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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B66F
管理番号 1239386
審判番号 不服2010-364  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-07 
確定日 2011-06-27 
事件の表示 特願2005- 32375「フォークリフトにおけるマストレールとクロスステーの取付け構造」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月24日出願公開、特開2006-219227〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成17年2月8日の出願であって、平成21年4月14日付けで拒絶理由が通知され、これに対し同年7月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月9日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し平成22年1月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に同日付けで手続補正書が提出されて明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正がなされ、その後、当審において、平成22年6月1日付けで書面による審尋がなされ、これに対し同年8月23日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成22年1月7日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成22年1月7日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1.本件補正について
(1)本件補正の内容
平成22年1月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年7月13日付けで提出された手続補正書により補正された)下記(a)に示す請求項1を下記(b)に示す請求項1と補正するものである。
(a)本件補正前の請求項1
「【請求項1】
アウタマストのマストレールと、両先端コ字状をなす脚部の内側に前記マストレールを直交状に溶着するクロスステーとを備えたフォークリフトにおいて、
クロスステーの脚部内側に形成した段部に前記マストレール外面を当接して相隣る直行状の稜線に沿って溶接すると共に、クロスステーの脚部内側に、前記段部と根元の間に、マストレール外側面の線より外側に位置して抉った凹部を形成し、これによりクロスステーの脚部内側の凹部底に位置するラインとマストレールの外側のラインとの間を、クロスステーの脚部内側の凹部底に位置するラインがマストレール外側面のラインより外側に大きくオフセットしたことを特徴とするフォークリフトのマストレールとクロスステーの取付け構造。」
(b)本件補正後の請求項1
「【請求項1】
左右に間隔をおいて設けられているアウタマストのマストレールと、両先端コ字状をなす脚部の内側に、前記の左右それぞれのアウタマストのマストレールの外側面と後面とを当接させ、そして直交状に溶接する段部を有するクロスステーとを備えたフォークリフトにおいて、
両先端コ字状をなすクロスステーの脚部の内側に形成した前記の段部と、この段部の後方に間隙をおいて続けて一体的に設けられているクロスステーの横梁部との間の脚部の内側を、前記のクロスステーのマストレールの外側面と当接する位置にあるラインよりさらに外側の位置になるように、段部とこの段部の後方に間隙をおいて続けて一体的に設けられているクロスステーの横梁部との間の脚部の内側を抉ることにより凹部底を形成し、これにより、クロスステーの前記の段部の溶接角部Aに掛かっていた積載荷重応力を、クロスステーの脚部内側の前記の凹部底に集中させるようにしたことを特徴とするフォークリフトのマストレールとクロスステーの取付け構造。」(下線は、請求人が付与したままである。)

