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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H04N
管理番号 1239446
審判番号 無効2010-800165  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-09-17 
確定日 2011-07-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第4035007号発明「地上デジタル放送受信システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

出願日 平成14年 7月 8日
(特願2002-198420号)

登録日 平成19年11月 2日
(特許第4035007号)

無効審判請求 平成22年 9月17日
(無効2010-800165号)

答弁書 平成22年12月 6日

通知書 平成23年 1月 7日

口頭審理陳述要領書(請求人) 平成23年 2月17日

口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成23年 3月 3日

口頭審理 平成23年 4月20日

第2 本件発明

本件特許第4035007号の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された発明(以下、それぞれ、請求項1に係る発明を「本件発明1」、請求項2に係る発明を「本件発明2」、あるいは、これらを総称して、「本件発明」という。)は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
地上デジタル放送受信用アンテナと、
このアンテナ付近に設けられ、前記アンテナに直接に接続され、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタと、
このブースタからの出力信号が同軸ケーブルを介して入力される受信機とを、
具備し、
前記アンテナが少なくとも放射器を備える八木形アンテナで、それの放射器が、放射器ボックスに設けられ、このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され、
前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている
地上デジタル放送受信システム。
【請求項2】
請求項1記載の地上デジタル放送受信システムにおいて、前記ケースには、前記ブースタの出力側に前記ケース内において接続された出力側接栓が設けられ、この出力側接栓は、前記受信機に接続された同軸ケーブルに設けられたケーブル側接栓に電気的及び機械的に結合され、
前記アンテナ側接栓、前記入力側接栓、前記出力側接栓及び前記ケーブル側接栓は、防水処理されている
地上デジタル放送受信システム。

第3 当事者の主張
1.請求人の主張の概要
請求人は、証拠として甲第1号証ないし甲第8号証を提示し、本件発明は、上記証拠に記載された発明に基づき容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、「特許第4035007号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。

2.請求人の証拠の方法

甲第1号証:TOSHIBA 総合カタログ’97-98 CATV機器 P.69

甲第2号証:実願平1-61160号のマイクロフィルム

甲第3号証:実願昭58-123275号のマイクロフィルム

甲第4号証:実公平5-46337号公報

甲第5号証:特公平6-87524号公報

甲第6号証:実願昭53-182486号のマイクロフィルム

甲第7号証:特開2000-3766号公報

甲第8号証:実願昭54-101639号のマイクロフィルム

3.被請求人の主張
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」旨の審決を求めている。

第4 当審の判断
1.各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
(1a)甲第1号証には、第1行に「ターボアンテナ(ブースター内蔵)」と記載されている。
上記記載の下には、型番として「8W1419XTB1」、「1925BL1」、「1925BLM1」と表記され、該それぞれの表記の下には「ブースター内蔵」と記載され、また、上記それぞれの型番の隣には、複数の素子を有したアンテナの写真が型番に対応して配置されている。
上記写真の下には、「仕様」として表形式で、以下の事項が記載されている。
(1b)「8W1419XTB1」について
受信チャンネルとして「1?3」、「4?12」、「19」。
素子数「8」
インピーダンス(Ω)「外部アンテナ入力75/300(200)、アンテナ出力75」
(1c)「1925BL1」について
受信チャンネルとして「19?21」、「34?36」、「1?12」。
素子数「22」
インピーダンス(Ω)「75」
(1d)「1925BLM1」について
受信チャンネルとして「19?21」、「34?36」、「1?12」。
素子数「22」
インピーダンス(Ω)「75」

(2)甲第2号証の記載事項
(2a)従来より、テレビ、ラジオ等の電波の受信機材として、アンテナが広く用いられてきている。このアンテナによる電波受信に際しては、電波が給電線、分配器等を通ると伝送損失や内部損失などが発生し、電波は減衰してしまう傾向がある。このような電波の減衰を補足するものとして、通常、ブースターが用いられてきている。(明細書2頁2行ないし7行)
(2b)一方、第4図に示した構成図は、電源分離型ブースターを用いた場合の電波受信システムを示したものである。電源分離型ブースター(オ)は、一般的に、弱電界地域で用いられているものであり、ブースター(オ)をアンテナ(ウ)付近に配設するとともに、低圧電源部(カ)を室内(イ)に設置している。この場合にもブースター(オ)に駆動電力を供給する必要があるため、低圧電源部(カ)に外部電源として一般家庭用電源AC100V等を使用し、同軸ケーブル等の給電線にAC20V?AC30V程度の低圧電源を乗せて、この低圧電源部(カ)で信号分のみ取り出し、受信機(エ)へと送信している。(明細書3頁4行ないし16行)
(2c)また、アンテナ(ウ)で受信した入力信号を忠実に増幅し、しかもノイズを低下させる、いわゆるN/Sの比の良好な利得を得るためには、ブースターをできるだけアンテナの近くに設置することが効果的であることが知られてもいる(明細書4頁7行ないし11行)
(2d)第1図は、この考案のブースター内蔵アンテナの一実施例を示したものである。
この例においては、アンテナ受信部(1)設けた受信機間の整合を行う整合器の内部に、バッテリーに接続したブースターをバッテリーとともに内蔵し、一体化したブースター内蔵整合器(2)を配設している。このアンテナ受信部(1)に設けた整合器については特に制限はなく、従来公知の適宜なものを用いることができる。また、その表面にはブースター内蔵整合器(2)内部のバッテリーを充電するための太陽電池(3)を設けてもいる。さらにこのブースター内蔵整合器(2)には、整合トランス、自動充電回路、感度調整抵抗等の電気素子をも内蔵し、一体化することができる。このように、ブースターをアンテナ受信部(1)の整合部内に設けることによって、受信した入力信号を忠実に増幅し、しかもノイズを著しく低下させることができ、N/S比の良好な利得が得られる。(明細書6頁9行ないし7頁7行)
(2e)この第1図に例示したブースター内蔵アンテナを用いて受信した電波信号をテレビ、ラジオ等の受信機に送信する場合には、第2図にその受信システムをブロック図で示したように、受信部(1)で受信した入力信号を増幅部(4)で増幅する。この入力信号の増幅は、上述したように、第1図に示したブースター内蔵整合器(2)内部に設けられたブースターで行うことができ、またこのブースタを駆動するための電力は、ブースターに接続したバッテリー(5)により供給することができる。増幅された電波信号(6)は、第1図に示したフィーダー線、同軸ケーブル等の給電線(7)を介して、テレビ、ラジオ等の受信機へと送信される。(明細書7頁19行ないし8頁12行)

(3)甲第3号証の記載事項
(3a)本考案は、テレビ受信アンテナ、特に弱電界地区でのUHF帯受信アンテナとして好適なブースター付きアンテナ放射器のケースに関する。(明細書1頁下から4行ないし下から1行)
(3b)このようなサービスエリア周辺及び内部の弱電界地区での受信には他チャンネル電波の影響が強く、目的のチャンネルの受信を良好にするには高利得アンテナの放置、特定チャンネル専用アンテナの増設、ブースターアンプの設置など、アンテナ設備にコストがかかるのが問題点とされていた。
本考案はこのような情況に鑑みてなされたてもので、既設のアンテナの放射器の代りに付け換えることでこれを高利得ブースターアンプ付きアンテナに替えることが可能なブースター付きアンテナ放射器用のケース、特に前記付け換えに便利な構造のケースを提供することを目的とするものである。(明細書2頁3行ないし16行)
(3c)従って、本考案のケースを用いて構成したブースター付きアンテナ放射器は、既存の受信アンテナの放射器の代りに該受信アンテナの導波器エレメントと反射器エレメントの間にその放射器エレメントが位置するように取付けられ、この場合のケースの固定は、その前面又は底面の取付け座を用いてアンテナ主ビームまたはアンテナポール上端部にネジ止めにより果たされる。(明細書3頁13行ないし20行)
(3d)アンプからの出力ケーブルフィーダーを導入孔23を通して外部受信機へ導くようにし・・。(明細書6頁4行ないし6行)
(3e)本考案は叙上の通りであり、既設の受信アンテナの放射器と交換できるようにブースター付きアンテナ放射器を構成できる(明細書7頁8行ないし10行)

(4)甲第4号証の記載事項
(4a)すなわち本考案の通信用広帯域アンテナは、導波素子、放射素子、反射素子を配列し、前記放射素子を折り返し放射素子として形成し、該放射素子の給電部より第1の同軸給電線で給電する八木アンテナにおいて、前記した給電部と第1の同軸給電線との間にλ/4インピーダンス変成器としての第2の同軸給電線を介して接続し、かつ前記第2の同軸給電線を前記給電部及び第1の同軸給電線に対し同軸コネクタで着脱自在に接続可能としたことを特徴とする。(公報2頁左欄34行ないし43行)
(4b)更には、変成器5にコネクタ7を使用するならば給電部4の給電用コネクタ6に着脱自在に接続可能となり、同軸給電線8にもコネクタ7を取付ければ変成器5と着脱自在に接続可能である。
特に、本実施例において、λ/4インピーダンス変成器5には、75Ω型一般同軸給電線(第2の同軸給電線)が用いられ、この給電線は指定周波数のλ/4の波長の長さを有し、市販コネクタを接続用として用いており、構造は簡易で、非常に安価である。(公報2頁右欄39行ないし3頁左欄4行)

(5)甲第5号証の記載事項
(5a)[技術分野]
本発明は、衛星放送を受信する平面アンテナに関するものである。(公報1頁左下欄15行ないし右下欄2行)
(5b)第9図に示すように、平面アンテナ本体1と、ダウンコンバータ2とをコネクタ2aを介して接続しており、しかも、ダウンコンバータ2のフロントエンドの増幅デバイス(例えば、GaAsFET)が最小の雑音指数NFで動作するような使用状態が実現されていなかったので、受信面積の小さい平面アンテナ本体1を用いた場合には、満足できる受信画像を得るための受信性能が得られないという問題があった。(公報2頁左欄49行ないし右欄12行)

