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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1239665
審判番号 不服2007-34418  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-20 
確定日 2011-07-07 
事件の表示 特願2002-29706「メタクリル酸無水物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年9月25日出願公開、特開2002-275124〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年2月6日〔パリ条約による優先権主張 2001年2月9日 ドイツ(DE)〕の出願であって、平成19年4月10日付けで拒絶理由が通知され、平成19年8月10日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたが、平成19年9月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年12月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成20年1月21日付けで手続補正がなされ、その後、平成22年7月2日付けで審尋が出され、平成22年11月2日付けで回答書の提出がなされたものである。

2.平成20年1月21日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成20年1月21日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成20年1月21日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲に記載された
「【請求項1】メタクリル酸と無水酢酸を、触媒および安定剤の存在で反応させることによりメタクリル酸無水物を製造する方法において、触媒として金属塩を単独にまたは混合塩として使用し、金属塩がCr、Zn、Cu、Ca、Zr、Ti、Na、LaまたはHfを含有することを特徴とするメタクリル酸無水物を製造する方法。」を、
「【請求項1】メタクリル酸と無水酢酸を、触媒および安定剤の存在で反応させることによりメタクリル酸無水物を製造する方法において、触媒として金属塩を単独にまたは混合塩として使用し、金属塩がZn、Cu、Ca、Zr、Ti、Na、LaまたはHfを含有し、前記金属塩のアニオンとしてアセチルアセトネートを使用することを特徴とするメタクリル酸無水物を製造する方法。」に補正することを含むものである。

(2)補正の適否
ア.はじめに
上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1に記載された「金属塩がCr、Zn、Cu、Ca、Zr、Ti、Na、LaまたはHfを含有」という発明特定事項の選択肢のうち、「Cr」の選択肢を削除して、「金属塩がZn、Cu、Ca、Zr、Ti、Na、LaまたはHfを含有」という発明特定事項に改める補正を含むものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とする補正を含むものである。
そこで、補正後の請求項1に記載されている発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

イ.引用文献及びその記載事項
刊行物1:特開2000-191590号公報(原査定の引用文献1)
刊行物2:特開平5-331158号公報(原査定の引用文献2)
刊行物3:特開昭58-167577号公報
刊行物4:特開昭62-181231号公報
刊行物5:特開昭62-158237号公報

上記刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項2
「(メタ)アクリル酸無水物が酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムから選ばれる1種または2種以上の存在下に無水酢酸と(メタ)アクリル酸を反応させて得られる(メタ)アクリル酸無水物である請求項1記載の(メタ)アクリル酸フェニルエステルの製造方法。」

摘記1b:段落0010及び0011
「本発明において、(メタ)アクリル酸無水物製造時に触媒として使用するアルカリ金属塩としては酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが挙げられる。…
本発明における…(メタ)アクリル酸無水物の製造時にブチルヒドロキシトルエン(BHT)、p-ベンゾキノン、フェノチアジン、銅塩などの重合禁止剤を添加、あるいは空気の吹込みを行ってもよい。」

摘記1c:段落0013
「製造例1 表1に示すように、メタクリル酸172.21g、無水酢酸71.5g、BHT0.04gおよび酢酸ナトリウム1.72g(メタクリル酸に対して1wt%)を反応器に入れ、空気吹き込み下で加熱撹拌し、80℃、常圧で1時間反応させた後、さらに80℃、30?150mmHgで7時間反応を行った。反応終了後、生成物をガスクロマトグラフィーにより分析し、メタクリル酸無水物であることを確認した。」

上記刊行物2には、次の記載がある。
摘記2a:段落0002及び0006?0008
「本発明の目的化合物N-ベンジルオキシカルボニル-L-アスパラギン酸無水物(以下ZASP無水物と略す。)は、ペプチド合成時の中間体として重要な化合物である。…
ZASPの無水物化反応の反応速度を高め、且つ高収率にてZASP無水物を製造する方法としてこれまでに幾つかの触媒が提案されている。…一つは特開昭58-167577に見られる金属の酸化物・水酸化物・塩もしくは有機塩基触媒の存在下で行う方法である。…
本発明者は、これら従来公知の技術以外に工業的に更に有用なZASP無水物の製造法を見出す必要があると考え、ZASPと無水酢酸とからZASP無水物を製造する方法において、更に生産性の向上をはかり、且つ目的のZASP無水物を短時間で高収率且つ高品質で製造する方法について鋭意検討した。…
その結果、ZASPを無水酢酸で無水物化する際、当該目的に適した新規な触媒として金属錯体を見出し、実質的に理論量ないしはその近傍量の無水酢酸で短時間に高収率でZASP無水物を製造できることを見出…し、本発明を完成するに至った。」

