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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
管理番号 1240091
審判番号 不服2008-14025  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-05 
確定日 2011-07-11 
事件の表示 平成10年特許願第317150号「インジェクション成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月23日出願公開、特開2000-141397〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成10年11月9日の出願であって、平成19年8月28日付けで拒絶理由が通知され、平成19年10月30日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月17日付けで拒絶理由が通知され、平成20年2月15日に意見書が提出されたが、同年4月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、手続補正書が提出され、平成21年2月4日付けで前置報告がなされ、それに基いて当審において平成22年9月6日付けで審尋がなされ、それに対して同年10月29日に回答書が提出され、当審において平成23年2月4日付けで平成20年6月5日付け手続補正の却下の決定がなされるとともに、拒絶理由(最後)が通知され、平成23年4月4日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.平成23年4月4日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年4月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成23年4月4日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、平成19年10月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲について、

「【請求項1】 ポリエチレンテレフタレートより成るカップ状に形成されたインジェクション成形品であって、固有粘度が0.5?0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートによって射出成形されており、底壁の中央部にゲート跡部を有しており、そのゲート跡部の上部は底壁の内面から上方に突出しており、その突出した部分はドーム状を呈していることを特徴とするインジェクション成形品。
【請求項2】 ポリエチレンテレフタレートより成るカップ状に形成されたインジェクション成形品であって、固有粘度が0.5?0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートによって射出成形されており、底壁の中央部にゲート跡部を有しており、そのゲート跡部の上部は底壁の内面から上方に突出しており、その突出した部分はドーム状を呈しており、前記ゲート跡部を囲むように環状の補強リブが底壁の外面から下方に突出していることを特徴とするインジェクション成形品。
【請求項3】 ポリエチレンテレフタレートより成るカップ状に形成されたインジェクション成形品であって、固有粘度が0.5?0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートによって射出成形されており、底壁の中央部にゲート跡部を有しており、そのゲート跡部の上部は底壁の内面から上方に突出しており、その突出した部分はドーム状を呈しており、周壁の肉厚が0.5?1.5mmであり、底壁の最長の径または対角線Dと高さHとの比H/Dが0.5?3であるとともに容積が100?500ccであることを特徴とするインジェクション成形品。
【請求項4】 ポリエチレンテレフタレートより成るカップ状に形成されたインジェクション成形品であって、固有粘度が0.5?0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートによって射出成形されており、底壁の中央部にゲート跡部を有しており、そのゲート跡部の上部は底壁の内面から上方に突出しており、その突出した部分はドーム状を呈しており、前記ゲート跡部を囲むように環状の補強リブが底壁の外面から下方に突出しており、周壁の肉厚が0.5?1.5mmであり、底壁の最長の径または対角線Dと高さHとの比H/Dが0.5?3であるとともに容積が100?500ccであることを特徴とするインジェクション成形品。」

を、

「【請求項1】ポリエチレンテレフタレートより成り円形状の底壁とこの底壁の周縁部から上方及び下方に向けて延びる円筒状の周壁から構成されたカップ状に形成された飲料物収納用のインジェクション成形品であって、固有粘度が0.5?0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートによって射出成形されており、底壁の中央部にゲート跡部を有しており、そのゲート跡部の上部は底壁の内面から上方に突出しており、その突出した部分はドーム状を呈しており、前記ゲート跡部を囲むように環状の補強リブが底壁の外面からその下端が前記周壁の下端にまでは達しない位置まで下方に突出しており、周壁の肉厚が0.5?1.5mmであり、底壁の最長の径または対角線Dと高さHとの比H/Dが0.5?3であるとともに容積が100?500ccであることを特徴とするインジェクション成形品。」

とする補正(以下、「本件補正1」という。)を含むものであり、本件補正1は、具体的には、本件補正前の請求項1?3を削除すると共に、補正前の請求項4における「カップ状に形成されたインジェクション成形品」を「円形状の底壁とこの底壁の周縁部から上方及び下方に向けて延びる円筒状の周壁から構成されたカップ状に形成された飲料物収納用のインジェクション成形品」と規定すると共に、「前記ゲート跡部を囲むように環状の補強リブが底壁の外面から下方に突出している」を「前記ゲート跡部を囲むように環状の補強リブが底壁の外面からその下端が前記周壁の下端にまでは達しない位置まで下方に突出している」と補正するものである。

