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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1239479
審判番号 不服2008-3224  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-12 
確定日 2011-07-04 
事件の表示 特願2004- 45249「言語翻訳の方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月16日出願公開、特開2004-259271〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年2月20日(パリ条約による優先権主張2003年2月24日、アメリカ合衆国、2003年6月16日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成19年11月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年2月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。
そして、当審において、平成22年11月15日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対して平成23年1月18日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項5に係る発明は、平成23年1月18日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項5に記載されたとおりの次のものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「クライアントコンピュータデバイスのユーザに言語翻訳サービスを提供するコンピュータ実行方法であって、
前記ユーザから前記クライアントコンピュータデバイスの手動入力手段又はコミュニケーションインターフェース手段を通じて入力された言語の選択に相当する入力を受信するステップと、
前記ユーザから前記手動入力手段または前記コミュニケーションインターフェース手段を通じて入力された専門データベースの選択に相当する入力を受信するステップと、
前記言語の選択および前記専門データベースの選択を表している要求を前記コミュニケーションインターフェース手段を通じて前記クライアントコンピュータデバイスからサーバへ送信するステップと、
前記言語選択に対応した言語依存データベースを前記コミュニケーションインターフェース手段を通じて前記サーバから受信するステップと、
前記専門データベースの選択に対応した前記専門データベースを前記コミュニケーションインターフェース手段を通じて前記サーバから受信するステップと、
前記クライアントコンピュータデバイスと関連するプロセッサによって、前記言語依存データベースおよび前記専門データベースと関連して言語非依存翻訳エンジンを使用して言語翻訳を実行するステップと、
前記ユーザが翻訳を望む文(テキスト)を表すターゲット入力を、前記ユーザから前記手動入力手段または前記コミュニケーションインターフェース手段からのデータ転送を通じて受信するステップと、
前記プロセッサにより、前記言語依存データベース内に含まれるサンプル文集を検索し、前記ターゲット入力に少なくとも実質的に近似するサンプル文を特定するステップと、
から構成されることを特徴とする方法。」

3.引用例
これに対して、当審において平成22年11月15日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開2000-194698号公報(以下、「引用例1」という。)、及び、特開平9-245040号公報(以下、「引用例2」という。)には、それぞれ、図面とともに次の事項が記載されている。

(引用例1)
A.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、情報処理装置および方法、並びに提供媒体に関し、特に、ユーザが位置する場所に対応して、翻訳を行うことができるようにした情報処理装置および方法、並びに提供媒体に関する。」

B.「【0014】図1は、本発明を適用した携帯用電子辞書1の第1の実施の形態の外観の構成例を表している。携帯用電子辞書1の左側面上部には、音声認識された結果をユーザが、聴覚によって確認するための装置であるスピーカ2が設けられ、その下方には、ユーザが音声を入力するためのマイクロフォン3が設けられている。
【0015】また、その正面上部には、LCDで構成され、ユーザからの入力が処理された結果や、ユーザに提示する情報などを表示する表示部4が設けられ、その下方には、複数のボタンから構成され、ユーザが、それを押すことによって、希望の単語や電子辞書機能に対する指令の入力を行うキーボード5が設けられている。
・・・(中略)・・・
【0017】図2は、携帯用電子辞書1の第1の実施の形態の内部の構成例を表している。CPU11は、ROM12に記憶されている、例えば、音声翻訳プログラムに従って、各種の処理を実行する。ROM12には、音声翻訳プログラムの他、各種の言語データ(詳細は後述する)が記憶されている。RAM13は、CPU11が各種の処理を実行する上において必要なデータやプログラムを適宜記憶する。」

