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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1239418
審判番号 不服2007-12096  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-26 
確定日 2011-07-19 
事件の表示 平成9年特許願第504205号「1-アリールピラゾールまたは1-ヘテロアリールピラゾールによる社会性昆虫個体群の防除方法」拒絶査定不服審判事件〔平成9年1月16日国際公開、WO97/01279、平成11年7月27日国内公表、特表平11-508551〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1996年6月26日(パリ条約による優先権主張 1995年6月29日(FR)フランス国及び1996年1月29日(FR)フランス国)を国際出願日とする出願であって、平成18年5月30日付けの拒絶理由通知に対して、同年12月1日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成19年1月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月26日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年5月25日に手続補正書が提出され、平成20年9月29日付けで審尋がなされ、平成21年4月7日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願に係る発明は、平成19年5月25日付けの手続補正により補正された明細書における特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載されるとおりのものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)及び請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は、以下のとおりである。
1 本願発明1
「蟻の個体群の小部分に、餌と化合物5-アミノ-3-シアノ-1-[2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-[(トリフルオロメチル)スルフィニル]-1H-ピラゾールを含む組成物の有効量を適用することを特徴とし、使用する該組成物の有効量が該組成物を適用された蟻個体群の小部分の少なくとも90%を2?30日の間の期間で死滅させるのに必要な用量に等しいことを特徴とし、該組成物を全個体群の1?40%に相当する個体群の部分に適用することを特徴とする、かかる蟻個体群の防除の方法。」
2 本願発明2
「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻を防除する方法であって、100m^(2)当り0.0001?20gの請求項1に記載の化合物の有効量で該蟻が出現する1以上の区域を処理することを含み、該区域は該共同生息場所の外に位置するが、前記蟻が徘徊する場所である前記方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、平成19年5月25日付けの手続補正により補正される前の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本又は外国において頒布された刊行物である特開昭63-316771号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という事項を含むものである。

第4 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭63-316771号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
1-a 「(1) 一般式(I)

