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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1238957
審判番号 不服2010-961  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-15 
確定日 2011-06-22 
事件の表示 平成11年特許願第 458号「プラスチック液晶表示素子」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月24日出願公開、特開平11-258584〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年1月5日(パリ条約による優先権主張 1998年1月14日、大韓民国、1998年6月13日、大韓民国)の特許出願であって、平成21年7月7日付けで手続補正がなされたが、同年9月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年1月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成22年1月15日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年1月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容・目的
平成22年1月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項3(請求項1を引用するもの)を、以下のとおりの請求項1に補正することを含むものである。

「 プラスチックフィルムにより形成されて相互に対向して一定の間隙を有する一対の上側と下側の基板と;前記基板の内側面に順次積層形成される電極、絶縁層および配向層と;前記基板の外側面に設けられる偏光板と;前記両基板により形成された空間に注入され、シーリング手段で密封された液晶とからなるプラスチック液晶表示素子であって、
前記上側基板をレターデーションフィルムで構成し、
前記上側基板と偏光板との間、または該偏光板の上側面に拡散フィルムを選択的に設置し、
前記上側基板は、レターデーションフィルムを複数枚を重ねて形成されたことを特徴とするプラスチック液晶表示素子。」

本件補正は、補正前の請求項3(請求項1を引用するもの)の「前記レターデーションフィルムが一枚または複数枚を重ねて形成された」との事項をを、「レターデーションフィルムを複数枚を重ねて形成された」と限定するものであると認められるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成14年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用刊行物記載の発明
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-80317号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 偏光フィルムA、位相差フィルムB、および透明導電膜Cが、順次、積層されてなる液晶表示パネル用電極基板。
【請求項2】 位相差フィルムBと透明導電膜Cの間に支持フィルムDを配設した請求項1記載の液晶表示パネル用電極基板。」

イ 「【0016】本発明に用いられる位相差フィルムBは、複屈折性を有する透明な高分子フィルムで、そのリターデーション値がSTN-LCDのそれとほぼ同じ値(Δn・dが、30?1,000nm好ましくは100?800nm)を有するように制御されたもの、例えばビニロン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ナイロン、酢酸ブチルセルロース、セロハン等の樹脂を一軸延伸配向させてできたフィルムであり、厚さは50?200μmである。位相差フィルムBは、必要に応じて、上記フィルムのリターデーション値の異なったものを2層以上積層した形態で使用することもできる。」

ウ 「【0026】本発明において、支持フィルムDを用いると、液晶表示パネル用電極基板の製造工程でのハンドリングが容易になるほか、液晶表示パネル用電極基板の製造工程の自由度が増し好ましい。例えば、偏光フィルムA、位相差フィルムBおよび支持フィルムDを積層した後、支持フィルムD上に透明導電膜Cを形成しても良いし、偏光フィルムA上に位相差フィルムBを積層したものと、支持フィルムD上に透明導電膜Cを積層したものを別々に作製した後、位相差フィルムB面と支持フィルムD面を貼り合わせても良い。・・・
【0027】かかる支持フィルムDとしては、リターデーション値30nm以下の非旋光性フィルム、例えばポリカーボネート系樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリルサルフォン等のポリサルフォン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂またはポリアリレート系樹脂などの厚さが10?500μmのものが挙げられる。
【0028】本発明において、支持フィルムDを用いない場合には位相差フィルムBの少なくとも透明導電膜Cの形成される側の面上に、また支持フィルムDを用いる場合には、該支持フィルムDの少なくとも透明導電膜Cの形成される側の面上に保護層Eを積層すると、液晶表示パネルの信頼性が向上し好ましい。」

