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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1238956
審判番号 不服2009-25631  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-25 
確定日 2011-06-22 
事件の表示 特願2003-507901「太陽電池を浅い液体の層中で用いる太陽エネルギー変換器」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月 3日国際公開、WO03/01610、平成16年10月14日国内公表、特表2004-531902〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成14年5月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年6月22日及び2002年5月22日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、 平成15年12月22日付けで特許協力条約第34条補正の翻訳文が提出され、平成16年1月29日、同年5月28日及び平成21年2月19日に手続補正がなされたが、同年8月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年12月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである(以下平成21年12月25日になされた手続補正を「本件補正」という。)。

2 本件補正についての却下の決定
(1)結論
本件補正を却下する。

(2)理由
ア 補正の内容
(ア)本件補正は、特許請求の範囲につき、補正前(平成21年2月19日になされた手続補正後のもの)の
「【請求項1】
太陽エネルギー変換器であって、
二次元の平らな基底と、低い側壁と、前記低い側壁により前記基底より隔離された透明な上蓋とを含む薄型パネル外装容器であって、前記低い側壁が前記二次元の基底寸法のいずれよりも際立って小さい深さをもつ空房を内包するような、該薄型パネル外装容器と、
前記薄型パネル容器内に含まれて、前面及び背面を持つ、一つまたは複数個の太陽電池と、
前記薄型パネル容器内に含まれて、前記一つまたは複数個の太陽電池を前記外装容器の前記基底および前記上蓋より隔離して保持する支持台と、
前記薄型パネル容器内に含まれて、前記前面及び前記背面が濡潤するように前記一つまたは複数個の太陽電池を濡潤するような液体の薄い層であって、前記前面を濡潤する薄い前面側液体層と前記背面を濡潤する薄い背面側液体層とからなる、該液体の薄い層とを含み、
前記少なくとも一つの太陽電池の出力電力を最適化するように、前記薄い背面側液体層の厚さに応じて、前記薄い前面側液体層の厚さが選択されることを特徴とする太陽エネルギー変換器。
【請求項2】
前記薄い背面側液体層の厚さは、少なくとも1mmであることを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項3】
前記薄い前面液体層の厚さは、15mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項4】
前記液体の薄い層が液体群より選ばれ、前記液体群が、水と、電気的に非伝導で光学的に透明な誘電性液体と、極性有機誘電性液体と、無極性有機誘電性液体と、屈折率1.43以上且つ凝固点-40℃以下且つ沸点200℃以上の誘電性液体と、屈折率1.535且つ凝固点-45℃以下且つ沸点370℃以上のレーザー用浸漬液とを含むことを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項5】
前記少なくとも一つの太陽電池の出力電力を最適化するように、前記少なくとも一つの太陽電池の性能特性及び前記液体の性質に基づいて、前記薄い前面側液体層の厚さ及び前記薄い背面側液体層の厚さが選択されることを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項6】
前記低い側壁が、透明または不透明な壁から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項7】
前記薄型パネル外装容器が外装容器群より選ばれ、前記外装容器群が、
液体を循環させて前記太陽電池を冷却することが可能な循環装置を更に持つ外装容器と、
液体を循環させる装置を持たず、液体による冷却を必要としない高効率の前記一つまたは複数個の太陽電池の前記前面と前記背面を浸潤する液体を封入した外装容器とを含むことを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項8】
