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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01R 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01R |
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管理番号 | 1239643 |
審判番号 | 不服2009-11702 |
総通号数 | 140 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-06-26 |
確定日 | 2011-07-06 |
事件の表示 | 特願2004-507851「デバイスのテスト用プローブ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 4日国際公開、WO03/100445、平成17年 9月15日国内公表、特表2005-527823〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成15年5月23日(パリ条約による優先権主張:平成14年5月23日、米国)を国際出願日とする国際出願であって、その後の手続の経緯の概要は以下のとおりである。 平成19年12月26日 拒絶理由通知(平成20年1月8日発送) 平成20年 7月 8日 意見書、手続補正(以下、「補正1」という。) 平成21年 3月27日 拒絶査定(同年3月31日送達) 平成21年 6月26日 本件審判請求、手続補正(以下、「本件補正」という。) 平成22年 7月23日 審尋(同年7月27日発送) 平成22年10月26日 回答書 2 本件補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 2-1 本件補正の内容 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項117に、 「【請求項1】 (a) 絶縁基板と; (b) 前記基板の第1の側によって支持され、テスト中のデバイスへのテスト信号及びテスト中のデバイスからのテスト信号を伝送するための細長い導体と; (c) 前記基板の第2の側によって支持され、接地電位に電気的に相互接続された導電部材と; (d) 前記基板の前記第1の側と前記基板の前記第2の側との間の導電径路であって、前記細長い導体に電気的に相互接続され、前記基板に蜜接し、前記導電部材に電気的に接触しない導電径路と; (e) 前記導電径路に電気的に相互接続され、テスト中のデバイスに電気的に接触するための接点と を具えていることを特徴とするプローブ。 ・・・ 【請求項117】 前記基板が、40ミクロン以下の厚さ、及び7以下の比誘電率を有することを特徴とする請求項111に記載のプローブ。」 とあったものを、 「【請求項1】 (a) 絶縁基板と; (b) 前記基板の第1の側によって支持され、テスト中のデバイスへのテスト信号及びテスト中のデバイスからのテスト信号を伝送するための細長い導体と; (c) 前記基板の第2の側によって支持され、接地電位に電気的に相互接続されたシールド用の導電部材と; (d) 前記基板の前記第1の側と前記基板の前記第2の側との間の導電径路であって、前記細長い導体に電気的に相互接続され、前記基板に密接し、前記導電部材に電気的に接触しない導電径路と; (e) 前記基板の前記第2の側上で前記導電径路に直接電気的に相互接続された、テスト中のデバイスに電気的に接触するための接点と を具え、 前記導電部材が、前記基板の前記第2の側上で前記導電径路及び前記接点を包囲することを特徴とするプローブ。 ・・・ 【請求項34】 さらに、前記細長い導体の上に配置した他の導電部材を具え、前記細長い導体と前記導電部材との間の距離が、前記細長い導体と前記他の導電部材との間の距離の2倍以下であることを特徴とする請求項1に記載のプローブ。」 に補正しようとするものである。 (当審注:下線は補正箇所を明示するために請求人が付したものである。) 2-2 本件補正の目的 本件補正は、本件補正前の請求項35?117を削除し、本件補正前の請求項1に記載した「蜜接」との誤記を「密接」に訂正し、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「導電部材」に関して、「シールド用の」との限定を付加し、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「接点」に関して、「前記基板の前記第2の側上で」及び「直接」との限定を付加するとともに、さらに「前記導電部材が、前記基板の前記第2の側上で前記導電径路及び前記接点を包囲する」との限定を付加するものである。