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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1240225
審判番号 不服2008-4305  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-21 
確定日 2011-07-14 
事件の表示 平成10年特許願第 99156号「粘着剤付きウレタンフォームとその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月26日出願公開、特開平11-291434〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成10年4月10日に出願されたもので、願書に添付した明細書又は図面についての平成18年8月23日付け手続補正書が提出された後、平成19年9月18日付けの、いわゆる、最後の拒絶理由通知書が送付され、上記明細書又は図面についての同年11月26日付け手続補正書が提出されたものの、該手続補正書による手続補正は、平成20年1月15日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、この出願は、同日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として請求されたもので、上記明細書又は図面についての平成20年3月6日付け手続補正書が提出されている。
なお、上記決定は、確定している。

2.原査定の理由
原査定の拒絶理由の1つは、以下のとおりのものと認める。

「この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である以下の引用例1?7に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1;特開昭58-173179号公報
引用例2;プラスチックデータハンドブック,株式会社工業調査会,1984年4月5日,2版,154頁
引用例3;特開平09-323382号公報
引用例4;特開平06-134938号公報
引用例5;特開平09-048031号公報
引用例6;特開平06-182942号公報
引用例7;実公昭61-28000号公報」

3.当審の判断

3-1.平成20年3月6日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正は、以下に詳述するように、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3-1-1.本件補正の内容
本件補正は、明細書の段落【0006】、【0008】、【0026】、【0029】、【0030】及び【0031】についての補正、並びに、以下の補正事項aからなるものと認める。

補正事項a;特許請求の範囲の記載につき、以下(cl)を(CL)と補正する。

(cl);「【請求項1】
ポリウレタンフォームと、
前記ポリウレタンフォームの表裏両面のうち少なくとも一面側に設けられかつ厚さが10μm?50μmで弾性率10000kg/cm^(2) 以上かつ融点150℃以上の剛性プラスチックからなるプラスチックフィルムと、
前記プラスチックフィルムに塗工された粘着剤層と、
前記粘着剤層に積層された厚さ70μm?200μmの剥離ライナーとを具備し、
前記剥離ライナーは、紙からなる基材と、該基材の表裏両面にそれぞれ設けられたプラスチック製のフィルムからなるプラスチックコーティングとを有し、
前記ポリウレタンフォームを前記プラスチックフィルムに反応接着させてなることを特徴とする粘着剤付きウレタンフォーム。
【請求項2】
前記プラスチックフィルムがポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレートからなることを特徴とする請求項1記載の粘着剤付きウレタンフォーム。
【請求項3】
前記ポリウレタンフォームは、発泡直後の寸法に対するキュアー後の寸法の減少率が3.0%以下であることを特徴とする請求項1記載の粘着剤付きウレタンフォーム。
【請求項4】
前記剥離ライナーのプラスチックコーティングがポリプロピレン系のフィルムであることを特徴とする請求項1記載の粘着剤付きウレタンフォーム。
【請求項5】
厚さが10μm?50μmで弾性率10000kg/cm^(2) 以上かつ融点150℃以上の剛性プラスチックからなるプラスチックフィルムと、紙からなる基材の表裏両面にそれぞれプラスチック製のフィルムからなるプラスチックコーティングを設けてなる厚さ70μm?200μmの剥離ライナーとの間に粘着剤層を供給することによって片面粘着テープを作製する工程と、
前記プラスチックフィルムの他面側にウレタン原液を供給し発泡させるとともにこの発泡したウレタンを前記プラスチックフィルムに反応接着させかつ120℃以下の温度でキュアーすることによりポリウレタンフォームを得る工程とを具備したことを特徴とする粘着剤付きウレタンフォームの製造方法。」