摘記2b:段落0010及び0012
「本発明の方法は、ZASPと無水酢酸とからZASP無水物を製造する方法において、実質的に理論量ないしはその近傍量の無水酢酸を用いて短時間に高収率のZASP無水物を製造することを目的とするZASP無水物の製造法である。…
本発明においてはZASPに無水酢酸を作用させてZASP無水物を製造するに際して、触媒量の金属錯体が使用される。使用される金属錯体を具体的に例示すれば、マグネシウム、カルシウム等の周期表1A族元素、…チタン、ジルコニウム等の4B族元素、…銅等の1B族元素、亜鉛等の2B族元素…等各種金属の錯体である。また、これら錯体の配位子としてアセチルアセトン…が有効である。」

摘記2c:段落0019及び0021?0022
「実施例1 ZASP26.7g(0.100モル)を酢酸51gに溶解させ、攪拌下温度を60℃に保ち、鉄(III)トリスアセチルアセトナート1.06g(0.003モル)及び無水酢酸10.5g(0.103モル)を加え、1時間反応を行った。得られた溶液の一部をHPLCで分析した結果、ZASP無水物を純度換算収率92.5%で得た。…
実施例3?13 表1に種々の金属錯体を用いた結果を示す。反応条件及び操作方法は、実施例1と同様に行った。…表1
触 媒 (モル%) 反応収率(%)
実施例3 …
〃6 Zn(C_(5)H_(7)O_(2))_(2) (3.0) 91.5
〃7 Cu(C_(5)H_(7)O_(2))_(2) (3.0) 96.9 …
〃11 Mg(C_(5)H_(7)O_(2))_(2) (3.0) 97.3
〃12 Zr(C_(5)H_(7)O_(2))_(2) (3.0) 97.7 」

上記刊行物3には、次の記載がある。
摘記3a:特許請求の範囲
「N-カルボベンゾキシ-L-アスパラギン酸と無水酢酸を各種金属の酸化物、水酸化物もしくは塩または有機塩基化合物の存在下に反応せしめることを特徴とするN-カルボベンゾキシ-L-アスパラギン酸無水物の製造法。」

摘記3b:第2頁左上欄第12行?右下欄第14行
「本発明の方法は、本無水化反応において、各種金属の酸化物もしくは水酸化物、それら金属と種々の酸との塩、又は有機塩基化合物を触媒的に添加使用し、その反応速度を著しく増大せしめかつ高収率で目的化合物を得るものである。それら金属化合物として、例えば、…ナトリウム…等アルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等アルカリ土類金属、銅等銅族元素、亜鉛等亜鉛族元素…等各種金属の…種々の酸との塩、たとえば…酢酸等カルボン酸塩…である。…例えば、実施例8に示す如く、酢酸マグネシウムの添加量は…8ppm…であり、かように微量共存しても有効な触媒作用を示すことが判る。」

摘記3c:第3頁左下欄の表1
「実施例 添加化合物(g) … 反応収率(%) …
8 Mg(OCOCH_(3))_(2)・4H_(2)O … 94.8
(6.4×10^(-4)) 」

上記刊行物4には、次の記載がある。
摘記4a:請求項1
「Co,Ni,Mn,Fe,Li,Na,K,Mg,Ca,Cu,Zn,Al,Ti,Vから選ばれた1種以上の金属イオン5PPM以上の存在下で、有機カルボン酸無水物とカルボン酸との交換反応を行うことを特徴とする酸無水物の製造方法。」

摘記4b:第2頁右上欄第2行?左下欄第19行
「本発明の金属イオンは硝酸塩,酢酸塩等の金属塩…として使用される。…
有機カルボン酸無水物とは…例えば無水酢酸…等が挙げられる。…
本発明のカルボン酸とは、…アクリル酸等がある。…
本発明の触媒を使用することにより、温和な条件で反応が短時間に進行し、タール状物質の生成等が防止される。」

上記刊行物5には、次の記載がある。
摘記5a:請求項1
「触媒を使用せず、重合抑制剤の存在下で、無水酢酸に(メタ)アクリル酸を反応させることを特徴とする(メタ)アクリル酸無水物の合成方法。」

摘記5b:第2頁左下欄第14?17行
「重合抑制剤としては、フェノチアジン、ヒドロキノン、メチレンブルー、硫酸鉄、銅アセテートや硫酸銅等の銅の塩を1500ppm以上使用することができる。」