2.補正の適否について
(1)新規事項の追加の有無について
本件補正1は、本件補正前のカップ状に形成されたインジェクション成形品の具体的な形状及び用途を規定するものであるが、具体的な形状については、願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)の段落【0011】?【0015】の記載及び図1?3からみて、また、用途については当初明細書等の段落【0012】及び【0013】の記載からみて、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてする補正といえる。

(2)補正の目的の適否について
本件補正1は、本件補正前の「カップ状のインジェクション成形品」(カップ状には周壁の概念が包含されているといえる)の周壁の形状と「補強リブ」の長さを特定するとともに、その用途を特定するものであり、「カップ状のインジェクション成形品」の周壁の形状と「補強リブ」の長さ、及び用途の特定は、発明を特定するために必要な事項の限定ということができる。
次に、補正前と補正後の「産業上の利用分野」と「発明の解決しようとする課題」とが同一であるかどうかを確認する。
補正前の「カップ状のインジェクション成形品」の産業上の利用分野は、用途については規定されておらず、明細書において「成形性が良好なインジェクション成形品に関」(明細書段落【0001】)し、「各種製品に広く利用されている」(明細書段落【0002】)もので、実施例として「酒や果汁飲料等を収納するためのもの」(明細書段落【0012】)が記載されており、他に利用可能な物品として「防虫剤収納ケース」(明細書段落【0019】)が例示されている。そうすると、補正前の産業上の利用分野は、少なくとも「防虫剤収納ケース」や「飲料物収用」を含む各種製品といえる。
一方、補正後の「カップ状のインジェクション成形品」の産業上の利用分野は、「飲料物収納用」となったので、直ちには、同一の技術分野ということはできないが、補正前後の「発明の解決しようとする課題」は、ともに「射出成形性の悪化防止、ゲートから遠い部分の成形不良防止、ゲート跡部及び補強リブによる体落下衝撃性の向上」ということができ、同一といえる。

上記のように、直ちには、補正前と補正後の「産業上の利用分野」と「発明の解決しようとする課題」とが同一であるとはいえないことから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の趣旨である「発明の保護を十全に図るという特許制度の基本目的を考慮しつつ、迅速・的確な権利付与を確保する審査手続を確立するために、最後の拒絶理由通知に対する補正は、既に行った審査結果を有効に活用できる範囲内で行うこととする」ことに即して判断すると、先の最後の拒絶理由通知において提示されている文献の範囲内において、補正後の発明の進歩性の判断を行うことができるので、補正前と補正後の「産業上の利用分野」と「発明の解決しようとする課題」は同一であるといえる。
そうすると、改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項である特許請求の範囲の減縮(いわゆる請求項の限定的減縮)を目的とするものである。

(3)独立特許要件について
本件補正1を含む本件補正は、上記のとおり、改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する補正であるか否か(いわゆる、独立特許要件の有無)について、以下に検討する。

(3-1)本願補正発明
本願補正発明は、平成23年4月4日提出の手続補正書により補正された明細書及び図面(以下、図面の記載を併せて「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、「本願補正発明」という。)

「ポリエチレンテレフタレートより成り円形状の底壁とこの底壁の周縁部から上方及び下方に向けて延びる円筒状の周壁から構成されたカップ状に形成された飲料物収納用のインジェクション成形品であって、固有粘度が0.5?0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートによって射出成形されており、底壁の中央部にゲート跡部を有しており、そのゲート跡部の上部は底壁の内面から上方に突出しており、その突出した部分はドーム状を呈しており、前記ゲート跡部を囲むように環状の補強リブが底壁の外面からその下端が前記周壁の下端にまでは達しない位置まで下方に突出しており、周壁の肉厚が0.5?1.5mmであり、底壁の最長の径または対角線Dと高さHとの比H/Dが0.5?3であるとともに容積が100?500ccであることを特徴とするインジェクション成形品。」

(3-2)刊行物
刊行物1:実願昭62-55747号(実開昭63-161108号)のマイクロフィルム(平成23年2月4日付け拒絶理由通知において周知文献として提示された文献)

(3-3)刊行物の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭62-55747号(実開昭63-161108号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