C.「【0020】次に、図3のブロック図を参照して、携帯用電子辞書1の第1の実施の形態の音声翻訳プログラムの機能的構成例を説明する。
・・・(中略)・・・
【0023】音声翻訳部24のデータ記憶部25は、N個の言語データ記憶部D-1乃至D-N(以下、言語データ記憶部D-1乃至D-Nを区別する必要がない場合、単に、言語データ記憶部Dと記述する。他の場合についても同様である)が記憶されている。言語データ記憶部D-1乃至D-Nのそれぞれには、言語ごとの(例えば、日本語、英語ごとの)、音声認識用言語データ、機械翻訳用言語データ、および音声合成用言語データ(以下、音声認識用言語データ、機械翻訳用言語データ、および音声合成用言語データを個々に区別する必要がない場合、これらをまとめて、音声翻訳用言語データと称する)が記憶されている。この例においては、言語データ記憶部D-1には、日本語に対応する音声翻訳用言語データが記憶され、言語データ記憶部D-2には、英語に対応する音声翻訳用言語データが記憶されているものとする。
・・・(中略)・・・
【0026】音声翻訳部24の音声認識部26は、データ記憶部25の言語データ記憶部Dのうち、第1の言語に対応する言語データ記憶部Dの音声認識用言語データを参照して、供給される音声信号を音声認識し、対応する第1の言語のテキストデータを生成する。機械翻訳部27は、データ記憶部25の言語データ記憶部Dのうち、第2の言語に対応する言語データ記憶部Dの機械翻訳用言語データを参照して、音声認識部26により生成されてテキストデータを解析し、対応する第2の言語のテキストデータに変換(翻訳)する。音声合成部28は、第2の言語に対応する言語データ記憶部Dの音声合成用言語データを参照して、機械翻訳部27により翻訳されたテキストデータを音声信号に変換する。」

D.「【0028】次に、音声翻訳処理を実行する場合の携帯用電子辞書1の第1の実施の形態の処理手順を、図4のフローチャートを参照して説明する。
・・・(中略)・・・
【0030】次に、ステップS3において、制御部20は、位置検出処理制御部29を制御し、携帯用電子辞書1の位置を検出させる。すなわち、これにより、制御部20は、GPS受信部15により算出された携帯用電子辞書1の位置に対応する緯度と経度(位置情報)を取得する。
【0031】ステップS4において、制御部20は、言語情報記憶部30を参照して、ステップS3で検出された携帯用電子辞書1の位置情報に対応して記憶されている使用言語情報を検出し、翻訳処理における第2の言語に決定し、音声翻訳部24に通知する。この例の場合、携帯用電子辞書1の位置情報が、アメリカ国領土内またはイギリス国領土内であることを示しているものとすると、ここでは、英語を示す使用言語情報が検出され、第2の言語が英語とされる。
・・・(中略)・・・
【0035】ステップS23において、機械翻訳部27は、ステップS4で通知された第2の言語に対応するデータ記憶部25の言語データ記憶部Dを選択する。この例の場合、言語データ記憶部D-2が選択される。
【0036】次に、ステップS24において、機械翻訳部27は、ステップS23で選択した言語データ記憶部D(この例では、言語データ記憶部D-2)の機械翻訳用言語データを参照して、音声認識部26により生成されたテキストデータを解析し、第2の言語のテキストデータに変換する。」

E.「【0040】図6は、本発明を適用した携帯用電子辞書1の第2の実施の形態の音声翻訳プログラムの機能的構成例を表している。なお、図中、図3における場合と対応する部分については、同一の符号を付してある。すなわち、この例では、言語データ記憶部D-1乃至D-Nに代えて、L個の言語データ記憶部E-1乃至E-Lが設けられている。なお、ここでは、翻訳における第1の言語が日本語で、また第2の言語が英語であるとする。
【0041】言語データ記憶部E-1には、図7に示すような、イギリス(ロンドン)において使用される固有名詞を含む、日本語(第1の言語)および英語(第2の言語)に対応する音声翻訳用言語データが記憶されている。図7の例では、「ロンドン」、「ビクトリヤ駅」、「大英博物館」、「ビックベン」、および「バッキンガム宮殿」など、ロンドンにおいて使用される固有名詞の日本語表記、日本語読み、英語表示、品詞、および意味などが音声翻訳用言語データとして記憶されている。
【0042】また、言語データ記憶部E-2には、図8に示すような、アメリカ(ニューヨーク)において使用される固有名詞を含む、日本語および英語に対応する音声翻訳用言語データが記憶されている。図8の例では、「ニューヨーク」、「自由の女神」、および「セントラルパーク」など、ニューヨークにおいて使用される固有名詞の日本語表記、日本語読み、英語表示、品詞、および意味などが音声翻訳言語データとして記憶されている。
・・・(中略)・・・
【0044】言語情報記憶部30には、所定の地域(例えば、ニューヨークやロンドン)の位置情報に対応して、その地域を示す情報が記憶されている。例えば、ニューヨーク地域に対応する位置情報には、ニューヨークを示す情報(例えば、地域名)が対応して記憶されている。またロンドン地域に対応する位置情報には、ロンドンを示す情報が対応して記憶されている。」