(CL)「【請求項1】
ポリウレタンフォームと、
前記ポリウレタンフォームの表裏両面のうち少なくとも一面側に設けられかつ厚さが10μm?50μmで弾性率10000kg/cm^(2) 以上かつ融点150℃以上の剛性プラスチックからなるプラスチックフィルムと、
前記プラスチックフィルムに塗工された粘着剤層と、
前記粘着剤層に積層された厚さ70μm?200μmの剥離ライナーとを具備し、
前記剥離ライナーは、紙からなる基材と、該基材の表裏両面にそれぞれ設けられたプラスチック製のフィルムからなるプラスチックコーティングとを有し、
これら一対のプラスチックコーティングを有する前記剥離ライナーと、前記プラスチックフィルムとの間に、前記粘着剤層が介在し、
前記ポリウレタンフォームを前記プラスチックフィルムの前記粘着剤層とは反対側の面に反応接着させてなりかつ前記ポリウレタンフォームを発泡直後の寸法に対するキュアー後の寸法の減少率が3.0%以下としたことを特徴とする粘着剤付きウレタンフォーム。
【請求項2】
前記プラスチックフィルムがポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレートからなることを特徴とする請求項1記載の粘着剤付きウレタンフォーム。
【請求項3】
前記剥離ライナーのプラスチックコーティングがポリプロピレン系のフィルムであることを特徴とする請求項1記載の粘着剤付きウレタンフォーム。
【請求項4】
厚さが10μm?50μmで弾性率10000kg/cm^(2) 以上かつ融点150℃以上の剛性プラスチックからなるプラスチックフィルムと、紙からなる基材の表裏両面にそれぞれプラスチック製のフィルムからなるプラスチックコーティングを設けてなる厚さ70μm?200μmの剥離ライナーとの間に粘着剤層を供給することによって片面粘着テープを作製する工程と、
前記プラスチックフィルムの前記粘着剤層とは反対側の面にウレタン原液を供給し発泡させるとともにこの発泡したウレタンを前記プラスチックフィルムに反応接着させかつ120℃以下の温度でキュアーすることにより発泡直後の寸法に対するキュアー後の寸法の減少率が3.0%以下のポリウレタンフォームを得る工程とを具備したことを特徴とする粘着剤付きウレタンフォームの製造方法。」

ここ「3-1」では、本件補正前の請求項1を旧【請求項1】といい、本件補正後の請求項1を新【請求項1】という。

3-1-2.本件補正の適否
補正事項aのうち、新【請求項1】とする補正についてみると、新【請求項1】は、旧【請求項1】を由来とするものといえ、そして、該補正は、少なくとも、旧【請求項1】に「ポリウレタンフォームを発泡直後の寸法に対するキュアー後の寸法の減少率が3.0%以下とした」との事項を加えるもので、いわゆる、限定的減縮を目的にしているということができる。
そこで、本件補正後の、願書に添付した明細書又は図面(以下、「補正明細書」という。)の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明である新【請求項1】に係る発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかについて検討する。

(一)補正発明

1)補正発明は、新【請求項1】に記載された事項により特定されるもので、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。

「ポリウレタンフォームと、
前記ポリウレタンフォームの表裏両面のうち少なくとも一面側に設けられかつ厚さが10μm?50μmで弾性率10000kg/cm^(2) 以上かつ融点150℃以上の剛性プラスチックからなるプラスチックフィルムと、
前記プラスチックフィルムに塗工された粘着剤層と、
前記粘着剤層に積層された厚さ70μm?200μmの剥離ライナーとを具備し、
前記剥離ライナーは、紙からなる基材と、該基材の表裏両面にそれぞれ設けられたプラスチック製のフィルムからなるプラスチックコーティングとを有し、
これら一対のプラスチックコーティングを有する前記剥離ライナーと、前記プラスチックフィルムとの間に、前記粘着剤層が介在し、
前記ポリウレタンフォームを前記プラスチックフィルムの前記粘着剤層とは反対側の面に反応接着させてなりかつ前記ポリウレタンフォームを発泡直後の寸法に対するキュアー後の寸法の減少率が3.0%以下としたことを特徴とする粘着剤付きウレタンフォーム。」

2)ここで、補正発明を特定する事項である「ポリウレタンフォームを発泡直後の寸法に対するキュアー後の寸法の減少率が3.0%以下とした」との事項(以下、「本件事項」という。)について見ておく。
補正発明は、粘着剤付きウレタンフォームという物に係る発明であって、ポリウレタンフォームを少なくとも有するもので、本件事項は、該ポリウレタンフォームについて特定するものと認められる。
その一方で、補正明細書の段落【0017】には、以下の記載が認められる。

「ポリウレタンフォーム11は、その収縮率(発泡直後の寸法に対するキュアー後の寸法の減少率)が3.0%以下となるように発泡が制御されることが好ましい。ポリウレタンフォームの収縮率は種々の要因で変化する。例えばポリウレタンの原料であるポリオールとイソシアナートの種類および部数、発泡剤としての水の部数、補助発泡剤の部数をはじめとして、発泡時の温度やキュアー温度およびキュアー時間などに左右される。なお、この明細書でいう収縮率(ポリウレタンフォームの収縮率)とは、発泡直後の寸法に対するキュアー後の寸法の減少率(変化率)を意味する。」

