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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
管理番号 1240093
審判番号 不服2008-26799  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-20 
確定日 2011-07-12 
事件の表示 平成 9年特許願第217967号「構造部品接合のための封着および接着方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 6月16日出願公開、特開平10-158592〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成9年7月28日(優先権主張:1996年8月9日(優先日)、ドイツ連邦共和国)の特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成18年10月12日付け 拒絶理由通知
平成19年 4月23日 意見書・手続補正書
平成20年 7月11日付け 拒絶査定
平成20年10月20日 本件審判請求
平成20年11月18日 手続補正書(審判請求理由補充書)
同日 手続補正書
平成20年11月19日 手続補正書
平成20年12月 1日付け 前置審査移管
平成20年12月 2日付け 通知書
平成21年 2月23日付け 前置報告書
平成21年 7月 3日付け 前置審査解除
平成22年 3月29日付け 審尋
平成22年 4月21日 回答書
平成22年 6月15日付け 補正の却下の決定
同日付け 拒絶理由通知
平成22年10月26日 意見書・手続補正書
(なお、平成20年11月18日付け手続補正書(受付番号50802438215)については、上記平成20年12月2日付け通知書において通知した理由により、返戻された。また、上記平成22年6月15日付けの補正の却下の決定をもって、平成20年11月19日付けの手続補正が却下された。)

第2 平成22年6月15日付け拒絶理由通知について
当審は、平成22年6月15日付けで拒絶理由を通知したが、その拒絶理由通知書の内容の概略は以下のとおりのものである。

「第1 手続の経緯
・・(中略)・・
第2 平成20年11月19日付け手続補正について
本件拒絶理由通知と同日付けの補正の却下の決定により、平成20年11月19日付けの手続補正は却下されることとなった。
その却下理由は以下のとおりである。

<補正の却下の理由>
I.補正の内容
・・(中略)・・
II.補正事項に係る検討
・・(中略)・・
3.独立特許要件
上記手続補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、新請求項1ないし10に記載された事項で特定される発明(以下、各請求項に記載された事項で特定される発明を、項番に従い「本件補正発明1」?「本件補正発明10」といい、まとめて「本件補正発明」ということがある。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かにつき検討すると、下記の理由により、本件補正発明1ないし10が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

理由1:上記手続補正後の本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項に規定の要件を満たしていない。
理由2:本件補正発明1、2及び4ないし10は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



(1)上記理由1について
・・(中略)・・
参考文献1:社団法人高分子学会編「プラスチック加工技術ハンドブック」1995年6月12日、日刊工業新聞社発行、第433?451頁(特に第444?449頁「表5.3」及び第450頁「(4)モニタリング」の欄)及び第628頁
・・(中略)・・
(2)上記理由2について

刊行物:
1.特開昭50- 25640号公報
(以下、上記「刊行物1」を「引用例1」という。)
・・(中略)・・
ウ.理由2についてのまとめ
したがって、本件補正発明1、2及び4ないし10は、上記引用発明及び上記当業界の周知(慣用)技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(3)独立特許要件に係るまとめ
以上のとおり、上記(1)のとおり、上記手続補正後の本願は、特許請求の範囲第1項ないし第10項(新請求項1ないし10)の記載が不備であり、平成18年改正前の特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、同法第49条第4号の規定に該当し、拒絶すべきものであるとともに、上記(2)のとおり、本件補正発明1、2及び4ないし10は、いずれも特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、いずれにしても、本件補正発明1ないし10は、いずれも特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

III.まとめ
以上のとおりであるから、上記手続補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項で読み替えて準用する平成18年改正前の特許法第126条第5項に違反する補正であるから、平成18年改正前の特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願について

1.本願に係る発明
平成20年11月19付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は平成19年4月23日付け手続補正により補正された本願明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりの下記のものである。
・・(中略)・・
(以下、請求項の項番にしたがい、「本願発明1」?「本願発明10」といい、併せて「本願発明」ということがある。)

