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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1239673
審判番号 不服2008-9510  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-17 
確定日 2011-07-07 
事件の表示 平成11年特許願第146146号「冷凍食品の解凍方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月26日出願公開,特開2000-262263〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成11年5月26日(優先日,平成11年1月12日)の出願であって,平成19年5月18日付けの拒絶理由通知に対して,同年7月20日に意見書及び手続補正書が提出され,その後,平成20年3月11日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年4月17日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに,同年5月1日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成20年5月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
平成20年5月1日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1)補正の内容
平成20年5月1日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲に係る,
「【請求項1】包装された冷凍食品を誘電加熱により潜熱温度帯にまで昇温する誘電加熱工程と,潜熱温度帯に昇温された食品の包装を解く解袋工程と,解袋処理後の包装食品に外部から熱媒体を供給して少なくとも潜熱温度帯を越える温度に昇温する外部加熱工程とを備えることを特徴とする冷凍食品の解凍方法。
【請求項2】上記誘電加熱工程は,冷凍食品に1?100MHzの高周波を印加するものであることを特徴とする請求項1記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項3】上記外部加熱工程における熱媒体は,冷凍食品の周りに供給される所定湿度の空気流であることを特徴とする請求項1または2記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項4】上記外部加熱工程における熱媒体は,冷凍食品に添加される水であることを特徴とする請求項1または2記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項5】上記水はミストであることを特徴とする請求項4記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項6】上記外部加熱工程における熱媒体は,冷凍食品に当接される蓄熱体であることを特徴とする請求項1または2記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項7】上記外部加熱工程において境膜破壊手段により冷凍食品の表面に形成されている境膜を物理的に破壊することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項8】上記境膜破壊手段は,冷凍食品に,その表面に交差する方向から熱媒体を吹き付けるように構成されたものであることを特徴とする請求項7記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項9】上記熱媒体は,加湿されたジェットエアーであることを特徴とする請求項8記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項10】上記境膜破壊手段は,冷凍食品を振動させるように構成されたものであることを特徴とする請求項7記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項11】上記熱媒体の温度は,10℃?40℃であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項12】複数の冷凍食品を順次連続的に搬送しながら上記誘電加熱工程および外部加熱工程に供給することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項13】誘電加熱により冷凍食品を解凍する冷凍食品の解凍装置であって,
上記誘電加熱で冷凍食品を潜熱温度帯に昇温する高周波解凍装置と,この解凍装置で潜熱温度帯に昇温された食品の解袋処理後の包装食品に外部から熱媒体を供給して少なくとも潜熱温度帯を越える温度に昇温する外部加熱装置とからなることを特徴とする冷凍食品の解凍装置。
【請求項14】複数の冷凍食品を順次連続的に搬送しながら上記高周波解凍装置および外部加熱装置に供給する搬送手段が設けられていることを特徴とする請求項13記載の冷凍食品の解凍装置。」を,
「【請求項1】包装された冷凍食品を誘電加熱により潜熱温度帯にまで昇温する誘電加熱工程と,潜熱温度帯に昇温された冷凍食品の包装を解いて包装資材と食品本体とを分離する解袋工程と,解袋処理後の食品本体に外部から熱媒体を供給して少なくとも潜熱温度帯を越える温度に昇温する外部加熱工程とを備えることを特徴とする冷凍食品の解凍方法。
【請求項2】上記誘電加熱工程は,冷凍食品に1?100MHzの高周波を印加するものであることを特徴とする請求項1記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項3】上記外部加熱工程における熱媒体は,食品本体の周りに供給される所定湿度の空気流であることを特徴とする請求項1または2記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項4】上記外部加熱工程における熱媒体は,食品本体に添加される水であることを特徴とする請求項1または2記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項5】上記水はミストであることを特徴とする請求項4記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項6】上記外部加熱工程における熱媒体は,食品本体に当接される蓄熱体であることを特徴とする請求項1または2記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項7】上記外部加熱工程において境膜破壊手段により食品本体の表面に形成されている境膜を物理的に破壊することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項8】上記境膜破壊手段は,食品本体に,その表面に交差する方向から熱媒体を吹き付けるように構成されたものであることを特徴とする請求項7記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項9】上記熱媒体は,加湿されたジェットエアーであることを特徴とする請求項8記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項10】上記境膜破壊手段は,食品本体を振動させるように構成されたものであることを特徴とする請求項7記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項11】上記熱媒体の温度は,10℃?40℃であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項12】複数の冷凍食品を順次連続的に搬送しながら上記誘電加熱工程および外部加熱工程に供給することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項13】前記外部加熱工程は,解袋処理後の食品本体に外部から熱媒体を供給して少なくとも潜熱温度帯を越える温度に昇温する加熱工程と,前記加熱工程後の食品本体に冷却空気を供給して前記食品本体の表面を冷却する表面冷却工程とを備えることを特徴とする請求項1に記載の冷凍食品の解凍方法。
【請求項14】誘電加熱により冷凍食品を解凍する冷凍食品の解凍装置であって,
上記誘電加熱で冷凍食品を潜熱温度帯に昇温する高周波解凍装置と,この解凍装置で潜熱温度帯に昇温された食品の解袋処理後の食品本体に外部から熱媒体を供給して少なくとも潜熱温度帯を越える温度に昇温する外部加熱装置とからなることを特徴とする冷凍食品の解凍装置。
【請求項15】誘電加熱により冷凍食品を解凍する冷凍食品の解凍装置であって,
上記誘電加熱で冷凍食品を潜熱温度帯に昇温する高周波解凍装置と,この解凍装置で潜熱温度帯に昇温された冷凍食品の包装を解いて包装資材と食品本体とを分離する解袋機と,前記解袋機による解袋処理後の食品本体に外部から熱媒体を供給して少なくとも潜熱温度帯を越える温度に昇温する外部加熱装置と,前記外部加熱装置によって昇温された食品本体に冷却空気を供給して前記食品本体の表面を冷却する2次冷凍装置とからなることを特徴とする冷凍食品の解凍装置。
【請求項16】複数の冷凍食品を順次連続的に搬送しながら上記高周波解凍装置および外部加熱装置に供給する搬送手段が設けられていることを特徴とする請求項14または請求項15記載の冷凍食品の解凍装置。」に補正することを含むものである。

