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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1239015
審判番号 不服2009-4529  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-02 
確定日 2011-06-21 
事件の表示 特願2002-557784「ドロップオンデマンドプリンタのための電極」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月25日国際公開、WO02/57085、平成16年 6月17日国内公表、特表2004-517756〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、2001年12月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年1月18日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成15年7月10日付けで明細書の翻訳文が提出され、平成20年10月15日付けで手続補正がなされ、同年11月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年3月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同年4月1日付けで手続補正がなされ、当審において、平成22年8月25日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月30日付けで手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、当審拒絶理由に対して、平成22年11月30日付けで意見書を提出している。

(2)本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成22年11月30日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のものである。

「複数のインク飛沫を射出するための、1列に配置された複数のインク射出領域であって、各インク射出領域が、前記飛沫をそれぞれの射出領域から静電射出するための関連射出電極を有するところのインク射出領域と、
それぞれが、使用時に各射出電極に電圧を供給するためのそれぞれの射出電極に対応し、そして、それぞれが、対応する前記射出電極のすぐ隣に配置され、且つ前記射出電極に接続された抵抗素子を備えた複数の導電トラックと
を備えたドロップオンデマンドプリンタ。」

2 刊行物の記載事項
当審拒絶理由に引用した「本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2000-503915号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている。
(1)「1.液体から物質を放出する装置において、
電極を有する放出位置と、
放出位置の電極に電位を与えて放出位置に電界を生じさせる手段と、
粒子状物質を含む液体を放出位置に供給する手段と、及び
放出位置近傍に配置された2次電極と、を備える装置。
・・・(中略)・・・
7.アレイ状に配置され、各々が一つの放出電極及び対応する複数の2次電極を有する複数の放出位置をさらに備える請求項1乃至6のいずれかに記載の装置。」(第2頁第2行?同頁第20行)

(2)「本発明は、液体から物質を放出する方法及び装置に関する。特に、使用されるその方法及び装置は、大体においてWO‐A‐93‐11866、PCT/GB95/01215 及び WO‐A‐94‐18011 に記載されたタイプのものである。これらの特許明細書に記載された方法では、放出位置において粒子の集塊又は濃縮が達成され、次に、例えば印刷の目的のために、粒子が放出位置から基板上へ放出される。アレイプリンタの場合、複数のセルが1又はそれ以上の列に配列される。
静電界を利用して粒子を生成及び放出する方法が従来技術において知られているが、この種の放出には、例えば、(a)放出される小滴又は粒子の移動方向の制御、それが放出電極近傍での静電界の近接制御に依存すること、(b)スイッチングの困難性及び電気的接地が遠隔位置であること、(c)放出電極と基板との間隔に対する放出の依存性、並びに、(d)静電界の印加中における、空気により運ばれる粒子の放出器への吸引、などの問題が存在する。
本発明によれば、液体から物質を放出する装置において、電極を有する放出位置と、放出位置の電極に電位を与えて放出位置に電界を生じさせる手段と、粒子状物質を含む液体を放出位置に供給する手段と、及び、放出位置近傍に配置された2次電極と、を備え、放出位置の電極の電圧に対する2次電極の電圧を制御可能として、外部電界による影響に対するヘッドの感度を減少させる。
2次電極の電圧を制御可能として、放出位置と、その上に粒子が放出される基板との間の距離変動に対してヘッドの感度を減少させることもできる。
また、本発明はそのような装置を操作して粒子の集塊を基板上に放出させる方法を含む。
使用時には、放出電極の電圧に対する2次電極の電圧が適当な電気的制御回路により制御される。
また、2次電極の使用は、列状の複数のセルを有するアレイシステムにおいて特に有益である。そのような装置では、放出位置の電極と2次電極のために必要な接続数を各々減少させることができる。例えば、電極位置の隣接する電極をペアに接続し、2次電極も同様とすることにより、電極の各セットについて必要となる接続数を半分にすることができる。次に、接続されたペアの各放出位置の電極は別の接続されたペアの2次電極に対向して配置される、即ち、対向する2次電極は電気的に接続されないので、2次電極の接続されたペアを放出位置の電極の接続されたペアに対してオフセットを有するように配置することにより、放出の制御、及びそれによる印刷の制御を、放出位置における電極及び“マトリクス・アドレッシングモード”における2次電極への電圧の選択的印加によって達成することができる。こうして、1つのペアの放出位置の電極へ放出電圧を印加することができ、対向する2次電極への異なる電圧の印加により、個々のセル各々から放出を個別に制御することができる。望まれれば、更なる複合化が実現される。」(第4頁第3行?第5頁第11行)