1a.「底部の外壁面にポッチが突出し、ゼリー、ジャム、プリンなどの半流動体を収納する合成樹脂製の食物収納容器において、前記底部の外壁面に前記ポッチを囲繞する突起部を形成したことを特徴とする合成樹脂製の食物収納容器。」(実用新案登録請求の範囲)

1b.「「産業上の利用分野」
本考案は、ゼリー、ジャム、プリンなどの半流動体を収納する合成樹脂製の食物収納容器に関する。」(明細書 1頁11?14行)

1c.「「従来の技術」
従来、この種の食物収納容器は第4図および第5図で示すように底部1に糸底2を有する合成樹脂製の容器本体3と、この容器本体3の開口部をシールするために周胴部4の上端縁に形成されたフランジ部5と、このフランジ部5に熱着され容器本体3に収納されるゼリー、ジャム、プリンなどの半流動体を封止するビニールフイルムなどのカバー体6とから構成されていた。
しかして、前記底部1の外壁面1aの中央部には合成樹脂製の食物収納容器本体3を製造する過程において、射出成型時にゲートにできるライナーをもぎ取った後に突起状のポッチ7ができる。この突起状のポッチ7は、指で触っても「ギザギザ」した感触を有し、したがって、第2図で示すように食物収納容器を次々と重ねると、該ポッチ7が収納物の重さで次第にビニールフイルムなどの前面カバー体6に食い込み、しばしばカバー体6に孔が開くと言う欠点があった。また、この種の食物収納容器は前記突起状のポッチ7を中心とし、第4図で示すように半径方向に放射状の「ヒビ」が生ずるので、ポッチ7の部位の強度が十分でなく、当該箇所からヒビ割れが生ずるいという欠点があった。さらに、ポッチ7が位置するの底部1の内壁面1bが多少ではあるが隆起しているので、スプーンの掬う部分が当接し、スムーズにスプーンが滑らないなどの欠点があった。」(明細書 1頁15行?3頁1行)

1d.「「本考案の解決しようとする問題点」
本考案は以上のような従来の欠点に鑑み、食物収納容器を次々と重ねてもポッチによりカバー体に孔が開くことがなく、また、ポッチの部位の強度を十分に図ることによりヒビ割れを防止することができ、さらに、スプーンが底部の内壁面に引っ掛かることがない合成樹脂製の食物収納容器を得るにある。」(明細書 3頁2?9行)

1e.「「本考案の実施例」
以下、図面に示す実施例により本考案を詳細に説明する。
第1図ないし第3図の一実施例において、10は底部11に糸底12を有する半透明の合成樹脂製容器本体で、この容器本体10は全体として逆円錐台形状に形成されている。13は容器本体10の開口部をシールするために周胴部14の上端縁に形成されたフランジ部である。15はこのフランジ部13の上面に熱着されかつ容器本体10に収納されるゼリー、ジャム、プリンなどの半流動体16を封止するビニールフイルムなどのカバー体で、このカバー体15の周縁部には外方向に摘み15aが形成されている。17は前述したように射出成型時にゲートにできるライナーをもぎ取った後に底部11の外壁面11a中央に生じるギザギザしたポッチである。18はこのポッチ17を囲繞する周壁状の突起部である。この突起部18の大きさは特に限定しないが、少なくとも第2図で示すように食物収納容器Xを何個か積重ねた場合において、強制的に分離切断されたポッチ17がカバー体15に食い込まない程度の大きさであることが望ましい。
なお、この実施例にあっては、底部11の内壁面11bは面一に形成されている。」(明細書 3頁17行?4頁20行)

1f.「「本考案の効果」
以上の説明から明らかなように本考案にあっては、次に列挙するような効果がある。
(1)容器本体の底部の外壁面にポッチを囲繞する突起部を形成したので、容器を積重ねても前記ポッチによりカバー体に孔が開くことがない。
(2)またポッチの部位が突起部により強化されるので、「ヒビ」割れが生じない。」(明細書 5頁1?8行)

1g.「

」(第1図、第2図、第2図)

1h.「

」(第4図、第5図)