そして、この記載をも参照すれば、本件事項における「減少率」とは、ポリウレタンフォームを発泡工程及びその後のキュアー工程を経て形作る際の、該発泡工程における発泡直後の寸法に対する該キュアー工程におけるキュアー後の寸法の減少割合に係るものと認められ、言うまでもないことであるが、形成されたポリウレタンフォームという物の物性や形状を特定するものではないものである。
してみると、本件事項は、補正発明を構成するポリウレタンフォームにつき、それが形作られた経緯を特定するに過ぎないものと認められる。

(二)引用例の発明

1)引用例1には、以下の記載1a?1eが、また、引用例2には、以下の記載2aが認められる。

1a;「2.特許請求の範囲
発泡体原液を発泡させて形成した合成樹脂発泡体層と、この発泡体層の少なくとも一方の面に設けられ非通液性を有しかつ発泡体の発泡時に発泡体自身のもつ接着力により発泡体層の表面に一体に接着された中間フィルムと、この中間フィルムの他方の面に塗布された粘着剤層とを具備したことを特徴とする粘着剤付発泡シート体。」
1b;「また、上記特公昭47-25847号のものは、粘着剤層の表面で直接発泡体を発泡させるため、加熱炉等で加温発泡させた場合に、発泡体が数%収縮するのに対してフィルムおよび粘着剤基材層は収縮しないことから、両者が剥離したり、またはカールして一体化してしまうため実用化が難かしい。・・・。
本発明は上記事情にもとづきなされたものでその目的とするところは、発泡体層と粘着剤層との間に介在させた中間フィルムによって発泡体と粘着剤が互いに直接触れることがなくなり、上記諸欠点を解消できるとともに、この中間フィルムは接着剤を全く使用することなく簡単な構造で発泡体に接着でき、製造が容易となる粘着剤付発泡シート体を提供することにある。」(2頁右上欄3行?左下欄5行)
1c;「この中間フィルム2の素材としては、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポロクロロプレン、ポリブタジエン、ポリエステル、ポリアミド等の合成樹脂フィルムを使用できるが、発泡体層1の素材と類似するものが好ましい。例えば発泡体層1が熱可塑性樹脂発泡体の場合には、同系に近い熱可塑性樹脂フィルムが好ましく、また発泡体層1がポリウレタンフォームの場合にはポリブタジエン、ポリエステル、ポリアミド等が好ましい。
また、上記中間フィルム2の膜厚は、2μ?50μ程度であり、更に好ましくは5μ?25μがよい。また、この中間フィルム2に通常のコロナ放電処理やプライマー処理を施して表面処理を行なってもよい。」(2頁右下欄7行?3頁左上欄1行)
1d;「そして上記粘着剤層3の表面に剥離材層4が設けられている。この剥離材層4は、紙、合成樹脂フィルムなどをベースとしてその少なくとも片面、つまり粘着剤層3が貼り付く面にシリコーン樹脂などの剥離処理剤を被覆したものである。」(3頁左上欄下から8?3行)
1e;「次に上記構成の粘着剤付発泡シート体の製造工程について第2図を参照して説明する。まず、第2図(A)に示すよう剥離剤層4の剥離処理面に前述した素材からなる粘着剤層3を所望の厚みで塗布する。この粘着剤層3が溶剤を含む場合は周知の方法で乾燥させ、例えば熱風オーブン中で100℃、5秒間程度乾燥させる。また、溶剤を含まない場合は、粘着剤塗布後に乾燥工程を経ることなく乾燥した粘着剤層3を得る。この粘着剤層3の厚みは、乾燥時で通常5?150μ程度とする。
次に、第2図(B)に示すように中間フィルム2を粘着剤層3に押圧し貼合わせたのち、第2図(C)に示すように中間フィルム2の他面側に前記した材料からなる発泡体原液1′を所定の厚さで薄く塗布する。この塗布方法としては、汎用のスプレー方式を採用できるが、均一塗布、および生産速度面から、フィッシュテールダイを使用し、好ましくは最大圧力を2kg/cm^(2)以下に押えるのが良い。また、製品厚さが約1mmの場合、塗布量は150?500g/m^(2)程度が良い。
上記のごとく中間フィルム2上に発泡体原液1′を塗布したのち、室温または加熱雰囲気下で発泡させ、更に加熱キュアーを行なうことにより、第2図(D)で示す製品が得られる。なお、発泡室温度は好ましくは45?150℃、キュア一室温度は80?180℃程度が良い。
以上のようにして得られた本実施例発泡シート体は、非通液性の中間フィルム2によって発泡体層1と粘着剤層3が仕切られるため、例えば発泡体層1の含有成分が粘着剤層3に移行したり、逆に粘着剤層3の一部が発泡体層1側に移行することを防止できる。
また、中間フィルム2は発泡体原液1′が発泡する際の接着力を利用して互いに一体化するものであるから、中間フィルム2と発泡体層1との間に接着剤は一切不要である。」(3頁左上欄下から2行?左下欄下から6行)