2.拒絶理由
しかるに、本願は以下の拒絶理由を有するものである。

理由1:本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項に規定の要件を満たしていない。
理由2:本願発明1、2及び4ないし10は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



(1)理由1について
・・(中略)・・

(2)理由2について

刊行物:
1.特開昭50- 25640号公報
(上記第2のII.3.(2)で示した「引用例1」)

上記第2で示した「新請求項1」ないし「新請求項10」は、項番で対応する本願請求項1ないし10の各項に記載された事項を全て発明特定事項としてそれぞれ含むものであり、さらに、新請求項1において限定を加えて特許請求の範囲を減縮したものである。
してみると、上記第2のII.3.(2)で説示した理由により、本件補正発明1、2及び4ないし10は、いずれも引用発明及び当業界の周知(慣用)技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえるのであるから、本願発明1、2及び4ないし10についても、上記第2のII.3.(2)で説示した理由と同一の理由により、いずれも引用発明及び当業界の周知(慣用)技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。」

第3 本願について
当審の上記拒絶理由通知に対して、指定期間内に意見書及び手続補正書が提出されたので、上記「理由2」につき、さらに検討を行う。

1.本願に係る発明
本願に係る発明は、平成19年4月23日付け及び平成22年10月26日付けの各手続補正により補正された明細書(以下「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、当該請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。

「接合すべき二つの金属製構造部品の平面である接合面を封着および/または接着する方法であって、
(a)前記接合面の少なくとも一方にノッチを設け、そして該ノッチに少なくとも一つの充填開口とさらに少なくとも一つの通気孔を設け、
(b)前記二つの構造部品をそれらの接合面において所望の配向に合体し、
(c)前記ノッチが封着剤または接着剤で実質上完全に充填されるまで、加圧下であって、かつ施用量制御下に前記ノッチへ前記充填開口を通って流体封着剤または接着剤を注入することを特徴とする前記方法。」
(以下、「本願発明」という。)

2.引用例等に記載された事項
上記拒絶理由通知で引用した本願に係る優先日前に頒布された刊行物である「引用例1」及び「参考資料1」には、以下の事項が記載されている。

(1)引用例1に記載された事項
上記引用例1には、以下の事項が記載されている。

(ア-1)
「結合しようとする母材と被結合部材の間に一連の凹溝と注入口を設け、構造用接着剤を注入ガンにより上記凹溝内に注入充填して結合させることを特徴とする金属製構造体の接着方法。」(第1頁左下欄、特許請求の範囲)

(ア-2)
「この発明は上記の様な問題点を解決するために提案されたもので、即ちこの発明は、結合されるべき部材の結合面に一連の凹溝を設け、結合時、仮止め(クランプ又は点溶接)し、予め設けられた注入口(作業のしやすいところに設けておく)より、ガンにより構造用接着剤を注入し、塗装の熱風炉等で硬化させるようにしたものである。」(第2頁左上欄第10行?第17行)

(ア-3)
「以下この発明の実施例を図面について説明すると次の通りである。
・・(中略)・・
何れの場合も、母材(11)の所定個所に被結合部材(10)を適当なクランプ部材(図示せず)により予めクランプさせておき、又は、スポツト溶接等によりいわゆる仮止めした状態で注入口(14)から接着剤注入ガン(15)により接着剤を凹溝(12)内に注入充填する。
使用する接着剤としては金属と金属との接着に使用されるエポキシ樹脂系接着剤等、いわゆる構造用接着剤を使用し、その動粘性乃至流動性を利用して注入口(14)から凹溝(12)の全域に注入充填させるものである。」(第2頁左上欄第18行?右上欄第20行)