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含む。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 2-3 独立特許要件 (1)本願補正発明 本願補正発明は、本件補正後の特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「(a) 絶縁基板と; (b) 前記基板の第1の側によって支持され、テスト中のデバイスへのテスト信号及びテスト中のデバイスからのテスト信号を伝送するための細長い導体と; (c) 前記基板の第2の側によって支持され、接地電位に電気的に相互接続されたシールド用の導電部材と; (d) 前記基板の前記第1の側と前記基板の前記第2の側との間の導電径路であって、前記細長い導体に電気的に相互接続され、前記基板に密接し、前記導電部材に電気的に接触しない導電径路と; (e) 前記基板の前記第2の側上で前記導電径路に直接電気的に相互接続された、テスト中のデバイスに電気的に接触するための接点とを具え、 前記導電部材が、前記基板の前記第2の側上で前記導電径路及び前記接点を包囲することを特徴とするプローブ。」 (2)引用文献記載の事項・引用発明 原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平2-141681号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「[発明の技術分野] 本発明は一般に半導体試験の分野に関するものであり、一層詳細には試験中の半導体デバイス(DUT)を試験するのに使用する試験プローブに関する。 ・・・ [発明の概要] 本発明は高速試験信号をウェーハ上に既に形成されている集積回路チップに伝えることができる試験システムを提供する。発明者が使用した設計は(a)信号のゆがみを極力少くすることにより、および(b)試験回路と試験中のデバイスとの間の妨害および偶然の接触を防止することにより、確実な試験結果を生ずる。本発明は主として自動試験システムの一部として使用しようとするものであるが、高周波試験信号を使用して正確な試験測定値を得なければならないどんな状況にも使用することができる。」(1頁左下欄19行目?2頁左下欄14行目) (イ)「本発明は支持台に保持されている可撓膜(flexible membrane)を備えている。膜には、その上面に形成された電流径路とも呼ぶ、電流伝達信号線のパターンがある。膜の反対の下側に付着している接地平面は解析を必要とするウェーハに載っている集積回路の方を向いている。接地平面は試験デバイスと信号線路との間のクロストークを減らす助けとなる。・・・。クロストークにより生じる試験信号のゆがみが実質上減少するので、試験プローブはこの妨害の障害を処理するように設計されていない従来の装置で可能であるよりも高い速さで動作することができる。」(2頁右下欄1行目?3頁左上欄4行目) (ウ)「[発明の実施例] 本発明の他の目標および目的の認識および本発明の一層完全且つ包括的な理解は好適実施例の下記記述を調べ、付図を参照することにより達成することができる。 システムの概要 特許請求範囲にしたがって作ることができるすべての見本構造のうち、発明者はここに説明する特定の見本構造を特許請求の範囲に記した発明を実用化する最良の見本構造(すなわち、最良の態様)であると考えている。 一般的に述べれば、本発明は試験中のデバイス(DUT)(図示せず)との電気接触を確立するシステムを提供するものである。 本発明の膜式試験プローブ・システム10は第1の導体14および第2の導体25を備えている。平面手段12が設けられており、これは第1の導体および第2の導体に結合するように設計された第1の面を備えている。更に、平面手段12は第2の面、およびそれ自身を貫く第1および第2の貫通孔17、23を備えている。平面手段12はたわみやすく形成される。 更に、電磁妨害極小化手段として働くように形成され、平面手段の第2の面と結合するように形成されているシールド16が設けられている。第1の接触手段18は試験中のデバイスと接触を行うように形成され、実質上第1の貫通孔17を埋めると共に第2の面を越えて突出しながら第1の導体14に電気的に結合するように形成される。 