太陽エネルギー変換器であって、
内部に空房を有する薄型パネル外装容器と、
前記薄型パネル外装容器内に配列され、自身の前面および背面が前記薄型パネル外装容器の内壁に接しない一つまたは複数個の太陽電池と、
前記薄型パネル外装容器内に封入され、前記一つまたは複数個の太陽電池を浸潤し、前記太陽電池の前記前面および前記背面の両面を濡潤し、前記太陽電池の前記前面を15mm以下の深さで覆う液体の薄い層とを含み、
前記少なくとも一つの太陽電池の出力電力を最適化するように、前記太陽電池の前記背面における液体の深さに応じて、前記太陽電池の前記前面を覆う液体の深さが選択されることを特徴とする太陽エネルギー変換器。
【請求項9】
前記液体の薄い層が液体群より選ばれ、前記液体群が、水と、電気的に非伝導で光学的に透明な誘電性液体と、極性有機誘電性液体と、無極性有機誘電性液体と、屈折率1.43以上且つ凝固点-40℃以下且つ沸点200℃以上の誘電性液体と、屈折率1.535且つ凝固点-45℃以下且つ沸点370℃以上のレーザー用浸漬液とを含むことを特徴とする請求項8に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項10】
太陽エネルギー変換器であって、
液体と、
一つまたは複数個の太陽電池であって、該太陽電池の前面と背面が前記液体に接するように、n-p接合を形成するようなn型半導体層とp型半導体層とが設けられた前記太陽電池と、
前記液体と前記一つまたは複数個の太陽電池とを内包する外装容器とを含み、
前記外装容器が、前記一つまたは複数個の太陽電池を固定する平らな基底を有し、
前記外装容器が、前記一つまたは複数個の太陽電池に前記液体を通して入射太陽光を集光するレンズを形成するような、前記基底に接続される透明な側面パネル壁を有し、
前記パネル壁が、自身及び前記液体を通過する光の集光を向上させ、且つ前記一つまたは複数個の太陽電池に太陽エネルギーを光学的に集中させ、前記液体が前記一つまたは複数個の太陽電池の前記前面を15mm以下の深さで覆い、
前記少なくとも一つの太陽電池の出力電力を最適化するように、前記太陽電池の前記背面における液体の深さに応じて、前記太陽電池の前記前面を覆う液体の深さが選択されることを特徴とする太陽エネルギー変換器。
【請求項11】
前記液体が、有極性および無極性誘電性液体より選択される有機誘電性液体であることを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項12】
前記外装容器が、入射太陽光が前記液体を通過するよう透明な上蓋を有することを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項13】
前記外装容器が筒型構造をなし、前記筒型構造の第1端部が平らなパネル皿で覆われ、前記筒型構造の第2端部がパネル蓋で覆われることを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項14】
前記外装容器が、一部または全体が透明なガラスまたはプラスチック材料で構成される側壁と上蓋を有することを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項15】
前記外装容器が、前記一つまたは複数個の太陽電池の占める総表面積より広い基底および上蓋面積を有することを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項16】
前記外装容器が筒型構造をなし、前記筒型構造の第1端部が平らなパネル皿で覆われ、前記筒型構造の第2端部がパネル蓋で覆われ、前記筒型構造の断面幾何学形状が、円形、楕円形、卵形、三角形、矩形、または正方形で、対称形または非対称形であることを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項17】
前記外装容器が薄型パネル外装容器であり、該薄型容器が二次元の平らな基底と、低い側壁を有する側面パネル壁と、前記低い側壁により前記基底より隔離された透明な上蓋とを含み、前記低い側壁が前記二次元の基底寸法のいずれよりも際立って小さい深さをもつ空房を内包することを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項18】
前記液体が液体群より選ばれ、前記液体群が、水と、電気的に非伝導で光学的に透明な誘電性液体と、極性有機誘電性液体と、無極性有機誘電性液体と、エタノールと、ベンゼンと、トルエンと、トリクロロエチレンと、プロピレングリコールと、屈折率1.43以上且つ凝固点-40℃以下且つ沸点200℃以上の誘電性液体と、屈折率1.535且つ凝固点-45℃以下且つ沸点370℃以上のレーザー用浸漬液とを含むことを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。」