F.「【0045】次に、音声翻訳処理を実行する場合の携帯用電子辞書1の第2の実施の形態の処理手順を、図9のフローチャートを参照して説明する。
【0046】ステップS31において、ユーザにより所定の操作が、例えば、キーボード5に対して行われ、音声翻訳プログラムが起動されると、ステップS32において、制御部20は、位置検出処理制御部29を制御し、携帯用電子辞書1の位置を検出させる。
【0047】ステップS33において、制御部20は、言語情報記憶部30を参照して、ステップS32で検出された携帯用電子辞書1の位置情報に対応して記憶されている情報(例えば、地域名)を読み取し、音声翻訳部24に通知する。例えば、ステップS32で検出された位置情報が、例えば、ニューヨーク地域内であることを示している場合、ニューヨークを示す情報が読み出され、音声翻訳部24に通知される。また、位置情報が、ロンドン地域内であることを示している場合、ロンドンを示す情報が読み出され、音声翻訳部24に通知される。
・・・(中略)・・・
【0050】すなわち、ステップS51において、音声翻訳部24の音声認識部26は、ステップS33で通知された情報(例えば、地域名)に対応するデータ記憶部25の言語データ記憶部Eを選択する。例えば、地域名として「ロンドン」が通知された場合、音声認識部26は、言語データ記憶部E-1を選択する。また「ニューヨーク」が通知された場合、音声認識部26は、言語データ記憶部E-2を選択する。
・・・(中略)・・・
【0052】ステップS53において、機械翻訳部27は、ステップS51で選択された言語データ記憶部Eの機械翻訳用言語データを参照して、音声認識部26により生成されたテキストデータを解析し、第2の言語のテキストデータに変換する。」

G.「【0074】さらに、以上においては、データ記憶部25に記憶されている内容がROM12に保持されている場合を例として説明したが、携帯用電子辞書1を、ネットワークに接続させ、そのネットワークに接続されている所定のサーバからデータ記憶部25に記憶されていた内容を随時ダウンロードするようにしてもよい。これにより、更新された言語データの提供を容易に受けることができる。
【0075】また、以上においては、翻訳される言葉が音声で入力される場合を例として説明したが、キーボード5の操作により入力された言葉も、上述したように翻訳される。」

上記Dの段落【0031】を参照すると、携帯用電子辞書の位置情報に基づいて、翻訳処理における第2の言語を決定し、音声翻訳部に通知することが示されている。ここで、第2の言語を決定するということは、複数の言語の中から特定の第2の言語を選択することを意味するものであり、音声翻訳部に第2の言語の選択に相当する情報を通知しているといえるから、携帯用電子辞書の音声翻訳部は、第2の言語の選択に相当する情報を受信しているといえる。
同様に、上記Fの段落【0047】を参照すると、携帯用電子辞書の位置情報に基づいて、地域を示す情報を読み出し、音声翻訳部に通知することが示されていることから、携帯用電子辞書の音声翻訳部は、地域を示す情報に相当する情報を受信しているといえる。
さらに、上記Gの段落【0075】を参照すると、キーボードの操作により入力された言葉、すなわち、キーボードの操作により入力されたテキストデータも、音声で入力される場合と同様に、音声翻訳部に転送されて翻訳されるものであるから、携帯用電子辞書の音声翻訳部は、ユーザが翻訳を望む第1の言語のテキストデータを、前記ユーザに操作されたキーボードからのデータ転送を通じて受信しているといえる。

上記Gの段落【0074】に記載されている「データ記憶部25に記憶されていた内容」は、上記C及びEを参照すると、「言語データ記憶部D」及び「言語データ記憶部E」の記憶内容であるといえる。