[式中
R^(1)はシアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アセチル基又はホルミル基であり;
R^(2)はR^(5)SO_(2)基、R^(5)SO基又はR^(5)S基(ここで、R^(5)は炭素数1?4の直鎖若しくは分岐鎖アルキル,アルケニル又はアルキニル基であり、前記基が任意に同一又は異なる1個以上のハロゲン原子で置換されていてもよい)であり;
R^(3)は水素原子又はアミノ基-NR^(6)R^(7)(ここで、R^(6)及びR^(7)は同一でも異なっていてもよく、夫々水素原子、炭素数1?5の直鎖若しくは分岐鎖アルキル,アルケニルアルキル又はアルキニルアルキル基、ホルミル基、任意に1個以上のハロゲン原子で置換された炭素数2?5の直鎖若しくは分岐鎖アルカノイル基であるか、又はR^(6)及びR^(7)が結合している窒素原子と一緒になって5員環若しくは6員環の環式イミドを形成するか、又は任意に1個以上のハロゲン原子で置換された炭素数2?5の直鎖若しくは分岐鎖アルコキシカルボニル基である)、
又は任意にメチレン部分が炭素数1?4の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基で置換された炭素数2?5の直鎖若しくは分岐鎖アルコキシメチレンアミノ基又はハロゲン原子であり;
R^(4)は2-位がフッ素,塩素,臭素又はヨウ素原子で置換され、4-位が任意に同一又は異なる1個以上のハロゲン原子で置換された炭素数1?4の直鎖若しくは分岐鎖アルキル又はアルコキシ基、塩素原子又は臭素原子で置換され、任意に6-位がフッ素,塩素,臭素又はヨウ素原子で置換されたフェニル基である]
を有するN-フェニルピラゾール誘導体であって、但し、R^(1)がシアノ基であり、R^(2)がメタンスルホニル基であり、R^(3)がアミノ基であり且つR^(4)が2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル基である化合物を除くことを特徴とする誘導体。
・・・
(12) 請求項1に記載の一般式(I)を有する化合物を有効量用いて場所を処理することを特徴とするある場所に存在する節足動物、植物線虫、寄生虫又は原虫害虫を防除する方法。」(特許請求の範囲)
1-b 「本発明はN-フェニルピラゾール誘導体、前記誘導体を含有する組成物、並びにN-フェニルピラゾール誘導体の節足動物(arthropod)、植物線虫(plant nematode)、寄生虫(helminth)及び原虫害虫(protozoan pests)に対する使用に関する。」(6頁左上欄末行?右上欄4行)、
1-c 「前記化合物は、節足動物、植物線虫、寄生虫及び原虫害虫に対して有用な活性を有する。特に節足動物が前記化合物を摂取(ingestion)することによって有用な活性を呈する。」(6頁右下欄12?15行)、
1-d 「特に好ましい一般式(I)を有する化合物を以下に例示する。
1. 5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルチオピラゾール」(7頁右上欄末行?左下欄4行)
1-e 「52. 5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(9頁右下欄1?3行)
1-f 「 以下化合物を同定及び参照するために上記した化合物番号を使用する。
本発明により提供されるある場所(locus)における節足動物、植物線虫、寄生虫又は原虫害虫を防除する方法は、一般式(I)(式中、各シンボルは上に定義した通りである)を有する化合物の有効量を用いて(例えば施用又は適用により)場所を処理することからなる。」(11頁右下欄下から2行?12頁左上欄6行)、
1-g 「一般式Iを有する化合物は、・・・家庭及び工場地域に出没したゴキブリ、アリ及びその他の節足動物害虫を防除するために、・・・使用される。」(12頁右上欄13行?右下欄9行)、
1-h 「節足動物や線虫を防除するには、通常、節足動物または線虫に荒らされていてこれらを防除しようとする場所に対して、この処理する場所1ヘクタール(ha)当たり活性化合物を約0.1?25kgの割合で散布する。理想的な条件下では、防除しようとする害虫によって変わるが、少なめの施用量で適切な保護を得ることができる。一方、悪天候条件では、害虫の耐性その他の要因により、活性成分を大量に使用する必要があろう。」(14頁左下欄5?13行)
1-i 「節足動物を防除するのに適した固体または液体の餌は、一般式(I)の化合物を1種以上と担体または希釈剤を含むこの担体または希釈剤としては、節足動物による消費を誘発する食料その他の物質でよい。