(3)「図4は、マトリクスアドレッシングモードの動作について2次電極をどのように使用するかを図式的に示し;」(第5頁第21?22行)

(4)「図1及び2はプリントヘッドを図式的に示し、そのプリントヘッドは、絶縁壁2により分離され、各々が放出電極3を有する複数のセル1を備える。WO‐A‐93‐11866 に記載されるように、各セル内において液体により運ばれる粒子の集塊は、図1の矢印により示されるように個々の電極3への電圧印加により、セルから放出させることができる。図2は、基板4を示し、例えば印刷のための粒子の集塊がセル1からその基板4上へ放出される。セルと基板4との間の距離の変化に対するヘッドの感度を減少させるために、放出セルの前方に2次電極5が設けられ、その2次電極5は、個々のセル1(審決注:「セル3」は「セル1」の明らかな誤記なので訂正して摘記した。)に対向して配置された複数の開口6を有する。図示のように、電極5は支持体7(審決注:図2に記載されている「1」は「7」の明らかな誤記である。)の第1側面上に配置され、さらに2次電極8がその逆側面上に配置される。セル1から放出された荷電粒子の集塊は、電極5及び8を通過し、接地された基板4上へ至る。
例えば、一つの方法では、電極に印加される電圧は、放出の目的のために放出電極上で1kVとし、2次電極5上では500V、更なる2次電極8上では0Vとすることができる。電極支持体7は150ミクロンの厚さのガラススリップとすることができ、それは電極5、8を設けるために両面がクロムめっきされ、45度の面取りがされた面を有し、50ミクロンの幅である開口6を有する。2次電極8は、放出セルの最外端部から200ミクロンの距離だけ離隔させることができる。一般的に、2次電極構造が放出セルに近いほど、それらの間の領域内の静電界は大きくなるが、これはまたメニスカス全体に渡る静電圧力の増加を生じさせることが分かっている。望ましい圧力分布は、2次電極5上の電位を増加させることにより復元することができる。
その代わりに、以下に述べるように、電極上の電圧を我々の英国特許出願 9601232.3 に記載されたようにすることができる。
代替的実施形態においては、例えば図1及び2に示すのと同様の方法で形成された複数の2次電極を設けることができるが、2次電極各々を個々の開口6の周りに別個に設ける。もちろん、所定の応用において適当であるならば、全く異なる構成を形成することができる。」(第5頁第27行?第6頁第25行)

(5)「図3は、1次電極3と2次電極5とがどのように相互にオフセットを有し、また先に述べたように、ペアA、B、C、D、E、Fなどにどのように接続されるかを示す。こうして電極の各セットに要求される接続数が半分になる。接続されたペアの各放出位置の電極3は別の接続されたペアの2次電極に対向して配置される、即ち、対向する2次電極は電気的に接続されないので、2次電極5の接続されたペアを放出位置の電極3の接続されたペアに対してオフセットを有するように配置することにより、放出の制御、及びそれによる印刷の制御を、放出位置における電極及び“アドレッシングモード”における2次電極への電圧の選択的印加によって達成することができる。こうして、1つのペアの放出位置の電極3へ放出電圧を印加することができ、対向する2次電極への異なる電圧の印加により、個々のセル各々から放出を個別に制御することができる。
図4に示す配置もまた異なる。この配置は、装置を駆動するためにマトリクス・アドレッシング・スキーム(matrixaddressing scheme)の使用を可能とする。このアドレッシングスキームは、例えばフラットパネルディスプレイ技術において使用されるものと同様であり、2N本のアドレス線でN^(2 )個の放出電極をアドレッシングするために使用することができる。図示の実施形態では、16(4^(2))個のエレメントアレイを8(2×4)本のアドレス線で駆動する。複合的な利点は電極数の増加と共に特に顕著となり、それにより例えば、16(2×8)本のアドレス線(1次8本、2次8本)により256(2^(8))個の電極を有するヘッドをアドレッシングすることが可能であろう。もちろん、望まれれば1次及び2次電極の詳細な接続配置を逆転させることができる。」(第6頁第26行?同頁第18行)