ウ.刊行物1に記載された発明
摘記1cの「製造例1…メタクリル酸…、無水酢酸…、BHT…および酢酸ナトリウム…を反応器に入れ、…反応を行った。反応終了後、生成物を…分析し、メタクリル酸無水物であることを確認した。」との記載、及び摘記1bの「(メタ)アクリル酸無水物製造時に触媒として使用する…酢酸ナトリウム、…(メタ)アクリル酸無水物の製造時にブチルヒドロキシトルエン(BHT)、…フェノチアジン、銅塩などの重合禁止剤を添加」との記載からみて、刊行物1には、
『メタクリル酸、無水酢酸、重合禁止剤(BHT、フェノチアジン、銅塩など)および触媒(酢酸ナトリウム)を反応させ、メタクリル酸無水物を生成物として得る製造例。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

エ.対比
補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「メタクリル酸」、「無水酢酸」、及び「メタクリル酸無水物を生成物として得る製造例」の各々は、補正発明の「メタクリル酸」、「無水酢酸」、及び「メタクリル酸無水物を製造する方法」の各々に相当し、
引用発明の「触媒(酢酸ナトリウム)」は、補正発明の「触媒」及び「触媒として金属塩を単独に…使用し、金属塩が…Na…を含有」に相当する。
そして、補正後の本願明細書の段落0007の「前記課題は、触媒および抑制剤の存在で、…解決される。」との記載、同段落0010の「安定剤として、すべての通常の抑制剤、特にヒドロキノン、…フェノチアジン」との記載、及び摘記5bの「重合抑制剤としては、フェノチアジン、ヒドロキノン、…銅の塩を…使用する」との記載を参酌するに、補正発明の「安定剤」は、具体的には「フェノチアジン」などの「重合抑制剤」として普通に知られている化学物質を用いるものであって、引用発明の「フェノチアジン」などの「重合禁止剤」と共通する化学物質を用いており、引用発明の「重合禁止剤」と補正発明の「安定剤」の両者に、添加剤としての機能に実質的な差異があるとは解せないので、引用発明の「重合禁止剤(BHT、フェノチアジン、銅塩など)」は、補正発明の「安定剤」に相当する。
してみると、補正発明と引用発明は、『メタクリル酸と無水酢酸を、触媒および安定剤の存在で反応させることによりメタクリル酸無水物を製造する方法において、触媒として金属塩を単独に使用するメタクリル酸無水物を製造する方法。』に関するものである点において一致し、
触媒としての「金属塩」が、補正発明においては、「Zn、Cu、Ca、Zr、Ti、Na、LaまたはHfを含有し、…アニオンとしてアセチルアセトネートを使用」するものであるのに対して、引用発明においては、Naを含有し、アニオンとして酢酸を使用する「酢酸ナトリウム」である点においてのみ相違している。

オ.判断
上記相違点について検討する。
刊行物3には、無水酢酸を用いた無水化反応において、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛等の各種金属の酢酸等のカルボン酸塩(実施例8においては、酢酸マグネシウム・水和物)を触媒的に添加使用する技術が記載されているところ(摘記3a?3c)、刊行物2には、当該刊行物3に提案されているものよりも「更に有用」なものを見出すべく、「ZASPと無水酢酸とからZASP無水物を製造する方法において、更に生産性の向上をはかり、且つ目的のZASP無水物を短時間で高収率且つ高品質で製造する方法について鋭意検討」した結果(摘記2a)、マグネシウム、カルシウム、チタン、ジルコニウム、銅、亜鉛等の各種金属の錯体であって、錯体の配位子としてアセチルアセトンが有効である金属錯体を触媒量で使用することを見出した発明が記載され(摘記2b)、例えば、その実施例6、7及び12の具体例として、Zn、Cu又はZrを含有するアセチルアセトナートの金属錯体を触媒として用いたものが記載されている(摘記2c)。
ここで、刊行物2の「N-ベンジルオキシカルボニル-L-アスパラギン酸」は、刊行物2において「ZASP」と略記されている(摘記2a)ところ、当該化合物は、摘記3aの「N-カルボベンゾキシ-L-アスパラギン酸」と同一の化合物(CAS登録番号1152-61-0)であって、これがカルボキシル基を有する「有機カルボン酸」の一種であることは技術常識から自明であり、刊行物2に記載された「アセチルアセトナート」と補正発明の「アセチルアセトネート」が同一種の化学物質を意味していることも技術常識から自明である。
してみると、有機カルボン酸と無水酢酸とから有機カルボン酸無水物を製造する方法において、目的の有機カルボン酸無水物を「短時間で高収率且つ高品質で製造」するために、従来公知のNa等の各種金属の酢酸塩の触媒に代えて、Zn、Cu又はZrを含有するアセチルアセトナートの金属錯体の触媒を用いるという改良発明が、刊行物2に記載されるように知られているから、引用発明の「酢酸ナトリウム」というNaの酢酸塩の触媒に代えて、刊行物2に記載された「Zn、Cu又はZrを含有するアセチルアセトナートの金属錯体」、すなわち、「金属塩がZn、CuまたはZrを含有し、前記金属塩のアニオンとしてアセチルアセトネートを使用」する触媒を採用することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内である。