液体組成物としては、一般式(I)の化合物を1種以上含有する水混和性の濃縮物、乳化可能な濃縮物、流動性の懸濁液、湿潤性または可溶性の粉末があり、これらは節足動物が寄生しているかもしくは寄生しやすい宿主や場所、たとえば家屋、屋内外の貯蔵もしくは加工処理区域、容器もしくは設備および静水もしくは流水の処理に使用できる。
一般式(I)の化合物を1種以上含有する固体の均質または不均質な組成物、たとえば顆粒、ペレット、ブリケットまたはカプセルなどは一定期間に亘って静水または流水を処理するのに使用できる。同様な効果は、水分散性濃縮物を滴下したり時々食餌として与えたりしても得られる。」(17頁左下欄8行?右下欄9行)
1-j 「動物、木材、貯蔵品または家庭用品に局所的に使用する固体および液体の組成物は、通常、一般式(I)の化合物1種以上を0.00005?90重量%、特に0.001?10重量%含有する動物に経口か非経口(経皮を含む)で投与するための固体および液体の組成物は通常一般式(I)の化合物1種以上を0.1?90重量%含有する。薬用飼料は通常一般式(I)の化合物1種以上を0.001?3重量%含有する。食餌と混合する濃縮物および追餌は通常一般式(I)の化合物1種以上を5?90重量%含有し、5?50重量%が好ましい。」(19頁右上欄9行?左下欄3行)
1-k 「c)試験種:
Spodoptera littoralis
インゲンマメの葉をペトリ皿中の寒天上に置き、5匹の幼虫(二齢)を入れた。各処理について同じ皿を4個ずつ用い、Potter Tower中で適当な希釈試験溶液を噴霧した。2日後生存している幼虫を寒天中に置いた未処理の葉を含む類似の皿に移した。2?3日後皿を恒温(25℃)室から取出し、幼虫の死亡率の平均を求めた。これらのデータは、50%の水性アセトンだけで処理した皿をコントロールとしてこのコントロールでの死亡率と比較した。
以上の方法に従って化合物1?10、12?23、25?27、31?57、59?70、76?79、81?88、90?92、96、101を施用したところ、Plutella xylostellaの幼虫に対して500ppm未満の濃度で少なくとも65%の死亡率を示した。」(20頁左右上欄12行?左下欄11行)
1-l 「組成物実施例8
下記成分:
5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルチオピラゾール 0.1-10%w/w
小麦粉 80
Molasses 100まで
を均密に混合して食餌を作製した。
この食餌を経口摂取により節足動物を防除するために、ある場所、例えば蟻,イナゴ,ゴキブリ,ハエ等の節足動物により汚染された台所、病院、商店等の家屋敷及び事業所建物並びに屋外に分配した。」(22頁右下欄5?末行)
1-m 「実施例29
化合物Nos.59,52及び化合物No.52の中間物質
クロロホルム(40ml)中に5-アミノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-メチルチオ-3-トリフルオロメチルピラゾール(1.0g)を含む攪拌溶液に、室温でm-クロロ過安息香酸(0.42g)を少しづつ添加して処理した。6時間攪拌後溶液をジクロロメタンで希釈し、亜硫酸ナトリウム溶液,水酸化ナトリウム溶液及び水で順次洗浄した。溶液を無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、真空で蒸発させると黄色油が生じた。シリカ(Merck,230-400メッシュ,0.7kg/m^(2))を用いるクロマトグラフィー[溶離液ジクロロメタン/酢酸エチル(4:1)]により精製すると、白色固体の形態で5-アミノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-メチルスルフィニル-3-トリフルオロメチルピラゾールが得られた。融点142?145℃(分解)
5-アミノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-メチルチオ-3-トリフルオロメチルピラゾールに代えて以下のフェニルピラゾールを使用する以外は同様に処理して、下記の化合物を得た。
・・・
5-アミノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-3-シアノ-4-トリフルオロメチルチオピラゾールから、白色固体の形態で5-アミノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-3-シアノ-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール(化合物No.52);融点203?203.5℃」(60頁右上欄8行?右下欄16行)