(2)本件補正の目的
請求項1に関する本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明の発明特定事項について限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における請求項1に関する補正事項は、上記1.(2)のように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、次に、本件補正により補正された請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2-1.引用文献等
2-1-1.原査定の拒絶理由に引用された特開2002-3192号公報(以下、「引用文献1」という。)
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、次の事項が図面とともに記載されている。
(a)「【0002】
【従来の技術】図8は、多段マストを有するリーチ式フォークリフト1の側面図である。図8において、前輪3及び後輪4を有して走行自在な車体2の前部には、前後方向に向けて略水平に、左右一対のリーチレール5,5が対向して設けられている。多段マスト10bは外側マスト11と、この外側マスト11に上下方向に摺動自在に係合した内側マスト12とからなり、内側マスト12の前面部にはフォーク13が昇降自在に取着されている。…(後略)…」(段落【0002】)
(b)「【0003】図9は従来技術に係る多段マスト10bの内側マスト12およびフォーク13の下降状態を示す正面図であり、図10は図9のC-C矢視図であり、図11は図9の平面図である。図9ないし図11において、外側マスト11の左右の側柱11a,11aの底部間を連結する底板14の左右方向略中央部にはブラケット15が固設されている。…(後略)…」(段落【0003】)
(c)「【0014】…(中略)…図1は本発明に係るリーチ式フォークリフトの側面図を表し、また本発明の効果の説明図である。図8と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省く。本発明の多段マスト10,10aは外側マスト11と、外側マスト11に上下方向に摺動自在に係合した内側マスト12とからなり、後述するように内側マスト12に取着されるフォーク昇降シリンダ30の位置が低い位置になるようにクロスメンバー等が構成されている。」(段落【0014】)
(d)「【0015】図2は第1実施形態の多段マスト10の正面図であり、図3は図2のA-A矢視図であり、図4は図2の平面図である。図2ないし図4において、多段マスト10の外側マスト11を構成する左右一対の側柱11a,11aの下部間を底板14により連結しており、底板14の下面の地上高は最低地上高hとしている。…(後略)…」(段落【0015】)
(e)「【0018】図5は第2実施形態の多段マスト10aの正面図であり、図6は図5のB-B矢視図であり、図7は図5の平面図である。図5ないし図7において、第1実施形態の構成要素と同一の要素には同一符号を付して説明は省略し、異なる部分についてのみ説明する。…(後略)…」(段落【0018】)
(f)「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のリーチ式フォークリフトの側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態のマスト構造を示す正面図である。
【図3】図2のA-A矢視図である。
【図4】本発明の第1実施形態のマスト構造を示す平面図である。
【図5】本発明の第2実施形態のマスト構造を示す正面図である。
【図6】図5のB-B矢視図である。
【図7】本発明の第2実施形態のマスト構造を示す平面図である。
【図8】従来のリーチ式フォークリフトの側面図である。
【図9】従来のマスト構造を示す正面図である。
【図10】図9のC-C矢視図である。
【図11】従来のマスト構造を示す平面図である。」(【図面の簡単な説明】)
(g)図4、図7及び図11には、「外側マスト11の側柱11a、11a」を連結する「コ字状をなす部材(以下、この部材を「横材」と称する。)」が描かれている。そして、この「横材」は、先端にそれぞれ「脚部」を有し、さらに、両「脚部」は「梁部」によって連結されるように描かれている。さらに、この「横材」は、両先端の脚部の内側に、左右それぞれの「外側マスト11の側柱11a、11a」の外側面と後面に当接させ、そして直交状に接合する段部を有するように描かれている。しかも、この「横材」の「梁部」との間の「脚部」の内側は、前記の横材の外側マスト11の側柱11a、11aの外側面と当接する位置にあるラインと略同一線上に設けている。

(2)引用文献1に記載された発明
したがって、上記(1)及び図面(特に、図4、図7及び図11)の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1に記載された発明」という。)が記載されているものと認められる。
「左右に間隔をおいて設けられている外側マスト11の側柱11a、11aと、両先端コ字状をなす脚部の内側に、前記の左右それぞれの外側マスト11の側柱11a、11aの外側面と後面とを当接させ、そして直交状に接合する段部を有する横材とを備えたリーチ式フォークリフト1において、
両先端コ字状をなす横材の脚部の内側に形成した前記の段部と、この段部の後方に間隙をおいて続けて一体的に設けられている横材の梁部との間の脚部の内側を、前記の横材の外側マスト11の側柱11a、11aの外側面と当接する位置にあるラインと略同一線上に設けているリーチ式フォークリフト1の外側マスト11の側柱11a、11aと横材の取付け構造。」

2-1-2.原査定の拒絶理由において、周知の技術事項を例示するものとして引用された特開昭55-140494号公報(以下、「引用文献2」という。)
(1)引用文献2の記載事項
引用文献2には、次の事項が図面(特に、第9図ないし第12図参照)とともに記載されている。
「次に、第9?13図に示す3段式の実施例について説明する。固定マスト区分150は、中間の入れ子式のマスト区分154を受入れるようになった1対の横方向に隔置された対向溝形材152を有し、中間マスト区分154は2個の横方向に隔置されたIビーム状の垂直レール156により形成され、図示しない案内ローラにより固定マスト区分150中に支持され、これに対し長手方向に運動するようになっている。2つの横方向に隔置されたIビーム状の垂直レール160から成る内側マスト区分(第2のマスト区分)158は、入れ子式マスト区分154内に同様に案内ローラで支持され、これに対し長手方向に運動するようになっている。ホークキャリッジ162は、1対の長手方向支持板164,166を有し、既知のように内側マスト区分158中にて上昇するように案内ローラにより支持されている。
固定マスト区分150は、上部及び下部の横ブレース168,170により横方向に補強され、中間の入れ子式のマスト区分154は上部と下部の横部材(ブレース)172,174により横方向に補強され、内側マスト区分158は上部と中間及び下部の横部材176,178,180により横方向に補強され、横部材178,180は後述するように主リフトシリンダーを支持する役目もしている。」(第7ページ左上欄12行ないし同ページ右上欄18行)