(6)甲第6号証の記載事項
(6a)本考案はテレビジョン信号増幅器に関し、小型で同軸ケーブルの中継機能を持った形となし、家庭でテレビジョン信号が弱い状態にある時等に、伝送ケーブルの途中に簡単に挿入して使用できるようにすると共に、小型低利得にして、アンテナ直下に設置した際には前置増幅器としての機能を有し、S/Nの向上に有効に寄与し得るようにしたものである。(明細書1頁下から8行ないし最下行)
(6b)以下、図示の実施例について本考案を詳述すると、第1図は組立状態を示し、第2図は分解状態を示す。第1図及び第2図において、(1)は有底円筒状の本体であり、その底部側に通孔(2)が同芯状に形成され、また開口部側には雌ネジ穴(3)が形成されている。(4)は増幅回路をプリント配線してなるプリント基板で、本体(1)内に収納されており、またこのプリント基板(4)は本体(1)両端の接栓座(5)(6)に夫々電気的に接続されている。接栓座(5)(6)はF型接栓に嵌合可能で、同軸ケーブルを接続する中継接栓の働きをしている。・・・なお、接栓座(5)側は本体(1)端面とナット(7)との間に介装されたOリング(8)、接栓座(6)側は本体(1)端面と鍔部(6a)との間に介装されたOリング(9)により夫々防水構造となっており、屋外の使用にも適する。(明細書2頁11行ないし3頁11行)
(6c)本考案は、本体内にプリント配線したプリント基板を収納し、両端に接栓座を設けて同軸ケーブルの中継接栓構造としているので、伝送ケーブルの途中に簡単に挿入して使用でき、しかも小型であり、・・・また、小型低利得化が可能であり、テンテナ(アンテナの誤記と認める。)直下に設置することにより前置増幅器として機能させ、S/Nの向上に大きく貢献できる。(明細書4頁5行ないし13行)

(7)甲第7号証の記載事項
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明のケーブル中継器は、断面扁平の可撓性を有するフラットケーブルの両端に設けられた、該フラットケーブルが引き込まれるガイド部と、同軸コネクターが取り付けられる同軸コネクター部とを備える導電性の本体部と、該本体部の開口面に嵌着される導電性の裏蓋とからなり、前記本体部内において、前記フラットケーブルの芯線と前記コネクター部の中心コンタクトとが接続されていると共に、前記フラットケーブルの外導体が前記本体部を介して前記コネクター部のアース側に接続されている。
【0006】この場合、上記ケーブル中継器において、前記本体部内に、前記フラットケーブルの端部が挟持されると共に、前記フラットケーブルの芯線と前記コネクター部の中心コンタクトとを接続するパターンが形成された接続基板が固着されているアース金具が設けられていてもよい。また、上記ケーブル中継器において、前記アース金具は、前記本体部内に一体に形成されている取付ボスに嵌着されて、前記本体内に固着されていたり、前記フラットケーブルが前記本体部内に引き込まれるガイド部に導電性のシール材が充填されていてもよい。さらに、上記ケーブル中継器において、前記裏蓋が前記本体部に水密に嵌着されることにより、前記本体部内が気密状態とされるようにしてもよく、前記同軸コネクター部が防水キャップで覆われるように、前記本体部に防水キャップ取付部が形成されていてもよい。

【0017】また、防水キャップ取付部1-1には、丸形同軸ケーブル5の先端に設けられているコネクター4が螺着される同軸コネクター部1-2を覆うように、柔軟な樹脂製とされた防水キャップ6が嵌着されている。さらに、フラットケーブル2が引き込まれるガイド部1-7内にはボンドからなるシール材18が充填されていると共に、本体部1内に延出されている中心コンタクト16が引き込まれている孔部にもシール材17が充填される。そして、本体部1の開口面の周囲にはOリング11が嵌着されて、その上から裏蓋14が嵌着される。これにより、本体部1内は気密性の空間部となり、空間部に水や湿気等が浸入することを防止することができる。

(8)甲第8号証の記載事項
(8a)本考案はブースタに係り、ブースタ部の入力側及び出力側に夫々接栓を設け、テレビジョン受像器やアダプタ等の機器を弱電界地域及び強電界地域において用いるに際し、該機器に容易に装着及びとり外し得る構成のブースタを提供することを目的とする。(明細書1頁10行ないし15行)
(8b)ここで、例えば弱電界地域において使用するに際し、第7図に示す如く、ケーブル付ブースタ10をアダプタ11に収納し、その接栓9aをアダプタ受信回路11aの接栓11bに接続する一方、接栓8aをアダプタ入力端子11dに接続する。一方、テレビジョン受像器12の受信回路にアダプタ11の受信回路11aの接栓11bと同様の凹型接栓を設けると共に、その入力側にアダプタ11の凸型接栓11dと同様の凸型接栓12aを設け、ケーブル付きブースタ10と同じ構成のブースタ10’をテレビジョン受像器12に収容し、アダプタ11の場合と同様に夫々の接栓を接続する。
これにより、第7図に示す如く、分配器2にて分配された信号はアダプタ11のブースタ10及びテレビジョン受像器12のブースタ10’にて夫々増幅されて夫々の受信回路に供給される。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一方、強電界地域において使用するに際し、ケーブル付きアダプタ10、10’を夫々アダプタ11、テレビジョン受像器12からとり外し、アダプタ11の凸形接栓11dを受信回路11aの凹形接栓11bに接続する一方、テレビジョン受像器の凸形接栓12aをその受信回路の凹形接栓(図示せず)に接続する。
これにより、分配器2にて分配された信号はそのままアダプタ11、テレビジョン受像器12に供給される。(明細書4頁5行ないし5頁17行)
(8c)又、入力側ケーブル8に凹形接栓8a、出力側ケーブル9に凸形接栓9aを設け、アダプタ11の各端子にこれらに嵌合し得る形状の接栓を設けたため、ケーブル付きブースタ10を装着した場合及びとり外した場合のいずれにおいても各接栓どうしを対応させて嵌合せしめ得る。
上述の如く、本考案になるブースタは、ブースタ部の入力側に入力側接栓を設けると共に、出力側に出力側接栓を設けたため、例えば、アンテナよりの信号を分配して夫々複数の機器に供給するに際し、弱電界地域においては該機器に装着して入力分配信号を増幅せしめて用い、一方、強電界地域においては該機器からとり外して入力分配信号をそのまま機器に供給せしめ、これにより、弱電界地域及び強電界地域において使用する場合、単に機器に装着、とり外しするだけの簡単な操作にて用い得、従来の如き大電力用のブースタを用いる必要はなく、これにより、消費電力が少なくて済み、又、熱雑音が少なく、SN比が良好であり、更に、強電界地域において減衰器等を併用する必要がないため、装置を小形かつ安価に構成し得、又、従来の如き強電界地域におけるブースタの飽和がないため、受信妨害を生じることはない等の特長を有する。(明細書6頁7行ないし7頁10行)

2.請求人の主張の詳細
請求人は上記甲第1ないし8号証から、本件発明は当業者が容易に発明をすることができた、と主張しているが、その詳細は、「本件第1特許発明と甲第1号証ないし甲第3号証に記載された先行技術発明とを対比すると・・・点で共通し、・・・で両者は相違する。」(審判請求書12頁下から3行ないし13頁9行)とあり、また、「すなわち、本件第1特許発明と甲第6号証に記載された先行技術発明とを対比すると、・・・点で共通し、・・・両者は相違する。」(審判請求書14頁18行ないし25行)とあるから、請求人の主張は、甲第1号証ないし甲第3号証、および、甲第6号証から、それぞれ主たる引用発明を認定し、上記認定されるそれぞれの引用発明から、他の技術事項を組み合わせることにより、本件発明は当業者が容易に発明をすることができたものであると主張していると認めることができる。
したがって、以下では、上記甲第1号証ないし甲第3号証、および、甲第6号証からそれぞれ主たる引用発明を認定し、上記認定される主たる引用発明と本件発明とを対比することにより、本件発明の容易性について検討する。

3.甲第1号証ないし甲第3号証から主たる引用発明を認定した検討
A.甲1号証に記載された発明
(1)アンテナについて
上記第4 1.(1)の記載によれば、甲第1号証には、ターボアンテナ(ブースタ内蔵)として、受信チャンネルが、例えば「1?12」チャンネルのアンテナが記載されている。上記「1?12」チャンネルは、通常地上放送のテレビ信号が送受信されるチャンネルを指すから、地上放送受信用アンテナが記載されているということができる。

(2)ブースタについて
甲第1号証の記載によれば、「ターボアンテナ(ブースター内蔵)」とあるから、アンテナにブースタが内蔵されたものであるこことが理解できる。アンテナに内蔵されたブースタは、アンテナが受信した信号を増幅することが普通であるから、アンテナが受信した入力信号を増幅するブースタである。
以上のことから見て、甲第1号証には、「アンテナの内部に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅する」ブースタが記載されているということができる。

(3)受信機について
上記(1)で検討したとおり、甲第1号証に記載されたアンテナは、その記載から、テレビ信号を受信するものであることが普通に読み取ることができる。
そして、通常アンテナで受信したテレビ信号は、テレビ受信器へ送信することが当たり前である。
また、上記甲第1号証のインピーダンスが75Ωであるとの記載が、アンテナから出力される信号が同軸ケーブルにて受信器へ送信されていることを示すことは当業者であれば自明のことであるから、同軸ケーブルを介して、送信しているものであると認めることができる。
そして、アンテナがブースターを内蔵していることは、上記(2)にて検討したとおりであるから、アンテナが受信した信号はブースタにより増幅されて出力されていることが明らかである。
以上まとめると、甲第1号証には「ブースターにより増幅された信号は、同軸ケーブルを介して、受信機へと送信」していることが記載されているということができる。

(4)受信システムについて
上記(1)ないし(3)にて検討したとおり、甲第1号証には、アンテナが地上放送であるテレビ信号を受信し、上記受信した信号をアンテナに内蔵したブースタで増幅し、増幅された信号は、同軸ケーブルを介して、テレビ受信器に送信されることが、開示されているということができ、上記「受信」、「増幅」、「送信」、「送信された信号を受信するテレビ受信器」はひとまとめにして、「地上放送を受信するシステム」と呼ぶことができるから、甲第1号証には「地上放送を受信するシステム」が記載されているということができる。