第5 当審の判断
第5-1 本願発明1についての判断
1 引用発明
刊行物1には、一般式(I)の化合物が蟻を含む節足動物等を防除するために使用されることが記載されており(摘示1-b、1-c、1-f及び1-g)、また、組成物実施例8として、「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(化合物52)と同様に、特に好ましい一般式(I)を有する化合物として例示されている、「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルチオピラゾール」(化合物1)と餌を含む組成物(食餌)を作製して、経口摂取により蟻等の節足動物により汚染された台所、病院、商店等の家屋敷及び事業所建物並びに屋外に分配したこと(摘示1-l)、及び「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(化合物52)を得たこと(摘示1-m)、が記載されている。
そして、刊行物1には以下の記載がある。
・「(1) 一般式(I)

[式中
R^(1)はシアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アセチル基又はホルミル基であり;
R^(2)はR^(5)SO_(2)基、R^(5)SO基又はR^(5)S基(ここで、R^(5)は炭素数1?4の直鎖若しくは分岐鎖アルキル,アルケニル又はアルキニル基であり、前記基が任意に同一又は異なる1個以上のハロゲン原子で置換されていてもよい)であり;
R^(3)は水素原子又はアミノ基-NR^(6)R^(7)(ここで、R^(6)及びR^(7)は同一でも異なっていてもよく、夫々水素原子、炭素数1?5の直鎖若しくは分岐鎖アルキル,アルケニルアルキル又はアルキニルアルキル基、ホルミル基、任意に1個以上のハロゲン原子で置換された炭素数2?5の直鎖若しくは分岐鎖アルカノイル基であるか、又はR^(6)及びR^(7)が結合している窒素原子と一緒になって5員環若しくは6員環の環式イミドを形成するか、又は任意に1個以上のハロゲン原子で置換された炭素数2?5の直鎖若しくは分岐鎖アルコキシカルボニル基である)、
又は任意にメチレン部分が炭素数1?4の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基で置換された炭素数2?5の直鎖若しくは分岐鎖アルコキシメチレンアミノ基又はハロゲン原子であり;
R^(4)は2-位がフッ素,塩素,臭素又はヨウ素原子で置換され、4-位が任意に同一又は異なる1個以上のハロゲン原子で置換された炭素数1?4の直鎖若しくは分岐鎖アルキル又はアルコキシ基、塩素原子又は臭素原子で置換され、任意に6-位がフッ素,塩素,臭素又はヨウ素原子で置換されたフェニル基である]
を有するN-フェニルピラゾール誘導体であって、但し、R^(1)がシアノ基であり、R^(2)がメタンスルホニル基であり、R^(3)がアミノ基であり且つR^(4)が2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル基である化合物を除くことを特徴とする誘導体。
・・・
(12) 請求項1に記載の一般式(I)を有する化合物を有効量用いて場所を処理することを特徴とするある場所に存在する節足動物、植物線虫、寄生虫又は原虫害虫を防除する方法。」(特許請求の範囲)
・「特に好ましい一般式(I)を有する化合物を以下に例示する。
・・・
52. 5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(摘示1-d及び1-e)
・「前記化合物は、節足動物、植物線虫、寄生虫及び原虫害虫に対して有用な活性を有する。特に節足動物が前記化合物を摂取(ingestion)することによって有用な活性を呈する。」(摘示1-c)
・「一般式Iを有する化合物は、・・・家庭及び工場地域に出没したゴキブリ、アリ及びその他の節足動物害虫を防除するために、・・・使用される。」(摘示1-g)
・「節足動物を防除するのに適した固体または液体の餌は、一般式(I)の化合物を1種以上と担体または希釈剤を含むこの担体または希釈剤としては、節足動物による消費を誘発する食料その他の物質でよい。・・・同様な効果は、水分散性濃縮物を滴下したり時々食餌として与えたりしても得られる。」(摘示1-i)
・「食餌と混合する濃縮物および追餌は通常一般式(I)の化合物1種以上を5?90重量%含有し、5?50重量%が好ましい。」(摘示1-j)

以上によれば、刊行物1には、
「餌と化合物5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾールを有効量用いて場所を処理する、ある場所に存在するアリ等の節足動物を防除する方法。」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明1と引用発明1との対比
(1) 引用発明1における「餌と化合物5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾールを有効量用いて・・・処理する」は、本願発明1の「餌と化合物5-アミノ-3-シアノ-1-[2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-[(トリフルオロメチル)スルフィニル]-1H-ピラゾールを含む組成物の有効量を適用する」に対応する。
(2) また、引用発明1における「アリ等の節足動物を防除する方法」は、本願発明1の「蟻・・・の防除の方法」に対応する。
(3) 以上の点を踏まえて本願発明1と引用発明1とを対比すると、両者は、
「餌と化合物5-アミノ-3-シアノ-1-[2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-[(トリフルオロメチル)スルフィニル]-1H-ピラゾールを含む組成物の有効量を適用する、蟻の防除の方法」
の点において一致するが、以下の点において一応相違すると認められる。
ア 蟻の防除の方法について、本願発明1が「蟻個体群」の防除の方法であるのに対し、引用発明1はその点が明らかではない点
イ 餌と化合物5-アミノ-3-シアノ-1-[2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-[(トリフルオロメチル)スルフィニル]-1H-ピラゾールを含む組成物の有効量を適用するに際し、本願発明1が「蟻の個体群の小部分に、・・・該組成物を全個体群の1?40%に相当する個体群の部分に適用する」のに対し、引用発明1ではその点が明らかではない点
ウ 本願発明1が「使用する該組成物の有効量が該組成物を適用された蟻個体群の小部分の少なくとも90%を2?30日の間の期間で死滅させるのに必要な用量に等しい」と規定するのに対し、引用発明1はかかる規定が特になされていない点
(以下、これらの相違点を、それぞれ「相違点ア」ないし「相違点ウ」という。)