(2)引用文献2に記載された技術事項
したがって、上記(1)及び図面(特に、第9図及び第12図)の記載を総合すると、引用文献2には、次のような技術事項(以下、「引用文献2に記載された技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
「固定マスト区分150の左右一対の溝形材152と、両先端の脚部端面を左右それぞれの溝形材152の側壁部に当接させて接合する両先端の脚部と脚部端面の後方に間隙をおいて一体的に設けられている梁部を有する略コ字状をなす横ブレース168とを備えたリフトトラックにおいて、
略コ字状をなす横ブレース168の両先端の脚部端面を左右それぞれの溝形材152の側壁部に当接させて接合した際に、横ブレース168の脚部端面と梁部との間の脚部の内側の線は、溝形材152の外側面のラインから外側に大きくオフセットされてなるリフトトラックの溝形材と横ブレースの取付け構造。」

2-2.本願補正発明と引用文献1に記載された発明との対比
本願補正発明と引用文献1に記載された発明とを対比するに、引用文献1に記載された発明における「外側マスト11」、「(外側マスト11の左右一対の)側柱11a、11a」、「梁部」、及び「リーチ式フォークリフト1」は、それらの形状、構造及び機能等からみて、それぞれ、本願補正発明における「アウタマスト」、「マストレール」、「横梁部」、及び「フォークリフト」に相当する。
そして、引用文献1に記載された発明における「横材」は、「外側マスト11の側柱11a、11a」又は「アウタマストのマストレール」を連結するものであるので、その技術的意義からみて、本願補正発明における「クロスステー」と同等のものであるといえる。
さらに、引用文献1に記載された発明における「接合」は、「連結」という限りにおいて、本願補正発明における「溶接」に相当する。
さらに、引用文献1に記載された発明における「前記の段部と、この段部の後方に間隙をおいて続けて一体的に設けられている横材の梁部との間の脚部の内側を、前記の横材の外側マスト11の側柱11a、11aの外側面と当接する位置にあるラインと略同一線上に設けている」は、「前記の段部と、この段部の後方に間隙をおいて続けて一体的に設けられているクロスステーの横梁部との間の脚部の内側を、前記のクロスステーのマストレールの外側面と当接する位置にあるラインに対して所定の位置関係にした」という限りにおいて、本願補正発明における「前記の段部と、この段部の後方に間隙をおいて続けて一体的に設けられているクロスステーの横梁部との間の脚部の内側を、前記のクロスステーのマストレールの外側面と当接する位置にあるラインよりさらに外側の位置になるように、段部とこの段部の後方に間隙をおいて続けて一体的に設けられているクロスステーの横梁部との間の脚部の内側を抉ることにより凹部底を形成し、これにより、クロスステーの前記の段部の溶接角部Aに掛かっていた積載荷重応力を、クロスステーの脚部内側の前記の凹部底に集中させるようにした」に相当する。
したがって、本願補正発明と引用文献1に記載された発明は、
「左右に間隔をおいて設けられているアウタマストのマストレールと、両先端コ字状をなす脚部の内側に、前記の左右それぞれのアウタマストのマストレールの外側面と後面とを当接させ、そして直交状に連結する段部を有する連結材とを備えたフォークリフトにおいて、
両先端コ字状をなす連結材の脚部の内側に形成した前記の段部と、この段部の後方に間隙をおいて続けて一体的に設けられている連結材の横梁部との間の脚部の内側を、前記のクロスステーのマストレールの外側面と当接する位置にあるラインに対して所定の位置関係にしたフォークリフトのマストレールと連結材の取付け構造。」
である点で一致し、次の(1)及び(2)の点で相違する。
(1)「アウタマストのマストレール」と「クロスステー」の「連結」を、本願補正発明においては、「溶接」としているのに対して、引用文献1に記載された発明においては、「接合」としている点(以下、「相違点1」という。)。
(2)「前記の段部と、この段部の後方に間隙をおいて続けて一体的に設けられているクロスステーの横梁部との間の脚部の内側を、前記のクロスステーのマストレールの外側面と当接する位置にあるラインに対して所定の関係にした」に関して、本願補正発明においては、「両先端コ字状をなすクロスステーの両先端の脚部の内側に形成した段部と、この段部の後方に間隙をおいて続けて一体的に設けられているクロスステーの横梁部との間の脚部の内側を、クロスステーのマストレールの外側面と当接する位置にあるラインよりさらに外側の位置になるように、段部とこの段部の横梁部との間の脚部の内側を抉ることにより凹部底を形成し、これにより、クロスステーの段部の溶接角部Aに掛かっていた積載荷重応力を、クロスステーの脚部内側の凹部底に集中させる」ようにしているのに対し、引用文献1に記載された発明においては、「両先端コ字状をなす横材の両先端の脚部の内側に形成した前記の段部と、この段部の後方に間隙をおいて続けて一体的に設けられている横材の梁部との間の脚部の内側を、外側マスト11の側柱11a、11aの外側面と当接する位置にあるラインと略同一線上に設けて」おり、本願補正発明のような「クロスステーの段部と横梁部との間の脚部の内側を抉ることにより凹部底を形成するような構成」を備えていない点(以下、「相違点2」という。)。