(5)まとめ
以上、まとめると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「引用発明1」という)が記載されている。

(引用発明1)
地上放送受信用アンテナと、
アンテナの内部に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅するブースターとを有し、
ブースターにより増幅された信号は、同軸ケーブルを介して、受信機へと送信される、
地上放送を受信するシステム。

B.甲2号証に記載された発明
(1)アンテナについて
上記第4 1.(2)(2a)の記載によれば、甲第2号証には、「テレビ、ラジオ等の受信機材として、アンテナが広く用いられ」と記載されており、テレビ、ラジオは放送である。また、甲第1号証図に記載されるような多素子のテレビ用アンテナは通常地上放送を受信するためのもの(すなわち、地上放送受信用)である。
したがって、甲第2号証には、「地上放送受信用アンテナ」が記載されている。

(2)ブースタについて
(2a)
上記第4 1.(2)(2b)および(2c)の記載によれば、甲第2号証には、「ブースター(オ)をアンテナ(ウ)付近に配設」、「この場合にもブースター(オ)に駆動電力を供給する必要があるため、低圧電源部(カ)に外部電源として一般家庭用電源AC100V等を使用し、同軸ケーブル等の給電線にAC20V?AC30V程度の低圧電源を乗せ」、「アンテナ(ウ)で受信した入力信号を忠実に増幅し、しかもノイズを低下させる、いわゆるN/Sの比の良好な利得を得るためには、ブースターをできるだけアンテナの近くに設置することが効果的」、と記載されているから、甲第2号証には「アンテナの付近に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅する」ブースターが記載されている。また、第4図の具体的な実施の形態を参照すると、アンテナ付近の具体的な位置は、「アンテナポールの中央付近であって、アンテナとブースタとが線により接続されている実施の形態(第4図参照)」であり、ブースタから受信機へは同軸ケーブルで送信していることが理解できる。
(2b)
さらに、上記第4 1.(2)(2d)の記載によれば、甲第2号証には、「アンテナ受信部(1)設けた受信機間の整合を行う整合器の内部に、バッテリーに接続したブースターをバッテリーとともに内蔵し、一体化したブースター内蔵整合器(2)を配設している。」、「このように、ブースターをアンテナ受信部(1)の整合部内に設けることによって、受信した入力信号を忠実に増幅し、しかもノイズを著しく低下させることができ、N/Sの良好な利得が得られる。」、と記載されているから、甲第2号証には、「アンテナの内部に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅する」ブースタが記載されている。

(3)受信機について
上記第4 1.(2)(2e)の記載によれば、甲第2号証には、「ブースター内蔵アンテナを用いて受信した電波信号をテレビ、ラジオ等の受信機に送信する場合」、「増幅された電波信号(6)は、第1図に示したフィーダー線、同軸ケーブル等の給電線(7)を介して、テレビ、ラジオ等の受信機へと送信される」と記載されているから、甲第2号証には「ブースターにより増幅された信号は、同軸ケーブルを介して、受信機へと送信」していることが記載されている。

(4)受信システムについて
上記第4 1.(2)(2e)の記載によれば、甲第2号証には、「ブースター内蔵アンテナを用いて受信した電波信号をテレビ、ラジオ等の受信機に送信する場合には、第2図にその受信システムをブロック図で示したように、」と記載されているから、甲第2号証には、テレビ、ラジオ等、すなわち、地上放送を受信するシステムが記載されている。

(5)まとめ
以上、まとめると、甲第2号証には、以下の二つの発明(以下、それぞれ、「引用発明2」、「引用発明3」という)が記載されている。

(引用発明2)
地上放送受信用アンテナと、
アンテナの付近に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅するブースターとを有し、
ブースターにより増幅された信号は、同軸ケーブルを介して、受信機へと送信される、
地上放送を受信するシステム。

(引用発明3)
地上放送受信用アンテナと、
アンテナの内部に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅するブースターとを有し、
ブースターにより増幅された信号は、同軸ケーブルを介して、受信機へと送信される、
地上放送を受信するシステム。

C.甲3号証に記載された発明
(1)アンテナについて
甲第3号証には「テレビ受信アンテナ、特に弱電界地区でのUHF帯受信アンテナ」の記載がある。上記「UHF帯のテレビ受信」は地上放送の受信であることは明らかである。
また、甲第3号証のアンテナは「放射器」、「導波器エレメント」、「反射器エレメント」を有している。
したがって、甲第3号証には「地上放送受信用アンテナ」であって、該アンテナは「放射器」、「導波器エレメント」、「反射器エレメント」を有する、アンテナが記載されている。

(2)ブースタについて
甲第3号証には、「本考案のケースを用いて構成したブースター付きアンテナ放射器は、既存の受信アンテナの放射器の代りに該受信アンテナの導波器エレメントと反射器エレメントの間にその放射器エレメントが位置するように取付けられ」と記載されている。
ブースター付きアンテナ放射器であるから、アンテナ放射器の内部にブースターが設けられているという意味である。
また、アンテナ放射器は、アンテナを構成する部材の一部であるから、アンテナ放射器の内部ということはアンテナの内部といってもよいことは明らかである。
上記アンテナに設けたブースターは、アンテナが受信した入力信号を増幅することは明らかである。
以上のことから、甲第3号証には「アンテナの内部に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅するブースター」が記載されているということができる。

(3)受信機について
上記第4 1.(3)(3d)の記載によれば、「アンプからの出力ケーブルフィーダーを導入孔23を通して外部受信機へ導く」とあるから、(アンプにより)増幅された信号は、フィーダーケーブルを介して、受信器へと導く(すなわち送信)しているということができるから、甲第3号証には「ブースターにより増幅された信号は、フィーダーを介して、受信機へと送信」していることが記載されているということができる。

(4)受信システムについて
上記(1)ないし(3)にて検討したとおり、甲第3号証には、アンテナが地上放送であるテレビ信号を受信し、上記受信した信号をアンテナに内蔵したブースタで増幅し、増幅された信号は、フィーダーを介して、テレビ受信器に送信されることが、開示されているということができ、上記「受信」、「増幅」、「送信」、「送信された信号を受信するテレビ受信器」はひとまとめにして、「地上放送を受信するシステム」と呼ぶことができるから、甲第3号証には「地上放送を受信するシステム」が記載されているということができる。

(5)まとめ
以上、まとめると、甲第3号証には、以下の発明(以下、「引用発明4」という)が記載されている。

(引用発明4)
地上放送受信用アンテナであって、
該アンテナは「放射器」、「導波器エレメント」、「反射器エレメント」を有しており、
アンテナの内部に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅するブースターを有し、
ブースターにより増幅された信号は、フィーダーを介して、受信機へと送信される、
地上放送を受信するシステム。

D.引用発明1ないし引用発明4について
上記A.ないしC.の検討によれば、甲第1号証から甲第3号証を主たる引用文献として引用発明を認定すると、引用発明1ないし引用発明4を認定することができる。
そして、上記引用発明1ないし引用発明4をみると、引用発明1と引用発明3は同じであり、引用発明2、引用発明4は引用発明1と共通する構成を含んでいる。したがって、以下では、引用発明1と本件発明1とをまず対比し、その後、引用発明2、引用発明4については、引用発明1と相違する構成についてのみ検討することとする。

E.対比
(1)対比(本件発明1と引用発明1)
ア.「地上デジタル放送受信用アンテナ」について
引用発明1の「地上放送受信用アンテナ」は、本件発明1の「地上デジタル放送受信用アンテナ」と「地上放送受信用アンテナ」の点で一致する。
もっとも、本件発明1の「地上放送受信用アンテナ」は「地上デジタル放送受信用アンテナ」であるのに対し、引用発明1の「地上放送受信用アンテナ」は、「地上デジタル放送受信用」でない点で相違する。

イ.「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナに直接に接続され、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」について
引用発明1の「アンテナの内部に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅するブースター」と、本件発明1の「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナに直接に接続され、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」とは、「前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」である点で相違がない。
もっとも、本件発明1の「前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、「アンテナ付近に設けられ、アンテナに直接に接続され」ているのに対し、引用発明1の「前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、アンテナの内部に設けられているから、「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナに直接に接続され」ていない点で相違する。

ウ.「ブースタからの出力信号が同軸ケーブルを介して入力される受信機」について
引用発明1において「ブースターにより増幅された信号は、同軸ケーブルを介して、受信機へと送信される」ことは、これを受信機の側から見れば、ブースターにより増幅された信号が、同軸ケーブルを介して、受信機に入力されていることと同じである。
してみると、引用発明1は「ブースタからの出力信号が同軸ケーブルを介して入力される受信機」を備えており、本件発明1の「ブースタからの出力信号が同軸ケーブルを介して入力される受信機」と相違がない。

エ.「前記アンテナが少なくとも放射器を備える八木形アンテナで、それの放射器が、放射器ボックスに設けられ、このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」について
引用発明1のアンテナは、図面等の記載から見て、テレビの受信用であって、複数の素子があるアンテナであることは理解できるが、これが「八木形アンテナ」であることまでは明記されていない。
よって、本件発明1は「前記アンテナが少なくとも放射器を備える八木形アンテナで、それの放射器が、放射器ボックスに設けられ、このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」ているのに対し、引用発明1は、この構成を有していない点で相違する。

オ.「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」について
本件発明1のブースタは、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」のに対し、
引用発明1のブースタは、アンテナの内部に設けられているから、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」の構成を有していない点で相違する。

カ.「地上デジタル放送受信システム」について
引用発明1の「地上放送を受信するシステム」は、本件発明1の「地上デジタル放送受信システム」と「地上放送受信システム」である点で相違がない。もっとも、本件発明1のシステムは「地上デジタル放送受信システム」であるのに対し、引用発明1のシステムは「地上デジタル放送受信システム」でない点で相違する。