カ.補正発明の効果について
補正後の本願明細書の段落0002には、塩化ベンゾイルのような芳香族酸クロリドを用いてカルボン酸無水物を製造すると、塩化ナトリウムが廃棄すべき廃棄物として生じることが欠点であることが記載され、同段落0006には、「本発明の課題は、公知のメタクリル酸無水物の製造方法を、第1にハロゲンの生成を回避し、第2に相当する触媒を使用することにより無水化反応の反応時間を改良し、反応時間収率を高めるように改良することである。」との記載がある。
しかしながら、刊行物1に記載された発明は、塩化ベンゾイルのような芳香族酸クロリドを用いるものではないから、補正発明の「ハロゲンの生成を回避」できるという効果について、これが格別予想外の顕著な効果であるとは認められない。
そして、刊行物2に記載された発明は、刊行物3に記載された従来技術の課題を解決するために、触媒をアセチルアセトナートの金属錯体のものとして、摘記2aに示されるとおりの「無水物を短時間で高収率且つ高品質で製造する」という効果を奏するものであるから、補正発明の「無水化反応の反応時間を改良し、反応時間収率を高めるように改良」できるという効果についても、これが格別予想外の顕著な効果であるとは認められない。
なお、平成20年1月21日付けで手続補正された審判請求書の請求の理由において、審判請求人は、「触媒としてアセチルアセトネートを使用した場合に酢酸塩と比べて高い収率が達成されます。」と主張しているが、補正後の本願明細書の段落0014には、当該アセチルアセトネートと同じ金属を有する酢酸塩とを用いた場合とを比較した結果が記載されておらず、当該主張を裏付ける追試の比較実験データ等が意見書等によって示されているものでもないので、上記審判請求人の主張は具体的な根拠に基づく主張とは言えず、けだし、本願の出願当初明細書の段落0014の記載においては、酢酸クロムの収率が78.2%であり、クロムアセチルアセトネートの収率が65%であるという結果が示されていた事実があることをも斟酌すると、同一金属種で比較した場合において、審判請求人の「触媒としてアセチルアセトネートを使用した場合に酢酸塩と比べて高い収率が達成されます。」という効果が、事実として存在し得るとは解せない。
してみると、補正発明に、当業者にとって格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。