2a;樹脂名「ポリプロピレン」に対応した弾性率(10^(4)kg/cm^(2))の欄に「1.1?1.6」と、また、同様に、樹脂名「ポリアミド(ナイロン6)」に対応した欄に「1.1?3.2」と記載された、「基礎資料」において「数値表」と題された表。

2)引用例1には、記載1aによれば、「発泡体原液を発泡させて形成した合成樹脂発泡体層と、この発泡体層の少なくとも一方の面に設けられ非通液性を有しかつ発泡体の発泡時に発泡体自身のもつ接着力により発泡体層の表面に一体に接着された中間フィルムと、この中間フィルムの他方の面に塗布された粘着剤層とを具備した、粘着剤付発泡シート体。」についての発明が記載されていると認められる。
そこで、更に、引用例1の記載を見ていくと、記載1cには、上記発明の「合成樹脂発泡体層」及び「中間フィルム」として、「ポリウレタンフォーム層」及び「ポリプロピレンフィルムやポリアミドフィルム」が記載され、更に、該「中間フィルム」は、5μm?25μmの厚さが好ましいことも記載されている。
また、記載1dには、上記発明の「粘着剤層」の表面に剥離材層が設けられ、積層されることが記載されている。
以上の検討を踏まえると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「発泡体原液を発泡させて形成したポリウレタンフォーム層と、
このポリウレタンフォーム層の少なくとも一方の面に設けられ非通液性を有しかつポリウレタンフォームの発泡時にポリウレタンフォーム自身のもつ接着力によりポリウレタンフォーム層の表面に一体に接着された、厚さが5μm?25μmのポリプロピレンフィルム或いはポリアミドフィルムからなる中間フィルムと、
この中間フィルムの他方の面に塗布された粘着剤層と、
この粘着剤層に積層された剥離材層とを具備し、
前記剥離材層と、前記中間フィルムとの間に、前記粘着剤層が介在した、粘着剤付発泡シート体。」

(三)対比判断

1)補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「剥離材層」は、補正発明の「剥離ライナー」に対応している。また、引用発明の「中間フィルム」は、補正発明の「プラスチックフィルム」に対応しており、それらの厚さについては、10μm?25μmで重複しており、相違はない。
以上の検討を踏まえると、補正発明と引用発明とは、

「ポリウレタンフォームと、
前記ポリウレタンフォームの表裏両面のうち少なくとも一面側に設けられかつ厚さが10μm?50μmのプラスチックフィルムと、
前記プラスチックフィルムに塗工された粘着剤層と、
前記粘着剤層に積層された剥離ライナーとを具備し、
前記剥離ライナーと、前記プラスチックフィルムとの間に、前記粘着剤層が介在し、
前記ポリウレタンフォームを前記プラスチックフィルムの前記粘着剤層とは反対側の面に反応接着させてなる、粘着剤付きウレタンフォーム。」

である点で一致し、以下の点において相違していると認められる。

相違点a;補正発明の「プラスチックフィルム」は、「弾性率10000kg/cm^(2) 以上かつ融点150℃以上の剛性プラスチックからなる」のに対し、引用発明の「中間フィルム」は、「ポリプロピレンフィルム或いはポリアミドフィルムからなる」点。
相違点b;補正発明の「剥離ライナー」は、「厚さ70μm?200μm」であって、「紙からなる基材と、該基材の表裏両面にそれぞれ設けられたプラスチック製のフィルムからなるプラスチックコーティングとを有し」ている点。
相違点c;補正発明の「ポリウレタンフォーム」につき、これを、「発泡直後の寸法に対するキュアー後の寸法の減少率が3.0%以下としている」点。