3 相違点についての判断
(1) 相違点アについて
蟻は個体群を形成すること、及び蟻が餌を巣に持ち帰る習性を利用して、巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する方法、はいずれも周知である(必要なら、例えば、特表昭60-500500号公報3頁右下欄4?23行及び5頁左上欄2?13行、並びに「衛生動物」,第36巻第2号,第147頁左上欄及び右上欄参照)。
また、刊行物1には、蟻を含む節足動物害虫を防除するために殺虫成分を含む餌を使用すること(摘示1-i及び1-l)が記載されている。
してみると、刊行物1に記載されている殺虫成分を含む餌は、蟻が餌を巣に持ち帰る習性を利用して、巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する方法に用いるためのものであることが明らかであるから、引用発明1には「蟻個体群」の防除の方法が記載されているに等しいので、相違点アは実質的な相違点であるとは認められない。
また、前記の周知技術を考慮して、引用発明1において、蟻の防除の方法について、「蟻個体群」の防除の方法とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

(2) 相違点イについて
先に相違点アについて述べたように、巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する方法は周知であるところ、餌を巣に運び込む蟻は数パーセントという小部分からなることも周知である(必要なら、例えば、特表昭60-500500号公報3頁右下欄16?19行参照)から、本願発明1と引用発明1とは、蟻の個体群の小部分が全個体群の数パーセントに相当する個体群の部分である場合で重複しているので、相違点イは実質的な相違点であるとは認められない。
また、餌を巣に運び込む蟻の割合が、蟻の種類、蟻の生活環境、天候などの諸条件により変化し得ることを考慮して、蟻の防除に際し、蟻の個体群の小部分の割合に幅をもたせて、「蟻の個体群の小部分に、・・・該組成物を全個体群の1?40%に相当する個体群の部分に適用する」と規定することは当業者が容易に想到し得ることである。

(3) 相違点ウについて
(ア) 刊行物1には、一般式(I)を有する化合物が蟻を含む節足動物害虫に対し防除作用を有する化合物であることが記載されており(摘示1-a?1-c、1-f?1-i及び1-k)、また、「特に好ましい一般式(I)を有する化合物を以下に例示する。」として、「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルチオピラゾール」(化合物1)と共に、「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(化合物52)を示している(摘示1-d及び1-e)ことからみて、両者(化合物1及び化合物52)は蟻に対して同様の防除作用を有する化合物であることが明らかである。

(イ) また、刊行物1の組成物実施例8には「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルチオピラゾール」(化合物1)を0.1-10%w/w含む食餌を作製して、この食餌を経口摂取により節足動物を防除するために、ある場所、例えば蟻等の節足動物により汚染された台所、病院、商店等の家屋敷及び事業所建物並びに屋外に分配したことも記載されている(摘示1-l)。

(ウ) ところで、巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する周知の方法においては、当該殺虫成分が遅延毒性を示す必要があることも周知である(必要なら、例えば、特表昭60-500500号公報3頁右下欄11?14行及び同21?23行参照)ところ、ここにいう遅延毒性とは、蟻を殺虫成分を含む餌にさらしてから、およそ「2?30日の間の期間で」死滅させることを意味することも周知である(必要なら、例えば、特表昭60-500500号公報6頁左下欄?11頁右下欄の表1?表4、「衛生動物」,第36巻第2号,第147頁左上欄及び右上欄、及び特開昭54-125686号公報4頁右上欄?右下欄の実施例3参照)。
そして、刊行物1には、Plutella xylostellaの幼虫に対し、「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルチオピラゾール」(化合物1)及び「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(化合物52)を含む化合物の希釈試験溶液を噴霧し、2日後生存している幼虫を寒天中に置いた未処理の葉を含む類似の皿に移した後、2?3日後皿を恒温(25℃)室から取出し、幼虫の死亡率の平均を求めたところ、少なくとも65%の死亡率を示したことが示されている(摘示1-k)。
してみると、引用発明1における「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(化合物52)は、施用後2日程度は害虫を生存させるが、施用を中止した2?3日後には少なくとも65%の害虫の死亡率を示す、すなわち巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する方法において必要とされる遅延毒性(すなわち、蟻を殺虫成分を含む餌にさらしてから、およそ「2?30日の間の期間で」死滅させること)を示すことが明らかである。

