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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B82B |
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管理番号 | 1239709 |
審判番号 | 不服2010-6228 |
総通号数 | 140 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-03-23 |
確定日 | 2011-07-07 |
事件の表示 | 特願2003-307602「ナノスケール物質の構造制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月24日出願公開、特開2005- 74557〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成15年8月29日の出願であって、平成21年12月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。 その後、前置報告書の内容について、審判請求人の意見を求めるために平成23年1月31日付けで審尋がなされ、同年4月1日に当該審尋に対する回答書が提出された。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成22年3月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。 「大気中において、状態密度の異なるナノスケールの低次元量子構造体の混合物にエネルギー密度が10kW/cm^(2)の電磁波を照射し、当該電磁波と共鳴する状態密度の低次元量子構造体を選択的に酸化させることを特徴とする構造制御方法。」(以下「本願発明」という。) 第3 刊行物に記載された発明 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、「YUDASAKA M. ET AL.,Diameter-selective removal of single-wall carbon nanotubes through light-assisted oxidation,CHAMICAL PHYSICS LETTERS,2003年 6月 4日,Vol.374,No.1,2,p.132-136」(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。 (a)第132頁右欄下から3行?第133頁左欄下から10行 「 (参考訳) 2.実験 ・・・ ・・・精製されたHiPcoの管は、H_(2)O_(2)(25.5wt%)の水溶液に、溶液の温度が室温から50℃に上昇するまで2分、60℃まで上昇するまで5分、70℃まで上昇するまで10分以上、混合された。H_(2)O_(2)溶液に混合されている間、SWNTは488nm光(0.3mW/cm^(2))又は515nm光(0.3mW/cm^(2))が照射される。(それぞれ、H_(2)O_(2)-488nm処理とH_(2)O_(2)-515nm処理)。光照射とともに、又は光照射無しでH_(2)O_(2)と混合されたあと、HiPcoSWNTはすぐにH_(2)O_(2)溶液から取り出され、水で洗浄され、乾燥される。光による酸化助長が直径に依存する選択的な除去をもたらすことを確認するために、HiPcoSWNTの重量、赤外スペクトル及びラマンスペクトルの測定を行う。ラマンスペクトルは30又は100mWのレーザー出力で測定された。レーザー光のスポット径は約5μm。減衰器とレンズを通過し、鏡で反射されたレーザー光の試料表面での強度は約30-100W/cm^(2)。」 (b)第133頁左欄下から10行?第135頁右欄下から2行 「 (参考訳) 3.結果と検討 3.1.488nm光照射による酸化促進 ・・・ 3.1.2.488nm光で測定したラマンスペクトル 488nm光を用いて、H_(2)O_(2)処理を行わなかったSWNTのラマンスペクトルを測定した(488-ラマンスペクトル)(図2a);それぞれ直径1.19,1.06,0.935及び0.788nmに対応する、ラジアルブリーシングモード(RBM)の206,230,261及び310cm^(-1)にピークが存在することを見いだした。15分の処理を除いて、H_(2)O_(2)処理後のピークの相対強度に目立った変化はなかった。この処理の後のラマンスペクトルは230,260又は310cm^(-1)にはピークは見られず、主たるピークは209cm^(-1)すなわち、およそ1.17nmだった(図2e)。H_(2)O_(2)処理を行わなかったSWNTのラマンスペクトルは、1592と1565cm^(-1)付近とD-バンドの1345cm^(-1)付近にもピークを示した。タンジェントモードの低いエネルギー側に見られる立ち下がりは、処理時間が長いほど解りづらくなるが、これらのピークはH_(2)O_(2)処理後にも顕著な変化はなかった(図2)。この立ち下がりは、多数の小径のSWNTからなる金属性構造のSWNTの特性である、ファノラインに対応するものと思われる。 2分と5分(図3bとc)H_(2)O_(2)-488nm処理した後の488-ラマンスペクトルは、203cm^(-1)におけるRBMピークの強度が、他のRBMピークに比べて顕著に減少し、10分と15分処理後は、203cm^(-1)が最高のピークとなっていることがわかる(図3dとe)。 3.1.3.514.5nm光で測定したラマンスペクトル 514.5nm励起光でもH_(2)O_(2)処理前のラマンスペクトルを測定し(514.5-ラマンスペクトル)(図4a)、RBMピークは、それぞれ、1.32,1.19,0.985,0.911及び0.766nmに対応する185,205,248,268及び319cm^(-1)にピークが見られた。205cm^(-1)ピークを除き、概して、H_(2)O_(2)処理の時間が長いほど、高エネルギー側のRBMピークは低くなった(図4b-e)。タンジェントモードに対応する1592cm^(-1)の鋭いピークは、ファノラインのタンジェントモードのピークの低いエネルギー側にある、広い肩部によるものと思われる。このピークと肩部の相対強度と肩部の形状は処理時間によってほとんど変化していない。D-バンドでは明確な変化はない。 H_(2)O_(2)-488nm処理後のSWNTの514.5-ラマンスペクトル(図5)のピーク強度の時間的展開は、488nm光照射を行わずに処理されたSWNTに類似している(図4)、が、より速い割合で展開している。 