よって、上記A?Gの記載及び関連する図面を参照すると、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用例1記載の発明」という。)
「携帯用電子辞書のユーザに言語翻訳サービスを提供するコンピュータ実行方法であって、
前記携帯用電子辞書の位置情報に基づいて第2の言語の選択に相当する情報を受信するステップと、
前記携帯用電子辞書の位置情報に基づいて地域を示す情報に相当する情報を受信するステップと、
前記第2の言語に対応した言語データ記憶部Dを選択するステップと、
前記地域を示す情報に対応した言語データ記憶部Eを選択するステップと、
前記携帯用電子辞書のCPUによって、前記言語データ記憶部Dまたは前記言語データ記憶部Eを参照して機械翻訳部が言語翻訳を実行するステップと、
前記ユーザが翻訳を望む第1の言語のテキストデータを、前記ユーザに操作されたキーボードからのデータ転送を通じて受信するステップと、
ネットワークを介して接続されているサーバから、言語データ記憶部D及び言語データ記憶部Eの記憶内容を随時ダウンロードするステップと、
から構成される方法。」

(引用例2)
H.「【0018】以下本発明の一の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の翻訳支援装置の構成図である。図1において、1は翻訳の対象となる原言語の入力文を入力しうるキーボード、スキャナー等により構成される入力部、2は翻訳対象となる原言語の例文と目的言語による例文の訳文を対にして記憶している例文データベースあり、本実施形態では原言語を日本語、目的言語を英語としている。もっとも原言語と目的言語の組み合わせは日本語と英語に限られるものでないのは言うまでもない。また、3は入力部1より入力された原言語の入力文に類似した例文を例文データベース2から検索する例文検索部、4は例文検索部3により検索された例文の訳文における、入力文と対応しない部分を修正対象部分として検索する修正対象部分検索部である。そして、5は入力部1から入力された入力文と、例文検索部3により検索された入力文に類似する例文および例文の訳文と、修正対象部分検索部4による検索結果を記憶する記憶部である。7は記憶部5に記憶されている入力文と類似する例文および例文の訳文を対にして表示する例文表示部、8は記憶部5に記憶されている入力文を表示する入力文表示部、6は例文表示部7に表示されている例文の訳文の内、ユーザーによって選択される一文を編集対象として表示する訳文表示部である。これらの訳文表示部6、例文表示部7、入力文表示部8は本実施形態では例えば図5に示すように一つのモニター画面内に設けてある。さらに9は訳文表示部6に表示された例文の訳文をキーボード等からのユーザーの命令により文字列の付加削除変更等の編集を行う訳文編集部である。
・・・(中略)・・・
【0022】かかる構成を有する翻訳支援装置の動作について以下に説明する。図2に本願に係る翻訳支援装置の動作を示すフローチャートを示しておく。まず、入力部1から原言語の入力文を入力する(S10)。本実施形態では「私は父と一緒に博物館へ行った。」という文を入力することとする。するとこの文字列は記憶部5の所定のエリアに記憶され、図3に示すように入力文表示部8に表示される(S20)。
【0023】次に、例文検索部3は記憶部5に記憶された入力文と類似している例文を例文データベースより検索する(S30)。
・・・(中略)・・・
【0027】例文検索部3によって検索された例文とその訳文は記憶部5に記憶されるが、この際、例文の訳文には修正対象部分検索部4によって検索された修正対象部分に印が付けられた状態で記憶される。また、本実施形態では例文に対しても入力文に対応しない部分に印を付けて記憶されるように設定してある。
【0028】記憶部5に記憶された例文およびその訳文は図4に示すように例文表示部7に表示される(S40)。図4に示すように本実施形態では例文およびその訳文において入力文と対応しない部分に所定の修飾、ここではハッチングを施して表示してある。なお、この修飾はハッチングに限られず斜体文字としたり反転表示とする等、ユーザーが他の文字列との差異が認識できるものであればどのようなものでも良い。
【0029】図4のように例文とその訳文が表示されている状態で、ユーザーは編集しようとする例文の訳文をマウス等により選択する(S50)。ここでは「I went to the sea with my classmates.」を選択することとする。すると図5に示すように選択された例文の訳文が訳文表示部6に表示される。この際、例文の訳文中の修正対象部分には例文表示部7における場合と同様、所定の修飾すなわちハッチングが施されて表示される(S60)。このハッチングも他の文字列との差異が認識できるものであればどのようなものでも良いことは言うまでもない。このように修正対象部分が明示的に表示されるので、ユーザーは入力文と例文の訳文の対応しない部分を一目で認識することができる。」

