために,A. pleuropneumoniaeのRTX毒素であるApxI及びApxIIが欠けた突然変異株を作成する程度のことは当業者が容易になしえることである。

したがって,本願補正発明は,引用例1及び引用例2記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

iv)付記
本願の明細書の記載をみると,本願補正発明において,配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するApxIV毒素と同一の毒素を産生する野生株を弱毒化した弱毒化生菌であることが前提とも解せる。そうすると,そのような限定が明記されていない本件補正後の請求項1の記載は明確でないので,本願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので,特許出願の際,独立して特許を受けることができないことになる。

また仮に,本願補正発明の弱毒化生菌が,配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するApxIV毒素と同一の毒素を産生する野生株を弱毒化した弱毒化生菌であるとしても,以下の点で,本願補正発明は,引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

引用例1の図15に示される部分配列をもつ遺伝子は,従来知られたA. pleuropneumoniaeのApx毒素,ApxI,ApxII及びApxIIIとは相同性が低いが,Neisseria meningitidesのRTX毒素遺伝子と相同性から,RTX毒素と思われる新たな毒素をコードしていると示唆されているものであるから,当業者であれば,コードされているものが確かに毒素であり,A. pleuropneumoniaeの病原性に関与しているか,また,関与しているとして,どのように関与しているかに,当然に興味を抱くものである。
またさらに,引用例1には,LacZ遺伝子の下流に位置する8.2kbpのDNA配列を含んでいるpBLAC7(図16)を含む大腸菌JRG1728が,血液寒天平板上にプレートしたとき,溶血コロニーを形成したことが記載されているのであるから,なおさらのことA. pleuropneumoniaeの病原性にどのように関与しているかに,当然に興味を抱くものである。
そして,引用例2には,A. pleuropneumoniaeのRTX毒素であるApxI及び/又はApxIIが欠けた突然変異株を作成し,病因中のApxIおよびApxIIの重要性を調べているのであるから,同じくA. pleuropneumoniaeの病原性に関与していることが示唆され,溶血作用が示されている,引用例1の図15に示される部分配列をもつ遺伝子についても,同様に欠失した突然変異株を作成してみようと,当業者であれば容易に想到することである。引用例1の図15に示される部分配列をもつ遺伝子を,欠失させた突然変異株を作成しようとしたときに,部分配列をもとに全長の遺伝子をクローニングし,配列を決定することは遺伝子工学の周知の技術であり,引用例1の図15に記載される部分配列を基に,容易に全長の遺伝子の配列を決定することができるから,その配列情報をもとに,引用例2に記載される欠失方法や周知の遺伝子工学の手法を用いれば,容易に引用例1に記載される生菌株CM5のみならず,周知のA. pleuropneumoniaeの菌株4074やHV114株から,引用例1の図15に示される部分配列の全長遺伝子や,配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を有するApxIV毒素遺伝子を欠失させた生菌を得ることができるもので,当然に引用例1に記載された溶血作用に関して弱毒化されたものとなる。
また,引用例1の図15に記載される部分配列を基に,その全長の遺伝子の配列を決定するだけでなく,周知のA. pleuropneumoniaeの菌株4074やHV114株の対応する全長の遺伝子の配列を決定することも,周知の遺伝子工学の技術を用いれば容易になしえることであり,なおさらのこと,菌株4074やHV114株から,引用例1の図15に示される部分配列の全長遺伝子や,配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を有するApxIV毒素遺伝子を欠失された生菌を得ることができるものである。
しかも,本願の明細書の記載を見ても,配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を有するApxIV毒素と同一の毒素を産生しない弱毒化生菌を作成した具体例も記載されておらず,該弱毒化生菌が引用例1の記載から予測できないような顕著な効果を有しているものとも認められないものであり,本願補正発明の弱毒性生菌が,配列番号2又は配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するApxIV毒素と同一の毒素を産生する野生株を弱毒化した弱毒化生菌であるとしても,本願補正発明は,引用例1及び引用例2記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。

請求人の主張について:
請求人は,本願明細書実施例4のin vitro試験では,ApxIV毒素を発現しないことなどから,ApxIVが毒性因子ではないとの結論に達したはずであることを主張する。
ところが,A. pleuropneumoniaeのApx毒素,ApxI,ApxII及びApxIIIについては,引用例2の27頁右欄12?21行に記載されるように,組換え体を用いて毒性を調べていたものであり,同様にすれば,ApxIVが毒性因子であるとの結論に達するものである。また,引用例1には,上述したように,組換え大腸菌を血液寒天平板上にプレートすることにより毒性を確認しているのであるから,ApxIVが毒性因子ではないとの結論に達しようがないもので,請求人の主張は採用できない。