2)そこで、相違点aについて検討する。
引用発明の「中間フィルム」は、「ポリプロピレンフィルム或いはポリアミドフィルムからなる」ものである。
その一方で、引用例2は、プラスチックに関するデータをまとめたハンドブックであることは明らかであって、その記載2aには、基礎資料としての弾性率につき、ポリプロピレンは、1.1×10^(4)?1.6×10^(4)kg/cm^(2)で、また、ナイロン6ではあるものの、ポリアミドは、1.1×10^(4)?3.2×10^(4)kg/cm^(2)であることが記載され、また、ポリプロピレンとナイロン6の一般的性質としての融点が、少なくとも、150℃以上であることはよく知られていることである(新版高分子辞典、III.高分子の一般的性質の「ポリプロピレン」及び「ナイロン6」の欄、1995年9月20日、株式会社朝倉書店 発行」、参照。)。
そして、引用発明の「中間フィルム」は、上述したように、ポリプロピレンフィルムからなるものであるが、上述した弾性率や融点についての事実に照らせば、上記ポリプロピレンフィルムとして、弾性率10000kg/cm^(2) 以上かつ融点150℃以上の剛性プラスチックからなるものとすることは、何等、格別な創作力を発揮することなく容易になし得るものといえる。
また、引用発明の「中間フィルム」は、上述したように、ポリアミドフィルムからなるものでもあるが、該ポリアミドフィルムとして、ポリアミドとして余りにも良くよく知られているナイロン6を採用し、そして、同様に、弾性率10000kg/cm^(2) 以上かつ融点150℃以上の剛性プラスチックからなるものとすることも、容易になし得るものである。
以上のことから、相違点aは容易になし得るものといえる。

3)次に、相違点b及びcについて検討する。

3-1)剥離材シートとして、紙からなる基材と、該基材の表裏両面にそれぞれ設けられたプラスチック製のフィルムからなるプラスチックコーティングを有するものは、この出願前の周知技術である(引用例3の、特に【請求項1】及び段落【0002】の記載、引用例4、特に【請求項1】の記載、参照。)。
その一方で、引用例1には、先に「(二)」で摘示した記載1dが認められ、ここには、引用発明の「剥離材層」につき、この層は、紙や合成樹脂フィルムなどをベースとしたものであることが記載され、剥離材層を構成する素材として紙を用い得ることが示唆されているから、引用発明の「剥離材層」として、紙をその構成素材としている上記周知技術を用いることは容易に想到し得るものである。また、上記周知技術を用いるに際し、その厚みも適宜に設計できる事項であって、70μm?200μmとすることも容易になし得るものである。

3-2)また、引用例1には、先に「(二)」で摘示した記載1bが認められ、ここには、引用発明に関する先行技術につき、その課題として、発泡体の加温発泡時における収縮に基づくカールの発生について触れた記載があり、少なくとも、発泡体の加温発泡時における収縮が無いか、或いは小さい方がカールの発生との課題を防止できることが示唆されている。
そして、引用発明の「ポリウレタンフォーム層」は、発泡体原液を発泡させて形成したものであるが、引用例1には、先に「(二)」で摘示した記載1eが認められ、ここにおける「中間フィルム2上に発泡体原液1′を塗布したのち、室温または加熱雰囲気下で発泡させ、更に加熱キュアーを行なうことにより、第2図(D)で示す製品が得られる。なお、発泡室温度は好ましくは45?150℃、キュア一室温度は80?180℃程度が良い。」との記載が、上記「ポリウレタンフォーム層」が形作られる経緯を示すものであることは明らかで、この記載によれば、該「ポリウレタンフォーム層」は、発泡工程及びその後のキュアー工程を経て形作られることが見て取れる。
してみると、引用発明の「ポリウレタンフォーム層」は、先に述べたように、発泡体原液を発泡させて形成したもので、実体的には、発泡工程及びその後のキュアー工程を経て形作られるものと解せ、その際の減少率は、適宜に設計できるもので、これを、上述したような示唆に基づき、できるだけ小さいものとし、3.0%以下とすることは容易に想到し得るものといえる。