(ア-4)
「以上説明した様にこの発明は結合しようとする母材と被結合部材の間に一連の凹溝と注入口を設け、構造用接着剤を注入ガンにより上記凹溝内に注入充填して結合させるものであるから、構造条件、工程条件等による従来技術の制約が緩和でき、この制約より受ける部材構造、部材形状の簡素化を可能とすることができ、自動車ボデーのような金属製構造体の結合に使用し、その結合強度と作業性を著しく改善し得るものである。」(第3頁左上欄第9行?第18行)

(ア-5)第4図、第5図及び第6図(第4頁左上欄)





(2)参考文献1に記載された事項
上記参考文献1には、以下の事項が記載されている。

(イ-1)
「(4)モニタリング
各成形品に要求される最終品質を,インプロセスで直接モニタリングすることは,ほとんどの場合不可能である.したがって,品質と相関の強い成形要因をモニタリングする方法が一般的である.
樹脂の温度・圧力挙動をまずモニターすべきであるが,これらの挙動の異常と成形機の動作をモニタリングして,両者の関係をとらえることが肝要である.モニタリング可能な成形機の動作としては,金型開き量,クッション量,充てんストローク,射出圧力,充てん時間,計量時間,計量速度,計量駆動圧力,1サイクル時間,射出速度などがある.
そのほかに成形機の稼働状態を監視する稼働モニタリング,生産進度を監視する生産進度モニタリングなどがある.」(第450頁第16行?第26行)

(イ-2)
「5.5.8 ガスベント(ガス抜き)
樹脂をキャビティーに充てんするとき,可塑化中に発生したガスも一緒にキャビティーに入る.キャビティーにはすでに存在する空気と,このガスが樹脂の充てんを妨げる.ガスはキャビティーあるいは入子間にデポジットと呼ばれる堆積物を生成し,金型腐食の原因となるばかりか成形物表面の品質低下を招く.空気の残留は不充てん部分(ショートショット)や気泡(エアトラップ)をひき起こす.・・(中略)・・そこでガスや空気を確実にかつ早くキャビティーから排除するため,キャビティー外周縁のPL面あるいは入子間に,空気・ガスの逃がし溝を設ける.・・(中略)・・このような目的の溝をガスベントあるいはエアベントという.ガスベントは樹脂流動に押されて空気が集中する部分に付ける場合と,できる限り広範囲に外周縁に付けるものがある.」(第628頁第1行?第13行)

3.当審の判断

(1)引用例1に記載された発明
引用例1には、「結合しようとする母材と被結合部材の間に一連の凹溝と注入口を設け、構造用接着剤を注入ガンにより上記凹溝内に注入充填して結合させることを特徴とする金属製構造体の接着方法」が記載され(摘示(ア-1)参照)、当該「接着剤」の注入充填の前に、あらかじめ「母材」と「被結合部材」とをクランプ仮止めしておくことも記載されている(摘示(ア-2)及び(ア-3)参照)。
そして、「母材」と「被結合部材」の接着における結合する面は、「凹溝」の部分以外がそれぞれ「平面」であることも記載されている(摘示(ア-5)参照)。
また、「接着剤」の「注入充填」が、「注入ガン」により「注入口」から「一連の凹溝」内へ行われ、「凹溝」の全域に充填することも記載されている(摘示(ア-3)参照)。
なお、技術的常識からみて、「接着剤」の「注入充填」が、「注入ガン」により行われる場合、外圧に対して高い圧力で、すなわち「加圧下」で「接着剤」が注入されることは、当業者に自明である。
してみると、上記引用例1には、上記摘示(ア-1)ないし(ア-5)からみて、
「あらかじめ仮止めされている結合しようとする母材と被結合部材の平面である結合面の間に一連の凹溝と注入口を設け、構造用接着剤を上記注入口から凹溝内の全域に加圧下で注入充填して結合させることを特徴とする金属製構造体の接着方法」
に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(2)検討