(エ) また、先に相違点アについて述べたように、巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する方法は周知であるところ、かかる方法によれば、「使用する該組成物の有効量」としては、当然、巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を死滅させるのに必要な用量を意味しているのは明らかであるし、しかも、このことは、本願明細書において「本発明の方法において用いられる組成物の有効量とは、蟻・・・の個体群のような社会性昆虫の個体群全体を防除しうる量と理解される。」(7頁1?3行)と記載されていることからも明らかである。
してみると、本願発明1においては、「使用する該組成物の有効量が該組成物を適用された蟻個体群の小部分の少なくとも90%を・・・死滅させるのに必要な用量に等しい」(注.下線は当審による。以下、同様。)と規定するが、巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する方法においては、蟻個体群の小部分のみならず、蟻個体群の全体を死滅させるのであるから、かかる規定は、巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する方法において必要な用量を規定したものと差異はないと解される。

(オ) 以上の点を勘案すると、刊行物1には、「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(化合物52)を含む組成物について、「使用する該組成物の有効量が該組成物を適用された蟻個体群の小部分の少なくとも90%を2?30日の間の期間で死滅させるのに必要な用量に等しい」ことが記載されているに等しいし、また、引用発明1において、「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(化合物52)を含む組成物について、「使用する該組成物の有効量が該組成物を適用された蟻個体群の小部分の少なくとも90%を2?30日の間の期間で死滅させるのに必要な用量に等しい」と規定することは当業者が容易に想到し得ることである。

(カ) なお、刊行物1には、Plutella xylostellaの幼虫に対し、「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルチオピラゾール」(化合物1)及び「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(化合物52)を含む化合物の希釈試験溶液を噴霧し、2日後生存している幼虫を寒天中に置いた未処理の葉を含む類似の皿に移した後、2?3日後皿を恒温(25℃)室から取出し、幼虫の死亡率の平均を求めたところ、少なくとも65%の死亡率を示したこと(摘示1-k)が記載されているところ、刊行物1における「少なくとも65%の死亡率」という値は、本願発明1の「少なくとも90%を・・・死滅させる」より、蟻の死亡率の割合が低い可能性があるかのようにも見える。
しかしながら、巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する周知の方法において、毒性を示す化合物の含有量を高めることにより蟻の死亡率の割合を高め得ることは自明である(必要なら、例えば、特表昭60-500500号公報8頁左下欄?9頁右下欄の表2)し、また、蟻の好む誘引剤を用いて蟻の死亡率の割合を高め得ることも周知である(必要なら、例えば、特開平6-80529号公報)から、引用発明1によるアリ等の節足動物を防除する方法においては、アリ等の節足動物の「少なくとも90%を・・・死滅させる」態様を包含していることは当業者に明らかである。

4 小括
以上のとおり、上記各相違点は実質的な相違点であるとは認められないので、本願発明1は、刊行物1に記載された発明(引用発明1)であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
また、仮に上記各相違点が実質的な相違点であるとしても、上記各相違点は当業者が容易に想到し得るものであり、しかも、本願発明1が上記各相違点により格別顕著な効果を奏するものとも認めるべき根拠も見いだせないから、本願発明1は、刊行物1に記載された発明(引用発明1)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

5 請求人の主張について
請求人は、審判請求書についての平成19年7月18日付け手続補正書の「1.本願発明の説明」の項において、以下の主張をしている。
「本願発明の方法の特徴は、二次的殺滅効果の発揮にある。すなわち、蟻の全個体群の一部(1?40%)に相当する小部分を、2?30日にわたって90%死滅させるのに必要な用量の5-アミノ-3-シアノ-1-[2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-[(トリフルオロメチル)スルフィニル]-1H-ピラゾール(以下、化合物A(明細書第11頁下から4?1行))を適用し、小部分のすべてを餌への曝露場所で死滅させるのではなく、当該小部分が餌の有効成分を全個体群が棲息する巣に持ち帰ることにより、餌の設置場所にて餌に曝露されていない蟻も含め、蟻塚の全個体群を死滅させることにある。
・・・
このような特徴的な二次的殺滅効果を示す蟻個体群の防除方法は、本願出願以前にはまったく知られていなかったものである。」