第2の接触手段24は試験中のデバイスと接触を行う。手段24は実質上第2の貫通孔23を埋め第2の面を越えて突出しながら第2の導体25と結合している。」(3頁左上欄9行目?左下欄1行目) (エ)「システムの詳細 第1図は膜式試験プローブ10の構造例を断面図で示すものである。可撓膜12は支持台(図示せず)により支持され、その上面で信号線路14のパターンを、その下面で接地平面16のパターンを支持している。バイアホール17(当審注:「バイアホール17」は、当該記載以外では「ヴァイアホール」と記載されていることから、「ヴァイアホール17」の誤記と認められる。以下、「バイアホール17」を「ヴァイアホール17」とする。)は、信号線路14に接続し、接触バンプ18を形成する、膜12を通る溝を提供する。 接触バンプ18は試験中のデバイス20の上方を試験プローブ10により案内される。試験デバイス20は、多数の集積回路から構成されるウェーハであるが、接触バンプ18の目標である多数の入出力パッド22を備えている。 第2図は第1図に示す膜12および信号線路パターンの上面図を示す。第3図、第4図、および第5図は、プローブ10を製作するにつれて進展する図を示す。第3図において、信号線路14のパターンは貫通孔のある膜12の上側にリソグラフにより形成されている。本発明の好適実施例によれば、膜12に対して絶縁性ポリイミド材料を使用した。線路14の幅は接地平面16を付加したとき所要線インピーダンスになるように選定する。次にエキシマレーザ(図示せず)を使用する従来のレーザ・マイクロ加工法により貫通孔のパターンを作る。膜12を貫く貫通孔の幾つかは接触バンブ18のヴァイアホール17として使用されるが、他は接地接触バンプ24の接地平面ヴァイアホール23として働く。 接触バンブ・ヴァイアホール17は信号線路14の端に設置されている。同様に、接地平面16に関するヴァイアホールの第2の組23は接地平面16が接地接触バンプ24と、および信号線路14と交互すなわちはさみ込み構成として膜12の上面に付着することができる接地線路25のパターンと、に結合しなければならない場所に設置される。 二組の穴17および23を次に導電金属で埋めて接地平面16を越えて延びる一般に半球形のすなわち「マッシュルーム」形の突出を作る。この段階中、可撓膜12はそれ自身のめっきマスクとして働く。接地平面パターン16を次に第5図に示すように膜l2の下側に付着させる。 この最後の段階で接地バンプ24および接地平面16は接地ヴァイア23を通して接地線路25と結合するので共通モード接地インピーダンスが極小になる。信号パターンおよび接地パターンを膜12に設置するのに使用されるフォトリソグラフ製作法は半導体技術の当業者には周知である。」(3頁左下欄2行目?4頁左上欄7行目) (オ)「4.図面の簡単な説明 第1図は本発明による一実施例の断面図である。 第2図は電気信号線の放射状パターンが見える該実施例の平面図である。 第3図、第4図、及び第5図はそれぞれ接触バンプが形成される前、形成された後、接地接触バンプに接地平面が形成された後の状態を示す図である。 12:可撓膜 14、25:信号線路 16:接地平面 18、24:接触バンプ」 (4頁左上欄12行目?右上欄1行目) (A)上記(ア)の「本発明は・・・半導体デバイス(DUT)を試験するのに使用する試験プローブに関する。」との記載、上記(エ)の「第1図は膜式試験プローブ10の構造例を断面図で示すものである。可撓膜12は支持台(図示せず)により支持され、その上面で信号線路14のパターンを、その下面で接地平面16のパターンを支持している。ヴァイアホール17は、信号線路14に接続し、接触バンプ18を形成する、膜12を通る溝を提供する。」及び「膜12を貫く貫通孔の幾つかは接触バンブ18のヴァイアホール17として使用される・・・。二組の穴17および23を次に導電金属で埋めて接地平面16を越えて延びる一般に半球形のすなわち「マッシュルーム」形の突出を作る。」との記載、(オ)の記載、第1図、第3図?第5図より、 「(a)可撓膜12と; (b)前記可撓膜12の上面で支持される信号線路14と; (c)前記可撓膜12の下面で支持される接地平面16と; (d)前記可撓膜12を貫く貫通孔に埋められた導電金属であって、前記信号線路14に接続された導電金属と; (e)前記可撓膜12の前記下面上で前記導電金属を半球形に突出させて形成された接触バンプ18とを具えた膜式試験プローブ10。」 との技術事項が読み取れる。 (B)上記(エ)の「第1図は膜式試験プローブ10の構造例を断面図で示すものである。