(2)一致点・相違点(本件発明1と引用発明1)
本件発明1と引用発明1との上記対比によれば、本件発明1と引用発明1との一致点、相違点は以下のとおりである。

《一致点》
地上放送受信用アンテナと、
前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ、
このブースタからの出力信号が同軸ケーブルを介して入力される受信機とを、
具備した
地上放送受信システム。

《相違点》
相違点1
本件発明1の「地上放送受信用アンテナ」、「地上放送受信システム」は、それぞれ、「地上デジタル放送受信用アンテナ」、「地上デジタル放送受信システム」であるのに対し、引用発明1の「地上放送受信用アンテナ」、「地上放送受信システム」は、「地上デジタル放送受信」に関するものでない点。

相違点2
本件発明1の「前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、「アンテナ付近に設けられ、アンテナに直接に接続され」ているのに対し、引用発明1の「前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、アンテナの内部に設けられているから、「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナに直接に接続され」ていない点。

相違点3
本件発明1は「前記アンテナが少なくとも放射器を備える八木形アンテナで、それの放射器が、放射器ボックスに設けられ、このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」ているのに対し、引用発明1は、この構成を有していない点。

相違点4
本件発明1のブースタは、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」のに対し、
引用発明1のブースタは、アンテナの内部に設けられているから、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」の構成を有していない点。

(3)対比(本件発明1と引用発明2)
引用発明1と、引用発明2とは、
「地上放送受信用アンテナと、
ブースターにより増幅された信号は、同軸ケーブルを介して、受信機へと送信される、
地上放送を受信するシステム。」
の構成が共通であり、
引用発明1は
「アンテナの内部に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅するブースターとを有し、」であるのに対し、
引用発明2は
「アンテナの付近に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅するブースターとを有し、」である点で相違している。
したがって、「ブースター」と「アンテナ」との関係について本件発明1と引用発明1とを対比している、上記「(1)対比(本件発明1と引用発明1)」のイ.、オ.の項以外は、本件発明1と引用発明2との対比は、本件発明1と引用発明1との対比と共通するので、これを援用する。
なお、上記第4 3.E.(1)エ.にて、「引用発明1のアンテナは、図面等の記載から見て、テレビの受信用であって、複数の素子があるアンテナであることは理解できるが、これが「八木形アンテナ」であることまでは明記されていない。」と、甲第1号証の図面の記載も参酌して本件発明1と引用発明1とを対比している。
これに対して、引用発明2、引用発明3が開示されている、甲第2号証の記載(明細書及び図面等)を参酌して本件発明1と引用発明2、引用発明3とを対比しても「テレビの受信用であって、複数の素子があるアンテナであることは理解できるが、これが「八木形アンテナ」であることまでは明記されていない。」ことは明らかである。
したがって、本件発明1と引用発明2、引用発明3との対比において、上記本件発明1と引用発明1との対比(エ.)を援用することができる。

イ’.「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナに直接に接続され、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」について
引用発明2の「アンテナの付近に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅するブースター」と、本件発明1の「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナに直接に接続され、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」とは、「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」である点で相違がない。
もっとも、本件発明1の「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、「アンテナに直接に接続され」ているのに対し、引用発明2の「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、「アンテナに直接に接続され」ているか明らかでない点で相違する。

オ’.「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」について
本件発明1のブースタは、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」のに対し、
引用発明2のブースタは、アンテナ付近にてアンテナと接続されているものの、ブースタの形状やアンテナとの接続形態は明らかではないから、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」の構成を有していない点で相違する。

(4)一致点・相違点(本件発明1と引用発明2)
本件発明1と引用発明2との上記対比によれば、本件発明1と引用発明2との一致点、相違点は以下のとおりである。

《一致点》
地上放送受信用アンテナと、
アンテナ付近に設けられ、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ、
このブースタからの出力信号が同軸ケーブルを介して入力される受信機とを、
具備した
地上放送受信システム。

《相違点》
相違点1
本件発明1の「地上放送受信用アンテナ」、「地上放送受信システム」は、それぞれ、「地上デジタル放送受信用アンテナ」、「地上デジタル放送受信システム」であるのに対し、引用発明2の「地上放送受信用アンテナ」、「地上放送受信システム」は、「地上デジタル放送受信」に関するものでない点。

相違点2’
本件発明1の「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、「アンテナに直接に接続され」ているのに対し、引用発明2の「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、「アンテナに直接に接続され」ているか明らかでない点。

相違点3
本件発明1は「前記アンテナが少なくとも放射器を備える八木形アンテナで、それの放射器が、放射器ボックスに設けられ、このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」ているのに対し、引用発明2は、この構成を有していない点。

相違点4’
本件発明1のブースタは、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」のに対し、
引用発明2のブースタは、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」の構成を有していない点。

(5)対比(本件発明1と引用発明3)
引用発明1と、引用発明3とは、全ての構成において一致しているから、上記「(1)対比(本件発明1と引用発明1)」、「(2)一致点・相違点(本件発明1と引用発明1)
」を援用する。

(6)対比(本件発明1と引用発明4)
引用発明1と、引用発明4とは、
「地上放送受信用アンテナと、
アンテナの内部に設けられ、アンテナが受信した入力信号を増幅するブースターを有し、
地上放送を受信するシステム。」
の構成が共通であり、
引用発明4は、地上放送受信用アンテナが「放射器」、「導波器エレメント」、「反射器エレメント」を有しているのに対し、
引用発明1は、「放射器」、「導波器エレメント」、「反射器エレメント」を有しているか明らかでない点、
および、
引用発明1は、「ブースターにより増幅された信号は、同軸ケーブルを介して、受信機へと送信される」のに対し、
引用発明4は、「ブースターにより増幅された信号は、フィーダーを介して、受信機へと送信される」
点で相違している。

上記相違点のうち、「放射器」、「導波器エレメント」、「反射器エレメント」を有することは、以下で検討するとおり、アンテナが「八木形アンテナ」であるか否かについて判断するための構成であるから、上記相違点があるということにより、上記「(1)対比(本件発明1と引用発明1)」のエ.に関して、本件発明1と引用発明1との対比が援用できない。
以上のことから、本件発明1と引用発明4との対比においては、上記「(1)対比(本件発明1と引用発明1)」のア.、イ.、オ.、カ.については援用することができるということができる。

ウ’.「ブースタからの出力信号が同軸ケーブルを介して入力される受信機」について
引用発明4は、「ブースターにより増幅された信号は、フィーダーを介して、受信機へと送信される」から、同軸ケーブルを用いている本件発明1とは異なり、「ブースタからの出力信号が同軸ケーブルを介して入力される受信機」を有しているということはできない。

エ’.「前記アンテナが少なくとも放射器を備える八木形アンテナで、それの放射器が、放射器ボックスに設けられ、このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」について
引用発明4は、地上放送受信用アンテナが「放射器」、「導波器エレメント」、「反射器エレメント」を有している。上記「放射器」、「導波器エレメント」、「反射器エレメント」は八木形アンテナが有する構成の特徴的構成要素であるから、当該構成を有するアンテナが八木形アンテナであることは、当業者であれば普通に理解し得たことである。
したがって、引用発明4は「放射器を備える八木形アンテナ」である点で、本件発明1と相違がない。
しかし、引用発明4のアンテナは、上記ウ’.で検討したとおり、フィーダーを介して出力信号を受信器へ送信するものである。
通常アンテナからフィーダーにより信号を外部に出力する時は、接栓を利用しない。
したがって、引用発明4は「このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」の構成を有しているということはできない。
以上まとめると、引用発明4は「前記アンテナが少なくとも放射器を備える八木形アンテナで、それの放射器が、放射器ボックスに設けられ」の点で本件発明1と一致するものの、
引用発明4は「このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」の構成を有しない点で本件発明1と相違するということができる。

(7)一致点・相違点(本件発明1と引用発明4)
本件発明1と引用発明4との上記対比によれば、本件発明1と引用発明4との一致点、相違点は以下のとおりである。

《一致点》
地上放送受信用アンテナと、
前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタとを具備し、
前記アンテナが少なくとも放射器を備える八木形アンテナで、それの放射器が、放射器ボックスに設けられた
地上放送受信システム。

《相違点》
相違点1
本件発明1の「地上放送受信用アンテナ」、「地上放送受信システム」は、それぞれ、「地上デジタル放送受信用アンテナ」、「地上デジタル放送受信システム」であるのに対し、引用発明4の「地上放送受信用アンテナ」、「地上放送受信システム」は、「地上デジタル放送受信」に関するものでない点。

相違点2
本件発明1の「前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、「アンテナ付近に設けられ、アンテナに直接に接続され」ているのに対し、引用発明4の「前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、アンテナの内部に設けられているから、「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナに直接に接続され」ていない点。

相違点3’
引用発明4は「このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」の構成を有しない点

相違点4
本件発明1のブースタは、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」のに対し、
引用発明4のブースタは、アンテナの内部に設けられているから、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」の構成を有していない点。

相違点5
引用発明4は、「ブースタからの出力信号が同軸ケーブルを介して入力される受信機」を有していない点。

(8)相違点(まとめ)
甲第1号証ないし甲第3号証から認定される引用発明1ないし引用発明4と、本件発明1との相違点はまとめると以下のとおりとなる。
a.本件発明1と引用発明1
相違点1ないし相違点4
b.本件発明1と引用発明2
相違点1、相違点2’、相違点3、相違点4’
c.本件発明1と引用発明3
相違点1ないし相違点4
d.本件発明1と引用発明4
相違点1、相違点2、相違点3’、相違点4、相違点5