エ 「【0036】
【実施例】以下本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。実施例中、部および%は、特に断らない限り重量基準である。
実施例1
厚さ80μm、リターデーション値7nmのポリカーボネートフィルム上に、水/アルコール(50/50重量比)を溶剤成分とするイオン高分子錯体(東洋曹達工業株式会社製、トヨバイン210K)からなる溶液(樹脂濃度5%、pH10.2)を0.2mmφのワイヤーラウンドドクターを使用して塗布し、90℃で約5分間乾燥させて、厚さ0.5μmのアンカーコート層を形成した。 このアンカーコート層上に、下記組成の樹脂溶液(第1液)をギャップ85μmに塗布したのち、70?110℃で10分間乾燥させて、厚さ約10μmの保護層1を形成した。
【0037】次に、保護層1の上に下記組成の樹脂溶液(第2液)をアプリケーターを使用してギャップ35μmで塗布し、80℃で4分間乾燥させた後、130℃で20分間加熱架橋させて厚さ約10μmの保護層2を形成することにより、複合基板を作製した。該複合基板の、アンカーコート層、保護層1および保護層2を積層しない面を以後無塗工面と称する。なお、該複合基板は2枚作製した。1枚を複合基板1、もう一枚を複合基板2と称する。
・・・
【0040】次に、ヨウ素を偏光素子として含有した一軸延伸ポリビニルアルコールフィルム上に前記複合基板1の無塗装工面側を向け、接着剤を介して貼り合わせて厚さ150μmの偏光フィルムを得た。また、位相差フィルムとして、ポリカーボネート樹脂を一軸延伸配向して、リターデーション値を800nmに制御したものを用意した。位相差フィルムの厚さは50μmである。前記偏光フィルムのポリビニルアルコール面側に、前記位相差フィルムを両フィルムの光軸の向きを調整しつつ接着剤を介して貼り合わせた。さらに、位相差フィルム上に、支持フィルムとして前記複合基板2を無塗工面側を位相差フィルム側に向け接着剤を介して貼り合わせた。
【0041】しかる後、スパッタリング装置内の基板保持台にセットして、真空槽を1×10^(-5)Torr以下に排気後、Ar-O_(2) 混合ガス(O_(2) 25%)を導入し圧力を4×10^(-3)Torrに調整した後、In-Sn合金ターゲット(Sn5%)を用い、反応性スパッタリング法により複合基板2面上に膜厚900ÅのITO膜を形成した。
【0042】以上のようにして得られた偏光フィルム、位相差フィルムおよび透明電極を一体型にした液晶表示パネル用電極基板の透明導電膜のパターニングを行ない電極部を作製した。これに対向する下部電極基板には、位相差フィルムがない以外は全く同様にして作製した液晶表示パネル用電極基板の透明導電膜を同様にパターニングを行ない電極部を作製したものを用いた。
【0043】この両電極基板の電極部上部にポリイミド系の配向膜を形成し、液晶の配向を制御するためにラビング処理を行なった。なお、ラビング処理は上下電極基板間で液晶が240゜ねじれるようにし、なおかつ偏光フィルムと位相差フィルムの光軸の向きを考慮して両電極基板のラビング方向を決めた。ラビング処理を終えた電極基板の一方の電極側にエポキシ系樹脂接着剤をスクリーン印刷し、もう一方の電極側に平均粒径5μmのポリマービーズをスペーサーとして散布し、両電極基板を重ねて加熱することにより、接着剤を硬化せしめて、セルを組み立てた。
【0044】次に、真空注入法により、あらかじめ設けておいた液晶注入口より、5μmで240゜のらせんピッチをもつようにカイラル剤を添加したネマティック型液晶を注入した後、液晶注入口を接着剤で封止して、STN型白黒表示液晶パネルを作製した。
【0045】得られたSTN型白黒表示液晶パネルの表示品質は良好であった。また、従来のガラス基板を用いた液晶表示パネルと比較して軽量かつ薄型であり耐衝撃性にも優れている。」

オ 「【0046】
【発明の効果】本発明は、偏光フィルム、位相差フィルムおよび透明電極を一体型にした液晶表示パネル用電極基板であり、STN型白黒表示液晶パネルをより一層軽量化することができるとともに、位相差フィルム、偏光フィルムを位置合わせして貼り合わせる工程を省略することができ、該液晶パネルの製造工程の簡略化、歩留り向上、コストダウンをはかることが可能となる。」