可撓膜12は・・・。第2図は第1図に示す膜12および信号線パターンの上面図を示す。・・・。本発明の好適実施例によれば、膜12に対して絶縁性ポリイミド材料を使用した。」との記載から、 「絶縁性ポリイミド材料を使用した可撓膜12」 との技術事項が読み取れる。 (C)上記(オ)の記載、第1図及び第2図より、 「細長い信号線路14」 との技術事項が読み取れる。 また、上記(ア)の「高速試験信号をウェーハ上に既に形成されている集積回路チップに伝えることができる試験システムを提供する。発明者が使用した設計は(a)信号のゆがみを極力少くすることにより、および(b)試験回路と試験中のデバイスとの間の妨害および偶然の接触を防止することにより、確実な試験結果を生ずる。・・・、高周波試験信号を使用して正確な試験測定値を得なければならないどんな状況にも使用することができる。」との記載、上記(イ)ないし(エ)の記載及び第1図から、 「試験中のデバイス20に高周波試験信号を伝えるための信号線路14」 との技術事項が読み取れる。 そして、これら技術事項を勘案すると、 「試験中のデバイス20に高周波試験信号を伝えるための細長い信号線路14」 との技術事項が読み取れる。 (D)上記(イ)の「本発明は支持台に保持されている可撓膜(flexible membrane)を備えている。・・・。膜の反対の下側に付着している接地平面は解析を必要とするウェーハに載っている集積回路の方を向いている。接地平面は試験デバイスと信号線路との間のクロストークを減らす助けとなる。」との記載、上記(ウ)の「更に、電磁妨害極小化手段として働くように形成され、平面手段の第2の面と結合するように形成されているシールド16が設けられている。」との記載、上記(エ)の「可撓膜12は・・・その下面で接地平面16のパターンを支持している。」との記載から、接地平面16が、電磁妨害極小化手段、つまり「シールド」として働くように形成されたものであるので、 「シールドとして働くように形成された接地平面16」 との技術事項が読み取れる。 (E)上記(エ)の記載、上記(オ)の記載および第1図の記載から、 「接地平面16に接続しない導電金属」 との技術事項が読み取れる。 (F)上記(ウ)の「第1の接触手段18は試験中のデバイスと接触を行うように形成され、実質上第1の貫通孔17を埋めると共に第2の面を越えて突出しながら第1の導体14に電気的に結合するように形成される。」との記載、上記(エ)の「第1図は膜式試験プローブ10の構造例を断面図で示すものである。可撓膜12は支持台(図示せず)により支持され、その上面で信号線路14のパターンを、その下面で接地平面16のパターンを支持している。ヴァイアホール17は、信号線路14に接続し、接触バンプ18を形成する、膜12を通る溝を提供する。接触バンプ18は試験中のデバイス20の上方を試験プローブ10により案内される。」との記載および第1図から、 「試験中のデバイス20に接触を行うように形成された接触バンプ18」 との技術事項が読み取れる。 以上の技術事項(A)?(F)から、引用文献には次の発明が記載されているものと認められる。 「(a) 絶縁性ポリイミド材料を使用した可撓膜12と; (b) 前記可撓膜12の上面で支持され、試験中のデバイス20に高周波試験信号を伝えるための細長い信号線路14と; (c) 前記可撓膜12の下面で支持され、シールドとして働くように形成された接地平面16と; (d) 前記可撓膜12を貫く貫通孔に埋められた導電金属であって、前記信号線路14に接続され、前記接地平面16に接続しない導電金属と; (e) 前記可撓膜12の前記下面上で前記導電金属を半球形に突出させ、試験中のデバイス20に接触を行うように形成された接触バンプ18とを具える膜式試験プローブ10。」 (以下、「引用発明」という。) (3)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「絶縁性ポリイミド材料を使用した可撓膜12」、「上面で支持され」、「試験中のデバイス20」、「高周波試験信号」、「伝える」、「細長い信号線路14」、「下面で支持され」、「シールドとして働くように形成された接地平面16」、「前記信号線路14に接続され」、「前記接地平面16に接続しない」、「接触を行うように形成された接触バンプ18」及び「膜式試験プローブ10」は、 それぞれ本願補正発明の「絶縁基板」、「第1の側によって支持され」、「テスト中のデバイス」、「テスト信号」、「伝送する」、「細長い導体」、「第2の側によって支持され」、「接地電位に電気的に相互接続されたシールド用の導体部材」、「前記細長い導体に電気的に相互接続され」、「前記導電部材に電気的に接触しない」、「電気的に接触するための接点」及び「プローブ」に相当する。 (イ)引用発明の「試験中のデバイス20に高周波試験信号を伝えるための細長い信号線路14」と本願補正発明の「テスト中のデバイスへのテスト信号およびテスト中のデバイスからのテスト信号を伝送するための細長い導体」とは、共に、「テスト中のデバイスヘのテスト信号を伝送するための細長い導体」の点で共通する。 (ウ)引用発明の「前記可撓膜12を貫く貫通孔に埋められた導電金属」において、前記導電金属は可撓膜12の上面と可撓膜12の下面との間にあるといえるから、引用発明の「前記可撓膜12を貫く貫通孔に埋められた導電金属」と、本願補正発明の「前記基板の前記第1の側と前記基板の前記第2の側との間の導電径路であって、前記細長い導体に電気的に相互接続され、前記基板に密接し、前記導電部材に電気的に接触しない導電径路」とは、「前記基板の前記第1の側と前記基板の前記第2の側との間の導電径路」の点で共通する。 (エ)引用発明の「前記可撓膜12の前記下面上で前記導電金属を半球形に突出させ」て形成された「接触バンプ18」は、「貫通孔に埋められた導電金属」と一体的に前記導電金属により形成されたものであり、両者の間に部材は介在しておらず、前記「貫通孔に埋められた導電金属」と、前記可撓膜12の下面上にある「接触パッド18」を形成する導電金属とは電気的には直接つながったものとなっているため、両者は「直接電気的につながった」ものといえる。 よって、引用発明の「前記可撓膜12の前記下面上で前記導電金属を半球形に突出させ、試験中のデバイス20に接触を行うように形成された接触バンプ18」と、本願補正発明の「前記基板の前記第2の側上で前記導電径路に直接電気的に相互接続された、テスト中のデバイスに電気的に接触するための接点」とは、共に、「前記基板の前記第2の側上で前記導電径路に直接電気的につながった、テスト中のデバイスに電気的に接触するための接点」の点で共通する。 そうすると、本願補正発明と引用発明とは、次の一致点で一致し、次の相違点1ないし4で相違する。 [一致点] 「(a)絶縁基板と; (b) 前記基板の第1の側によって支持され、テスト中へのデバイスのテスト信号を伝送するための細長い導体と; (c) 前記基板の第2の側によって支持され、接地電位に電気的に相互接続されたシールド用の導電部材と; (d) 前記基板の第1の側と前記基板の前記第2の側との間の導電径路であって、前記細長い導体に電気的に相互接続され、前記導電部材に電気的に接触しない導電径路と; (e) 前記基板の前記第2の側上で前記導電径路に直接電気的につながった、テスト中のデバイスに電気的に接触するための接点とを具えるプローブ。」 [相違点1] 細長い導体の用途に関し、本願補正発明では、「テスト中のデバイスへのテスト信号およびテスト中のデバイスからのテスト信号を伝送するため」であるのに対し、引用発明では試験中のデバイス20に高周波試験信号を伝えるためである点。 [相違点2] 導体径路に関し、本願補正発明では、「基板に密接」しているのに対し、引用発明では、可撓膜12の貫通孔を導電金属で埋めたものとなっているものの、上記密接していることを明記していない点。 [相違点3] 接点に関し、本願補正発明では、基板の第2の側上で導電径路に直接電気的に相互接続された接点であるのに対し、引用発明では、可撓膜12を貫く貫通孔に埋められた導電金属を半球形に突出させた接触バンプ18である点。 [相違点4] 導電部材に関し、本願補正発明では、導電部材が「前記基板の前記第2の側上で前記導電径路及び前記接点を包囲する」のに対し、引用発明では、接地平面16が可撓膜12の下面にあるものの、接地平面16が貫通孔に埋められた導電金属及び接触パッド18を包囲すると特定されていない点。 (4)判断 以下、上記相違点について検討する。 [相違点1]について デバイスのテストを行うプローブの技術分野において、プローブを構成する細長い導体により「テスト中のデバイスへのテスト信号及びテスト中のデバイスからのテスト信号を伝送する」ことは、例示するまでもなく周知の技術である。 してみると、引用発明において、信号線路14を「テスト中のデバイスへのテスト信号及びテスト中のデバイスからのテスト信号を伝送するため」のものとし、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が引用発明及び上記周知技術に基いて容易になし得ることである。 [相違点2]について 基板に形成した貫通孔を導電金属で埋めた場合、通常、導電金属は基板に密接することは明らかであり、引用発明においても導電金属は可撓膜12に密接しているものと認められる。 よって、上記相違点2に係る構成は実質的な相違点ではない。 [相違点3]について 貫通孔に埋められた導電金属と接触バンプ18とを、可撓膜12の下面上で直接電気的に相互接続した構成とするか否かは当業者が適宜なし得る設計的事項である。 [相違点4]について (ア)引用文献1には、接地平面16に関し、以下の記載がある。 (1)「膜の反対の下側に付着している接地平面は解析を必要とするウェーハに載っている集積回路の方を向いている。」(2頁右下欄4?6行目) (2)「接地平面は試験デバイスと信号線路との間のクロストークを減らす助けとなる。」(2頁右下欄6?8行目) (3)「電磁妨害極小化手段として働くように形成され、平面手段の第2の面と結合するように形成されているシールド16が設けられている。」(3頁右上欄11?13行目) 上記(1)ないし(3)から、引用発明の接地平面16は、試験中のデバイス20と信号線路14との間のクロストークを減らすために信号線路14をシールドする電磁妨害極小化手段として機能するものである。 ところで、シールド対象である信号線路14をみると、信号線路14は貫通孔に埋められた導電金属及び接触バンプ18に接続されているから、膜式試験プローブ10において試験中のデバイス20に高周波試験信号が伝えられる線路は、信号線路14のみならず貫通孔に埋められた導電金属及び接触バンプ18にまで及んでいる。 そうすると、上記デバイス20との間のクロストークを減らすためには信号線路14のみをシールドするだけでは不十分であり、貫通孔に埋められた導電金属及び接触バンプ18を含めてシールドする必要があることは明らかである。 一方、シールド対象を接地した金属板で包囲するようにしてシールドすることは、シールドの技術分野において例を挙げるまでもない周知技術である。 してみると、接地平面16により、信号線路14のみならず、貫通孔に埋められた導電金属及び接触バンプ18も含めてシールドするようにし、引用発明に上記周知技術を適用して、接地平面16が貫通孔に埋められた導電金属及び接触バンプ18を包囲するようにすることは、当業者が容易に想到できることである。 よって、引用発明において、上記相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が引用発明及び上記周知技術に基いて容易になし得ることである。 また、上記(ア)で説示した理由に加えて、以下の(イ)で説示する理由によっても、上記相違点4に係る本願補正発明の構成については容易想到である。 (イ)高周波信号を伝送する基板において、接地電位に電気的に相互接続された導電部材により、導電径路及びデバイスと電気的に接続する接点を包囲することは周知技術である(例えば、特開2002-90405号公報(特に、図2?図5を参照。)、特開平6-308163号公報(特に、図3?図4を参照。)、特開昭64-14934号公報(特に、第12図?第14図を参照。)、実公昭51-24853号公報(特に、「考案の詳細な説明」の欄の記載、第2図及び第3図を参照。)を参照。)。 上記周知技術により、導電径路及び接点が良好にシールドされて外部からのノイズの侵入やクロストークが防止されるようになることは、シールドに関する技術常識、すなわち、接地電位に電気的に相互接続された導電部材により包囲をすることでシールド機能が良好なものとなるとの技術常識からみて明らかである(上記技術常識について、例えば、特開2001-305184号公報(【0006】の「従来の電気コネクタは、端子から発生する高周波信号の漏れや、他の端子あるいは外部から侵入するノイズ等を完全に防止することができなかった。例えば、上記説明の電気コネクタ300のコンタクト320は、その周囲をシールドされていないため、高周波信号の漏れや飛び込みが発生し、測定に影響をもたらすという問題が発生していた。」との記載、【0021】の「ハウジング110は、電子回路基板400に設けられたGND420a、420bに接続している。・・・。このため、隣接して並列するコンタクト間のクロストークノイズ等のそれ自身から発生するノイズの漏れ、または外部からノイズが侵入することを防止することができる。」との記載、図1ないし図6を参照。)、上記実公昭51-24853号公報を参照。)。 