(3-4)刊行物に記載の発明
引用文献1には、上記摘示事項1a?1f、特に上記摘示事項1e及び1gの記載からみて、
「底部に糸底を有する半透明の合成樹脂製容器本体であって、射出成型時にゲートにできるライナーをもぎ取った後に底部の外壁面中央に生じるギザギザしたポッチ、このポッチを囲繞する周壁状の突起部を有しているゼリー、ジャム、プリンなどの半流動体用の合成樹脂製容器本体。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3-5)対比
本願補正発明と引用発明とを、対比する。
引用発明の「底部」及び「糸底を有する半透明の合成樹脂製容器本体」は、上記摘示事項1e及び1gからみて、本願補正発明における「円形状の底壁」、「この底壁の周縁部から上方及び下方に向けて延びる円筒状の周壁から構成されたカップ状に形成されたインジェクション成形品」に相当している。
引用発明の「合成樹脂製容器本体」は、上記摘示事項1eから、射出成形されていることは明らかである。
引用発明の「射出成型時にゲートにできるライナーをもぎ取った後に底部の外壁面中央に生じるギザギザしたポッチ」は、本願補正発明における「底壁の中央部のゲート跡部」に相当することも明らかである。
引用発明の「このポッチを囲繞する周壁状の突起部」は、上記摘示事項1e及び1gから、本願補正発明における「ゲート跡部を囲むように管状の補強リブが底壁の外面からその下端が前記周壁の下端までは達しない位置まで下方に突出して」いる「補強リブ」に相当している。
そして、引用発明における「ゼリー、ジャム、プリンなどの半流動体用の」合成樹脂製容器本体は、食物収納用の容器であって、本願出願時におけるこのような容器の一般的な形状は、底壁の最長の径または対角線Dと高さHとの比H/Dが0.5?3の範囲であり、容積が100?500ccの範囲内のものといえることから、引用発明における容器が「底壁の最長の径または対角線Dと高さHとの比H/Dが0.5?3であるとともに容積が100?500ccである」食物収納用の容器であることは明らかといえる。
また、本願補正発明の「飲料物収納用」のインジェクション成形品も、食物収納用のインジェクション成形品といえる。

そうすると、本願補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、

「合成樹脂より成り円形状の底壁とこの底壁の周縁部から上方及び下方に向けて延びる円筒状の周壁から構成されたカップ状に形成された食物収納用のインジェクション成形品であって、射出成形されており、底壁の中央部にゲート跡部を有しており、前記ゲート跡部を囲むように環状の補強リブが底壁の外面からその下端が前記周壁の下端にまでは達しない位置まで下方に突出しており、底壁の最長の径または対角線Dと高さHとの比H/Dが0.5?3であるとともに容積が100?500ccであるインジェクション成形品。」

で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
成形に用いられる合成樹脂について、本願補正発明においては、「固有粘度が0.5?0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート」と特定されているのに対して、引用発明においては、特に規定されていない点。

<相違点2>
成形品の底部の形状に関し、本願補正発明においては、「そのゲート跡部の上部は底壁の内面から上方に突出しており、その突出した部分はドーム状を呈しており」と特定するのに対して、引用発明においては、底部の内壁面は平坦である点。

<相違点3>
食物収納用の具体的な用途に関し、本願補正発明においては、「飲料物収納用」と特定されているのに対して、引用発明においては、「ゼリー、ジャム、プリンなどの半流動体用」である点。

(3-6)判断
相違点1について
射出成形に利用する樹脂の性質については、成形品の具体的な形状条件のほかに、成形時の金型温度、射出圧力等の成形条件により求められる性質が大きく変化することは出願時におけるその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)の技術常識である。
そして、射出成形に利用する樹脂として、固有粘度が0.5?0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートは周知であって(特開昭56-145943号公報、特開昭57-96038号公報(いずれも、先の拒絶理由通知において周知文献として提示されている)参照のこと)、ポリエチレンテレフタレート樹脂が、耐熱性、耐候性、耐薬品性、機械特性に優れており、食品容器用の樹脂として利用されていることは本願出願時の当業者の技術常識といえることから、成形品の求める特性に応じて、成形に利用する樹脂を、射出成形に適した固有粘度が0.5?0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートとすることは、当業者が容易になし得たことと認める。

