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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1239104
審判番号 不服2009-18888  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-05 
確定日 2011-06-23 
事件の表示 特願2004-335129「電源瞬断防止方式」拒絶査定不服審判事件〔平成18年6月8日出願公開、特開2006-149078〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成16年11月18日の出願であって,平成21年7月3日付けで拒絶査定がなされ,これに対し同年10月5日に拒絶査定不服審判が請求された。これに対し,当審にて平成22年10月28日付けで拒絶理由通知を行い,これに応答して平成23年1月4日付けの手続補正書により特許請求の範囲の補正がなされた。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成23年1月4日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「バッテリ駆動機器の内部回路と
前記内部回路に,2つのバッテリの何れかが選択され電源を供給する電源供給ラインと,
前記電源供給ラインをダイオードを介してクランプする2次電池と,
を備え,
前記2次電池がクランプする電圧は,前記電源供給ラインの電圧がバッテリ電源としての使用する電圧範囲の下限側の規定値よりも低く,かつ,前記内部回路の動作が保てる電圧値より高いことを特徴とする電源瞬断防止方式。」

3.引用例
(1)引用例1
当審の拒絶の理由に引用した特開平4-334934号公報(以下「引用例1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0002】
【従来の技術】パーソナルコンピュータなど,電源の瞬断の許されない装置には,電源の瞬断がないことを保証する電源装置が必要である。
【0003】一般的に,これらの機器の電源としては,商用電源,ないしはバッテリが使用される。携帯可能なラップトップコンピュータ,長時間連続運転するコンピュータなどでは,内部または外部にバッテリをもち,商用電源と切りかえる電源装置を備えている。」

・「【0004】また,ラップトップコンピュータの中には,複数のバッテリを持つものもある。これは,二つの取り外し可能なバッテリと,商用電源から直流変換した電源を供給するACアダプタからの直流電源の入力であるDCコネクタをもち,この三種類の電源から適当なものを選択して本体に供給する。この電源は,本体の動作中に電源を切りかえる機能を持っている。例えば,片方のバッテリで使用中,そのバッテリの容量が残り少なくなってきた場合に,他方のバッテリに切りかえることが出来る。また,ACアダプタで使用中,ACアダプタを抜いた場合,バッテリからの供給に切りかえることも出来る。この際重要なのは,切り替えの際にいかなる短時間といえども電源電圧を規定の電圧以下に下げてはいけないということである。もちろん,瞬断は許されない。
このために,複数の電源を瞬断なしに切りかえる手段が必要である。
【0005】複数の電源を瞬断なしに切りかえる方法としては,フロート充電による補助バッテリを用いる方法が一般的である。この方法は多くのパソコンメーカが採用している。フロート充電による代表的な回路を図2に示す。この電源回路は,交換可能な第一バッテリ1,及び第二バッテリ2を持ち,これを切り替えスイッチ6を用いて切り替える。この切り替えは,切り替え制御信号8を通じて行われる。ACアダプタからの入力7は,ダイオード4を通して本体への給電線9に至る。図2から分かるとおり,ACアダプタからの入力は,給電線9において補助バッテリ3と電流制限抵抗12を通じてつながっている。本体を使用しているときは,本体への給電線9の電圧は本体を使用可能な電圧まで上がっているので,補助バッテリ3はダイオード13を通じて充電される。ACアダプタからの入力7がないとき,第一バッテリ1及び第二バッテリ2のどちらかの出力が,切り替えスイッチ6により選択されて出力される。この時,バッテリ間の切り替え,及びACアダプタとバッテリ間の切り替えを行うとき,瞬断が起きるが,このときに補助バッテリ3の出力が電流制限抵抗12を通じて出力され,瞬断を防止する。主たるバッテリの選択装置としては,FETなどの半導体スイッチに比べて効率の良いリレーが使用される。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「ラップトップコンピュータの本体と
前記本体に,第一バッテリ1及び第二バッテリ2のどちらかの出力が選択されて出力される給電線9と,
前記給電線9に電流制限抵抗12を通じて出力される補助バッテリ3と,
を備え,
前記補助バッテリ3の出力により,前記給電線9の電源電圧を規定の電圧以下に下げないようにした複数の電源を瞬断なしに切りかえる手段。」