カ 上記エによれば、引用刊行物1には、上記ア(請求項1)の「液晶表示パネル用電極基板」を用いて作製された「STN型白黒表示液晶パネル」が記載されているものと認められ、
さらに、前記STN型白黒表示液晶パネルが、前記「液晶表示パネル用電極基板」及びこれに対向する下部電極基板の両電極部上部に配向膜を形成し、液晶の配向を制御するためにラビング処理を行った後、両電極基板を重ねてセルとして組み立てられ、あらかじめ設けておいた液晶注入口より、ネマティック型液晶を注入した後、液晶注入口を接着剤で封止して、作製されるものであること、が記載されているものと認められる。

キ 上記エによれば、上記ア(請求項1)の「液晶表示パネル用電極基板」は、実施例においては、
厚さ80μm、リターデーション値7nmのポリカーボネートフィルム上に、厚さ0.5μmのアンカーコート層、厚さ約10μmの保護層1、厚さ約10μmの保護層2を順次積層形成することにより作製した複合基板1,2を用意し、
ヨウ素を偏光素子として含有した一軸延伸ポリビニルアルコールフィルム上に前記複合基板1を貼り合わせて厚さ150μmの偏光フィルムを得、
位相差フィルムとして、ポリカーボネート樹脂を一軸延伸配向して、リターデーション値を800nmに制御したものを用意し、
前記偏光フィルムに、前記位相差フィルムを両フィルムの光軸の向きを調整しつつ貼り合わせ、さらに、位相差フィルム上に、支持フィルムとして前記複合基板2を貼り合わせ、
貼り合わされたフィルムの前記複合基板2面上に膜厚900ÅのITO膜を形成して、作製されたものであると認められる。
そして、「下部電極基板」は、「位相差フィルムがない以外は全く同様にして作製した液晶表示パネル用電極基板の透明導電膜を同様にパターニングを行ない電極部を作製したもの」であるから、偏光フィルムに支持フィルムとして複合基板2を貼り合わせ、該複合基板2上に電極部を作製したものであると認められる。

上記摘記事項を総合すると、引用刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「STN型白黒表示液晶パネルであって、
偏光フィルムA、位相差フィルムB、および透明導電膜Cが、順次、積層されてなる液晶表示パネル用電極基板と、該液晶表示パネル用電極基板に対向する下部電極基板とを有し、
前記STN型白黒表示液晶パネルは、前記両電極基板の電極部上部に配向膜を形成し、液晶の配向を制御するためにラビング処理を行い、両電極基板を重ねてセルを組み立て、次に、あらかじめ設けておいた液晶注入口より、ネマティック型液晶を注入した後、液晶注入口を接着剤で封止して作製されたものであり、
実施例において、前記位相差フィルムBは、ポリカーボネート樹脂を一軸延伸配向して、リターデーション値を800nmに制御したものであり、必要に応じて、上記フィルムのリターデーション値の異なったものを2層以上積層した形態で使用することもでき、
前記下部電極基板は、偏光フィルムと、ポリカーボネートフィルム上に、アンカーコート層、保護層1、保護層2を順次積層形成することにより作製した複合基板2とを貼り合わせ、該複合基板2上に電極部を作製したものである、
STN型白黒表示液晶パネル。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の「下部電極基板」は、「偏光フィルムと、ポリカーボネートフィルム上に、アンカーコート層、保護層1、保護層2を順次積層形成することにより作製した複合基板2とを貼り合わせ、該複合基板2上に電極部を作製したもの」であるから、引用発明1の「(下部電極基板の)複合基板2」は、本願補正発明の「(プラスチックフィルムにより形成された)下側の基板」に相当する。

イ 引用発明1の「液晶表示パネル用電極基板」は、「偏光フィルムA、位相差フィルムB、および透明導電膜Cが、順次、積層されてなる」ものであり、上記アの「下部電極基板」が該「液晶表示パネル用電極基板」に「対向する」ものであるから、
(ア)引用発明1の「位相差フィルムB」は、本願補正発明の「(プラスチックフィルムにより形成された)『上側』『の基板』」に相当し、
(イ)引用発明1は、本願補正発明の「プラスチックフィルムにより形成されて相互に対向して一定の間隙を有する一対の上側と下側の基板と」「からなる」との特定事項を備える。
そして、引用発明1の「位相差フィルムB」(本願補正発明の「上側基板」に相当。)は、「必要に応じて、上記フィルムのリターデーション値の異なったものを2層以上積層した形態で使用することもできる」ものであるから、引用発明1は、本願補正発明の「前記上側基板をレターデーションフィルムで構成し」との特定事項、及び「前記上側基板は、レターデーションフィルムを複数枚を重ねて形成された」との特定事項を備える。

