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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1239114
審判番号 不服2010-1856  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-27 
確定日 2011-06-23 
事件の表示 特願2007-229477「レンズ鏡筒及び撮像装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月26日出願公開、特開2009- 63675〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年(2007年)9月4日の出願(特願2007-229477号)であって、平成21年9月24日付けで手続補正がなされ、同年10月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年1月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成22年1月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定について

[補正の却下の決定の結論]
平成22年1月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成21年9月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の、

「少なくとも2つのカム筒を備え、
操作環の回転に基づく操作により前記2つのカム筒の作動を介してレンズ群を移動させるレンズ鏡筒において、
前記操作環の回転に基づく操作により前記レンズ群の一部を駆動する第1カム筒と、
前記操作環の回転に基づく操作により前記レンズ群の一部を光軸方向へ移動すると共に、前記第1カム筒と異なる回転速度で回転される第2カム筒と、を設け、
前記第2カム筒は凸部を有し、
前記凸部が摺動可能に係合されるリード溝を有する固定筒を設け、
前記固定筒を回転不能に保持した
レンズ鏡筒。」が

「少なくとも2つのカム筒を備え、
操作環の回転に基づく操作により前記2つのカム筒の作動を介してレンズ群を移動させるレンズ鏡筒において、
前記操作環の回転に基づく操作により前記レンズ群を駆動する第1カム筒と、
前記操作環の回転に基づく操作により前記レンズ群を光軸方向へ移動すると共に、前記第1カム筒と異なる回転速度で回転される第2カム筒と、を設け、
前記操作環は、ズーム操作を行うためのズーム操作環であり、
前記第1カム筒は、前記ズーム操作環の回転に基づくズーム操作により前記レンズ群を駆動するズームカム環であり、
前記第2カム筒は、前記ズーム操作環の回転に基づくズーム操作により前記レンズ群を光軸方向へ移動すると共に、前記第1カム筒と異なる回転速度で回転されるカム環であり、
前記第1カム筒は、前記光軸方向に曲線状に延在された回転案内長溝と光軸方向に延在された直進案内長溝とを有し、
前記第2カム筒は凸部を有し、
前記凸部が摺動可能に係合されるリード溝を有する固定筒を設け、
前記固定筒を回転不能に保持したことにより、前記第1カム筒は、前記ズーム操作環と同一の速度で回転し、前記第2カム筒は、前記ズーム操作環と異なる速度であって、前記第1カム筒よりも小さい回転速度で回転するようにした
レンズ鏡筒。」に補正された。

そして、この補正は、本件補正前の請求項1に対して、
(1)「操作環」について「ズーム操作を行うためのズーム操作環」であることを特定する補正事項、
(2)「第1カム筒」について、「前記ズーム操作環の回転に基づくズーム操作により前記レンズ群を駆動するズームカム環」であるとともに、「前記光軸方向に曲線状に延在された回転案内長溝と光軸方向に延在された直進案内長溝とを有」することを特定する補正事項、
(3)「第2カム筒」について、「前記ズーム操作環の回転に基づくズーム操作により前記レンズ群を光軸方向へ移動すると共に、前記第1カム筒と異なる回転速度で回転されるカム環」であることを特定する補正事項、及び、
(4)発明の作用として「前記第1カム筒は、前記ズーム操作環と同一の速度で回転し、前記第2カム筒は、前記ズーム操作環と異なる速度であって、前記第1カム筒よりも小さい回転速度で回転する」ことを特定する補正事項、
からなる。
上記(1)ないし(4)の補正事項は、いずれも、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正事項であるから、本件補正による請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成22年1月27日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記の「1 本件補正について」の記載参照。)

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-188161号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(後述の「イ 引用例1に記載された発明の認定」において発明の認定に直接関係する記載に下線を付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ズームレンズ、特にインナーフォーカスあるいはリアフォーカスと呼ばれる光学タイプのズームレンズの駆動に用いられるレンズ駆動装置に関するものである。」

「【0009】そこで、本発明は、変倍動作の操作性に悪影響を与えることなく、変倍動作時のピント変動を充分小さい値に抑えることのできる、特にインナーフォーカス方式のレンズ鏡筒に適したレンズ駆動装置を提供することを目的としている。」