(2)補正の適否
上記補正前後の請求項の対応関係は,補正後の請求項1?12,14及び16は,それぞれ,補正前の請求項1?12,13及び14に対応するが,補正後の請求項13及び15については,対応する補正前の請求項はない。
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下「平成18年法改正前」という)平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号は「特許請求の範囲の減縮」について,括弧書きで「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る」と規定しているから,同号にいう「特許請求の範囲の減縮」は,補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって,かつ,補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請されるというべきであり,補正前の請求項と補正後の請求項とは,一対一又はこれに準じるような対応関係に立つものでなければならないと解すべきものである。(知財高裁平成17年10月11日判決(平成17年(行ケ)第10156号),知財高裁平成17年4月25日判決(平成17年(行ケ)第10192号)および東京高裁平成16年4月14日判決(平成15年(行ケ)第230号)参照。)
そうすると,前述のとおり,補正前の特許請求の範囲には,本件補正によって追加された請求項13及び15と一対一又はこれに準じるような対応関係に立つ請求項は存在しないことが明らかであり,請求項13及び15を追加する補正が,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するということはできない。
また,物のカテゴリーに属する請求項15の発明は,「解袋機」及び「2次冷凍装置」という発明特定事項を含むものであって,これは,補正前の物のカテゴリーに属する請求項に係る発明の発明特定事項と関連のないものである。したがって,補正前の請求項に係る発明の発明特定事項の限定ということはできず,請求項15に係る発明は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するということはできない。
以上のことから,請求項13及び15を追加する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するということはできない。
そして,請求項13及び15を追加する補正は,誤記の訂正,又は,明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。
してみると,請求項13及び15を追加する補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項に掲げる事項である,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正あるいは明りょうでない記載の釈明を目的の何れにも該当しない補正が含まれているというべきである。
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項に掲げる事項を目的とするものに該当しないから,特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
平成20年5月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項1?14に係る発明は,平成19年7月20日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものであり,その請求項1に係る発明(以下,同項記載の発明を「本願発明」という。)は,下記の事項により特定されるものである。
「包装された冷凍食品を誘電加熱により潜熱温度帯にまで昇温する誘電加熱工程と,潜熱温度帯に昇温された食品の包装を解く解袋工程と,解袋処理後の包装食品に外部から熱媒体を供給して少なくとも潜熱温度帯を越える温度に昇温する外部加熱工程とを備えることを特徴とする冷凍食品の解凍方法。」

第4 原査定の理由
拒絶査定における拒絶理由の概要は,本願発明は,その優先権主張日前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