上記Hの記載及び関連する図面を参照すると、引用例2には、次の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用例2記載の発明」という。)
「入力部と、例文検索部と、翻訳対象となる原言語の例文と目的言語による例文の訳文を対にして記憶している例文データベースとを備える翻訳支援装置上で遂行される方法であって、
原言語の入力文を前記入力部から入力するステップと、
前記例文検索部により、前記入力文と類似している例文を前記例文データベースから検索し、検索された例文とその訳文とを複数表示し、編集しようとする例文の訳文をマウス等により選択するステップと、
から構成される方法。」

4.対比
本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、次のことがいえる。

(あ)引用例1記載の発明における「携帯用電子辞書」は、サーバからデータを随時ダウンロードして処理を行う情報処理装置であるから、「クライアントコンピュータデバイス」と呼び得るものである。

(い)引用例1記載の発明における「第2の言語の選択」は、本願発明における「言語の選択」に相当するものであるから、引用例1記載の発明における「携帯用電子辞書の位置情報に基づいて第2の言語の選択に相当する情報を受信するステップ」と、本願発明における「ユーザからクライアントコンピュータデバイスの手動入力手段又はコミュニケーションインターフェース手段を通じて入力された言語の選択に相当する入力を受信するステップ」とは、ともに、「言語の選択に相当する情報を受信するステップ」である点で共通するものである。

(う)本願発明における「専門データベース」について、平成19年10月4日付けの手続補正書の「専門データベース(specialized database;特殊データベース、専門分野別データベース、あるいは特化データベースとも称する)」(段落【0005】)及び「特化データベースには、実例として、特定のホテル、通りの名前、レストラン、観光名所など、旅行先に関連する特定の単語および語句(フレーズ)が含まれる。」(段落【0031】)といった記載を参酌すると、本願発明における「専門データベース」は、所定の地域において使用される単語等を含むものであるといえる。
そして、引用例1記載の発明における「言語データ記憶部E」も、引用例1の上記Eを参照すると、所定の地域において使用される単語等を含むものであるから、引用例1記載の発明における「言語データ記憶部E」は、本願発明における「専門データベース」に相当するものである。
ここで、本願発明における「専門データベースの選択」は、複数の「専門データベース」の中から特定の「専門データベース」を選択するための情報を意味するものである。一方、引用例1記載の発明における「地域を示す情報」も、複数の「言語データ記憶部E」の中から特定の「言語データ記憶部E」を選択するための情報であるから、引用例1記載の発明における「地域を示す情報」は、本願発明における「専門データベースの選択」に相当するものである。
そうすると、引用例1記載の発明における「携帯用電子辞書の位置情報に基づいて地域を示す情報に相当する情報を受信するステップ」と、本願発明における「ユーザから手動入力手段またはコミュニケーションインターフェース手段を通じて入力された専門データベースの選択に相当する入力を受信するステップ」とは、ともに、「専門データベースの選択に相当する情報を受信するステップ」である点で共通するものである。

(え)本願発明において、「言語依存データベースをコミュニケーションインターフェース手段を通じてサーバから受信する」というのは、言語依存データベースを構築するために必要となるデータの集合やデータ間の関係などのデータベースの内容を、コミュニケーションインターフェース手段を通じてサーバから受信するものといえる。また、「専門データベースの選択に対応した前記専門データベースをコミュニケーションインターフェース手段を通じてサーバから受信するステップ」ついても同様のことがいえる。
よって、引用例1記載の発明における「ネットワークを介して接続されているサーバから、言語データ記憶部D及び言語データ記憶部Eの記憶内容を随時ダウンロードするステップ」と、本願発明における「言語選択に対応した言語依存データベースをコミュニケーションインターフェース手段を通じてサーバから受信するステップ」及び「専門データベースの選択に対応した前記専門データベースをコミュニケーションインターフェース手段を通じてサーバから受信するステップ」とは、ともに、「言語依存データベース及び専門データベースをサーバから受信するステップ」である点で共通するものである。

(お)引用例1記載の発明における「CPU」、「機械翻訳部」、「ユーザが翻訳を望む第1の言語のテキストデータ」は、それぞれ、本願発明における「プロセッサ」、「言語非依存翻訳エンジン」、「ユーザが翻訳を望む文(テキスト)を表すターゲット入力」に相当するものである。