「【0017】
【発明の実施の形態】図1には、本発明の第1実施形態である一眼レフカメラ用交換レンズの前端構成を示している。また、図2は、図1に示した交換レンズのレンズ駆動機構の広角状態における展開図である。
【0018】本実施形態の交換レンズは、レンズ群L1?L6の6群構成であって、変倍動作によって全てのレンズ群が、またフォーカス動作によってL2群が光軸方向に移動する。このとき、L3群とL6群は一体的に移動し、L5群は光軸方向への移動とは別に、振れ補正動作を行なうために光軸と略直交する方向への移動も行なうことができる。
【0019】101はマウントであり、カメラ本体に取り付けるためのバヨネット部を有するとともに、固定筒102にビス止め固定されている。103は外装環であり、マウント101と固定筒102との間に挟み込まれて固定されている。この外装環103には、目盛窓104、名称プレート105およびSWパネル106が取り付けられている。SWパネル106に設けられたスイッチを切り替えることによって、オートフォーカスや振れ補正などの機能を選択して使用することができる。
【0020】107は案内筒であり、固定筒102がビス止めされることでカメラ本体に対して固定部を構成している。案内筒107の外径には、バヨネット結合によって光軸周りの回転のみ可能となっているカム筒108が嵌合している。このカム筒108が回転することで、案内筒107に形成された光軸方向の案内溝107a,107bと、カム筒(第1のカム筒)108に形成されたズームカム(変倍駆動カム)108a,108b,108c,108dとの交点の移動に従い、L3保持枠109、L4保持枠110、振れ補正ユニット111および直進筒112をそれぞれにビス止めされたフォロア113?116を介して光軸方向へ移動させることができる。
【0021】L3保持枠109は、L3群を保持している。このL3保持枠109には、絞り駆動部と絞り羽根部とから構成される電磁絞りユニット117がビス止めされている。また、L3保持枠109の後端には、L6群を保持するL6保持枠118が、補強板119及びばね座金120とともにビス止めされている。
【0022】L4保持枠110は、L4群を保持しているともに、その前端にフック部を有している。このフック部には、開放口径の決定及び有害光のカットを目的とする移動絞り121が前方より弾性結合されている。これにより、L3保持枠109を間に挟んだ状態での移動絞り121とL4保持枠110との結合を容易としている。」

「【0029】132はズーム操作環であり、周方向に設けられている溝にフォロア131が係合することで、光軸方向の移動が阻止された状態で光軸周りで回転操作可能となっている。
【0030】このズーム操作環132の内径に形成された凹部には、カム筒108にビス止めされたズームキー133が係合している。これにより、ズームキー133を介して、ズーム操作環132の回転と一体的にカム筒108を回転させることができる。
【0031】134は中間筒であり、その外径にはズーム操作環132の内径に形成された光軸方向の溝に係合する突起部が、内径にはフィルター枠122の外径に設けられた突起部が係合するリード溝がそれぞれ設けられている。このため、中間筒134は、回転方向についてはズーム操作環132と一体的に、光軸方向についてはズーム操作環132の回転方向の位置とフィルター枠122の光軸方向の位置に応じて進退する。」