2-3.相違点1及び2についての検討
(1)相違点1
引用文献1に記載された発明においては、外側マスト11の側柱11a、11aと横材の接合のし方が特定されてはいないが、フォークリフトにおける外側マストの側柱とクロスビームとの接合を溶接によって行なうことは、本件出願の出願前に従来から周知慣用の技術事項である(必要ならば、例えば、特開2004-210500号公報(段落【0002】及び【0003】の記載並びに図7及び8参照)、特公昭50-21748号公報(第3ページ第5欄36行ないし同ページ第6欄1行の記載及び第4図参照)等参照のこと。)。しかも、本件出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」ともいう。)における段落【0006】ないし【0009】には、先行技術を開示する文献として引用する一つの文献(特開2002-3192号公報(特許文献2)。引用文献1と同じ。)に先行技術として、「図6は外側マスト41、41とヘッドステー44の取り付け構造を示す。図6(b)の外側マストとヘッドステーに関する接合部の拡大模式図に示すように、外側マスト41、41とヘッドステー44の取り付けは溶接によるものであって、外側マスト41、41とヘッドステー44との接合は、外側マスト41の角部を、コ字状ヘッドステー44の脚部44aに形成した段部44bにおいて溶接される。」(段落【0009】)の記載がある。よって、これらの本件出願の当初明細書等における先行技術に関する記載や前述した従来から周知慣用の技術事項等を参酌すれば、引用文献1に記載された発明においても、外側マストの側柱11a、11aと横材との接合は溶接によって行なわれていると考えるのが自然である。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。
(2)相違点2
引用文献2に記載された技術事項は、略コ字状をなす横ブレース(本願補正発明における「クロスステー」に対応する。以下、この段落においては同様に括弧内には本願補正発明の対応する部材を記載する。)の両先端の脚部の端面を溝形材(マストレール)の外側面に当接させて接合する形式のリフトトラック(フォークリフト)において、略コ字状をなす横ブレース(クロスステー)の脚部と横梁部との間の脚部の内側は、横ブレース(クロスステー)の溝形材(マストレール)の外側面と当接する位置にあるラインよりさらに外側の位置になるように設けられており、したがって、引用文献2に記載された技術事項は、溝形材(マストレール)と横ブレース(クロスステー)の関係においては、コ字状をなすクロスステーの脚部と横梁部との間の脚部の内側に形成された凹部底がクロスステーのマストレールの外側面と当接する位置にあるラインよりさらに外側に位置するように構成されている本願補正発明と同様の構成を備えているといえる。
本願補正発明において、「クロスステーの段部の溶接角部Aに掛かっていた積載荷重応力をクロスステーの脚部内側の凹部底に集中させる」は、「溶接角部Aに掛かっていた積載荷重応力」の意味するところが明確でなく、また、積載荷重応力が段部の溶接角部Aから凹部底にどのような態様によって移動するのか不明であり、その意図する技術内容が直ちには明確でなく、さらに、「脚部の内側を抉ることによる凹部底の形成」との関係においてもその意図する技術内容が明確ではない。しかしながら、「(クロスステーの段部と横梁部との間の脚部の内側を抉ることにより凹部底を形成し、段部と横梁部との間の脚部の内側をクロスステーのマストレールの外側面と当接する位置にあるラインよりさらに外側の位置になるようにしたことにより、)クロスステーの段部の溶接角部Aに掛かっていた積載荷重応力をクロスステーの脚部内側の凹部底に集中させる」の記載に関して、本件出願の当初明細書等における記載や平成22年8月23日付けで提出された回答書等の記載を参酌すると、前記の記載は、「(クロスステーの段部と横梁部との間の脚部の内側を抉ることにより凹部底を形成した(あるいは、凹部狭小部を形成した)ことにより、)荷役作業中に発生する積載荷重の負荷に基づく積載荷重応力をクロスステーの脚部内側の凹部底近傍に集中させる(あるいは、凹部狭小部近傍に大きな変形を生じさせる)ようにして、段部の溶接角部Aに局部的な応力集中が発生することを抑制し防止する」ことを意図するものと解することができる。