「【請求項1】
太陽エネルギー変換器であって、
二次元の平らな基底と、低い側壁と、前記低い側壁により前記基底より隔離された透明な上蓋とを含む薄型パネル外装容器であって、前記低い側壁が前記二次元の基底寸法のいずれよりも小さい深さをもつ空房を内包するような、該薄型パネル外装容器と、
前記薄型パネル容器内に含まれて、前面及び背面を持つ、一つまたは複数個の太陽電池と、
前記薄型パネル容器内に含まれて、前記一つまたは複数個の太陽電池を前記外装容器の前記基底および前記上蓋より隔離して保持する支持台と、
前記薄型パネル容器内に含まれて、前記前面及び前記背面が濡潤するように前記一つまたは複数個の太陽電池を濡潤するような、屈折率1.43以上且つ凝固点-40℃以下且つ沸点200℃以上の有機誘電性液体からなる液体の薄い層であって、前記前面を濡潤する薄い前面側液体層と前記背面を濡潤する薄い背面側液体層とからなる、該液体の薄い層と、
液体を循環させて、接続された熱交換装置により前記一つまたは複数個の太陽電池を冷却するように構成された循環装置とを含み、
前記少なくとも一つの太陽電池の出力電力を最適化するように、前記薄い背面側液体層の厚さに応じて、前記薄い前面側液体層の厚さが選択されることを特徴とする太陽エネルギー変換器。
【請求項2】
前記薄い背面側液体層の厚さは、少なくとも1mmであることを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項3】
前記薄い前面液体層の厚さは、15mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項4】
前記液体が、屈折率1.535且つ凝固点-45℃以下且つ沸点370℃以上の有機誘電性液体であることを含むことを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項5】
前記少なくとも一つの太陽電池の出力電力を最適化するように、前記少なくとも一つの太陽電池の性能特性及び前記液体の性質に基づいて、前記薄い前面側液体層の厚さ及び前記薄い背面側液体層の厚さが選択されることを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項6】
前記低い側壁が、透明または不透明な壁から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項7】
前記薄型パネル外装容器が外装容器群より選ばれ、前記外装容器群が、
前記循環装置を備える外装容器と、
前記循環装置を備えず、液体による冷却を必要としない高効率の前記一つまたは複数個の太陽電池の前記前面と前記背面を浸潤する液体を封入した外装容器とを含むことを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項8】
太陽エネルギー変換器であって、
内部に空房を有する薄型パネル外装容器と、
前記薄型パネル外装容器内に配列され、自身の前面および背面が前記薄型パネル外装容器の内壁に接しない一つまたは複数個の太陽電池と、
前記薄型パネル外装容器内に封入され、前記一つまたは複数個の太陽電池を浸潤し、前記太陽電池の前記前面および前記背面の両面を濡潤し、前記太陽電池の前記前面を15mm以下の深さで覆う、屈折率1.43以上且つ凝固点-40℃以下且つ沸点200℃以上の有機誘電性液体からなる液体の薄い層と
液体を循環させて、接続された熱交換装置により前記一つまたは複数個の太陽電池を冷却するように構成された循環装置とを含み、
前記少なくとも一つの太陽電池の出力電力を最適化するように、前記太陽電池の前記背面における液体の深さに応じて、前記太陽電池の前記前面を覆う液体の深さが選択されることを特徴とする太陽エネルギー変換器。
【請求項9】
前記液体が、屈折率1.535且つ凝固点-45℃以下且つ沸点370℃以上の有機誘電性液体であることを含むことを特徴とする請求項8に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項10】
太陽エネルギー変換器であって、
屈折率1.43以上且つ凝固点-40℃以下且つ沸点200℃以上の有機誘電性液体と、
一つまたは複数個の太陽電池であって、該太陽電池の前面と背面が前記液体に接するように、n-p接合を形成するようなn型半導体層とp型半導体層とが設けられた前記太陽電池と、
前記液体と前記一つまたは複数個の太陽電池とを内包する外装容器と、
液体を循環させて、接続された熱交換装置により前記一つまたは複数個の太陽電池を冷却するように構成された循環装置とを含み、
前記外装容器が、前記一つまたは複数個の太陽電池を固定する平らな基底を有し、
前記外装容器が、前記一つまたは複数個の太陽電池に前記液体を通して入射太陽光を集光するレンズを形成するような、前記基底に接続される透明な側面パネル壁を有し、
前記パネル壁が、自身及び前記液体を通過する光の集光を向上させ、且つ前記一つまたは複数個の太陽電池に太陽エネルギーを光学的に集中させ、前記液体が前記一つまたは複数個の太陽電池の前記前面を15mm以下の深さで覆い、
前記少なくとも一つの太陽電池の出力電力を最適化するように、前記太陽電池の前記背面における液体の深さに応じて、前記太陽電池の前記前面を覆う液体の深さが選択されることを特徴とする太陽エネルギー変換器。
【請求項11】
前記液体が、有極性および無極性誘電性液体より選択されることを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項12】
前記外装容器が、入射太陽光が前記液体を通過するよう透明な上蓋を有することを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項13】
前記外装容器が筒型構造をなし、前記筒型構造の第1端部が平らなパネル皿で覆われ、前記筒型構造の第2端部がパネル蓋で覆われることを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項14】
前記外装容器が、一部または全体が透明なガラスまたはプラスチック材料で構成される側壁と上蓋を有することを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項15】
前記外装容器が、前記一つまたは複数個の太陽電池の占める総表面積より広い基底および上蓋面積を有することを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項16】
前記外装容器が筒型構造をなし、前記筒型構造の第1端部が平らなパネル皿で覆われ、前記筒型構造の第2端部がパネル蓋で覆われ、前記筒型構造の断面幾何学形状が、円形、楕円形、卵形、三角形、矩形、または正方形で、対称形または非対称形であることを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項17】
前記外装容器が薄型パネル外装容器であり、該薄型容器が二次元の平らな基底と、低い側壁を有する側面パネル壁と、前記低い側壁により前記基底より隔離された透明な上蓋とを含み、前記低い側壁が前記二次元の基底寸法のいずれよりも小さい深さをもつ空房を内包することを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。
【請求項18】
前記液体が、屈折率1.535且つ凝固点-45℃以下且つ沸点370℃以上の有機誘電性液体であることを含むことを特徴とする請求項10に記載の太陽エネルギー変換器。」
に補正するものである。