3-3)また、相違点bやcとしたための格別な作用効果も見当たらない。
これに対し、請求人は、本件審判に係る審判請求書において、要するに、補正発明は、「ポリウレタンフォームとプラスチックフィルムと粘着剤層と剥離ライナーとを具備し」との事項、及び「ポリウレタンフォームを発泡直後の寸法に対するキュアー後の寸法の減少率が3.0%以下とした」との事項、すなわち、本件事項を有することによる相乗的な作用効果として、ポリウレタンフォームを発泡工程及びその後のキュアー工程を経て形作る際に、皺やカールが発生しないとの格別な作用効果を奏する旨、主張していると認められるが、以下に述べることから、該主張に理由はない。
補正発明は、先に「(一)」の「2)」で述べたように、粘着剤付きウレタンフォームという物に係る発明であって、上記主張は、上記物に係る発明が持つ作用効果というよりは、上記粘着剤付きウレタンフォームを特定の方法によって製造した場合の作用効果と言うべきであって、補正発明に固有の作用効果ということはできない。また、請求人の主張する作用効果は、プラスチックフィルムと粘着剤層と剥離ライナーとからなる、請求人の言うところの複合構造を形成した上で、そのプラスチックフィルムの表面上で、ポリウレタンフォームを発泡工程及びその後のキュアー工程を経て形作ることを前提とするものであるが、補正発明は、例えば、プラスチックフィルム単体の表面上でポリウレタンフォームを上述のように形作った後に、プラスチックフィルムのポリウレタンフォームが積層された側とは反対側の面に粘着剤層と剥離ライナーを積層して得られるものを排除しておらず、請求人の作用効果についての主張は、その前提において、妥当性を欠くものである。
更に、本件事項自体も、先に「(一)」の「2)」で述べたように、補正発明を構成するポリウレタンフォームにつき、それが形作られた経緯に係る事柄で、その物性や形状を特定するものではなく、物に係る発明が持つ固有の作用効果ということはできないものである。

3-4)以上のことから、相違点b及びcとしたことに格別な作用効果も見当たらず、相違点b及びcも容易になし得たといわざるを得ないものである。

4)してみると、補正発明は、引用発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3-1-3.まとめ
本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。

3-2.原査定の拒絶理由について

3-2-1.本件の発明
本件補正は、先に「3-1」で述べたように却下すべきものであり、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件補正前の、願書に添付した明細書の請求項1に記載の事項により特定されるものであって、同項の記載は、先に「3-1-1.」で補正事項aの(cl)の【請求項1】として認定したとおりである。

3-2-2.引用例の発明との対比判断
引用例1には、先に「3-1-2.」、「(二)」の「2)」で認定したとおりの引用発明が記載され、本件発明と引用発明を対比すると、本件発明と引用発明とは、

「ポリウレタンフォームと、
前記ポリウレタンフォームの表裏両面のうち少なくとも一面側に設けられかつ厚さが10μm?50μmのプラスチックフィルムと、
前記プラスチックフィルムに塗工された粘着剤層と、
前記粘着剤層に積層された剥離ライナーとを具備し、
前記ポリウレタンフォームを前記プラスチックフィルムに反応接着させてなる、粘着剤付きウレタンフォーム。」

である点で一致し、以下の点において相違していると認められる。

相違点A;本件発明の「プラスチックフィルム」は、「弾性率10000kg/cm^(2) 以上かつ融点150℃以上の剛性プラスチックからなる」のに対し、引用発明の「中間フィルム」は、「ポリプロピレンフィルム或いはポリアミドフィルムからなる」点。
相違点B;本件発明の「剥離ライナー」は、「厚さ70μm?200μm」であって、「紙からなる基材と、該基材の表裏両面にそれぞれ設けられたプラスチック製のフィルムからなるプラスチックコーティングとを有し」ている点。

そこで、この相違点A及びBについて検討すると、先に「3-1-2.」、「(三)」の「2)」で述べた相違点aについての判断と同じ理由から、相違点Aは容易に想到し得るもので、また、同じく先に「3-1-2.」、「(三)」の「3)」で述べた相違点bについての判断と同じ理由から、相違点Bも容易に想到し得るものである。

3-2-3.まとめ
本件発明は、引用発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、原査定の拒絶理由は、相当である。

4.結び
原査定は、妥当である。
したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-16 
結審通知日 2011-05-17 
審決日 2011-06-01 
出願番号 特願平10-99156
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B32B)
P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 細井 龍史  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 一ノ瀬 薫
紀本 孝
発明の名称 粘着剤付きウレタンフォームとその製造方法  
代理人 砂川 克  
代理人 岡田 貴志  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 勝村 紘  
代理人 堀内 美保子  
代理人 河野 哲  
代理人 村松 貞男  
代理人 山下 元  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 福原 淑弘  
代理人 市原 卓三  
代理人 竹内 将訓  
代理人 橋本 良郎  
代理人 白根 俊郎  
代理人 野河 信久  
代理人 佐藤 立志  
代理人 中村 誠  
代理人 風間 鉄也  
代理人 河野 直樹  
代理人 河井 将次  
代理人 峰 隆司  

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