ところで、二つの部材や部品等を溶接によって接合した際に、それらの部材や部品に荷重(負荷)が掛かる場合には、その溶接接合部に局部的な応力集中が発生し、亀裂等の不都合が生じること、そして、溶接接合部に局部的な応力集中が発生することを抑制し防止する手段として溶接接合部の近傍に切欠き部や薄肉部を設け、その切欠き部や薄肉部に応力を集中させあるいはその部分に変形を生じさせることによって、溶接接合部に対する局部的な応力集中を抑制し防止することは、本件出願の出願前に従来から一般に周知の技術事項である(必要ならば、例えば、実願昭55-182510号(実開昭57-105463号)のマイクロフィルム(特に、明細書第1ページ10ないし12行、同第3ページ8行ないし第4ページ9行、同第5ページ9ないし13行、同第6ページ8ないし14行等の記載及び第1ないし4図)、特開2003-300405号公報(特に、段落【0004】、【0007】ないし【0008】、【0011】等の記載及び図2ないし図8)、特開2000-71022号公報(特に、段落【0013】、【0017】ないし【0018】、【0025】等の記載及び図3ないし図5、図8ないし図10)、特開2003-240067号公報(特に、段落【0017】ないし【0019】の記載及び図1)、及び特開平11-71785号公報(特に、段落【0013】ないし【0016】、【0032】ないし【0036】、【0060】等の記載及び図5ないし7、図10)等参照のこと)。
したがって、引用文献1に記載された発明において、前述した周知の技術事項を鑑みて、マストレールとクロスステーの取付け構造における段部の溶接角部に対する局部的な応力集中を抑制すべく、溶接角部の近傍に凹部や薄肉部等を形成するに際して、引用文献2に記載された技術事項を参酌して、コ字状をなすクロスステーの両先端の脚部の内側に形成した段部と該段部の後方に間隙をおいて一体的に設けられている横梁部との間の脚部の内側に凹部(凹部底)を形成する(あるいは、狭小部を形成する)ことは、当業者が格別な創意工夫を要することなく容易に想到しうる程度のものである。

よって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び前述した周知の技術事項に基いて当業者が格別困難なく容易に想到し発明しうる程度のものであり、しかも、本願補正発明は、全体構成でみても、引用文献1に記載された発明や引用文献2に記載された技術事項及び前述した周知の技術事項から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。

2-4.まとめ
以上のように、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
本件補正は、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.手続の経緯及び本願発明
平成22年1月7日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、平成21年7月13日付けの手続補正によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであり、特に、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記記第2.の〔理由〕1.(1)の(a)に記載したとおりのものである。

2.引用文献の記載内容
原査定の拒絶理由に引用された引用文献1(特開2002-3192号公報)及び引用文献2(特開昭55-140494号公報)の記載事項は、上記第2.の〔理由〕2-1.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2.の〔理由〕1.(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項についての限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、上記第2.の〔理由〕2.に記載したとおり、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び前述した周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様の理由により、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び前述した周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び前述した周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-03 
結審通知日 2011-03-29 
審決日 2011-04-19 
出願番号 特願2005-32375(P2005-32375)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66F)
P 1 8・ 575- Z (B66F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 出野 智之  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 西山 真二
金澤 俊郎
発明の名称 フォークリフトにおけるマストレールとクロスステーの取付け構造  
代理人 橋爪 良彦  

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