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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60J
管理番号 1240135
審判番号 不服2010-5635  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-15 
確定日 2011-07-13 
事件の表示 特願2004-239629号「自動車用熱可塑性エラストマー製グラスランチャンネル」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 2日出願公開、特開2006- 56363号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年8月19日の出願であって、平成21年12月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月15日に審判請求がなされた後、当審において拒絶理由通知がなされ、それに対する手続補正書が平成23年3月7日付けで提出されたものである。
本願の請求項に係る発明は、同平成23年3月7日付けの手続補正に係る特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。

「自動車の鋼板製サッシュ(14)内に装着し、昇降ガラス(15)を案内するグラスランチャンネル(1j)であって、グラスランチャンネル(1j)は溝形の躯体部(2j)と、躯体部(2j)の溝縁から溝内に延びるシールリップ部(4j)を備えており、
捻り剛性2.8?5.5MPa,対塗装板金動摩擦係数1.70以上、およびサッシュズレ抵抗力7.5N/100mm以上を満足するスチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンドを躯体部(2j)に使用し、
硬度Hs65?85,捻り剛性2.0?4.0MPa,圧縮永久歪みが45%以下を満足するオレフィン系熱可塑性エラストマーをシールリップ部(4j)に使用した自動車用熱可塑性エラストマー製グラスランチャンネル。」
(以下「本願発明」という)

2.刊行物の記載事項および引用発明
当審における平成22年12月22日付けの拒絶理由に引用された刊行物は次のとおりである。

特開2004-106825号公報(以下「引用例1」という)

本願の出願前に頒布された刊行物である引用例1には、図面とともに次のア?エの事項が記載されている。

ア「【0022】
ガラスランチャンネル材10は、基底部12、車内側の側壁部15、車外側の側壁部16、車内側の接触リップ18,車外側の接触リップ19、車内側の突出片21,車外側の突出片22、および滑り防止部材30を備えている。ガラスランチャンネル材10における各部分の形状及び位置関係について、図2を参照して説明する。」

イ「【0026】
ここで、ガラスランチャンネル材10の少なくとも基底部12及び一対の側壁部15,16は、熱可塑性エラストマーによって形成されており、好ましくは、後で詳述するゴム製の滑り防止部材30を除く全体が熱可塑性エラストマーによって形成されている。熱可塑性エラストマーとしては、ビニル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマーなどを用いることができる。好ましくは、オレフィン系熱可塑性エラストマーであると、車両用ガラスランチャンネル材10を軽量化できるとともに、押し出し成形性や滑り防止部材30との接合強度を良好に保つことができる。」

ウ「【0044】
(第3の実施形態)
図7及び図8に、本発明の第3の実施形態に係るガラスランチャンネル材70が窓枠54に装着されているようすを示す。このガラスランチャンネル材70についても、第1の実施の形態のガラスランチャンネル材10と同じ部分については、同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。このガラスランチャンネル材70は、基底部12及びその両側の突条13a,13bまで延びる滑り防止部材71と、突出片21および遮蔽リップ24,25に付与された滑り防止部73,74,75とを備えている。
【0045】
第3の実施形態の滑り防止部材71は、熱可塑性エラストマーで形成されている。すなわち、滑り防止部材71は、ゴムでも良いが熱可塑性エラストマーなど基底部12に良好に接合でき、かつ基底部12よりも窓枠54に対する摩擦係数の大きい種々の樹脂材料で形成することができる。典型的には、このような樹脂材料は、ゴム弾性を備えている。滑り防止部材71は、基底部12よりも摩擦係数が大きければよいため、基底部12と同様、ビニル系、スチレン系、ウレタン系など各種の熱可塑性エラストマーを用いることができる。基底部12と同系、同一または近似のSP値の熱可塑性エラストマーを用いると、溶着により固着強度を容易に高められるため、好ましく、具体的には、オレフィン系熱可塑性エラストマーであると、滑り防止部材71をより軽量かつ高強度にすることができ、好ましい。また、熱可塑性エラストマー製の滑り防止部材71を備えるガラスランチャンネル材71は、加硫工程を必要としないため、同時押し出し成形によって一体成形することができより簡単な製造方法で製造することができる。」