ウ 上記イを踏まえると、引用発明1の「STN型白黒表示液晶パネル」は、その上側と下側の基板がプラスチックフィルムにより形成されたものであるといえるから、引用発明1の「STN型白黒表示液晶パネル」は、本願補正発明の「プラスチック液晶表示素子」に相当する。

エ 引用発明1において、「液晶表示パネル用電極基板」は、「偏光フィルムA、位相差フィルムB、および透明導電膜Cが、順次、積層されてなる」ものであり、「下部電極基板」は、「偏光フィルムと、ポリカーボネートフィルム上に、アンカーコート層、保護層1、保護層2を順次積層形成することにより作製した複合基板2とを貼り合わせ、該複合基板2上に電極部を作製したもの」であり、STN型白黒表示液晶パネルの作製にあたって、「前記両電極基板の電極部上部に配向膜を形成」したものであるから、
(ア)引用発明1の各電極基板における「偏光フィルム」は、本願補正発明の「前記基板の外側面に設けられる偏光板」に相当し、
(イ)引用発明1は、「前記基板の内側面に順次積層形成される電極および配向層と」からなるものである点で、本願補正発明の「前記基板の内側面に順次積層形成される電極、絶縁層および配向層と」「からなる」との特定事項と一致する。

オ 引用発明1において、「STN型白黒表示液晶パネルは」、「両電極基板を重ねてセルを組み立て、次に、あらかじめ設けておいた液晶注入口より、ネマティック型液晶を注入した後、液晶注入口を接着剤で封止して作製され」たものであるから、
(ア)引用発明1の「ネマティック型液晶」は、本願補正発明の「液晶」に相当し、
(イ)引用発明1は、本願補正発明の「前記両基板により形成された空間に注入され、シーリング手段で密封された液晶とからなる」との特定事項を備える。

以上によれば、本願補正発明と引用発明1とは、
「 プラスチックフィルムにより形成されて相互に対向して一定の間隙を有する一対の上側と下側の基板と;前記基板の内側面に順次積層形成される電極および配向層と;前記基板の外側面に設けられる偏光板と;前記両基板により形成された空間に注入され、シーリング手段で密封された液晶とからなるプラスチック液晶表示素子であって、
前記上側基板をレターデーションフィルムで構成し、
前記上側基板は、レターデーションフィルムを複数枚を重ねて形成されたプラスチック液晶表示素子。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

a.本願補正発明は、「前記基板の内側面に順次積層形成される電極、絶縁層および配向層」との特定事項を備え、電極と配向層との間に「絶縁層」が積層形成されるものであるのに対して、引用発明1は、そのような事項を有していない点(以下「相違点1」という。)。

b.本願補正発明は、「前記上側基板と偏光板との間、または該偏光板の上側面に拡散フィルムを選択的に設置し」との特定事項を備えるのに対して、引用発明1は、そのような事項を有していない点(以下「相違点2」という。)。

(3)判断
上記各相違点について検討する。

ア 相違点1について
液晶表示素子において、基板の内側面に積層形成される電極と配向層との間に絶縁層を設け、基板の内側面に電極、絶縁層および配向層が順次積層形成された構成を有するものは、本願の優先日当時において周知の技術である(必要であれば、特開平1-292315号公報(「バッファ膜(63)」に関する記載参照。)、特開平2-216122号公報(「第1の絶縁膜」及び「第2の絶縁膜」に関する記載参照。)を参照。)。
したがって、引用発明1において、上記周知技術を採用し、相違点1に係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
液晶表示素子において、必要に応じて適宜の箇所に拡散フィルムを設置することは当業者にとっての常とう手段であり、上側基板と偏光板との間、及び該偏光板の上側面に、拡散フィルムを設置した例も、本願の優先日当時において、それぞれ周知のものである(必要であれば、前者について、特開平9-113893号公報(図1等における「光制御フィルム」を参照。)及び特開平9-230345号公報(図6等における「拡散板」を参照。)、後者について、特開平6-347617号公報(図4等における「光拡散板」を参照。)及び特開平8-297202号公報(図8等における「光拡散板」を参照。)、をそれぞれ参照。)。
したがって、引用発明1において、上記周知技術を採用し、相違点2に係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 効果について
本願補正発明において、引用発明1及び周知技術から当業者が予測し得る域を超えるほどの格別顕著な効果が奏されるものとは認められない。