ア.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「結合しようとする母材と被結合部材」は、引用発明が「金属製構造体の接着方法」であることからみて、本願発明における「接合すべき二つの金属製構造部品」に相当することが明らかである。
また、引用発明における「一連の凹溝」及び「注入口」は、本願発明における「ノッチ」及び「充填開口」に相当することも明らかである。
そして、引用発明における「結合しようとする母材と被結合部材の平面である結合面の間に一連の凹溝と注入口を設け」は、「母材」又は「被結合部材」の少なくとも一方の結合面に「凹溝」を設けており、当該「凹溝」に連通するように「注入口」を設けていることを意味するといえるから、本願発明における「(a)前記接合面の少なくとも一方にノッチを設け、そして該ノッチに少なくとも一つの充填開口・・を設け」に相当する。
また、引用発明における「あらかじめ仮止めされている結合しようとする母材と被結合部材」は、「母材」と「被結合部材」とが所望の位置で双方の結合面を介して合一化されたものといえるから、本願発明における「(b)前記二つの構造部品をそれらの接合面において所望の配向に合体し、」に相当する。
さらに、引用発明における「構造用接着剤を・・上記注入口から凹溝内の全域に注入充填して」は、上記構造用接着剤が凹溝内全域に完全に充填されることが明らかであるから、本願発明における「(c)前記ノッチが封着剤または接着剤で実質上完全に充填されるまで、加圧下・・に前記ノッチへ前記充填開口を通って流体封着剤または接着剤を注入する」に相当する。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「接合すべき二つの金属製構造部品の平面である接合面を接着する方法であって、
(a)前記接合面の少なくとも一方にノッチを設け、そして該ノッチに少なくとも一つの充填開口を設け、
(b)前記二つの構造部品をそれらの接合面において所望の配向に合体し、
(c)前記ノッチが封着剤または接着剤で実質上完全に充填されるまで、加圧下に前記ノッチへ前記充填開口を通って流体封着剤または接着剤を注入することを特徴とする前記方法。」
に係る点で一致し、下記の2点でのみ相違している。

相違点1:接着剤の注入(充填)につき、本願発明では、「加圧下であって、かつ施用量制御下に」行うのに対し、引用発明では、「加圧下で」行う点
相違点2:本願発明では、「ノッチに・・さらに少なくとも一つの通気孔を設け」るのに対して、引用発明では、「凹溝」に通気孔を設けることに係る特定がない点

イ.各相違点に係る検討

(ア)相違点1について
上記相違点1につき検討するにあたり、まず「施用量制御下に」なる事項につき検討する。
上記「施用量制御」は、審判請求人が平成22年10月26日付け意見書において、「「施用量制御」とは、合議体が認定するように、・・所望の施用量を得るための圧力が要求圧力を外れた場合や与えられた圧力において所望の施用量を外れた場合は、問題が生じたことを示すものとして封着剤の注入を停止等することができる制御である」(意見書「2.」「イ.特許請求の範囲の明確性(特許法第36条第6項第2号)について」の欄)と主張し、また、上記参考文献1(上記摘示(イ-1)参照)にも記載されているとおり、「閉鎖空間に溶融樹脂などの流体を加圧下で注入・充填する際に、流入物の(抵抗)圧力などをモニタリングしつつ、そのモニターされた測定値などに基づき注入条件などを制御」することであるといえる。
してみると、上記「施用量制御下に」は、「閉鎖空間に溶融樹脂などの流体を加圧下で注入・充填する際に、流入物の(抵抗)圧力などをモニタリングしつつ、そのモニターされた測定値などに基づき注入条件などを制御しつつ」注入・充填を行うことであるといえる。
そこで、上記相違点1につき検討すると、上記参考文献1(上記摘示(イ-1)参照)にも記載されているとおり、閉鎖空間に溶融樹脂などの流体を加圧下で注入・充填する際に、流入物の(抵抗)圧力などをモニタリングしつつ、そのモニターされた測定値などに基づき注入条件などを制御しつつ、注入・充填を行うことは、当業界の周知(慣用)技術であるから、引用発明において、接着剤の注入を「加圧下で」行うにあたり、当該当業界の周知(慣用)技術に基づいて、注入状況((抵抗)圧力など)をモニタリングしつつ、注入量などを制御して、すなわち、「施用量制御下に」接着剤の注入を行うことは、当業者が適宜なし得ることである。