「【0035】138はインナーカム筒(第2のカム筒)であり、このインナーカム筒138には、コイルばねを挟んでフォロア139がビス止めされている。フォロア139は、案内筒107に形成されたズーム補正カム107cとカム筒108に形成された光軸方向の直進溝部108eとに係合している。このため、カム筒108が回転すると、インナーカム筒138は、ズーム補正カム107cと直進溝部108eの交点(すなわち、フォロア139の係合位置)の移動に従って回転しながら光軸方向に進退する。
【0036】140はL2保持枠で、L2群を保持している。このL2保持枠140の外径部にはフォロア部140aが形成されており、このフォロア部140aはインナーカム筒138の内径に形成されたフォーカスカム(合焦駆動カム)138aに係合している。また、L2保持枠140から延出したキー部(キーフォロア)140bは、フォーカスキー127に形成されたキー溝部127aに係合している。
【0037】このため、合焦動作時において、振動型モータ若しくはマニュアルフォーカスリング126が回転して、フォーカスキー127が回転(カム筒108は停止)すると、この回転がキー部140bを介してL2保持枠140に伝達され、これを回転させる。そして、L2保持枠140が回転すると、フォロア部140aとインナーカム筒138のフォーカスカム138aとの係合点の光軸方向移動量に応じてL2保持枠140は光軸方向にも移動する。
【0038】一方、変倍動作時には、振動型モータおよびマニュアルフォーカスリング126は回転せず、フォーカスキー127も回転しないが、カム筒108が回転するため、L2保持枠140は、カム筒108の回転による案内筒107のズーム補正カム107cとカム筒108の直進溝部108eとの交点の移動によるインナーカム筒138の光軸方向移動量と、フォロア部140aとインナーカム筒138のフォーカスカム138aとの係合点の光軸方向移動量の合計量だけ光軸方向に移動する。
【0039】ここで、図2に示す広角側での状態から、中間域を経て望遠側に変倍する際に、カム筒108およびインナーカム筒138は図2中左方向に回転する。これによりL2保持枠140は上方(光軸方向前方)に移動し、キー部140bは回転停止しているキー溝部127aの下端から上端近傍に移動することになる。また、望遠側から広角側に変倍する際には、カム筒108およびインナーカム筒138は図2中右方向に回転するとともに、L2保持枠140は下方(光軸方向後方)に、キー部140bは回転停止しているキー溝部127aの上端近傍から下端にそれぞれ移動することになる。
【0040】そして、本実施形態では、キー溝部127aにおける下側部分(つまり、ズーム広角域でのL2保持枠140の移動範囲に対応するキー部140bの係合範囲)は、光軸方向である上下方向に対して図中右上がり方向に傾斜しており、キー溝部127aにおける中間部分(つまり、ズーム中間域でのL2保持枠140の移動範囲に対応するキー部140bの係合範囲)は、光軸方向である上下方向に対して図中左上がり方向に傾斜している。
【0041】さらに、キー溝部127aにおける上側部分(つまり、ズーム望遠域でのL2保持枠140の移動範囲に対応するキー部140bの係合範囲)は、光軸方向である上下方向にストレートに延びている。すなわち、キー溝部127aは、少なくともその一部が光軸と平行ではない非ストレートカム形状に形成されている。
【0042】このため、望遠域で変倍動作が行われる際には、L2保持枠140は、キー部140bとキー溝部127aにおける上側部分との係合作用により、カム筒108およびインナーカム筒138と一体的に回転することになる。
【0043】また、広角域にて変倍動作が行われる際には、L2保持枠140は、キー部140bとキー溝部127aにおける下側部分との係合作用により、カム筒108およびインナーカム筒138とは逆方向に回転することになる。これにより、カム筒108およびインナーカム筒138とL2保持枠140との相対回転速度、つまりはフォーカスカム138a内のフォロア140aの回転速度は、上記望遠域での変倍動作時に比べて大きくなる。
【0044】また、中間域で変倍動作が行われる際には、L2保持枠140は、キー部140bとキー溝部127aにおける中間部分との係合作用により、カム筒108およびインナーカム筒138と同じ方向に回転することになる。これにより、カム筒108およびインナーカム筒138とL2保持枠140との相対回転速度、つまりはフォーカスカム138a内のフォロア140aの回転速度は、上記望遠域での変倍動作時に比べて小さくなる。」