(イ)上記(ア)の請求項1に係る補正の内容は、「液体を循環させて、接続された熱交換装置により前記一つまたは複数個の太陽電池を冷却するように構成された循環装置」を追加することを含むものである。

イ 補正の適否についての判断
上記ア(ア)の補正の前後を通して請求項の数(18である。)に変わりはないから、上記ア(ア)の補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものに該当するものといえない。
また、上記ア(イ)の補正は、「熱交換装置」及びそれを含む「循環装置」を追加するものであって補正前の請求項1に係る発明を特定する事項を限定するものといえないから、同条第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものといえず、同条第4項第3号又は第4号に規定する事項を目的とするものでもないことは明らかである。

ウ 小括
以上の検討によれば、上記ア(イ)の補正を含む本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)付言
なお、以下に検討するとおり、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、特許を受けることができないものであるから、本件補正を認める余地はない。

ア 刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭55-46541号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに、以下の記載がある(下線は、審決で付した。)。

(ア)「この発明は、既製の太陽電池の光電エネルギー変換効率を高めて使用する太陽電池装置に関するものである。」(第1頁左下欄第9行から第11行。)

(イ)「本発明者は、Si太陽電池を透明な液体中で動作させると太陽電池の光電エネルギー変換効率が増大することを見出した。透明な液体として、アルコール、ベンゼン、グリセリン、水等々を用いて実験し、いずれの液体でも同様な効果のあることを確かめた。ただし、閉回路電流I_(sc)、開放回路電圧V_(oc)、最大出力等の増大の様子は液体により異なり、後述のように屈折率の大きな液体の方が、望ましいことが判つた。」(第1頁右下欄第18行から第2頁左上欄第8行。)

(ウ)「この実験は直径6cm、深さ4cmの円筒型白色半透明のポリエチレン容器内で、太陽電池の表面上4mmの深さまでエチルアルコールまたはベンゼンを注入して行った。また、エチルアルコール、ベンゼンの屈折率はそれぞれ1.3611および1.5011である。」(第2頁左上欄第17行から右上欄第2行。)

(エ)「SiあるいはGaAsなどの太陽電池の出力は負の温度依存性がある。すなわち、高温ほど、出力電力は小さい。しかも太陽の光Lに曝される太陽電池SCの温度は60?70℃にまで上昇する。したがつて、第1図の実施例において、内部の液体L1を流動して、水の温度まで冷却すれば約15%程度の出力低下を防ぐことができる。」(第2頁左下欄第17行から右下欄第3行。)

(オ)「エチルアルコールをペトリ皿に注入し、エチルアルコールの液面が、太陽電池の裏面をぬらした状態における電流-電圧特性は曲線bのごとくで、閉回路電流と開回路電圧が共に増大している。この時の最大出力を曲線aの最大出力と比較すると10%程度増大している。このことは液体中を光が伝播して太陽電池の裏側の面に到達しているためと思われる。同一太陽電池を空気中で動作させながら、鏡による反射光を太陽電池の裏面に照射した場合に、約10%の出力の増大が得られたことによつて証明される。曲線cはさらにエチルアルコールを注入して、太陽電池の表面がぬれた状態での電流-電圧特性である。この構造ではさらにアルコールを注入して、太陽電池表面上のアルコールの深さを増すにしたがつて、電流-電圧曲線は出力が大きくなる方向にふくれるが、ある適当な深さ以上になると曲線は衰退する。曲線dは最大出力に相当するアルコールの深さ(5.5mm)での電流-電圧特性である。」(第2頁右下欄第20行から第3頁左上欄第17行。)

(カ)「ここで第3図のごとく、ペトリ皿PDの側面に入射する光をシャッタSTによりしや断すると曲線eのように衰退する。このことは前述のようにペトリ皿PDと液体L1の系が、レンズ作用をして、側面への入射光を太陽電池SC表面に集光していることを示す。」(第3頁右上欄第1行から第6行。)