エ 小括
以上の検討によれば、本願補正発明は、引用刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成21年7月7日付け手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「 プラスチックフィルムにより形成されて相互に対向して一定の間隙を有する一対の上側と下側の基板と;前記基板の内側面に順次積層形成される電極、絶縁層および配向層と;前記基板の外側面に設けられる偏光板と;前記両基板により形成された空間に注入され、シーリング手段で密封された液晶とからなるプラスチック液晶表示素子であって、
前記上側基板をレターデーションフィルムで構成し、
前記上側基板と偏光板との間、または該偏光板の上側面に拡散フィルムを選択的に設置したことを特徴とするプラスチック液晶表示素子。」

2 刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平4-156426号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。

(1)「2.特許請求の範囲
単層のベースフィルムの少なくとも一方の表面に電極および配向層を形成した、2枚のプラスチックフィルム基板と、 この配向層が対向するように配置し、且つこの2枚のプラスチックフィルム基板との間隙に挟持してなる液晶組成物とを備えた液晶表示素子において、 前記ベースフィルムが一般式(1)


・・・・・・・・・(1)
(但し、式中、RはH、アルキル基、アルコキシ基、Xは単結合、-COO-、-C≡C-、-CH_(2)O-、-CH=N-、-N=N-、-CH_(2)S-、-CO-、-CS-、-SO-、-SO_(2)-、-S_(2)O_(5)-、-CrO_(2)-、アルキル鎖、アルコキシ鎖である)
で表される化合物からなり、かつ、少なくとも一方のベースフィルムが延伸処理されて光学的位相差を有し、そのリタデーション値が100nm以上800nm以下であることを特徴とする液晶表示素子。」(第1頁左下欄第4行?右下欄第10行)

(2)「(作用)
一般式(1)で表される芳香族ポリエステルフィルムは透明性、耐熱性が良い」上に、例えば溶液キャスティング法で作成すれば光学的等方性に優れ、延伸処理することで所望の光学的位相差を持たすこともできる。よって、芳香族ポリエステルフィルムをベースフィルムとすることで、軽量薄型で高表示品位の液晶表示素子が得られる。」(第3頁左上欄第7?14行)