第5 刊行物に記載された事項及び発明
1 刊行物1に記載された事項
原査定で引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平8-240号公報(以下,「刊行物1」という。)及び実願昭50-179751号(実開昭52-92465号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下,「刊行物2」という。)には,以下の事項が記載されている。
なお,下線は当審にて付記したものである。また,刊行物1において「モード(2)」の「(2)」は,○の中に2が入るものを意味する。以下,同様である。
(1-1)「【請求項1】被解凍物を収容して解凍する解凍室と,冷気をつくる冷却手段と,前記解凍室内への前記冷却手段でつくられた冷気の流入を調節する冷風調節手段と,高周波を照射して前記被解凍物を加熱する第1の加熱手段と,ジュール熱で前記被解凍物を加熱する第2の加熱手段と,前記解凍室内の温度を検出する温度検出手段と,前記被解凍物に応じた解凍モードを選ぶ解凍モード選択手段と,前記温度検出手段の検出結果及び前記解凍モード選択手段の選択結果に応じて前記冷却手段,前記冷風調節手段及び前記第1,第2の加熱手段を制御する解凍制御手段とを有することを特徴とする解凍装置。
【請求項2】前記解凍制御手段は,前記解凍モード選択手段で選択された解凍モードに従い前記被解凍物が第1の温度帯に達するまで加熱した後,前記被解凍物に適した第2の温度帯に前記解凍室内を保持する制御を行うことを特徴とする請求項1記載の解凍装置。
【請求項3】 前記解凍制御手段は,前記解凍モード選択手段で選択された解凍モードに従い解凍開始時は前記冷却手段と冷風調節手段で前記解凍室内に冷風を流入させながら前記第1の加熱手段で被解凍物を加熱し,被解凍物が略氷温帯に達した後,前記第1の加熱手段での加熱を停止し前記冷風調節手段で解凍室内に流入する冷風の量を制限するとともに前記第2の加熱手段で解凍室内を被解凍物に適した温度に保持する制御を行うことを特徴とする請求項1記載の解凍装置。」

(1-2)「【0002】解凍する食品にはマグロやいかなどの魚類だけでなく挽き肉,ステーキ肉,薄切り肉などの肉類やアイスクリーム,ケーキ等の菓子類などがあるが,それぞれ食品ごとの解凍終了温度は異なっている。例えば,マグロなどの刺身類は食味に適した温度は10℃前後である。しかし,この温度の短冊上のマグロを薄く切るには,うまく切らないとドリップが出てしまったり,形がくずれたりするのでたいへん切りにくい。特に,短時間で解凍したマグロでは表面と中心の温度差があり,中心付近がまだ半解凍で一部凍っていたりすると,かなり力をいれないと上手く切れない。この時に,表面周辺の身は圧迫されて変形しドリップがたくさん出てしまい,味覚を大いに損なうことがある。そこで,刺身のようなものは包丁で切りやすくドリップが出ない氷温帯の半解凍の状態を解凍終了とした解凍装置が多かった。また,肉類の解凍条件として挽き肉ではほぐせるとか薄切り肉では一枚一枚にはがせなければならない。このために食品の温度は10℃程度まで加熱する必要がある。同様にアイスクリームでは-5℃から-10℃ぐらいに,ケーキ類は10℃程度までといった具合に,解凍する食品によって調理のしやすさ,食べやすさから終了温度は決まってくる。」

(1-3)「【0003】ところで,冷凍物の解凍方法は,自然放置解凍,冷蔵庫の冷蔵室放置解凍,解凍室での伝導熱や輻射熱,温風利用解凍,また電子レンジによる解凍などがある。しかし,いずれも非常に時間がかかったり,温度むら(すなわち解凍むら)が大きいため高品質な解凍は望めないという欠点があった。特に,高周波加熱の電子レンジでは被解凍物が解凍されて表面付近の温度が0℃以上に融けてくると,高周波加熱特有の氷と水の誘電率の違いからその部分がさらに加熱されて温度むらが大きくなる特性がある。したがって,電子レンジは短時間で解凍できるが加熱しすぎると温度むらが大きくなってしまっていた。」