(か)引用例1記載の発明における「ユーザに操作されたキーボードからのデータ転送を通じて受信するステップ」と、本願発明における「ユーザから手動入力手段またはコミュニケーションインターフェース手段からのデータ転送を通じて受信するステップ」とは、ともに、「ユーザからインターフェース手段からのデータ転送を通じて受信するステップ」である点で共通するものである。

上記(あ)?(か)の事項を踏まえると、本願発明と引用例1記載の発明とは、次の点で一致し、また、相違するものと認められる。

(一致点)
本願発明と引用例1記載の発明とは、ともに、
「クライアントコンピュータデバイスのユーザに言語翻訳サービスを提供するコンピュータ実行方法であって、
言語の選択に相当する情報を受信するステップと、
専門データベースの選択に相当する情報を受信するステップと、
言語依存データベース及び前記専門データベースを前記サーバから受信するステップと、
前記クライアントコンピュータデバイスと関連するプロセッサによって、前記言語の選択に対応した前記言語依存データベースおよび前記専門データベースの選択に対応した前記専門データベースと関連して言語非依存翻訳エンジンを使用して言語翻訳を実行するステップと、
前記ユーザが翻訳を望む文(テキスト)を表すターゲット入力を、前記ユーザからインターフェース手段からのデータ転送を通じて受信するステップと、
から構成される方法。」
である点。

(相違点)
相違点1:「言語の選択に相当する情報」及び「専門データベースの選択に相当する情報」を、本願発明は、「ユーザからクライアントコンピュータデバイスの手動入力手段又はコミュニケーションインターフェース手段を通じて入力」しているのに対し、引用例1記載の発明は、「携帯用電子辞書の位置情報に基づいて」選択又は読み出している点。

相違点2:本願発明は、「言語の選択および専門データベースの選択を表している要求をコミュニケーションインターフェース手段を通じてクライアントコンピュータデバイスからサーバへ送信するステップ」を実行し、「前記言語選択に対応した言語依存データベース」及び「前記専門データベースの選択に対応した前記専門データベース」を「前記コミュニケーションインターフェース手段を通じて前記サーバから受信」しているのに対し、引用例1記載の発明は、「ネットワークを介して接続されているサーバから、言語データ記憶部D及び言語データ記憶部Eの記憶内容を随時ダウンロード」しているが、「第2の言語の選択」及び「地域を示す情報」をサーバに送信し、「第2の言語の選択」に対応する「言語データ記憶部Dの記憶内容」と、「地域を示す情報」に対応する「言語データ記憶部Eの記憶内容」をサーバから受信することについての言及はされていない点。

相違点3:「インターフェース手段」が、本願発明においては、「手動入力手段またはコミュニケーションインターフェース手段」であるのに対し、引用例1記載の発明においては、「キーボード」である点。

相違点4:本願発明は、「プロセッサにより、言語依存データベース内に含まれるサンプル文集を検索し、ターゲット入力に少なくとも実質的に近似するサンプル文を特定するステップ」を実行しているのに対し、引用例1には、言語データ記憶部D及び言語データ記憶部Eを参照してどのように翻訳を行うのかについての言及はされていない点。