相違点2について
底壁の中央部に設けたゲートから樹脂を射出形成するカップ状の容器において、射出時の樹脂の流動性の向上のために、「ゲート跡部の上部は底壁の内面から上方に突出しており、その突出した部分はドーム状を呈し」た形状とすることは周知(特開平4-371947号公報(先の拒絶理由通知における引用文献1)、特開平2-219734号公報(原審における引用文献)、上記摘示事項1c及び1h参照のこと)であるから、必要性等に応じて当業者が適宜行い得たものである。

相違点3について
引用発明の用途も本願発明の用途も食物収納用容器であることに変わりないから、該用途を特定しても本願発明のインジェクション成形品を構成する物の発明としての技術的な限定事項に差異はなく、本願発明のインジェクション成形品としての容積及び形状(底壁の最長の径または対角線Dと高さHとの比H/D)についても重複しているのであるから、インジェクション成形品という本願発明においては、相違点3は実質上の相違点とはいえない。
また、相違点であったとしても、半流動体を収納する食物収納用容器を飲料用容器とすることに困難性はなく、当業者が容易になしえたことと認められる。

以下、本願補正発明の効果について検討する。
「固有粘度が0.5?0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート」を利用することにより「ヒケやショートショット等の成形不良が生じにくく、かつ短い成形サイクルで成形することができるので、成形性が良好」(本願明細書段落【0021】)となる点、及び、「ゲートから最も遠い周壁の上端部で樹脂収縮による成形不良を・・有効に抑えることができる」(本願明細書段落【0007】)という効果については、本願出願時において、当業者は射出成形に利用する樹脂の固有粘度を調整することで、成形時の流動性が変化し、成形性の向上を図ることができることが周知の技術事項であることから、当業者が周知技術から予測しうる効果といえる。また、固有粘度の数値範囲については、本願補正発明において、成形時の金型温度、射出圧力等は特定していないことから、固有粘度として特定している0.5?0.65dl/gという数値範囲には臨界的な意義は認められないから、その数値範囲をとることによる格別な効果も認めることはできない。
ゲート跡部の形状を限定することにより「落下時にカップ容器1内に収容された飲料物によって与えられる衝撃荷重を全周方向に分散することができる。また、射出成形時に樹脂の流動性が良くなり、成形性が向上する」(本願明細書段落【0013】)という効果については、成形性の向上については、「容器外側の底面中央部にゲートを設は射出成形される容器においては、成形時の射出圧の圧力損失を防止し成形性を改善する目的で、ゲートの反対側(容器内側)に第4図の如く凸部を設けることもしばしば行われている」(特開平2-219734号公報の2頁左上欄)とあるように周知の効果であり、「衝撃荷重を全周方向に分散する」ことについては、当業者においては、ゲート跡部形状から自明なものといえ、当業者の予測の範囲内である。
特定形状の補強リブを備えることにより「飲料物を充填した状態で落下した際に飲料物によって底壁1bに与えられる衝撃荷重により底壁1bにクラックが生じにくくなり、耐落下衝撃性が向上する。」(本願明細書段落【0014】)という効果については、引用文献1の上記摘示事項1fの記載からみて、当業者が引用文献1から予測し得たことである。
さらに、本願明細書には記載がないが、審判請求人が特有の効果と主張している「補強リブの下端突出位置が周壁の下端にまでは達しない位置までとしており「インジェクション成形品は最下端となる周壁下端にてテーブル等に接触するので、補強リブがテーブル等と接触することがなく、インジェクション成形品を安定して置くことができ、飲料物を充填した状態で落下した際に、補強リブが直接地面等に接触して衝撃を受けることを防止できる」点についても、引用文献1の上記摘示事項1fの記載から、当業者が予測し得たものであるし、当業者にとっては、ゲート跡部の具体的な形状に基づく自明な効果にすぎないものである。
したがって、本願補正発明の効果として格別なものがあるとすることはできない。

なお、成形材料としてポリエチレンテレフタレートを利用し、金型温度を高温とした射出成形は、本願出願時において周知であって、そのような高温の射出成形方法を利用したポリエチレンテレフタレートの成形においては、審判請求人が本願明細書において記載のヒケやショートショット(充填不良)等の問題点自体が存在しないものであるから、本願補正発明で特定している具体的な形状と本願明細書に記載の発明が解決しようとする課題との間に技術的な関係は認められないものであり、容器の形状自体が周知であることからみても、本願補正発明に特許性は認められないというべきである。