してみると、引用発明において、信号線路14のみならず、貫通孔に埋められた導電金属及び接触バンプ18も含めて良好にシールドするために、上記周知技術を適用して、接地平面16により貫通孔に埋められた導電金属及び接触バンプ18を包囲し、上記相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が引用発明及び周知技術に基いて容易になし得ることである。 また、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。 なお、請求人は本件審判請求の理由において、 「引用文献1(当審注:上記引用文献(特開平2-141681号公報。))に記載の発明は、同一膜面上に放射状配置された複数のプローブ要素が協働して、放射の中心に位置する試験中のデバイス(DUT)を覆うように押圧接触する集合的なプローブ構造に関するものであり、プローブ単体がデバイスの所望箇所に接触する本願発明とは前提となる構造が異なる。従って、本願発明が解決を目的とした、プローブ先端の接触部(フィンガー)と基板端部との間の容量に起因して高周波特性が悪化するという課題は、引用文献1に記載のプローブ構造には存在せず、引用文献1の発明の目的は「DUT上の信号線とのクロストークの少ない試験プローブを提供する」ことにあり、本願発明の目的とは異なる。従って、本願発明の課題及び目的を有する当業者は、異なる構造を前提とした引用文献1は参照しないか、参照しても本願発明とすることはできない。 さらに、引用文献1に記載の発明における接地平面(シールド)(16)は、図1より明らかなようにビアホール(17)及び接触バンプ(18)を包囲せずその付近まで延びているに過ぎず、この点でも、シールド用導電部材(90)が導電径路(94)及び接点(100)を包囲する本願発明とは異なる。従って、引用文献1に記載の発明によれば、(5-1)で上述した、外部電磁界に対する抵抗を増加させ外部構造への寄生容量を低減する効果は、本願発明より明らかに小さい。引用文献1は、シールド(16)について単に「電磁妨害極小化手段として働く」という当然のことを記載しているに過ぎず(第3頁右上欄参照)、上記本願発明の効果は具体的に記載していない。 」 と主張している(平成22年10月26日付け回答書での主張も同趣旨。)。 しかしながら、上記「引用文献1に記載の発明は、同一膜面上に放射状配置された複数のプローブ要素が協働して、放射の中心に位置する試験中のデバイス(DUT)を覆うように押圧接触する集合的なプローブ構造に関するものであり、プローブ単体がデバイスの所望箇所に接触する本願発明とは前提となる構造が異なる。」との主張は、本件補正後の請求項1の記載が上記プローブ単体がデバイスの所望箇所に接触する等のプローブ構造であることを特定したものとはなっていないため、上記主張は本件補正後の請求項1の記載に基づく主張とは言えない。 さらに、引用発明は、そもそも、上記「プローブ先端の接触部(フィンガー)と基板端部」を具備しておらず、これらの間の容量に起因する高周波特性の悪化も当然のことながら生じ得ないものであるから、引用発明により、本願補正発明と同様に、プローブ先端の接触部と基板端部との間の容量に起因した高周波特性の悪化を防止するという課題が解決されることは明らかである。 したがって、「本願発明の課題及び目的を有する当業者は、異なる構造を前提とした引用文献1は参照しないか、参照しても本願発明とすることはできない。」との上記主張は当を得ていないものである。 また、上記「引用文献1に記載の発明における接地平面(シールド)(16)は、・・・、シールド用導電部材(90)が導電径路(94)及び接点(100)を包囲する本願発明とは異なる。従って、引用文献1に記載の発明によれば、(5-1)で上述した、外部電磁界に対する抵抗を増加させ外部構造への寄生容量を低減する効果は、本願発明より明らかに小さい。引用文献1は、シールド(16)について単に「電磁妨害極小化手段として働く」という当然のことを記載しているに過ぎず(第3頁右上欄参照)、上記本願発明の効果は具体的に記載していない。 」との主張についても、上記「[相違点4]について」の欄で説示したように、引用発明の接地平面16を本願補正発明と同様に貫通孔に埋められた導電金属及び接触バンプ18を包囲する構成とすることは当業者が容易になし得るものであり、その結果、請求人が主張する上記本願補正発明の効果が得られることも明らかである。 