(2)明細書の記載要件
本願明細書には,次のように記載されている。
本発明以前にはアクチノバシラス・プレウロニューモニアに基づく生ワクチンは市販されていない(段落0029)。生App株の毒性を弱めるためのRTX-毒素の除去は技術的に容易であるが,・・・溶血/細胞毒性活性に対する免疫を誘発しないため,弱毒化生ワクチン株としては無益である(段落0030)。したがって,毒性の原因でありそのため変性された場合に弱毒化App株をもたらす部位であって,同時に免疫の誘発に有用であるもののワクチンの観点からは不要である部位を,Appのゲノム上に有することが強く望まれる(段落0032)。意外にも,apxIV欠失変異体は,生存可能であるが,それらのapxIVを有する親株と比較して少ない毒性で挙動することが見出された。・・・したがって,以下のことが見出されたことは本発明の価値の1つである。・・・apxIV遺伝子に欠失を有するA.プレウロニューモニア株は依然として生存可能ではあるが,その株の免疫原性を大きく損なうことなく毒性が低下している(段落0037?0039)。
これらの記載からすれば,本願補正発明の弱毒化生菌は,その株の免疫原性を大きく損なうことなく毒性が低下していることで,その発明の解決しようとする課題を解決するものである。ところが,本願明細書には,野性型アクチノバシラス・プレウロニューモニアにおいて発現する配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するApxIV毒素と同一の毒素を産生しない弱毒化生菌を作成したことも,その免疫性と毒性についても具体的に記載されていない。特に,引用例2の27頁右欄12?21行に記載されるように,遺伝子工学的に製造したApxI,ApxII及びApxIIIが,好中球中の酸化的破裂を引き起こしたり,ApxI及びApxIIIがA. pleuropneumoniae様の病変を引き起こすことが知られているのであるから,ApxIV毒素を産生しないようにしたとしても,どのように弱毒化されるかは全く不明であるというべきものである。
そうすると,免疫原性を大きく損なうことなく毒性が低下していることを前提とする本願補正発明が,発明の詳細な説明に記載されたものではないことになるし,そのような発明が,当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に,発明の詳細な説明の記載をしたことにならない。

したがって,本願は,明細書の記載が,特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしていないので,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成20年5月23日の手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成19年11月28日の手続補正書により補正された明細書の記載から見て,次のとおりのものである。

「アクチノバシラス・プレウロニューモニア(Actinobacillus pleuropneumoniae)の弱毒化生菌であって,野性型アクチノバシラス・プレウロニューモニアにおいて発現するApxIV毒素と同一の毒素を産生しないか,野性型アクチノバシラス・プレウロニューモニアにおいて発現するApxIV毒素と同一の毒素をより低いレベルで産生することを特徴とする弱毒化生菌」

第4 当審の判断
1.進歩性について
(1)引用文献
引用例1及び引用例2については,上記第2 2.(1)i)で摘記したとおり。

(2)対比
本願発明と引用例1に記載された発明を比較すると,両者は「アクチノバシラス・プレウロニューモニア(Actinobacillus pleuropneumoniae)の生菌」である点では一致しているが,本願発明が,「野性型アクチノバシラス・プレウロニューモニアにおいて発現するApxIV毒素と同一の毒素を産生しないか,野性型アクチノバシラス・プレウロニューモニアにおいて発現するApxIV毒素と同一の毒素をより低いレベルで産生する弱毒化生菌」であるのに対し,引用例1に記載されたものは,そのように弱毒化されていない点で相違している。