(3)「(実施例)
以下、本発明の一実施例を図を用いて詳細に説明する。
-実施例1-
第1図は本発明の液晶表示素子の概略断面図を示す。液晶表示素子1は透明プラスチックフィルムでできた2枚の基板2、3が対向配置され、各基板2、3の表面には、夫々透明電極4、5が形成され、さらにその上には配向膜6、7が形成されている。そしてこれらの基板2、3を配向膜6、7が相対向するようにシール剤8で貼り合せた間に液晶組成物10が挟持されて液晶表示素子1が形成されている。なお、符号9は間隙材である。
この液晶表示素子1は次のようにして作成された。
透明プラスチックフィルム基板として、上記一般式(1)中のRがCH_(3)、XがCH_(2)である芳香族ポリエステルフィルムを溶液キャスティング法で作成した後延伸処理して、リタデーション値R=400nmのプラスチックフィルム基板2、3を作成した。次に基板2、3の表面にスパッタ法にてITO膜を形成し、これを通常の方法でエッチングして幅0.65mm、ピッチ0.70mmで200本の帯状の透明電極4、5を、第2図(a)、(b)に示すように基板2、3の光学軸(延伸方向)に対して、A1=160度、A2=65度となるよう形成した。次に電極4、5を形成した基板2、3の表面に、ポリイミド薄膜を形成した後基板2、3の光学軸に対して、B1=100度、B2=95度の方向にラビング処理を行い、配向膜6、7を形成した。この後基板2の配向膜6の表面に間隙材9として粒径6μmのプラスチックビーズを均一に散布した。また、基板3の配向膜7の周辺に沿ってシール剤8としてエポキシ系接着剤を注入口(図示せず)を除いて印刷した。次に配向膜6、7が対向し、ラビング方向が240度となるよう(第3図を参照)基板2、3を配置し、加熱して接着剤を硬化させ基板2、3を貼り合せた。次に注入口より液晶組成物10としてZLI-2293(E.メルク社製商品名)にS-811(E.メルク社製商品名)を0.7wi%添加したものを注入し、さらにこの後注入口を紫外線硬化性樹脂で封止して、液晶表示素子を作成した。
この様に作成した液晶表示素子1を第3図(a)、(b)、(c)、(d)に示すように、バックライト上で第1の偏光板21と第2の偏光板22との間に配置し、夫々の偏光板の吸収軸が隣接する基板のラビング軸に対して、P1=38度、P2=50度として点灯したところ、白黒で高品位な表示性能であった。なお、第3図(a)は全体構造、第3図(b)は第1の偏向板(審決注。「偏光板」の誤記と認める。)21、第3図(c)は液晶表示素子1、第3図(d)は第2の偏向板(審決注。「偏光板」の誤記と認める。)22を示す。」(第3頁左上欄第15行?右下欄第6行)

(4)上記(3)の実施例の記載によれば、上記(1)(特許請求の範囲)の液晶表示素子は、透明プラスチックフィルムでできた2枚の基板2、3が対向配置されたものであり、各基板2、3の表面には、夫々透明電極4、5が形成され、さらにその上には配向膜6、7が形成されている。そしてこれらの基板2、3を配向膜6、7が相対向するようにシール剤8で貼り合せた間に液晶組成物10が挟持されて液晶表示素子1が形成されるものと認められる。
そして、実際の表示を行うために、上記液晶表示素子を、さらに、バックライト上で第1の偏光板と第2の偏光板との間に配置したものとすることが認められる。

上記摘記事項を総合すると、引用刊行物2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「 単層のベースフィルムの少なくとも一方の表面に電極および配向層を形成した、2枚のプラスチックフィルム基板と、
この配向層が対向するように配置し、且つこの2枚のプラスチックフィルム基板との間隙に挟持してなる液晶組成物とを備えた液晶表示素子において、
前記ベースフィルムが一般式(1)



・・・・・・・・・(1)
(但し、式中、RはH、アルキル基、アルコキシ基、Xは単結合、-COO-、-C≡C-、-CH_(2)O-、-CH=N-、-N=N-、-CH_(2)S-、-CO-、-CS-、-SO-、-SO_(2)-、-S_(2)O_(5)-、-CrO_(2)-、アルキル鎖、アルコキシ鎖である)
で表される化合物からなり、かつ、少なくとも一方のベースフィルムが延伸処理されて光学的位相差を有し、そのリタデーション値が100nm以上800nm以下である液晶表示素子であって、
上記液晶表示素子は、透明プラスチックフィルムでできた2枚の基板2、3が対向配置され、各基板2、3の表面には、夫々透明電極4、5が形成され、さらにその上には配向膜6、7が形成されており、これらの基板2、3を配向膜6、7が相対向するようにシール剤8で貼り合せた間に液晶組成物10が挟持されて、作成されたものであり、
実際の表示を行うために、上記液晶表示素子をさらに、バックライト上で第1の偏光板と第2の偏光板との間に配置したものとされる、
液晶表示素子。」

3 対比
本願発明と引用発明2とを対比する。

(1)引用発明2は、「単層のベースフィルムの少なくとも一方の表面に電極および配向層を形成した、2枚のプラスチックフィルム基板と」を備えたものであって、「この配向層が対向するように配置し、且つこの2枚のプラスチックフィルム基板との間隙に挟持してなる液晶組成物」を備えたものであるから、
ア 引用発明2の「2枚のプラスチックフィルム基板」は、本願発明の「プラスチックフィルムにより形成されて相互に対向して一定の間隙を有する一対の上側と下側の基板」に相当し、
イ 引用発明2は、「前記基板の内側面に順次積層形成される電極および配向層と」からなる点で、本願発明の「前記基板の内側面に順次積層形成される電極、絶縁層および配向層と」「からなる」との特定事項と一致する。