3.2.515nm光照射による酸化促進 H_(2)O_(2)処理によるSWNTの酸化における光照射の影響を確かめるために、H_(2)O_(2)水溶液に分散されたSWNTに、488nmに代えて、515nm光を照射(H_(2)O_(2)-515nm処理)した。5分間のH_(2)O_(2)-515nm処理の後のラマンスペクトルは、184cm^(-1)におけるRBMピークの強度が減少し、タンジェントモードピークに関するファノラインの強度がやや増加した。これは、直径1.33nm近傍のSWNTが優先的に除去され、金属性SWNTの数の割合が増加したためである。 4.検討 上記の結果は、光の照射がSWNTの酸化と除去を強化することを示す。ラマンスペクトル(図2-5)は、照射時間が2分又は5分の場合、488nm光の照射によって直径1.2nm近傍のSWNTが優先的に除去されたことを示している。直径1.2nmのSWNTのS3ギャップエネルギーは2.54eV(?488nm)近傍である。これに対して、514nm光の照射では直径1.33nmのSWNTが除去され、この直径のSWNTのS3ギャップエネルギーは2.41eV(?515nm)近傍である。これらの管はジグザグ又はキラル構造を持つ半導体性である。上記の結果は、また、金属性SWNTは、照射によって励起されても除去されないことを示している。これらのことは、光照射は、用いる光の波長に近接するエネルギーギャップに対応する特定の径のSWNTを選択的に酸化し除去するのに有用であり、半導体型のエネルギー構造を有するSWNTがこの方法で除去できることを示している。 488nm照射が5分より長時間続くと、図1に見られるように、光照射がSWNTの酸化と除去を強化するものの、光照射による直径に依存する選択的な除去効果は現れない。・・・」 (c)図2 「 」 (d)図3 「 」 (e)図4 「 」 (f)図5 「 」 上記各記載及び当業者の技術常識を総合的に勘案すると、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。 「H_(2)O_(2)の水溶液にSWNTを混合し、該水溶液に試料表面の強度が約30-100W/cm^(2)のレーザー光を照射し、用いる光の波長に近接するエネルギーギャップに対応する特定の径のSWNTを選択的に酸化し除去する方法。」(以下「刊行物1記載の発明」という。) 第4 対比・判断 1.対比 本願発明と刊行物1記載の発明とを対比する。 刊行物1記載の発明の「レーザー光」は、本願発明の「電磁波」に相当する。そして、刊行物1記載の発明の「30-100W/cm^(2)」が照射するレーザー光のエネルギー密度を表すことは明らかである。 また、本願発明の「ナノスケールの低次元量子構造体」は、その実施例として本願明細書に記載されているものが単層カーボンナノチューブであることから、刊行物1記載の発明の「SWNT」がこれに相当する。 さらに、刊行物1記載の発明の「用いる光の波長に近接するエネルギーギャップに対応する特定の径のSWNTを選択的に酸化」することと、本願発明の「電磁波と共鳴する状態密度の低次元量子構造体を選択的に酸化させること」とは、ともに、「特定の電磁波に対応する特定の低次元量子構造体を選択的に酸化させること」で共通する。そして、刊行物1記載の発明の方法によってSWNTの組成が選択的に変化することから、当該方法がSWNTの構造を制御していることは明らかである。 したがって両者は、 「低次元量子構造体の混合物に所定のエネルギー密度の電磁波を照射し、特定の電磁波に対応する特定の低次元量子構造体を選択的に酸化させる構造制御方法。」 の点で一致し、以下の各点で相違している。 (相違点1) 本願発明の方法が大気中において行われ、照射する電磁波のエネルギー密度が、10kW/cm^(2)であるのに対して、刊行物1記載の発明の方法はH_(2)O_(2)の水溶液中で行われ、照射する電磁波のエネルギー密度が約30-100W/cm^(2)である点。 (相違点2) 選択的に酸化させる低次元量子構造体が、本願発明では電磁波と共鳴する状態密度のものであるのに対して、刊行物1記載の発明では電磁波の波長に近接するエネルギーギャップに対応する特定の径のものである点。 2.判断 (1)相違点 (相違点1について) 本願発明も刊行物1記載の発明も、ともに、低次元量子構造体に所定のエネルギー密度の電磁波を照射することによって酸化させる方法に関するものであるところ、カーボンナノチューブのような低次元量子構造体が、電磁波の照射等によって大気中でも容易に酸化し得ることは、当業者によく知られた事項である(必要なら特開2002-37614号公報、段落【0022】参照)。 また、酸化の程度に適切なレベルが存在し(上記摘記事項(b)の4.参照)、それが照射する電磁波の強度(エネルギー密度)や照射時間に依存するであろうことは、当業者が当然予測可能な事項である。 刊行物1記載の発明において、酸化を大気中で行うよう試みることに、格別の技術的阻害要因はない。その際に、電磁波のエネルギー密度をどの程度にするかは、その照射時間等も案配しながら、当業者が適宜決定しうる事項である。 してみると、刊行物1記載の発明に相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得る事項である。 (相違点2について) 刊行物1記載の発明において、特定のエネルギーギャップを有する低次元量子構造体が特定の状態密度を有することは、当業者に自明の事項であり、特定の径の低次元量子構造体のエネルギーギャップが特定の波長の電磁波に対応するということは、当該低次元量子構造体が電磁波と共鳴していることにほかならない。 してみると、相違点2に係る事項は、実質的な相違点ではない。 (2)作用・効果 本願発明の作用・効果は刊行物1記載の発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。 (3)小括 したがって、本願発明は、刊行物1記載の発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願発明は特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-05-09 |
結審通知日 | 2011-05-10 |
審決日 | 2011-05-23 |
出願番号 | 特願2003-307602(P2003-307602) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B82B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 秀樹 |
特許庁審判長 |
神 悦彦 |
特許庁審判官 |
村田 尚英 吉川 陽吾 |
発明の名称 | ナノスケール物質の構造制御方法 |
代理人 | 特許業務法人原謙三国際特許事務所 |