(9)判断(本件発明1と引用発明1ないし引用発明4)
上記相違点について検討する。
ア.相違点1について(引用発明1ないし引用発明4)
前記のとおり、引用発明1のアンテナは、テレビの地上放送受信を行っているものであるが、引用発明1において、ブースタを、アンテナの内部に設ける目的等は甲第1号証の記載からは明らかでない。しかし、例えば、甲第2号証の記載を参酌すると、その考案の詳細な説明には、「アンテナによる電波受信に際しては、電波が給電線、分配機等を通ると伝送損失や内部損失などが発生し、電波は減衰してしまう傾向がある。このような電波の減衰を補足するものとして、通常ブースターが用いられてきている。」、「アンテナ(ウ)で受信した入力信号を忠実に増幅し、しかもノイズを低下させる、いわゆるN/S比の良好な利得を得る」とあるから、引用発明1においても、上記甲第2号証にあるような目的でブースタを設けたと考えるのが自然である。すなわち、引用発明1にも上記甲第2号証に記載されるような、目的等を内在していたということができる。
ところで、地上テレビ受信用アンテナとして、UHF・VHFの2種類があり、上記UHF・VHFの選択は、テレビ放送信号が伝送される周波数帯域に応じて適宜選択可能であることは本件の特許出願前周知のことであり、また、上記引用発明1が内在する課題は、周知のUHFアンテナにおいても存在することは明らかであることから、引用発明1のアンテナを、地上テレビ受信用のUHFアンテナとして用いることは当業者であれば普通に想起し得たことである。
一方、UHFアンテナが、地上デジタル放送を受信するためのアンテナとして利用可能であることは、本件特許の出願前当業者には普通に知られていたことであるとともに、地上デジタル放送の受信においても、同じ周波数帯の電波を用いるのであって、(引用発明で想定している)地上放送の場合と同じく上記「減衰を補足」や「N/S比の良好な利得を得る」という課題が存在することは予測されるから、(上記「減衰を補足」や「N/S比の良好な利得を得る」という課題を解決するため)引用発明1のアンテナをUHFアンテナとして用いて、地上デジタル放送を受信するアンテナとして利用することは、当業者が容易に想到できることである。
そうであるから、引用発明1の「地上放送受信用アンテナ」、「地上放送受信システム」を「地上デジタル放送受信用アンテナ」、「地上デジタル放送受信システム」とすることは当業者が容易になしえたことである。

イ.相違点2、相違点4について(引用発明1、引用発明3、引用発明4)
請求人が提出した各甲号証のうち、甲第1号証ないし甲第3号証、証甲第6号証、甲第8号証には、アンテナで受信した信号が弱いため上記受信信号を増幅するブースタの配置について、おおむね以下のとおりの記載がある。

A:ブースタをできるだけアンテナの近くに配置することがS/Nの向上にとって効果的であること(甲第2号証)
B:ブースタをアンテナと一体に設けること(甲第1号証ないし甲第3号証)
C:ブースタをアンテナ直下に設けること(甲第6号証)
D:ブースタをテレビのチューナに直接(電気的・機械的)に接続し、さらにブースタをアダプタ(テレビ)に内蔵するもの(甲第8号証)

引用発明1のブースタをアンテナの内部に設けるものにおいては、ブースタがアンテナと一体となっている。これに対して、本件発明1は、ブースタとアンテナとが接栓を利用して直接に接続されているから、アンテナとブースタとは別体である。
そして、甲第2号証に記載があるとおり「ブースタをできるだけアンテナの近くに配置することがS/Nの向上にとって効果的」であることからみて、最もアンテナに近い「アンテナ内部」にブースタを配置した構成から、これよりも遠くなるアンテナの外部にわざわざブースタを取り出して配置する技術思想は、たとえ甲第2号証、甲第6号証、甲第8号証にアンテナと別体になる増幅器が存在するとしても、当業者が容易になし得たことということはできず、さらに、上記別体としたブースターを、アンテナに直接に接続する技術思想は、想像すらし得ないというべきである。

さらに、甲第4号証には八木アンテナの放射素子に接続される給電部に電気的・機械的に変成器を配置するものが記載されているが、上記変成器はアンテナ給電部のインピーダンスを所望の値とするために設けられるもので、本来アンテナ装置と一体的に配置されるべきものであり、アンテナからチューナに至る伝送路上のどこかに配置することを前提としている引用発明1のブースタとは異なるものである。
したがって、本来一体として用いるものを接栓を介して着脱可能とする技術思想である、甲第4号証の技術思想を、アンテナからチューナに至る伝送路上のどこかに配置することを前提としている、引用発明1のブースタの配置に適用することは当業者が容易になしえたことであるということはできず、上記相違点2に係る構成を容易に想起し得たということはできない。

甲第5号証にはアンテナと直接に接続されるコネクタ内部にブースタを設けるものが記載されているが、甲第5号証のものは、平面アンテナからのGHz帯の信号をダウンコンバートする前に用いるフロントエンドの増幅デバイスであり引用発明1と目的及び効果が異なるものである。
甲第5号証の平面アンテナに関するものは、ダウンコンバート時に生じる損失を防ぐための増幅器であり、引用発明1とは増幅器を設ける目的が異なるから、引用発明1に甲第5号証に記載された技術思想を転用することは当業者が容易になしえたことであるということはできず、上記相違点2に係る構成を容易に想起し得たということはできない。

甲第7号証には、アンテナからチューナに至る伝送路上に配置するブースタについて格別の記載はなく、上記相違点2に係る構成を容易に想起し得たということはできない。

以上、各甲号証について検討したが、上記各甲号証の記載事項から、上記相違点2に係る構成を容易になしえたということはできない。

請求人は、口頭審理にて、相違点2に関し、特に甲第3号証から認定される引用発明(引用発明4)に、甲第6号証に記載されたブースタを(甲第4号証に記載された技術思想を参考にして)適用することによる容易性について主張しているので、この点について検討する。

甲第3号証には「このようなサービスエリア周辺及び内部の弱電界地区での受信には他チャンネル電波の影響が強く、目的のチャンネルの受信を良好にするには高利得アンテナの放置、特定チャンネル専用アンテナの増設、ブースターアンプの設置など、アンテナ設備にコストがかかるのが問題点とされていた。
本考案はこのような情況に鑑みてなされたてもので、既設のアンテナの放射器の代りに付け換えることでこれを高利得ブースターアンプ付きアンテナに替えることが可能なブースター付きアンテナ放射器用のケース、特に前記付け換えに便利な構造のケースを提供することを目的とするものである。」(明細書2ページ3行ないし16行)と記載されている。
すなわち、甲第3号証に開示された技術思想は、アンテナが受信した信号が弱いとき、これを増幅するために、(アンテナとは別に)ブースターアンプを設置することが考えられるが、これは、コストがかかるという問題点があり、これを解決するために、ブースターアンプ付きアンテナ放射器用のケースを考案したということである。
このことからみて、甲第3号証から導き出される発明に対して、アンテナとは別にブースターアンプを設置することは、上記問題点からみて、阻害要因があったということができる。
すなわち、甲第3号証をみた当業者が、仮に、甲第6号証にあるような、別体のブースタの技術に触れたとしても、甲第3号証には別体のアンプには問題点があると記載されているのであるから、甲第3号証から導き出される発明に、甲第6号証に記載されたアンプを適用することは、当業者が容易になし得たことであるということはできない。

また、相違点4は『引用発明1のブースタは、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」の構成を有していない』というものである。
上記相違点4の構成のうち、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される接栓が設けられ」については、甲第6号証(例えば、図1等)に記載されていることは明らかである。
一方、相違点4の構成のうち「(ブースタは、)入力側接栓が設けられ、この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」という構成は、相違点2において、(ブースタとアンテナとが)「直接に接続」と表現しているものを、より具体的に「ブースタの入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」と接栓の構造を明確にしたものであるということができる。
してみると、上記引用発明1に基づき(ブースタとアンテナとが)「直接に接続」される技術思想を容易になしえたことであるということができないのであるから、これを具体的にした「ブースタの入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」接栓の構造を当業者が容易になしえたことであるということはできない。

以上のとおりであるから、上記相違点2、相違点4に係る構成は、甲第1号証ないし甲第8号証の記載に基づき当業者が容易になしえたことであるということはできない。

ウ.相違点2’、相違点4’について(引用発明2)
甲第2号証には、アンテナからチューナに至る伝送路上のどこかに配置するブースターについて、アンテナ付近にブースターを配置することが開示されているということができる。
しかし、上記甲第2号証には、ブースタを「アンテナに直接に接続」することについて直接の記載はない。
引用発明2のブースタについて、甲第2号証にはそのブースタが、どのような構造であるか、あるいは、どのようにアンテナと接続されているか明らかな記載はないから、引用発明2のブースタは、本件特許出願前よく知られたブースタの構造であり、同よく知られた接続の形態を採用していたものと認められる。
甲第6号証には、アンテナとチューナとの間の伝送路上に配置されるブースタとして「同軸ケーブルの中継接栓構造としている」(甲第6号証)ものが記載されている。すなわち、いずれもブースタとアンテナとは同軸ケーブルを介して接続する構造のものである。これらの証拠から認定できるのは、アンテナ付近に配置するブースタとして、アンテナとの接続はケーブルを介してなされることが前提の構造であるブースタが知られていたということである。
引用発明2に上記甲第6号証に開示されたブースターを採用することについて検討する。
上記イ.にて検討したとおり、請求人が提出した各甲号証には、上記AないしDの技術事項が開示されている。
引用発明2に上記甲第6号証に開示されたブースターを採用するに際して、上記Aの技術事項を参酌すると、S/Nの向上のため、アンテナにより近づけることは、当業者であれば容易に推測し得たことであるといえる。
しかしながら、甲第6号証に開示されたブースターはアンテナとの接続はケーブルを介してなされることが前提のブースターである。
したがって、甲第6号証に開示されたブースタを最もアンテナに近づけたとしても、ブースタの入力側(すなわち、アンテナに接続される側)の端子は、ケーブルと接続する構造となっており、アンテナ側の端子もケーブルと接続する構造となっていることが普通のため、アンテナとブースタとは直接に接続されることが可能な構造とはなっていない。このような、ケーブルを介して接続されることが前提の構造であるブースタを、あえてその端子の構造を変更しアンテナと直接に接続する構造とすることは当業者であっても、ただちに容易に発明をすることができたということはできない。

上記Bの技術思想は、ブースタをアンテナと一体に設けるものであり、このような技術思想を引用発明2に転用しても、相違点2’の「アンテナに直接に接続され」の構成を導き出すことはできない。