(2)引用発明2の「液晶表示素子」は、「実際の表示を行うために、上記液晶表示素子をさらに、バックライト上で第1の偏光板と第2の偏光板との間に配置したものとする」から、該「第1の偏光板と第2の偏光板」は、上記「2枚のプラスチックフィルム基板」(本願発明の「上側と下側の基板」に相当。)の外側面に設けられるものといえるから、引用発明は、本願発明の「前記基板の外側面に設けられる偏光板と」「からなる」との特定事項を備える。

(3)引用発明2の「液晶表示素子」は、「(2枚のプラスチックフィルム基板の表面に形成した)配向層が対向するように配置し、且つこの2枚のプラスチックフィルム基板との間隙に挟持してなる液晶組成物」を備え、「基板2、3を配向膜6、7が相対向するようにシール剤8で貼り合せた間に液晶組成物10が挟持されて、作成されたもの」であるから、引用発明2は、本願発明の「前記両基板により形成された空間に注入され、シーリング手段で密封された液晶とからなる」との特定事項を備える。

(4)引用発明2の「液晶表示素子」は、「2枚のプラスチックフィルム基板」を備えたものであるから、本願発明の「プラスチック液晶表示素子」に相当する。

(5)引用発明2は、「少なくとも一方のベースフィルムが延伸処理されて光学的位相差を有し、そのリタデーション値が100nm以上800nm以下である」から、引用発明2の「延伸処理されて光学的位相差を有し、そのリタデーション値が100nm以上800nm以下である」「一方のベースフィルム」は、本願発明の「上側基板」に相当し、引用発明2は、本願発明の「前記上側基板をレターデーションフィルムで構成し」との特定事項を備える。

以上によれば、本願補正発明と引用発明2とは、
「 プラスチックフィルムにより形成されて相互に対向して一定の間隙を有する一対の上側と下側の基板と;前記基板の内側面に順次積層形成される電極および配向層と;前記基板の外側面に設けられる偏光板と;前記両基板により形成された空間に注入され、シーリング手段で密封された液晶とからなるプラスチック液晶表示素子であって、
前記上側基板をレターデーションフィルムで構成したプラスチック液晶表示素子。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

a.本願発明は、「前記基板の内側面に順次積層形成される電極、絶縁層および配向層」との特定事項を備え、電極と配向層との間に「絶縁層」が積層形成されるものであるのに対して、引用発明2は、そのような事項を有していない点(以下「相違点3」という。)。

b.本願発明は、「前記上側基板と偏光板との間、または該偏光板の上側面に拡散フィルムを選択的に設置した」との特定事項を備えるのに対して、引用発明2は、そのような事項を有していない点(以下「相違点4」という。)。

4 判断
上記各相違点について検討する。

上記第2の2(3)アに示したとおり、液晶表示素子において、基板の内側面に積層形成される電極と配向層との間に絶縁層を設け、基板の内側面に電極、絶縁層および配向層が順次積層形成された構成を有するものは、本願の優先日当時において周知の技術であるから、引用発明2において、上記周知技術を採用し、相違点3に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

また、上記第2の2(3)イに示したとおり、液晶表示素子において、適宜の箇所に拡散フィルムを設置することは当業者にとっての常とう手段であり、上側基板と偏光板との間、及び該偏光板の上側面に、拡散フィルムを設置した例も、本願の優先日当時において、それぞれ周知のものであるから、引用発明2において、上記周知技術を採用し、相違点4に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明において、引用発明2及び周知技術から当業者が予測し得る域を超えるほどの格別顕著な効果が奏されるものとは認められない。

したがって、本願発明は、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-21 
結審通知日 2011-01-25 
審決日 2011-02-07 
出願番号 特願平11-458
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
P 1 8・ 575- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 裕之  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 杉山 輝和
江成 克己
発明の名称 プラスチック液晶表示素子  
代理人 佐伯 義文  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  

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