「【図1】



「【図2】



イ 引用例1に記載された発明の認定
【図2】から、カム筒108に形成されたズームカム108a,108b,108c,108dが、光軸方向に曲線状に延在されているといえる点も踏まえると、上記記載(図面の記載も含む)から、引用例1には、
「ズームレンズの駆動に用いられるレンズ駆動装置を有するズームレンズ鏡筒であって、
光軸方向の移動が阻止された状態で光軸周りで回転操作可能となっているズーム操作環132と、
このズーム操作環132の内径に形成された凹部に係合するズームキー133を介して、ズーム操作環132の回転と一体的に回転させることができるカム筒108と、
カム筒108が回転すると、回転しながら光軸方向に進退するインナーカム筒(第2のカム筒)138と、
L2(レンズ)群を保持しているL2保持枠140であって、インナーカム筒138の内径に形成されたフォーカスカム(合焦駆動カム)138aに係合するフォロア部140aが外径部に形成されるL2保持枠140と、
カメラ本体に対して固定部を構成している案内筒107と、を設け、
カム筒108には、光軸方向に曲線状に延在されたズームカム(変倍駆動カム)108a,108b,108c,108d及び直進溝部108eが形成され、
インナーカム筒138には、コイルばねを挟んでフォロア139がビス止めされており、フォロア139は、案内筒107に形成されたズーム補正カム107cとカム筒108に形成された光軸方向の直進溝部108eとに係合しているため、変倍動作時に、カム筒108が回転すると、L2保持枠140は、カム筒108の回転による案内筒107のズーム補正カム107cとカム筒108の直進溝部108eとの交点の移動によるインナーカム筒138の光軸方向移動量と、フォロア部140aとインナーカム筒138のフォーカスカム138aとの係合点の光軸方向移動量の合計量だけ光軸方向に移動する、
ズームレンズ鏡筒。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)本願補正発明と引用発明の対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明の「『カム筒108』と『インナーカム筒138』」、「ズーム操作環132」、「L2(レンズ)群」及び「ズームレンズ鏡筒」が、それぞれ、本願補正発明の「2つのカム筒」、「操作環」、「レンズ群」及び「レンズ鏡筒」に相当するから、引用発明の「ズーム操作環132」と「ズーム操作環132の回転と一体的に回転させることができるカム筒108」と「カム筒108が回転すると、回転しながら光軸方向に進退するインナーカム筒(第2のカム筒)138」と「インナーカム筒138の内径に形成されたフォーカスカム(合焦駆動カム)138aに係合するフォロア部140aが外径部に形成される」「L2保持枠140」に保持されている「L2(レンズ)群」を備えた「ズームレンズ鏡筒」が、本願補正発明の「少なくとも2つのカム筒を備え、操作環の回転に基づく操作により前記2つのカム筒の作動を介してレンズ群を移動させるレンズ鏡筒」に相当する。

引用発明の「カム筒108」は、それが回転すると、「インナーカム筒(第2のカム筒)138」を回転させながら光軸方向に進退させ、「インナーカム筒138の内径に形成されたフォーカスカム(合焦駆動カム)138a」に「L2(レンズ)群を保持しているL2保持枠140」の「外径部に形成される」「フォロア部140a」が係合するのであるから、引用発明の「カム筒108」は、その回転により、「L2(レンズ)群」を駆動するものである。したがって、引用発明の「ズーム操作環132の回転と一体的に回転させることができるカム筒108」が、本願補正発明の「前記操作環の回転に基づく操作により前記レンズ群を駆動する第1カム筒」に相当する。

引用発明の「インナーカム筒(第2のカム筒)138」は、「カム筒108が回転すると、回転しながら光軸方向に進退する」とともに、「L2(レンズ)群を保持しているL2保持枠140」の外径部に形成される「フォロア部140a」が係合する「フォーカスカム(合焦駆動カム)138a」をその内径に有するものであるから、「L2(レンズ)群」を光軸方向へ移動するものである。よって、引用発明の「カム筒108が回転すると、回転しながら光軸方向に進退するインナーカム筒(第2のカム筒)138」と、本願補正発明の「前記操作環の回転に基づく操作により前記レンズ群を光軸方向へ移動すると共に、前記第1カム筒と異なる回転速度で回転される第2カム筒」とは、「前記操作環の回転に基づく操作により前記レンズ群を光軸方向へ移動すると共に、(ある回転速度で)回転される第2カム筒」である点で一致する。

引用発明の「ズーム操作環132の回転と一体的に回転させることができるカム筒108」が「変倍動作時」に「回転する」ことが、本願補正発明の「前記操作環は、ズーム操作を行うためのズーム操作環」であることに相当する。

引用発明の「カム筒108」が「ズーム操作環132の回転と一体的に回転させることができ」、また、「カム筒108」は、それが回転すると、「インナーカム筒(第2のカム筒)138」を回転させながら光軸方向に進退させ、「インナーカム筒138の内径に形成されたフォーカスカム(合焦駆動カム)138a」に「L2(レンズ)群を保持しているL2保持枠140」の「外径部に形成される」「フォロア部140a」が係合していることが、本願補正発明の「前記第1カム筒は、前記ズーム操作環の回転に基づくズーム操作により前記レンズ群を駆動するズームカム環」であることに相当する。