(6)マトリクスアドレッシングモードの動作について2次電極をどのように使用するかを図式的に示す図4の記載から、次のことが見て取れる。
ア 放出電極側には、合計16個の放出電極が1列に配列され、連続して配列された4個の放出電極からなる放出電極群が4群有ること。

イ 2次電極側には、合計16個の2次電極が1列に配列され、連続して配列された4個の2次電極からなる2次電極群が4群有ること。

ウ 放出電極側における上記アで述べた4群を図示の上方から下方に順にそれぞれ第1群ないし第4群とすると、第1群内の4個の放出電極は、同じ第1のアドレス線に共通に接続されており、同様に、第2群の4個の放出電極は第2のアドレス線に、第3群の4個の放出電極は第3のアドレス線に、第4群の4個の放出電極は第4のアドレス線に、それぞれ共通に接続されており、前記第1ないし第4のアドレス線のそれぞれは、先端が4つに分岐しており、各分岐したアドレス線の部分をアドレス線の分岐線とすると、第1ないし第4のアドレス線の合計16個の分岐線は、それぞれ16個の放出電極に対応しかつ接続していること。

エ 2次電極側における上記イで述べた4群を図示の上方から下方に順にそれぞれ第1群ないし第4群とし、第1群ないし第4群における同一群内の4個の2次電極を図示の上方から下方に順に1番目ないし4番目の2次電極とすると、第1群ないし第4群の各群の1番目の2次電極の4個は、同じ第5のアドレス線に共通に接続されており、同様に、各群の2番目の2次電極の4個は第6のアドレス線に、各群の3番目の2次電極の4個は第7のアドレス線に、各群の4番目の2次電極の4個は第8のアドレス線に、それぞれ共通に接続されており、前記第5ないし第8のアドレス線のそれぞれは、先端が4つに分岐しており、各分岐したアドレス線の部分をアドレス線の分岐線とすると、第5ないし第8のアドレス線の合計16個の分岐線は、それぞれ16個の2次電極に対応しかつ接続していること。

オ 16個の放出電極と16個の2次電極とは、それぞれ1対1に対応していること。

(7)上記(1)ないし(6)からみて、引用例には、
「アレイ状に配置され、各々が一つの放出電極を有する複数の放出位置と、前記放出電極に電位を与えて前記放出位置に電界を生じさせる手段と、粒子状物質を含む液体を前記放出位置に供給する手段と、前記放出位置近傍に配置された2次電極とを備え、液体により運ばれる荷電粒子の集塊を前記放出位置から静電界を利用して放出する装置において、
前記2次電極は、個々の放出位置に対向して配置された複数の開口が設けられ、両面がクロムめっきされた150ミクロンの厚さのガラススリップからなる電極支持体の第1側面上に配置された複数の第1の2次電極と、前記電極支持体の逆側面上に配置され、前記放出位置の最外端部から200ミクロンの距離だけ離隔させた複数の第2の2次電極とを有し、前記開口は45度の面取りがされた面を有し、50ミクロンの幅であり、前記第1の2次電極及び前記第2の2次電極の各々は個々の前記開口の周りに別個に設けられており、
前記放出位置から放出された印刷のための荷電粒子の集塊を、前記第1の2次電極及び前記第2の2次電極を通過させ、接地された基板上へ至るようにされており、放出の目的のために各電極に印加される電圧は、例えば、それぞれ前記放出電極上で1kVとし、前記第1の2次電極上で500Vとし、前記第2の2次電極上で0Vとすることができ、
使用時には、前記放出電極の電圧に対する前記第1の2次電極の電圧が電気的制御回路により制御され、放出電極と第1の2次電極のために必要な接続数を各々減少させるために、フラットパネルディスプレイ技術において装置を駆動するために使用される、2N本のアドレス線でN^(2) 個の電極をアドレッシング可能なマトリクス・アドレッシング・スキームを用い、それぞれ先端が4本に分岐した第1ないし第4のアドレス線の合計16個の分岐線を、それぞれ16個の放出電極に対応させかつ接続し、それぞれ先端が4本に分岐した第5ないし第8のアドレス線の合計16個の分岐線を、それぞれ16個の第1の2次電極に対応させかつ接続し、前記16個の放出電極と前記16個の第1の2次電極とを、それぞれ1対1に対応させた
前記装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「液体により運ばれる荷電粒子の集塊」、「放出」、「アレイ状に」、「放出位置」、「放出電極」、「第1ないし第4のアドレス線の合計16個の分岐線」及び「液体により運ばれる荷電粒子の集塊を放出位置から静電界を利用して放出する装置」は、それぞれ、本願発明の「インク飛沫」、「射出」、「1列に」、「インク射出領域」、「射出電極」、「導電トラック」及び「ドロップオンデマンドプリンタ」に相当する。