(イ)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、上記参考文献1(上記摘示(イ-2)参照)にも記載されているとおり、閉鎖空間に流体を加圧下で注入・充填するにあたり、閉鎖空間内に存する空気等を排出するために外部に連通するエアベント(本願発明でいう「通気孔」に相当するものといえる。)を設けることは、当業者の技術的常識であるから、引用発明において、流体である接着剤の凹溝への注入・充填にあたり、凹溝なる閉鎖空間内に存する空気等を排出するためにさらに凹溝と外部とを連通する通気孔を設けること、すなわち、本願発明でいう「ノッチに・・さらに少なくとも一つの通気孔を設け」ることは、当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)本願発明の効果について
本願発明の効果につき検討すると、本願明細書(特に【0007】)に記載された本願発明の解決課題からみて、その効果は、「部品の事前組立が許容されるように部品を合体する前の待ち時間が回避される」及び「接合面への封着剤の接着が改善される」などであるものといえる。
それに対して、引用発明においても、「構造条件、工程条件等による従来技術の制約が緩和でき、この制約より受ける部材構造、部材形状の簡素化を可能とする」及び「金属製構造体の結合に使用し、その結合強度と作業性を著しく改善し得る」などの効果を奏するものである(上記摘示(ア-4)参照)。
してみると、本願発明の効果は、引用発明のものから、当業者が予期し得ない格別顕著なものであるとはいえない。

ウ.小括
したがって、本願発明は、引用発明及び上記当業界の周知(慣用)技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、上記平成22年10月26日付け意見書において、
「引用例1の中には、本願の補正後の新請求項1のように、「ノッチが封着剤または接着剤で実質上完全に充填されるまで、加圧下であって、かつ施用量制御下に・・・流体封着剤または接着剤を注入する」技術については記載も示唆もされていない。
すなわち、合議体は、拒絶理由2の中で『接着剤の注入を注入ガンより行い、注入ガンの流出口から行うにあたり、注入する「凹溝」内の圧力よりも高い圧力で接着剤を流出させないならば実質的に注入することが不可能であることが当業者に自明であるから、引用発明における注入ガンによる接着剤の注入においても「加圧下に」行っているものといえる。』と認定するが、かかる認定には誤りがある。
補正後の新請求項1に係る発明において、「加圧下に・・・流体封着剤または接着剤を注入する」とは、本願明細書の段落[0016]及び[0039]において支持され、かつ補正後の新請求項1に記載されているとおり、封着剤がノズルを出た後も、ノッチ内を実質上完全に充填するまで、封着剤をノッチ内において加圧下に注入及び充填することを意味する。
すなわち、本願発明の接着方法では、構造部品のノッチへ(適当な圧力損失を有する)空気を排出するための通気孔を設けること(補正後の新請求項1参照)、または通気孔の外側から圧力を加えること(補正後の新請求項2参照)などにより、封着剤と接するノッチ内の空気に適当な圧力を付与し、これにより、ノズルを出た後の封着剤もノッチ内を実質上完全に充填するまで、ノッチ内において加圧下で注入及び充填できるようにしている。
この結果、本願発明では、施用量制御下による注入及び充填効果と相俟って、封着剤がノッチ内の小さな表面凹凸(表面粗さ)や隙間へもれなく侵入するのを可能にすると共に、それらの中に存在する空気を効果的に排除し、望ましくない空気混入および封着剤の不均一分布を防止した封着剤の注入及び充填を可能にしている(段落[0010],[0015]参照)。
一方、これに対し引用例1に記載の接着方法では、被結合部材の凹溝内へ注入される接着剤は、注入ガンから排出される時、注入ガンの内部においてのみ加圧されるのであって、注入ガンから排出された後は凹溝の中で大気(圧)へ開放されるので、凹溝内においても加圧下で注入及び充填されることはない。それ故、引用例1に記載の接着方法は、「ノッチが封着剤または接着剤で実質上完全に充填されるまで、加圧下に・・・流体封着剤または接着剤を注入する」ものではない。
さらに、引用例1に記載の接着方法では、凹溝へ注入された接着剤は、凹溝の流出口からはみ出したことを確認することにより、凹溝に接着剤が充填されたか否かを判断するものであるので(引用例6の第2頁左下欄第4行-10行目及び図6,右下欄第10行-19行目及び図10,11参照)、補正後の新請求項1に係る発明のように「ノッチが封着剤または接着剤で実質上完全に充填されるまで、施用量制御下に・・・流体封着剤または接着剤を注入する」こともできない。そのため、引用例1に記載の接着方法では、接合部品に亀裂が生じているような場合、空気混入による気泡のない接着剤の注入および部品の接合を達成することができない。
このように、引用例1には、注入ガンから凹溝内へ注入した接着剤を凹溝の中において、「凹溝(ノッチ)が封着剤または接着剤で実質上完全に充填されるまで、加圧下であって、かつ施用量制御下に・・・注入する」技術については記載も示唆もされていない。それ故に、補正後の新請求項1に係る発明は、引用例1および当業界の周知(慣用)技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。」(意見書「3.拒絶理由2について」の欄)と主張している。