引用発明の「インナーカム筒(第2のカム筒)138」は、「ズーム操作環132の回転と一体的に回転させることができるカム筒108」が「回転する」と、「回転しながら光軸方向に進退する」とともに、「L2(レンズ)群を保持しているL2保持枠140」の外径部に形成される「フォロア部140a」が係合する「フォーカスカム(合焦駆動カム)138a」をその内径に有するものであることと、本願補正発明の「前記第2カム筒は、前記ズーム操作環の回転に基づくズーム操作により前記レンズ群を光軸方向へ移動すると共に、前記第1カム筒と異なる回転速度で回転されるカム環」であることとは、「前記第2カム筒は、前記ズーム操作環の回転に基づくズーム操作により前記レンズ群を光軸方向へ移動すると共に、(ある回転速度で)回転されるカム環」である点で一致する。

引用発明の「カム筒108には、光軸方向に曲線状に延在されたズームカム(変倍駆動カム)108a,108b,108c,108d及び直進溝部108eが形成され」ていることが、本願補正発明の「前記第1カム筒は、前記光軸方向に曲線状に延在された回転案内長溝と光軸方向に延在された直進案内長溝とを有」することに相当する。

引用発明の「『インナーカム筒138』に『ビス止め』されている『フォロア139』」、及び、「カメラ本体に対して固定部を構成している案内筒107」が、それぞれ、本願補正発明の「『第2カム筒』が有する『凸部』」、及び、「固定筒」に相当し、引用発明の「インナーカム筒138には、コイルばねを挟んでフォロア139がビス止めされており、フォロア139は、案内筒107に形成されたズーム補正カム107c(とカム筒108に形成された光軸方向の直進溝部108eとに)係合して」いることが、本願補正発明の「前記第2カム筒は凸部を有し、前記凸部が摺動可能に係合されるリード溝を有する固定筒を設け、前記固定筒を回転不能に保持した」ことに相当する。

引用発明の「ズーム操作環132の内径に形成された凹部に係合するズームキー133を介して、ズーム操作環132の回転と一体的に回転させることができるカム筒108が回転すると」、「インナーカム筒(第2のカム筒)138」が「回転しながら光軸方向に進退する」ことと、本願補正発明の「前記第1カム筒は、前記ズーム操作環と同一の速度で回転し、前記第2カム筒は、前記ズーム操作環と異なる速度であって、前記第1カム筒よりも小さい回転速度で回転するようにした」こととは、「前記第1カム筒は、前記ズーム操作環と同一の速度で回転し、前記第2カム筒は、(ある回転速度で)回転するようにした」点で一致する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「少なくとも2つのカム筒を備え、
操作環の回転に基づく操作により前記2つのカム筒の作動を介してレンズ群を移動させるレンズ鏡筒において、
前記操作環の回転に基づく操作により前記レンズ群を駆動する第1カム筒と、
前記操作環の回転に基づく操作により前記レンズ群を光軸方向へ移動すると共に、(ある回転速度で)回転される第2カム筒と、を設け、
前記操作環は、ズーム操作を行うためのズーム操作環であり、
前記第1カム筒は、前記ズーム操作環の回転に基づくズーム操作により前記レンズ群を駆動するズームカム環であり、
前記第2カム筒は、前記ズーム操作環の回転に基づくズーム操作により前記レンズ群を光軸方向へ移動すると共に、(ある回転速度で)回転されるカム環であり、
前記第1カム筒は、前記光軸方向に曲線状に延在された回転案内長溝と光軸方向に延在された直進案内長溝とを有し、
前記第2カム筒は凸部を有し、
前記凸部が摺動可能に係合されるリード溝を有する固定筒を設け、
前記固定筒を回転不能に保持したことにより、前記第1カム筒は、前記ズーム操作環と同一の速度で回転し、前記第2カム筒は、(ある回転速度で)回転するようにした
レンズ鏡筒。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
第2カム筒(引用発明においてはインナーカム筒138)の回転速度に関して、本願補正発明においては「ズーム操作環と異なる速度であって、第1カム筒よりも小さい回転速度」であるのに対して、引用発明においては、「インナーカム筒138には、コイルばねを挟んでフォロア139がビス止めされており、フォロア139は、カム筒108に形成された光軸方向の直進溝部108eとに係合している」ことから、インナーカム筒(第2カム筒)は第1カム筒と同じ回転速度で回転されるといえるものである点。