上記Cの「アンテナ直下」にブースタを配置する技術思想については、「アンテナ直下」の文言があるのみで、甲第6号証のブースターは、前記したとおり、アンテナとの接続はケーブルを介してなされるブースタである。したがって、引用発明2のアンテナ付近に設けられたブースタを、アンテナに直接に接続する技術思想を導き出すことはできない。

また、上記Dの技術思想(甲第8号証に開示)は、「ブースタを『テレビのチューナ』に直接(電気的・機械的)に接続し、さらにブースタをアダプタ(テレビ)に内蔵するもの」であるから、「ブースタの端子の構造を、直接『アダプタ(テレビ)』に接続可能とする」技術思想が開示されているといえる。
しかし、アダプタ(テレビ)はアンテナとは対極の位置に配置されるものである。
また、甲第8号証に開示された「ブースタの端子の構造を、直接アダプタ(テレビ)に接続可能とする」技術思想から、「ブースタの端子の構造を、直接他の構成要素に接続可能とする」技術思想を抽出し、この抽出した技術思想を、仮に、引用発明2に転用したとしても、甲第8号証において、接続されるブースタはアダプタ(テレビ)に内蔵されるもの(すなわち、テレビと一体になって利用されるもの。)であるから、引用発明2と甲第8号証に記載された技術事項とから得られる構成は、アンテナと一体で利用されるべき(アンテナ内蔵)ブースタであって、この一体となったブースタの端子とアンテナの端子とが直接に接続されることが想起できるのみで、アンテナ付近に直接にブースタを接続する構成が容易に想起し得たということはできない。

また、他の各甲号証については、上記イ.にて検討したとおり、アンテナで受信した信号が弱いため上記受信信号を、アンテナからチューナに至る伝送路上のどこかで増幅するブースターを、アンテナと直接に接続する技術思想を導き出すことができる技術事項が開示されていない。

以上、各甲号証について検討したが、上記各甲号証の記載事項から、上記相違点2’に係る構成を容易になしえたということはできない。

相違点4’は『引用発明2のブースタは、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」の構成を有していない』というものである。
上記相違点4’の構成のうち、「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される接栓が設けられ」については、甲第6号証(例えば、図1等)に記載されていることは明らかである。
一方、相違点4’の構成のうち「(ブースタは、)入力側接栓が設けられ、この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」という構成は、相違点2’において、(ブースタとアンテナとが)「直接に接続」と表現しているものを、より具体的に「ブースタの入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」と接栓の構造を明確にしたものであるということができる。
してみると、上記各甲号証から(ブースタとアンテナとが)「直接に接続」される技術思想を容易になしえたことであるということができないのであるから、これを具体的にした「ブースタの入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」接栓の構造を当業者が容易になしえたことであるということはできない。

以上のとおりであるから、上記相違点2’、相違点4’に係る構成は、甲第1号証ないし甲第8号証の記載に基づき当業者が容易になしえたことであるということはできない。

エ.相違点3について(引用発明1ないし引用発明3)
テレビ受信用アンテナとして、八木形アンテナは本件特許の出願前周知であり、「八木形アンテナは放射器を備えること」、および、「放射器(用回路)が放射器ボックスに設けられていること」、「放射器ボックスに、アンテナから外部に出力するための接栓が設けられ、放射器ボックス内で接栓と放射器(用回路)とが接続されていること」は、いずれも八木形アンテナとして普通の構成である。
また、甲第1号証には格別八木形アンテナである旨記載がないが、八木形アンテナが家庭用テレビ受信アンテナとして普通に用いられていることや、甲第1号証の写真を参酌すると、甲第1号証にて採用されるアンテナが、八木形アンテナであっても良いことは当業者が容易に推察し得たことである。
そして、八木形アンテナを採用すれば、「放射器が、放射器ボックスに設けられ、このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」る構成となることは、当業者には周知のことである。
したがって、上記相違点3に係る構成は、周知の八木形アンテナの技術事項を考慮すれば当業者が容易になしえたことである。

オ.相違点3’、相違点5について(引用発明4)
相違点3’および相違点5は、アンテナから外部に信号を出力する伝送路に、本件発明1が同軸ケーブルを採用しているのに対し、引用発明4がフィーダーを利用していること(相違点5)、および、アンテナから同軸ケーブルを介して信号を出力する時は接栓構造を採用するのに対し、フィーダーを採用すると上記出力に接栓の構造を普通は採用しないことから生じた相違点(相違点3’)と認めることができる。
ところで、アンテナから受信器に信号を伝送する伝送路として、同軸ケーブルおよびフィーダーは周知慣用手段であり、いずれを採用するかは、当業者が適宜選択し得た事項ということができるから、上記フィーダーを採用する伝送路を同軸ケーブルを採用する伝送路とすることは当業者が必要に応じて適宜なし得た設計変更である。
そして、伝送路をフィーダーから同軸ケーブルへと変更すれば、アンテナの出力端子もまた接栓構造と変更することが普通のことである。
したがって、上記相違点3’、相違点5の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

カ.まとめ
したがって、本件発明1は、相違点2、相違点2’、相違点4、相違点4’の点で、甲第1号証ないし甲第8号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反するとする、請求人が主張する理由によっては本件特許を無効とすることはできない。

4.甲第6号証から主たる引用発明を認定した検討
A.甲6号証に記載された発明
(1)アンテナについて
甲第6号証には増幅器(ブースタともいうことは技術常識である。)の構成が開示されているが、上記ブースターは「アンテナ直下」に設置することが開示されており、また、「家庭でテレビジョン信号が弱い状態にある時等に、伝送ケーブルの途中に簡単に挿入して使用できるようにする」ブースターであることも記載されている。そして、甲第6号証が開示された昭和55年当時、通常テレビ信号といえば、地上放送のことである。
以上のことからみて、甲第6号証には「地上放送受信用アンテナ」が開示されているということができる。

(2)増幅器(ブースタ)について
甲第6号証には「テレビジョン信号増幅器に関し・・・家庭でテレビジョン信号が弱い状態にある時等に、伝送ケーブルの途中に簡単に挿入して使用できるようにすると共に、小型低利得にして、アンテナ直下に設置した際には前置増幅器としての機能を有」することが記載されている。
すなわち、アンテナ直下に配置されるブースタであって、テレビジョン信号を増幅するものである。
上記テレビジョン信号はアンテナが受信した信号であることは明らかであるから、甲第6号証のブースタはアンテナでの受信信号を増幅するものであるということができる。
以上のことから、甲第6号証のブースタは、アンテナ直下に配置され、アンテナでの受信信号を増幅するブースタということができる。

(3)テレビジョンについて
甲第6号証のブースタはテレビジョン信号を増幅するのであるから、最終的に増幅された信号がテレビジョン装置に入力されることは自明である。
また、甲第6号証のブースタは「本体(1)両端の接栓座(5)(6)に夫々電気的に接続されている。接栓座(5)(6)はF型接栓に嵌合可能で、同軸ケーブルを接続する中継接栓の働きをしている。」という構成を有しているのであるから、伝送路として同軸ケーブルを採用していることも明らかである。
以上のことから、甲第6号証のブースタの出力信号は、同軸ケーブルを介してテレビジョン装置に入力しているということができ、このことはいいかえれば、甲第6号証は、ブースタからの出力信号が、同軸ケーブルを介して入力されるテレビジョン装置を開示しているということができる。

(4)ブースタの構造について
甲第6号証のブースタの構造は、甲第6号証の記載からみて、有底円筒状の本体内に収納された、増幅回路をプリント配線してなるプリント基板を有し、本体の両端の接栓座は、F型接栓に嵌合可能で、同軸ケーブルを接続する中継接栓の働きをしている構造であることに加えて、接栓座と本体はOリングを介して防水構造となっていることが理解できる。
すなわち、(プリント基板が)防水構造である本体に収容されたブースタであって、本体には、ブースタの入力側に入力側接栓が設けられ、さらに、同軸ケーブルを接続する中継接栓の働きをしているブースタが開示されているということができる。いいかえると、「ブースタは、防水構造である本体に収容されたブースタであって、本体には、ブースタの入力側に入力側接栓が設けられ、さらに、同軸ケーブルを接続する中継接栓の働きをしている」ということができる。
また、甲第6号証の接栓はブースタに(電気的に)接続されていないと、信号を伝送することができないから、ブースタの入力側に接続される入力側接栓を有しているということができる。
以上のことから、甲第6号証は「ブースタは、防水構造である本体に収容されたブースタであって、本体には、ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、さらに、同軸ケーブルを接続する中継接栓の働きをしている」ということができる。

(5)ブースタの利用の形態について
上記(1)ないし(3)にて検討したとおり、甲第6号証には、アンテナが地上放送であるテレビ信号を受信し、上記受信した信号をアンテナに内蔵したブースタで増幅し、増幅された信号は、同軸ケーブルを介して、テレビ受信器に送信されることが、開示されているということができ、上記「受信」、「増幅」、「送信」、「送信された信号を受信するテレビ受信器」はひとまとめにして、「地上放送を受信するシステム」と呼ぶことができるから、甲第6号証には「地上放送を受信するシステム」が記載されているということができる。

(6)まとめ
以上、まとめると、甲第6号証には、以下の発明(以下、「引用発明5」という)が記載されている。

(引用発明5)
地上放送受信用アンテナと
アンテナ直下に配置され、アンテナでの受信信号を増幅するブースタと、
ブースタからの出力信号が、同軸ケーブルを介して入力されるテレビジョン装置とを具備し、
ブースタは、防水構造である本体に収容されたブースタであって、本体には、ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、さらに、同軸ケーブルを接続する中継接栓の働きをしている、
地上放送を受信するシステム。

B.対比(本件発明1と引用発明5)
ア.「地上デジタル放送受信用アンテナ」について
引用発明5の「地上放送受信用アンテナ」は、本件発明1の「地上デジタル放送受信用アンテナ」と「地上放送受信用アンテナ」の点で一致する。
もっとも、本件発明1の「地上放送受信用アンテナ」は「地上デジタル放送受信用アンテナ」であるのに対し、引用発明5の「地上放送受信用アンテナ」は、「地上デジタル放送受信用」でない点で相違する。