しかるに、本願明細書の「封着剤は、好ましくは接合面への封着剤の接着が改善されるようにノッチ中へ加圧下に導入される。この圧力は封着剤の流動性の関数とし選定され、そしてノッチの充填において制御し、調節することができる。」(【0016】)及び「部品を合体後、すなわち蓋10を接続片20へねじ固着した後、封着および/または接着剤がノッチ中へ加圧下圧入される。」(【0039】)なる記載からみて、本願発明に係る当該「加圧下」は、封着剤のノッチ内への導入・圧入に係る圧力であって、ノッチ内の空気の圧力に係るものと解することができない。
また、本願発明において、ノッチ内の空気に対して意図的な別途の加圧を行わない場合、封着剤の注入開始時点では、ノッチ内の空気は実質的に大気圧となっており、加圧状態ではないことが当業者に自明である。
さらに、ノッチ内に存在する空気は、圧入する封着剤に比して極めて低粘性の流体であるから、技術的常識からみて、通気孔が微小なもの(流路断面積が微小なもの)であっても、圧入される封着剤の流入(体積)速度に比して極めて大きな流出(体積)速度で当該通気孔からノッチ内の空気が流出するものと解するほかはなく、本願発明の場合においても、ノッチ内の空気の圧力の有意な上昇があるものと解することができない。
(なお、仮に、ノッチ内の空気圧が有意に上昇するのであれば、ピエゾ抵抗圧力センサーを有する(注入)ノズルで検出する抵抗圧力も経時的に上昇し、注入終点とすべき抵抗圧力しきい値の決定、すなわち本願発明でいう「施用量制御」が困難である。)
してみると、審判請求人の上記意見書における主張は、特許請求の範囲を含めた本願明細書の記載に基づかないものであるか、技術的根拠を欠くものであるから、いずれにしても当を得ないものであり、当審の上記(2)の検討結果を左右するものではない。

(4)当審の判断のまとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び上記当業界の周知(慣用)技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 結び
以上のとおり、本願の請求項1に記載された事項で特定される発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、本願は、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-28 
結審通知日 2011-02-08 
審決日 2011-02-21 
出願番号 特願平9-217967
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 油科 壮一安藤 達也  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
松本 直子
発明の名称 構造部品接合のための封着および接着方法  
代理人 赤岡 迪夫  

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