(4)当審の判断
ア 上記相違点について検討する。
(ア)まず、本願補正発明において、第2カム筒の回転速度を「ズーム操作環と異なる速度であって、第1カム筒よりも小さい回転速度」としたことによる作用効果は、発明の詳細な説明を参酌しても不明であり、上記相違点に基づく作用効果は格別のものではないものと認められる。
(イ)次に、上記相違点の検討においては、引用発明においても、ズーム操作環132の回転とカム筒108は一体的に回転する(両者の回転速度が同じ)であり、インナーカム筒138(第2カム筒に相当)の回転速度がカム筒108(第1カム筒に相当)よりも小さければ、当然、インナーカム筒138(第2カム筒に相当)の回転速度はズーム操作環と異なる回転速度となるから、上記相違点の検討に当たっては、本願補正発明の第2カム筒の回転速度が第1カム筒よりも小さい回転速度であることと、引用発明のインナーカム筒(第2カム筒に相当)がカム筒(第1カム筒に相当)と同じ回転速度であることについてのみ検討すれば足りるといえる。
(ウ)そこで、引用発明の「カム筒108」の回転速度と「インナーカム筒138」の回転速度の関係について検討すると、引用発明は「カム筒108の回転がインナーカム筒138及びL2保持枠を介して保持枠に保持されているL2(レンズ)群の回転に伝える」ものであることから、L2保持枠140の回転速度の、カム筒108の回転速度に対する大きさ(比)は、カム筒108の回転速度に対するインナーカム筒138の回転速度の大きさ(比)とインナーカム筒138の回転速度に対するL2保持枠140の回転速度の大きさ(比)の積で規定される。(そして、引用例1の【0042】?【0044】の記載からも認められるように、「カム筒108」の回転速度とL2(レンズ)群の回転速度とは異なる。)
ここで、インナーカム筒138の回転速度に対するカム筒108の回転速度の大きさ、及び、インナーカム筒138の回転速度に対するL2保持枠140の回転速度の大きさは、それぞれ、インナーカム筒にビス止めされたフォロア139が係合するカム筒108の溝部(以下、「カム筒108の溝」という。)の形状、及び、L2保持枠140の外径部のフォロア部140aが係合する、インナーカム筒138の内径のカム溝(以下、「インナーカム筒138の溝」という。)の形状によって規定されるものである。
(エ)そして、上記(ウ)で述べたような、カム筒108の回転をインナーカム筒138及びL2保持枠を介して保持枠に保持されているL2(レンズ)群の回転に伝えるものにおいて、上記(ウ)で述べたように、カム筒108とL2(レンズ)群の回転速度とが異なるようにするために、上記の「カム筒108の溝」及び「インナーカム筒138の溝」の形状をどのように設計するかは、当業者が必要に応じて適宜設定得る事項であり、また、上記(ア)で述べたように、本願補正発明において、「ズーム操作環と異なる速度であって、第1カム筒よりも小さい回転速度」としたことによる格別の作用効果が認められないことを踏まえると、引用発明における「カム筒108の溝」である「光軸方向の直進溝部108e」に換えて、光軸方向に傾斜する適宜の形状の溝を採用して、カム筒108回転速度に対するインナーカム筒138の相対回転速度を小さくなるようにすることは当業者が容易に想到し得たことに過ぎにない。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年1月27日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年9月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成22年1月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成22年1月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 平成22年1月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明に対して、(1)ないし(4)の補正事項によって限定して特定したものが本願補正発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定して特定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成22年1月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)本願補正発明と引用発明との対比」及び「(4)当審の判断」において記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-13 
結審通知日 2011-04-19 
審決日 2011-05-06 
出願番号 特願2007-229477(P2007-229477)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 森林 克郎
伊藤 幸仙
発明の名称 レンズ鏡筒及び撮像装置  
代理人 伊藤 仁恭  
代理人 角田 芳末  

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