(3-7)まとめ
よって、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3.補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
平成23年4月4日提出の手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成19年10月30日提出の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであり、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」ともいう。)は次のとおりである。なお、平成20年6月5日付け手続補正については、当審において決定をもって却下されている。

「【請求項1】ポリエチレンテレフタレートより成るカップ状に形成されたインジェクション成形品であって、固有粘度が0.5?0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートによって射出成形されており、底壁の中央部にゲート跡部を有しており、そのゲート跡部の上部は底壁の内面から上方に突出しており、その突出した部分はドーム状を呈していることを特徴とするインジェクション成形品。」

第4.当審において通知した拒絶理由の概要
当審において通知した、平成23年2月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、以下のとおりである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・・・
1.本願発明1?4に対して :理由1)特許法第29条2項
(1)刊行物
刊行物:特開平4-371947号公報
・・・」

第5.当審の判断
1.刊行物の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物であることが明らかな特開平4-371947号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

2a.「ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて構成されたことを特徴とするフィルム収納容器本体。」(特許請求の範囲の請求項1)

2b.「【発明の開示】本発明の目的は、透明性(意匠性)が高く、しかもフィルム保存性に富み、さらにはフィルム取出後の廃棄処理も簡単なフィルム収納容器本体を提供することである。この本発明の目的は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて構成されたことを特徴とするフィルム収納容器本体によって達成される。」(段落 【0004】)

2c.「尚、フィルム収納容器本体を構成するポリエチレンテレフタレート樹脂は光線透過率が80%以上のものであることが好ましく、又、フィルム収納容器本体を構成するポリエチレンテレフタレート樹脂は、引っ張り強さ2.5kg/mm^(2)以上、引張伸び130%以上、融点260℃以上、加熱収縮率1.3%以下、密度1.3?1.45g/cm^(3)、吸水率0.7%以下、水蒸気透過率21g/m^(2)/24時間以下の特性を有するものであることが好ましく、このようなものとして、例えばダイアホイルO-♯12、O-♯16、O-♯25、テイジンテトロン、フィルムOタイプ、GSタイプ(帝人)、ルミラーP11、Q27(東レ)、エンブレットKPT12、PET12(ユニチカ)、エステルE5100、E5001(東洋紡績)、メリネックス393、505(ICIジャパン)が有る。・・・
上記のような樹脂を用いてフィルム収納容器本体を成型するに際して、導電性物質や界面活性剤等の各種帯電防止剤、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド等の脂肪酸化合物、高級アルコール、脂肪酸エステル、ワックス等の各種滑剤、酸化防止剤などが用いられる。例えば、射出成形性、特に樹脂の流動性を向上させ、又、ブリードアウトする性質を利用して表面に薄い膜を形成することにより、表面に傷が付きにくくすると共に、滑り易くし、金型からの離型性を向上させ、さらに静電気発生を防止したり、容器本体同士がブロッキングするのを防止したりする為に、例えばオレイン酸アミド系滑剤、エルカ酸アミド系滑剤、ステアリン酸アミド系滑剤、ステアリルエルカ酸アミド系滑剤、ビス脂肪酸アミド系滑剤、ベヘニン酸アミド系滑剤などの脂肪酸アミド系滑剤が添加される。滑性効果の大きいオレイン酸アミド系滑剤の場合、添加量は0.01?1.0重量%用いれば良い。」(段落 【0005】?【0007】)

2d.「上記のような樹脂を用いて、図1に示す如くのフィルム収納容器本体1は、一重積金型を用いる射出成形方法の外、インジェクションブロー成形法、金型内真空射出成形法やスタックモールド等の多段金型を用いる射出成形法を用いて成型される。尚、図1中、2は肉厚が0.4?1.3mmの円筒状の側壁部、3は中央部が盛り上がり状の肉厚が1.0?1.6mmの底面部、4は側壁部2の上端部外側に形成されたリブである。」(段落 【0010】)

2e.「【実施例】
〔実施例1〕ポリエチレンテレフタレート(東レ製、ルミラー#250)フィルムを0.5mm四方に裁断し、日本製鋼所製射出成形機(J-150P)に投入し、溶融温度270℃、射出圧力1500kg/cm^(2)で、図1に示されるような135mmフィルム用の収納容器本体を成形した。」(段落 【0012】)