エ「【発明の効果】
【0011】
本発明では、窓枠に対する滑りが抑制されている車両用のガラスランチャンネル材および車両用のガラスランチャンネル組立て体を提供することにより、窓板のスライドを繰り返しても窓枠に対して長手方向で位置ズレが生じない車両用のガラスランチャンネル材および車両用ガラスランチャンネル組立て体を得ることができる。
特に、請求項1に記載の車両用ガラスランチャンネル材は、窓枠に装着されると、滑り防止部材が窓枠の底面と基底部との間で圧接される。滑り防止部材は、基底部の熱可塑性エラストマーよりも摩擦係数が大きい樹脂材料で形成されており、また、この圧接によって垂直荷重を受けることにより窓枠底面との摩擦力がより大きくなる。このため、滑り防止部材は、窓枠に沿う方向(長手方向)の力を受けても窓枠に対して滑りにくい。したがって、この車両用ガラスランチャンネル材は、窓板のスライドによって負荷を受けても位置ズレ等を生じず、窓枠における所定の装着位置を安定して維持できる。」

《引用発明》
上記引用例1の記載事項ア?エ及び図7、8に記載された内容を総合すると、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「自動車の窓枠54内に装着し、窓板50を案内するガラスランチャンネル材70であって、ガラスランチャンネル材70は溝形の基底部12、車内側の側壁部15、車外側の側壁部16と、車内側の側壁部15及び車外側の側壁部16の溝縁から溝内に延びる車内側の接触リップ18及び車外側の接触リップ19を備えており、
このガラスランチャンネル材70は、基底部12及びその両側の突条13a,13bまで延びる、ビニル系、スチレン系、ウレタン系など各種の熱可塑性エラストマーの滑り防止部材71を備えており、
滑り防止部材を除く全体が熱可塑性エラストマーによって形成され、好ましくは、オレフィン系熱可塑性エラストマーであるガラスランチャンネル材。」

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「窓枠54」は本願発明の「鋼板製サッシュ(14)」に相当する。以下同様に、「窓板50」は「昇降ガラス(15)」に、「ガラスランチャンネル材70」は「グラスランチャンネル(1j)」に、「基底部12、車内側の側壁部15、車外側の側壁部16」は「躯体部(2j)」に、「車内側の接触リップ18及び車外側の接触リップ19」は「シールリップ部(4j)」に、「ビニル系、スチレン系、ウレタン系など各種の熱可塑性エラストマー」のうちの「スチレン系熱可塑性エラストマー」は「スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンド」にそれぞれ相当する。

また、上記したとおり、引用発明の「基底部12、車内側の側壁部15、車外側の側壁部16」及び「ビニル系、スチレン系、ウレタン系など各種の熱可塑性エラストマー」のうち「スチレン系熱可塑性エラストマー」は、それぞれ本願発明の「躯体部(2j)」及び「スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンド」に相当するものであって、その上、引用発明が前記第2.(1)ウに摘記した引用例1の段落【0045】後段に示されているように「同時押し出し成形によって一体成形することができ」るものである一方、当審における平成22年8月19日付け審尋に対する平成22年10月13日付け回答書第2ページ第24行から同第3ページ第1行において請求項1に係る発明がグラスランチャンネルを押出成形で製造するものであることを請求人が主張している事実、及び、平成23年3月7日付け手続補正書に係る明細書においてもなお請求項1に係る発明がその段落【0010】等にあるように図6に記載された例を含むものとされている事実に鑑みれば、引用発明の「このガラスランチャンネル材70は、基底部12及びその両側の突条13a,13bまで延びる・・・滑り防止部材71を備えている」は、スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンドをグラスランチャンネルの躯体部に押出成形により形成するものであるという意味において、本願発明の「グラスランチャンネル(1j)は」「スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンドを躯体部(2j)に使用し」と共通するといえる。

さらに、「滑り防止部材を除く全体が熱可塑性エラストマーによって形成され、好ましくは、オレフィン系熱可塑性エラストマーである」ことは、「オレフィン系熱可塑性エラストマーをシールリップ部(4j)に使用した自動車用熱可塑性エラストマー製グラスランチャンネル」であるということができる。

そうすると、本願発明と引用発明は,
「自動車の鋼板製サッシュ(14)内に装着し、昇降ガラス(15)を案内するグラスランチャンネル(1j)であって、グラスランチャンネル(1j)は溝形の躯体部(2j)と、躯体部(2j)の溝縁から溝内に延びるシールリップ部(4j)を備えており、
スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンドを躯体部(2j)に使用し、
オレフィン系熱可塑性エラストマーをシールリップ部(4j)に使用した自動車用熱可塑性エラストマー製グラスランチャンネル。」 の点で一致し、
次の点で相違する。
[相違点1]
本願発明のスチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンドが「捻り剛性2.8?5.5MPa,対塗装板金動摩擦係数1.70以上、およびサッシュズレ抵抗力7.5N/100mm以上を満足する」ものであるのに対し、該物性が引用発明では不明な点。