(2)引用例2
当審の拒絶の理由に引用した特開平7-245887号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0003】このバックアップバッテリー回路の一例は,図3に示すように,主電源とした一次電池11から第1ダイオード36を介して負荷回路70に電力を供給すると共に,主電源11の電圧をツェナーダイオード24と調整抵抗器23とによる電圧調整回路により二次電池33の電位を形成し,電圧調整用のツェナーダイオード24等による電圧を第2ダイオード26を介して補助電源とした二次電池33に供給することにより,主電源が正常に作動しているときは主電源の電力により二次電池33を充電し,主電源が機能しなくなったときや主電源とした一次電池11を交換のために取り外したときは補助電源である二次電池33から第3ダイオード37を介して負荷回路70に電力を供給するものであり,第1ダイオード36と第3ダイオード37とで形成した切換回路により,一次電池11又は二次電池33の出力電圧の内の高い電圧を負荷回路70に供給することとしている。
【0004】従って,この主電源と補助電源とを有するこのバックアップバッテリー回路から供給される電圧は,例えば図4に示すように,負荷回路70を正常に作動させるために設定されている例えば5ボルト等の通常電圧が主電源から負荷回路70の供給され,主電源とした一次電池11を取り外したとき,補助電源とした二次電池33の電圧である約3ボルト等に電圧が降下し,更に二次電池33の放電に応じて電圧は時間と共に更に降下することになる。」

・引用例2の【図3】には,負荷回路70(「40」は誤記と認められる)に一次電池11(「10」は誤記と認められる)から電力を供給する配線と,前記配線に第3ダイオード37を介して接続される二次電池33が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例2には以下の技術が記載されている。

「負荷回路70に主電源とした一次電池11から電力を供給する配線と,前記配線に第3ダイオード37を介して接続される補助電源である二次電池33とを備え,主電源が機能しなくなったときや主電源とした一次電池11を交換のために取り外したときは補助電源である二次電池33から第3ダイオード37を介して前記配線に電力を供給し,前記二次電池33が供給する電圧は,主電源とした一次電池11が供給する例えば5ボルト等の通常電圧よりも低い約3ボルト等にしたバックアップバッテリー回路。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると,その機能・作用からみて,後者の「ラップトップコンピュータ」は前者の「バッテリ駆動機器」に相当し,以下同様に,「本体」は「内部回路」に,「第一バッテリ1及び第二バッテリ2」は「2つのバッテリ」に,「第一バッテリ1及び第二バッテリ2のどちらかの出力が選択されて出力される」態様は「2つのバッテリの何れかが選択され電源を供給する」態様に,「給電線9」は「電源供給ライン」に,「補助バッテリ3」は「2次電池」に,「複数の電源を瞬断なしに切りかえる手段」は「電源瞬断防止方式」にそれぞれ相当する。

後者の「給電線9に電流制限抵抗12を通じて出力される」態様は,引用例の段落【0004】?【0005】の「片方のバッテリで使用中,そのバッテリの容量が残り少なくなってきた場合に,他方のバッテリに切りかえることが出来る。・・・この際重要なのは,切り替えの際にいかなる短時間といえども電源電圧を規定の電圧以下に下げてはいけないということである。もちろん,瞬断は許されない。・・・バッテリ間の切り替え,及びACアダプタとバッテリ間の切り替えを行うとき,瞬断が起きるが,このときに補助バッテリ3の出力が電流制限抵抗12を通じて出力され,瞬断を防止する。」との記載を参酌すると,実質的に,「給電線9」に「補助バッテリ3の出力」から「電流制限抵抗12」の電圧降下分を差し引いた電圧を出力して,「給電線9」の「電源電圧を規定の電圧以下に下げ」ないようにした態様,すなわち,「給電線9」の「電源電圧」を,「補助バッテリ3の出力」から「電流制限抵抗12」の電圧降下分を差し引いた電圧以下に下げないようにした態様を表すものといえる。
一方,前者の「電源供給ラインをダイオードを介してクランプする」態様は,本願明細書の段落【0033】?【0034】の「2次電池によるクランプ電圧は,2次電池の出力電圧からダイオードの順方向電圧降下VF分差し引いた電圧値であり,・・・バッテリ駆動機器4の各部の回路が正常に動作する電圧値に設定される。・・・外部バッテリV2が外れた場合(t1),・・・電源供給ラインOの電圧が急激に低下する。しかし,電源供給ラインOの電圧が前記クランプ電圧に達するとダイオード44がオン状態となり,それ以下への低下が防止される。」との記載を参酌すると,実質的に,「電源供給ラインOの電圧」の,「2次電池の出力電圧からダイオードの順方向電圧降下VF分差し引いた電圧値」以下への低下を防止する態様を表すものといえる。
したがって,後者の「給電線9に電流制限抵抗12を通じて出力される」態様と前者の「電源供給ラインをダイオードを介してクランプする」態様とは,「電源供給ラインをクランプする」との概念で共通する。