2f.「

」(4頁の図1)

2.引用文献2に記載された発明
引用文献2の上記摘示事項2.?2eの記載からみて、引用文献2には、
「ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて構成された、円筒状の側壁部、中央部が盛り上がり状の肉厚が1.0?1.6mmの底面部からなる射出成形機により成形されたフィルム用の収納容器本体。」に係る発明(以下、「引用文献2発明」という。)が記載されていると認められる。

3.対比・判断
本願発明1と引用文献2発明とを対比する。
引用文献2発明における「ポリエチレンテレフタレート樹脂」、「射出成形機により成形されたフィルム用の収納容器本体」は、本願発明1の「ポリエチレンテレフタレート」、「カップ状に形成されたインジェクション成形品」に相当する。
引用文献2発明における「中央部が盛り上がり状の肉厚が1.0?1.6mmの底面部」は、本願発明1の「底壁の内面から上方に突出しており、その突出した部分はドーム状を呈して」いる形状といえることは明らかである。
そうすると、両者は、

「ポリエチレンテレフタレートより成るカップ状に形成されたインジェクション成形品であって、ポリエチレンテレフタレートによって射出成形されており、底壁の内面から上方に突出しており、その突出した部分はドーム状を呈している、インジェクション成形品。」

で一致し、以下の点で相違している。

<相違点4>
成形されるポリエチレンテレフタレートに関して、本願発明1においては「固有粘度が0.5?0.65dl/g」と特定されているのに対して、引用文献2発明においては、その規定がない点。

<相違点5>
ゲート位置に関して、本願発明1においては「底壁の中央部にゲート跡部を有しており」とされ、「そのゲート跡部の上部は底壁の内面から上方に突出しており」と特定されているのに対して、引用文献2発明においては、この点について記載がない点。

以下、相違点について検討する。
相違点4について
射出成形に利用する樹脂の性質については、成形品の具体的な形状条件のほかに、成形時の金型温度、射出圧力等の成形条件により求められる性質が大きく変化することは出願時における当業者の技術常識である。そして、本願発明1においては、成形時の金型温度、射出圧力等は特定していないことから、固有粘度として特定している0.5?0.65dl/gという数値範囲には、臨界的な意義は認められないものである。
ポリエチレンテレフタレートを射出成形で成形する場合に、利用するポリエチレンテレフタレートの固有粘度としては、0.5?0.65dl/gは通常に行われている数値(例えば、特開昭57-96038号公報の実施例の記載、特開昭56-145943号公報の実施例2)であること、ポリエチレンテレフタレートの射出成形においては金型温度に依存して成形性が変化することから、固有粘度を適宜調整することが技術常識であること(先の周知文献である特開昭57-96038号公報の実施例の記載、特開昭56-145943号公報参照)にかんがみれば、相違点4については、具体的な成形形状、成形条件等に応じて、当業者が適宜設定し得た設計事項である。

相違点5について
引用文献2発明の「フィルム収納容器」の形状の射出成形を行う場合には、樹脂流動特性からみて容器の底面中央部にゲートを設けることが一般的といえる。そして、容器の底面中央部にゲートを設けた場合に、成形時の射出圧の圧力損失を防止し、成形性を改善する目的で、ゲートの反対側に凸部を設けることも周知(特開平2-219734号公報の2頁左上欄参照)であることを勘案すれば、引用文献2発明におけるゲート位置は、中央部が盛り上がっている底面部の中央部に設けられていると認められるから、相違点5は実質的な相違点ではない。
また、そうでないとしても、上記周知技術に基いて当業者が容易になし得たことである。

そして、その効果について検討しても、引用文献2に記載の事項から当業者の予測の範囲内のものであって、格別なものとはいえない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての当審において通知された平成23年2月4日付けの拒絶の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-28 
結審通知日 2011-05-10 
審決日 2011-05-23 
出願番号 特願平10-317150
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (B29C)
P 1 8・ 121- WZ (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 健史保倉 行雄増田 亮子  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
大島 祥吾
発明の名称 インジェクション成形品  
代理人 金山 聡  

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