よって、上記主張を採用することはできない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 付言: 本願補正後の請求項1ないし34に係る発明は、上記「[相違点4]について」の欄で示した新規の引用例(上記特開2002-90405号公報、上記特開平6-308163号公報、特開昭64-14934号公報、上記実公昭51-24853号公報)に記載された発明と同一、またはこれら発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものということもできる。 (5)むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 3 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、補正1により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、請求項1に記載された「蜜接」は「密接」の誤記と認め、次のとおりのものである。 「(a) 絶縁基板と; (b) 前記基板の第1の側によって支持され、テスト中のデバイスへのテスト信号及びテスト中のデバイスからのテスト信号を伝送するための細長い導体と; (c) 前記基板の第2の側によって支持され、接地電位に電気的に相互接続された導電部材と; (d) 前記基板の前記第1の側と前記基板の前記第2の側との間の導電径路であって、前記細長い導体に電気的に相互接続され、前記基板に密接し、前記導電部材に電気的に接触しない導電径路と; (e) 前記導電径路に電気的に相互接続され、テスト中のデバイスに電気的に接触するための接点とを具えていることを特徴とするプローブ。」(以下、本願発明という。) (1)引用文献記載の事項・引用発明 原査定の拒絶理由に引用された引用文献記載の事項・引用発明は、上記「2-3(2)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明と引用発明とを対比する。 本願発明は、上記「2-3」で検討した本願補正発明の「導電部材」についての限定事項である「シールド用」との限定及び「前記導電部材が、前記基板の前記第2の側上で前記導電径路及び前記接点を包囲する」との限定を省き、さらに「接点」についての限定事項である「前記基板の前記第2の側上で」との限定及び「直接」との限定を省いたものである。 そうすると、本願発明と引用発明とは、次の相違点AないしCで相違し、その他の点で一致する。 [相違点A] 細長い導体の用途に関し、本願発明では、「テスト中のデバイスへのテスト信号およびテスト中のデバイスからのテスト信号を伝送するため」であるのに対し、引用発明では試験中のデバイス20に高周波試験信号を伝えるためである点。 [相違点B] 導体径路に関し、本願発明では、「基板に密接」しているのに対し、引用発明では、可撓膜12の貫通孔を導電金属で埋めたものとなっているものの、上記密接していることを明記していない点。 [相違点C] 接点に関し、本願発明では、電気的に相互接続された接点であるのに対し、引用発明では、可撓膜12を貫く貫通孔に埋められた導電金属を半球形に突出させた接触バンプ18である点。 上記相違点A及び相違点Bは 、上記「2-3(3)」に記載した相違点1及び相違点2と同一である。 また、上記相違点Cと上記「2-3(3)」に記載した相違点3との違いは、「基板の第2の側上で」及び「直接」と限定したことによる相違点が無いことである。 したがって、引用発明において、上記相違点Aないし相違点Cに係る本願発明の構成とすることは、上記「2-3(3)」と同様の理由により、当業者が引用発明及び周知技術に基いて容易に想到し得た事項である。 よって、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものである。 4 むすび したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-01-31 |
結審通知日 | 2011-02-01 |
審決日 | 2011-02-18 |
出願番号 | 特願2004-507851(P2004-507851) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G01R)
P 1 8・ 121- Z (G01R) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松川 直樹 |
特許庁審判長 |
下中 義之 |
特許庁審判官 |
越川 康弘 森 雅之 |
発明の名称 | デバイスのテスト用プローブ |
代理人 | 英 貢 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 下地 健一 |