(1-4)「【0012】
【作用】上記構成において,第1に,解凍モード選択手段で被解凍物に応じた解凍モードを選択することにより,その被解凍物に合わせた加熱及び冷気の流入調節が行われ,まず例えば氷温帯までの温度上昇が行われ,次いでその被解凍物の調理等に適した温度に保存される。これにより,高周波加熱で起りやすい部分的な過解凍が抑えられ,被解凍物に適した終了温度まで温度むらなく高品位な解凍が実現される。
【0013】第2に,解凍制御手段は,解凍モード選択手段で選択された解凍モードに従い,上記のように,被解凍物を第1の温度帯,例えば氷温帯まで加熱した後,その被解凍物の調理のしやすさ,食べやすさ等に適した第2の温度帯に保持するように制御を実行する。これにより被解凍物の品質を低下させることなく,使用者は,調理したいとき等に,その被解凍物をいつでも取り出すことが可能となる。
【0014】第3に,具体的には,最初の氷温帯までの加熱は,高周波照射による第1の加熱手段で行われ,その後,その被解凍物の調理等に適した温度での保持は,ジュール熱による第2の加熱手段の加熱制御により行われる。これにより,被解凍物に適した終了温度までの温度むらのない高品位な解凍がより良く実現される。
【0015】第4に,例えば,マグロの刺身等では,0℃付近の半解凍の状態においてドリップが出ることなく薄く切りやすいが,食味に適した温度はこれより高い10℃前後である。そこでこのような種類の被解凍物では,第1の加熱手段で氷温帯まで加熱した後,第2の加熱手段の加熱制御により調理に適した第1の温度に保持され,調理が行われて再び解凍室内に戻されたときに食味に適した第2の温度に保持する制御が行われる。したがって使用者は,必要なときにこれを取り出せば,適温状態でいつでもこれを味わうことが可能となる。
【0016】第5に,ときには,冷却手段が除霜状態にあるときでも,被解凍物を解凍したい場合が生じる。このような場合は,冷気循環のない状態で例えば第2の加熱手段をオフし,第1の加熱手段だけで低出力で徐々に被解凍物を加熱するようなモードで解凍が行われる。これにより,使用者はとりあえず解凍装置を機能させることができて冷却手段除霜時の不便を解消することが可能となる。」

(1-5)「【0021】図6は,モード(2)を選択した場合で,魚類等に適した制御である。冷凍庫で-20℃に凍結された被解凍物4を解凍室3内の回転皿5上に設置して解凍を開始する。このとき,ダンパ19は(1)のモードと同様にずっと解放状態で,解凍室3内の温度をできるだけ被解凍物4の中央と周辺の温度差を生じないようにモード(1)より低い温度に維持し高周波電力を加えてややゆっくりと被解凍物4を加熱する。同様に開始直後は強めに加熱して被解凍物4の温度が0℃付近まで上昇するまで徐々に加熱電力を低下させる制御を行う。被解凍物4の温度が0℃に近づくと冷気循環ファン13を連続的にONさせ,被解凍物4を十分に冷却させ局部的に温度が上昇するのを防ぎ,被解凍物4が全体に0℃になるまで続ける。この後,高周波加熱を停止し,ダンパ19は開いたままで冷気循環ファン13をON/OFF制御し,解凍室3の温度を0℃付近に維持し,被解凍物4を調理に適した温度に保持する。同様に,使用者は解凍加熱終了後被解凍物4が調理に適した温度に保持されているので,品質を低下させることなく,調理したいときにいつでも取り出して食味に適した状態に加工することができる。特に,マグロのような刺身類は0℃付近の半解凍の状態でないと,切り難くドリップがでてしまう上,形も崩れて外見も損なってしまうが,これによると全体に均一温度の解凍を実現でき調理もしやすく食品のうま味を損なうこともない解凍を実現できる。」

(1-6)「【0023】図8は魚類に適したモード(2)(図6)に付加機能をつけ加えたものである。使用者が(2)のモードで被解凍物4の解凍を行い,ほぼ0℃まで解凍した被解凍物4を解凍室3から取り出し,包丁で薄く切り皿に盛りつける。しかし,このままではまだ食品の温度が低いのですぐに食べる状態にはない。そこで,再び解凍室3内に調理した被解凍物4を収容して,室内の温度を食味に適した温度に保持しておく。このとき,ダンパ19を一度閉めてシーズヒータ22をON/OFF制御し解凍室3内を例えば10℃程度に維持するように制御を行う。使用者は必要なときにこれを取り出せば,適温状態でいつでもこれを味わうことができる。例えば,これは扉2を閉めて解凍モード選択手段11のキーをもう一度押すことによって次のモードを実行することができる。」

2 刊行物2記載の事項
(2-1)「本案はコンベヤー(1)の搬送路(2)に対して,超音波照射管,温液浴+振動,電磁波照射器,熱気体噴射等の単独又は組合せによる解凍装置(3)を内装せる解凍加工室(4)を設定し,単位解凍機(A)とするものであるから,例えば給食調理室等において解凍処理すべきものに対応し,各単位解凍機(A)(A1)(A2)(A3)を,第3図のように配置して連続解凍するとして,その解凍処理が終了し次の被処理物に対して,即座に第4図のような配置に模様替えすることによって最も合理的な解凍処理を施し得る卓越した効果を発揮する。」(明細書3頁4?15行)