後者の「補助バッテリ3の出力により,給電線9の電源電圧を規定の電圧以下に下げないようにした」態様における上記「規定の電圧」は,上述した引用例の段落【0004】?【0005】の記載を参酌すると,「ラップトップコンピュータの本体」の動作が保てる電圧であることは明らかであるから,後者の上記態様は,実質的に,「補助バッテリ3の出力により」,「給電線9の電源電圧」を「ラップトップコンピュータの本体」の動作が保てる電圧より高くする態様を表すものといえる。
したがって,後者の「補助バッテリ3の出力により,給電線9の電源電圧を規定の電圧以下に下げないようにした」態様は前者の「2次電池がクランプする電圧は,電源供給ラインの電圧が内部回路の動作が保てる電圧値より高い」態様に相当する。

したがって,本願発明と引用発明とは,
「バッテリ駆動機器の内部回路と
前記内部回路に,2つのバッテリの何れかが選択され電源を供給する電源供給ラインと,
前記電源供給ラインをクランプする2次電池と,
を備え,
前記2次電池がクランプする電圧は,前記電源供給ラインの電圧が前記内部回路の動作が保てる電圧値より高い電源瞬断防止方式。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]
電源供給ラインをクランプする2次電池に関し,本願発明は,「ダイオードを介し」た接続構成を有するのに対し,引用発明は,そのような構成とされていない点。
[相違点2]
2次電池がクランプする電圧に関し,本願発明は,「電源供給ラインの電圧がバッテリ電源としての使用する電圧範囲の下限側の規定値よりも低く」なるように設定されているのに対し,引用発明は,かかる特定がなされていない点。

5.判断
上記相違点について以下に検討する。

引用例2には,バッテリ駆動機器の内部回路(負荷回路70が相当)の動作を保つために,電源供給ライン(負荷回路70に主電源とした一次電池11から電力を供給する配線が相当)にダイオード(第3ダイオード37が相当)を介して2次電池(二次電池33が相当)を接続して,前記電源供給ラインの電圧をクランプし(主電源が機能しなくなったときや主電源とした一次電池11を交換のために取り外したときは補助電源である二次電池33から配線に電力を供給する態様が相当),前記2次電池が供給する電圧は,電源供給ラインの電圧がバッテリ電源(主電源が相当)としての使用する通常電圧よりも低くなるように設定する技術が記載されている。
ここで,電源供給ラインにダイオードを介して2次電池を接続する構成からみて,2次電池が電力を供給するときの電源供給ラインの電圧が,該2次電池の電圧からダイオードの電圧降下分を差し引いた電圧であることは明らかであるから,引用例2において,2次電池がクランプする電圧は,電源供給ラインの電圧がバッテリ電源としての使用する通常電圧よりも低くなるように設定されているものといえる。
そして,2次電池がクランプする電圧は,バッテリ電源の電圧の低下により電源供給ラインへの電力の供給がバッテリ電源から2次電池に切り替わる電圧と認められるところ,該2次電池がクランプする電圧を,バッテリ電源としての使用する通常電圧と,バッテリ駆動機器の内部回路の動作を保つことができる電圧の最低値との間の範囲におけるどの値に設定するかは,放電特性等のバッテリ電源の特性を考慮して当業者が適宜決定すべきことといえる。
そうすると,引用発明と引用例2に記載された技術とは,いずれも,2次電池によりバッテリ駆動機器に供給される電圧をクランプして該バッテリ駆動機器の動作を保つ電源回路という共通の技術分野に属するものであり,引用発明に引用例2に記載された上記技術を採用するために格別の技術的困難性が伴うものとも認められないから,引用発明における2次電池の接続構成に換えて,引用例2に記載された上記技術を採用して,相違点1及び2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得ることである。

そして,本願発明の全体構成により奏される作用効果は,引用発明及び引用例2に記載された上記技術から当業者が容易に予測し得るものと認められる。
よって,本願発明は,引用発明及び引用例2に記載された上記技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用例2に記載された上記技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-20 
結審通知日 2011-04-26 
審決日 2011-05-09 
出願番号 特願2004-335129(P2004-335129)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤穂 嘉紀  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 冨江 耕太郎
槙原 進
発明の名称 電源瞬断防止方式  
代理人 浅井 俊雄  
代理人 机 昌彦  
代理人 木村 明隆  

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