5.当審の判断
そこで、上記相違点1?4について検討する。

(相違点1について)
引用例1記載の発明は、「第2の言語の選択」及び「地域を示す情報」をユーザが明示的に入力する手間を省くために、位置情報に基づいて「第2の言語」及び「地域」を特定しているにすぎず、上記位置情報に替えて、ユーザがこれらの情報を入力するようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。
そして、上記情報の入力を、例えば、引用例1記載の発明における「キーボード」を通じて行うようにすることは、当業者が適宜なし得ることであり、このキーボードは、ユーザの手動により情報を入力する機器であるから、「手動入力手段」と呼び得るものである。
また、引用例1記載の発明における「携帯用電子辞書」は、サーバと情報を送受信するものであるから、本願発明における「コミュニケーションインターフェース手段」に相当する通信手段を有していることは明らかであり、他の機器から通信手段を通じて情報を入力することは、ごく普通に行なわれていることであるから、「第2の言語」及び「地域」を特定する情報の入力を、通信手段を通じて行うようにすることも、当業者が適宜なし得ることである。
よって、引用例1記載の発明において、本願発明における「言語の選択に相当する情報」及び「専門データベースの選択に相当する情報」を、「ユーザからクライアントコンピュータデバイスの手動入力手段又はコミュニケーションインターフェース手段を通じて入力」するようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について)
一般に、サーバからデータをダウンロードする場合に、必要なデータのみをダウンロードすることはごく普通に行なわれていることであるから、サーバから随時ダウンロードを行う引用例1記載の発明における「携帯用電子辞書」において、翻訳処理に必要とする「言語データ記憶部Dの記憶内容」及び「言語データ記憶部Eの記憶内容」のみをダウンロードするために、必要とする「言語データ記憶部Dの記憶内容」及び「言語データ記憶部Eの記憶内容」を特定するための情報である「第2の言語の選択」及び「地域を示す情報」をサーバへ送信するようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。
そして、上記相違点1で検討したように、情報を送受信するために、本願発明における「コミュニケーションインターフェース手段」に相当する通信手段を引用例1記載の発明における「携帯用電子辞書」が有していることは明らかである。
よって、引用例1記載の発明において、本願発明における「言語の選択および専門データベースの選択を表している要求をコミュニケーションインターフェース手段を通じてクライアントコンピュータデバイスからサーバへ送信するステップ」を実行するとともに、「前記言語選択に対応した言語依存データベース」及び「前記専門データベースの選択に対応した前記専門データベース」を「前記コミュニケーションインターフェース手段を通じて前記サーバから受信」するようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点3について)
上記相違点1で検討したように、引用例1記載の発明における「キーボード」は、「手動入力手段」と呼び得るものである。
また、上記相違点1で検討したように、引用例1記載の発明における「携帯用電子辞書」が、本願発明における「コミュニケーションインターフェース手段」に相当する通信手段を有していることは明らかであり、他の機器から通信手段を通じて情報を入力することは、ごく普通に行なわれていることであるから、「ユーザが翻訳を望む第1の言語のテキストデータ」をキーボードを通じて入力することに替えて、通信手段を通じて入力するようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。
よって、引用例1記載の発明における「キーボード」を本願発明における「手動入力手段またはコミュニケーションインターフェース手段」とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点4について)
引用例2には、入力文と類似している例文を例文データベースから検索し、検索された例文と、その訳文とを複数表示し、編集しようとする例文の訳文をマウス等により選択することが示されており、また、引用例2記載の発明が、訳文を選択する前段階として、入力文と類似している例文を検索して表示していることからみても、上記「編集しようとする例文の訳文をマウス等により選択する」にあたって、表示された複数の例文の中から、どの例文が入力文にもっとも類似する例文であるかを特定することは、ごく自然に行われる操作であるといえる。すなわち、引用例2記載の発明において、「編集しようとする例文の訳文をマウス等により選択する」というのは、入力文にもっとも類似する例文とその訳文の組を特定するために行われることであり、特定された組の訳文と例文のどちらをマウス等により選択するようにするのかは、単なる設計事項にすぎない。
そして、引用例2に示されているような、例文データベースを検索し、入力文ともっとも類似している例文を選択することによりその訳文を特定するようにすることが、入力されたテキストデータを翻訳する引用例1記載の発明においても有用であることは、当業者が容易に首肯し得る事項であるし、引用例1記載の発明に、引用例2記載の発明を適用できない理由もない。
よって、引用例1記載の発明に、引用例2記載の発明を適用することにより、本願発明における「プロセッサにより、言語依存データベース内に含まれるサンプル文集を検索し、ターゲット入力に少なくとも実質的に近似するサンプル文を特定するステップ」を実行することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(本願発明の作用効果について)
そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例1,2記載の発明から当業者が容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1,2記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-02 
結審通知日 2011-02-04 
審決日 2011-02-17 
出願番号 特願2004-45249(P2004-45249)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太成瀬 博之  
特許庁審判長 岩崎 伸二
特許庁審判官 長島 孝志
久保 正典
発明の名称 言語翻訳の方法  
復代理人 合田 潔  
代理人 谷 義一  
復代理人 濱中 淳宏  
代理人 阿部 和夫  

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