(2)引用発明の「ドロップオンデマンドプリンタ(液体により運ばれる荷電粒子の集塊を放出位置から静電界を利用して放出する装置)」は、「1列に(アレイ状に)」配置され、各々が一つの「射出電極(放出電極)」を有する「インク射出領域(放出位置)」と、前記「射出電極」に電位を与えて前記「インク射出領域」に電界を生じさせる手段と、粒子状物質を含む液体を前記「インク射出領域」に供給する手段と、前記「インク射出領域」近傍に配置された2次電極とを備え、「インク飛沫(液体により運ばれる荷電粒子の集塊)」を前記「インク射出領域」から静電界を利用して「射出(放出)」するものであるから、引用発明の「射出電極」と本願発明の「射出電極」とは、「前記飛沫をそれぞれの射出領域から静電射出するための関連射出電極」である点で一致し、引用発明の「インク射出領域」と本願発明の「インク射出領域」とは、「複数のインク飛沫を射出するための」ものである点、「1列に配置された複数の」ものである点及び「前記飛沫をそれぞれの射出領域から静電射出するための関連射出電極を有する」点で一致する。

(3)引用発明の「ドロップオンデマンドプリンタ(液体により運ばれる荷電粒子の集塊を放出位置から静電界を利用して放出する装置)」では、「導電トラック(第1ないし第4のアドレス線の合計16個の分岐線)」を、それぞれ16個の「射出電極(放出電極)」に対応させかつ接続しているから、引用発明の「導電トラック」と本願発明の「導電トラック」とは、「それぞれが、使用時に各射出電極に電圧を供給するためのそれぞれの射出電極に対応し」たものである点で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)からみて、本願発明と引用発明とは、
「複数のインク飛沫を射出するための、1列に配置された複数のインク射出領域であって、各インク射出領域が、前記飛沫をそれぞれの射出領域から静電射出するための関連射出電極を有するところのインク射出領域と、
それぞれが、使用時に各射出電極に電圧を供給するためのそれぞれの射出電極に対応した複数の導電トラックと
を備えたドロップオンデマンドプリンタ。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点:
前記「導電トラック」のそれぞれが、本願発明では「対応する前記射出電極のすぐ隣に配置され、且つ前記射出電極に接続された抵抗素子を備え」ているのに対し、引用発明ではそのような抵抗素子を備えていない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)微小な間隔を設けて配置されたエミッタ電極とゲート電極との間に電圧を印加して前記エミッタ電極から電子を放出する電界放出素子を複数備え、基板上に前記ゲート電極及び前記エミッタ電極に電圧を印加するカソード電極がマトリクス配線されたディスプレイ等の装置において、前記エミッタ電極と前記ゲート電極が何らかの原因で放電又は短絡すると、前記ゲート電極及び前記カソード電極に過電流が流れ、両電極が破損してしまうので、このような過電流による電極の破損を防止するために、前記エミッタ電極及び前記カソード電極の間に抵抗層を介在させることは本願の優先日前に周知である(以下「周知技術」という。例.当審拒絶理由で引用した特開平10-308162号公報(【請求項1】、【0002】?【0006】、【0009】?【0012】、【0025】?【0032】、図1及び図9参照。「『サブミクロン』の『距離』」、「数10ボルトの電圧」及び「『ゲート電極2がストライプ状に設けられ、』『ゲート電極4が、カソード電極2と直交する方向にストライプ状に形成され』」が、それぞれ「微小な間隔」、「電圧」及び「ゲート配線及びカソード電極がマトリクス配線され」に相当する。)、当審拒絶理由で引用した特開平11-354011号公報(【請求項1】、【0001】、【0012】?【0018】、【0023】及び図1参照。「エミッタ4a」、「引出電極部6」、「『サブミクロン程度』の『距離』」、「わずかな電圧」及び「電界放出カソード」は、それぞれ「エミッタ電極」、「ゲート電極」、「微小な間隔」、「電圧」及び「電界放出素子」に相当する。))。