3 刊行物1記載の事項から理解されること
(1)モード(2)及び付加機能について
摘記事項(1-5)は,「モード(2)を選択した場合で・・・」と記載されているから,モード(2)という解凍モードについての記述である。
また,摘記事項(1-6)は,「図8は魚類に適したモード(2)(図6)に付加機能をつけ加えたものである。」との記載事項から,モード(2)に付加機能を加えた解凍制御についての記載であると理解される。
そして,摘記事項(1-5)によれば,モード(2)により,「被解凍物4を十分に冷却させ局部的に温度が上昇するのを防ぎ,被解凍物4が全体に0℃になるまで続ける。」とされているが,摘記事項(1-6)のモード(2)の付加機能を利用することとなると「使用者が(2)のモードで被解凍物4の解凍を行い,ほぼ0℃まで解凍した被解凍物4を解凍室3から取り出し」とあるように,モード(2)により,0℃まで解凍されることはなく,ほぼ0℃まで解凍されることとなると理解される。

(2)摘記事項(1-5)及び(1-6)における「ほぼ0℃」「0℃付近」について
摘記事項(1-5)に記載された解凍制御の作用は,摘記事項(1-4)の「【0014】第3に,具体的には,最初の氷温帯までの加熱は,高周波照射による第1の加熱手段で行われ,その後,その被解凍物の調理等に適した温度での保持は,ジュール熱による第2の加熱手段の加熱制御により行われる。これにより,被解凍物に適した終了温度までの温度むらのない高品位な解凍がより良く実現される。」との記載事項に対応するものと理解される。
また,摘記事項(1-6)記載された解凍制御の作用は,摘記事項(1-4)の「【0015】第4に,例えば,マグロの刺身等では,0℃付近の半解凍の状態においてドリップが出ることなく薄く切りやすいが,食味に適した温度はこれより高い10℃前後である。そこでこのような種類の被解凍物では,第1の加熱手段で氷温帯まで加熱した後,第2の加熱手段の加熱制御により調理に適した第1の温度に保持され,調理が行われて再び解凍室内に戻されたときに食味に適した第2の温度に保持する制御が行われる。したがって使用者は,必要なときにこれを取り出せば,適温状態でいつでもこれを味わうことが可能となる。」に対応するものと理解される。
そうすると,摘記事項(1-5)及び摘記事項(1-6)に記載の「ほぼ0℃」及び「0℃付近」とは,氷温帯を包含するものと理解される。

(3)以上のことから,摘記事項(1-5)及び(1-6)の記載事項において,「ほぼ0℃」及び「0℃付近」を「氷温帯」と読み替え,整理すると,刊行物1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「冷凍庫で-20℃に凍結された魚類の被解凍物4を解凍室3内の回転皿5上に設置して解凍を開始し,ダンパ19はずっと解放状態とし,解凍室3内の温度をできるだけ被解凍物4の中央と周辺の温度差を生じないように低い温度に維持し高周波電力を加えてややゆっくりと被解凍物4を加熱を行い,
開始直後は強めに加熱して被解凍物4の温度が氷温帯まで上昇するまで徐々に加熱電力を低下させる制御を行い,被解凍物4の温度が氷温帯と冷気循環ファン13を連続的にONさせ,被解凍物4を十分に冷却させ局部的に温度が上昇するのを防ぎ,被解凍物4が全体に氷温帯になるまで続ける第1の工程と,
氷温帯まで解凍した被解凍物4を解凍室3から取り出し,包丁で薄く切り皿に盛りつける第2の工程と,
再び解凍室3内に調理した被解凍物4を収容して,ダンパ19を一度閉めてシーズヒータ22をON/OFF制御し解凍室3内を例えば10℃程度に維持するように制御する第3の工程とを備える解凍方法。」