(キ)「第1図の実施例では透明ガラス容器GVとしてドーム状のものを用いたが、これはこの他のもの、例えば平面状のものであつてもよい。」(第3頁右下欄第14行から第16行。)

(ク)「第1図の実施例を多段に連結して液体L1を冷却媒体とすると、順次液体L1の温度が上昇するので、太陽熱エネルギー利用も併せ行うことができる。」(第3頁右下欄第18行から第4頁左上欄第1行。)

(ケ)上記(オ)の記載及び第1図から、太陽電池SCが、容器の基底及び上面より隔離して保持されており、その表面及び裏面がぬれた状態となるように容器内に液体L1が満たされていることが見て取れる。

イ 引用発明
上記アによれば、引用例には、次の発明が記載されているものと認められる。
「太陽電池装置であって、
平面状のガラス容器と、
前記ガラス容器内に装填された太陽電池SCと、
前記ガラス容器内に、太陽電池SCが、容器の基底及び上面より隔離して保持されており、その表面及び裏面がぬれた状態となるように容器内に満たされた液体L1とを含み、
液体L1は、ベンゼンであり、ベンゼンの屈折率は1.5011であり、
内部の液体L1を流動して冷却し、温度が上昇した液体L1により太陽熱エネルギーを利用する太陽電池装置。」(以下「引用発明」という。)

ウ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「太陽電池装置」及び「太陽電池SC」は、それぞれ、本願補正発明の「太陽エネルギー変換器」及び「一つまたは複数個の太陽電池」に相当する。

(イ)引用発明の「平面状のガラス容器」は、本願補正発明の「二次元の平らな基底と、低い側壁と、前記低い側壁により前記基底より隔離された透明な上蓋とを含む薄型パネル外装容器」に相当する。

(ウ)引用発明では、「太陽電池SCが、容器の基底及び上面より隔離して保持されており、その表面及び裏面がぬれた状態となるように容器内に満たされた液体L1とを含」むことから、引用発明は、「前記薄型パネル容器内に含まれて、前面及び背面を持つ、一つまたは複数個の太陽電池」を含む点において、本願補正発明と一致する。

(エ)引用発明では、「ガラス容器内に、太陽電池SCが、容器の基底及び上面より隔離して保持されて」いることから、引用発明は、「薄型パネル容器内で、一つまたは複数個の太陽電池が前記外装容器の前記基底および前記上蓋より隔離して保持」されている点において、本願補正発明と一致する。

(オ)引用発明の「液体L1」は、「ベンゼン」であり、「ベンゼンの屈折率は1.5011であ」るから、引用発明は、「屈折率1.43以上の有機誘電性液体からなる液体」を含む点について、本願補正発明と一致する。

(カ)上記(オ)に加え、引用発明では、「前記ガラス容器内に、太陽電池SCが、容器の基底及び上面より隔離して保持されており、その表面及び裏面がぬれた状態となるように容器内に満たされた液体L1とを含」んでおり、ガラス容器は平面状であるから、引用発明は「前記薄型パネル容器内に含まれて、前記前面及び前記背面が濡潤するように前記一つまたは複数個の太陽電池を濡潤するような、屈折率1.43以上の有機誘電性液体からなる液体の薄い層であって、前記前面を濡潤する薄い前面側液体層と前記背面を濡潤する薄い背面側液体層とからなる、該液体の薄い層」を含む点において、本願補正発明と一致する。

(キ)引用発明では、「太陽電池SC」を「内部の液体L1を流動して冷却し」ており、本願発明は、「液体を循環させて、接続された熱交換装置により前記一つまたは複数個の太陽電池を冷却」していることから、、引用発明は、「液体を流動させて、前記一つまたは複数個の太陽電池を冷却する」点において、本願補正発明と一致する。