しかしながら、先に相違点ア及びイについて述べたように、巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する方法は周知であり、また餌を巣に運び込む蟻は数パーセントという小部分からなることも周知であるから、請求人が主張する二次的殺滅効果なるものは、巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する周知の方法が奏する作用効果を単に表現したものにすぎないので、「このような特徴的な二次的殺滅効果を示す蟻個体群の防除方法は、本願出願以前にはまったく知られていなかったものである。」という主張を認めることはできない。
したがって、請求人の主張は、上記4の判断を左右するものではない。

第5-2 本願発明2についての判断
1 引用発明
刊行物1には、一般式(I)の化合物が蟻を含む節足動物等を防除するために使用されることが記載されており(摘示1-b、1-c、1-f及び1-g)、また、組成物実施例8として、「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(化合物52)と同様に、特に好ましい一般式(I)を有する化合物として例示されている、「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルチオピラゾール」(化合物1)と餌を含む組成物(食餌)を作製して、経口摂取により蟻等の節足動物により汚染された台所、病院、商店等の家屋敷及び事業所建物並びに屋外に分配したこと(摘示1-l)、及び「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(化合物52)を得たこと(摘示1-m)、が記載されている。
そして、刊行物1には以下の記載がある。
・「(1) 一般式(I)

[式中
R^(1)はシアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アセチル基又はホルミル基であり;
R^(2)はR^(5)SO_(2)基、R^(5)SO基又はR^(5)S基(ここで、R^(5)は炭素数1?4の直鎖若しくは分岐鎖アルキル,アルケニル又はアルキニル基であり、前記基が任意に同一又は異なる1個以上のハロゲン原子で置換されていてもよい)であり;
R^(3)は水素原子又はアミノ基-NR^(6)R^(7)(ここで、R^(6)及びR^(7)は同一でも異なっていてもよく、夫々水素原子、炭素数1?5の直鎖若しくは分岐鎖アルキル,アルケニルアルキル又はアルキニルアルキル基、ホルミル基、任意に1個以上のハロゲン原子で置換された炭素数2?5の直鎖若しくは分岐鎖アルカノイル基であるか、又はR^(6)及びR^(7)が結合している窒素原子と一緒になって5員環若しくは6員環の環式イミドを形成するか、又は任意に1個以上のハロゲン原子で置換された炭素数2?5の直鎖若しくは分岐鎖アルコキシカルボニル基である)、
又は任意にメチレン部分が炭素数1?4の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基で置換された炭素数2?5の直鎖若しくは分岐鎖アルコキシメチレンアミノ基又はハロゲン原子であり;
R^(4)は2-位がフッ素,塩素,臭素又はヨウ素原子で置換され、4-位が任意に同一又は異なる1個以上のハロゲン原子で置換された炭素数1?4の直鎖若しくは分岐鎖アルキル又はアルコキシ基、塩素原子又は臭素原子で置換され、任意に6-位がフッ素,塩素,臭素又はヨウ素原子で置換されたフェニル基である]
を有するN-フェニルピラゾール誘導体であって、但し、R^(1)がシアノ基であり、R^(2)がメタンスルホニル基であり、R^(3)がアミノ基であり且つR^(4)が2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル基である化合物を除くことを特徴とする誘導体。
・・・
(12) 請求項1に記載の一般式(I)を有する化合物を有効量用いて場所を処理することを特徴とするある場所に存在する節足動物、植物線虫、寄生虫又は原虫害虫を防除する方法。」(特許請求の範囲)
・「特に好ましい一般式(I)を有する化合物を以下に例示する。
・・・
52. 5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」(摘示1-d及び1-e)
・「一般式Iを有する化合物は、・・・家庭及び工場地域に出没したゴキブリ、アリ及びその他の節足動物害虫を防除するために、・・・使用される。」(摘示1-g)