第6 当審の判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明の「魚類の被解凍物4」は,食品であることは明白である。そうすると,引用発明の「魚類の被解凍物」は,本願発明の「冷凍食品」に相当する。
引用発明の「氷温帯」とは,株式会社岩波書店 広辞苑第六版によると「ひょう‐おん【氷温】‥ヲン セ氏零度以下から食品が凍り始める直前までの温度領域。この温度帯で生鮮品の貯蔵などを行う。」とされており,特開平7-67598号公報によると「【0005】・・・この氷温帯とは氷点下であって食品が凍結する以前の温度帯(0℃?-3℃)のことである。」と記載されていることから,引用発明の「氷温帯」とは食品が凍り始める直前までの温度領域である0℃?-3℃程度の温度帯をいうと理解される。
他方,本願明細書の段落【0039】には,「・・・潜熱温度帯は,冷凍技術の分野で最大氷結晶生成帯といわれる温度帯のことであり,通常,1気圧で-5℃?0℃の温度範囲のことを指すが,気圧の値によって異なるし,1気圧でも食品の種類によって若干異なるものである)」と記載されており,本願発明でいう「潜熱温度帯」とは,0?-5℃程度の温度帯をいうと理解される。
そうすると,引用発明の「氷温帯」は,その温度域において,本願発明の「潜熱温度帯」に包含されるということができる。
引用発明の「第1の工程」で採用される加熱手段である「高周波電力」は,刊行物1記載の特許請求の範囲の請求項1でいう「高周波を照射」(摘記事項(1-1))をいうことは明らかであり,摘記事項(1-3)の「特に,高周波加熱の電子レンジでは被解凍物が解凍・・・誘電率の違い・・」との記載に照らせば,本願発明の「誘電加熱」ということができることは明白である。
また,刊行物1には,被解凍物が包装されていることについては記載がない。
以上のことを総合すると,引用発明の「冷凍庫で-20℃に凍結された魚類の被解凍物4を解凍室3内の回転皿5上に設置して解凍を開始し,ダンパ19はずっと解放状態とし,解凍室3内の温度をできるだけ被解凍物4の中央と周辺の温度差を生じないように低い温度に維持し高周波電力を加えてややゆっくりと被解凍物4を加熱を行い,
開始直後は強めに加熱して被解凍物4の温度が氷温帯まで上昇するまで徐々に加熱電力を低下させる制御を行い,被解凍物4の温度が氷温帯と冷気循環ファン13を連続的にONさせ,被解凍物4を十分に冷却させ局部的に温度が上昇するのを防ぎ,被解凍物4が全体に氷温帯になるまで続ける第1の工程」と,本願発明の「包装された冷凍食品を誘電加熱により潜熱温度帯にまで昇温する誘電加熱工程」とは,「冷凍食品を誘電加熱により潜熱温度帯にまで昇温する誘電加熱工程」という点で共通する。

(2) 引用発明の「氷温帯まで解凍した被解凍物4を解凍室3から取り出し,包丁で薄く切り皿に盛りつける第2の工程」と,本願発明の「潜熱温度帯に昇温された食品の包装を解く解袋工程」とは,「潜熱温度帯に昇温された食品に処理を加える工程」という点で共通する。

(3) 引用発明の第3工程で採用される「シーズヒータ」は,熱媒体を伴うものか刊行物1に記載がなく,不明である。
そうすると,引用発明「再び解凍室3内に調理した被解凍物4を収容して,ダンパ19を一度閉めてシーズヒータ22をON/OFF制御し解凍室3内を例えば10℃程度に維持するように制御する第3の工程とを備える解凍方法」と,本願発明の「解袋処理後の包装食品に外部から熱媒体を供給して少なくとも潜熱温度帯を越える温度に昇温する外部加熱工程とを備えることを特徴とする冷凍食品の解凍方法」とは,「外部から熱を供給して少なくとも潜熱温度帯を越える温度に昇温する外部加熱工程とを備えることを特徴とする冷凍食品の解凍方法」という点で共通する。

以上のことを総合すると,両者は,次の(一致点)並びに(相違点ア),(相違点イ-1),(相違点イ-2)及び(相違点イ-3)を有する。
(一致点)
「冷凍食品を誘電加熱により潜熱温度帯にまで昇温する誘電加熱工程と,
潜熱温度帯に昇温された食品に処理を加える工程と,
外部から熱を供給して少なくとも潜熱温度帯を越える温度に昇温する外部加熱工程とを備えることを特徴とする冷凍食品の解凍方法。」

(相違点ア)
外部から供給される熱が,本願発明では「熱媒体」であるのに対して,引用発明では「シーズヒーター」である点。

包装及び解袋について,
(相違点イ-1)
冷凍食品が,本願発明では「包装され」ているのに対して,引用発明では,包装されているか不明であり,
(相違点イ-2)
潜熱温度帯に昇温された食品に処理を加える工程が,本願発明では「食品の包装を解く解袋工程」であるのに対して,引用発明は,「包丁で薄く切り皿に盛りつける第2の工程」であり,
(相違点イ-3)
外部から熱媒体を供給して少なくとも潜熱温度帯を越える温度に昇温する外部加熱工程が,本願発明では「解袋処理後の包装食品」であるのに対して,引用発明では,被解凍物であるものの解袋処理されたものではない点。