(ク)以上によれば、両者は、
「太陽エネルギー変換器であって、
二次元の平らな基底と、低い側壁と、前記低い側壁により前記基底より隔離された透明な上蓋とを含む薄型パネル外装容器と、
前記薄型パネル容器内に含まれて、前面及び背面を持つ、一つまたは複数個の太陽電池と、
前記薄型パネル容器内に含まれて、前記前面及び前記背面が濡潤するように前記一つまたは複数個の太陽電池を濡潤するような、屈折率1.43以上の有機誘電性液体からなる液体の薄い層であって、前記前面を濡潤する薄い前面側液体層と前記背面を濡潤する薄い背面側液体層とからなる、該液体の薄い層とを含み、、
薄型パネル容器内で、一つまたは複数個の太陽電池が前記外装容器の前記基底および前記上蓋より隔離して保持され、
液体を流動させて、前記一つまたは複数個の太陽電池を冷却する太陽エネルギー変換器。」である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

a 薄型パネル外装容器について、本願補正発明では、低い側壁が二次元の基底寸法のいずれよりも小さい深さをもつ空房を内包するのに対して、引用発明では、そのようなものであるのか不明な点(以下「相違点1」という。)。

b 液体について、本願補正発明では、凝固点-40℃以下且つ沸点200℃以上であるのに対して、引用発明では、凝固点及び沸点が不明な点(以下「相違点2」という。)。

c 液体を流動させて、一つまたは複数個の太陽電池を冷却することについて、本願補正発明では、液体を循環させて、接続された熱交換装置により冷却するように構成された循環装置を含むのに対して、引用発明では、そのようなものであるのか不明な点(以下「相違点3」という。)。

d 本願補正発明では、太陽電池が支持台により保持されており、少なくとも一つの太陽電池の出力電力を最適化するように、薄い背面側液体層の厚さに応じて、薄い前面側液体層の厚さが選択されるのに対して、引用発明では、そのようなものであるのか不明である点(以下「相違点4」という。)。

エ 判断
(ア)相違点1について
引用発明には、側壁と基底寸法とを比較する記載は無いが、ガラス容器を平面状とすることが記載されているのであるから、低い側壁が二次元の基底寸法のいずれよりも小さい深さとすることは、当業者が適宜なし得る設計事項である。

(イ)相違点2について
引用発明では、液体L1を循環して太陽電池を冷却するものであることから、太陽電池装置の利用環境において液体L1が液体である必要があることは、当業者にとって自明であり、どの程度の温度範囲で利用するかは設計事項である。したがって、凝固点-40℃以下且つ沸点200℃以上とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項である。

(ウ)相違点3について
a 引用発明では、液体L1を流動させて太陽電池SCを冷却するものであるから、液体を循環する循環装置を備える構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである(必要ならば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-316518号公報の0012段参照。)。また、上記ア(ク)には、液体L1の温度が上昇するので、それを太陽熱エネルギー利用することが開示されており、太陽熱エネルギーを利用する方法として熱交換装置を用いることは、本願の出願当時において周知の技術であるから(例えば、特開2000-114574号の0017段及び0018段参照。)、引用発明に該周知技術を採用することは、当業者が容易になし得ることである。

b したがって、引用発明に上記周知技術を採用して、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(エ)相違点4について
a 太陽電池を容器内に装填する方法として、支持台を用いることは、当業者が引用発明を具体化する際に適宜なし得ることである。

b 引用例には、上記ア(オ)にあるように、太陽電池の裏面がぬれた状態とすることで、最大出力が増大すること、そして、表面がぬれた状態まで液体を注入し、さらに液体の深さを増すにしたがって、電流-電圧曲線は出力が大きくなる方向にふくれるが、ある適当な深さ以上になると曲線は衰退することが記載されていることから、液体の深さに最適値があることが開示されているといえる。

c したがって、薄い背面側液体層の厚さ及び薄い前面側液体層の厚さを太陽電池の出力電力を最適化するように設定して、上記相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

オ 小括
上記の検討によれば、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

3 本願発明について
(1)本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成21年2月19日に補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項18に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、上記2(2)ア(ア)に補正前のものとして示したとおりである(以下「本願発明」という。)。

(2)判断
ア 本願発明は、本願補正発明における、上記2(2)ア(イ)に記載の事項、及び、液体についての「屈折率1.43以上且つ凝固点-40℃以下且つ沸点200℃以上の有機誘電性液体からなる」との限定事項を欠くものである。

イ そして、本願発明と上記引用発明とを対比すると、上記相違点1及び上記相違点4において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

ウ しかるところ、相違点1及び相違点4については、上記2(3)エ(ア)及び(エ)で、それぞれ検討したとおりであるから、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-19 
結審通知日 2011-01-25 
審決日 2011-02-07 
出願番号 特願2003-507901(P2003-507901)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 江成 克己
橿本 英吾
発明の名称 太陽電池を浅い液体の層中で用いる太陽エネルギー変換器  
代理人 大島 陽一  

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