以上によれば、刊行物1には、
「化合物5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾールを有効量用いて場所を処理する、ある場所に存在するアリ等の節足動物を防除する方法。」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明2と引用発明2との対比
(1) 蟻が「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する」ことは周知であるので、引用発明2における「アリ」は「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」と同義である。
(2) また、引用発明2における「化合物5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾールを有効量用いて場所を処理する」は、本願発明2の「請求項1に記載の化合物の有効量で該蟻が出現する1以上の区域を処理する」に対応する。
(3) 以上の点を踏まえて本願発明2と引用発明2とを対比すると、両者は、
「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻を防除する方法であって、請求項1に記載の化合物の有効量で該蟻が出現する1以上の区域を処理することを含む、前記方法。」
の点において一致するが、以下の点において一応相違すると認められる。
ア’ 請求項1に記載の化合物の有効量について、本願発明2が「100m^(2)当り0.0001?20gの」と規定するのに対し、引用発明2はかかる規定が特になされていない点
イ’ 区域を処理することについて、本願発明2が「該区域は該共同生息場所の外に位置するが、前記蟻が徘徊する場所である」と規定するのに対し、引用発明2はかかる規定が特になされていない点
(以下、これらの相違点を、それぞれ「相違点ア’」及び「相違点イ’」という。)

3 相違点についての判断
(1) 相違点ア’について
刊行物1には、「節足動物や線虫を防除するには、通常、節足動物または線虫に荒らされていてこれらを防除しようとする場所に対して、この処理する場所1ヘクタール(ha)当たり活性化合物を約0.1?25kgの割合で散布する。」(摘示1-h)と記載されているところ、ここにいう「1ヘクタール(ha)当たり・・・約0.1?25kgの割合」とは、換算すると「100m^(2)当り約0.01?250g」に対応するから、本願発明2と引用発明2とは、請求項1に記載の化合物の有効量について、「100m^(2)当り0.01?20g」とする点で重複しているので、相違点ア’は実質的な相違点であるとは認められない。
また、刊行物1には、「理想的な条件下では、防除しようとする害虫によって変わるが、少なめの施用量で適切な保護を得ることができる。一方、悪天候条件では、害虫の耐性その他の要因により、活性成分を大量に使用する必要があろう。」(摘示1-h)と記載されていることから、少なめの施用量で適切な保護を得ることを考慮して「100m^(2)当り0.01g」より少ない施用量としたり、悪天候条件や害虫の耐性その他の要因を考慮して「100m^(2)当り20g」より多い施用量とすることにより、引用発明2において、請求項1に記載の化合物の有効量を「100m^(2)当り0.0001?20gの」と規定することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2) 相違点イ’について
蟻は蟻塚や地中の蟻の巣などの共同生息場所に生息するところ、刊行物1には、殺虫成分を含む食餌を、蟻塚や地中の蟻の巣などの共同生息場所ではないことが明らかな「蟻・・・により汚染された台所、病院、商店等の家屋敷及び事業所建物並びに屋外に分配した。」(摘示1-l)ことが記載されているので、相違点イ’は実質的な相違点であるとは認められない。
また、先に相違点アについて述べたように、殺虫成分を含む餌により、巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を防除する方法は周知であるところ、蟻は蟻塚や地中の蟻の巣などの共同生息場所(集団居住地)に生息するのに対し、殺虫成分を含む餌は、作物地域、牧草地、公園又は他のアリの防除を望む場所に散布し職蟻が入手できるようにすることは周知である(必要なら、例えば、特開昭54-125686号公報3頁10?15行)から、かかる周知の方法を用いて、引用発明2において、区域を処理することについて、「該区域は該共同生息場所の外に位置するが、前記蟻が徘徊する場所である」と規定することは当業者が容易に想到し得ることである。

4 小括
以上のとおり、上記各相違点は実質的な相違点であるとは認められないので、本願発明2は、刊行物1に記載された発明(引用発明2)であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
また、仮に上記各相違点が実質的な相違点であるとしても、上記各相違点は当業者が容易に想到し得るものであり、しかも、本願発明2が上記各相違点により格別顕著な効果を奏するものとも認めるべき根拠も見いだせないから、本願発明2は、刊行物1に記載された発明(引用発明2)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができず、また、本願発明1及び2は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について判断するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-31 
結審通知日 2009-09-01 
審決日 2009-09-15 
出願番号 特願平9-504205
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
P 1 8・ 113- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 保  
特許庁審判長 唐木 以知良
特許庁審判官 西川 和子
松本 直子
発明の名称 1-アリールピラゾールまたは1-ヘテロアリールピラゾールによる社会性昆虫個体群の防除方法  
代理人 川口 義雄  

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