2 判断
(1)(相違点ア)について
引用発明の「シーズヒーター」は,刊行物1の特許請求の範囲請求項1に「ジュール熱で前記被解凍物を加熱する第2の加熱手段」(摘記事項(1-1))に対応するものである。そうすると,引用発明の「シーズヒーター」は,ジュール熱を発生するものであるということができる。
他方,熱の伝達には,1)伝導,2)対流及び3)放射(輻射)の3つしかないことが本願優先権主張日前から技術常識となっている。(必要なら,刊行物Aの摘記事項(A-1)を参照されたい。)
引用発明においてシーズヒーターが発生するジュール熱は,空気の伝導率が小さいこと(必要なら,刊行物Aの摘記事項(A-2)を参照されたい。)からすると,ジュール熱が伝導によって伝わる割合は非常に小さいということができる。
放射の場合,シーズヒーターが発する赤外線等の放射が直接被解凍物に当たる必要があり,刊行物1の図1及び図2からすると,シーズヒーター22の前には,冷気流入口7が設けられ,シーズヒーターからの赤外線等の放射が直接届きにくい構造となっており,また,被解凍物4との位置関係においてもシーズヒーター22が被解凍物4と正対する位置関係となっていないことを考慮すると,刊行物1においては,放射による加熱を意図した設計がなされていないことが理解される。また,引用発明は「シーズヒータ22をON/OFF制御し解凍室3内を例えば10℃程度に維持するように制御を第3の工程」という発明特定事項を具備しており,放射による熱伝達は,赤外線等の放射が直接当たったところにとどまり,解凍室内の温度を維持するような作用はないから,引用発明においては,シーズヒーターが発生するジュール熱は,もっぱら対流により被解凍物まで運ばれる,すなわち,供給されると理解され,この対流は空気を介してなされるから,空気は,熱媒体ということができる。
この空気を熱媒体と解することについては,本願請求項3「上記外部加熱工程における熱媒体は,冷凍食品の周りに供給される所定湿度の空気流である・・・」との記載と反するものではない。
そうすると,(相違点ア)は,表現上の差異にすぎず,実質的に相違点ではない。

仮に,引用発明が熱媒体である空気を対流により積極的に供給するものでなない,すなわち,熱媒体を「供給」といえるものではないとしても,熱媒体を強制的に供給する解凍工程は,刊行物2「・・・電磁波照射器,熱気体噴射等の単独又は組合わせによる解凍装置(3)」(摘記事項(2-1))や拒絶査定で引用された下記刊行物Bに記載されているように,本願優先権主張日前から周知の技術的事項である。
そうすると,引用発明において,シーズヒーターに加えて上記周知の技術的事項を付加することにより,相違点アに記した本願発明の特定事項のごとく構成することは,当業者が容易になし得たことといえる。

刊行物A:特開平10-82750号公報
(A-1)「【0013】まず,一般的な熱赤外線映像法について説明する。熱の伝わり方には,熱伝導,対流,放射の3つの形態がある。これらの熱の移動の形態によって物質には,常に温度変化を生じ,さまざまな特性をもつこととなる。」
(A-2)「【0017】・・・ 空洞部20内の空気層は,熱伝導率が小さく,熱容量も小さい。このため,背後に空洞部20が存在する場合は,日射による地山10への熱の移動量が空気層により妨げられ,健全部22と比較して吹き付けモルタル19表面の温度が高くなる。」

刊行物B:特開平7-203929号公報
(B-1)「【0017】そして,図示しない扉を閉めてファン6を回転して送風し,収納空間3内の空気を強制循環させるとともに,空気加熱用ヒータ8に電流を流して循環している空気を加熱制御する。図3において,この加熱により,収納空間3内を循環している空気は50°Cの高温になる。また,図1に図示する棚加熱用ヒータ14にも電流が流れ,棚Aを加熱制御する。そして,その棚Aの表面温度は収納空間3内の空気温度よりも5度高い55°Cになる。すしSのネタUはこの50°Cの空気により加熱され,シャリDの外周面は55°Cに加熱された棚Aの窪み17に接して,熱伝導により加熱される。」
なお,下線は当審にて付記したものである。

(2)(相違点イ-1)?(相違点イ-3)について
ア 相違点(イ-1)について
冷凍食品は,冷蔵中の空気による酸化や乾燥を防ぐために,包装することは,例えば,下記刊行物C及びDに記載のように当技術分野では,本願優先権主張日前から知られた周知の技術的事項である。そして,本願優先権主張日前から業務用,家庭用を問わず,冷凍食品の多くが,ラップをかけられたり包装されている。
そうすると,前記周知の技術的事項に照らせば,引用発明において,被解凍物を包装して,(相違点ア)に記載の本願発明のごとくすることは,単なる設計的事項ということができる。

刊行物C:桜井編「総合食品事典ハンディ版」平成10年4月5日同文書院発行1007頁「冷凍魚」の項
(C-1)「(冷凍魚の取り扱い)冷蔵中の空気による酸化,乾燥を防ぐためには,包装したり,うすい氷の膜(グレーズ)をかける。」(1007頁右欄18?21行)