[相違点2]
本願発明のオレフィン系熱可塑性エラストマーが「硬度Hs65?85,捻り剛性2.0?4.0MPa,圧縮永久歪みが45%以下を満足する」ものであるのに対し、引用発明にはこのような数値限定がない点。

4.当審の判断
(1)相違点1に関して、
ア 「捻り剛性2.8?5.5MPa」に関しては、不明瞭な用語「捻り剛性」を使用しているが、平成23年3月7日付け「意見書」おいて、JISK6261の低温ねじり試験(ゲーマンねじり試験)に準拠されているという説明がある。
該JIS規格JISK6261が「ねじり剛性及び弾性回復温度の求め方について規定した」ものであるから、「捻り剛性2.8?5.5MPa」は「ねじり剛性2.8?5.5MPa」と解釈することとする。
ところで、当審拒絶理由通知で周知物性の例として提示した特開2000-220952号公報【0019】【表2】には、スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンド(クラレ製セプトンコンパウンド「CE002」)の「ねじりモジュラス(ねじり剛性)」として、本願発明における数値を包含する2.4MPaと5.8MPaとの間の数値が示されている。
したがって、相違点1における「捻り剛性2.8?5.5MPa」の数値限定は、スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンドの物性の周知の数値を単に限定したに過ぎない。

イ 「対塗装板金動摩擦係数1.70以上」に関しては、各種測定条件の限定がなされていない数値限定であって、数値的に不明ではあるが、スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンドの動摩擦係数としては、例えば、特開2001-315990号公報【表3】に示された如く、一般に周知の物性であるから、該「対塗装板金動摩擦係数1.70以上」は、物性の周知の数値を限定したに過ぎない。

ウ サッシュズレ抵抗力7.5N/100mm以上に関しては、グラスランチャンネルのガラス昇降時のサッシュズレ抵抗力を、ガラス摺動抵抗力以上にすることは設計上の常識であり、また、当然使用するグラスランチャンネルのシールリップ部の反力や対ガラス動摩擦係数に対応させて決定するものである(本願当初明細書【0016】【0017】)。
そして、サッシュズレ抵抗力測定方法(本願当初明細書【0024】【図7】)は、一般にJIS等で標準化されているものとはいえず、また、数値的にみても、特許請求の範囲に測定条件の限定,樹脂摺動体被覆層の材質や特性等の限定がなされていない数値限定であることを加味すると、該サッシュズレ抵抗力7.5N/100mm以上の限定は、格別な意味を有するものではなく、単に、使用車種,使用材料の特性に合わせ、設計上必要な範囲の限定を記載したに過ぎないものと認められる。

(2)相違点2に関して、
ア 「硬度Hs65?85」及び「圧縮永久歪みが45%以下」に関しては、例えば、特開2002-187981号公報【表6】に示されているように、オレフィン系熱可塑性エラストマーの周知の物性であるから、該数値限定は、周知の数値を限定したに過ぎない。

イ 「捻り剛性2.0?4.0MPa」は、前記(1)ア と同じく、、「ねじり剛性2.0?4.0MPa」と解釈する。
同種の剛性として、例えば、特開平6-181836号公報【0012】、特開平4-334445号公報【0064】【実施例4】表1、特開平2-86429号公報の表1等に示されているように、オレフィン系熱可塑性エラストマーの周知の物性であるから、該数値限定は、周知の数値を限定したに過ぎない。

そして、相違点1及び2により、引用発明及び周知事項から当業者が予測し得ないような格別の効果を奏するものでもない。(前記2.エで指摘した引用例1の【発明の効果】【0011】などの記載を参照。)

したがって、本願発明は、引用発明に周知事項を施すことにより、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。


5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明と周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-27 
結審通知日 2011-05-10 
審決日 2011-05-23 
出願番号 特願2004-239629(P2004-239629)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西本 浩司  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 田口 傑
小関 峰夫
発明の名称 自動車用熱可塑性エラストマー製グラスランチャンネル  
代理人 古田 剛啓  

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