キ.平成22年11月2日付けの回答書について
平成22年11月2日付けの回答書において、審判請求人は、「本願発明のような不飽和カルボン酸無水物の合成に際し、触媒として金属塩を使用して良好に実施可能であること自体が、本願出願時の技術水準では知られていなかった技術であります(本願明細書中[0005]等)。」と主張しているが、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明は、Li、Na、K等の金属塩を使用して、不飽和カルボン酸無水物の合成を実施しているものであるから(摘記1b)、「触媒として金属塩を使用して良好に実施可能であること自体が、本願出願時の技術水準では知られていなかった技術であります」との主張は事実に反している。このため、当該主張は採用できない。
また、同回答書において、審判請求人は、「引用文献2中実施例1では、触媒として鉄(III)トリスアセチルアセトネートを使用して、N-ベンジルオキシカルボニル-L-アスパラギン酸無水物の合成を良好に実施しています。しかしながら、ここで使用する鉄(III)トリスアセチルアセトネートは、レドックス金属(還元可能又は酸化可能な金属)であり、メタクリル酸のような不飽和カルボン酸の無水物の合成にあたっては、カルボン酸の重合を促進する傾向にあり、反応の進行において不利に作用することが知られています(本願明細書中[0005]等)。なお、金属イオンの存在下でのアクリル酸(誘導体)の重合傾向については、より詳細には、以下に示す参考資料"…Chem. Eng. Technol. 25 (2002) 5"にも記載されています。この資料によれば、アクリル酸(誘導体)の重合傾向が、特定の金属塩によって促進されることが証明され、引用文献2に記載の鉄による重合傾向の促進についても言及されています。このような触媒としては、他に金属ニッケル及びコバルト等が知られています。このような本願出願時の技術常識は、当業者が、メタクリル酸無水物(不飽和カルボン酸無水物)の合成に関する引用文献1に記載の発明と、飽和カルボン酸無水物の合成に関する引用文献2に記載の発明とを組み合わせることの阻害要因ともなるものです。」と主張しているが、当該「参考資料」は、その「2002」との記載からみて、本願優先権主張日(2001年2月9日)の後に頒布された刊行物であると推定されるから、本願優先権主張日の時点における技術水準を裏付ける証拠とはなり得ない。
そして、刊行物4には、『Co,Ni,Mn,Fe,Li,Na,K,Mg,Ca,Cu,Zn,Al,Ti,Vから選ばれた1種以上の金属イオン(酢酸塩)の存在下で、有機カルボン酸無水物(無水酢酸)とカルボン酸(アクリル酸)との交換反応を行う酸無水物の製造方法。』に関する発明であって、「Co,Ni,Mn,Fe,Li,Na,K,Mg,Ca,Cu,Zn,Al,Ti,Vから選ばれた1種以上の金属イオン」からなる触媒を使用することにより、タール状物質の生成等が防止されることが記載されているところ(摘記4a及び4b)、Ca,Cu,Zn,Ti等の金属イオンを有する触媒を使用すれば、アクリル酸のような不飽和カルボン酸の無水物の合成においても、タール状物質の生成等が防止されることが知られているので、刊行物2に記載されたカルシウム、チタン、銅、亜鉛等の金属を有する触媒についての発明を、刊行物1に記載された発明(引用発明)に適用し得ない格別の阻害要因が、本願優先権主張日の技術水準において存在していたとは認められない。このため、前記「メタクリル酸無水物(不飽和カルボン酸無水物)の合成に関する引用文献1に記載の発明と、飽和カルボン酸無水物の合成に関する引用文献2に記載の発明とを組み合わせることの阻害要因ともなる」との主張も採用できない。

ク.小括
したがって、補正発明は、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である刊行物1?2に記載された発明(及び刊行物3?5に記載された従来技術ないし技術常識)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(3)まとめ
以上総括するに、請求項1についての補正は、独立特許要件違反があるという点において平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成20年1月21日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成19年8月10日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、理由1として、『この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。』という理由を含むものであり、当該「下記の刊行物」として、上記2.(2)イ.に「刊行物1」として示したとおりの「特開2000-191590号公報」が「引用文献1」として引用されている。

(3)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された「引用文献1」及びその記載事項は、上記2.(2)イ.に示したとおりである。

(4)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、上記2.(2)ウ.に示したとおりの「引用発明」、すなわち、『メタクリル酸、無水酢酸、重合禁止剤(BHT、フェノチアジン、銅塩など)および触媒(酢酸ナトリウム)を反応させ、メタクリル酸無水物を生成物として得る製造例。』についての発明が記載されている。

(5)対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「メタクリル酸」、「無水酢酸」、及び「メタクリル酸無水物を生成物として得る製造例」の各々は、本願発明の「メタクリル酸」、「無水酢酸」、及び「メタクリル酸無水物を製造する方法」の各々に相当し、
引用発明の「触媒(酢酸ナトリウム)」は、本願発明の「触媒」及び「触媒として金属塩を単独に…使用し、金属塩が…Na…を含有」に相当し、
引用発明の「重合禁止剤(BHT、フェノチアジン、銅塩など)」は、本願明細書の段落0010の「安定剤として、すべての通常の抑制剤、特に…フェノチアジン」との記載からみて、両者ともに共通する化学物質を用いていることから、本願発明の「安定剤」に相当する。
してみると、本願発明と引用発明は、『メタクリル酸と無水酢酸を、触媒および安定剤の存在で反応させることによりメタクリル酸無水物を製造する方法において、触媒として金属塩を単独に使用し、金属塩がNaを含有するメタクリル酸無水物を製造する方法。』に関するものである点において一致し、両者に相違する点はない。
したがって、本願発明は、発明特定事項において引用発明と相違する点がないから、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。

(6)むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-09 
結審通知日 2011-02-10 
審決日 2011-02-22 
出願番号 特願2002-29706(P2002-29706)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
P 1 8・ 113- Z (C07C)
P 1 8・ 575- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中西 聡中野 孝一  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 井上 千弥子
木村 敏康
発明の名称 メタクリル酸無水物の製造方法  
代理人 星 公弘  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 二宮 浩康  

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