刊行物D:特開平6-312779号公報
(D-1)「【要約】
【目的】 本発明は,冷凍庫内での保存中における毛がにの乾燥や品質の低下を防止することができるなどの効果を有する毛がにの包装方法を提供しようとするものである。
【構成】 急速冷凍された毛がに1を包装用シート2で包装した後,真空包装用の包装用袋3に入れ真空包装の処理をするよう構成されている。」
なお,下線は当審にて付記したものである。

イ(相違点イ-2)について
引用発明は「氷温帯まで解凍した被解凍物4を解凍室3から取り出し,包丁で薄く切り皿に盛りつける第2の工程」を発明特定事項として具備する発明である。
「解凍室3から取り出し,包丁で薄く切り皿に盛りつける」ためには,必然的に,包装されている冷凍食品の「包装」を解袋しなければならないことは当然のことである。そして,氷温帯になるまえに解袋しようとすると,包装材料が凍った食品に密着して解袋が困難であり,誘電加熱をする際には,包装が存在しても特段加熱効率に影響がないことを考慮すると,上記「ア (相違点イ-1)について」で言及したように,被解凍物を包装した場合,常温帯にまで解凍した後,解袋するのが自然である。
そうすると,引用発明において,上記周知の技術的事項を適用して被解凍物を包装し,解凍室3から取り出し,氷温帯まで解凍した被解凍物4を包丁で薄く切り皿に盛りつけるため解袋することにより,(相違点イ-2)に記載の本願発明の発明特定事項のごとく構成することは,当業者であれば,容易に想到し得ることである。

ウ (相違点イ-3)について
上記「イ (相違点イ-2)について」で言及したように,被解凍物を包装した場合,必然的に,包装されている冷凍食品の「包装」を解袋することとなり,その後に行われる引用発明の「シーズヒータ22をON/OFF制御し解凍室3内を例えば10℃程度に維持するように制御を第3の工程」もまた,必然的に,解袋工程後になされることとなる。

エ 小括
以上を総合すると,引用発明1において,冷蔵中の空気による酸化や乾燥を防ぐために被解凍物を包装して,(相違点イ-1)に記載の本願発明の発明特定事項のごとくすることは,当業者が容易になし得た単なる設計的事項ということができ,それにより,必然的に(相違点イ-2)及び(相違点イ-3)の本願発明の発明特定事項のごとく構成されるようになったものということができる。

(3)本願発明の効果について
本願発明の効果は,本願明細書によれば,
「【0105】請求項1および14記載の発明によれば,誘電加熱で冷凍食品を潜熱温度帯に昇温する誘電加熱工程(高周波解凍装置)と,潜熱温度帯になった冷凍食品に外部から熱を付与して0℃以上に昇温する外部加熱工程(2次解凍装置)とを経て冷凍食品を解凍するようにしたため,これらの相加作用で冷凍食品の迅速な完全解凍を実現することができる。すなわち,0℃以上の完全解凍を誘電加熱のみで行おうとすれば,氷が水に相転移するための潜熱エネルギーが莫大に必要でエネルギーコストが嵩む他,加熱効率が鈍り,これによって完全解凍の時間が長引く他,水の誘電率は氷のそれより大きいため,冷凍食品内に多数点在する水の部分が高温になって内部温度の分布が不均一になり,食品を劣化させるという不都合が存在するが,冷凍食品が,潜熱温度帯に昇温された時点で外部加熱に切り換えることにより,上記不都合が解消され,迅速でかつ均一な温度分布の完全解凍を実現することができる。」,及び
「【0115】請求項12および15記載の発明によれば,予め包装されている冷凍食品は,解袋工程(解袋装置)で包装が取り除かれるため,以後の外部加熱工程で食品は包装を介することなく外部から直接熱を得て昇温し,これによって昇温効率を向上させることができる。」である。

しかし,前者の効果については,刊行物1の摘示(1-5)に具体的に言及されている。
また,後者の効果は,解袋により必然的に奏される作用効果であり,前記したように空気が熱伝導率が低いことは技術常識あるから,当業者が予測し得る程度のもので,格別なものとはいえない。
よって,本願発明の効果は,刊行物1,技術常識及び周知の技術的事項から,当業者が予測し得る程度のものであり,格別顕著な効果とはいえない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないので,本願は,その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-26 
結審通知日 2011-05-10 
審決日 2011-05-25 
出願番号 特願平11-146146
審決分類 P 1 8・ 57- Z (A23L)
P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 六笠 紀子小川 明日香  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 杉江 渉
齊藤 真由美
発明の名称 冷凍食品の解凍方法および装置  
代理人 櫻井 智  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 昌崇  

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