(2)引用発明の「ドロップオンデマンドプリンタ(液体により運ばれる荷電粒子の集塊を放出位置から静電界を利用して放出する装置)」は、前記放出位置から放出された印刷のための荷電粒子の集塊を、前記第1の2次電極及び前記第2の2次電極を通過させ、接地された基板上へ至るようにさせるために、例えば、放出電極に1kVの電圧を印加し、該放出電極から200ミクロンあるいはそれ以下の距離にある第2の2次電極あるいは第1の2次電極に、0Vあるいは500Vの電圧を印加するものであるから、前記放出電極と前記第1又は第2の2次電極との間に放電又は短絡が発生して過電流によりこれらの電極に破損が起こる可能性があることは当業者に自明である。
また、引用発明の「ドロップオンデマンドプリンタ」にはディスプレイに使用される技術が用いられているから、ディスプレイに使用される技術を引用発明に採用することに障害はないといえる。
そうすると、引用発明において、過電流により電極が破損することを防止するために、第1ないし第4のアドレス線の合計16個の分岐線をそれぞれ放出位置にまで配置するようになし、これに抵抗層を介して放出電極を接続するようになすことは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得た程度のことである。
そして、この「抵抗層」は本願発明の「抵抗素子」に相当する。

(3)引用発明において、上記(2)のようになした場合、前記「導電トラック(第1ないし第4のアドレス線の合計16個の分岐線)」のそれぞれは、「抵抗素子(抵抗層)」を備えることになり、該「抵抗素子」は、該「抵抗素子」を備えた「導電トラック」のそれぞれが対応する「射出電極(放出電極)」のすぐ隣に配置され、且つ該「射出電極」に接続されることになるから、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得たことである。

(4)効果について
ア 複数の配線でマトリックスを構成し、画像信号や駆動信号等の信号を印加してマトリックス駆動するものにおいて、配線の端子部分に比較的大きな抵抗値の抵抗を介在させると、その配線のスイッチング応答性が劣化すること、及び、そのような配線のスイッチング応答性をよくするためには、周知技術(上記(1)参照。)のようにすればよいことは、それぞれ、当審拒絶理由に引用された上記特開平10-308162号公報の【0005】、【0019】、【0028】、【0037】及び図7の記載、及び、同公報の【0028】及び図1の記載からみて、本願の優先日前に当業者に知られていたことである。

イ また、マトリックス配線の隣接する配線容量の影響により配線に印加されるパルス信号の立ち上がりが鈍ってしまうこと、ここで、配線間の容量は配線の長さが長いほど増大すること、配線端部に抵抗を介在させたマトリックス配線に印加される電圧波形がその抵抗と配線の有する容量分で決まる時定数で立ち上がることなどは、本願の優先日前に当業者に知られていたことである(特開平11-352923号公報の【0024】、【0027】、【0050】、図8及び図30の記載参照。)。

ウ 請求人が上記意見書において、本件発明者が、印加するパルスの立ち上がり時間を許容不可能に長くしている原因であることを突き止めた旨主張する「過電流の発生を防止するために配置されている電気抵抗の出力側(電極に接続される側)に接続されている金属トラック(導線)が持っている浮遊容量が、パルスの立ち上がり時間を長くしていること、即ち、所定の間隔を隔てて配置されている2つの金属トラックの間には容量成分(浮遊容量)が形成され、これがコンデンサーのように作用し、この電気抵抗と浮遊容量によって形成される時定数が、パルスの立ち上がり時間を長く(パルスの立ち上がりを鈍く)し、印字速度を遅くする」ことは、上記ア及びイからみて、本願の優先日前に当業者に知られていた事項から当業者が予測できた程度のことである。

エ 本願発明の奏する効果は、上記アないしウからして、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から当業者が予測できた程度のものである。

(5)したがって、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-17 
結審通知日 2011-01-24 
審決日 2011-02-04 
出願番号 特願2002-557784(P2002-557784)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 鈴木 秀幹
笹野 秀生
発明の名称 ドロップオンデマンドプリンタのための電極  
代理人 弟子丸 健  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 松下 満  
代理人 井野 砂里  
代理人 渡邊 誠  
代理人 倉澤 伊知郎  

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