(3)判断
引用例1の図15に示される部分配列をもつ遺伝子は,従来知られたA. pleuropneumoniaeのApx毒素,ApxI,ApxII及びApxIIIとは相同性が低いが,Neisseria meningitidesのRTX毒素遺伝子と相同性から,RTX毒素と思われる新たな毒素をコードしていると示唆されているものであるから,当業者であれば,コードされているものが確かに毒素であり,A. pleuropneumoniaeの病原性に関与しているか,また,関与しているとして,どのように関与しているかに,当然に興味を抱くものである。
またさらに,引用例1には,LacZ遺伝子の下流に位置する8.2kbpのDNA配列を含んでいるpBLAC7(図16)を含む大腸菌JRG1728が,血液寒天平板上にプレートしたとき,溶血コロニーを形成したことが記載されているのであるから,なおさらのことA. pleuropneumoniaeの病原性にどのように関与しているかに,当然に興味を抱くものである。
そして,引用例2には,A. pleuropneumoniaeのRTX毒素であるApxI及び/又はApxIIが欠けた突然変異株を作成し,病因中のApxIおよびApxIIの重要性を調べているのであるから,同じくA. pleuropneumoniaeの病原性に関与していることが示唆され,溶血作用が示されている,引用例1の図15に示される部分配列をもつ遺伝子についても,同様に欠失した突然変異株を作成してみようと,当業者であれば容易に想到することである。引用例1の図15に示される部分配列をもつ遺伝子を,欠失させた突然変異株を作成しようとしたときに,部分配列をもとに全長の遺伝子をクローニングし,配列を決定することは遺伝子工学の周知の技術であり,引用例1の図15に記載される部分配列を基に,容易に全長の遺伝子の配列を決定することができるから,その配列情報をもとに,引用例2に記載される欠失方法や周知の遺伝子工学の手法を用いれば,容易に引用例1に記載される生菌株CM5から,引用例1の図15に示される部分配列の全長遺伝子を欠失させた生菌を得ることができるもので,当然に引用例1に記載された溶血作用に関して弱毒化されたものとなる。
しかも,本願の明細書の記載を見ても,ApxIV毒素と同一の毒素を産生しない弱毒化生菌などを作成した具体例も記載されておらず,弱毒化生菌が引用例1の記載から予測できないような顕著な効果を有しているものとも認められないものであり,本願発明は,引用例1及び引用例2記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。

請求人の主張について:
請求人は,本願明細書実施例4のin vitro試験では,ApxIV毒素を発現しないことなどから,ApxIVが毒性因子ではないとの結論に達したはずであることを主張する。
ところが,A. pleuropneumoniaeのApx毒素,ApxI,ApxII及びApxIIIについては,引用例2の27頁右欄12?21行に記載されるように,組換え体を用いて毒性を調べていたものであり,同様にすれば,ApxIVが毒性因子であるとの結論に達するものである。また,引用例1には,上述したように,組換え大腸菌を血液寒天平板上にプレートすることにより毒性を確認しているのであるから,ApxIVが毒性因子ではないとの結論に達しようがないもので,請求人の主張は採用できない。

(2)明細書の記載要件
本願明細書には,次のように記載されている。
本発明以前にはアクチノバシラス・プレウロニューモニアに基づく生ワクチンは市販されていない(段落0029)。生App株の毒性を弱めるためのRTX-毒素の除去は技術的に容易であるが,・・・溶血/細胞毒性活性に対する免疫を誘発しないため,弱毒化生ワクチン株としては無益である(段落0030)。したがって,毒性の原因でありそのため変性された場合に弱毒化App株をもたらす部位であって,同時に免疫の誘発に有用であるもののワクチンの観点からは不要である部位を,Appのゲノム上に有することが強く望まれる(段落0032)。意外にも,apxIV欠失変異体は,生存可能であるが,それらのapxIVを有する親株と比較して少ない毒性で挙動することが見出された。・・・したがって,以下のことが見出されたことは本発明の価値の1つである。・・・apxIV遺伝子に欠失を有するA.プレウロニューモニア株は依然として生存可能ではあるが,その株の免疫原性を大きく損なうことなく毒性が低下している(段落0037?0039)。
これらの記載からすれば,本願発明の弱毒化生菌は,その株の免疫原性を大きく損なうことなく毒性が低下していることで,その発明の解決しようとする課題を解決するものである。ところが,本願明細書には,野性型アクチノバシラス・プレウロニューモニアにおいて発現する配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するApxIV毒素と同一の毒素を産生しない弱毒化生菌を作成したことも,その免疫性と毒性についても具体的に記載されていない。特に,引用例2の27頁右欄12?21行に記載されるように,遺伝子工学的に製造したApxI,ApxII及びApxIIIが,好中球中の酸化的破裂を引き起こしたり,ApxI及びApxIIIがA. pleuropneumoniae様の病変を引き起こすことが知られているのであるから,ApxIV毒素を産生しないようにしたとしても,どのように弱毒化されるかは全く不明であるというべきものである。
そうすると,免疫原性を大きく損なうことなく毒性が低下していることを前提とする本願発明が,発明の詳細な説明に記載されたものではないことになるし,そのような発明が,当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に,発明の詳細な説明の記載をしたことにならない。

第5 むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないし,また,本願は,明細書の記載が,特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしていない。

したがって,本願に係るその他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2011-01-19 
結審通知日 2011-01-25 
審決日 2011-02-07 
出願番号 特願平10-98877
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴原 直司  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 深草 亜子
鵜飼 健
発明の名称 アクチノバシラス・プレウロニューモニアの弱毒化生菌  
代理人 小野 誠  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 金山 賢教  
代理人 坪倉 道明  
代理人 大崎 勝真  
代理人 川口 義雄  

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