イ.「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナに直接に接続され、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」について
引用発明5の「アンテナ直下に配置され、アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」のアンテナ直下とは、アンテナからテレビジョン装置に至る伝送路のアンテナに極めて近い位置といった意味であることは自明である。すなわち、「アンテナ直下に配置され」とは「アンテナ付近に設けられ」と相違がないから、引用発明5のブースタは「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」である点で、本件発明1と相違がない。
もっとも、本件発明1の「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、「アンテナに直接に接続され」ているのに対し、引用発明5の「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、「前記アンテナに直接に接続され」ていない点で相違する。

ウ.「ブースタからの出力信号が同軸ケーブルを介して入力される受信機」について
引用発明5は「ブースタからの出力信号が、同軸ケーブルを介して入力されるテレビジョン装置」を有している。
上記テレビジョン装置は、受信器ということができる。
してみると、引用発明5は、「ブースタからの出力信号が同軸ケーブルを介して入力される受信機」を有しているということができる。

エ.「前記アンテナが少なくとも放射器を備える八木形アンテナで、それの放射器が、放射器ボックスに設けられ、このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」について
甲第6号証にはアンテナの具体的な構成について格別記載はない。
したがって、引用発明5のアンテナは、八木形アンテナに限らず、テレビ信号を受信できるアンテナであればどのようなものでもよいといえ、八木形アンテナであるということはできない。
よって、本件発明1は「前記アンテナが少なくとも放射器を備える八木形アンテナで、それの放射器が、放射器ボックスに設けられ、このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」ているのに対し、引用発明5は、この構成を有していない点で相違する。

オ.「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、
この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」について
引用発明5は「ブースタは、防水構造である本体に収容されたブースタであって、本体には、ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、さらに、同軸ケーブルを接続する中継接栓の働きをしている」構成を有している。
引用発明5の防水構造である本体は、防水構造であるから密閉されたものといえる。そして、そのような密閉された何らかのものを収容する物をケースといってよいことは明らかであるから、引用発明5の防水構造である本体はケースということができる。
したがって、引用発明5は「ブースタは、ケース内に収容されたブースタであって、ケースには、ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられている」ということができる。
しかしながら、引用発明5のブースタは、「同軸ケーブルを接続する中継接栓の働きをしている」ことから、当該ブースタの接栓は、同軸ケーブルに直接接続可能の形状をしていることは明らかである。
これに対して、本件発明1の入力側接栓は、「アンテナに直接に接続」可能な形状である。
アンテナから信号を出力するアンテナ側に設けた端子は、直接同軸ケーブルが接続可能な端子形状(いわゆるメス型)であり、同軸ケーブルは上記メス型端子と直接接続可能な形状(いわゆるオス型)であることが普通である。
上記普通の構成をもとに、本件発明1の端子形状を考慮すると、アンテナに直接接続可能な形状であるから、いわゆるオス型端子形状である。
これに対して、引用発明5の端子形状は、同軸ケーブルに直接接続可能な形状いわゆるメス型端子形状である。
上記メス型端子形状は、そのままでは、アンテナに直接に接続可能ということはできない。
したがって、引用発明5は「(ブースタの)入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」ということはできない。
以上まとめると、引用発明5は「前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ」の点で本件発明1と相違ないということができる。
もっとも、本件発明1は「この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」のに対し、引用発明5は当該構成を有していない点で相違する。

カ.「地上デジタル放送受信システム」について
引用発明5の「地上放送を受信するシステム」は、本件発明1の「地上デジタル放送受信システム」と「地上放送受信システム」である点で相違がない。もっとも、本件発明1のシステムは「地上デジタル放送受信システム」であるのに対し、引用発明5のシステムは「地上デジタル放送受信システム」でない点で相違する。

キ.一致点・相違点(本件発明1と引用発明5)
本件発明1と引用発明5との上記対比によれば、本件発明1と引用発明5との一致点、相違点は以下のとおりである。

《一致点》
地上放送受信用アンテナと、
このアンテナ付近に設けられ、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタとを具備し、
このブースタからの出力信号が同軸ケーブルを介して入力される受信機とを、
前記ブースタは、ケース内に収容され、このケースには、前記ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられる、
地上放送受信システム。

《相違点》
(相違点5-1)
本件発明1の「地上放送受信用アンテナ」、「地上放送受信システム」は、それぞれ、「地上デジタル放送受信用アンテナ」、「地上デジタル放送受信システム」であるのに対し、引用発明5の「地上放送受信用アンテナ」、「地上放送受信システム」は、「地上デジタル放送受信」に関するものでない点。
(相違点5-2)
本件発明1の「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、「アンテナに直接に接続され」ているのに対し、引用発明5の「アンテナ付近に設けられ、前記アンテナでの受信信号を増幅するブースタ」は、「前記アンテナに直接に接続され」ていない点。
(相違点5-3)
本件発明1は「前記アンテナが少なくとも放射器を備える八木形アンテナで、それの放射器が、放射器ボックスに設けられ、このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」ているのに対し、引用発明5は、この構成を有していない点。
(相違点5-4)
本件発明1は「この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」のに対し、引用発明5は当該構成を有していない点。

C.判断(本件発明1と引用発明5)
ア.相違点5-1について
引用発明5のアンテナは、テレビの地上放送受信を行っているものであり、引用発明5において、ブースタを、アンテナの付近(直下)に設ける目的は、「前置増幅器として機能させ、S/Nの向上に大きく貢献できる」ようにすることである。
ところで、地上テレビ受信用アンテナとして、UHF・VHFの2種類があり、上記UHF・VHFの選択は、テレビ放送信号が伝送される周波数帯域に応じて適宜選択可能であることは本件の特許出願前周知のことであり、また、上記甲第6号証に記載された上記課題は、周知のUHFアンテナにおいても存在することは明らかであることから、引用発明5のアンテナを、地上テレビ受信用のUHFアンテナとして用いることは当業者であれば普通に想起し得たことである。
一方、UHFアンテナが、地上デジタル放送を受信するためのアンテナとして利用可能であることは、本件特許の出願前当業者には普通に知られていたことであるとともに、地上デジタル放送の受信においても、同じ周波数帯の電波を用いるのであって、(引用発明で想定している)地上放送の場合と同じく上記「S/Nの向上に大きく貢献」という課題が存在することは予測されるから、(上記「S/Nの向上に大きく貢献」という課題を解決するため)引用発明5のアンテナをUHFアンテナとして用いて、地上デジタル放送を受信するアンテナとして利用することは、当業者が容易に想到できることである。
そうであるから、引用発明5の「地上放送受信用アンテナ」、「地上放送受信システム」を「地上デジタル放送受信用アンテナ」、「地上デジタル放送受信システム」とすることは当業者が容易になしえたことである。

イ.相違点5-2、相違点5-4について
請求人が提出した各甲号証のうち、甲第1号証ないし甲第3号証、証甲第6号証、甲第8号証には、アンテナで受信した信号が弱いため上記受信信号を増幅するブースタの配置について、おおむね以下のとおりの記載があることは、上記第4 3.D.(9)イ.にて検討したとおりである。

A:ブースタをできるだけアンテナの近くに配置することがS/Nの向上にとって効果的であること(甲第2号証)
B:ブースタをアンテナと一体に設けること(甲第1号証ないし甲第3号証)
C:ブースタをアンテナ直下に設けること(甲第6号証)
D:ブースタをテレビのチューナに直接(電気的・機械的)に接続し、さらにブースタをアダプタ(テレビ)に内蔵するもの(甲第8号証)

上記Cは、引用発明5を認定する証拠であるから、上記Cを除いた、上記A.、B.、D.の技術思想を引用発明5に適用することを検討する。

引用発明5の構成は、アンテナと直接接続することができない形状をしたブースタをアンテナ直下に配置するというものである。
上記Aの技術思想を引用発明5に適用すれば、ブースタを限りなくアンテナに近づくように配置することは当業者であれば容易に想起し得たことである。
しかし、引用発明5および上記Aの技術思想ともに、ブースタをアンテナに直接に接続することを導き出すことができる形状をしたブースタについて開示がない。

上記Bの技術思想は、アンテナに内蔵したブースタであるから、そのようなブースタの構成を知ることができたとしても、引用発明5のブースタの入力側接栓の構造を、アンテナに直接に接続するような形状とすることを導き出すことはできない。

上記Dの技術思想(甲第8号証に開示)は、「ブースタを『テレビのチューナ』に直接(電気的・機械的)に接続し、さらにブースタをアダプタ(テレビ)に内蔵するもの」であるから、「ブースタの端子の構造を、直接『アダプタ(テレビ)』に接続可能とする」技術思想が開示されているといえる。
しかし、アダプタ(テレビ)はアンテナとは対極の位置に配置されるものである。
また、甲第8号証に開示された「ブースタの端子の構造を、直接アダプタ(テレビ)に接続可能とする」技術思想から、「ブースタの端子の構造を、直接他の構成要素に接続可能とする」技術思想を抽出し、この抽出した技術思想を、仮に、引用発明5に転用したとしても、甲第8号証において、接続されるブースタはアダプタ(テレビ)に内蔵されるもの(すなわち、テレビと一体になって利用されるもの。)であるから、引用発明5と甲第8号証に記載された技術事項とから得られる構成は、アンテナと一体で利用される(アンテナ内蔵)ブースタであって、この一体となったブースタの端子とアンテナの端子とが直接に接続されることが想起できるのみで、アンテナ付近に直接にブースタを接続する構成が容易に想起し得たということはできない。

また、他の各甲号証については、上記第4 3.E.(9)イ.にて検討したとおり、アンテナで受信した信号が弱いため上記受信信号を、アンテナからチューナに至る伝送路上のどこかで増幅するブースターを、アンテナと直接に接続する技術思想を導き出すことができる技術事項が開示されていない。
以上、各甲号証について検討したが、上記各甲号証の記載事項から、上記相違点5-2に係る構成を容易になしえたということはできない。

相違点5-4の「この入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」という構成は、相違点5-2において、(ブースタとアンテナとが)「直接に接続」と表現しているものを、より具体的に「ブースタの入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」と接栓の構造を明確にしたものであるということができる。
してみると、上記各甲号証から(ブースタとアンテナとが)「直接に接続」される技術思想を容易になしえたことであるということができないのであるから、これを具体的にした「ブースタの入力側接栓が、前記アンテナ側接栓に電気的及び機械的に結合されている」接栓の構造を当業者が容易になしえたことであるということはできない。

ウ.相違点5-3について
テレビ受信用アンテナとして、八木形アンテナは本件特許の出願前周知であり、「八木形アンテナは放射器を備えること」、および、「放射器(用回路)が放射器ボックスに設けられていること」、「放射器ボックスに、アンテナから外部に出力するための接栓が設けられ、放射器ボックス内で接栓と放射器(用回路)とが接続されていること」は、いずれも八木形アンテナとして普通の構成である。
また、甲第6号証には格別八木形アンテナである旨記載がないが、八木形アンテナが家庭用テレビ受信アンテナとして普通に用いられていることから、甲第6号証にて採用されるアンテナが、八木形アンテナであっても良いことは当業者が容易に推察し得たことである。
そして、八木形アンテナを採用すれば、「放射器が、放射器ボックスに設けられ、このボックスに設けられたアンテナ側接栓に、前記放射器ボックス内で前記放射器が接続され」る構成となることは、当業者には周知のことである。
したがって、上記相違点5-3に係る構成は、周知の八木形アンテナの技術事項を考慮すれば当業者が容易になしえたことである。

エ.まとめ
したがって、本件発明1は、相違点5-2、相違点5-4の点で、甲第1号証ないし甲第8号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反するとする、請求人が主張する理由によっては本件特許を無効とすることはできない。

5.対比・判断(本件発明2)
A.本件発明1の対比判断の援用について
本件発明2は特許請求の範囲の請求項2の記載によれば下記のとおりの発明である。
【請求項2】
請求項1記載の地上デジタル放送受信システムにおいて、前記ケースには、前記ブースタの出力側に前記ケース内において接続された出力側接栓が設けられ、この出力側接栓は、前記受信機に接続された同軸ケーブルに設けられたケーブル側接栓に電気的及び機械的に結合され、
前記アンテナ側接栓、前記入力側接栓、前記出力側接栓及び前記ケーブル側接栓は、防水処理されている
地上デジタル放送受信システム。

すなわち、本件発明1の構成に加えて、
「前記ケースには、前記ブースタの出力側に前記ケース内において接続された出力側接栓が設けられ、この出力側接栓は、前記受信機に接続された同軸ケーブルに設けられたケーブル側接栓に電気的及び機械的に結合され、
前記アンテナ側接栓、前記入力側接栓、前記出力側接栓及び前記ケーブル側接栓は、防水処理されている」
の構成が付加されたものである。

上記、本件発明2が引用する本件発明1の構成についての対比・判断は、「第4 3.E.(9)および第4 4.C.」を援用する。

上記のとおり、本件発明2が本件発明1を引用する構成については、本件発明1の構成についての対比判断を援用するから、上記本件発明1の構成にさらに付加された本件発明2の構成についての対比判断を、以下にて行う。

B.対比・判断(本件発明2)
(1)引用発明1ないし引用発明4との対比
ク.「ケースには、前記ブースタの出力側に前記ケース内において接続された出力側接栓が設けられ、この出力側接栓は、前記受信機に接続された同軸ケーブルに設けられたケーブル側接栓に電気的及び機械的に結合され」について

引用発明1ないし引用発明4は、ブースタの出力側でケーブルと接続する構成について、接栓を採用しているか否か明らかでない。よって、引用発明1ないし引用発明4は、本件発明2の「ケースには、前記ブースタの出力側に前記ケース内において接続された出力側接栓が設けられ、この出力側接栓は、前記受信機に接続された同軸ケーブルに設けられたケーブル側接栓に電気的及び機械的に結合され」の構成を有していない点で相違する。

ケ.「前記アンテナ側接栓、前記入力側接栓、前記出力側接栓及び前記ケーブル側接栓は、防水処理されている」について
引用発明1ないし引用発明4は、上記のとおり接栓の構成を有しているか明らかでない。よって、引用発明1ないし引用発明4は、本件発明2の「前記アンテナ側接栓、前記入力側接栓、前記出力側接栓及び前記ケーブル側接栓は、防水処理されている」の構成を有していない点で相違する。

コ.一致点・相違点(本件発明2と引用発明1ないし引用発明4)
本件発明2と引用発明(1ないし4)との上記対比によれば、本件発明2と引用発明(1ないし4)との一致点、相違点は、本件発明1の対比判断より援用する部分を除いて、以下のとおりである。

相違点5(本件発明2)
引用発明(1ないし4)は、本件発明2の発明特定事項である「ケースには、前記ブースタの出力側に前記ケース内において接続された出力側接栓が設けられ、この出力側接栓は、前記受信機に接続された同軸ケーブルに設けられたケーブル側接栓に電気的及び機械的に結合」の構成を有していない点。

相違点6(本件発明2)
引用発明(1ないし4)は、本件発明2の発明特定事項である「前記アンテナ側接栓、前記入力側接栓、前記出力側接栓及び前記ケーブル側接栓は、防水処理されている」構成を有していない点。

(2)判断(相違点5、相違点6)
上記相違点について検討する。

サ.相違点5について
ブースタの出力は、最終的にチューナに入力されるように、伝送路を設けることが必要であることは明らかである。そして、アンテナからチューナに至る伝送路として、同軸ケーブルを利用すること、および、上記同軸ケーブルとアンテナまたはチューナとを接続するのに接栓を用いることは本件の特許出願前慣用手段であるから、引用発明(1ないし4)において、ブースタに出力側接栓を設け、この出力側接栓と同軸ケーブルを電気的・機械的に結合し、(受信機である)チューナに至るようにすることは当業者が容易になしえたことである。

シ.相違点6について
引用発明(1ないし4)のものは、屋外で利用することが想定されていることは明らかであり、そのような引用発明(1ないし4)において、各接栓に防水処理を施すことは甲第7号証の記載を見るまでもなく当業者が普通に考慮することである。したがって、引用発明(1ないし4)において、上記相違点6の構成とすることは当業者が容易になしえたことである。

(3)引用発明5との対比
ク’.「ケースには、前記ブースタの出力側に前記ケース内において接続された出力側接栓が設けられ、この出力側接栓は、前記受信機に接続された同軸ケーブルに設けられたケーブル側接栓に電気的及び機械的に結合され」について
引用発明5は「ブースタは、防水構造である本体に収容されたブースタであって、本体には、ブースタの入力側に接続される入力側接栓が設けられ、さらに、同軸ケーブルを接続する中継接栓の働きをしている」構成を有している。
引用発明5の「防水構造である本体」が、本件発明のケースに相当することは、上記第4 4.B.オ.にて検討したとおりである。
そして、引用発明5のブースタは「同軸ケーブルを接続する中継接栓の働きをしている」のであるから、引用発明5のブースタは入力側、出力側ともに同軸ケーブルと直接接続(すなわち、機械的に結合)される接栓であることが理解できる。
また、上記ブースタの出力が同軸ケーブルを介して受信器であるテレビジョン装置に伝送されていることも、上記第4 4.B.にて検討したとおりであり、上記信号が伝送されるためには、ブースタの出力側接栓が電気的にも結合されていることは明らかである。
以上のことからみて、引用発明5は、「ケースには、前記ブースタの出力側に前記ケース内において接続された出力側接栓が設けられ、この出力側接栓は、前記受信機に接続された同軸ケーブルに設けられたケーブル側接栓に電気的及び機械的に結合され」の構成を有しているということができる。

ケ’.「前記アンテナ側接栓、前記入力側接栓、前記出力側接栓及び前記ケーブル側接栓は、防水処理されている」について
引用発明5は、本体が防水構造であることは甲第6号証の記載から明らかであるが、接栓が防水構造であるかは、甲第6号証の記載からは明らかでない。また、甲第6号証にはアンテナ側接栓について格別の記載はない。
したがって、引用発明5は、「前記アンテナ側接栓、前記入力側接栓、前記出力側接栓及び前記ケーブル側接栓は、防水処理されている」構成を有しているということはできない。

コ’.一致点・相違点(本件発明2と引用発明5)
本件発明2と引用発明5との上記対比によれば、本件発明2と引用発明5との一致点、相違点は、本件発明1の対比判断より援用する部分を除いて、以下のとおりである。

相違点6’(本件発明2)
引用発明5は、本件発明2の発明特定事項である「前記アンテナ側接栓、前記入力側接栓、前記出力側接栓及び前記ケーブル側接栓は、防水処理されている」構成を有していない点。

(4)判断(相違点6’)
上記相違点について検討する。
引用発明5のブースタは、屋外で利用することを想定し、本体が防水構造となっている。また、引用発明5において、(アンテナ直下に配置される)ブースタが屋外で利用することを想定しているのであるから、アンテナも屋外で利用することを想定していることは明らかである。
そのような引用発明5において、ブースタ本体のみならず、各接栓も防水処理を施すことは甲第7号証の記載を見るまでもなく当業者が普通に考慮することである。したがって、引用発明5において、上記相違点6’の構成とすることは当業者が容易になしえたことである。

ク.まとめ
したがって、本件発明1を引用する本件発明2は、相違点2、相違点2’、相違点4、相違点4’、相違点5-2、相違点5-4の点で、甲第1号証ないし甲第8号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反するとする、請求人が主張する理由によっては本件特許を無効とすることはできない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由および提出した証拠方法によっては本件特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
 
審決日 2011-05-27 
出願番号 特願2002-198420(P2002-198420)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊東 和重  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 奥村 元宏
▲徳▼田 賢二
登録日 2007-11-02 
登録番号 特許第4035007号(P4035007)
発明の名称 地上デジタル放送受信システム  
代理人 小林 武  
代理人 石井 良和  
代理人 木村 正俊  

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